放たれし覚醒の一撃は、地を抉り空気を震わせる。先ほどまでとは明らかに質の違うエネルギーに、彼らの本能が警鐘を鳴らす。
敗北……その二文字が、彼らの頭には浮かんだ。
「タイラント!」
「ギャアアアア!」
ヴィラニアスからの指示に、タイラントは盾となるように前に出る。そしてその腹部に力を込め始めた。
「ギャアアア!」
目の前にまた迫っていた熱線は、掃除機に吸い込まれるゴミのように、タイラントの腹部に殺到する。合体怪獣であるタイラントを構成するパーツの一つであるベムスターの力、ウルトラ戦士のエネルギーを吸収する能力だ。
光線が吸収されたことにより、セーレのエネルギー消費が激しくなっていく。通常ならば、このままエネルギーが空になるまで打ち尽くしたとしても一切効果は無いだろう。
そう、通常ならばの話だが。
「ギャッギャアアアッギャー!」
「タイラントどうした⁉︎」
突如、タイラントの様子が豹変した。苦しみから逃れようとするかの如く、必死にうめき声を上げる。そして彼の主であるヴィラニアスも、初めて陥った事態に困惑の声を上げた。
なぜこのような現象が起きているのか。一言で言い表すのなら、火事場の馬鹿力と言う奴だ。
窮地に追い込まれたセーレは、今までにない量のエネルギーを体内で生成、放出していた。
そしてそれがタイラントのエネルギー変換能力の限界を超えたため、機械で言うところのオーバーヒート状態に陥っていたのだ。
無論オーバーヒートという事は、まだ現時点では無事ではあるということ。しかしそれと同時に。限界まで時間はないと言うことも表していた。
「ギャアアアアア!」
「ちぃ、下がれタイラント!」
もう耐えきれないと判断したヴィラニアスは、タイラントに撤退を指示。
その瞬間、セーレのレッキングバーストがヴィラニアス達を襲った。
咄嗟に左右に避け、直撃を回避する。だがしかし、横を通り抜けたレッキングバーストは小惑星を大きく抉り抜き、体積の大半を奪い去った。その衝撃を物語るが如く、破壊された断面に未だ熱が篭っていた。
「これは、想像以上だな」
「私たちも本気を出さねばならぬらしい」
構える四人、相対するは漆黒の巨人。
「シュッ!」
弓に引かれた矢のように、互いに一歩を踏み出した。
湧き上がる闘志が求めるものは、ただ一つの勝利のみ。打算も策謀も、関係ない………とでも言えば聞こえは良いだろう。
実際のところ、今の双方はただ冷静さを失っているだけだ。予想外の覚醒に、それに伴った高揚感の上昇で、互いに引けに引けない状態に陥ったのだ。
しかし、それでも求めるものに変わりはない。
距離が縮まる。あと一歩でも踏み出したら互いに間合いに入るところだ。
腕を引いた。武器を構えた。そしてあと一歩を…………
「────そこまでです」
踏み出すことは出来なかった。
「「⁉︎」」
両者の間を一筋の閃光が駆け抜けた。一陣の風が舞い上がり、視界を覆う。塵芥が過ぎ去った後、彼らの目に入ったのは、右手の剣を光らせた白い鎧の騎士だった。
「双方収めなさい。ダークネスファイブが一人、この魔導のスライの名の下に」
♦︎
「まさか陛下の息子だったとは……」
「何たるご無礼を……」
「ああ待って、そんなに謝られてもどんな反応をすれば……」
セーレの前で深々と頭を下げるスレイを除いたダークネスファイブのメンバーたち。リーダーであるスレイはその様子を見下しながら、呆れたように、或いは疲れたように声を掛けた。
「全く……勝手に死んだと思ったら霊になって化けてくるとは、一体どういうつもりですか?」
「いや待ってくれスレイ。私たちも何がなんだが……」
「待ってもなにもありませんよ!よりにもよって甦って最初にやる事が見ず知らずの相手に喧嘩を売る?もしこれでセーレ様に何かあったらどうするつもりだったんですか⁉」
「もちろんこの命をもって……」
「もう死んでるでしょうが!シャレにならない事を軽々しく言うんじゃありませんよ!」
「グ…グル……ジィ……マッ…テ……」
「ストップ!ストッッップ!スレイさん首!首締まってるから!」
ジャタールに絞め技を決めるスライに説得を試みるが、全く聞く耳を持っていない。かなり頭に来ているようだ。
このまま放置していても死ぬ事はないだろうが、とにかくうるさいのだ。その後数分を掛けてスライの怒りを収まるのを待ったが、最終的に半径一キロ程度が更地になったのは必要経費としておこうと、セーレは自分に言い聞かせた。
「………少々、お見苦しい所をお見せしました」
「まったく、頭に血が上ったら手が付けらんのは変わっとらんな」
散々暴れ倒した結果見るに耐えない惨状となった宙域を離れ、セーレ達は怪獣墓場の中心部へと足を運んだ。セーレがこの地へと来たのは初めてだったが、やはり他の場所とは違う空気が漂っていた。
神聖な場所、というのはあながち間違いでもないのだろう。
再会の感動やらゴタゴタの騒動やらもほどほどに、彼らの話題は次々と移り変わっていった。
「まさか陛下に子供がいたとは………」
「というか結婚してたんだな」
「びっくりだぜ」
「◾️◾️◾️◾️」
「あの、デスローグさんは何て言ってるんです?」
「私には理解不可能です」
「私もだ」
「横に同じく」
「えぇ……」
「それで、何で生き返ったんです?」
「いや、さっぱりだ。見当がつかん」
「でも俺は見たぜ。甦るときに俺たちの前に誰か立ってたんだ」
「それなら私も見た。顔に変な仮面を付けてたな」
「そうそう、なんか青かったぞ。全体的に」
「青い仮面を付けた巨人………聞いた事ないな」
「そんな不審者ホントにいたら、宇宙中で話題になってますよ」
「確かに」
「つうか、スライ。なんでお前が教育係なんだよ」
「そうだな。他にも適任な奴はいそうなものだが?」
「………フン」
「あっ!こいつ鼻で笑いやがった!」
「イラつくな〜!」
「まあ、この容姿端麗頭脳明晰なメフィラス星人である私、魔導のスライが選ばれるのは当然でしょう。なんせこのダークネスファイブのリーダーも私なんですから」
「セーレ様、やはりこの男は人格面が不安です。ここは私が」
「いやいや、ここはこのヴィラニアスが……」
「じゃあ俺も俺も!」
「◾️◾️◾️◾️!」
「調子に乗らないでくださいよ!」
「◾️◾️◾️◾️」
「へぇー、熱線ってこんな風に打つんですね」
「◾️◾️◾️◾️」
「あーなるほどなるほど」
「デスローグと会話を………⁉︎」
「しかもなかなかにえげつない事をやってるな」
「ちっ!奴には負けられん。私たちもいくぞ!」
その後なんやかんやあって、ダークネスファイブ総出でセーレへの指導が始まった。基本的な攻撃技からそれぞれが得意な技を叩き込まれ、その全てを習得しようとセーレ達が躍起になった事もあり、あっという間に一ヶ月ほどの時が過ぎた。
「セーレ様、我々が教えることは何もありません」
「私たちも嬉しいですぞ」
「陛下は怖いと思うけど頑張って!」
「◾️◾️◾️◾️」
「ありがとうみなさん」
皆からの激励を受けながら、セーレとスライは怪獣墓場の入り口まで戻ってきた。少し寄り道をする程度の考えだったのだが、思ったよりも長居をしてしまったようだ。
しかし、その分得ることが出来たものも多々ある。
「それで、皆さんはこれからどうするつもりなんです?」
「我々はただの亡霊。その因果の影響か、怪獣墓場の外に行く事も出来なくてな」
「適当に何処かで過ごしていくさ」
心配するな。そうは言う彼らだが、落ち着きのない言動の節々からどこか浮ついた心情が見て取れた。それを見かねたスライが声を掛ける。
「本当に大丈夫なんですか?」
「本当に大丈夫だ」
「しかしですねぇ………」
「心配しなくても俺たちもう死んでるし!」
「◾️◾️◾️◾️」
そう言う問題でもないと思いますが? 喉元まで出かけたその言葉を、スライは必死に腹に戻す。まるで自分たちが死んだ事など些細な問題に過ぎないと言わんばかりの態度には、正直思うところもあった。
これから先、もう会うことはないかもしれない。もう少し慎重に時間を使うべきではないのだろうかと。 だがそれでも、彼らは大切な友人だ。最後くらいは、笑顔で別れたい。
「全く……次に会ったときは気は覚悟しておいて下さい」
小さく一言呟いた。誰かに伝えたというよりは、自分に言い聞かせるように。
飛び上がり、かつての仲間達へ背を向ける。口惜しさはある。だが、今自分が共にいるべきは彼らではない。
かつての日々は、今考えても良いものだった。あの頃に戻りたいと考えた事も数えきれないほどに。しかし今は、自分が導かなければならない者がいる。
それは、隣にいる彼。
力だけなら今でも充分通用するだろう。あと少しすれば、自分も追い抜かれるかもしれない。だが彼はまだ子供だ、何も知らないただの。
誰かが導かねば、あらぬ道へ進むかもしれない。
ならば自分が示して見せよう、そして育てて見せよう、誰にも負けない闇の戦士として。かつてとは変わり果ててしまった主の為にも
◇
「へぇ〜中々仕上がってきてるじゃないか」
怪獣墓場を駆ける二つの流星を見つめる一人の巨人がいた。彼の目に映るのは、一人の若すぎる戦士。以前に比べれば格段にレベルアップしている。しかしそうでなければ、わざわざ死者を呼び出した意味がない。
「光と闇を持って生まれた者………もしも二つの道を迫られたとき、君はどちらを選ぶ?」
まだ計画は始まったばかりだ。どう転ぼうともまだ修正は効くが……
「一方に染まりすぎるのは良くないなぁ〜君にはまだ可能性があるんだから」
仮面に手を当てながら、彼は笑みを浮かべる。
「いっそのこと成ってもらおうかな、光の使者ウルトラマンに」
あの戦士は仮にもあのベリアルの息子、万が一バレればタダでは済まないだろう。しかしその程度のリスクでは、彼の好奇心は止められない。
「光が強ければ強いほど、闇も深くなっていく。ならば………利用させてもらおうか」
彼は非常に珍しいケースだ。今までとは違う反応を見れるかもしれない。そう考えるだけで、彼の胸の鼓動は高鳴っていく。
「楽しみにしておいてくれよセーレ」
そして彼は闇の中に姿を消した。
その『狂った好奇心』の矛先に、一人の戦士を捉えて。
・セーレ
怪獣墓場での一ヶ月の特訓で、あらゆる能力が向上した
・ダークネスファイブ
ベリアル復活後各地での戦闘で死亡したが、誰かさんによって叩き起こされた
この後しばらくしてみんな仲良く土に還った
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