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「うっ……あっ……」
「随分うなされてるみたいだな」
体を生命装置に繋がれながら、ベッドに横たわる青年を、ガラス越しにランとナオは見守っていた。
事故現場に出向いた二人が、青年を発見してから二日が経った。
惑星アヌーは、まだ発展途上中の星ではあるが、先のベリアル帝国の対戦により交友関係を築いた惑星エスメラルダなど、多数の惑星国家から技術支援などを受けている。現在青年を収容している医療施設もその一つだ。
エメラル鉱石と呼ばれるこの宇宙の各地で収集される特殊物質により、この惑星のテクノロジーの大部分は動いている。エメラル鉱石の力は有限ではあるものの、手のひらサイズの大きさのものでも、長時間のエネルギー供給を可能としていた。
「よいしょっと」
そして今、彼がここに来てから、二回目のエメラル鉱石の交換が行われた。
「なあ兄貴、あいつ結局誰なんだ?」
「分からねえ。俺たちの班はもちろん、他の奴らにも聞いて回ったが、あいつの顔を知ってる奴は誰一人いなかった」
「じゃあ他の星から来たとか?」
「さあな………何はともあれ、本人に聞ければ一番いいんだがなぁ」
医者に聞いた話によると、傷の経過は順調らしい。いや、それどころか順調に行き過ぎて、その医者も体験したことのない状態だそうだ。だが生命の体は、時に予想外の事象を起こす。順調だからといって、気を抜くのは早計だと、先ほど医者に釘を刺されたばかりだ。
「まっ、俺たちがここで考えてても何にも変わらねえからな………飯でも行くか。神様にでも祈ってたら、そのうち起きてくるかもしれないし」
「そうだな。じゃあ兄貴、僕この石に祈っとくよ」
「石?」
ランの疑問に答えるように、ナオは首元に隠された、輝く欠片を取り出した。オレンジ系統の暖かい色をしたその欠片は、よく透けて反対側まで見通せている。
それを見たランの記憶の片隅では、以前この欠片に似たものの存在を確認していた。それは父が形見として、ラン達兄弟に残した伝説に名を残す石。
「これは………バラージの石、じゃないよな?」
「うん。兄貴は覚えてないだろうけど、ベリアルとゼロの戦いが終わった後に、エスメラルダ星で見つけたんだ」
「ああーあの時の話か」
以前の大戦争の際、救世主ウルトラマンゼロが悪の皇帝ウルトラマンベリアルを倒したという英雄譚。この物語を、この宇宙で知らない者はいないだろう。かつての悪夢のような日々から解放された反動も相まって、この果てしないほど広い宇宙に瞬く間に、その救世主の名は広がっていった。しかし、その者たちのほとんどが知らない事実がある。
それは、救世主には依代となる人物がいた事。
そしてその人物こそが、ランだ。
「あっ悪い兄貴。まだ思い出してなかったよな」
「ナオ、別に気にしてないさ。それより、さっさと飯行こうぜ」
腰を上げたランの後に続くように、ナオもその背中を追う。記憶の事もベッドの不審者の事も、問題はまだまだある。しかし今は、ご馳走の事で頭がいっぱいになっていた。
医療室を出る前に、最後にベッドの方を振り返るナオ。その瞬間、体が固まった。
「あっ………兄貴!」
「ナオ、一応病室なんだから静かに──」
「あいつ………起きてる……!」
「なに⁉」
その視線の先には、ベッドから上半身を起き上げて、周りを見回している男がいた。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦
『これが、俺達の──光だ!」
光の矢が放たれた。そして無くなった、世界を包み込もうとしていた闇は。
星は輝きを取り戻した。そして戻った、世界の光を。
人々は歓喜した、そして聞こえた。光の巨人を、炎の巨人を、鏡の騎士を、鋼鉄の武人を称える声が。
そして、ある者は見つめていた。人が起こした奇跡の輝きを。
─────狭間に立つ者よ
「なに………?」
─────進め
「何を言って………?」
─────さすれば、答えは見えてくる
「待って………待ってくれ、あなたは一体⁉」
♦♢♦♢♦♢♦♢♦
「待ってくれ!」
最初に目に入ったのは、光だった。古ぼけて、今にも消えそうになっている電灯の。
続けて、音が聞こえてきた。二人の人間の声と、おそらく彼らのものと思われる足音。
「気が付いたか!」
勢い良く扉を開けて室内に入ってきたのは、二人の男。最初に入ってきたのは、セーレと同じくらいの背丈の者。その後ろに、彼とは幾分か低い身長の者が続く。
「えっと………あなた達は?」
「ああ済まない、いきなりで混乱したよな」
「いえ、お気になさらず」
「そうか、えっと俺はランでこっちは弟のナオ」
後ろの男を指差しながら、ランと名乗った男は軽い自己紹介をする。いきなりの自己紹介といいところどころから、人の良さを感じさせる人物だ。弟のナオという人物も同様だ。軽く交流した範囲では、敵意は感じられない。
だがセーレは、簡単に彼らを信用する気にはなれなかった。その理由は。セーレが感じている違和感にあった。
(………明らかに力が弱ってる。戦闘の影響、にしては治りが遅すぎる)
ここで目を覚ましてからというもの、体の節々が重いのだ。無論筋肉痛などと言うものや、疲れなどとも明らかに違う感覚だ。
(いや、これはそもそも力の総量が無くなってるのか………?だとしたらどこで、誰にやられた?)
あの戦闘の後、つい先ほど目覚めた時までの記憶がない。その間に何者かに力を抜き取られた、と考えるのが自然だろう。そしてその何者かの可能性が一番高いのは、目の前にいる兄弟、或いは彼らの近くにいる者だ。
(とりあえずは、この二人を排除するべきか………?)
邪な考えが一瞬横切るが、すぐさまその思考を振り切る。
もちろん可能性が高いだけで、確固たる証拠があるわけでもない。むしろ彼らはその可能性が低いだろう。それにセーレは、今ここがどこなのかも分かっていない。そんな中で派手に行動するのは、リスクが少々高過ぎるだろう。
「ところで、何か覚えてることはないか?」
しばらく黙り込んでいたセーレに、ランが声を掛けてきた。どうやら聞きたい事があるようだ。
一か八かだが、ここは一芝居売ってみよう。
「何か、とは?」
「二日前、この星の採石場に隕石が落ちてきたんだ。その調査に行った僕と兄貴が、そこで倒れてたあんたを見つけたんだ」
「隕石………済まない。思い当たる事は何も」
「そうか………ところで、あんた名前はなんて言うんだ?」
「名前?名前………えっと、名前。あれ、俺は何を言おうと………?」
「ちょっと待て!」
(良し、引っ掛かったな)
セーレは心の中で、ガッツポーズを決めた。思いの外あっさり信じてくれたのは想定外だったが、この様子を見た限りでは、彼らはまともな軍隊などに所属している人間ではないのだろう。
「マジか………兄貴、どうすんだよ?」
「手詰まりだよな………」
「とりあえず、他の人達にも知らせてくるよ」
「ああ、頼んだ」
いくらなんでも同様し過ぎだ。いくら怪我人が相手だからといっても、素性を知らない相手にここまで隙を晒すという行為は、普通の軍人ならまずしないだろう。
ナオが先に病室を出ていき、ランと二人っきりになるセーレ。するとランは、セーレのベッドに近づいて、剥がしていた布団をかけ直した。
「今医者を呼んでくる。しばらく眠っていてくれ」
「はい、すいません」
「気にすんな。ちょっと待っててくれよ」
そう言ってすぐさまランも、病室を抜け出す。一人残されたセーレは、特にすることもないので、天井を見上げることにした。
(上手くいった。喜びたいんだけどなぁ………なんだろう、このモヤモヤする感覚………)
その後セーレは一人、何か分からない感情に、心を振り回された。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦
「記憶喪失、彼の症状はそう見ていいだろう」
意識を取り戻した男を診断した結果、年配の男性医はランにそう告げた。
杖を突き、顔もよぼよぼの老人ではあるが、腕に関しては超一流。これまで仕事をしていた中で、彼に助けられた数は、両手で数え切れないほどあった。その事もあって、医者の話を疑ったわけではないランだったが、次の言葉には、少し過激に反応してしまった。
「外的要因によるものなのか、心理的な要因によるものなのかはわからんが、強いて言うなら、今の奴の状況は、お前さんのソレと似たようなもんだろう」
自分と同じ………その言葉だけで、ランの関心はさらに上がる。
「俺のに似てるって事は、ウルトラマン絡みの何かなのか?」
「如何せんワシはそっち方面はさっぱりだからのう。何とも言えんが、奴の体内からお前の体にあったもんと似たもんとが確認されてな」
例の大戦争から少し経った頃、この老人にランは、体中を調べられた事があった。何でもこんな事を体験した人間はそうそう居ないとかで、しつこくしつこく迫られた。
その事を思い出し苦笑いを浮かべたランに、老医者は話を続けた。
「奴も患者だからな、あまり悪くは言いたくないが、気を付けろ。もしかすると、とてつもない事が起きる前触れかもしれん」
まるで脅しをかけるように、物騒な言葉を吐く老人に、やり過ぎだと苦笑いで諌めるラン。しかし老人の目は、少しも笑みを浮かべてはいなかった。
・セーレ
記憶喪失(噓)
・ラン&ナオ
普通に心配してくれてる
無茶苦茶善人
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