リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

14 / 40
・第十四話 再装填完了

 

 翌日、久方ぶりに自宅のベッドで起床したオルトは何故か非常に不機嫌であり、そのまま倒れ込み二度寝を敢行した。ファナからの苦言もなく、追加でたっぷりと睡眠を取れたオルトは誰に憚ることもせず、昼前の時間帯から意気揚々と行動し始める。

 今朝起床した際に感じた異様な不快さは二度目の起床時にはさっぱりと消えており、オルトは強化服を着用してから、いつも通りの気分のまま倉庫内に納められている遺物を整理する。

 オルトの家の倉庫には遺物によって全体の7割近くを占める程の山が形成されていた。オルトはその山を見上げながら、面倒だなという贅沢過ぎる感情を持っている自分に呆れながら換金に回すつもりのない遺物を車庫へと出していく。

 グレイが収集した遺物の中には幾らかの衣類系の遺物が交ざっており、オルトが指定した店舗に並ぶ商品は深い階層に位置する(ぶん)、相応に高額な商品だった。オルトは衣服に頓着する方ではないが、車に積んでいた肌着、正確に言えば強化服との間に着ておいて強化服と皮膚の摩擦(まさつ)を限りなく少なくさせる為のインナーは車と一緒にアーミーマメストラによって潰されてしまい、無くなってしまったのだ。

 旧世界製の遺物特有のその強靭さに依り、もしかしたら未だアーミーマメストラの体躯の下で無事その形を保っている可能性はゼロでは無いだろうと思うが、取りに行きたいとは思えない。回収する為には()ず賞金首と化した芋虫型のモンスターの排除を先行しなければならないが、その為の武器も消耗品も全く足りていない。

 第一、オルトがアーミーマメストラの出没地域へと足を踏み入れる前に他の賞金首と遭遇してしまう可能性すらある。他の賞金首に遭遇することなくアーミーマメストラの(もと)まで行ったとしても戦闘中の銃声(じゅうせい)爆撃音(ばくげきおん)(など)の戦闘音を察知され、乱戦に発展しては目も当てられない。

 オルトはそんな事態に遭遇する危険性を許容することは出来ず、(しばら)くは都市の中で安全に過ごすことにしている。

 30分ほど掛けて車庫に取り出した衣服が梱包されている遺物は、結構な量だった。

 

「それにしても結構な量の衣類が有るもんだな。肌着はどれだ?」

『遺物の拡張表示機能が切れています。専用の機器を使用しなければ確認することは出来ないでしょうね』

「うーん、鑑定に出す金なんか残ってないからな、幾つか開いて女性物(じょせいもの)とかが有ったらグレイかカオルの所に持って行くとしよう」

 

 オルトが深く溜め息を吐きながら梱包されている衣服の確認を続けるが、一向にインナーとして使用可能な衣服が出てこない事に気付くと気を落として近くの椅子に腰かける。

 オルトの気落ちは結構なもので、何度か吐いている溜め息の深さがオルトの状態を表していた。

 

「俺だって多少、……まあ、結構? 運の無い方だって思ってはいるけどさ。ここまでは酷い気がする。中身が見えないってことでグレイと半分ずつにしたから少なくとも二分の一だ。それでも結構な量がある。それで見事に外すのかよ」

『質は悪くないので防護服ぐらいにはなるのですがね。こればかりは運が無かったと諦めましょう』

「……そうだな。遺物収集は出来た。そこまでは運が良かったんだ。収集した遺物の中身が見えない事ぐらいで落ち込んでいられないな」

 

 オルトは立ち上がり開いた遺物をリュックサックに男性用と女性用で仕訳(しわ)けておく。少なくとも男性用の衣服ならば室内用に普段使いしても問題無いだろうと考え2階に放り投げておく。

 女性用の旧世界製の衣服はその内カオルの店に顔を出す機会がある為、その時にでも持っていこうと思い、そのまま車庫に放置。再度、倉庫内の遺物の整頓を開始した。

 種類毎に分ければ後々買取所へ持って行く時に高価な遺物と安価な遺物を混ぜ込みながら換金すれば、そこまで目立つことは無いだろうと思っての行動だ。

 遺物を整理してみれば乱雑な状態では埋まっていた倉庫内は結構な広さを感じさせるに至っていた。オルトは一旦これで済ませておこうと考え倉庫を退出する。

 

 

 2日ほど過ぎ、オルトの情報端末にバイクの修理が完了した旨の通知が届き、オルトは早速整備業者の元へと向かっていった。

 数日前までは悩みの種であった荒野(こうや)仕様の大型バイクは既にヤナギサワに細工されていた位置情報送信機能を強敵との戦闘で壊れたとして消去した。残ったものは高性能なだけの大型バイクだ。

 全体の把握の為に自分の情報端末を接続して強化服側との連携も再度実行する。自動運転機能で自身の周囲を回らせ、そこに介入し速度を増しながら車体を徐々に傾けていく。

 ファナの再調整が済んだタイミングでオルトも訓練を終え、トライフワーデンへと向かった。

 

 

 トライフワーデンへと向かう途中に遺物の事を思い出し、一度家に寄ってから来店することにした。

 駐車場にバイクを停めて店内へと入ると、中ではカオルとエルがいつも通り接客しており、その客は大量の弾薬とエネルギーパックを持って退店していった。

 オルトが2人に挨拶をしてから自分の購入品を確認する。

 倉庫に保管されていた商品が続々と駐車場内に広がっていく。オルトは最初に運ばれてきたバイクで牽引する台車を広げ、商品の確認しつつその台車へと積んでいく。

 

「新品の格納棚に弾薬類、エネルギーパックに修復用資材カートリッジ。頑丈なリュックサックを幾つか。そしてご注文の品がこいつだ」

 

 カオルが最後に取り出したのはオルトの身長を悠に超える全長を持った改造品のK2R複合銃だ。オルトが元々使用していた取り回し重視の連射と威力向上用拡張部品を組み込んでいた物とは、目に見えて大きさが違う。

 

「威力向上用の拡張部品を複数組み込んだ威力特化型のK2R複合銃だ。威力が高い所為(せい)で非常に反動が強い。それを抑える為の反動抑制用の拡張部品も組み込んであるから更に大型化した。お前の強化服なら問題無く扱えるだろうがな。それぞれにエネルギーを使用する。コストパフォーマンスは最悪だが威力は比例する様に凶悪だ」

 

 オルトの要望を詰め込んだ一品だ。連射速度の向上や、狙撃精度の向上も含めて改造されたK2R複合銃はそこらのモンスターならば1発弾丸を掠らせるだけでも絶命させかねない威力を誇る銃撃を精確に、そして3000万オーラム程度のミニガンを超える速度の連射を可能としている。

 重量が重量だった為に、銃のグリップが銃の側面に付くことになったが、使用して慣れていけば問題は無いとしてカオルに頼んでいた。

 オルトが早速補助アームに取り付け、背負う形を取るとその歪さが如実に表れている。

 最近身長も健康的に伸び始め、身体(からだ)付きも良くなってきてはいるが、それでも年齢の割にという程度だ。子供の体躯で持つ様に設計されていない大型の銃とのアンバランスさがオルトの経歴の異常さを物語っている。

 エルがそのオルトを見て感嘆する。

 

「うーん。物凄く強そう……」

 

 オルトはその言葉に少し考えて答える。

 

「ちゃんと使いこなして物凄く強いにしておくよ」

「あ、えっと、そう意味で言った訳じゃなくて……」

「大丈夫だ。分かってるって。この前グレイをいじったって聞いてな」

「……むー」

 

 揶揄われたのだと気付いたエルがポカポカとオルトを叩くが、じゃれているだけだ。

 その2人のやり取りを見て数分ほど微笑ましく笑っていたカオルはオルトの代わりに台車へと消耗品を乗せていた。そして全ての購入品を乗せ終えると二人を軽く窘める。

 

「オルト。うちの愛娘を口説くのはそこまでにして貰おうか?」

「もう! パパまで―!」

 

 エルはそのまま拗ねたように店内へと走っていったが、丁度来客した為か、斜めになっていた機嫌を隠して丁寧な接客を始めた。

 その様子に成長を感じているのかカオルが目元を緩めている。カオルはカオルで悩みもあり、そして嬉しいことも有るのだろうと考え、オルトは感慨深げにしているところの邪魔はしなかった。

 オルトは流石に大きすぎる威力特化型のK2R複合銃をバイクのアーム式銃座に取り付ける。()いた補助アームには台車に積まれている修理に出していたK2R複合銃を取り付けることで輸送車両の護衛時の装備に戻った。

 

「それで、今日からオルトはハンター稼業再開か?」

「装備も整ったからハンター稼業再開! ……と行きたいんだけど、変に賞金首と遭遇するのは避けたいんだよな……」

 

 オルトが直近の予定はどうしようか悩む。そこで、ふと今日の目的を終えていない事を思い出す。

 バイクの補助アームに掴ませていた大型のリュックサックをカオルに手渡す。カオルが急に手渡されたリュックサックを確認すると、中には女性用の下着やら上着やらが取り敢えず詰まっていた。

 カオルはその内容物を見て顔を(しか)める。

 

「おい、オルト。お前、荒野(こうや)に」

 

 駐車場で女性用の衣服を渡してきた事ではなかった。

 

「少し前にも持って来ただろ? 倉庫に有ったやつを持って来ただけだ。誓ってハンター稼業は休業中だった」

 

 嘘は言っていない。しかし誤魔化している。カオルの勘はそう言っているが、どこをどう誤魔化せば倉庫に収集していない遺物が有るのかは不明だ。少なくとも不十分な装備で荒野(こうや)へと出ていないという事だけは理解出来た。

 カオルが大きく息を吐き、それでオルトの言葉を肯定する。

 

「……これは換金すれば良いのか?」

「いや。土産として渡そうかなって持って来ただけだ。そっちで換金でも何でも自由にしてくれて構わないから気に入ったやつが有ったら残して使えば良いと思う。……エルが」

「元から俺は着ねえよ。そんな趣味なんかないからな」

 

 持って来た衣服は全て女性用だ。カオルにそれを着てから接客などされたらきっとオルトは集中できないだろう。

 少なくとも成長期のエルにはある程度、身体の変化に対応してくれる旧世界製の衣服は重宝(ちょうほう)するだろうと思い持って来たのだ。彼女もまたオルトの貴重な友人の1人だ。偶に貰えるアドバイスや、ハンターではない視点の発言も非常に有り難く思っており、オルトは自身の思考の一部にエルの発言も交えていることが多々ある。的外れな事も多いが、それでもオルトだけでは考え付かなかった事に気付ければ非常事態が発生した際の適切な行動へ素早く移行することが可能になる。

 カオルが小さく溜め息を吐き、少し強めの視線をオルトへと向けた。

 

「他にも遺物が有るなら俺からFARBEに渡しておくが?」

「……他に持ってこれる物が有ったら持ってくるよ。その時は頼んだ」

「分かった。その時を待っておこう」

 

 オルトはカオルと共に店内へと戻りエルに挨拶をしてから退店していく。

 新しい装備の性能を試す時は今ではない。

 だがいずれ訪れるその時を悠長に待てる程オルトは強くない。その自覚と共に帰宅する。

 

 

 数日後、オルトはバイクの台車に遺物を乗せてスラム街を走っていた。一度ヒガラカ住宅街遺跡(じゅうたくがいいせき)まで行き、替えの弾薬を入れるリュックサックの中に入れておいた遺物を別のリュックサックへと入れ替え、スラム街まで引き返してきたのだ。二度手間と感じはするが、都市内部に遺物を溜め込んでいると勘付かれたくは無いので多少の手間は許容した。

 オルトがカツラギの居ると思われる座標まで来たが、そこにはどこかの徒党が占拠している大きめの建物が建っており、その徒党の構成員だろう子供達が軽く武装して警備している。

 

『カツラギが今日はここに居るからって言ってたけど、ここを占拠している奴らとどんな関係なんだろうな』

『さあ。少なくともオルトの敵ではありませんね』

『スラム街でそんな戦闘能力が必須だったら恐ろしいけどな』

 

 入り口近くでバイクを止めたオルトの装備を見た構成員の内、比較的高価な装備をしている子供が話しかけてくる。

 

「こ、ここにハンターが何の用、ですか?」

 

 周りの子供達も同様にオルトを見ているが、その視線はオルトの装備、特に威力特化型のK2R複合銃へと向いていた。彼らもここまで大型の個人兵装の銃を見ることはそうそうない。彼らの見る巨大な銃と言えば、偶に上空を通る都市の防衛隊が操縦する人型兵器の所持する銃ぐらいだ。銃口から放たれるその威力を想像することさえ出来ないだろう。

 オルトもこの装備を見せつけることでスラム街の住人が自分への対応をマシなものへと変えるなら、買った甲斐も有ると頭の隅で考えつつ、(よう)を伝える。

 

「ここにカツラギって奴が居る筈なんだがどこに居るか知らないか?」

「か、カツラギさんですね。少々お待ちください」

 

 警備をしていた子供の内、数名が屋内へと向かっていく。

 外に残っている警備はオルトを刺激しないように銃からも手を放し、いきなり訪れた過剰な攻撃力を持った知らないハンターの対処に困り顔を強張らせていた。

 (しばら)く入り口の近くで待っていたオルトに警備の1人が話しかけてくる。

 

「え、えっと。名前を聞かせて貰ってもよろしいでしょうか?」

「オルトだ」

「……分かりました。案内します」

 

 オルトが名前を告げた後、警備の子供は少し疑問を浮かべながらオルトの装備を見ていたが、それ以上は分からないという風に敷地内にオルトを案内し始める。オルトもそれに続く為にバイクから降り、自動追従機能を使用して自分の後を付いてくるようにした。

 

 

 オルトが通された場所は広めの倉庫の様な場所だった。内部には未だ何かがある訳ではないが、その内何かを積み上げられるのだろう空の棚が幾つも規則正しく並んでいる。

 その隣室。裏手から入ることが可能な車庫へと更に案内され、そこには見覚えのあるトレーラーが停車していた。

 数人の同業者と話している途中に、オルトを発見したカツラギが彼等との会話を一旦切り上げてオルトの方へ歩いてくる。

 

「よっ、オルト。久しぶりだな。お前あれから俺のとこを利用してくれなかったじゃないか」

「色々あったんだよ。今日は二つほど用件があるから安心してくれ」

「そうか? それなら早速取り掛からせて貰おうか」

 

 オルトは荷台に置いていた遺物の入ったリュックサックから遺物を並べていく。

 グレイに頼んだのでファナの選出ではないが、それでもヨノズカ駅遺跡の深部で収集した遺物達だ。それなりの値には()るだろうと思って持って来たので、万が一値切ろうとしたらそのまま帰る予定も立てている。

 オルトの持って来た遺物を見ている商売人たちが目を丸くしているが、全部置き終わったオルトはカツラギが用意していたテーブルに座って、同じく用意されたコーヒーに口を付けてからカツラギとの話を始めた。

 

「急に連絡があってビックリしたが、あの遺物の量だ。あいつらも嬉々として鑑定するだろう。……ただ少し時間が掛かる。待って貰うことになるが大丈夫か?」

「ああ。高値で買い取ってくれるなら問題は無いからな。しっかり鑑定してくれ」

「お手柔らかに頼むぜ。そういえば二つって言ってたな。もう一つは何だ?」

「ちょっと仕入れて欲しい品が有ってな。今有るならそのまま買うつもりだが」

「ほう? 漸く俺のとこの商品を買う気になったか。それで、その品ってのは何だ?」

 

 オルトがバックパックに入れていた回復薬を取り出す。ヤナギサワから貰った回復薬だ。それ自体は既に空だ。荒野(こうや)仕様の大型バイクと共に頂いた品だったが、最初は10箱あった筈が長期間の依頼とクガマヤマ都市への帰還中の奇襲により既に残りは1箱しかない。予備すら無いのは危険と判断したオルトは、クガマヤマ都市で購入可能であるのならば補充しておこうと思い、どこかの回復薬を専売している店舗に行こうかと考えた時、カツラギに回復薬を購入しに行くかもしれないという話をしていた事を思い出した。

 倉庫内の遺物を減らすついでに、その言葉を果たしておこうと思い立ち、今日連絡を入れたのだ。

 テーブルに置いた回復薬をカツラギが眺めている。その表情は商品を吟味する為に真剣なそれに変わっていた。オルトやアキラと閑談する時の、非営業時の物とは違う、商売人としての顔だ。

 

「……お前、これの値段は知ってるのか?」

「高額商品って事ぐらいだな。性能も良いし。有るなら5箱ぐらい欲しいんだけど」

「高額って……ちょっと待ってろ!」

 

 カツラギはその回復薬を情報端末で撮影した後、他の商売人の所まで走っていった。

 

 

 カツラギがオルトの求めている回復薬の在庫が無いか聞き込んでいるが結果は芳しくない。

 その回復薬は最近発売された商品だ。今まで使用されていた、長期間多くのハンターが使用していたという安心感が無い商品だ。在庫補充するにしても購入者が居ない商品であれば倉庫を圧迫する上、効力が永遠と持続する商品ではない。内部に保管されている治療用ナノマシンも長期間放置していれば勿論劣化する。治療効果がどれだけ高くとも現代製だ。保管期間には限度がある。

 そんな回復薬を使っているハンターなどクガマヤマ都市にそう居ない。ランクの低い若手ハンターであるなら尚更だろう。そしてそのハンターは一見すれば大型の銃を余裕で扱える強化服や高価そうなバイクを所有している。並の稼ぎではないハンターだと想像に(かた)くない。

 

「おい、カツラギ。あいつがお前の言ってたアキラって奴か?」

「いや違う。情報収集ぐらい自分でやれ。それで遺物鑑定の進捗はどうなんだ?」

「質が良いし、量も多い。個人的には一旦持ち帰ってじっくり鑑定したいんだがな」

「それはダメだな。俺はあいつを怒らせたくねえ。あいつの目の届く所でじっくり調べてくれ」

「へーへー」

 

 カツラギから注意され、他の鑑定人達も改めてオルトを見る。そして自分達の情報端末を取り出して遺物の鑑定に支障が出ない程度に収めつつも、興味本位で検索にかけていく。

 軽く調べただけで分かることの一つ、ハンターオフィスの掲載情報ではオルトはハンターランク1から始めている。多少の信用のある場所からの紹介等でハンターに成った者や、金を持ってさえ有れば最初からランク10からスタート出来るが、そのどちらの選択肢も選ばなかった人物、選べなかった人物となると、それは訳有りかスラム街の住人だったかの二択だ。どちらにしても危険な人物であり、現在の装備もまたそれを証明している。

 1人の商売人が情報端末に入った通知を確認して笑顔を浮かべた。

 

「おいカツラギ。その回復薬の在庫が残ってる奴が見つかったぞ。俺が取って来るとするよ」

「おう、任せたぜ」

 

 商売人の1人が車庫から出ていくのに合わせてカツラギはふと思いついたことを実行する。これが成功すればもっと利益が伸びる筈だと内心期待して。

 

 

 オルトは遺物の換金が終わるまでカツラギが用意したテーブルで、同じく用意されたコーヒーを何杯かおかわりしながら鑑定されている遺物を情報収集機器を利用して確認していた。

 グレイが収集し、倉庫で整理した際にある程度の把握はしたがそれは未開封時の物だ。その上、商品自体の拡張現実表示機能が切れている為、鑑定人たちは外部から機器を使用し内部の確認を行なっている。

 オルトの情報収集機器の性能ならば、幾ら広いと言えど所詮はスラム街に立つ倉庫の一室内であれば容易に形を掴めるのだ。機器の表示装置に映された遺物の形状などを拡張視界に投影しながら時間を潰していた。

 オルトが訓練ついでに情報収集機器で遊んでいると車庫に数人の子供が入ってくる。

 数人の安い装備で身を固めた徒党の構成員と高そうな衣服に身を包むシェリルだった。

 シェリルとカツラギがオルトの座っているテーブルの席に着き、シェリルはスラム街の子供とは思えない程、丁寧な所作でオルトに挨拶をする。

 

「お久しぶりですね。オルトさん。今日は少しお話したい事が有りまして足を運ばせて頂きました。お時間は宜しいでしょうか?」

 

 シェリルの仕草や言葉遣いにオルトは少し怪訝な表情をしたが、この場に居るのは自分達だけではなく、遺物の鑑定をしている商売人や鑑定人がいる。シェリルとアキラの伝手はグレイの報告から切れていない事が窺える為、オルトはその工作に多少乗ることに決めた。

 オルトが態々、場の雰囲気が変わるように、何らかの商談をする様に表情を締めて口を開く。相手の立場は自分よりも同等か上の様に自身を誤魔化しながら。

 

「ええ、お久しぶりですね。シェリルさん。問題ありませんよ。時間は、だけですがね」

 

 オルトは隣に座っているカツラギに少々鋭い視線を向ける。邪魔な人間をこの場から退()けろと。

 カツラギの顔が急に強張り、丁寧に席を立つと他の者達を車庫から追い出す。ついでに鑑定も続けられるように遺物も渡した。追い出された者達は良質の遺物を運び込めるハンターとそのハンターと伝手を持っている少女という構図に頭を悩ませながらの鑑定を強いられる羽目になった。その両名を怒らせればこの件から外され、今後()られ()る利益を逃すからだ。

 息を吐きながら再び席に着いたカツラギはオルトを睨むが、睨まれたオルトは済ました顔で流し、そのままコーヒーに口を付けていた。

 

「……さてと、これで普通に話せるな。そっちの用件と要求について話してくれ」

 

 カツラギがトレーラーの中から書類の束を持ち出しオルトの前に置く。それを確認したシェリルが他者の目が無くなったにも拘らず変わらぬ口調で話を始める。

 

「それに記載されている計画はまだ骨組みだけですが必要な物資の確保は済んでいます。可能であればオルトさんにも御協力を仰ぎたく思います」

 

 オルトが渡された書類をペラペラと捲る。記載されている内容は遺物販売店の大まかな計画書だった。

 下位区画から出てスラム街に入った直ぐの場所に大きな店舗を構え、買い取った遺物の質によってランク付けし、階層毎に分けて客に売るというものだ。そして遺物についても初期費用としてアキラが収集した遺物を利用し、知名度を上げ入ってくる遺物と出ていく遺物の量を早い段階で均等にする事で長期的な利益の循環を生もうという魂胆だ。

 たしかにオルトはこれからも未発見の遺跡の捜索を続ける予定でもあるし、既知の遺跡であろうともファナにしか分からない高価な遺物の眠る場所が有れば誤魔化す必要も出てくる。

 しかしオルトにはこの計画の一番の懸念点が拭えない。

 

「確かに良い計画だとは思う」

「だろ? お前も協力してくれないか?」

「まあ、待てよ、カツラギ。……なぁ、シェリル。ここは、というかこの計画自体が利益を上げた還元先にアキラを想定している。そうだろ?」

「……はい。その通りです」

「つまり俺が遺物を持って来たとしても、買取額を適正価格から下げてアキラへの還元に回さないという保証が無い。少なくとも長期的に持って来るに値するかどうかが不明だ。俺の事を高く見積もってこの話を持って来てくれたんだろうが、苦労して持って来た高値になるはずの遺物を意図的に低く買い取られると俺も困る」

 

 淡々と語られるオルトの発言の内容は間違っていない。そこから徐々に増していく高性能な装備を持つに相応しいハンター特有の圧力が、シェリルとカツラギに仮想の質量で押し潰さんとし始める。両名の表情は内心に湧いてきた畏れを抱いても崩れることはなかった。しかし時間経過とともに増加する緊張感が影響して口を(ひら)けないでいる。

 その様子を確認したオルトは忠告は充分だろうと態度を和らげた。

 

「要は俺のこの不安を晴らす様な提案を期待するが如何(いかが)かな? という話だ。脅す気は無い」

 

 一変したオルトの態度から一安心とばかりに小さく息を吐いた2人はそれぞれ案を出し始める。

 (しばら)くオルトは2人と話し、オルトが持ち込む遺物の扱いについて決めた。

 オルトが収集した遺物は一時的にシェリル達が預かり、各遺物の目録を作成し店頭に並べた際の売値と客との交渉後、最終的に決まった売値の記載。そしていつ売れたのかの記載と最終的な売値の内、大半をオルトへ納めるという内容に終わった。

 オルトが遺物の卸し先をここに限定する制約は無い。その(うえ)遺物の価値の流動性を目に見えて把握し易くなり、全体の内、幾らの遺物が売れずに残っているかの確認も大よその推測が出来る。彼等が売買に精を出せばその分オルトの取り分も増えるし、オルトの持っている遺物を渡せばアキラからの初期費用が尽きても一月は問題無く店を回せるだろう。

 

「まあ、お前が持って来る遺物の価値はいつも良質なのが多いからな。これぐらいは痛くはねえさ。……期待してるぜ?」

「それはその時の俺に言ってくれ。少なくとも今は無理だけどな。賞金首が5体も徘徊してるんだ」

「さっさと討伐されて欲しいもんだ。……お前でも賞金首の討伐は厳しいか」

「準備万端なら容易に逃げられるだろうけど、討伐ってなったらちゃんと弾薬とかを持ち込む必要が有るからな。そこら辺解決出来るほど金は余ってないんだ。今回の遺物を高く買ってくれれば……って所かな」

「……アキラも賞金首の討伐に出るのでしょうか」

 

 シェリルがアキラの事を心配する様に顔を曇らせるが、オルトにはアキラの用事がどうなっているのかなど分からない。

 

「さあな。(かね)が欲しいにしても、名声が欲しいにしても賞金首は美味い相手だ。被害を気にしなければな。アキラが後者の人間には俺は見えないけど」

 

 オルトの言葉に、あからさまな安堵と人を安心させる笑顔を浮かべるシェリルに内心警戒の色を浮かべながらその後も外に追い出された者達を騙す為に時間を使いお開きとなった。

 

 

 シェリルが車庫から帰っていった(あと)商売人から回復薬を受け取ったカツラギが、オルトの前に置いていく。そんなカツラギをオルトが怪訝に見つめた。

 

「なあ。シェリルってあんな奴だったっけ?」

 

 その質問に対し、カツラギが首を横に振る。

 

「いや、俺も分からん。いつの間にかあんな風になってたんだ。アキラに聞いても分からないって言ってた」

「……最初に見た時は、徒党の頭に置いとけば多少の人集めは可能だろうなって感じだったんだけどな。あれならこの計画も問題は無さそうか?」

「無いだろうな。あの服を見ただろ?」

 

 ()われ、オルトがシェリルの着用していた衣服を想起する。それは現代の流行のデザインにあしらわれた衣服だったが、その質には見覚えが有った。

 

「……あれ、旧世界製の衣服を(もと)に使ったのか? 素体(そたい)もだが、仕立(した)て代も結構な額するだろうに、どこで仕立てたのやら」

「お、流石はハンターだな。実は先日ドランカムの幹部と話す機会が有ったんだがな? そいつは見事に騙されて高そうな服ってだけ答えてたぞ」

「……そうか」

「因みにあの衣服の仕立て代はアキラが全額持ったって話だ。150万オーラム掛かったらしいが、シェリルの演技も合わさって大抵の奴は騙されてるよ。乗ってくれて助かったぜ」

「助かったのならその(ぶん)買取額に加算しておいてくれ」

「そうだったな。お前が持って来た回復薬。御注文通り5箱。計3000万オーラムだ」

「買取額から引いてくれれば良いよ」

 

 オルトは回復薬をバックパックに入れてからそのまま車庫から出ていく。買取額がそれ以上の金額になった場合は、渡した遺物も先程の計画にでも使って貰おうと思いそのまま放置して帰った。

 カツラギがその事で他の事情を知らぬ者達に対して何をどう説明するかは知らないし、知ろうとも思わない。ただオルトは回復薬の補充が出来た事で心配事の一つが消えたことを内心喜んでいた。

 

 

 オルトが家の車庫で訓練を行なっている。

 大型の車両が無くなった為()いている空間は広い。邪魔になりそうな物を(はし)へと退()けておき、オルトはその広い空間の中で、必死の形相で自分を狙う六つの照準から逃げていた。

 家の中にはオルト1人だが、オルトの視界に映る女性は3人。それぞれグレイが使用している装備と同じ物を使用し、合計してオルトの戦闘能力より少し上の技量に調整したファナが両手の大きさに差が有る銃でオルトを銃撃している。

 人が持つには大き過ぎると思わせる全長を誇る狙撃特化型のK2R複合銃を悠然と振り回し、もう片手に持っている通常版のK2R複合銃を連射してオルトの逃げ場を徐々に無くしていく。

 迫りくる弾丸を避ける為に体感時間を高密度に圧縮し、拡張視界で把握した視界外のファナが向けている銃口の向き、引き金に掛かる指、そこから次の弾丸が辿る弾道を予測しながら密度の薄い方向へ飛ぶ。同時に両手に握るK2R複合銃をファナに向け連射する。ファナも棒立ちしている訳ではない。調整された戦闘能力に相応しい技量でしなやかに四肢を動かし、オルトの銃撃を余裕を持って回避している。

 オルトが走っていた天井を蹴って壁へと飛ぶが、ファナが狙撃特化型K2R複合銃3挺の狙いを合わせて、同時に着弾させ、その壁を粉砕(ふんさい)する。オルトの視界上から着地可能な場所が消えてしまう。緊急回避の為に何とか接地機能を利用して空中に足場を作ろうとするが、自力での生成は上手くいかず地面に着地してしまい、そしてその瞬間を集中的に狙われ1人のオルトが全身を()ち抜かれて死に絶えた。

 オルトが大の字に倒れながら首から上を動かす。

 

「死んだなー。何連敗だ? これ」

 

 ファナとの訓練は現実時間に沿えば1時間も行っていない。しかし体感時間の操作を行っているオルトの中で経過した時間は1日か2日か、いや、それ以上にも感じる時間の中、己に迫る架空の銃弾と弾道から逃げつつ、それを放つ者達への対処を行っていた。

 

『現在は6連敗中ですね。もう少し強化服の性能に慣れなくてはいけませんね』

 

 ファナがそう言いながらオルトの顔を覗き込む。そこには疲労の色が濃く見えるが、それ以上に映るのは落胆だ。

 オルトはアーミーマメストラから逃走を(はか)ったあの時に、一瞬に限り使用出来た現実解像度の操作の訓練を並行して行っていた。少なくとも強化服の性能を活かした挙動は徐々に良くなっている。良くなる分オルトが生き残る時間が徐々に伸びていくが、如何(いかん)せん現実解像度の操作を使用していた時の感覚を思い出そうとすれば頭痛に襲われ、集中力が途切れ体感時間の操作にも支障が出てしまう。

 ファナのサポート有りきでここまで来た弊害の一つだ。実力不相応の装備を使用している自覚も有る。技術か装備か。少なくともどちらか一つでも身に付けなければならない。その為に、日々高密度の訓練を続けている。

 オルトが休憩を終わらせる為に起き上がるとファナが服装を元に戻し情報端末を指差した。

 

『クロサワから通話要求が来ます』

 

 そう言い終えると同時に情報端末に通話要求が入ってくる。表示されているのは知らない連絡先だ。ファナが言うに相手はクロサワだが連絡を取り合うような仲になった覚えは無い。たった一度だけ地下街の探索チームで一緒になっただけだ。

 オルトが怪訝に思い情報端末へ向ける視線を鋭くしたが、このまま待っていても状況は変わらないと溜め息を吐き、諦めて通話要求に応じる。

 

「オルトだ。どういう要件だ?」

 

 オルトが特に口調を気にすることも無く通話に出るがクロサワは気にせず普通に話し始めた。

 

「久しぶりだな。クロサワだ。ちょいとハンター稼業での話が有ってな。今、時間は良いか?」

「今か? ……、もしかして賞金首関係か? あまり気乗りしない」

「そう言うなって。別に討伐に協力してくれって訳じゃない。別の話だ」

「別の話?」

 

 クロサワの話は賞金首の威力偵察をしている部隊への物資輸送をオルトに頼みたいという内容だった。

 現状賞金首は未だ5体とも未討伐状態であり、それぞれの賞金額は徐々に増加している。その賞金額が妥当と判断できる額になった際に、一番乗りし確実に討伐を可能にする為には対象の攻撃手段や範囲、弱点となる部位や隙の大きい挙動を把握しておかなければならない。

 その為、大きいハンターチームやハンター徒党はその数を上手く扱い、それぞれの賞金首に偵察部隊を送っている。しかし偵察と言えど荒野(こうや)に居れば、賞金首以外の所謂通常のモンスターの襲撃は避けられない。その対処にも、賞金首に捕捉された場合に逃走を図る為にも、弾薬や回復薬、エネルギーパックに車両に取り付けている装甲タイルなどの消費は必ず起こる。その補充をする為に都市に帰還していては意味が無い。荒野で活動を強いることになってしまった者達が安全に仕事を遂行出来るように、物資運搬の人員確保は必須事項。だが誰でも良いわけではない。万が一賞金首に遭遇しても問題の無い戦力を保有する人員を送る必要がある。

 それらの説明を受けたオルトは怪訝に思う。

 

「それならそっちで人員を出せば良いんじゃないか?」

「もう偵察部隊に何人も出してる。更に輸送に割くと討伐時に使用する物資の収集にも支障が出る。そこで実力も有る、一定の信用も出来るお前に頼もうって話が出てな。受けて貰えないか?」

 

 オルトは先日、中小企業が合同で行った物資輸送の護衛を無事完了したばかりだ。そしてその経歴はFARBEから非公開にしないでくれとも頼まれている。

 表面上、物資輸送を長期間行って何事も無く帰ってきたのだ。その方面の信用が今のオルトにはある。

 

「……報酬額は幾らか。何時(いつ)払われるのか。弾薬費等の経費はどうなるのか。それらを教えてくれ」

「そうだな。一箇所に付き2500万オーラム。現場にいる仲間が物資の確認を行うからそれが済んで、俺に連絡が入った後にお前の口座に入金するからその場で確認してくれ。経費については消耗品に限りこちらが払おう。限度額は設定させて貰うけどな」

「……」

 

 オルトはその話を聞きながら別の情報端末でグレイにメッセージを送る。

 

『宜しいのですか?』

『俺は車が無いし、台車だと一度に運べる量が少ない。グレイがレンタルしてる輸送車両なら問題は無いだろう?』

『そうですか』

 

 ファナとの相談も終わり、クロサワの依頼をどう受けるかどうかの確認が来る。

 

「そろそろ返事が欲しいんだが」

 

 オルトの黙っている時間が長くなってしまった為にクロサワの口調が少し強まるが、オルトはグレイからの返信を待つ。1分と経たずに問題無い旨を貰いクロサワへの返事が決まった。

 

「返事が遅れたな。受けるよ。物資を積み込みに行く時間と場所を送ってくれ」

「そうか。分かった。それじゃあまた明日」

 

 クロサワとの通話を終えたあと、次にオルトはグレイへ通話要求を送る。詳しい内容を話す為だ。数コールもしない内にグレイが応じたので、そのままクロサワからの依頼で生じる報酬について煮詰める為に、その日の訓練は終了とした。

 

 

「オルト。誘ってくれたのは嬉しいけど良かったの? 賞金首が居なくなるまで荒野(こうや)にはあまり出ないって言ってなかった?」

「良いよ。別に俺が賞金首に挑みに行くわけじゃないんだ。荷物を届けてさっさと都市に戻れば危険は少ないんだ。美味しい話なら乗るべきだろ?」

「そうだけどさ」

 

 翌日、オルトは荒野(こうや)を走っているグレイの輸送車両に乗っていた。

 下位区画でクロサワが借りている倉庫に積まれていた弾薬等の物資を、輸送車両に積み込み、教えられた位置情報を頼りに、その場に居る偵察部隊に物資を届けて回る予定を立てている。

 未だに賞金首は全て健在だ。幾つかのハンターチームが挑戦したという情報が流れていたが、賞金首が健在な時点で結果に付いては想像に(かた)くない。

 グレイが荷台をちらりと見るがそこには山の様に積まれた物資がある。計五箇所を回る必要がある為、普通の車両では運搬を難しくさせる程の総重量を誇る。オルトのバイクならば馬力が高いので動けるだろうが、バイクの高い機動力を活かせなくなる為に使えない。取り敢えずの保険として輸送車両の屋根に乗せてはいる。だが実際に使わなくてはいけない状況に陥る事態は御免被りたいというのがオルトの本音だ。

 グレイが情報端末の表示内容を再確認し呆れる。

 

「未だに1体も倒されていないのね。懸賞金の最低額がもう6億オーラムよ?」

「それだけ貰えたとしても割に合わないか、倒しに行ったは良いけど負けたって事なんだろうな」

「どちらにしてもそれだけの強敵って事ね。……私の銃なら効くかしら?」

 

 オルトが後部座席にあるグレイの狙撃特化型K2R複合銃へ視線を移す。その銃が有する威力は先日のファナとの訓練で身に染みて分かった。装填された弾倉が強化弾ならば自分の強化服を使用して頭部に纏わせた力場装甲(フォースフィールドアーマー)を容易く貫通する。

 

「賞金首が死に絶えるまで弱点部位に命中させ続ければ1人でも何とかなるかもな!」

「そこまでは無理かなー。第一、捕捉されたら逃げるか攻撃を躱さないといけないでしょ? 私にその技量は無いからなー」

「……世知辛いな」

「そうねー」

 

 実際グレイの狙撃精度の高さであれば、賞金首が所持する武装の有効射程外から当てること自体に問題は無いだろう。揺れる走行中の車上であってもだ。

 ファナのサポートも無く、強化服の性能もオルトより低い。その上でその技量だ。彼女の努力の賜物に他ならない。

 オルトが内心で感心しながらも情報収集機器で周囲の索敵をしていると近付いてくるモンスターの反応を捉えた。

 

「グレイ。俺がやる」

「……? ああ、これね。分かったわ」

 

 遅まきながらモンスターの反応を捉えたグレイからも了承を得て、オルトが立ち上がり自分のバイクを停めてある屋根に上がる。結構な速度を出している輸送車両の屋根を強化服の接地機能と姿勢制御機能を併用し悠々と歩く。

 アーム式銃座から威力特化型K2R複合銃を取り外し自分の補助アームに接続する。組み込んである照準器がオルトの表示装置に捉えた映像を表示する。表示された先で駆けているモンスターを見る。

 照準の先で駆けている四足歩行の生物系モンスターは3メートル程はある。既に体感時間の操作を行っているオルトが捉えているモンスターの速度は緩慢なものだ。現実時間でその速度で走れば重力で体勢を崩してしまうだろうと思わせる程には遅い。

 更に体感時間を圧縮し、そのモンスターの動作が完全に停止したとさえ感じる程に時間を停止状態に近付ける。K2R複合銃から伸びる弾道を予想しながらその着弾点をモンスターの頭部に合わせ引き金を引く。

 今まで使用していたK2R複合銃以上の銃声を荒野(こうや)に放ちながら、空中を弾丸が綺麗な弾道を描きながら駆けて行くと、さして間も置かずモンスターの頭部に着弾し、そのまま胴体も巻き添えにしつつ荒野(こうや)の更に先まで、放たれた弾丸は突き進んでいった。

 

(通常弾でこの威力か。良い威力だな。これが有ればあんな目に合わずに済んだか? ……いや、今更か)

 

 オルトは新しい銃の感触と感想を感じながら購入した銃の威力に満足していた。

 

『オルト。倒したのなら車内へ戻った方が宜しいかと』

『おっと。そうだな』

 

 オルトが威力特化型K2R複合銃を再度バイクのアーム式銃座に取り付け車内へと戻る。

 

「1発で決めたわね。お見事! って言いたいけどオルト的には微妙だった?」

「どうしてだ?」

「んー。なんかあまり嬉しそうじゃないからかな」

 

 オルトの先程の狙撃は自力での結果だ。索敵を情報取集機器の設定を逐一変更しながら反応を探り、微細な変化を発見し、その部分を集中的に探る事で明確な敵か潜在的な敵か無関係な誰かかの把握を行い、敵と判断したモンスターにグレイの運転する輸送車両の車上から狙撃するところまで全て自力の範疇(はんちゅう)だった。

 しかしオルトは微塵(みじん)も喜んでいない。最近の訓練において勝率が低い事で無意識に喜べるハードルを上げ、先程の流れの全てを些事(さじ)とさえ思い込んでしまっている。

 

「……どうなんだろうな。装備のおかげってのも結構あるし、最近上手く行ってないからちょっとした不満が少しずつ溜まってるのかもしれないな」

「……ふーん?」

 

 その内容を自分に吐露(とろ)してくれないのか、とグレイがジっとオルトを見つめるが、事態が少し変わった為、軽く息を吐くと輸送車両を自動運転に切り替え席を立つ。

 グレイの座る方向からモンスターの反応が有り、その対処を自分がするとオルトへの無言のアピールだ。オルトはその様子を見て邪魔をするのは控えるべきと、座ったまま視線の先で駆けるモンスターと車上のグレイを視界に収め傍観に回った。

 グレイの持つ狙撃特化型K2R複合銃はオルトの持つ威力特化型よりも全長は少し短いが、それでもグレイが持つとなると大き過ぎると感じる銃だが、本人は強化服の性能を活かして走行中の車の揺れすらも考慮に入れた高精度の狙撃を行なう。

 オルトの情報収集機器の望遠機能でモンスターを見ていると、圧縮された時間の中で、1発の弾丸がゆっくりとモンスターの頭部にめり込んでいき、そのまま胴体部含め完全に破壊した。

 

「うーん、見事だ」

「ふふーん。これぐらいはしないとね!」

 

 オルトが褒めるとグレイが花の様な笑顔をその顔に咲かせる。銃を後部座席に置きながら再び運転席に座るグレイの機嫌はとても良い。

 

「……何か良いことでも有ったのか?」

「だってオルトが褒めてくれたもの!」

「俺が?」

 

 オルトの中では、自分が褒めた所で大した意味は無いといった固定概念がある。確かに褒める所が有れば褒めるし、良い部分が有ればそれは良い物だと判断し、嘘だとしても悪い物だと(そし)る事は無い。

 だがオルトの中で決められた事項は、その全てが個人的に決めただけの事項だ。他者に求めることはない。それを求めるのは明確な押し付けであり、ただの強制だ。それらを行うのならば、相手に対して何らかの利益を払うのは当然とさえ無自覚に考えている節があるし、一部自覚も持っている。

 頭の片隅で時折考えてしまう。自身は東部(ここ)で目覚めただけの他者だからだろうか。どこかでこの世界に馴染んでいない(じぶん)がいる。

 だからこそ自分の価値を低くも見積もってしまっている。

 四六時中、どんな時でも一緒に居る、何処(どこ)までも異様且つ不明瞭且つ自分よりも圧倒的な存在が自分を常時観察しているからだ。その全ては不愉快ではない。だがそれでも時折り考えてしまう。

 自分は有意であると証明しなければならないという思いは、間違いなくオルト自身をより強くする。しかし強度が高いだけの存在は(もろ)く砕け(やす)い。壊れてしまわない境界を模索し続けなければならない現状はオルトの精神を自然と摩耗させてもいる。

 

「東部中を見ればオルト以上に強い人がいるってのは私も知ってるわ。でもね? 私を認めて欲しいって思う相手が、私を認めてくれるって本当に嬉しい事なんだよ?」

 

 オルトが自分に笑い掛けてくるグレイを無言で見つめ返す。今のオルトにはそれしか出来なかった。

 グレイも同じなのだ。誰かに自分を証明しつつ、自身の確立を目指している。彼女は決して(同類)ではないが、それでも自分と同じように必死に生き、藻掻(もが)いている。

 その事実が何時(いつ)の間にか欠落していたオルトの何かを拾い上げた。

 オルトが急に声を上げて笑い始める。

 

「ふふ、あははは──」

「えっ!? なに? どうしたの!?」

 

 グレイが慌ててしまい運転が少し雑になる。

 精一杯笑ったオルトがその顔に喜色を浮かべ、グレイにその表情のままグレイに顔を向けた。

 

「いや、何でもない。……あー、でも、()()()()()

「え? え? うーん、どう、いたし、まして?」

 

 気落ちしていたオルトの様子が急に変化した事に、グレイは困惑しながら運転を続ける。

 オルトの機嫌が急に良くなったことに根拠となる自覚は未だに形作られてはいないが、それでもオルトの何かが一つ埋まった。オルトにしか分からないそれは輪郭すら曖昧で掴めないピースは、彼女らには分からない。

 オルトの視界の外でオルトを見ているファナが内心を隠した微笑みを浮かべ続ける。少なくとも今はオルトの琴線に触れるべきでないと判断した。オルトの中に在る優先順位が変動した場合、派生する不都合はオルトだけが被る訳では無いからだ。

 

 

 輸送車両の索敵機器に反応が現れる。クロサワ達が派遣している偵察部隊の車両が数台停まっている。

 グレイの輸送車両に接続している情報端末に短距離汎用通信が入った。

 

「こちらは現在賞金首の偵察を行っている最中だ。可能ならば遠回りして通って行ってくれ。繰り返す──」

「あー、聞こえるか? クロサワから依頼された者だ。名前はオルト。そちらにも話は通っている筈だ。確認してくれ」

「オルト、か。……確認した。速度を落としてこちらの指定した場所に来てくれ」

「了解」

 

 グレイが速度を落としながら偵察部隊に近付き指示された場所に停車させる。

 オルトが先に降り、近付いて来た現場の責任者を務めているハンターに挨拶を済ませた。偵察部隊を纏める男はクロサワが送ってきたハンターが子供という事で一瞬顔を(しか)めたが、オルトの装備を一通り確認して脳裏に浮かんだ都合の良い解釈を乱立させて自分を納得させる。

 

「では物資の確認をさせてくれ」

「了解。グレイ! 開けてくれ!」

 

 グレイに頼み輸送車両の後部扉を開けてもらうと、視界一杯に積まれている物資が露わになる。

 偵察部隊の数人を手伝わせて外に出していく。弾薬やエネルギーパック、食料等の詰まった高さが3メートルの直方体のコンテナを強化服の身体能力を利用して運び出す。

 輸送車両の荷台の容量を五分の四にまで減らした時点で、偵察部隊のハンター達が降ろした物資の確認に入った。

 それぞれのハンター達が問題無しと責任者の男に合図を送る。

 

「ふむ。確認した。……クロサワから入金された筈だ。そちらも確認してくれ」

 

 オルトが情報端末で自分の口座を確認すると確かに入金されており、送金元はクロサワだ。

 

「問題無い。……それじゃあ、まあ頑張ってくれ」

「ああ。物資輸送感謝する。他の場所にも頼むぞ」

「旨い報酬の出る依頼だからな。任せといてくれ」

 

 その場の責任者と軽く会話をしてから車内に戻る。

 オルトが乗るとグレイが発車させた。

 

 

 偵察部隊と少し距離が離れた辺りで、グレイが運転をしながら周囲を確認する。

 

「ここは確か多連装砲マイマイだっけ?」

「ああ。俺の情報収集機器ならここからでもギリギリ視認できるぞ。見るか?」

「そうなの? それならお願い」

 

 オルトは輸送車両から顔を出し賞金首の居る方向へと顔を向ける。視線を向けて情報収集機器の精度を一箇所に制限し、かろうじて輪郭も鮮明に把握出来たのでその解析結果をグレイにも共有した。

 

「うーん、デカいわね。倒せるのかしら?」

「高威力の弾薬を沢山使えば意外と楽に行けると思うぞ」

「そういうもの?」

「例えばここが狙い目だ」

 

 オルトが多連装砲マイマイの一部。背中に生える巨大な主砲を指差す。

 

「そこは多連装砲マイマイの主武装じゃない」

「だからこそだ。これが発射される時は内部に高密度のエネルギーが溜まる。そこを精確に撃ち抜ければ早くに決着が付くだろう?」

「うーん、確かにそうだけど理想論過ぎて無理そう。狙い撃つ前に撃たれそうだわ」

「まあ、ただの一例に過ぎないからな。安全に行くなら多連装砲マイマイがくっ付いてる建物を倒壊させて地面に何度か激突させるとかかな。その内自重(じじゅう)に耐えれなくなるだろ」

「それこそ難しいんじゃない? 多連装砲マイマイが何度も建物に登るとは限らないもの」

 

 ハンターオフィスの掲載情報も、オルトが撮影した多連装砲マイマイも確かに高層ビルの側面に張り付いている。落としたらその巨体に見合った重さにより大きなダメージを与えられそうにも思えるが、グレイはそれを行えるのは一度限りになるだろうと断じた。

 その言葉にオルトも同意しつつ、それはないと判断した理由を付け加えていく。

 

「登らないならそれで良いけどな。逆にそっちの方が好都合だ」

「えっと。どうして?」

「あの主砲。何を発射してる?」

「え? えーっと、情報通りだとエネルギーのみ? ……あー、成程ね! エネルギーを遺跡の建造物から吸収して撃っているのね。他の砲塔も危険だけど、主砲ほどじゃないってことか」

「正解だ。俺達で言うなら強化服はあるけど銃が無い状態。()しくは未改造のAAH突撃銃で戦えって言われるみたいなもんだ。多少苦しくても強い武器を捨てるのは選択肢には入れ難いだろうさ」

「……多連装砲マイマイってそういった考えをするの?」

「さあ? それは分からない。でもある程度の負傷を負ったら逃走を図る生物系モンスターもいるし、損傷の度合いで挙動を大きく変化させる機械系モンスターだっている。賞金首になるような奴らがその思考を獲得していないとは言えないだろ?」

「確かに……。そうすると他の賞金首も厄介なのが居そうね」

「だろうな」

 

 オルトとグレイはどこか呆れながらも楽しそうに今まで遭遇した事のあるモンスターについて例を上げながら弱点部位や挙動について話しを広げていた。グレイは数年というハンター歴の中で、オルトは先日の長期間の護衛依頼で遭遇したモンスターについて話していく。

 生物系で頭部の装甲を厚くし、オルトの銃でも数発は耐えることの出来た個体や、グレイが先日見かけたヨノズカ駅遺跡から這い出てきたモンスターの話はお互いの知見を深めるのに役立っていた。

 

 

 オルト達は順調にそれぞれの賞金首を見張り、威力偵察を行っている偵察部隊に物資を配り終えていた。

 残りはアーミーマメストラの場所だが、いやに遠い場所に佇んでおり、挙句動く気配すら無いものだからどう対処すれば良いものかと悩む者達もいれば、悩むことなく討伐に(はし)った者達が相当数(そうとうすう)出ていた。

 懸賞金が少なくとも賞金首を討伐出来れば、単純に名声を得られる。ハンターオフィスの掲載ページに箔が付く。

 強敵を討伐した経歴が有ればどこかの民間軍事会社に入り易くなる。ハンターとしての信用も上がり、ハンターオフィスや当人の経歴を調べた人間からも依頼を受け易くなる。

 それらを鑑みれば、多少の赤字など些事だ。

 オルト達が他の場所と同じ様に偵察部隊に物資を渡す。そしてオルトの口座に入金が確認され、それでオルトのクロサワからの依頼は終了だ。

 その場のハンター達がアーミーマメストラを観察しながら首を傾げている。

 未だ動いた形跡は無く、動く気配すら無い。しかしその背中からは複数の触手が顔を覗かせており、周囲へ不規則にその先端を向けている。

 オルトが自分の情報収集機器でアーミーマメストラの足元を確認すると、そこには何らかの破片が幾つか転がっているだけだ。

 

『ファナ。あれってさ』

『ええ。オルトの車の残骸や張り付けていた装甲タイルですね。既に機能は停止しています』

『見りゃ分かるよ。ぐちゃぐちゃだからな』

 

 オルトの視界に映るアーミーマメストラの周囲には一定の距離を取って爆撃された跡と、バラバラになっているハンターの死体、大破している車両が複数台転がっていた。

 顔を(しか)めているオルトの様子が気になり、偵察部隊の1人がオルトに近付いてくる。

 

「どうしたんだ、そんなに見つめて?」

「いや、アーミーマメストラの周囲だけ、いやに綺麗だなと思ってな。先に来てた奴等はミサイルとか使わなかったのか?」

 

 その男が納得する様に頷くと答える。

 

「ああ、そういう事か。ミサイルとかの攻撃が一切合切撃ち落とされてんだよ。周囲のちょっと抉れてる地面見えるだろ? そこまでに落とされてそれより中心は綺麗なままだ」

「へー、面倒臭い奴だな」

 

 クックッと笑う男が、更にアーミーマメストラの画像の一部を表示してオルトに見せる。

 

「まあ、このぺしゃんこになってる車に乗ってた奴よりはマシな最後だったろうさ! なんせ未だにあの芋虫に踏み潰されてんだからな!」

 

 オルトが微妙な顔になりながらその画像を見ている。

 

『良かったですね?』

『……そうだな。本当に助かったよ』

 

 オルトが一応情報をくれた事に感謝を言う。

 

「まあ、面白い話だった。ありがとう」

「良いよ。こっちも物資無しで荒野(こうや)に寝泊まり何て御免だからな。次の機会が有ったらまた是非受けてくれ」

「暇だったらな」

 

 少し笑い合うとオルトはグレイの輸送車両に乗り込む。グレイは何かを堪えている様子だったが、話すことなく車を発車させた。

 偵察部隊の短距離汎用通信の圏外に出た辺りでも、グレイが声を殺して笑っているのでオルトが顔を(しか)めて見つめる。

 

「どうした?」

「だって、……当の本人が目の前に居たのよ? ちょっと可笑しくって……」

「……あーそう」

 

 オルトが軽く溜め息を吐きながら近付いて来るモンスターの群れを銃撃する。クガマヤマ都市から離れた場所に来ている為にモンスターの駆除があまり行なわれていないので輸送車両程に大きな物体が荒野(こうや)を走ると、一帯のモンスターを強く刺激し、そこそこの頻度で襲われるがオルト達の敵では無かった。

 

 

 オルト達が離れたアーミーマメストラの周辺では食事を取りながら観察を続ける偵察部隊のハンター達が居る。

 彼等はアーミーマメストラを討伐しに来たハンター達との交戦記録や、自分達で攻撃した際の反応から弱点部位や、使用してくる武装の把握に努めていた。

 動かない相手の観察をしなくてはならないのはとても暇だ。更に荒野(こうや)に長く居る所為(せい)で食事中の話題は随分減っていた。好きな女や飲んでる酒、最近のハンター稼業と転々としていき、現在の話題はオルト達についてだ。

 

「それにしてもクロサワが送ってきたハンターが子供2人とはな。結構意外だ」

「それもそうだな。あいつはドランカムの若手共が嫌いで抜けたって話しだったもんな」

 

 その話を聞いていた元ドランカム所属の男が少々不機嫌な声で介入する。

 

「ちげえよ。若手共が、じゃなくて若手優遇する幹部共が気に食わなくて抜けたんだ。まあ、若手共が自分達への恩恵をちゃんと理解出来ていて、その上で信用出来るような……、そうだな。さっきのオルトみたいな奴ばかりなら俺達だって今頃はまだドランカムに所属していたよ」

「さっきの奴だろ? 実際どうなんだ? 装備はドランカムの若手共以上に高性能な物を使ってるみたいだったが」

 

 聞かれた男がオルトと行なった地下街の探索を思い出す。

 

「少なくとも足は引っ張らない。変な部分で謙虚だし、こっちの指示にも忠実に従う。その上で真面な意見もする。本人の実力も確かだ。今は装備も高性能な物を使ってるみたいだからな。賞金首討伐に協力して貰えればってクロサワも言ってたよ」

「へーそりゃ凄いな。嘆いてるってことは断られたか」

「通話を繋いで二言目にな」

「早いな!?」

「なんか有ったんだろうさ。俺達が気にする事じゃねえよ」

「それもそ……、ん?」

「どうした?」

「いや、アーミーマメストラがな?」

 

 そう言った途端、偵察部隊のハンター達の情報収集機器が異常な反応を捉える。

 今までアーミーマメストラの背中から出ている触手は、うねうねとしなり、四方八方へと不規則に向けられていた。一定範囲内に接近してきた対象への攻撃を行う場合に限り、規則的な挙動を取っていた。

 しかし、現在はその触手の全てを偵察部隊の方向へと向けている。

 男達は一斉に顔を強張らせ車両に乗り込むと、距離を取る為に全速力で走らせた。既に後方から大量の反応が接近してきている。それは巨大なミサイルだった。運転席にいた者が自動運転に切り替え、迎撃に参加する。

 全速力で走らせながら乗員全員で大量のミサイルを迎撃行なっていた。

 しかし迎撃用に放たれた弾丸はミサイルへの着弾と同時に、衝撃変換光を荒野(こうや)に撒く効果しか与えない。

 

力場装甲(フォースフィールドアーマー)!? 今までのミサイルには使ってなかっただろうが!」

「いいから撃て! 撃ち落とせ!」

「やってるよ!」

 

 車内では、大量のミサイルが駆ける空中へ強力な弾丸を撃ち出すハンター達が罵詈雑言を吐きながらも必死に迎撃していた。だが、その声は徐々に消えていく。最後に残っていたものは何らかの残骸のみだけだ。

 アーミーマメストラの触手の1本はずっと偵察部隊の方向へと向けられていた。バレないように、殻に隠れながら。

 残念なことに、彼女以外が気付くことは無かったが。

 

 

 翌日の賞金首達の懸賞金は予定調和の様に上昇していた。中でもアーミーマメストラの賞金は今までの比にならない程の上昇を見せる。

 

一話にどの程度の文字数が読み易い?

  • ~5000
  • 5001~10000
  • 10001~15000
  • 15001~20000
  • 20001~30000
  • それ以上
  • 文字数に興味無い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。