リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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賞金首と質
・第十話 紹介


 

 翌日、起床したオルトは銃の整備をしていた。遺物襲撃犯と戦闘後、意識を失ってしまった所為でそれから触れることもできなかった(ぶん)、時間を使って丁寧に作業を進める。

 AAH突撃銃は長期間整備無しで使用しても一定の性能を保証するが、極僅かだとしても落ちる。GRD対物突撃銃は強力な専用弾を使用できる分、暴発など起これば自身に大きな被害が出る。そもそも戦闘中に暴発など起これば、状況は悪化するだけだ。それが起きる確率を消すために整備を続けた。

 ふと整備中に思いついたことがあった。

 

「それにしてもこんなに頑丈なAAH突撃銃を握りつぶせるとか、強化服の身体能力は凶悪だな」

『そういった事を可能にする為に制作された製品ですからね。逆にそんなことも出来なければ不良品扱いを喰らいます。それを可能なのはオルトだけではないので、敵に銃を破壊されたくないのでしたら、今後は敵への接近が不要になるような高性能な装備を整えていきましょう』

「分かってるって。倉庫に積んでた回復薬も纏めて持っていかれたしな。取引で手に入れた分含めても、今までみたいな回復薬の過剰摂取(オーバードーズ)でごり押しみたいなのは控えないといけないってことぐらいは俺も重々理解している」

『そうですか。でしたら構いません』

 

 オルトはファナを説得できたと思い安堵する。彼女に切り捨てられれば、オルトはただのそこらのハンターと成り下がる。彼女が言う端金でしか購入できない装備を纏うだけのハンターにだ。彼女に出会う以前の自分よりも強くなったとオルトは確信できる。しかし、求めている目標に届くにはまだ全く足りない。ファナのサポートは依然必要で、それはファナの依頼の前払いだ。慈善事業の一環ではない。貰ったまま返さないという行為は窃盗と言ってもいい。その行為は自分を信用出来なくなる要素になる。ファナの為に、自分の為にこの契約を切られる訳にはいかない。

 ファナはオルトを発見した際、一度見捨てていた。理由は簡単。死んだからだ。なまじ旧領域接続能力が有った為、白い部屋でファナを認識しただけで脳が情報量に耐えられず壊れた。しかしその後、何事も無かったかのように起き上がり、行動を開始したソレは異常とさえ呼べた。身体的に死んだとしても、ファナの都市で適切な処置を行えば生き返らせることは可能だ。しかしオルトはそれを必要としなかった。その時にはファナに多少の猶予が出来ていた為、少しばかり観察することにした。起き上がった後は口調も荒く、隠密行動を真似しているような。言ってしまえば別人のような印象を受けた。試しにと死んでしまった際よりも少量の情報量で試すと、体調を崩す様子もなく全力で走り去っていった。その様子から、先程までの半端な通信強度から変化したのだと分かる。それもファナにとって都合の良い方向へ。邪魔が入る前にとオルトへ接触して、自身との契約を促すことにした。紆余曲折あったが無事契約は成立、ファナは目的への有用な一歩を踏み出せた。

 旧領域接続者としての高い通信強度を所持した貴重な個体を逃がす訳にはいかなかった。もう一度死んで蘇る保証はない。都市に連れていき遠隔で検査した限り、可能とさせる器官は発見できなかった。だが許容範囲であることには変わりない。殺す意味も死なす意味も逃す理由も無い。ファナはオルトから敵意を向けられることが無いように、いつもオルトの様子を観察している。一個人の性質の更なる理解を求めて。

 2人の利害は一致している。オルトがファナを信用している。ファナがオルトを必要としている。お互いそれを理解している。それでも絶対はないと知っている為、自分の有用性は示さなければいけなかった。たとえどんな損を被ったとしても。

 

 

 銃の整備を終えたオルトは車庫に下りて、自身の所持品の再確認を行っていた。

 左腕が使い物にならない強化服。改造済みのAAH突撃銃。GRD対物突撃銃。回復薬が合計で20箱。旧世界製のブレードが数本。情報端末が4台。荒野(こうや)仕様の大型車。荷台にはリュックサックや台車が入っている。位置情報をどこかに発信しているとかいう基本価格が3億オーラムの大型バイク。そして口座に当座の金。

 改めて並べると豪華な品々だ。オルト1人では確実に手に入らないような物ばかりだが、ファナのサポートを受けたおかげで手に入れることが出来た。

 オルトが強化服を調べると、幸運なことに旧世界製の情報端末が接続されたままになっていた。

 

「これ回収されたと思ったけど装備品扱いで放置されたのか?」

『あの戦闘の余波で壊れる可能性もありましたがまだ使用可能ですね。倉庫に保管していた予備は回収されてしまいましたし、次の強化服が届いた際に再利用しましょう』

「そうだな」

 

 壊れた強化服も高い修理代を払えば製造元の企業が直してくれるが、それにも金が掛かる。左腕に至っては交換が必要な為その分上乗せされる。優先度は低かった。

 散らかした装備品を荷台に置き、強化服だけは部屋の適当な場所に掛ける。車両を壁際に寄せて車庫に大きなスペースを作ると今日の訓練を開始する。

 

 

 オルトが行っている訓練は、体感時間を操作する技術の訓練だ。

 死が間近に迫った時などの極度の集中状態で稀に発生する時間感覚の矛盾。意識のみが暴走して、世界をスローモーションに捉える感覚。それを意図的に、確実に発生させ、更に昇華させる訓練だ。

 既にオルトは体感時間を操作することが可能だ。体感時間を短縮するのではなく圧縮する感覚だ。だが現実時間で長時間は扱えていない。圧縮率も高くはない。

 ただ冷静に平常の精神状態を保ちながら、1秒の濃度を限りなく上げていく。そしてその状態を少ない負担で長時間維持できるようにする。

 オルトがペイジとの戦闘中に意気が上がり、高揚していた結果、身体が反応し、暴走した意識に知覚が追いついたあの瞬間の事を思い出す。

 

「それにしても急に操作できるようになったよな。今までの訓練中には偶に発生するだけで意図的に使うのは無理だったのに」

『今までの鍛錬で下地はできていましたからね。後は何らかの切っ掛けが必要な状態だった。そしてそのタイミングがあの瞬間だったのでしょう』

「なるほど」

『ただ、無茶をすればそういった技術が急に手に入るわけではありませんよ? 回復薬を多用してまで続けた鍛錬があったからこそ使用できるようになったのです』

「分かってるよ。もう無茶は言わないし、自分からも突っ込まない。必要に応じてだろ?」

『それなら構いません。では始めましょう』

「了解。……ところでその恰好は何だ?」

 

 ファナの格好は装飾過多のドレスになっていた。普段ファナが来ているような服とは露出度が段違いに少ない。顔以外の露出部分は無く、両脚は地面まで届くスカートで、両手は膝まで届くほどの長さの袖に覆われていた。

 両手に細長いブレードを持ち、その切っ先が袖の先から顔を覗かせている。

 ファナが片方のブレードをオルトに向ける。その切っ先が現実に実在しているように光沢を放っていた。

 

『私が今からオルトの前で踊ります。途中で突然斬りかかるので躱してください。しっかり私を見て攻撃と踊りの境を見極め、攻撃の際に体感時間を圧縮できるように構えておいてください』

「分かった」

『では始めましょう』

 

 ファナが距離を少し取りオルトに向けて一礼する。そして均整の取れた美麗な顔にいつもとは違う笑みを浮かべると踊り始めた。

 体を大きく動かし、身に着けている大量の布地を宙に舞わせて踊るファナの姿は神秘的に美しい。光沢を放つ布や装飾品が四肢の動きに合わせて幻想的な光帯を生み出しており、優雅に振るわれる刀身はその切れ味から来る凶悪さを隠し、この場を美しく飾るために生まれてきたとしか感じさせなかった。

 両目を瞑りながら僅かな体勢の崩れも無く舞うファナの姿に目を奪われ、オルトの身体は一切動かなかった。

 舞っている場所が車庫の中ということは分かっているが、その衣装に加え洗練された踊りがオルトを魅了し続けていた。

 オルトの視界に半透明な人間の後頭部が映る。それは首から下が確認できないオルトの頭部だった。ファナは既に攻撃を終えていた。

 オルトは攻撃されたことにも斬られたことにも気付かなかった。

 オルトが再びファナを見ると舞を止めており、オルトの顔をじっと見つめていた。

 

『ちゃんと見ておかないと駄目ですよ?』

「悪い。しっかりする」

 

 オルトが気を切り替える。たとえ美しかろうが、刃物を振り回している人間が近くにいるのに、危機意識を欠片も持っていないのは問題だ。ファナに見惚れるのではなく、その動きを観察し、その挙動にこそ集中しなければならない。

 再び距離を取ったファナを、オルトはじっと見つめる。僅かな変化も見逃さず、攻撃のタイミングを見極めるために注視する。

 ファナの全身を隈なく見ていると若干の違和感を覚えた。

 

「ファナ。僅かにだけど布地を減らしたか?」

『はい。気づいたようで何よりです』

「なんでそんなことを?」

『難易度を下げたまでです。今の私の服装は動きを捉えにくくしています。相手の各部位の動きを把握すれば、それだけ攻撃に気付きやすくなります。攻撃の予備動作に気付くのも一つの技術です』

「ああそうだよな。その訓練なのにそれを隠している物を外したら意味ないんじゃないのか?」

『良いのですよ。反応できないのなら尚更意味がありません。危機的状況であるとしっかり認識した上で、最低でも攻撃を知覚してください。攻撃されても気付かないようでは訓練になりませんからね』

「……まあ、そうだろうけどさ」

『ちなみにオルトが攻撃を受ける度に減らしていきますので、私の裸体を堪能したい場合は思い切り手を抜いていただいても構いませんよ?』

「……なんか趣旨が変わってる気がする!」

 

 ファナは言い終えると既に舞を踊っていた。焦りながらもオルトは目の前で舞うファナの姿を、意識的に顔を真剣なものにしながら見続けた。

 

 

 訓練を続ける。オルトがファナの動作を見逃さないように意識しながら見続けている。

 オルトはファナの動作を幾度か斬られた後から、攻撃のみに絞らず全体的な動作を掴むことに切り替えた。遺物襲撃犯と戦闘した際の集中力と感覚を思い返しながら布地に隠れたファナの肉体の動きを捉え続ける。

 意識的に体感時間を圧縮しながらファナの斬撃を何度か回避している。だが斬られてしまう頻度の方が遥かに多い。攻撃を知覚したとしてもファナの斬撃の速さに回避の速度が追いつかず、喉を斬られる。中途半端に顔を斬られる。

 ファナの舞を見ながら、ペイジと戦闘した時のような、自分以外が限りなく止まって見えるような体感時間の圧縮は今のオルトには不可能だ。長時間維持しようとすれば激しい頭痛に苛まれることになる。必要な時に適切に発生させなければならない。

 ファナはオルトの僅かな気の緩みを衝いて、的確に攻撃を繰り返していた。事前説明の通り、ファナの服から少しずつ布地が減っていく。最初は大量にあった筈の装飾用の布地はその(てい)を成していない。既にファナの着ていたドレスは過度に露出している状態になっていた。

 布地が無くなっていく度、ファナの肌が露わになる。腕や脚、背中や腰、胸の谷間やお尻の割れ目などが、踊るファナの身体に合わせて、面積を減らした布地の下から見え隠れするようになる。

 露出が増えるにつれ、その踊りに蠱惑的な動きが混ぜられていく。ファナは相手を惑わせるように四肢を大きく動かしながら、その表情を妖艶な笑みに変えオルトに流し目を送る。その次の瞬間に攻撃を行う。

 回避は出来ている。繰り返す度に体感時間の圧縮に慣れていき、舞の途中も少しだけ圧縮してゆっくりな動作に捉えている。そして目の前で振るわれる刀身が自身に振るわれる瞬間にのみさらに圧縮率を上昇させ、身体を動かす。しかし、意識のみが加速している状態であり、身体はそうではない。それでも強引に身体を操作する。刀身が横に振るわれれば上半身を反らし、縦に振るわれれば床を蹴り躱す。

 発生の仕方、使用法は理解してもやはり長時間は使用できていない。次第にオルトの反応が鈍くなり、最終的には無意識に膝が曲がり床に座り込んでしまった。

 オルトの疲労状態を把握したファナが訓練の切り上げを決めた。

 

『今日はこのぐらいで終わりましょうか』

 

 オルトは荒い呼吸を整える為に意識しながら深呼吸をする。周りを見ることが可能になるぐらいに回復すると、オルトはファナの姿を確認して、落胆する。

 訓練開始時にあった過剰ともいえる布地は既にドレスの形を成しておらず、胸部や臀部を少し隠しているだけの状態になっていた。訓練中に露出を抑えるには適さないアクセサリーを優先的に消す様に頼んだはずが、結果はその程度。訓練を切り上げるように言われたのはオルトの疲労が原因で、それが無ければそれらの布地も無くなっていただろう。

 落胆しているオルトを、ファナがいつものように微笑み慰める。

 

『既に感覚は掴んでいます。長時間使用するには慣れが必要です。圧縮率を上げるにも一朝一夕で出来ることではありません。気長に、その上で真面目に訓練に励めば徐々に容易になっていきますよ』

「……まあそうだよな。うん、わかった」

 

 無理矢理にでも笑う。嘆く暇はない。そう思いオルトは意気を上げる。

 

『今日は休みますか?』

「ハンター稼業を休業中だし、それ以外の事を頼む。まあ少し休憩を挟んでからになるが」

『では休憩後は勉強の続きをしましょう。オルトは、文字は読めませんでしたが最初から四則演算は出来ていましたからね。今日はその難易度を上昇させます』

「お手柔らかに。……というよりいつまでその恰好なんだ?」

 

 ファナの格好は訓練終了時から変わっていない。つまり肌に布地をひっかけているだけのように見える格好だ。これでは休憩も変な意味に捉えられてしまう。勉強に適した格好とは思えない。

 ファナが揶揄うように笑う。

 

『気に入っていらしたのでは? 着替えるように仰られませんでしたからね。どうですか?』

「そうか。着替えてくれ。次からは訓練が終了したらその場で着替えてくれ」

『ご遠慮なさらずに』

「……せめて普通の服装にしてくれ」

 

 オルトはファナの容姿を非常に気に入ってはいる。しかしそれを表には出したくはない。否定もしたくないため言葉を濁す。

 大量の汗を流すためにシャワーを浴びたオルトは勉強を始めた。目の前には露出の多い教師服に身を包んだファナが問題を出している。普通の感覚なら十分きわどい格好だが、その生活が日常のものになっているオルトは慣れてしまい、まあこれならいいか、という感想だけを抱いた。

 オルトは今日も自分にしか見えないものに囲まれながら、いつも通り授業を受けている。

 

 

 数日間、休日を挟みながらハンター稼業を休業している状況を満喫している。オルトもハンターとしてしたいことが有るが、それでもハンターとしてだけの効率的な人生を送るつもりなどない。

 金銭的な面に限れば荒野(こうや)ならば危険な場所な(ぶん)、居るだけなら金は掛からない。食事は都市の配給を貰えばいい。そんな生活をすれば確実に出費は抑えられるが、精神衛生上良くない。適度な娯楽を生活に取り込むことにしている。それに嵌り過ぎないようにも注意をしている。

 休日には下位区画を散歩したりして、街並みの把握をしたり、ネットで今は購入できないような製品が載っているカタログを読みながら、ちょっとした皮算用をしていた。

 重くて持てないと思わせるような大型の銃を、ファナが空中に出現させ、その性能などを聞いたりもしていた。ただ、それを実際に撃った際の状況を家の壁で再現した時は、それが実在していない被害としても肝が冷えた。オルトが実際に購入した後で誤射した場合の結果でもある。

 

 

 オルトが家の車庫で訓練を続けている。

 体感時間の操作に慣れてきたおかげで圧縮率を低く保てば、1時間程度なら連続して行使することが可能になった。

 訓練中も余裕をもってファナの動作を把握し、圧縮率を上昇させて回避することが出来るようにもなってきたが、オルトの疲労が溜まり反応が鈍くなり訓練を終えることには変わりは無かった。

 反射的な回避の効率も上昇していき、相手の攻撃を的確に回避し、自分の攻撃に繋げる為の動作を何とか取り入れようともしている。圧縮率の上昇と精度向上だが、それ以外にも出来ることがあるのなら、しておきたいことはある。ファナに適した回避方法を見せてもらいながら続けていた。

 オルトの疲労が溜まり、本日の訓練を終え、休憩を取っていると、ファナが情報端末を指差した。

 

『オルト。情報端末に2通メッセージが入りました。ご確認を』

「同時に? 何かあったっけ?」

『内容は恐らく同一のものになると思いますが差出人が違います』

 

 オルトが情報端末を操作してメッセージを確認する。そこにはカオルとキバヤシからのメッセージが入っていた。

 一つの端末では見辛い為、ファナがオルトの視界にそのメッセージを並べる。

 

「カオルからは少し装備の調達に手間取っているって内容だな。キバヤシからは暇なときに連絡をしてくれって内容か。どういう意味だ?」

『私にも分かりません。メッセージの内容的にキバヤシが把握していると予測はできますね』

「あいつまた何か依頼を送り付けてくるつもりじゃないだろうな」

 

 オルトは困惑しながらメッセージを再確認するが内容は変わらない。

 悩んでいても仕方がないと、キバヤシに通話要求を掛ける。すぐさまキバヤシと繋がり元気そうな声が車庫に響く。

 

「よお! オルト! 元気にしてるか?」

「声量を落としてくれ。ハンター稼業を休業中ってこと以外はいつも通りだよ」

「そうか。実はな、お前に紹介して欲しいって人がいるんだ。空いてる日を教えてくれ。その日時を調整したい」

 

 キバヤシの言葉を不思議に思いながらも暫くは予定という予定は無いことを伝える。キバヤシがまた連絡するとだけ残し、通話を終えた。

 オルトが通話の終了した情報端末を訝し気に見つめる。

 

「俺に紹介したいってどこの誰なんだろうな?」

『行けば分かりますよ。気にするだけ時間の無駄かと』

「そうだな。カオルから追加でメッセージが来たな。……何をしたのか知らんが約束は守る、か。本当に何が起きてるんだよ」

 

 急に入ってきた情報にオルトが混乱するが状況を変化する術をオルトは持ち合わせていない。置かれている状況も理解できていないのだから仕方がない。

 キバヤシからメッセージが届くと、そこには日時と来てほしい場所が記載されていた。そこでの食事代は向こうの人間が持つと記載されている為、オルトの懐は痛まない。

 オルトのキバヤシへの印象はあまり良い物ではない。危険な依頼を斡旋してきたかと思えば、意気揚々に入院中の自分と交渉しに来る人間だ。挙句、無茶をして派手に死んでくれるならそれもまた楽しめると素で言う人間なのだ。嫌悪してはいないが、好きにはなれない。

 誘われた場所を調べるとそこは高級レストランだった。食事代は相手持ち、身銭を切らずに高額な料理を食べられることに胸を膨らませる。

 既に決まったことだ。紹介された人物と結果的に険悪な関係になったとしても料理を楽しもうと結論付けて終わらせた。

 

 

 クガマヤマ都市の下位区画と中位区画を分ける防壁。その防壁と一体化している高層ビルであるクガマビルには、都市の中位区画に住居を構える高ランクハンター向けの店舗も多い。

 中には一定のハンターランク以上でなければ入店を断る店まであり、その高級店が立ち並ぶ階層は、低ランクのオルトが足を踏み入れる場所ではない。

 その上層階にシュテリアーナという高級レストランがある。ハンターランクによる入場制限はないが、それは防壁内の富裕層も顧客としているからである。企業や高ランクハンターなど、金と力を持つ者を常連客とする一流店だ。

 キバヤシに指定されたその店の前に予定の時間より大分早い時間に到着する。高級そうな外観を堪能した所で店内へ入ろうとしたが、そこにキバヤシとカオル、そしてグレイがやってくる。

 都市の職員に呼ばれたからかカオルとグレイは顔に強い緊張が窺える。

 オルトを見たキバヤシが上機嫌に話しかけてくる。

 

「おっ! 時間前に来てるなんて感心感心」

「ここに呼んだのはそっちだろ。それで、ここで食事を取っとけばいいのか?」

 

 都市の職員を相手にしているオルトの口調は一般常識を持つカオルや、スラムから出て長いグレイからしたら失礼なものだが、それを受けている本人が不満を全く表さないところを見て安堵する。

 キバヤシが、連れてきた2人とオルトの様子を見比べ楽しんでいる。

 

「ああ。ただ、俺は少し後に入る。お前に紹介する奴が来るのは予定の時間の少し前になってるからな。店内に入って俺の名前を店員に伝えれば案内してくれるはずだ。先に入って3人で食事を楽しんでいてくれ」

「分かった」

 

 キバヤシを残して3人で入店する。

 オルトは一度ファナの都市に立ち入ったことがあったからか、無意識のうちに美的感覚の基準が上がっている。その為、店の内装を見ても緊張はしなかった。

 しかし、カオルとグレイは違った。都市の職員に呼び出されているという状況と、クガマヤマ都市でも最高峰の高級店に圧倒され、その歩みはいつもより遅く、口数も少ない。

 店員がオルト達にすぐに気付き、一流の店に相応しい丁寧な接客を始める。

 

「本日は当店に御来店頂き誠にありがとう御座います。御予約の御客様でしょうか?」

 

 和やかに尋ねてきた店員に、オルトが答える。

 

「キバヤシって名前で予約が入ってるって言われました」

「キバヤシ様で御座いますね? お客様方のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」

「俺はオルトです。こっちの2人がカオルとグレイです」

「畏まりました。ではオルト様。お荷物を御預かり致します」

 

 グレイは今日、銃器の類や強化服を身に着けていない。カオルも、仕事中身に着けている強化インナーは着ておらず、2人とも普段着を身に着けている。

 オルトも流石にレストランに防護服は違うだろうと、仕舞っておいた旧世界製の服をファナの言う通りに着ていたが、何かが起きた際の備えとしてAAH突撃銃とバックパックに予備の弾薬を詰めて持ってきていた。

 旧世界製の衣服な為、現代のファッションセンスとはズレているが、ファナが指示した着こなしをしていた為、一見すれば高級そうな衣服に身を包む子供に見える。

 背に抱えた二つを店員に手渡す。

 

「御協力ありがとう御座います。お席へ御案内致します。どうぞこちらへ」

 

 その後店員の案内で店の中を歩いていく。優雅な雰囲気を漂わせている店内は、下位区画でオルトが偶に行く店とは格の差を示すもので溢れていた。床に敷かれている絨毯の柔らかな感触さえ、歩く度にその場の高級感を3人に感じさせていた。

 店員の後に続いて、予約済みのテーブルに着いた。3人が着席すると、その3人の前にメニューが置かれる。

 オルトが未だ緊張している2人を気にして店員に告げる。

 

「決まったら呼ばせてもらいます」

「畏まりました」

 

 店員が一礼して去っていく。高級店にも、そこの店員にも気怖じしてないオルトの様子を2人が訝し気に見るが、店員が離れていき、見知った相手のみとなった状況に安堵して息を吐いた。

 比較的先に落ち着いたカオルがオルトに話しかけてくる。

 

「お前、本当に何をしたんだ? この店にも結構来慣れているのか?」

 

 カオルの言葉にグレイも無意識に頷いていた。

 

「今日は人を紹介するって言われて招待を受けただけで俺が何かしたわけじゃない。ここには今日初めて来たよ。何度も来れるだけの金は余ってない」

「……そうか。なら身に覚えのない、若しくはお前にとって大したことが無いと思っていたことで呼ばれたのかもな」

「そういうことか? というより俺としては2人が来たことの方に驚いてるんだが」

 

 オルトとカオルと話している最中にグレイも落ち着いたみたいだが、まだ普段の様子とは似ても似つかなかった。ゆっくりと2人がキバヤシから呼ばれた経緯を話していく。

 

「私は地下街の依頼が終わってハンター稼業を少し休んで、再開しようとしたタイミングでキバヤシさんから連絡が来て、暫く都市から出ずに予定を開けておくように言われたの。ここに来ることもオルトやカオルさんが来ることも今日知って焦ったわ」

「俺の方はオルトの装備を発注してから数日後に色々と連絡が入って、慌ててたんだが、その調整をキバヤシさんがしてくれるって向こうから連絡を貰ってな、今日ここに来るように言われて、クガマビル1階のロビーで待ち合わせになったんだ。都市の職員以外にグレイもいて少し安心したが、高級店に案内されるとは思わなかった」

 

 オルトが2人の話を聞き、現状と擦り合わせを行う。グレイに関してはよく分からないが、カオルの店に入っている連絡の内容を少し聞くとその相手はハンター向けの装備を製造している企業の営業だった。

 

「カオルの話を聞くあたり、間違いなく俺の装備調達に2人を巻き込んだ形になってるな。そこは謝る。けど俺も詳細は知らないから聞かれても答えられないからな?」

 

 オルトが少し頭を下げるが、2人ともが頭を上げるように促した。

 

「俺は自分の仕事をしていただけだから構わん。逆に金を先に払わせておいてその客に商品を届けられていない現状に、自分の不甲斐なさを感じてるよ」

「私がここに呼ばれた理由は分からないけど、私の普段の稼ぎだと来れないような高級店に招待されたこの機会は大事にするわ」

「そうか。なら何か頼もう。食事代は相手持ちだしいろいろ頼むとしよう」

「賛成!」

 

 3人がメニューを手に取る。

 オルトがそこに書かれている内容を見て唸っている。メニューには多種多様な料理の名称が記載されているが、オルトにはその名称を読んでもそれがどのような料理なのか全く分からない。

 

『ファナ。何かわかる料理とかあるか? 一つもわからないんだけど』

『私も分かりませんね。オルトが今見ている料理は何らかの肉料理でしょう』

『まあ、肉料理のページだしな』

 

 メニューを捲りながらオルトが何を頼むか決めかねているとカオルから助け船が出る。

 

「迷うようだったら本日のお勧めコースにするといい。基本外れは無い」

「……ならそれにしとくかな」

 

 オルトがカオルの言葉に甘えるとグレイもメニューから難しい視線を外して顔を上げる。

 

「ギブアップ。私もそれにしようかな」

 

 グレイもお勧めコースに決めたところでカオルも注文内容を決めた。オルトが店員を呼び注文を済ませる。

 待つ間に湧いた疑問を尋ねることにした。

 

「カオルは料理の名称とか知ってたみたいだけどここには結構来てるのか?」

「あっ。私もそれ気になる」

「仕事関係で何度かってぐらいだな。そんな多くはない」

 

 カオルが店に仕入れている製品は基本的にクガマヤマ都市で中ランク以上のハンター向けの商品だ。駆け出しハンターにも一応対応しているが、その者達が手の届く商品は多くない為、要望に合った商品が倉庫に無かった場合、ハンターが別の店に移るか、店に届くまで待ってもらうことになっている。

 売り上げはその分高く、経営も安定している。シュテリアーナでも来ようと思えば来ることも可能だが、そう簡単に来られる値段ではないことを知っている。

 しかしオルトはそんな高級店に一切怯むことなく入店し、店員とも対応していたことに驚いていた。

 カオルとグレイも緊張は既に解れ、3人はそれを皮切りに近況を話していた。

 カオルは最近の営業との対応でエルに店番を任せる機会が多くなったこと。オルトが強化服を壊してしまい、ハンター稼業を休業中であること。グレイが先日のヤラタサソリの駆除依頼で多くのヤラタサソリを討伐したことなどだ。

 雑談をしていると、店員が数多くの料理をオルト達の前に並べた。

 そこにはオルトの知らない料理が数多く並んでおり、どれも非常に高そうで美味しそうに見える。オルトは喉を鳴らし、皿に載せられている料理にフォークを伸ばし、ゆっくりと口に運ぶ。

 暴力的なまでの美味がオルトの口の中に広がる。舌から伝わる未知の衝撃にオルトは身体を止める。ゆっくりと咀嚼し、味わい、飲み込む。目覚めてからあまり気にすることはなかった食事を今はじっくりと堪能していた。

 オルトは暫く料理に集中していたが、少しだけ満足感が湧いたあたりで2人の様子を見る。グレイはオルトと同じように料理に夢中になっていた。カオルは偶にしか来れない高級店の料理に舌鼓を打っていた。そこには人生経験の差が見て取れたが、出自もだろう。

 数度来ているカオルは別の都市の下位区画で生まれ、今はクガマヤマ都市でハンター向けの店を構えているが、オルトとグレイはスラム街出身だ。基本的に食べていたものは都市の配給品で、一般ハンターになったからといって、いきなり富豪のような生活は送れない。シュテリアーナの料理は、今までの食事という行為の常識を根本から書き換えた。

 オルトの様子がおかしいことに気付きながらも、ファナは話しかけるようなことはしなかった。今話しかけると念話で返すかは怪しいと思ったからだ。

 

 

 カオルが同じような状態になっている2人を見て苦笑を浮かべるが、この貴重な体験を邪魔しないように静かに食事を取っていた。自分以外の2人は子供だがハンターだ。いつ死んでも不思議はない。

 満面の笑みで食事を続けるオルトはどう見てもただの少年だ。着ている衣服は旧世界製のものだろう。デザインが少々微妙で流行のものではないが、着こなしは良く見苦しくない。

 どこにでもいる子供、スラム街に赴けば多くいるだろう少年は異常な存在だ。

 初めて会った際はAAH突撃銃を購入したかと思えば、遺物鑑定の仲介をカオルに頼み、それは実際大金に変わり、カオルの店で装備をしっかりと整えた。

 その後も約束通り多くの遺物をカオルの店に持ち込んでくれた。おかげで伝手も増え、その分仕事量も増えたが売り上げもそれに比例して上昇した。

 この場に居るもう1人の若手ハンターは努力家で実績を積み、徐々にだが、確実に実力を伸ばしている。多少無理をすることもあるが常識的な範疇だ。ハンターオフィスの掲載情報も堅実なものが載っている。

 しかしオルトは違う。基本的にハンターオフィスの掲載情報を非表示にしているのか、あまり目立ったものは載っていない。だが、先日装備を新調しに来た際に提示した金額は異常そのものだった。

 その入手経路は不明だ。ヤラタサソリの駆除依頼の件は珍しく掲載されており、3日目で負傷を負って病院に運ばれたと記載されていた。だが、依頼のキャンセル料や消耗品の前払い分を相殺して得られる金額ではない。依頼の前にその大金があれば装備の更新に来るだろうが来たのは依頼終了の後。

 では、この情報は誰かが書き換えた。捻じ曲げた情報だ。それを行ったのはハンターオフィスへ、その情報を伝えたクガマヤマ都市だろう。何らかの取引をオルトと行い、大金を払った。それだけの価値のある何かをオルトは依頼中に行った。

 オルトの様子から都市への不満などは一切感じられなかった為、脅しではなく、その何かを手放すだけの利益を与えたことはすぐに察することが出来た。

 それだけの無茶を行い、これからもハンターを続けるオルトを憐れむべきか讃えるべきか、エルにも相談されたが、規格外の人間への対処はカオルにも難しい。

 それでも、ただ変わらずに見守ることを決めた。

 

(この機会は大切にしてほしいもんだ。食事でも遊戯でも何が人を生き残らせるかは本人にしか分からんが、それでもその要因の一つにはなってくれ)

 

 カオルは、至福の時間を堪能しているオルトの身を案じながら、この後のことも考えていた。恐らく自分が基本的に対応することになるのだろうとその内容を思案しながら。

 

 

 オルトとグレイがシュテリアーナの料理を大方平らげ、ある程度、美食に対する抵抗力をつけ始めた頃、テーブルにはコースのデザートのみが残っていた。

 追加注文も可能と記載があったのでオルトは幾つかのデザートを個別に頼んでいた。お勧めコースを食べ終えても、まだまだ入りそうな気がしていた。

 

「オルト。そんなに頼んで大丈夫なの?」

「最近凄く食が進むんだ。コース料理がもう半分は余裕で入るかもしれない。今日はその分デザートを頼んで、メニューの内容を覚えて次の楽しみを増やすつもりだ」

「そ、そう……」

 

 オルトは顔に喜色を浮かべながらデザートを口に運んでいたが、グレイの指摘に疑問を抱いた。

 

『確かに、なんか前より異様にお腹が減るようになった気がするんだよな。ファナは理由とか分かるか?』

『オルトの身体が成長期に摂取できなかった分を取り戻そうとしているんですよ』

『どういう意味だ?』

『オルトはスラム街での生活が長くて、常時栄養失調の状態が続いていました。成長できなかった期間も長かったはずです。その遅れを取り戻すために、今大量に食事を必要としているのだと思われます』

『大量に食べれば解決するものなのか?』

『大量に食べれば解決するような問題になるように、処置を受けたのでしょう。1億5000万オーラム払って病院で治療を受けましたからね。成長の遅れを不健康な状態と判断して、健康な状態にするための治療の一環として、その手の処置も施したのでしょう。治療費を嵩上げの為にでしょうが』

『変なことをされたわけじゃないならいいや。健康って高いな』

『本来怪我や疲労はちゃんと食事と休息を取り、治すものです。回復薬で色々誤魔化すのも限度があります。悪影響が出るのはオルトが食事代すら稼げなくなった場合でしょうね』

『それは大変だな。今後も励ませてもらおう』

 

 そのままオルトは追加で頼んだデザートの到着を待っていたが、本題は食事ではないことを思い出した。

 

「そういやキバヤシの奴遅いな。俺に指定してた時間にはまだなってないけど、もう結構経っただろ」

 

 オルトの疑問にカオルが答える。

 

「お前を接待する為だろうよ」

「接待?」

「都市の職員が直接一介のハンターを紹介するんだ。相応のもてなしが必要になる。それが必要になるような何かをお前がしたんだろう。ゆっくり待っておけばいい」

 

 カオルの話にグレイが反応した。

 

「都市の職員が必要な何か? オルト。何かしでかしたの!?」

 

 グレイからの質問に答えようとしたところに、キバヤシがやって来て代わりに答える。

 

「おっと、お嬢さん。その話題はストップだ。オルト。待たせたな」

 

 オルト達がキバヤシの方を向くとその後ろに女性が立っていた。

 

 

 キバヤシが後ろに立つ女性、ソクラナをオルトとカオル達に紹介する。

 ソクラナはFARBEという企業の営業だ。オルトが使用していた強化服スィリーニアの製造元の企業だった。自己紹介を兼ねてそれらの説明を終えたソクラナは、笑顔で本題に入る。

 

「当社の製品を御愛用頂き誠にありがとう御座います。活躍目覚ましいオルト様が次の装備をお求めになっているとお聞き致しまして、是非とも次も当社の製品を御利用頂きたく思い、クガマヤマ都市の仲介の元、本日のお時間を頂きました」

 

 彼女の勤めるFARBEは、オルトのクズスハラ街遺跡での遺物襲撃犯との戦闘、その内容を知ると、その経歴を都市に消されまいと交渉した企業だ。交渉の結果は結局都市の要求が通り、オルトの経歴は酷いものに書き換わったが、それでもオルトのハンターオフィスの掲載情報、その非表示の内容を、企業の伝手で確認し、オルトのハンターとしての将来性に目を付け、生きる広告塔としてハンター稼業に励んでもらおうとしていた。

 しかし、当のオルトは都市から手に入れた金を使い、既に装備を選び、カオルの店で発注を済ませていたが、その商品はクガマヤマ都市に在庫が無く、他都市から輸送しなければならなかった。

 その時間差を利用して、オルトに自社製品を勧め、使用して貰い、オルトがこれから得るであろう大きな成果を宣伝材料にしようとしていた。

 賭けではあるが、既に大きな実績を上げた若手のハンターだ。その実績は書き換えられたが、それを為した実力は消えない。相手は子供だ。言いくるめられれば、企業の大口の顧客となってくれるだろう。

 迫力のある笑顔でソクラナが話を続ける。

 装備の購入に制限が掛かるが、値段を割引することも可能。長期契約になればその分割引率が増える。企業が指定した遺跡の探索や、依頼を優先的に受注するのであれば、等々条件が出てくる。

 オルトは正直企業の損得勘定はどうでもよかった。使用する装備が完全に自分の物であり、自由に使用でき、それが高性能な代物であるのなら大歓迎だ。

 FARBE製の装備の説明を続けるソクラナは、基本的にオルトと、オルトが贔屓にしているカオルを見ていた。

 説明が一段落付いた段階でソクラナがオルトに返答を求めた。

 

「うーん、割引だとかは分かりました。でも個人兵装の類はトライフワーデンで購入すると決めているから、俺だけだと決めかねます。それにもう既に装備の購入は済ませて、カオルからも発注処理は済んだとも聞いています。そこら辺はカオルと交渉して決めてほしいと思います。カオルもそれでいいか?」

「分かった。力になるって言ったからな。俺が契約内容を交渉しよう」

 

 カオルがそう言うと、今まで黙っていたキバヤシがカオルとソクラナを別席へ案内した。元からその予定だったのかそちらの席も空いており、店員から咎められることはなかった。

 もともと座っていたテーブルにはオルトの他にグレイとキバヤシが座っていた。

 オルトとキバヤシがデザートを口に運びながら、守秘義務に触れないように雑談している。

 

「前回の強化服の件がこんなところに波及するとは思わなかった」

「そりゃあ、開発したばかりの新商品を使用したハンターが無様に病院送りになった挙句、新調する装備が他社製品になると評判が落ちるからな」

「俺みたいな低ランクハンターの経歴なんて誰も見ないんじゃないか?」

「そうでもない。お前がこれから活躍して一気に高ランクハンターの仲間入りを果たしたら、お前の実績は相応の価値を持つ。そんな凄腕のハンターの依頼失敗時の装備となると悪評が付いて回るようになる。そうなると結果的に企業の信用も少なからず落ちて、業績も悪化する。その防止と優秀なハンターへの投資だろうな」

「その為に都市の職員に仲介を頼むなんてな。高くつきそうだな」

「そりゃあ凄く金は掛かるぜ? お前がメニューの上から順に食いまくってるデザート代も込みでな。だが、それで得られるものが損失を上回るのなら企業は金を出す。それが信用の低い個人で動いているハンターが相手だろうとな」

「ハンターじゃなくてもいろいろ大変そうだな」

「まあな」

 

 オルト達の会話が一区切りついた時に、恐る恐るグレイが呼ばれた時から持っていた疑問を問う。

 

「あの、キバヤシさん。私は何で今日ここに呼ばれたんでしょう? ソクラナさんはオルトの装備について話しに来たんですよね? 私が使用してる装備はFARBE製の製品でもないですし」

「ああ、まだ説明してなかったな。俺が、オルトは気難しい性格の持ち主だから、親しい人間にも自社製品を使用して貰った方が、本人に勧めやすいだろうって言ったんだ。そしたら向こうさんがその相手を教えてくれって、言うもんだから君の名前を出した。これで今回の交渉が上手くいけば俺の評価も上がるし、期待の若手ハンター2人は高性能な装備が手に入るって訳だ。どうだ? 良い話だろ?」

「は、はあ……。ありがとう御座います」

 

 グレイは都市の職員が自分を評価してくれたのか、オルトのおまけのような扱いなのか分からないが、それでも高性能な装備が手に入るかもしれない状況に喜悦と困惑、落胆が混じった表情を隠せずにいた。

 

「グレイ。本当に気を付けろよ? こいつは無理無茶無謀をする奴が大好物なんだ。ド派手になるなら死んだとしても構わないとか平気で言う奴なんだ。報酬は美味しいけど、内容は酷くて厳しい依頼を平然と斡旋してくるような奴だ。そこらのモンスターよりも危険な奴だから注意しろよ」

「おいおい酷いじゃないか。お前へ斡旋した依頼は美味しかっただろ?」

 

 その後もオルトとキバヤシが会話を続けるが、グレイはその中にあまり入れずにいた。

 カオル達の交渉が一段落付いたところで、オルト達はシュテリアーナを後にした。

 オルト達は一度トライフワーデンへ行き、FARBEとの購入契約の各種条件を聞き、許容できるものとそうでないものを追加、除外を繰り返し、纏まった条件でカオルがFARBEと再度交渉を行うことになった。

 

 

 聞くべきことを聞き、話すべきことを話し終えたオルトは1人帰路についていた。予想以上に高性能な装備が手に入る可能性を聞き、上機嫌だった。

 

『カタログスペックだけで言うなら前に選んでた装備よりも若干だとしても高性能な物が手に入るかもしれないってのは嬉しい誤算だな』

『この調子で装備を整えていけばオルトが私の依頼の遺跡に向かえる日も近いかもしれませんね』

『嬉しい限りだ。そうだな、次の装備更新も期待していてくれ』

『言いましたね?』

 

 オルトは調子に乗ってまずいことを言ったかもしれないと、苦笑いを浮かべていた。

 ファナは本心から微笑みを浮かべていた。オルトは自身の計算以上の成長速度を見せ、幸運にも飛躍的に高性能の装備を手に入れることが出来るようになったからだ。このまま成長を促し続ければオルトがファナの依頼を達成する日は近い。変わらぬ微笑みをオルトに向けていた。

 

 

 FARBEのソクラナを紹介されて数日経ったが、未だオルトの装備は手に入っていない。カオルがオルトとグレイの条件の調整をしてくれているからだ。

 キバヤシが行ったのは都市の職員としてハンターに企業の営業を紹介する所までだった。それ以降連絡が入ってこないので、きっとそのまま自分の仕事に戻ったのだろうとオルトは考えていた。カオルに企業との交渉を丸投げしたオルトは、せめてその邪魔はしないように、連絡が来た時には即座に対応できるように家の中で訓練と勉強を続けていた。

 訓練開始時点よりも時間感覚を圧縮している最中の自分の身体の動かし方を理解してきており、より早く、より正確に回避を行い、連続したファナの攻撃を数回は避けられるようになっていた。

 いつも通りオルトの疲労が溜まり、反応が出来なくなったタイミングで訓練を終えた。

 オルトがファナを見て少しばかり長い溜息を吐いた。そんなオルトを見てファナが不満を露わにする。

 

『なぜ私を見て、そんなに長い溜息を吐くのでしょうか?』

「いや、ファナに不満があるとかじゃないよ。その恰好がな」

『なるほど。確かにオルトは肌面積の少ない服装を好んでいますからね』

 

 ファナの格好は訓練を開始した際に身に着けている布地の一切が取り払われ、もはや恥部のみを隠しているとさえいえる格好になっていた。ファナ曰く、それも旧世界製の戦闘服の一種と聞いた際、将来的に購入できるかもしれない高性能な装備がそのようなデザインのものでないことをオルトは切に祈った。

 オルトもその姿を急に見せられれば多少は驚くし照れるが、訓練中のその姿はオルトの訓練に対する評価点とも取れる。

 

「頑張って体感時間の操作の訓練を続けて、練度もこの訓練内容を開始した日よりもずっと上がってる自覚はあるんだ。でも訓練終了時のファナの格好は大抵その状態になってるだろ? 実際どうなんだ? 俺は思い上がってるだけで、結局のところ一切成長していないのか?」

 

 オルトはそう言って不甲斐ない結果だと感じていた。ファナがいつものように笑う。

 

『ご安心を。着実に成長していますよ』

「ならなんで結果が変わらないんだ?」

 

 自分の感じている成長は唯の虚飾に塗れたもので、実際は一歩も成長できていないのではないかという考えが過ぎることも多い。

 

『訓練の強度を上げた方がより成長できる。それだけですよ』

「……そういうことか」

 

 オルトの成長に合わせて難易度を徐々に上昇させ、同じ結果になるように調整している。オルトはファナの言う意味を何となく理解した。

 

『ただ、オルトは遺物収集に行けば急にモンスターの群れに囲まれたり、強敵との戦闘にと危機的状況に余念がありませんからね。より適した訓練内容はその時の様な死に物狂いの挙動が必要な難易度で問題はないと思いますよ』

「……そうだな」

 

 オルトは納得したように息を吐いてから立ち上がる。すると目の前にいるファナが情報端末を指差していた。

 

『オルト。グレイから通話要求が来ました』

 

 オルトが情報端末を手に取ると、そこへ着信を知らせる音と表示が現れる。何かあったのかと思い、少しも考えることなく出ることにした。

 

「オルトだ。どうした?」

「グレイよ。長い間都市に籠りっぱなしで結構暇でね? 外出の予定が無いなら遊びに行ってもいいかしら?」

 

 オルトがファナを見る。休業中はその間のハンター活動が出来ない分を埋めるように訓練と勉強に専念する予定ではあるが、その内容や密度は基本的にファナに任せている。オルトの肉体的、精神的な疲労の状態に依ってその密度の変化は激しい。

 

『私は構いませんよ? 先日の件以降、訓練の内容をより有意義なものと感じられるほどの強度にしていましたからね』

 

 ファナからの許可を貰い、グレイに問題無い旨を伝えると、家に来客を知らせる音が響いた。オルトが玄関を開けるとそこには私服姿のグレイとエルがいた。

 脳裏に過ぎった疑問を一先ず置いて中に入るように促す。

 

 

 2人に部屋に上がって寛いでもらい、オルトは一度軽くシャワーを浴びて訓練中にかいた汗を流した。

 オルトが風呂場から戻ると、グレイ達は自分達で持ってきていた軽食などを机に広げてオルトを待っていた。今が昼を過ぎた辺りであることを思い出し、急激に空腹感を覚える。

 

「おかえりー。待ってた……、オルト君!?」

 

 エルが戻ってきたオルトを視認すると驚愕した。何事かとオルトが周囲を見渡すが特に変化のない室内の風景が在るだけだ。ファナに確認を取っても迷彩で潜んでいる不審者が居る訳でもない。そもそもそんな人間が家に侵入しようとすれば、この賃貸の貸主が契約している民間警備会社の警備員に捕まるか、そうでなくともファナが侵入される前に怪しい人物を教えてくれる。

 グレイが2人の意図が嚙み合ってないことを察する。

 

「あー、あのねオルト? エルが言いたいのはその恰好の事だと思うの」

「恰好?」

 

 オルトの着ている服は室内用にと取っているファナからの援助品の内のインナーだ。上半身下半身で別れ、それぞれ両手足首までを覆っている。身体の動きから生じる皮膚と布地の擦れを無くす為か、身体に非常に密着しており、着用者の動きを阻害しないように伸縮率も高い。その所為でオルトの身体の線が非常に強く浮き出している。ハンター稼業を始めた頃から続けている異常とも呼べる訓練と、最近から摂取し始めた大量の栄養素が、逞しさを感じさせる肉体へと変えていた。

 オルトは大変着心地の良いそのインナーを好んで使用しており、自身の家の中の格好と普段のファナの旧世界基準の格好に慣れ、オルトの中の基準は現世界の価値観とはズレていた。

 年頃の少女には少々刺激の強い格好だが、本人が全く気にしていないことから、自分達とオルトの感覚に差があることを知る。

 オルトがグレイからそれを教えられると自室から、ファナとの契約をした頃に着ていた服を取り出してそれを着用してから2人のいる席に着き、2人が用意していてくれた食事を共に取り始めた。

 胃の中に幾らか料理を入れ空腹感を誤魔化せるようになり会話をし始める。

 

「それで、今日はどうしたんだ? エルも一緒とは聞いてなかったし、何より来るまでが早すぎる」

「あーそれね。カオルさんが今日は終日店に居られないかもしれないってことで、トライフワーデンは臨時休業。エルもそれで休日ってことになったから2人で下位区画の店とかを見て回ってたのよ。その途中にオルトの事が話題に出て、どうせなら一緒に食事でもどうかなーって」

 

 グレイとエルが今日行っていたことを話しだし、オルトはそれを聞いていた。

 2人には婉曲的にだが迷惑を掛けているという自覚をオルトは持っている。オルトの装備の件で店の店主が企業と忙しなく交渉し契約内容を煮詰めている。その影響をもろに受けるのは、その娘で店の手伝いをしているエルだ。カオルが彼女に許可しているのは弾薬などの消耗品の取り扱いのみで、強化服や銃火器の相談や客への勧めはさせていない。厳しいとは思うが親の愛情の一種だろうと、オルトはそこに関与しない。カオルは無能という訳ではない。エルが育てば自然と制限している部分も任せ始めるだろう。

 グレイはオルトのついでとして装備購入を促され、貯め込んでいた金額の大半を装備へ投入することになった。先日のヤラタサソリの駆除依頼でも前線付近の支援を積極的に行い、ハンターランクと報酬金を大量に稼いでいた。それらの金を当座の金額を残してFARBEと購入可能な装備と、それに適応する割引の購入契約の内容を決めている最中だ。荒野(こうや)に出て死なれると今まで煮詰めた交渉内容が一気に狂う。強制はされていないが、カオルとFARBEの営業にそれとなく止められていた。

 2人の新装備の件に話題が移る。

 

「それにしても、やっぱり私の予算内に収めるような内容にすると結構な制限が掛かるのよね」

「FARBEが出す依頼を優先的に受けてほしいとか、指定した遺跡で遺物収集してくれとか、自由に遺物収集を行っても構わないけど収集した遺物を契約期間中、優先的にFARBEに持ち込むって内容だったか。まあ、金銭的な実入りはあまり期待できないけど、ハンターランクは問題なく上昇するって話だから、そこまで苦しい内容じゃないと思うぞ? 依頼も企業側が実力相応なものを選ぶだろうし、その契約期間中はFARBE製の商品には一定の割引が発生するって言ってたしな」

「オルト君の予算は8億オーラム。グレイちゃんは3億ぐらいだっけ? 貯め込んでたねー。どっちも高級品に間違いはないよ」

「そうね。本当、オルトの稼ぎは大き過ぎね。一体どうやったらそんなに稼げるのか気になるところだわ。これでも私、結構長い間貯金してたっていうのに」

「それはまあ、あれだ。キバヤシに言って依頼の斡旋でもして貰えば、大金ゲットの可能性は無くは無い。俺はごめんだけど、どんな依頼を受けるかはグレイの自由だしな」

 

 オルトは若干言い難そうにしながら言葉を濁す。グレイもオルトに何らかの守秘義務が発生していることを察している為それ以上は踏み込まない。

 

「そのキバヤシさんを私の前で散々貶していた人の台詞(セリフ)とは思えないわね。でも、一つの手段として覚えておくわ」

 

 グレイはシュテリアーナでの食事の後、解散する前にキバヤシから声を掛けられ連絡先を交換していた。徒党に所属しておらず、若手ハンターとしては高いランクを持ち、高精度の狙撃を行えるだけだ。東部全体で見ればありふれたハンターの1人に過ぎない。そんな彼女が都市とハンターオフィスの職員を兼任している者と伝手を得た意味は大きい。

 そんな変な巡り合わせにより、どう評価すべきか迷う伝手を持っている2人をエルは首を傾げながら見ていた。

 

「オルト君もグレイちゃんも、基本的に単独で活動しているけど、どこかのチームに所属しようとか、徒党に加わろうとかは無いの?」

「チームかあ。組んでも問題ない相手が見つかれば組んでも良いかな。組みたい相手はいるけど相手側がそうじゃないなら固定で組むのは無いかな」

 

 グレイが言葉の最後にオルトの方を見つめる。オルトは自分の答えを聞きたいのだろうと考えた。

 

「俺も特にそういった予定はない。複数人で行動するのもこの前の依頼で飽きる程堪能したからな」

 

 グレイとエルはその答えを聞いて苦笑いを浮かべた。

 

「チームって選択肢が無いなら徒党とかは? 2人とも地下街の依頼で活躍してたって聞くし、どこかから勧誘とか受けてたりしないの?」

 

 オルトは勧誘と聞いて情報端末に来ていた一つの通知を思い出した。ドランカムからの勧誘だ。入る気も頼る気も無い。ましてや徒党に入るメリットが、人数が増えるというオルトにとってのデメリットの要素を多分に含んでいることから、ファナが作成した定型文で断る旨を送った。

 グレイも同じように勧誘を貰っていたが、同じようにその場で断ったと言う。

 エルにとっては仲間の数が増えれば、その分荒野(こうや)での安全が確保できるという一般的な常識が基本となっている為、2人が即断した理由にいまいち理解が追いついていない。

 エルの言うことはある程度正しい。ハンターと一概に言ってもその活動方針はそれぞれ違う。遺物収集が得意な者、戦闘技術に優れている者、索敵能力に長けている者、有能で優秀な人材が味方にいれば心強い。その者達と荒野(こうや)での行動方針を決めておき、危険な状況に遭遇しても助け合える信頼関係を築き上げられるのならば問題はない。

 しかし、ハンターの中にはその武力に物を言わせて悪行に走る者も少なくない。グレイの元チームの者達や、地下街で暴れ、結果として都市の防衛隊に鎮圧されたという遺物襲撃犯を例に上げながら説明を続ける。

 クガマヤマ都市内に存在する徒党にもメリットとデメリットが存在する。ドランカムの様に一見善良な組織で、最近は活躍目覚ましく、都市との繋がりを強くしている徒党にも後ろ暗い部分はある。その部分を鑑みれば徒党に所属する理由はなくなると説明をする。

 

「俺は装備を自分の物として、手に入れて使いたい人間だから、貸出してくれるとか言われても利点に感じない。逆に取り上げられたらハンター活動に大きな支障が出る。それを怖がって上の人間に媚び諂うのも嫌だ。報酬の分配方法も若手ハンターに決定権は無いも同然だし、反りの合わない奴と強制的に組まされる可能性もある。数は暴力だってことは俺も知ってるけど、それは正常且つ効率的に動作すればの話だ。烏合の衆が相手なら多少の格上だってどうにかなる場合があるんだ。提示されたメリットと、自分で収集した情報に含まれるデメリットが釣り合ってない」

 

 オルトは淡々と、ドランカムからの勧誘を断った理由を並べたが、それを聞いていたエル達は何らかの圧を感じていた。

 

「えっと、オルト君? 何か嫌なことでもあった? その徒党絡みの事で」

 

 オルトはドランカムから勧誘を蹴った後、少々内情などが気になり、休日に下位区画の酒場に入り、少々高い酒を他のハンターに奢ったりなどして人伝の情報を集めた。結果としてドランカムの若手ハンターには中心人物がおり、厄介な人物ということをオルトに認識させた。

 オルトは情報端末を操作してその人物のハンターサイトの個人ページを開き、2人に手渡す。そこに映っていたのはヤラタサソリの駆除依頼、その2日目にシカラベと臨戦状態まで口論を広げたカツヤという人物だった。

 

「この顔、地下街での依頼中に何度か見たことあるわね。えっと何々? 若手のハンターでハンターランクは30を超えてる。随分早いわね。でも、実績も人物評価もオルトが挙げてた嫌な要素が無さそうに見えるけど?」

 

 エルとグレイがそこに書かれている経歴を読み、そのハンターが如何に優秀なのかを知る。それらはオルトが毛嫌いする理由にはならない。人物評価も極めて善良なハンターと示すものだ。オルトが先程話していた組みたくない理由とも合致しない。

 

「そこに書かれてる内容だけならな」

 

 オルトは自分の見た本人の気質や、収集した情報を基にハンターサイトに掲載されていない上で、正確なものと判断できた事柄を話す。

 善良な面は好意的に捉えられるが、善良なだけの人間などそもそも信用できない。その上、激情家で気に入らない指示があれば自分の意見を無理にでも押し通そうとする。そこが荒野(こうや)だろうが遺跡の中だろうが。

 クガマヤマ都市へのモンスター襲撃の際には、功績を求めて自身の発言力の高さに気付くことなく周囲の若手ハンターを危険地域へと導いた。そして案の定、少なくない数が死んだ。ドランカムが少し前に入党させた子供の総数からすれば少数だが、参加しなければ将来的に成り上がれた可能性を持つ若手のハンター達だった。

 オルトがそのハンター達に思うことは全くないが、その中に入って当人に嘆いて貰う気は一切ない。自分の行動には責任を持つし、不必要に首を突っ込んだ場合には、酷く痛い目を見たとしても解決する努力をする。結果がどちらに転んだとしても。

 幾ら戦闘能力に優れていようが自分から組織に入り、先達を軽視し、不必要に規律を無視して自分勝手に行動するような人間に自分の命を預けたいとは思わない。

 

「……という訳で俺はコイツの事が知れば知るほど大嫌いになった。確かに優秀ではある。内部の人間曰く才能も稀に見る程。人間性は善良そのもの。良い様に捉えればこんな感じだな。俺も諸手を挙げて絶賛できると思う。でも信用は一切出来ない。当人を主軸にドランカム内に派閥が出来て内輪揉めも発生してる。当人を中心とするから、その派閥が何らかの任務に就けばコイツが陣頭指揮を執ることになるだろうけど、気質的に仲間が危険な状況になれば、俺が助けに! って指揮を放りだす危険性が大いにある。実際何度かやってるみたいだし、咎める人間も居ないみたいだしな。助けられる人間は嬉しいだろうが、放り出された他の人員達はどうするんだって話だ」

(直接見たのは2日目の防衛地点での一回のみ。周囲に慕ってる仲間もいたけど、口論を止めたのは結局1人で本当に危険な線を踏みかけた時のみで、その前じゃなかった。ということは、チーム内での情報共有もしてない可能性が高いんだろうな。あいつは仲間を、助けるべき相手且つ付いて来てくれる人間とだけ捉えてるんだろう。いざという時に助け合える仲間じゃなく、自分は危険な状況になっても単独で切り抜けて仲間の救助へ向かい、その先に居るだけの存在ってところか。あれは将来大成した時には、周囲の仲間の顔ぶれは総入れ替えになってそうだ)

 

 オルトは集めた情報を、一応精査していない状態で予備の情報端末の中に箇条書きにして放置している。それを2人が確認している最中に自分の考えを言い終えた。

 エルもグレイも苦笑いを浮かべている。

 

「なんか聞けば聞くほど、とても優秀だけど優秀なだけって思えるわね」

「このハンターサイトの掲載情報も結構怪しい?」

「一度ドランカムの内部で精査されてるだろうから一定の信用は出来ると思うぞ? 好都合な部分だけを切り出して報告してるかも知れないけど」

「うわあ……」

 

 2人の顔が渋いものに変わっていくところを見てオルトは苦笑した。

 

 

 オルト達は話題を変え、グレイの地下街での活躍を聞いていた。個人で依頼を受け、防衛チームを基本に探索チームにも参加し、地下街の簡易マップの制作に貢献した。

 地下街の最下層にあったヤラタサソリの巨大な巣の駆除にも参加して、前線で戦闘を行うハンター達の援護を行っていた。撃ち漏らした個体を銃撃し、奇襲を警戒し阻止する。余裕があれば前線へ近づきGRD対物突撃銃の専用弾を持ち込んだ分を贅沢に使用したとのことだった。

 グレイは1人で活動するようになってから更に技術を磨くことに努力を惜しまないようになっていた。実直に実力を伸ばし、実績を残し、ハンターになってから約1年半、現在のハンターランクは30になっている。

 

「オルトは3日目までは地下街にいたんでしょ? どんな活躍をしたの?」

 

 オルトがグレイの質問にどう答えるべきか考える。3日目のことは当然言えない。が、守秘義務が発生しているのは、その日、地上でオルトが何をしたかで、それ以外には制限が掛かっていない。

 オルトが情報端末で自分のハンターサイトを開き、自分で非表示にしている場所を閲覧可能にしてから2人に見せる。

 エルは内容をあまり理解できていないみたいだったが、オルトとグレイが現場の情報を交え、逐一説明を加えると顔を引き攣らせていった。オルトは最終的に、その状況に陥った事への慰めの言葉を貰った。

 そこに通話要求が入った。画面を見るとキバヤシからだった。

 

「よお! オルト! 元気にしてるか?」

「声量を落とせって。それで今日はどうしたんだ?」

「さっき漸く契約内容が確定したんだ。喜べ。お前の新装備の納品は明日だ。お前らの贔屓の店に朝一で届くってよ」

「おお!」

「契約内容を送ったから確認してくれ」

 

 オルトの情報端末に送られてきた内容に目を通す。そこに書かれている内容はカオルと相談して決めた内容が殆どだ。オルトのハンター活動を制限する項目は殆ど載っていない。

 しかし、契約内容で一番省きたかった部分はFARBE側が守り切った。

 

「これやっぱり外せなかったか。宣伝したいってのは分かるけど、オーラム圏外の都市も含んだ輸送車両の護衛って俺に出す依頼か?」

「どの順で回るかの予定はまだだが、行き先の都市の名前は教えて貰ってるんだろ? 確かに拘束期間は長いがクガマヤマ都市より東側に行くってわけじゃないから、お前の実力なら問題は起こらないんじゃないか? 何なら俺が依頼を用意しても良いって企業側に言ったんだがそっちは断られちまったよ」

「だろうな」

 

 キバヤシの悪評はクガマヤマ都市の情報を探れば直ぐに見つかると言ってもいい。彼が依頼を斡旋し、東部で名を広めたハンターのクガマヤマ都市に拠点を置いていた頃の記録から、キバヤシに興味を持てば、大成したハンターの何百倍の数のハンターが犠牲になったかも分かってしまう。

 せっかく掴まえた有能なハンターを、そんな無茶な依頼を受けさせて死なせてしまえば損失は計り知れない。宣伝効果の大きい実績は欲しいが、あまりにも危険な橋を選ぶ必要は無い。

 オルトが読み終えると、グレイが自分の情報端末を見ていた。

 グレイにも契約内容が送られており、その内容はやはりオルトのものより相当制限が厳しい。

 

「やっぱり私の契約内容はこうなるわよね。その分高性能な装備が手に入るんだから仕方ないと割り切るかあ……」

「お、その声はグレイか? そっちの契約内容に十分な功績を挙げれば契約内容の利点をそのままに、制限を軽くできる旨を乗せられるようにしといたから、まあ頑張ってくれ。旨い依頼が欲しくなったら是非連絡を入れてくれ!」

「き、気が向いたらお願いするかもしれません」

 

 キバヤシとの通話を終え、エルも交えて次のハンター稼業の大まかな予定などを話していた。

 オルトはFARBEからの依頼で一月程都市から離れることになる。グレイは依頼を受けるか遺物収集を主に活動する予定とのことだった。

 外も暗くなり始めたところでエル達が玄関から出ていく。グレイに用事を思い出し、予備の情報端末を渡す。

 

「その中にちょっとしたことを入れてあるから、帰ってから1人で読んでくれ」

「……えっと。まあ、分かったわ。じゃあまた明日ね」

 

 エルとグレイが帰った後、オルトは自室から決して出さないと決めている情報端末を手に取る。

 オルトが持つ情報端末の中で一番の高額のそれは、ファナに頼んでセキュリティを強くしている為、情報が入っていると知らない者には何も入っていない上、回線すら繋いでいない無駄な代物と解釈するだろう。その中にはオルトが収集し、精査して纏め上げた情報が入っている。

 カツヤについて纏めた資料を表示して内容を再度読む。

 

(コイツの周囲の人間は、最初は悪意を持って近づいたにも拘わらず、共にいる期間が長くなるにつれて当人に好感情を持ち慕い始める。恐らく若手派閥の幹部ももう最初に抱いてた思惑は薄れる程になってるかもな。コイツはどんどん成長して危険地域に行くことが増えるだろう。当人は強いから問題は薄いだろうが、そいつの下に付く人間は? 戦闘能力に差があることを無自覚に、平均値と中央値が乖離した状態で、危険な場所に放り込まれる仲間を助けて更に好感度を稼ぐ手筈か? 自覚無しのマッチポンプとかただの犯罪者より質が悪い。2人にコイツへの悪感情が芽生えるような情報ばかり渡したのは心苦しいけど、無関係でいれば問題は無い筈だ。……後、ただの勘だが、コイツは恐らく無自覚の旧領域接続者だ。ファナから聞いた情報通りのことが行使出来るなら可能だ。周囲の人間に好かれるか嫌われるかの二択しかないのは、当人の激情家な性格が左右しているんだろうな。あいつは好ましい、あいつは嫌い、両極端な感情が相手の分と重なって、周囲の人間も両極端な感情を持つようになっているってところか。恐ろしいな。当人(いわ)く凄いハンターになりたいってのならさっさと東側の都市に移住してくれないかな)

 

 カツヤについての情報を見て頭を悩ませる。善人の凶悪犯という印象を抱く相手との関わりを極力絶てるように考え、そこで思考を打ち切る。優先度の低いことで頭を悩ませる必要もないからだ。

 次の依頼の予定に含まれている都市周辺に生息しているモンスターと、最近の目立った出来事についての情報を集めていると、情報端末にグレイからの通知が入る。表示された簡素な内容に対し、オルトも簡素な内容を送り返した。

 装備が届き、漸くハンター稼業を再開できることを喜びながらオルトはその日を終える。次の依頼がもう決まっている。新しい自分の力を試す場所となるのだからと、万全な状態でその日を迎える為に。

 




補遺1
・オルトの記憶は身体に遺っていたもののみで、前世のものは有りません。知識については前世のもの(設定的に高校レベルの一般常識)をちぐはぐな状態で所持しています。

補遺2
・オルトは基本的に相手を信用しませんが、信用できない理由を探し、その上で信用しても問題ないと判断した人物には信頼を寄せます。その後で信用を落とせば、余裕で距離を取ります。

補遺3
・設定として未改造品同士だと、GRD>CWHとしています。
・初期スィリーニア≦パワードサイレンス。
 スィリーニアを途中で高価な装甲へ付け替えを行い、総額1億オーラムを越えましたが、最初からその装甲を付けた状態で購入すれば、そこまでの金額になりません。その上、オルトはスィリーニアに高性能な情報収集機器を優先的に求めた為、身体能力向上の性能は1億オーラムの製品より大幅に劣ります。

補遺4
・オルトの通信強度はアキラよりも高いです。しかし、オルトがクズスハラ街遺跡へ足を踏み入れたのはアキラの次の日です。よって、アルファはすでに契約済みの為、ファナには猶予が出来ていました。エイリアス(カツヤに憑いている何か(web版で名前を明かす))?はアルファとは別の場所で通信可能個体を探していた為、オルトの発見に間に合わず。

補遺5
・FARBEの考えは負けの濃い賭けともいえる為、キバヤシは快く協力しました。オルトの装備がより良い物になるよう、オルトの知人も巻き込み交渉の場を整えました。

補遺6
・ファナの教育方針がアルファのそれと似ている理由は、過去に協力、その情報の一部を要求、及び制限の許す限り管理区外の現世界について情報収集を行ったからです。
 本人の感想は、今の人間脆過ぎる。現状で依頼達成は不可能。となっています。

補遺7
・現状オルト単体の戦闘能力はアキラ、カツヤ両名を超えていますが、アキラには殺意及び覚悟ブーストがあり、カツヤには優秀な肉盾が居ます。それらを加味した上で、装備が同程度ならば勝利は困難。

補遺8
・主要オリキャラ大まかなプロフ(現時点)

オルト
・ 性別
 男
・ 年齢
 10~14の間(記憶にそれを証明するものは見当たらない為、ファナが体格などから13だと推察。本人は気にしていない)
・ 身長
 初期130。現在145~150
・ 容姿
 銀髪のアップバングショート
 それぞれ彩度が若干異なる緋色
 病院で治療を受けた後、全身の古傷は消失。その後の厳しい訓練と大量の栄養素が身体を順調に急激に育てている
・ 性格
 基本的に冷静
 主観的視点を持ってはいるが、自他ともに基本客観視しており、そのどちらかに大きな被害が出ようと、自分の中の優先すべき目的達成が可能ならば許容する
 時折思春期特有の情緒不安定さが出るが、基本それを無視、抑制している為、反動がでかい
 決めたこと、すべきこと、やりたいことそれぞれに優先順位を付け、目標までの道のりのおおよそを把握し、そこまでの道中を考えている。ただ、非常に諦めの悪い状態になることもある
・ 装備
 強化服・無し
 武装 ・AAH突撃銃(強装弾装填可能、威力向上、反動抑制、拡張弾倉対応改造を施してある)
    ・GRD対物突撃銃(未改造品)
    ・旧世界製のブレード×数本
    ・1箱数百万相当の回復薬×20
 車両 ・荒野仕様の大型車(カツラギから購入、第五話)
    ・荒野仕様の大型バイク(ヤナギサワからの贈り物で発信機付き、第九話)
・ ハンターランク
 26

ファナ
・ 性別
 見た目は女
・ 年齢
 ??
・ 身長
 基本170前半(可変)
・ 容姿
 基本、長い緋色の髪をハーフアップに纏め、柔らかそうにふわふわと浮かべている
 両目とも緋色
 顔は整っており、基本的に微笑みを浮かべている
 身体付きはとても美しく、その上で妖艶さも併せ持つ
 胸は大きすぎず、小さすぎず、綺麗な形をしている
・ 服装
 露出過多の白と黒の交じったドレスを基本的に着用

グレイ
・ 性別
 女
・ 年齢
 14(スラムの頃から少々の教養を持っていた)
・ 身長
 155
・ 容姿
 灰色のウルフカット
 両目も灰色
 顔、身体付きが良い(その為パッカのチームに拾われ、将来的には……だったが、オルトに返り討ちにあい、グレイ1人を残して死亡)
 胸はC(本人曰く成長中)
・ 性格
 明るく、その上で常に冷静であろうと心掛けている
 堅実に基本に忠実にを基に、無茶を選択しなければならない時に選択できるようにと考え、1人訓練に励んでいる
・ 装備
 特に決めていない
 初期は防護服に防護コートを着用。銃は、未改造でAAH以上の性能を持つ突撃銃を使用していた
 現在、強化服は初期スィリーニアより高性能な物を使用。銃はGRD対物突撃銃を愛用しており、狙撃の精度は非常に高い。オルトと救援依頼を受けてからは、1箱100万オーラムの回復薬を複数用意している
 上記を想定。
・ ハンターランク
 30

カオル
・ 性別
 男
・ 年齢
 31
・ 身長
 185
・ 容姿
 特に決めてないが、全体的にメタギアのスネークで想像している(あっちも面白イケおじだし)
・ 性格
 真面目で極めて実直
 嘘や虚偽が嫌いな為、客と口論になることもあるが、その内容は馬鹿にしたものでは無く、当人を心配しているからだと冷静に聞いていれば分かる
 嘘や誤魔化しが必要な場合は、相応の事情があるのだと捉え、自分からは踏み込み過ぎないようにする

エル
・ 性別
 女
・ 年齢
 13
・ 身長
 140
・ 容姿
 亜麻色の軽く結んだおさげ
 両目とも蒼
 顔はカオルに殆ど似ておらず、母親譲り?本人の言う通り美少女で店の看板娘ではある
 胸はB
・ 性格
 非常に明るい性格で、気になることには突っ込みすぎてしまうこともあるが、危険なことには敏感な為、接触する前に避けようとする
・ 本人の悩み
 カオルが言う通りハンターとの付き合いは一線を引いたものに留めているが、それを踏まえた上で同世代の友人達との交友は深めたい。
 くっ付く気はするがくっ付かない者達がいるので、自分から両名にくっ付きに行こうか検討中。

補遺9
・時系列
 書籍版を基準に、web版、漫画版を矛盾点を限りなく少なくしながら書いております。
 その為、契約開始日はアキラ(アルファ)、オルト(ファナ)、カツヤ(エイリアス)の順になっています(カツヤが契約したのは何時なのか、明確になっていないけど、書籍版1下のモンスター襲撃が終了後、2上の間にエイリアスがカツヤを発見、追跡し、契約の機会を探り、暴食ワニとの戦闘中に契約成立と解釈しています)。
 なお、第一話でオルトが言ったように綺麗でいいものを実際に見せられない場合、ファナよりも先に出会ったのがアルファ、エイリアス両名であっても、契約する可能性は無いです。もう1人なら可能性ありそうですね。

補遺10
・ファナが旧世界製の回復薬をオルトに服用させた結果、通信強度が更に高くなっています。その上で契約を行ったのでアキラ-アルファ間よりも、情報の送受信の速度と処理が楽になっています。
 おかげでオルトは、リオンズテイル社の営業メイドを見ても何も違和感を感じることはなく、受信した情報の一部を認識しました。


 ある程度の設定を主軸に、フィーリングで書いている為、ここおかしいんじゃね?と感じる場面は多々出ると思います。

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