俺はリクのお兄ちゃんだぞ!   作:傘葉

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狂信者の罠

 

 かつて宇宙の片隅にストルム星という星があった。

 

 少々特殊な力を持ってはいたが、宇宙全体で見れば強力なものではなく、争いとは無縁な辺境な土地で、何気ない平穏な日常を送っていた。

 

 そしてある男も、その星で生まれ育った。

 

 ストルム星は緑で溢れる豊かな星だった。住民は皆心優しく互いに互いを思い合っていた。そうした環境で育った男も、広い見聞を持ち他人を尊重する人間へと成長した。

 

 

そう、争いが起こることはなく誰も傷付かない静かな星だったのだ…………あの日が来るまでは。

 

 原因が何だったかはもう覚えていない。気づいた頃には、故郷は炎で包まれていた。

 

 目の前の光景を受け入れられず、その場に足を着いた。哀しみ、絶望、無力感。何もかも奪われた。家も家族も友も、立ちあがろうとする気力さえも。

 

 このまま、何も成す事なく終わる。心が折れかけたそのとき、男の前に一人の救世主が舞い降りた。

 

 

 

 ウルトラマンベリアル、その日から、彼は男の全てになった。

 

 

 その体も、心も、命も。文字通り全てを捧げた。彼の覇道の礎となられるのならば、他の全てがどうでもいいとでさえ思えるようになった。側から見れば狂ったような信仰心を、その胸に秘めて。

 

 身を粉にするように働き、それが崇拝対象であるベリアルにも認められ始めたある日、男は一つの転機を迎えた。

 

 ベリアル直々に与えられた初の任務、それは彼の予備のボディーを造ることであった。

 

 ベリアルから与えられた遺伝子を元に作成した肉体に、彼は己の持てる全ての技術を注ぎ込んだ。

 

 そして生まれた最高級の能力を秘めた肉体。文句の付け所のない最高の出来。あとはこれを主に献上すれば、全てが終わるはずだった。

 一つのイレギュラーさえなければ。

 

 

 

 

「あんたは…誰……だ?」

 

 なにせウルトラマンの肉体の作成など前代未聞のこと。その中で偶発的に肉体へと刻まれた魂、それはただの器から、自身の自我を持った生命体へと進化したのだ。

 

 すぐさまこの事をベリアルに報告。おそらくは不良品として処分されるだろうと考えていた。だが、ベリアルの取った行動は男の予想からは大きく外れたものだった。

 ベリアルは、あの不良品を自身の息子と言い放ったのだ。

 

 男は大いに荒れた。

あれを創り出したのは自分だ。その為に心血を注いできたのだと。しかし、ベリアルはそんな男の抗議には一切耳を貸さなかった。

 

 なぜあのお方は自分を見ないのか?なぜ奴ばかりを、なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜナゼ?

 

 そしていつしかその小さな妬みの感情は、大きな憎悪へと膨れ上がっていた。

 

「殺してやるぅ……!セーレェ、お前はベリアル様の側に立つには相応しくない…!」

 

 不出来の失敗作が息子?挙げ句の果てに後継者だと?

その肉体は貴様の為に造ったのではない、あのお方の為に生み出したのだ。貴様にその力は相応しくない、偶然生まれただけのノイズなんぞが

 

 自分の出自も知らないで、のうのうと生きている。そんな態度に吐き気すら催してくる。

 

 

 

 

 そして執念の末に、男は作り上げた。自分の意のままに動く、正真正銘の完成品であるクローン達tを。

 

 

「目覚めよ……ポーンズ!」

 

 彼の憎しみに応え、八体の漆黒の巨人が目を覚ます。

 

 その瞳に自分たちと同じ遺伝子を持つ者を映して。

 

 

 

♦︎

 

 

 

『遺伝子情報を確認。対象者をマスターと認定します』

「うぉっ、すごいな」

 

 ストルム星人ケイからの処置を受けたセーレは、人間態になり、彼の発明品の一つである新型AIと交流していた。なになら新型の戦艦に内蔵して、さらなる戦力拡大を目指しているらしい。

 

 サイズは人間態に戻ったセーレと比較して同程度で、黄色い球体状をしている。また、本体は戦艦内部の中央司令室から動くことは出来ないが、球体型偵察機『ユートム』を発射し、それを媒介にしてコミュニケーションを取ることが可能となっていた。

 

「えっと……AIさんでいいの?」

『呼び方は何でも構いません、マスター』

「マスター、それって俺の事?」

『はい。ベリアル因子を持つ者をマスターと認識するよう設定しています。現在、私の全機能、並びに戦艦内部のコントールは全てあなたの支配下に置かれています』

 

 セーレは無機質な声で語りかけてくるAIに対して、若干の恐怖とそれを軽く上回る好奇心を抱えていた。思い返してみればベリアル軍には様々な種族がいたが、完全な機械の者と触れ合ったのは生まれて初めてだ。

 

 ジロジロと、舐め回すようにユートムを眺めている。

 

「君は何が出来るの?」

『リアルタイムでの戦況の解析や分析、それに伴っての作戦プランの進言。また、戦艦を自動操縦しての援護行為なども可能です』

「へぇー、じゃあ俺の今までの戦闘データの解析とかも?」

『はい、可能です。試しにこちらをご覧になりますか?』

 

 ユートムの目玉のような部分から、赤い光と共に立体映像が映し出される。そこには先ほどセーレがケイに渡した戦闘データが記載せれていた。

 

『マスターが得意とする戦法は、その回復能力を用いての肉弾戦や砲撃戦。しかし近接戦では47%の確率で相手に押し負け、遠距離からの射撃の命中率は64%と決して高いとは言えません』

「ここまで細かく調べられてるとちょっと怖いな……」

『また複数の相手との戦闘においては、一対一の際と比べ勝率は14%下がっています』

 

 ウィンドウの移り替わりと共に、次から次に指摘をしてくるAI。仮にも目の前にいるセーレは己のマスターだと言うのに、躊躇などはまったくないようだ。

 

 セーレにしてみれば、自身の欠点を指摘されるのは中々に耳が痛いのだが、内容は全て的確なもの。聞き逃すまいと真剣に耳を傾ける。

 

『マスターは一般的なウルトラマンとは違い、人間態が基本的な姿となります。その為、多少の差異が………』

 

 

 

そうしてしばらく講義を続けていたとき、部屋の奥から足音が近づいてきた、

 

「ここにいましたか。セーレ様」

「ケイさん」

 

 姿を現したストルム星人ケイは、手で追い払うような仕草を見せユートムを下がらせた。そしてセーレに笑顔を向けてきた。

 

「ベリアル様からの伝言です。ポイント49宙域にすぐさま来るようにと」

「何か緊急の案件ですか?」

「それは私も聞かされておりません」

 

 ベリアルがセーレに用があるときは、基本的に玉座へと呼ばれている。そして使者伝いにその旨を聞かされるのだが、このようなケースは初めてだ。

 

「わかりました。直ぐに向かいます」

 

 ケイに一瞥し、足早にその横を通り抜けるセーレ。しかしそれを引き留めるように、後ろから声を掛けられる。

 

『お待ちください』

 

 その主は、ユートム越しに声を発するサポートAIだった。

 

『マスター、最後に一つアドバイスを』

「アドバイス?」

『前ばかりを見るのも構いませんが、時には上にもご注意を』

「………もう少し調整が必要なようですね」

 

 ユートムを片手で捕まえたケイに見送られ、巨大化したセーレは要塞の外へと飛び立った。ケイの口元が、僅かに歪んでいるとも気付かずに。

 

 

 

 

 腕を前に伸ばすとグングンと速度を上げていき、あっという間に最高速度に到達する。音や光さえも置き去りにしての宇宙遊泳はなかなかに心地が良いものだ。しかも今回は、いつものようにお目付け役のスライがいない。気分が高揚したセーレは、危うくコントロールを失いかけるほどの速度で、暗黒の海を進んで行く。

 

 そしてものの数分で、伝言にあった宙域の小惑星の一つへと到着した。

 

「ここのハズ………だよな」

 

 しかし見渡せる範囲では、ベリアルはおろかセーレ以外の生命体の反応さえ感知することは出来ない。

 目に入るのは、長年の旅で削れた様子の灰色の岩石のみ。そこら辺りでよく見られる光景には、あまり心は動かせられない。

 

「ケイさんが間違ったとかかな?」

 

 セーレの頭にある考えが浮かぶが、日頃から任務を完璧にこなす彼が、こんな初歩的なミスをするとは考えにくい。では別に何か理由があるのだろうか?

 

 例えばセーレが早く着き過ぎた………これは充分にあり得る。では他には、逆にベリアルが遅れているのでは?これは考えにくいだろう。確かにベリアルは乱暴なところはあるが、最低限の筋は通す者だ。

 となると、他の場所には移動しない方が良いだろう。下手に動いて、入れ違いになるのは面倒だ。

 

 

 

 しかしそれはそれとして、何もない場所でたった一人で待機するというのも暇を持て余す。どうしようかと考えていたが、それも杞憂に終わった。

 

「おっ来た来た」

 

 セーレが到着してから数分後、こちらに向かってくる光が見えた。その数、8つ。

 

 一糸乱れぬ動きで軌道を描いたそれらは、次々とセーレの前に降り立った。セーレやベリアルと同じ黒いボディーの巨人たち、その内を流れているエネルギーに、セーレはナニカを感じ取った。

 

「この力……もしかして、君たちが」

 

 弟。そう言おうとしたとき、突如目の前に拳が飛んできた。

 

 動揺が走る。しかしそれも一瞬の事。すぐさま肘で防御すると、足を絡めてその場に転倒させる。

 

「これは試験なにかか?」

「………」

 

 答えはない。しかしそれに応じるように、残りの七人も襲い掛かってきた。

 

 後方に飛び下がり距離を取る。牽制にレッキングリッパーを数発打ち込んだところ、それを掻い潜った影が見えた。

 

 こちらも助走をつけ、その影を迎え撃つ。振り上げた拳と拳、交差した二つの腕が絡み合い、取っ組み合いの状態となる。

 

 そしてセーレは、始めてその者の目を見た。通常生命体の目には、何かしらの感情が篭っている。しかし真っ黒に染まった禍々しい目からは、何の感情も感じられない。物言えぬ恐怖を感じたセーレに、その者は口を開いた。

 

「試作品第一型コードネームセーレ、あなたには廃棄処分が下された」

「なんだと?」

「よって、我々があなたを処分する」







・セーレ
巨大形態が本来の姿だが、人間態の方が回復効率がいいのでかなりの頻度で人間態になっている

・ポーンズ
基本スペックは若干セーレを下回るが、数の利で敵を追い詰める設計になっている
自我はない

・ケイ先生
もう情緒無茶苦茶

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