俺はリクのお兄ちゃんだぞ!   作:傘葉

8 / 10
機械人形と脚本家

「やれやれ、厄介な虫が沸いているようだね」

 

 ポイント49宙域。現在その地で行われている戦闘を、一人の傍観者が覗いていた。

 

「大方あの男の企みだとは思うが、思い上がったな下等生物が」

 

 状況は一対八と、セーレにとってはかなり不利な盤面だ。無論このまま彼が命を落とすのは、傍観者にとっても都合が悪い。だが傍観者は少し嫌な声を漏らす程度のリアクションしか起こさず、干渉する気は全くないようだ。

 

「自我のない人形など死んでいるに等しい。永遠に進むことのない出来損ないなんぞが、彼に勝てる訳がない」

 

 傍観者はそう言うと足元に転がる隕石を蹴り上げ、その破片を戦場目掛けて打ち放った。

 

「頑張ってくれよ?肝心の主役が死んでしまっては、せっかくの舞台も意味がなくなってしまうからねぇ」

 

 

 

 

 

 

「■■■■!」

 

 九人の入り乱れる戦場に、無数の隕石が降り注ぐ。不運にも逃げ損ねたポーンズの一人にそれがぶつかり、声にならない悲鳴を上げながら、その儚く命を散らした。しかしそんな事を気にした様子もなく、残った者たちは戦闘を続ける。

 

(味方が死んでもこの対応、気味が悪いな)

 

 薄気味悪さを感じながらも応戦するセーレ。これまでの経験から言えば、このようなタイプは非常にやりにくい。互いに共闘する味方だとは考えていても、仲間だとは考えていないからだ。

 

(まずは一人だけど………!)

 

 飛んでくる攻撃を時に避けながら、時にいなしながら、また時に反撃を織り交ぜながら、セーレは頭をフル回転させる。一人は既に息絶えた。しかしそれは偶然落ちてきた隕石あっての事、楽になった心地など全くしない。

 一人減ったとはいえ、セーレのみでこの数を相手にするのは変わらず不可能だ。ならば前回の怪獣墓場と同じく、各個撃破を優先させよう。

 

「シャアッ!」

 

 片足を着きながら、地面に拳を叩き付ける。するとそこを起点にして、四方八方に亀裂が走った。そして数秒後、小惑星が内部から爆散した。

 爆炎を目くらましにその中を駆け抜けながら、セーレは目標を一つ定めた。

 

「ハァッ!」

 

 目掛けるのは、一番他のメンバーから外れた者。孤立していたかの者の体を掴むと、力任せに振り回し、遥か彼方に投げ捨てた。

 

「レッキングストーム!」

 

 両腕から発生させた大嵐に彼はに飲み込まれ、反撃はおろか、バランスを取ることすらままならなくなる。そして徐々に徐々に、流し込むエネルギーの量を増加させていく。

飲み込まれた彼も必死に反撃をしようとするが、思うように動けていない。トドメを刺そうとさらにエネルギーを押し出そうとした瞬間、横から妨害が入った。

 

 前方へと集中し過ぎた結果、無防備になった腕へと蹴りが刺さった。あらぬ方向へと腕が暴れポーンズを捉えていた旋風が散り散りになると、そこへとさらに連撃が襲ってくる。腕で上半身を防御し数秒に渡り耐え凌ぐと、右足を振り上げ右脇腹へ衝撃を与えた。体勢を崩れたところでその横を駆け抜け、広い空間へと逃走する。

 

 じりじりと間合いを測っているポーンズ達を傍目に、セーレは敵戦力の分析をする。

 

(単純なスペックだけなら俺の方が上、一対一に持ち込めば確実に勝てる。だが奴らの真髄は個々の戦闘力よりもその連携力だ。特に接近戦ではやりにくい事この上ない)

 

 セーレの考察通り、ポーンズは部隊単位での運用を前提に製造された戦士だ。その戦闘スタイルのコンセプトは、数の利を生かし消耗戦に持ち込んでの相手の疲弊を狙うというもの。

 つまり長引けば長引くほど、セーレにとっては不利になるのだ。

 

 さらに今回に至ってはもう一つ、ポーンズたちが有利となっている要素があった。それは、セーレの戦闘データの学習である。

 

 その技を遺伝子に焼き付け、動きを知り、模倣をし、そして完全に彼の動きを身につけ対策をした、はずだったのだ。しかし現状はどうだ?当初の見立てでは徐々に徐々にダメージを与えていき、セーレの回復能力を上回っていくだったにもかかわらず、今現在セーレに疲労の色は見られない。

 

 感情や自身の思考を持たない故、ただ当初の命令通り動くポーンズとそんな背景の事があることなど露知らないセーレはただ殺意を持って戦い続ける、だがある男は違った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか成長しているというのか、この数日の間にも⁉」

 

 この襲撃の首謀者である男ストルム星人ケイは、目の前の状況に動揺を隠せないでいた。ロクに抑揚の取れない叫び声を上げ、汗の滴れる顔を覆い隠しているその姿を見れば、普段の彼を知らない人間でも薄々勘付くほどには。

 

「それほど奴の性能が優れているのか、或いはあのAIを見せたのがまずかったのか………⁉」

 

 様々な考察が次々と浮かび上がるが、それを一々考えているほどの余裕はない。どのような要因があったにしろ当初のプランはほぼほぼ潰えたと言って差し支えないだろう。現時点でこのような泥仕合ならば、あらかじめプログラムされた動きしか出来ないポーンズよりも、僅かな間でも成長するセーレの方に分があるからだ。

 

 男は焦った、しかし彼も馬鹿ではない。

 

「………仕方ない、プランBだ」

 

 一歩間違えれば敬愛する主に反逆と捉えられるような事を企んだのだ。本命が失敗した際のために、予備のプランを数個、並行して走らせていた。

 

 今回使うのはその中でも、確実性が高いもの。完璧にセーレを()()()()()()()()()()()()

 

 男は腕を掲げ、吠えた。

 

「行け、ダークロプスゼロォ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新手……!」

 

 上空より飛来する気配を捉え、サイドステップで体を移動させたセーレ。そのコンマ数秒後、その場に一つの物体が落ちてきた。正に間一髪、胸をなでおろしたいところだったが、落ちてきたそれは、そんな余韻に浸る暇さえ与えなかった。

 

「ダークロプス、いやこの感覚は試作型か?」

 

 土煙の中に見える乱入者の姿を捉えたセーレに動揺が走る。

 

 彼はその機械人形を知っていた。かつてデータベース上で閲覧した旧ベリアル帝国時代の主力兵器の試作品を。

 

 重苦しい、だがそれでいて軽々しい動きでダークロプスゼロは立ち上がり辺りを見回すような動作をした。そして人形は赤いバイザーの裏に隠れた怪しげな光でセーレを捉える。

 

 そして、機械人形は地を駆けた。

 

(っ速い………!)

 

 動きを見るだけで、体が本能的に理解した。こいつは、別格だと。

 

 ダークロプスゼロの動きに合わせるように、頭部に装着された二対一体の宇宙ブーメラン、ダークロプスゼロスラッガーが射出されその手元に収まる。風を音を光をも越えるほどのスピードで、その特殊金属の輝きがセーレへと迫る。

 

 一撃目は首元を狙っての突き。体を捻り無事それを避けるが、続けてもう片方の刃が向けられた。続いては肩狙いの振り下ろし。エネルギーを手に溜めると、ダークロプスゼロの腹目掛けてそれを放つ。

 

 僅かに刃の軌道が逸れた。首を傾げやり過ごし、それと同時にショルダータックルをお見舞いする。バランスを崩したところへ、拳での追撃。防御が間に合わず、真正面から深く突き刺さったパンチにより、ダークロプスゼロは大きく吹き飛ばされた。

 

 すぐさま地を蹴り距離を詰めようと試みるが、両者の間に黒い影が入り込む。

 

「邪魔ぁ!」

 

 立ちはだかったポーンズを力任せに殴り飛ばすが、その後ろにすぐさまもう一つ、ポーンズの影が差した。腕を振り上げてはいるが、それはセーレには届かない。顔前にてその拳を受け止めると、膝蹴りを打ち込み体勢を崩した。

 

 倒した相手には目もくれず、ダークロプスゼロへ向かおうとするが、またしてもそれを阻止するように、四方八方から光弾の雨が降り注いだ。計五方向、倒れている二体を除いたポーンズ全員による集中砲火がセーレを包み込んでいく。

 

 激しい光が黒煙を生み出し、耳障りな戦闘音を奏でる。いくらセーレが強かろうとも、限度というものがある。360°全方位に目が届くわけでもなければ、体全体を覆うバリアを形成出来るわけでもない。故にポーンズたちは判断した、『目標撃破は目前』だと。

 

 彼らには、感情も自我も存在しない。この判断は慢心も潜入観もない、完全に合理的なものだったのだ。

 

しかし、それは大きな間違いだった。

 

「うあぁぁ!」

 

 突如黒煙の中から、叫び声が聞こえた。そして次の瞬間、暗闇の中から二つの影が放り投げられた。それは、先ほど地面に組み伏せられたポーンズ二体。

 空中へとポーンズたちの反応が向いた。ほんの一瞬の出来事、だがそれが大きな命取りになる。

 

「レッキングバースト!」

 

 注意の逸れていたセーレが、腕を組み光線を放った。黒き稲妻を纏った青白い輝きが横薙ぎに一閃、速やかに各攻撃地点を覆いこむ。ポーンズたちは何とか体を捻り致命傷を回避したが、それでも僅かに命中した光線により、視界が安定しなくなる。

 

 一方セーレには、まだ先ほどの絨毯爆撃の余波で視界にもやが走る。

 

 一時的なポーンズ達の無力化には成功した。だが、まだもう一人残っている。先ほど彼を吹き飛ばした地点へと目を向けるが、その時には既にそこには何もいない。そして、横から衝撃が走る。

 

「くっ………!」

 

 吹き飛ばされる着前、視界の隅でその姿を捉えた。スラッガーを頭に装着し悠然と立ちはだかるダークロプスゼロが、足を大きく伸ばしていた。おそらく、飛び込みながら蹴りを入れたのだろう。

 

 空中へと押し出され、バランスを取れなくなったセーレだが、着地の瞬間、腕を伸ばして衝撃を吸収する。そのままの勢いで立ち上がるが、起き上がりの瞬間えお狙ったかのように、一筋の光が襲い掛かった。ダークロプスゼロの頭部から発射されたダークロプスゼロスラッシュ、体を捻じって直撃を回避するが、後方の岩盤へと命中したそれは、易々と岩を砕き、灰色の雨を降らせる。

 

 岩が落ちる重苦しい音がする。次々に落下していくその狂奏曲は、一瞬にして両者の聴覚を奪い去った。

 

 セーレが構えた。それに応じるように、ダークロプスゼロも二振りのスラッガーを構える。

 

 一瞬にして距離を詰める両者。その拳と刃が、交じり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかここであれを使うとは………まったく、あの下等生物の考える事はつまらない」

 

 傍観者は静かに呟くと、例の戦場に背を向けた。

 

「だがまあ、お陰でこちらも動きやすくなった。ささやかなるお礼に、もうひと時だけその余韻に浸るといい」

 

 傍観者の手には、一つの輝きが握られていた。それは、ダークロプスゼロの心臓とも言えるディメンジョンコアに瓜二つな、怪しげな光を放つもの。

 

「誰がこの舞台の脚本家か……教えてあげないとねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 





・セーレ
前話でのAIの分析により何とかポーンズ達とやりあえている。

・ポーンズ
本来なら圧倒してた………はず

・ダークロプスゼロ
正式採用のダークロプスの試作型
外伝の奴とは別個体だが、能力は自我の有無のみ
トレギアによって細工済み



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