「アヤベちゃん。ちょっと相談に乗ってほしい事があるんだけど」
「……珍しい。どうしたの、話くらいは聞くわ」
ある日、アドマイヤベガの寮室を訪れたヒシミラクルは普段より真面目な顔で切り出した。
「私、前々から思ってたんだけど。栄養補給のスキルがスタミナが回復できるならふわふわ補給でスタミナ回復できてもいいんじゃないかなって」
栄養補給、とは主に先行型のウマ娘が使うスタミナ回復スキルだ。
オグリキャップやスペシャルウィークのような健啖家ウマ娘を筆頭に、エネルギー食を素早く身体に取り込める体質の持ち主が使うスキルである。
「…………その提案を私にする意味がわかりかねるのだけど」
アドマイヤベガはいきなりそっぽを向いてしまった。しかしヒシミラクルもなんの宛もなく持ちかけたわけではない。
「アヤベちゃんは知らないと思うけど、私休日は家具店に行くのが趣味なの。ソファやベッドに寝転がってたら一日が終わっちゃうくらい。……そうしてると、私と同じようなことをしてるアヤベちゃんを見かけるわけでして」
「……見てたの?」
「ええまあ。それも何度も。あんまり気持ちよさそうで声をかけるのは申し訳ないくらい」
「他の人には……」
「いや、言ってないし別にこの件に関係なく言いふらしたりなんてしないよ?」
ほっと胸をなでおろすアドマイヤベガ。ともかく、話を聴いてくれる気にはなったようだ。
「話を戻すとね、お互いふわふわを好む者同士協力すれば。ふわふわの力でスタミナ回復することもできるんじゃないかなって」
「今まで考えたこともなかったけど……でも、あなたにこのファースリッパを超えるふわふわを用意できるのかしら」
アドマイヤベガが履いているお気に入りのファースリッパを脱いでヒシミラクルに手渡す。
履くまでもなく、触れた瞬間想像を絶するふわふわがヒシミラクルを包んだ。
「ほう……これはなかなか……結構なお手前で」
「ええ。私の持つふわふわの中でも最上位のものよ」
「しかしそこでこちらがご用意したのはマイクロファイバーエアーかおるブランケットです」
「これは……確かになで始めると止まらないわね……それに温かい」
ヒシミラクルが取り出したブランケットを一心に撫で始めるアドマイヤベガ。なかなか満足げな表情をしていたが、5分ほど堪能したあとゆっくり首を振った。
「……けど、私のファースリッパには及ばないわね。スタミナ回復量15って感じ」
「量産型の限界か〜……では続いてこちら。プチプチクッション」
「確かに心底疲れてるときには良いけどふわふわとは違うんじゃないかしら」
続く案もあっさり一蹴されてしまった……が、ヒシミラクルにはまだ秘策があった。
「でも大丈夫……本命はこちら!!」
「こ、これは……!!」
「……さて、アヤベさんが新スキルを習得したということで非常に期待して模擬レースに乗ったボクなわけだが!! 新スキルの御披露目はまだだろうか!!」
「なんで3200走った後でこんなピンピンしてるのよこの王様……!」
「アヤベちゃん、大丈夫……?」
翌日、アドマイヤベガとテイエムオペラオーの模擬レース、一戦目はオペラオーがその尋常ではないスタミナを遺憾なく発揮し圧勝した。しかしアドマイヤベガの心はまだ折れていない。
「大丈夫よミラクルさん…あのふざけた王様に望み通り新スキルを見せてあげましょう」
「OK!! お願い、来て!!」
ヒシミラクルが合図する。するとレース場に年明けにはある意味相応しくない紅白衣装のウマ娘が現れた。
「ハヤヒデちゃん(サンタのすがた)!!」
「なぜ……私が、このような……」
「この圧倒的ふわふわ量……! しかもプレゼント袋に大量のヨギボーを詰め込んで更に抱き心地を高めているわ」
夢中になって最高のふわふわを堪能するアドマイヤベガと、堪能される側の死んだ魚の眼をしているビワハヤヒデ。
「見て見てオペラオーちゃん、これでスタミナ1500くらい回復するんだよ凄くない!?」
「今はサンタ服だけど今度はもっと別の……ファーコートとかでもいいかもしれないわね……」
めちゃくちゃ盛り上がっている二人を見て、テイエムオペラオーはぶっちゃけ長距離レースならアヤベさんがスタミナ回復するよりヒシミラクルと同じ菊花賞及び天皇賞バであるハヤヒデさんが直接走った方が速いんじゃないかと思ったが。覇王の広い心で突っ込まなかった。
「まあミラクルさんとアヤベさんが楽しそうならとりあえずヨシとしよう! ハヤヒデさんも大きな心で受け入れてくれているようだしね!!」
「誰の頭が大きいと!?」