リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第十一話 感性

 

 まだ日が顔を出すには大分(だいぶ)時間が掛かるという時間帯に、クガマヤマ都市から北北西(ほくほくせい)側に進んでいる荒野(こうや)仕様の大型車両があった。傍目(はため)からは運転席にも助手席にも人影は見えず、後部座席にも誰も乗っていない。何も知らない人間が見れば、幽霊が運転していると思うだろう。

 その車両の持ち主であるオルトは、運転をファナに任せて荷台で簡易ベッドを広げ、仮眠を取っていた。ファナの運転は高度な運転技術を多分に発揮し、舗装などされていない荒野(こうや)を静かに進んでいく。そのおかげでオルトに一切の不快感を与えず、その眠りを妨げることはなかった。

 

 

 依頼の目的地に近づいてきた為、オルトはファナに起こされた。

 

『おはようございます。眠気はありませんか?』

「おはよう。眠気は一切感じないけど、まだ外は暗いな」

 

 オルトが身体を伸ばし、簡易ベッドを片付けて運転席に座る。周囲を見渡すと辺りは暗く、日はまだ昇っていない。

 

『今の内に朝食を取っておきましょう。目的地に着いてから食事を取れる保証もありませんからね』

「そうだな。今回の依頼の為に結構奮発したんだ。堪能しないとな」

 

 車の荷台には大量の弾薬等の消耗品が積まれている。

 これから戦闘を避けられない依頼が始まるのだ。弾薬などの消耗品の方が重要だろうと考えたオルトはいつも通りの安い食料品を購入しようとした。しかしファナやカオル達に止められた為、いつも購入するものとは値段の桁が一つ二つ上がってしまった食料品も多く積んである。

 一定の安全性すら担保されない荒野(こうや)での寝泊まりが必要な場合、最低限の警戒状態を維持する必要が生じ、精神が相応に削られる。その対策として食事などの行為を贅沢なものへ変え、精神状態の安定化を図る必要があると周りの者達から言われたオルトは、大人しくその助言の通りに食料を購入した。

 新装備調達に大半の金を使用し、装備が届くまでの日常生活中にも口座の金は減っていく。オルトの懐が少々寒くなっていたところで、弾薬等の消耗品を揃えなければいけない状況になった。結局、今回もオルトは弾薬費依頼元負担を条件に入れ、依頼期間中の弾薬費等で悩む必要性を消した。

 オルトは荷物の中から、ハンター向けの携帯食料を取り出す。

 ハンター向けに販売されている携帯食には、通常の携帯食とは異なる部分をセールスポイントにしている商品が多い。

 一見普通の食料で味も食感も普通だが、体内でほぼ完全に消化、吸収され、体外に排出される量が極端に少なく、更に尿意や便意を抑える効果がある物。

 回復薬の代用品としても利用できる物。戦闘中に胃を破壊され、消化中のものが体内で飛び散ったとしても、悪影響の出ない物。異常なまでに消化吸収が速い物。意識の覚醒を促し集中力を高める物。

 都市の中で普通に生活している限り、不必要と言っても差し支えない機能や効果、安全性を売りにしている商品の数々だ。

 オルトは周りの人間の勧めに従って、色々と購入している。今、手にしているハンター用の携帯食は、見た目はただのサンドイッチとカフェオレだった。

 強いて言えば、サンドイッチは開けた瞬間その温もりをオルトへ伝わらせ、口の中に入れれば柔らかく、カフェオレは飲みやすい温度を保っていた。そしてトイレの心配は不要な品だ。

 オルトがファナの運転と合わせてその食感と味を堪能していた。

 

『高い商品の購入を勧めた甲斐はあったみたいですね?』

 

 ファナがいつもの微笑みを浮かべてオルトを見つめている。

 ファナが選んだ商品はオルトの日常生活の中で、オルトの味覚に合うように、日常生活の記録を解析し選択した物だった。

 

「……まあ、そうだな。食事を豪華にするのは俺も賛成だ。だけど、あの時は予備の弾薬もエネルギーパックも無い状態だったからさ。新装備の性能に合わせた性能の消耗品を用意しないと性能を万全に発揮できないだろ? 俺はそれらを、装備を受け取った後改めて購入しようと思ってたからさ」

 

 オルトの言葉は正しい。どれだけ高性能で高威力を誇る装備を購入しようと、エネルギーパックの内容量を無視して強化服は動かない。弾薬を補充しなくては、その手に持つ武器は銃である意味が無くなってしまう。

 オルトは地下街の依頼の際に大量の消耗品を買い込んでいたが、依頼期間中、遺物襲撃犯との戦闘の結果、目を覚ました時には契約期間は終了し、車内に積んでいた大量の物資は都市に所有権がある為、全て回収されてしまった。

 遺物襲撃犯と容疑を掛けられ、自宅を調べられ倉庫に入れておいた遺物に加えてそこにあった消耗品も同様に都市は所有権が移っており、手元から消えている。

 弾薬費依頼元負担のおかげで前回の依頼中危険な状況に陥ったとしても、優位に立ちながらヤラタサソリから攻撃を喰らうことなく一方的な交戦を行えた。

 弾薬費と残弾という心配事を消せる手段があることは喜ばしいが、依頼終了と同時に自分の手元を離れる装備を、戦闘手段の一つに加えるのは少々嫌だった。

 

『今回も弾薬費は依頼者が持っています。荷台の消耗品の数々は実際にオルトだけの所有物でなくとも依頼期間中、戦闘中はオルトの所有物です。取り上げられてしまう可能性に悩む必要が無いぐらいに功績を残して、無事依頼を達成しましょう』

 

 オルトが抱える不安を晴らすようにファナが心配事の解決策をスラスラと挙げる。

 

『それに、今のオルトの装備は8億オーラム使用しています。普段の食事で多少贅沢したところで誤差です』

 

 オルトが苦笑しながら納得したように頷く。

 

「それもそうだな。依頼中に寄る都市でも補充しないとだし、今悩む必要は無いか」

『新装備での宣伝効果の高い実績を残せば企業の方にも満足していただけるでしょう』

「そうだな。まあ相応に頑張らせて貰おう」

 

 オルトが満足感と満腹感を覚え始めた頃、目的としていた都市へ到着する。既に朝日が昇り始め、オルト達を荒野(こうや)ごと優しい光が照らし始めていた。

 

 

 オルトが契約期間中の物資輸送の開始地点であるゴリンザン都市の広場に来ていた。

 ゴリンザン都市はクガマヤマ都市よりも少々西側に位置しており、クガマヤマ都市からオルトの車で1日ほど掛かる距離にある。都市の範囲はクガマヤマ都市ほどではないが大きな都市で、防壁で囲まれた部分もある。

 周囲にある遺跡は近い場所ならば既に高値の遺物は取り尽されてしまい、ハンター達が立ち寄ることはないが、スラム街に住む住人が徒歩で行く分には容易く価値のある遺跡が複数ある。車両を手に入れたハンターや、ゴリンザン都市に拠点を置く徒党が合同で運営している大型バスでの人員輸送などを使用できるハンター達は少し離れた位置にある、いまだ多くの遺物が眠っている遺跡へと向かって行く。

 クズスハラ街遺跡のような未探索部分の予想すら難しい高難易度の遺跡は無いが、一定のハンター達ならば、生還は容易くその上で稼げる遺跡が多い為、多くのハンターが輩出されている。

 その広場でオルトは、複数の輸送車両を見ながら依頼が開始されるのを待っていた。

 オルトの仕事は複数の中小企業が合同で行う物資輸送車両の護衛だ。1台1台の大きさがオルトの車の数倍あり、オルトが予想していた以上の物資を輸送出来る状態が整っていた。

 計20台の物資輸送車両の中にはハンター向けの装備や車両、弾薬や食料が積み込まれており、護衛依頼の道中にハンターが弾切れを起こしたとしても、その場で購入することが可能なように割り増しで積み込んである。

 他にもハンター以外の他都市へ移住する人間や、用のある職員、更には収集された遺物等も積み込まれており、それら全てが安全に他の都市へ到着できるようにするのがオルトの仕事だ。

 近くには同じ依頼に参加するのだろう、個人やチームで使用する荒野(こうや)仕様の車両や、どこかの徒党が用意した装甲兵員輸送車も複数止まっている。

 

『オルト。暇でしたら柔軟体操をなさっては?』

『……そうだな。企業と都市の話し合いはまだ続きそうだしな』

 

 オルトは少々場違いな気がしながらも、既に日課となっている柔軟体操を始めた。

 ファナはオルトの前で動きの手本を見せている。手本として相手が自分の四肢の動きをしっかりと確認できるように、と前置きをしてから大胆に肌を露出させた水着姿に着替えていた。

 その姿で手足を大きく広げ、四肢をくねらせ、腰を捻り、爪先から手先まで伸ばし、片足を上げて器用に立つ。オルトの視界の中で柔軟体操を行う美女には、芸術的な肢体をただ動かしているだけで周囲の視線を集めるだろうと確信させる色気を放っていた。

 もっともオルトはその姿に見惚れるどころではなかった。身体の伸ばしが足りていないところを、ファナが強化服を操作して、身体を痛めないギリギリまで伸ばされているからだ。

 

『ファナ。痛いって。ちょっと痛い』

『身体の柔軟性はまだまだ足りませんね。怪我の予防や動作の効率化、更には強化服の訓練と調整の為にも今後も継続しましょう』

『お手柔らかに頼むぞ? ……ちょっと、痛いんだけど。いやいや、本当に痛いんだって!』

『少しぐらい千切れたとしても回復薬があります。準備しておいて良かったですね?』

『だとしても訓練の準備段階で使用する物じゃないだろう!?』

 

 微笑みを浮かべているファナに文句は言ってもオルトは真剣に柔軟体操を続けた。

 ファナの柔軟性に近付けようと、オルトが苦悶の表情を浮かべながらも同じ体勢を取っている。

 広場に集まる周囲の人間から奇異の視線を受けているオルトへ、都市の職員が溜め息を吐きながら近づいていく。

 

「……何をしているので?」

「見ての通り柔軟体操だ」

「……そうですか」

 

 職員が尋ねたのは何故、今、依頼の開始前に顔に苦悶の表情を浮かべるような柔軟体操をしているのかという疑問だったが、当たり前のように答えたオルトの態度に、それ以上追及する気は失せてしまった。

 都市の職員が話しかけて来た為、オルトが立ちあがり、職員の話の続きを目で促す。

 職員はオルトへ貸出し端末を手渡しながら、その使用方法等を説明する。

 

「……こちらの端末を併用してください。ハンターの配置交代の指示や、優先的に排除して欲しいモンスターの指示を出すので可能な限り従ってください。裏に番号が書かれています。こちらからの指示はその番号を使用します、確認をしておいてください。以上となります。何かご質問は?」

「特にない」

 

 オルトがそう答えると職員はオルトから離れていき、自分の担当する車両へと乗り込んだ。

 貸出し端末を自分の端末に接続してファナが把握可能な状態にする。

 

『縁のある番号ですね』

『……みたいだな』

 

 端末の裏に書かれた番号を確認したオルトは顔を顰め溜め息を吐いた。そこには13番と書かれていた。

 程無くして都市の職員から出発の指示が出る。

 

『行こうか』

『ええ。順調に安全に仕事を達成しましょう』

 

 オルトが車を走らせ都市の広場を出る。

 

 

 既に昼近い時間帯に、荒野(こうや)をオルト達が集団で進んでいく。

 オルト達や輸送車両よりも先行している装甲兵員輸送車には、貸出し端末の番号で1番を貰い、参加しているハンター全体への簡易的な指揮権も持っているクモンズという男とシーナという女が乗っている。その下に付く形で参加しているセレスとルインという姉妹が乗っていた。

 車両の定員は10名。重武装したハンターが定員分、余裕で乗車可能な広さを持ち、6人分の余剰空間には今回の依頼で使用する物資が積み込まれている。

 だが、今回の依頼に監視役、及び異常事態が起きた際の保険として参加させられたクモンズは横になっていた。その様子を見たシーナが静かにクモンズを叱る。

 

「ちょっとクモンズ。今回無理矢理この依頼に捻じ込まれたのは知っているけれど、もう少し何とかならないの?」

「もう少しってなんだよ。この姉妹の箔付けに抜擢(ばってき)されたのを喜べってか? 基本はこいつ等で、無理そうなら俺達が出て対処しろってだけだろ? そうそう俺達が出張るようなことは起きねえよ」

 

 クモンズは徒党の指示により、姉妹の面倒を見ることになっていた。姉妹のハンターランクはゴリンザン都市では高い方で両名とも32だったが、この依頼に参加するには少し足りていない。その為、名目上クモンズがリーダー、シーナが副リーダーを務め、2人が参加しても問題の無いようにされていた。しかし、徒党内から出た指示は姉妹に基本的に功績を挙げさせるようにとされており、クモンズはただ自分の自由を拘束された状態へとなっていた。

 

「そんなに大事ならもっとゆっくり育てりゃ良いだけだろ」

「これでも結構時間掛けた方じゃない? 今回参加出来たのも徒党の幹部が問題無いって判断出来るような成果を挙げていたからだし」

「なら余計に俺を入れる理由が無いだろ?」

 

 シーナが運転席と助手席に座る姉妹を見る。そこには徒党が貸し出している中では高性能な強化服に身を包んでいるハンターがいるだけだ。

 シーナが少し思案し、溜め息を吐きながら情報端末を操作する。

 

「多分これよ。今回参加しているハンターの平均ランクが少し低いのよ。だから何かがあった際の私達を用意するって選択を取ったのよ。死傷者が少ない方が成果は大きくなるからね」

 

 シーナが表示した画面には参加しているハンターの大まかな情報が載っていた。クモンズがそれを受け取り、一覧を流し読みしていく。

 

「見たことあるハンターばかりだろ? あいつらを入れるだけでそんなに平均ランクが下がるもんか?」

 

 シーナが情報端末を操作して1人のハンターを表示させる。そこにはオルトの情報が載っていた。

 

「この子よ。ハンターランクは今回最低の26で、少し前のクガマヤマ都市からの依頼も失敗しているのよ」

「あ? なんでそんな奴が参加してるんだよ」

「個人的に調べた限りだと、どこかの新興企業が捻じ込んだそうよ」

「はあ……、そんな奴を入れるから面倒事が増えるんだ。その面倒事の対処をするのは俺達だぞ? ……はあ、仕方ねえ、こいつがどの程度なのかの確認をしておこうか。2人とも、そいつらの対処は他のハンターに任せる! その後、手を出すかの判断はお前らがしろ!」

「えー!? 私達の出番だと思ったのに!」

「仕方ないよセレス。リーダーはクモンズさんで私達はそのチームメンバー。今は大人しく指示に従おう? そのハンターさんのサポートをすればいいだけだから、ね?」

 

 セレスの不満をルインがいつものように宥めている。

 クモンズの情報収集機器が、連携している車両の索敵装置から送られた情報を表示する。前方から近付く多数のモンスターの反応を捉えた。不機嫌そうにしながらもオルトの番号へ指示を出すと、オルトが返事を返した途端、車を急加速させてクモンズ達を追い越した。

 クモンズ達が横を通り過ぎていったオルトを改めて確認する。

 

「装備に関しては問題無さそうだな。というよりも結構な高級品を使ってるな。何処の製品か知らんが、多分その企業が宣伝用に用意した物だろ。多少は出来るんだろうな?」

「個人で参加した挙句、多少程度じゃ困るのだけれどね。その尻拭いをするのは私達よ?」

 

 クモンズはシーナに指摘されたことで大きく溜め息を吐く。参戦するタイミングを見計らっている姉妹の更に先に見える車両では、オルトが運転席から立ち上がり、両手に持った銃をモンスターへと向けていた。

 

 

 オルトは護衛対象の前方に配置されていた。本人が希望したことではなくFARBEが無理矢理押し通した結果だが、接近してきたモンスターは基本的に、更に前方を走るクモンズ達の装甲兵員輸送車が対処するだろうと考え、過ぎる時間を有効活用する為にファナから授業を受けていた。

 だが、最初に遭遇したモンスターの群れの対処をするようにとクモンズから指示を受ける。

 

「13番! 進行方向にモンスターだ! 先行して蹴散らして来い!」

「13番、了解」

 

 ファナの授業を切り上げて、オルトが戦闘へと意識を切り替える。

 オルトが車を急加速させ前方の装甲兵員輸送車を追い越す。

 有効射程にモンスターが入る前に運転席から立ち上がり、腰に付けている銃を両手に握る。ハンドルを握れない為、車の操作を基本的に自動運転機能に任せながら、強化服と連携させた車両の制御装置を介して遠隔操作を行っている。ファナが所々サポートしている為、一見するとその運転技術は高水準なものに見えている。

 

『オルト。訓練通り冷静に対処してください』

『了解だ。戦闘に入ったら運転の方は任せた。そこまでは流石に出来なさそうだ』

『承りました』

 

 いつも通り微笑みを浮かべるファナを見て、オルトも笑う。ファナの運転により銃の射程圏内に入らんとするモンスターの先頭集団を見て集中する。

 今回はファナの照準補正のサポートを全く受けていない状態での戦闘だ。今回の依頼をオルトは自分の今までの訓練の成果を試す機会とする為に、体感時間の操作を使用しながらの初めての実戦を行う。

 緩やかに流れる時間の中では、生身の動きが意識に付いて行けず、非常にもどかしく感じる。

 しかし、強化服を着用している状態では、意識の方が遅いほどに、過剰なほど早く身体を動かせる。

 その差異を認識しながら、オルトがゆっくりと近付いてくるモンスターへと照準を合わせ、そして銃の引き金を引く。非常に高い連射力を生かして撃ち出された弾丸を浴びたモンスター達は弱点を、全身を破壊され肉片と鮮血へとその姿を変えながら荒野(こうや)へ撒き散らす。

 新装備一式でのオルトの実践が今始まった。

 

 

 着用している新しい強化服はFARBE製のDE8型US式強化服、商品名ディアンケルン。基本構成で6億オーラム。黒を基調とし白の配色がされている厚手のボディースーツ風で、表示装置等を搭載した頭部装備が胴体部と首の背中側の部位で接続されている。バイザーやフェイスシールドを付けておらず、髪も剥き出しの状態になっている。

 億未満の価格帯の製品とは文字通り桁の違う出力の身体能力に加え、力場装甲(フォースフィールドアーマー)発生装置を実装しており高い防御力を保有している。更にそれらを十全に発揮可能なように高性能な制御装置も搭載してある為、展開中の力場装甲(フォースフィールドアーマー)が関節の可動を阻害することはない。

 頭部装備に内蔵されてある情報収集機器はオプション品だ。この強化服に特化された設計で、望遠や集音などの個々の性能もそこらの専用機器よりも高性能だ。共に内蔵されてある表示装置は、角膜の内部に立体映像を投影する形式になっている。

 更に、露出している頭部の表面に力場装甲(フォースフィールドアーマー)を張ることが可能で、そこらの対モンスター用の弾丸程度なら弾いてしまう程の防御性能を持っている。

 専用の格納機器には簡単な自動メンテナンス機能が備わっており、多少の損傷程度ならば格納中に修復される為、修理に出す必要は無い。

 腰に取り付けてある多関節の補助アームの先に接続され、銃の後部で補助アームを介し強化服と一体化しており、現在オルトが両手に握っている銃はK2R複合銃。1(ちょう)1億オーラムの高級品だ。

 銃の全長はAAH突撃銃よりも一回り長く、全体的に太く厚みを持っている。弾倉とエネルギーパックの取り付け部分が上下に一つずつ存在しており、エネルギーを使用して銃全体に力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開して銃本体の耐久力、及び銃撃の威力を向上させている。

 両手に握る2(ちょう)にはオルトの要望通りの性能にする為の拡張部品を取り付けてあり、通常弾での威力はGRD対物突撃銃を大きく凌ぎ、強化弾薬を使用した際には専用弾すら超える。連射速度は3000万オーラムのミニガンを優に超えている。全体的に大きくなり、全長はもう二回り大きくなったがオルトの取り回し易さを重視した全長に収まった。

 後部座席には3(ちょう)目のK2R複合銃が置いてあり、その姿は両手に握る物とは大きく差があった。その1(ちょう)に求めた性能は擲弾(てきだん)や小型ミサイルに対応することであり、その銃は通常の弾薬は使用出来ないほどの銃口の広さを持っている。

 

 

 通常弾の拡張弾倉は以前使用していた物よりも桁を二つほど増やした弾倉を使用し、近づいてくるモンスター達に向けた銃口から性能上限を確かめる為にと、最高連射速度で撃ち続ける。

 軽く体感時間の圧縮を行い、最低でもモンスターの身体の一部に着弾するよう狙いをつける。銃口から放たれる1発1発の弾丸がモンスターの肉を抉り、臓器と身体から生やした武装をその生命力ごと破壊する。

 オルトを脅威と見做したモンスターが遠方からの銃撃、砲撃に切り替えるが、オルトの車が加速してその有効射程の優位性を無くす。

 オルトは連射速度を徐々に落とし、正確な狙撃へと切り替える。両手に握る銃に取り付けた照準器は強化服の情報収集機器と連動しており、強化服側で全体の把握をし、銃の照準器でその先の情報を取り込み、精度を向上させオルトの視界に解析結果を表示している。

 照準器越しに映るモンスターを更に集中して体感時間の圧縮率を高め、舗装などされていない荒野(こうや)を走る車の振動すら停止した時間の中でモンスターの頭部を狙う。しかしそれでも狙撃は外れ、弾丸が荒野(こうや)の先へと消える。それを意識し、次々に発射される弾丸の軌道を基に修正を繰り返し次弾の精度向上へと繋げる。

 そうして銃の性能の確認、新装備の射程等を確認する為に使っていたモンスターが最後の1匹になる。車の進行方向からオルト達に向けて走っている八脚の爬虫類が十分に近づいたと判断し、オルトの車に飛び掛かって来るが、オルトが更に集中し自分以外の全てが停止していると判断できる程に体感時間を圧縮し、そのモンスターへと銃口を合わせ、引き金を引いた。

 慣性を残したまま車の後方へ落ちたモンスターを気にすることなく、オルトは今回の戦闘を振り返っていた。

 

『まあ、流石にこの距離なら外すことはないな……』

『冷静に対処できたようで何よりですが、大分無駄弾が多いですね?』

『……ファナが装備の制御装置を俺用に書き換えたって言っても俺がそれを把握してる訳じゃないんだ。性能確認は必要だろ? だから後半はちゃんと射撃精度向上のためにばらまきを止めて正確な狙撃に切り替えたんだ。……まあ、それでも結構な弾数使ったけど』

 

 オルトの苦しい言い訳を聞いたファナは仕方がないと首を振る。

 

『これからも訓練に励みましょうね』

『ああ、分かってる。これからもよろしく頼む』

 

 オルトの戦闘時間はものの数分で決着がついた。モンスターの個体数という数の暴力に対し、オルトは拡張弾倉の過剰なほどの装弾数を生かした銃撃という数の暴力によって、傍から見れば一方的な戦闘におけるオルト本人の評価はいまいちだったという程度に落ち着いた。戦闘時間がたった数分間であってもオルトの体感時間は1時間程度に感じていた。訓練中には感じない、実戦中の疲労感を感じながら運転席に座った。

 オルトが倒したモンスターを踏み潰しながら、オルト達の車は予定通り進んでいく。

 

 

 再び先行するように走り出した装甲兵員輸送車の中で乗員達が先程までのオルトの戦闘について話している。

 

「私達の、出番……」

「あはは……、まあ仕方ないですよ。今回の依頼に参加出来る人ってここら辺だと結構ハンターランクの高い人達ですからね」

「え? でもあのハンターのランクって26じゃなかったっけ? さっきちらっと一覧見た程度だけど」

「ええッ!? 私達のランクでもお目付け役が居るのに、なんでそんなに低いランクのハンターが個人で参加出来ているんです!?」

 

 ルインが情報端末を取り出して参加メンバーの一覧を再度確認する。この依頼を受けることになった際には載っていなかった情報が追加されていた。そこには紛れもなくオルトのランクが26だと記載されており、当人のハンターコードを使用してオルトのハンターサイトの個人ページも確認するがその数字に変化はない。

 後部から顔を出したシーナがルインの当然ともいえる疑問に答える。

 

「あら、ちゃんと自己評価出来ているみたいで何よりだわ。その疑問に関してだけど、あの子の使っている強化服だけどね? 新興企業の新商品って話よ。理由はこれだけでも十分でしょうね」

 

 シーナの説明した内容に姉妹は納得を示しながらも、セレスだけは不服そうに頬を膨らませる。

 

「つまりその企業さんとやらが、結果的にこの依頼の難易度を上げたってことじゃないですか!」

「そうとも言えるでしょうけど、さっきの戦闘を見ていればそこまで心配になる必要は無いんじゃないかしら?」

 

 自分達の前方で一方的に勝利を収めたオルトは、批評出来る箇所も多くあるが、本人も被弾することなく、護衛対象に被害を出す訳でもなく、1人で問題無く戦闘を終えた。高性能な自動運転機能を積んだ装甲兵員輸送車ならば、運転を自動運転に任せ、姉妹が攻撃可能な状態を生み出せる。更にその高い防御力を生かして、車内に隠れながら戦闘を行える。実際姉妹が戦闘に入った際の戦闘方法はそう決めていた。

 しかし、オルトの車両にそういった高性能な装置を搭載するには本体が少々安物過ぎた。つまりはオルトが制御装置を介して遠隔操作しているのだろうと、姉妹のハンターとしての経験が告げてきていた。

 セレスが情報端末の表示を鋭い視線で見つめている。

 

「オルト、オルトね……。憶えたわよ」

「どうしました? 一目惚れ? 応援は必要ですか?」

「違うわよ! 負けられないって思ったの! 見た目的には私達より少し小さい程度でランクも低い。それでもそのランクの上昇速度は異常で、実力もあの装備の製造企業のお眼鏡には適ってるってことでしょ? 私達だって徒党の同年代に大きく差をつけて、上層部からの信用を勝ち取ってここに居るの! 努力を積み重ねてここまで来たの! 少し前にハンター始めたぽっと出に負けられないのよ!」

 

 セレスがハンターになってからの道程を思い起こしている。

 数年前孤児院からルインと共にハンターの徒党に入り、遺跡で発見した遺物に目を輝かせたり、モンスターに怯えながらも討伐したり、研鑽を重ね、徒党内で仲良くなったハンターが死別した際に悲しみを覚え、一時期はハンター活動に支障が出ていたが、それでも乗り越えここに居る。

 セレスがオルトへと対抗心を燃やしていることは、周りの者達も嫌でもわかる程だった。

 過度な興奮や高揚、緊張は荒野(こうや)での生死に関わる。シーナが落ち着かせる方法を考えていると、丁度良いものが近付いてきた。

 

「それなら2人とも、前方から多数のモンスター反応。出来るわよね?」

 

 シーナの情報収集機器が先に反応を捉え、車両の表示装置にも表示される。オルトが戦闘した際より少々多い量のモンスターが近付いて来ている。これに問題無く勝てれば多少は落ち着くだろうとシーナは姉妹に対応を任せた。

 会話に加わらず姉妹の戦闘も殆ど気にすることなく、クモンズが1人、オルトの戦闘評価を纏めていた。

 

(装備に関しては問題ない。運転に関しては自動運転じゃないだろう。あの挙動は並の制御装置が判断する操作じゃない。それを無理矢理安物に載せる道理はねえ。ということは本人の遠隔操作による動きだ。その上、位置取りや距離の詰め方は完璧と言っていい。しかし戦闘開始時の命中率と戦闘後半の命中率の差が著しいな。最初は銃撃よりも車の運転を優先していた? 数を減らすことを優先した? 緊張が解れたからか? ……いや、少なくとも心配しなきゃならん実力じゃない。問題は無い、か……)

 

 オルトの総合的な戦闘能力に問題は無いと考えクモンズは思考を切り上げる。後部座席に戻ってきたシーナも同じ結果に落ち着いた様子だった。

 

「あの子あれだけ出来るのね。正直びっくりしたわ」

「依頼を失敗したのは装備が不調を起こしたのか、今使用している装備の恩恵がでかいだけか。気になる部分は多々あるが少なくとも今回の依頼中にヘマするような奴じゃないだろう」

「クモンズが言うなら問題は無さそうね。今回も何事も無く終わらせましょうか」

 

 前方で戦闘を終え、互いに称賛を送っている姉妹を見ながらシーナは今回の遠征を楽しむ事にした。

 しかしクモンズは気懸かりなことを解消しようと情報端末の画面を延々と弄っていた。

 他の都市へと到着したのは既に日が暮れて数時間経った後だった。次の出発は明後日になる。

 

 

 夜も更け、深夜と言ってもいい頃グレイは帰宅し、輸送車両に積まれている大量の遺物を倉庫へと運ぶ。弾薬やエネルギーパックの予備を車の荷台へ積み込み、次のハンター稼業の備えを万端にすると、強化服を専用の格納棚へ入れ、就寝の準備をする。

 グレイが風呂に浸かりながら壁と一体化している情報端末でオルトと連絡を取っていた。

 

「ええ、そうよ。こっちは問題ないわ。安心して」

「そうか。渡した情報は役に立ったか?」

「それはもう! こっちでもマップの作成をしているから、戻ってきたら共有するわね」

「ああ、助かる。何か異常事態とかは無かったんだよな?」

「何も無いわ。強いて言うならモンスターの居ない遺跡探索は初めてだったわね。最低でも一緒にいる人が対処するから、自分は銃を握らなくていいってぐらいしか経験したこと無かったわ」

「良い経験を得たようで何よりだ。それじゃあ俺はもう寝るから切るぞ」

「お休みー、オルト。依頼頑張ってね」

「ああ、お休みグレイ」

 

 オルトとの通話が切れる。1人になったグレイが今日の出来事。及びそれに関連する内容を思い起こす。

 

 

 オルトの家へ遊びに行った帰り際、オルトから情報端末を受け取った。中身の確認は帰ってから1人でと言われた為、トライフワーデンへエルを送っている最中に中身を見せて貰えないか、それとなく頼まれたがしっかりと断った。

 帰宅し改めてオルトから渡された情報端末を確認すると、ロックの掛けられたメモと、そうでないメモの二つだけが入っていた。

 ロックを解除するには何らかの文字を入力することが必要で、強引に解除出来る人物も居るだろうが、グレイはそんな伝手を持ち合わせていない。仕方がないともう片方のメモを確認すると、そこにはオルトからの個人的な依頼が記載されていた。

 グレイが訝しみながらも内容へ目を通す。

 ハンターオフィスを通さない依頼であるということ。

 1人のハンターとして雇う為、戦闘が発生する可能性は十分あること。

 可能な限りグレイ1人で行って欲しいこと。

 収取した遺物の半分をオルトの所有物とすること。

 その四点を了承できる場合、自分へ読んだとメッセージを寄越すように。疑わしく、信用できない内容と判断した場合は情報端末を破壊、破棄するように書かれていた。

 

(遺物収集の依頼? でも私1人で行った上で半分はオルトに所有権を持たせるってぼったくりも良いところだし、何よりオルトは数日後には依頼で都市に居ないわよね。……これ結構怪しい? でもなあ、オルトがそんなこと……。……あれ? えっ!? もしかしてそういうこと!?)

 

 グレイはその内容を何度か読み直し、結論としてオルトがグレイを殺すような人間ではないということと、オルトという1人のハンターを信用してメッセージを送信した直後一つの可能性がグレイの脳裏に過ぎった。

 グレイが連絡してから数分もしない内にオルトからメッセージが届く。そこには自分の新しい強化服とだけ書かれていた。

 それを見たグレイが一瞬頭を悩ませたが、オルトの情報端末のロックにオルトの新しい強化服の商品名を入力する。オルトのお茶目な一面を見れたと内心1人喜んでいたグレイが、予想通りロックを解除されたメモの内容を見て驚愕の表情を浮かべた。予想はしていてもその詳細は分からない。

 二つ目のメモにはヨノズカ駅遺跡の座標やその入り口の場所、オルトが作成した簡易マップやそのマップ内のどの店舗を優先的に収集場所に選んで欲しいか等の要望も含めて記載されていた。

 

「……え、ちょっとこれは私の手に余る? でももう了承しちゃったし、この記載が本当なら危険は少ない、かな?」

 

 自分が独り言を言いながら頭の中を整理していると気付くと1人で顔を赤らめたが、それでもすぐに落ち着いてメモの内容を読み込んでいった。

 命を賭けるに足る内容か、オルトへの信用と信頼を、オルトが情報を共有してくれたことで感じたオルトからの信頼を、自分の能力と擦り合わせながら計画を立てる。未発見の遺跡の場所の共有という大きすぎる信頼を失望へと変えない為の努力をグレイは心に誓っていた。

 

 

 グレイは装備を受け取った数日後に車両等の準備を終えて荒野(こうや)を走っていた。事が事だけにレンタル業者から大型車両を借りることはできなかったが、FARBEに数日以内に大量の遺物を持ちこむことを条件に提示し、大型且つ迷彩機能を搭載した輸送車両を借りることが出来た。

 位置情報や、グレイの移動経路を確認されるのはこの車両を返却する2か月後なので、オルトが返って来た後に相談も可能、返却期限が近付けば遺跡の場所をFARBEや他のハンターに売れば問題は無い。そうでなくとも遺物を相当量持ち帰るようなハンターがいれば当然注目され、その後を附ける者も続出する。過去に自分もその1人だった事をグレイは思い出し、その事実とそれからの経験に苦笑した。

 グレイが着用している強化服は1着3億オーラムの製品だ。だが、FARBEとの購入契約で制限を増やすことで拡張部品を取り付け、情報収集機器や補助アームも2本取り付けている。更にK2R複合銃を1(ちょう)だけだが入手することが出来た。それらの値段を合計すれば、自分の提示した予算を大きく超えることは明らかだ。

 自分はオルトという優秀なハンターとの関係が他者よりも深かった幸運なだけの1人のハンターなのか。それともちゃんと1人でも問題なく、実績を残せる実力を持ったハンターなのか。それを確かめに危険地帯へ足を踏み入れる必要は無いが、確認する機会ぐらいは欲しかった。

 今回もオルトから与えられた機会というのは分かってはいる。しかし、その機会すら無駄にしてしまうような無能ならば自分のハンターとしての才能は無いに等しいだろう。そう考えながらも目的の座標に辿り着いた。そこには元は何らかの施設が残っていたのだろうと思わせる瓦礫の山や壁しか残っていない廃墟が残っていた。

 オルトから渡された情報を基に、輸送車両を崩れかけの壁や瓦礫の陰に停車し、迷彩機能を有効化する。すると連携している自分の情報収集機器の表示装置を介せば認識できるが、使用していない場合では車両の輪郭を捉えるのも一苦労で、それが可能なのも車がそこにあると知っているからだ。何も知らずその場面を見れば発見することも無く通り過ぎるだろうという感想を持った。

 周囲を探り、オルトから貰った情報通りの場所の瓦礫を退けると、地下へ続く階段を発見した。オルトが初めて入った際使用した階段だ。初めて入る遺跡に対しての最低限の安全性を確保する為、オルトが作成したマップをグレイは頼ることにした。

 

(ここを下りていくだけよね。……大丈夫。回復薬も弾薬も十分用意してきた。オルトが私にここを明かしたのは私を信じてくれたから。その期待には応えたい。実際にされてなくても、私が感じる期待には)

 

 グレイは持ってきた小型の照明を腰につけ、大きめのリュックサックを背に、K2R複合銃とGRD対物突撃銃を両手にゆっくりと階段を降りていく。

 

 

 結果としてグレイは多くの遺物を輸送車両に積み込むことが出来た。

 階段を下り切った近くで、まだ大量の遺物を陳列棚に並べている店舗を発見したが、オルトからの指示では更に地下の遺物を優先的に収集して欲しい旨が記載されていた為、大量の遺物に後ろ髪を引かれながらもその指示に従った。

 だが、その感情はすぐに消え去ることになった。地下へ進むごとに高価そうな店舗へと遺跡の内部が変化していったからだ。そして指示の理由についても理解することが出来た。オルトの装備や稼ぎから考えれば、安い遺物を大量に持ち帰っても意味が無い。それなりに高価な、その上で持ち帰る事が可能な物を選び運ぶ必要があった。大量の遺物を運んだとしても数百オーラムにしかならなければ赤字になるだけだ。

 グレイはオルトが用意したマップの最下層まで下りてきた。以前オルトが収集した機械製品が並んでいた店舗のある場所だった。

 

(指示された内容は遺物収集を基本にマップを広げて欲しい。ただし最下層へは絶対に行かないことを条件にする、か。……以前オルトに遺物収集を手伝わせて貰えないか頼んだ時は危険だから嫌だって断られたのよね。その場所は勘だけどクズスハラ街遺跡の地下街。そして今回これを渡してきたのは新装備が手に入ると確定した後。つまりオルトが新装備を着用した状態でも危険だと感じた何かがそこにはあるってこと。……悔しいけど私が行っても死ぬだけでしょうね。功を焦るより先ずは無難に遺物を大量に持って帰って報告しましょ。……無難に遺物を大量にって贅沢な言葉ね)

 

 自分の言葉に苦笑しながら行動の主目的を選択する。グレイは先ず、現在の階層のマップの作成に取り掛かることに決めた。

 不必要に危険を冒す必要は無い。まだ行けるは疑って掛かる。そして優秀なハンターの危機察知能力は伊達ではないという話を思い出しながらその階層のマップの範囲を広くしていく。

 未発見の遺跡の探索中なので一定の緊張感を持ちながら周囲の索敵と点在する旧世界の店舗を確認する。どの店舗も内部にはいまだ多くの遺物を残しており、ハンターのグレイからしてみれば宝の山との遭遇だった。

 夢にまで見た山のように積まれた遺物を自分が持ち帰るという一つの目標を叶えられる現実に、その機会をくれたオルトへ感謝の念を抱きながらその階層の探索を終えた。その時には遺物の山に囲まれた自分に高揚することは無くなっていた。

 モンスターの影も形も無く、遺跡内部は暗いだけで安全且つ高価な遺物が大量に遺されているという、極めて面倒事が大きくなりそうな遺跡だということをグレイは理解した。モンスターが居ないということは収集を邪魔する存在は他の人間だけだ。この遺跡がバレてしまえばクガマヤマ都市にいるハンター達が殺し合いをしてでも遺物収集へと乗り出すだろう。

 グレイは遅まきながらオルトが考慮していた事態に追いついた。

 しかし自分がここで何もせず立っているだけでは結局何も起こせないし、起きることに巻き込まれ死ぬだけだ。グレイはそう思って遺物収集を開始した。

 グレイが今回の遺物収集用に購入した台車をリュックサックから取り出し広げる。展開すると元の大きさの数倍に広がり大量の荷物を乗せることが可能で、更に頑丈な為そうそう壊れることは無い。

 その台車の購入によりグレイの口座は完全に空となってしまったが、目の前の光景がその不安を解消した。その光景だけで一般的なハンターは皮算用をして楽しめる。しかしグレイにはそれをする暇などなかった。油断をした分だけ状況の変化に取り残される。緊急事態への反応が遅れる。それを良しとしない為に、オルトからの信頼に応える為に、自分の目標を叶える為に(たかぶ)ろうとする感情を理性で押し込み真剣に索敵を続けながら遺物を収集し、地上の輸送車両に積み込みまた地下へと繰り返した。

 輸送車両の荷台を埋めきったのはすっかり日が沈んだ後になっていた。地下と地上の長距離を往復した精神的疲労は無視できない程に感じている。しかし、グレイの表情には喜色が隠せないぐらいに滲んでおり、少々だらしがなく、知り合いに見せられた顔では無かった。

 

 

 グレイが日を置いてまたヨノズカ駅遺跡へと輸送車両を走らせている。前回とは違う経路を使用し、名前も付いていない小さな遺跡を経由しながら先日使用した場所へと車を停めた。

 遺物収集をもっと長期間行うには誰にもバレる訳にもいかない為、情報収集機器を最大限使用し周囲に自分を観察している者が居ないか、附けられてはいないかを確認しながら車を走らせる。

 グレイはオルトが休日の日に倉庫に積んだ遺物をどう分けるか相談し、自分の所有物となった遺物を輸送車両に乗せ、無関係の遺跡を強化服の訓練に使い、都市へ戻るとFARBEへ遺物の一切を渡す。量が量だった為に、一度FARBEが預かり鑑定を通してハンターランクや金に変わることになった。

 当日に金が手に入ることは無かったが、当分の食料は冷蔵庫に入っていたので問題は無いが、食事を買う為には即金が必要だ。ついでに偽装工作も行おうと、輸送車両を使いながら汎用討伐依頼を受けておく。ヒガラカ住宅街遺跡やミナカド遺跡を回りながら、発見したモンスターをK2R複合銃で狙撃を繰り返し、討伐数を稼いでいった。

 今日はその偽装工作が功を奏したのかグレイの車を附けている車両は見当たらない。FARBEへ持ち込んだ次の日は、発見しないようにする方が難しい量の車が附けてきており、グレイは最初ウンザリとした表情を浮かべていたが、その車両が起こす音や地響きを利用して汎用討伐で1人美味しい思いを堪能していた。その者達の銃の有効射程はK2R複合銃やGRD対物突撃銃よりも劣っていたからだ。それを数日繰り返した結果、附けてくる者達は減っていき、現在は居なくなっていた。

 変な噂で釣って自分を附けさせ、附けてきた者達でモンスターを誘き出し、自分だけ討伐数を稼ぐ女がいるという噂が流れたが、グレイにとってはどちらも好都合な状況になっていた。

 

 

 グレイが先日と同じように遺物収集を行い、次の遺物で輸送車両が満載になるだろうという段階でありえないものを視認した。それは明かりだった。

 通常時であれば光は人に安心を(もたら)す存在だが、ヨノズカ駅遺跡の内部はエネルギーが切れているのか、光源となる物が消灯している。そのような場所で発見する明かりは誰かが照明機能を搭載した機器を使用している証拠になる。暗闇の中、敵と味方を判別する為に使用することはあるが、ヨノズカ駅遺跡は未発見の遺跡だ。敵も味方もそもそも存在していない。

 そして相手の明かりが見えるのであれば、こちらが()けている照明が(とも)す明かりも相手に見えている証拠になる。対処を考えていると相手側から短距離汎用通信が入る。

 

「こちらは3名よ。今からその通路を通る予定なのだけれど、敵対しないから通ってもいいかしら?」

 

 今日初めて会う、その上この遺跡を発見した者達が発する敵対しないという言葉をどの程度信じるか。情報収集機器の索敵範囲を広げ、その3名を発見するが、まだ慣れていないからか、離れすぎているからか大人が2人、子供が1人という曖昧なことしか分からなかった。

 グレイが少し思案し応える。

 

「分かったわ。こっちも争う気は無いわ。その通路を私も通りたいだけだからね。因みにこっちは1名よ」 

「ありがとう。それじゃあ少し距離を取って通るから銃は降ろしておいてね」

 

 相手側がどう行動してもその対処を行えるように緊張を高めながらその3人を確認すると、見覚えのあるハンターを見つける。2人の女性エレナとサラの後方を警戒するように進んでいたのはアキラだった。

 思いがけない場所でアキラを発見したグレイが驚きの声を上げる。

 

「あれ!? アキラ!?」

 

 少々大きな声を出してしまい、エレナが警戒を強めるが、グレイの表情を見てアキラと敵対していない、関係が悪い人物ではないと判断して警戒を緩めた。

 アキラが少々思案してから応える。

 

「えっと、……グレイだっけ? 久しぶりだな」

「ええ、久しぶりね。どうしてここにいるの? ここって未発見の遺跡でまだ誰にもバレてないって思ってたのに」

「俺も最初来た時、誰かの足跡や車輪の痕が残ってるなって思ってたけどグレイだったのか。どうやって見つけたんだ?」

「内緒! そういうアキラは?」

「俺も秘密だ」

 

 先に遺跡の内情を知っている者達同士で会話が広がりそうな空気になり、サラが強引に会話に加わる。

 

「アキラ。友達との会話に花を咲かせるのは良いけど私達の紹介はしてくれないの?」

 

 サラの表情は笑顔だが、少々圧の籠った言葉にアキラがたじろぎながらグレイへとエレナ達を紹介する。

 

「グレイ。こちらはエレナさんとサラさん。今日は遺物収集を手伝って貰っているんだ」

「そうなの。始めまして。私はグレイです。宜しくお願いします。エレナさん。サラさん」

「ええ、よろしくねグレイ」

「サラよ。よろしくね」

 

 グレイとエレナ達が自己紹介を済ませた後、グレイはアキラ達が既に誰かが地下に潜っているということを知っていたと聞いた。輸送車両の迷彩機能は高性能だが、エレナの索敵能力がそれを上回ったのだ。アキラ達はそれをどうするか悩んだが、エレナとサラのハンター稼業は遺跡探索がメインで、遺物収集の為にモンスター討伐やハンター同士の戦闘へ発展することが無いように気を付けている。態々敵対者を増やす理由は無い為、遺跡内部で出会った際は可能であれば遺跡探索に役立つ情報の取得を、不可能でも敵対しないようにしつつ、ヨノズカ駅遺跡の存在がバレないように話を付けようと考えていた。

 遺跡の存在がバレるのはグレイにも不都合な為、その提案に賛成した。

 

「それにしてもこんなに良い装備をしている若手ハンターがクガマヤマ都市にいるなんてね。色々とすっかり越されちゃってる感じかしら?」

「私なんて装備だけですよ。まだまだ振り回されている感じはありますし、装備を整えたからといってハンター歴が伸びるわけではないですからね。まだまだ強くならないといけません」

「謙虚ねー。アキラもそうだけど、活躍したり良い装備を揃えたら、もっと自分は凄いんだって感じになっても良いものだと思うんだけど」

「それが自分の実力ならそう言えたと思います……」

 

 グレイの言葉にアキラが少し顔を暗くした。しかしエレナ達が反応しなかった為グレイもそれを気にすることは無かった。

 アキラ達と大まかな状況確認と遺跡の取り扱いを決めたグレイは、3人と連絡先を交換し地上へと足を運んだ。その表情には前回の遺物収集時のような楽観的なものは浮かんでいなかった。

 

 

 エレナ達はグレイと分かれた後、アキラの案内で遺跡内部の索敵を続けながら遺物収集をしていた。グレイの様に地下深くまで行くことは無く、アキラが見つけた店舗の陳列棚を運び出していた。

 

(あのグレイという子の装備は若手ハンターが入手するには高価過ぎる。最近優遇が過ぎると言われてるドランカムの若手ハンターにだってそんな装備を貸し出して貰ってはいない。そして明らかにこの遺跡から遺物を持ち出すのに必要な物資を持ち込んでいるところを見るに、数度この遺跡を探索しているはず。遺跡内部にモンスターが居ないことを知っているからか私達との会話中には索敵行動を取っていなかった。装備だけって言葉は自分をちゃんと評価しているのね。……そしてなにより、アキラよりも先に此処を発見していたという事実。私達がアキラに教えてもらったように彼女も誰かに教えてもらった可能性もあるわね。彼女かその誰かのどちらか、もしくは両方ともが旧領域接続者である可能性が高いわね。……あーやめやめ、この思考は良くない。アキラの友達を売るような真似もしたくないし、今は遺物収集の時間だもの)

 

 エレナはグレイと雑談をしながらその会話内容から何かしら情報を入手できないか考えていた。しかし、余りにも踏み込んだ質問をしてしまえば即座にグレイと敵対し、高価な装備に身を包んだ者との殺し合いが発生する可能性は大いにあり得た。

 そして、もし戦闘へ発展した場合、共通の友人であるアキラがどちらに付いてくれるかは定かではない。心情的には自分達側に付いてくれるだろうとエレナは考えているが、希望的観測の場合もある。

 同年代且つ共通の話題を持っている、アキラにとって異性のハンターにエレナ達は少々の嫉妬心を持っていた。

 それをアキラにバレないようにしながら遺物収集を終える。アキラは妙な圧を放つ2人を不思議そうにするが、自分の索敵行動の訓練の為、そちらに思考を割く余裕は無かった。

 エレナ達の車の荷台には損傷しているのか、エネルギーが切れたのか不明だが動作していない陳列棚が数台乗せてあった。

 

 

 休日を挟みつつ都市を行ったり来たりを繰り返し、オルトは久しぶりにゴリンザン都市の宿屋に泊まっていた。既にオーラム圏外への物資輸送は終えており、残りの輸送予定先はオーラム圏内で済む場所ばかりだった。

 発生する戦闘は荒野(こうや)をうろついているモンスターの群れや遺跡からオルト達を狙って襲ってくるモンスターの群れの対処だけで済む為オルトは楽に依頼を熟していた。

 規模が小さければ参加しているチーム一つで、規模が大きくなればそれに応じて対処に出すチームを増やすという方法を取り、荒野(こうや)での道程はかなり安全なものと言えた。

 オルトも危険を冒すことも無く自身の訓練を行えたことで満足感を覚えていた。

 そんなオルトは情報端末から聞こえるグレイの声にいつもの元気が無いように感じた。

 

「そうか。今回も安全に終了したみたいで良かったよ」

「えっと、それがね。遺物収集自体は無事に出来たんだけど、……遺跡、バレちゃったみたい」

 

 オルトが暫し黙り込んでしまう。対応策を考える為だったが、グレイはそう捉えていなかった。

 バレた理由をグレイは自分の輸送車両や索敵技術の低さが原因なのでは無いかと話し始めるが、気が弱くなっている所為だろう。確実に違うことを正しいことのように感じ、その事を自分への重りへと変換していっているとオルトは感じた。

 

「……そうか。少なくともグレイが失態を侵した訳じゃないだろ? 新しい情報収集機器も車両の索敵装置も他のハンターを見つけなかった。アキラも遺跡を発見していたから、エレナ達を誘ったんだ。順序がそうだって言ってたんだろ? ならそれ以上気にすることは無いだろ。グレイの輸送車両が有ろうと無かろうとアキラ達は遺跡探索に乗り出していたよ」

「……そう?」

 

 少し明るくなったグレイの声に合わせる。

 

「ああ、少なくともアキラもエレナ達も一般的なハンターだ。遺物が大量に残ってる遺跡があるなら多少の危険を承知で入るさ。グレイは違うのか?」

「……違わないけど」

「だろ? なら問題ない。それにもっと遺物収集はしておきたいんだろ?」

「それはそうだけど……」

「なら頼んだ。情報端末にも書いておいたけど、バレる時にはバレる。そうなる前に収集しに行きたかった。けど俺は依頼が入って収集には行けない。その間に誰かが発見して大規模な収集作業が行われたら俺の取り分は確実にゼロだ。グレイが俺の話を信じてくれたことでその心配は無くなった。グレイが大量の遺物を収集してくれれば俺の取り分も増えるんだ。だから、頼む」

 

 オルトはただただ真剣に頼み込む。相手が弱気の時に自分が弱気を見せれば悪化するだけと考えながら、グレイが否定して欲しいと無意識に考えているであろう部分を否定する。グレイが取った選択を肯定する。

 グレイが動けなくなるのはオルトにとって不都合であるし、何より自分の頼み事で1人の友人が傷ついて欲しくなかった。条件の一つとして他者に話さないようにと付け加えた為、グレイはカオルやエルと相談することも控えているのだろう。

 オルトの頼み事が彼女を苦しめ傷つけてしまうのならば、それ以上の何かを渡せるようにしなければならない。そしてその何かを掴み取る努力は、その場に居る本人にしかできない。オルトはグレイのハンターとしての欲求とグレイ個人の中にある反骨心を信じ刺激する。

 グレイはオルトからの言葉に自身への信用と信頼を感じ、気持を良くする。

 

「そう……。そうよね。落ち込んでる暇は無いわね。うん、任せて頂戴。他のハンター達にバレる前にもっと大量の遺物を収集しておくから、帰って来た時に腰を抜かすかもしれないわ。注意してね!」

 

 オルトがグレイの心持は軽くなったことに安堵する。力強く返事をする。

 

「ああ、頼んだ。是非驚かしてくれ!」

 

 オルトとグレイはその後も会話を続けていた。今回の遺物の分配をどうするか、アキラ達と連携を取って遺物収集を行うのか、どのタイミングで情報を流すのかなどを相談していた。

 グレイとしては遺物の取り分が一気に減少する為、アキラ達との合流は出来ない。オルトの事を話せば、マップを開示すればその分、分配率等で優遇して貰えるかもしれないが、先日会ったばかりのエレナ達をそこまで信用する気は起きない。そもそも換金目的以外で有効活用出来そうな遺物の分配方法も難しい。

 今後も同じように偽装工作を挟みながら単独での遺物収集を行うことに決まり、アキラ達に遺跡内部のマップを共有することも無い。基本的にはそれぞれで遺物収集を行い、偽装工作を行い、バレるまでの期間を延ばすことにしようと決めた。

 後日エレナ達から連絡を貰い、遺跡の取り扱いについて相談する必要性があるだろう内容を詰めていった。

 

 

 グレイとの通話を終えるとオルトは安堵の表情を浮かべていた。

 その様子を見ていたファナがオルトを揶揄う。

 

『グレイが立ち直って良かったですね?』

「……ああ、これでまだまだ遺物の数は増えるはずだ。次の装備も楽しみだな!」

 

 ファナが揶揄ってきていることを理解していたオルトがファナに都合のいい内容で返事をする。オルト自身今回は遺物よりもグレイを気に掛けた発言が多かったと感じているし、実際グレイが元気になった際は二つの意味で安堵していたのも事実だ。

 しかしオルトはハンターとしてずっと強く成長しなければならない。ファナからの贈り物もサポートも依頼の前払いとして手に入れた物だ。返却するべき代物を返却できるようオルトは歩みを止めない。止めることは出来ない。それが前進でも後退であっても、立ち止まり続ければ終わりだ。今はただ必要なものを手に入れる為に。

 

 

 翌日、オルトはクモンズ達が所属している徒党の訓練施設へ来ていた。

 クモンズが依頼期間中のオルトの戦闘評価や本人の気質等を徒党の上層部へ伝え、その内容を見た上層部から合同での訓練は如何かという内容の依頼を受けた。

 依頼中に別の依頼を受けるのはどうかと思ったが、徒党側が既に輸送車両の運行管理の責任者からも許可を貰っており、オルトの弾薬は消費しないし、エネルギーパック等の消耗品も徒党が出してくれる上、本日の夕食代を相手側が持ってくれるというので参加していた。

 クモンズから、徒党の訓練施設に居たハンター達へオルトの軽い紹介が済んだ後、すぐさま模擬戦が始まった。

 オルトもモンスター以外との戦闘経験を積む良い機会だとして、ファナのサポートを完全に切って模擬戦に励んでいた。

 拡張現実で情報収集機器の表示装置に投影されている巨大な瓦礫などを利用しながら対戦相手へと近付いていく。体感時間の圧縮を使用して強化服を動かし、生身の動きを強化服側に合わせるように調整する。徐々に体感時間の圧縮率を上げていき、乖離しかけるそれぞれの動きを意識的に同調させていく。

 

『オルト。またズレていますよ』

『分かってる。負け越したら今後の訓練内容を厳しくするって話だろ? 今だって十分厳しいんだ。そんなの御免被りたいからな』

『今後も励むのであれば手を抜いてもよろしいですよ?』

『断る!』

 

 両手に握ったK2R複合銃の銃口から射出されるのは質量を持たない架空の弾丸だ。ファナは強化服の操作を一切していないが、オルトの視界にオルトの銃と対戦相手が使う銃から撃ち出された弾丸の一つ一つをオルトの視界に表示していた。

 引き金を引いた際の発砲判定と、周囲に設置してある大量の情報収集装置により、照準の向き、弾速を計算し着弾判定を出す。その場所がハンターであるならば直撃判定が出て、それぞれが着用している強化服の防御力を突破したり、頭部への直撃判定を喰らった場合は撃破判定を受ける。

 オルトが勝利する度に対戦相手がランダムで選出される。逆に敗北すればランダムで同じ対戦相手の部隊から1人を減らして続行だ。

 相手はランダムで選出されるが、この徒党には長期間ハンターをしている者が多く所属しており、ハンターランクが40を超える者もちまちま居る。新興企業が無理矢理捻じ込んだハンターを興味本位で見に来て、模擬戦を肴に楽しんでいたら、せっかく訓練施設に来ているのだからと模擬戦に強制参加させられ、オルトに敗北して周りの者から笑われてしまった者もいる。

 

 

 クモンズがシーナと共にオルトの模擬戦を観戦している。

 

「あいつ本当に凄いな。ランク40の奴も交じっているってのに上手く対処していやがる」

 

 オルトは現在6人組の部隊と交戦している。ランク40を超えている者が2人交じっているが、戦闘開始と同時に駆けてランクの低い連中へとその銃口を向ける。正確に頭部のみを狙撃している暇などない。その為射線が通り次第、圧倒的な連射速度を生かした最大連射に物を言わせて全身を穴だらけにする。オルトがそのハンターが倒れるまでの数秒を他のハンターから射線を切る盾に使用しながら、周囲の敵の位置を把握する。

 盾から飛び出して一番近い人間へと全速力で駆ける。自分以外の人間は部隊で行動している。誤射による同士討ちは避けたいだろうという判断で行動する。読み通り相手側の射線同士の直線上に入った瞬間、両名の動きが若干鈍り、オルトは両手のK2R複合銃で両名を撃ち殺した。

 しかし、そこで動きを僅かに遅くしてしまった為か、オルトは頭部に当たり判定を喰らい死亡した。

 

「装備の性能差でのごり押しも垣間見えるけれど、それを選択できるようにするのもハンターとしての強さよね。ちょくちょく負けてはいるけど、白星の数の方が多いわね。……うちの徒党に誘う予定でもあるの?」

「そこら辺は上の連中が考えるさ。俺はあいつの経歴が気になって個人的に調べたものを報告しただけだ」

「経歴?」

 

 クモンズが情報端末に表示した内容をシーナへ見せる。そこにはオルトの個人ページのコピーが載っていた。

 

「オルトのハンターサイトの個人ページよね? 私も一応確認はしたわよ?」

「俺もした。で、気になったのが失敗したって依頼の件だ。書いてある通り、オルトは実際病院送りにはなったんだろう。問題はそれまでの情報が虚偽もしくは別のものになっている可能性だ。一般のものと見比べてみろ」

 

 シーナが確認した内容には大部分を非表示している所為か特に目立った記載の無い若手ハンターの経歴が載っているだけだった。しかし地下街の依頼だけは、何故か失敗という結果にも拘らず表示されていることを不審に思っていた。

 本人が非表示している部分もクモンズが表示した画面に映っており、大量の遺物を買取所に持ち込んでいることが分かる。有能なトレジャーハンターの卵だと感じながらも、今注目すべき点へ視線をずらす。そこに記載されている内容に目を丸くする。

 

「クモンズがいつも使っている情報屋に頼んだのね。クガマヤマ都市の職員に頼んで内部の情報を取ってきたわけか。流石にその詳細は見られないみたいだけれどね」

 

 シーナが理解する。地下街関連依頼に関して書き換えたのは都市側の上層部だと。

 クモンズが溜め息を漏らす。

 

「まあ流石にそこまで高い権限を持ってる奴に金を握らせてってのは難しい。そういう奴らは皆金持ちで、月の給料だけでそこらのハンターの稼ぎなんざ楽に超える。……だが大まかな報酬額は閲覧可能だ。見てみな」

 

 シーナがクモンズに促され報酬額を表示させると、既に顔に浮かんでいた驚愕を強くした。

 

「じ、10億……。あの子何したの……?」

「さあな。流石にそこまでは分からなかった。ただ、クガマヤマ都市に居る奴からその日の出来事を聞いた。その地下街で遺物襲撃犯が現れて大暴れしていたらしい。クガマヤマ都市が発信してる情報からはそこまで大きな騒動じゃないって感じに書かれてるがな」

「その騒動に巻き込まれたのか、それとも自分から首を突っ込んだのかはともかく、クガマヤマ都市がこれだけ出しても惜しくない働きをしたってことよね。そりゃ欲しがるわ」

 

 シーナも今回の合同訓練の意味に納得した。

 若手ハンターの稼ぎは大部分をハンターランクに持っていかれたり、比較的少額の依頼しか回ってくることは無い。しかしその状況にも拘わらず、オルトというハンターは10億オーラムという大金を一度の依頼で獲得した。その意味は大きい。

 一度の依頼の報酬額を、企業通貨で1億以上稼ぐというのはハンターの中で一つの格付けともなっている。それだけの実力を備えたハンターであると信用を得ているという意味であり、それだけの依頼を勧められる者であるという証でもある。

 有象無象のハンターでは到達できない領域の一つだが、オルトはハンターになってから極めて短期間で、その格付けを更に、遥かに飛び越え、桁を一つ増やしている。

 

「報酬金の一部を治療費に回してる。それでも8億以上の稼ぎだ。ただのハンターじゃねえと思ってたがここまでとは思わなかった」

「この情報高かったんじゃない?」

「相応にな。だが良いものは見れた。これを見て上がどうするのかは知らん。運営方針を考えるのはあっちの仕事だ。……因みにだが、お前はどう思う?」

 

 問われたシーナが顔を顰めながら思案する。

 

「……極めて面倒な人間な気がするわ。私は反対。この治療費を見れば相当酷い大怪我を負ったはず。当人の様子からして高い再生治療を受けていると思うわ。彼が問題無くても周りに居る人はその被害に遭った時に対応出来るとは思えない。利点も大きいでしょうけど損失を考えれば入党はさせないで欲しいかな」

 

 クモンズがシーナの答えに頷く。

 

「俺もその意見に賛成だ。あいつは強いし、強くなる。それも急激にだろう。それに付いて行ける人間なんざ一握りだ。その一握りもあいつが居なくても強くなる素質を持っている奴ってだけで、普通の奴じゃ置いて行かれるか耐えきれずそのまま死ぬだけだ。恐らく本人もその辺理解しているからか単独での実績が多い。どうせこの後勧誘するだろうが敢え無く断られるさ」

 

 雑談を終え、2人がオルトの様子を再確認する。連戦を繰り返して息が上がりながらも、長い休憩を取らずに次々対戦相手を変えながら模擬戦を行っている。

 オルトよりも高ランクのハンター達と戦うこともあれば、低いランクでも10人を超える人数で戦うこともある。そしてオルトの戦績はどっちつかずという結果に落ち着いている。

 そして模擬戦の大取、クモンズが細工した対戦カードが漸く来た。オルトと姉妹の模擬戦だ。現在活躍目覚ましい新人と呼べる若手ハンターがその実力を示すのか、堅実に努力と研鑽を重ねた者達が数年というハンター歴の経験値で勝利を収めるのか。どちらに転ぼうがきっと良い結果になるだろうとクモンズの勘は言っていた。

 

 

 オルトは模擬戦を繰り返しながら、段々と強化服の動きと生身の動きの差異に慣れ始めていた。模擬戦が始まってすぐオルトが対戦相手を蹂躙する場合もあれば、あっけなく倒されてしまう場合もあり、戦績は5割を超えているが6割には届かないというラインで落ち着いていた。

 

(この依頼期間中に体感時間の操作にも随分慣れた。模擬戦の内容も決して悪いものじゃない。けどまだ自分より強いやつが複数いた場合の戦闘に難が有るな。実戦だったら強い奴が多勢で襲ってきて卑怯だ、なんて言ってられない。……焦るな。次だ。せっかくの対多人数戦闘だ。良い経験にさせて貰おう)

 

 オルトは試せることを試し続けていた。回復薬を使わなくても生身に悪影響を及ぼさず、問題無く行動出来るギリギリの動作を行い続けていた。強化服の接地機能を利用した鋭角での方向転換や拡張現実のビルに身体を地面と平行に保ちながらの戦闘等を繰り返し行い続けていた。実戦でファナに教えられた技術を訓練で自分の物へと昇華できるように。

 小休止の間に次の対戦相手が決まった。それと同時に時間的に最後の模擬戦ということも伝えられた。

 

『次で最後のようですね』

『みたいだな。結構な時間戦ったなあ。まあこれで俺の負け越しは無くなったな』

『最後まで油断してはいけませんよ?』

『しないよ。俺よりハンターランクが高い奴が2人、この徒党は下地作りをしっかりするみたいで、各々の戦闘能力向上に力を入れている。ハンターランクに相応の実力の証明が約束されてる。つまり俺より強い可能性大だ。最後はきちんと勝って終わらせる』

 

 オルトが小休止を挟んでから、訓練場へと足を踏み入れると対戦相手の姉妹が近寄ってくる。

 セレスは視線を鋭くしながらオルトを睨みつける。

 

「今日は随分私達の徒党で暴れてくれたけど、ここでどっちが上かはっきりさせるわ。私達の方がハンター歴は長いの。私達の実力見せてあげる!」

 

 言うだけ言って自分の開始地点へ戻っていくセレスをオルトが事も無げに眺めていると、セレスと共に来ていたルインが頭を下げた。

 

「えっと、ごめんなさい。セレスはハンターとして譲れない部分があるみたいで、あなたにそれを証明したいだけだと思うんです。だから私もセレスの力になる為に全力であなたを倒しに行きます。数的有利とかも無視して問答無用で倒しに行きます。だからあなたも全力で来てください。宜しくお願いします」

 

 最後にはオルトを真剣な表情で真っ直ぐ見つめてそう言い残し、ルインもセレスの後を追いかけていった。

 オルトはその2人に関心を持った。オルトも1人のハンターとして強い人間には好感を持つし、今弱かろうと明確な、そうでなくとも個人として目標を持ち、強くなるために研鑽を積む努力を怠らない人間に対しては特に好感を持つ。

 オルトはそういった人を見るのが好きだった。相手が自分に好感を持つかは別として、その人が目標を見据えた時に見せる表情や眼を見るのがだ。だからこそ自分の持ちうる全てを行使して全力で応える。

 

『ファナ。予定変更だ。サポートしてくれ』

『よろしいのですか?』

『全力で叩き潰す。相手からのご所望だ。情けも容赦もなく、ただただ倒しに行こう。今から行うのは実戦だ』

『了解しました』

 

 オルトは回復薬を数錠飲み込み、強化服のエネルギーパックを交換する。まだ残量は残っているし、今までの模擬戦ならば2回は継続可能な量を残していた。だがそれはオルトが常識的な範疇で使用した場合に限った話で、ファナのサポートを十全に受けた際はオルトの身体を強化服の身体能力で押し潰さんとする程の出力を発揮する。

 オルトが戦闘開始の合図を待つ。適度な緊張感と適度な弛緩を保つために意識的な深呼吸を行う。

 自身の表示装置によって視界に映る開始までの残り時間を視界の端に捉え、先の戦闘時とは様子の変わっている拡張現実の戦闘会場を、情報収集機器を使用して地形の把握に努める。

 ゆっくりと変化する数字を更に意識して鈍化させる。整数の変化はもうもどかしいほどに遅くなっており、小数点の下の数字すらその変化までに多くの時間を掛けている。普通の感覚では視認することなど出来ない小数点以下第何位という数字の移り変わりすら把握できる程に。

 戦闘に掛ける時間はたったの数秒だったとしてもいい。可能な限りの全力を以て彼女らを叩き潰す為に。

 

(今から行うのは完膚なきまでの勝利。ファナのサポート有りだが、それが俺の持ちうる全てだ。ご所望通り徹底的に叩き潰す。俺の全力を以て)

 

 限りなく緩慢に進む時間の中でオルトが今から行う戦闘の内容を考える。相手の装備は自分の物より性能は下だが人数は上、銃の威力は十分高く、油断をすれば余裕で負ける相手だ。依頼期間中に見た姉妹の連携も良いものだった。そして自分はそれを上から叩き潰す。対処なども考えない。自分の行動を押し付け終わらせる。

 数字が全てゼロに変わった瞬間オルトが駆け出す。今までも同じように開始と同時に真っ直ぐ相手との距離を詰める為に駆けることはあったが、今はファナのサポートがある状態だ。強化服の身体能力を十全に活かした脚力だ。その速度は尋常ではない。

 顔の皮膚表面に展開した力場装甲(フォースフィールドアーマー)を利用して顔に掛かる空気抵抗を無いものとして扱う。素顔を晒したままでは空気との摩擦で皮膚が焼けてしまうが、回復薬を使用し、力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開している状態であれば怪我を負うことは無い。オルトの強化服に接続してある表示装置は角膜の内部に解析結果を投影し、眼球の表面に力場装甲(フォースフィールドアーマー)が展開されている為、目が乾くことも埃などが入って視界を奪われることも無い。

 オルトが今までの模擬戦で一切見せることの無かった挙動で姉妹へと近付いていく。隆起した地面も体勢を一切崩すことなく駆けていく。

 視線の先から姉妹が向かって来ていることが確認できるが、自分の速度と比べればその速度は酷く緩やかで、鈍過ぎるものだと言える。

 オルトが拡張現実上の瓦礫を利用して姉妹の射線を切りながら近付く。有効射程圏内に入り両手の銃口を姉妹に向ければ、K2R複合銃の威力を知っている姉妹は回避行動を取ろうとする。

 若干先行していたセレスが先に行動に移すが、ルインが極僅かに遅れていることを確認すると、オルトが一気にルインへと身体を振り距離を詰め、その頭部へと照準を合わせ引き金を引いた。撃ち出された架空の弾丸はルインの頭部に着弾判定を残す。

 ルインが撃破判定を受けた瞬間にセレスの表示装置がその情報を映す。

 模擬戦が始まってたった数秒。あっという間に1人撃破され、無意識に焦ったセレスがルインを撃破したばかりのオルトへ銃口を向けようと身体ごと振り向くと、オルトの両手の銃の照準は既にセレスを捉えていた。酷く冷たく輝く眼と照準、銃口がセレスの頭部へと向けられていた。

 

(ああ、どれだけ強いの……)

 

 セレスは模擬戦ということも忘れ、オルトに殺されるという少し後の未来を幻視する。ゆっくり流れる時間の中で、自分の撃破判定が出るまでの一部始終を認識していたセレスの持ち得る才能がオルトの戦闘能力の高さを実感させていた。撃破判定を受け表示装置が赤く染まる時まで、セレスは無意識に今回の戦闘を何度も振り返っていた。

 

 

 拡張現実で出来た訓練場からゆったりとした足取りで1人出ていくオルトを、周囲の人間は目で追うことしか出来なかった。今日行った全ての模擬戦を嘲笑うかのような高速戦闘だった。今のオルトを見れば、今までの模擬戦で得た以上の疲労を窺えるが、言ってしまえばその程度で済むレベルの本気を出したのだ。それは経験の長い者こそ重く捉えていた。

 オルトが訓練施設の端に設置されている椅子に座り休憩に入った。体内に残る非常に濃い疲労を吐き出すように大きく息を吐く。意識しながら呼吸をゆっくり整えていく。

 使用した消耗品のチェックを行う。今日使用しているエネルギーパックは徒党が出している物でオルトが購入する製品とは値段も内容量の桁も足りていない。表示装置が映すエネルギー残量は3割を減らしており、やはり交換しておいて正解だったと安堵する。

 弾倉はオルトの空の拡張弾倉を使用しており、オルトが弾倉の中身を撃ち切れば、弾倉を交換しない間は残弾無しの状態が続く設定になっていた為、実質的な弾薬の消耗はゼロ。

 オルトは今の自分の疲労感を心地良くも不甲斐なくも感じていた。

 

『ファナのサポートを受けた俺の今の全力。実際の戦闘時間はたったの9秒。それでも圧縮率を限界まで高めて全力を出し続ければ、心身共に疲労は溜まるな』

『お疲れ様でした。今回の模擬戦はなかなか有意義なものでしたね』

『全くだ。こういうのが出来るのも徒党の利点だよな。まあ俺にはファナが居るからそこら辺は心配ないけど』

『もっと頼って頂いても構いませんよ?』

『今でも十分頼ってるし、これ以上は甘えになりそうで俺が嫌だから適宜ってことにしとくよ』

 

 念話でファナとじゃれあっていると、近付いてくる姉妹が視界の端に映り、オルトは2人へと眼を向ける。

 セレスの表情は模擬戦を始める前よりも、ずっと穏やかなものになっていた。逆にルインは少し困ったような顔を見せていた。

 

「お疲れ様。あっという間に終わらされちゃったわ。あれがオルトの全力?」

「一応な。そっちの、ルイン? から全力でって頼まれたから実戦用の全力を出したつもりだ」

「実戦用ですか……。あそこまで一方的にやられるとは思いませんでしたけどね。予想以上です」

「あんなことが出来るなら最初からやって欲しかったってのもあるわね。周り見てよ。驚きでまだ真面に動けない人がそこそこ居るわ」

「訓練目的での本気は出してたぞ? 訓練中に怪我してどうするって話でもあるしな。疲れてるから周りに人だかりが出来なくて助かってるよ」

「変な感性してるわね」

「まあな」

 

 オルトが、ある程度疲労が抜けたところで帰り支度を始める。一度家に帰って帰ってから下位区画を散策し、どこかのレストランで夕食を取るつもりだった。

 姉妹が2人で少し相談をしてからオルトへ改めて向き直る。

 

「そうだ。夕食一緒にどう? ちょっと話したいこともあるし。私達この都市で結構長いから良い店知ってるわよ?」

「そうか? それならお言葉に甘えようかな」

「決まりですね! ではオルトさんの泊っている宿の前で集合ということで」

 

 姉妹がそう言うと連絡先を交換し、訓練施設から出ていく。その後を徒党の幹部らしき人が追っていく。

 ファナが不思議そうにオルトを覗き込む。

 

『オルト。随分あっさりと決めてしまいましたが大丈夫ですか?』

『俺はこの都市のことなんて殆ど知らないからな。この都市の地理に詳しい奴がお勧めするレストランなら美味しい料理が沢山あるはずだ。それに今日の食事代は向こうの経費になるしな。店をどうしようか悩む必要も後で報告する必要も無くなるんだ。大丈夫だろ』

『そうですか。それならば問題ありません。それでは1日の締めを楽しみましょう』

 

 ファナが危惧したのは姉妹へのオルトの関心の強さだ。オルトは一度決めたことは大抵の事では曲げることも止めることも無い。しかし例外は幾つかある。ファナはそれを把握しているからこそオルトの交友関係に明確に口出しすることを控えている。オルトの目的はファナの目的ではない。逆も然りだ。ただ方向性が一致しているからこそ契約成立に至り、オルトはその履行を行う為の努力を惜しんでいないだけだ。

 危険ではあるが許容内ではある。今のオルトの興味は姉妹よりも食事に向いている。そこまで優先度は高くない。問題は無いだろうとし、その懸念への対処法の選出を切り上げた。

 オルトはクモンズや徒党の上層部の人間に挨拶をしてから徒党の敷地を出た。オルトの挨拶に返ってきたものは理解出来ないものを見る視線と、客人へ向ける柔らかな抑揚が抜けた形式的な挨拶だけだった。

 

 

 オルトが宿に帰り軽く汗を流す。疲労感は凄いが、眠気は無い。回復薬の中には戦闘継続の為に眠気を抑え、意識を保つ効果も入っている。最後の模擬戦前に少量飲んだ為、効果が切れるのはナノマシンが身体の傷を修復し、機能を停止させるか、待機時間が終了して効果切れを待つかの二択だ。今日はもう戦闘は無いので実質一つではあるが、食事という楽しみを味わえるのだからとその効果に感謝している。

 オルトは風呂場から出ると格納棚に入れておいた強化服に身を包み宿の出入り口で待つことにした。

 すぐに見覚えのある模様の描かれた車がオルトの前に止まり、セレス達が顔を出す。オルトが乗車し、車が目的地へと走り出した。その先は防壁と一体化しているゴリンビルだった。

 

 

 ゴリンビルの下層にあるレストランに入り、予約をしていてくれたのだろう個室に入り、3人で食事を取っている。その姿は傍から見ることが可能ならば、少々オルトの印象を変えるものだったが、本人は全く気にせずテーブルに並べられた大量の料理を次々に口の中に入れている。その様子を見ていた姉妹の顔には笑顔が固まって浮かんでいた。

 ある程度オルトの胃が満足感を覚えると、そろそろ返答してくれるだろうと姉妹が話しかけてくる。それまでも声を掛けられていたが、模擬戦を延々と繰り返していたオルトの肉体は大量の栄養を求めていた。

 

「それにしても女子との食事に強化服は無いんじゃない?」

 

 オルトは高価そうな強化服を身に着けており、姉妹は少々めかし込んでいる。第三者から見ればハンターが自分の稼ぎで、好みの女に食事を奢っていると見えるだろう。事実は別として。

 

「そうか? 最高級のレストランにって訳でもないし、俺はハンターだから特に不思議はないと思うけどな」

「最高級レストランというと、クガマヤマ都市の?」

「ああ。シュテリアーナって店だ。あそこの食事は凄かった。それまでの俺の味覚を破壊してくれた」

「破壊って、そんな表現になる? というよりその時はちゃんとした格好だったってことでしょ?」

「今は依頼中で俺の家はクガマヤマ都市にある。流石に服を取りに戻る訳にもいかないしな」

 

 オルトがそう言うとセレスも不満気だが納得したように頷く。

 ルインがそれならと手を合わせて提案をする。

 

「でしたら是非ゴリンザン都市へ移住しませんか? 私達の徒党に入れば住居に関しても問題ありませんし。オルトさんなら直ぐに上へ行けますよ」

 

 ルインの勧誘は想定していた通りだった。オルトは予定通りに答える。

 

「勧誘してくれてありがとう。でも悪いけど俺は1人で行動するのが好きなんだ。好きというか性に合ってるっていうか向いているんだと思う。だからその勧誘は断る。そう上の人らにも言っておいてくれ。今回の依頼もその布石だろうしな」

 

 徒党の幹部に望みは薄くとも可能性は無くも無い、ということで頼まれていた姉妹の顔が少し微妙なものへと変わる。

 

「やっぱりバレてるのね。まあ露骨過ぎというか何というか」

「まあクモンズさんは最初から気付いていましたし、仕方ない部分はありますよ」

「よね。でも残念だなー。一緒に居られればオルトの強さの秘密とか技術とか盗める部分を見つけ易いって思ってたのに」

「本人の前で言うことかよ」

 

 姉妹が用事は済んだとばかりに他愛無い話題を上げつつ会話を楽しんでいる。

 

「それでですね? 私達は2年以上前に孤児院から徒党に入ってハンターになったんです。それからは色々大変でした。遺跡探索は怖いですし、モンスターは恐ろしいですし、……仲間が死ねば悲しいです」

「……それでもハンターを続けてるんだな」

「私が無茶を言った所為でね。でも今はすっかり頼もしい私の相棒になってくれたの。色んな情報を集めて教えてくれるし、荒野(こうや)では私の至らない部分を補ってくれたりね」

 

 セレスとルインの過去の話を聞きながらオルトはすっかり少なくなった料理をゆっくりと口に運ぶ。

 姉妹の会話の中にはお互いへの信頼関係を窺えるものが多く、その表情は華やかにオルトの視界に映っていた。

 

「それで、オルトのハンター稼業はどんな感じなの? 私達これでもちゃんと足場固めとかしながら、それでも結構な速度でハンターランクを上げたつもりだったんだけど」

「俺か? 基本は遺物収集だな。汎用討伐を受けてモンスター討伐もするけど、基本的には戦闘は避けて遺跡探索がメインだ」

「モンスター討伐をメインに置かなくてその強さですか」

「強くなきゃ直ぐに死んじまうからな。死なない為に強くなるし、その強さが俺に安全な遺物収集を行わせてくれる」

 

 オルトの考えでは強さはただの必須事項であり、不必要な要素だったのであれば即座に捨て去る物だった。しかし遺跡の奥へ行けば多種多様のモンスターが群れを成している。殲滅可能な戦力を個人で保有する為に強くなることは必要条件だった。

 

「へー、そういう考えか。因みに何だけどさ? やっぱり強さの秘訣は装備? それとも訓練?」

「うーん、どっちも重要だと思うけどな。……どっちかに絞るなら訓練かな。装備は良い物を使うのなんて当たり前だし、それを使い熟せないならどんなに良い物使っていようと無意味だろうし。でも訓練ばかりってより、良い装備を買って使って慣れての方が良いとも思う。実際俺の装備は結構な値段する分高性能だし」

「やっぱり高級品なのね。何処製だっけ?」

「FARBEってところの製品だ。気になるならカタログ送ろうか? 装備購入の時に色々貰ってるんだ」

「あっ。では頂けますか?」

 

 オルトは情報端末に保存しているFARBEの製品カタログを姉妹に送信する。そこに載っている製品はオルトが使うに値する装備。つまりは最低額の桁が億の商品ばかりだ。

 姉妹は口元が引きつりながらもその内容を見ている。

 

「オルトさんの強化服はっと……、あった。ろ、6億!?」

「え!? たっか!」

 

 姉妹が驚愕の表情を浮かべる。更にあまり知りたくはない情報もきちんと記載されている。

 

「セレス。これ基本構成でこの値段ですよ」

「つまり拡張部品を組み込んだら更に……。ちょっと待って、銃もあったわよね」

「そっちは1(ちょう)1億オーラムですね」

「つまり合計で約10億オーラムってことか。なんていうか格が違うというか。今更ながら模擬戦の内容に納得がいくというか……」

 

 2人から向けられる呆れも混じった羨まし気な視線に耐え切れずオルトは眼を逸らしている。

 オルトが自分の話題から逸らそうとする。

 

「2人の装備も結構良いやつだよな? そっちはどうなんだ?」

 

 姉妹が下手な話題変更に訝しげにオルトを見つめるが、直ぐに笑顔を浮かべてそれに乗る。

 

「露骨ねー。まあ良いけど。私達の使ってる強化服は1着大体2億オーラムってところね」

「やっぱり結構な値段するんだな」

 

 高い強化服を徒党が購入し、それを貸し出して貰い荒野(こうや)へ稼ぎに出る。徒党に属する利点の一つだ。

 

「セレス。それ徒党が他にも色々購入するからって条件で結構値引きされた後の値段ですよ」

「え!? ……いや、何でルインはそんな事知ってるの?」

「私、偶に経理の方の仕事も手伝って稼いでますから、そういう書類も見ることあるんです」

「私それ知らない……」

 

 姉妹の楽しそうな会話を聞きながら、オルトは大量に頼んだデザートを胃に詰め込んでいた。自分の知らない徒党の利点や内情はオルトの知識欲を十分満たしてくれた。大量のデザートは食欲を満たしてくれた。

 

 

 3人は自分達のハンター稼業や装備、依頼等について楽し気に話しながら食事を終え、それぞれ帰路についた。

 明日は早朝から輸送車両の護衛が始まる。万全の状態で臨むために合同訓練によって溜まった疲労を取っておかなければいけない。

 オルトが高い宿の、広い風呂で睡眠欲求を蓄えながら、今日の事を思い返す。

 

「今日は自分がどの程度戦えるのかの良い指標になったな。装備の性能に頼ってる部分で負ける場面もあった。そこを克服していかないとだな」

 

 力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開可能とはいえ、相手が対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾を使用すれば貫かれる。過去に自分がそれで一気に有利な状況へと変えた。どんなに高性能な装備であっても過信は禁物だ。

 

『途中から徒党内で上位のハンター達も参戦したのは幸運でしたね。彼らも低ランクのハンターに負けて評価を落とす訳にもいかず、全力でオルトを倒しに来ていました』

「凄い気迫だったな。俺のランク、依頼終わってないからまだ26だもんな。40とかの奴がそのランクの奴に負けるとやっぱり徒党内の立場に響くんだろうな」

『オルトならばすぐに彼らを追い越せますよ。ランクでも、実力でも。私が付いていますからね。ご安心を』

「助かるよ。でもまずはこの依頼をちゃんと終わらせようか。そんで都市に帰ったら遺物をどうするか決めないとだな」

 

 新装備調達に付属してきた面倒事は思いがけない形でオルトの糧となってくれた。慢心せず、技術と経験を吸収し成長へと繋げる。いつも通りをいつも通りに出来ればそうそう負けることは無い。

 強敵を相手にいつも通りを崩された場合、立て直しはほぼ不可能だ。そのまま押し切られ殺される。強者はいつも通り勝つか、たとえ崩されたとしても立て直しの手段を多種用意して反撃に出られる者だ。

 未だオルト自身はその域に居ない。しかし、悲観は無い。自分の視界の中に居てくれるファナがオルトをその場所へ導いてくれる。オルトは信じて進むだけだ。どんなに過酷な道程が待っていようとも。

 だからこそ今日もいつも通りをする。風呂で疲れを取り眠気を溜めてベッドで気持ち良く眠る。明日また目覚められるように。

 

「お休み。ファナ」

『はい。おやすみなさい。オルト』

 

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