リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第十六話 囮に足る

 

 オルトは過合成スネーク討伐が終了した後も主力部隊の周辺に配置されているグレイの車に乗って周囲の索敵を手伝っていた。

 作戦目標の討伐自体は完了したが、グレイの受けている依頼はドランカムが立てた討伐作戦の補助であるため、標的の討伐、撃破報告等の諸手続きをハンターオフィスが終えるまで待機する必要がある。

 ハンターやそれを抱える徒党側としては高額な賞金や討伐成功の箔を確実に手に入れる為だ。賞金首を倒したのは自分たちだと他のハンターに虚言を吐かれて成果を奪われる訳にはいかない。荒野(こうや)から標的の姿は消えたが、当事者が倒したことは確認出来なかったと賞金の支払いを拒否される事もまた困る。

 支払う側としては高額の賞金を支払う以上、対象が確実に討伐された保証が必要だ。意図的な虚言は勿論論外だ。あれなら倒しただろうという憶測でも、生きている恐れがあるのであれば、そう易々と大金は支払えない。

 そこでハンターオフィスが賞金首の撃破をしっかりと検証する。その検証後に何らかの誤りが見つかったとしても、それはハンターオフィスですら予想外の事態だった証拠であり、その後の揉め事を穏便に済ませることが出来るのだ。

 仮に標的との戦闘の結果、賞金首が完全に塵と化し、死体の有無での対象の撃破を確認出来ない状態に終わったとしても、情報収集機器等による討伐データ等から、標的の確実な撃破が確認され、ハンターオフィスがそれを認定すれば、大々的に討伐成功が公表される。

 協力関係にない複数のハンターチームが混戦の中で賞金首を倒した場合にも、どのチームが倒したのかという裁定をハンターオフィスに任せる事で余計ないざこざを回避出来る。

 それらの事情の為にもハンターオフィスによる討伐確認は非常に重要だった。

 また、賞金首認定を受ける程に強力なモンスターは、そこまで強くなるほど変異や自己改造が進んでいる特別な個体であることが多く、生物系、機械系問わず企業の研究対象として撃破後も高い価値を保持している。

 そしてその死体や残骸等は撃破判定の調査という名目でハンターオフィスに所有権が移ることになる。

 ただし賞金首の死体等が明確に残っていて、ハンターが引き渡しを拒否した場合は要交渉となる。金に不自由していないハンターが賞金は不要だと、趣味と名誉を理由に賞金首を討伐し、剝製にして自宅に飾るなどという事も偶にあった。

 

 

 ドランカムにそんな趣味を持っている人間は居ないだろうが、オルト達、補助要員達の囲いの内側では主力部隊の人員が過合成スネークの死骸の肉片や、過合成スネークに呼び寄せられたモンスターが1箇所に纏め集められていた。

 過合成スネークの突然の挙動とその結果として伝播した混乱の所為(せい)で、主力部隊の人員から少なくない死傷者が発生している。またその事態が発生する可能性が有るとは思えないが、ハンターオフィスの人員の検証中に起こらないとも限らないので、その手続きを速やかに済ます為にも検証に必要な物的証拠は一つ残らず収集されていた。

 

 

 過合成スネークが辺り一帯から多数のモンスターを呼び寄せたおかげで、周辺からモンスターが一時的に消失している為に索敵を続けているオルトも、基本的にオルトの仕事を無くす為に尽力しているグレイすらも非常に暇な状態だった。

 オルトは周辺を広く浅く索敵しても敵性反応が一切無く、ファナの索敵にも一切何も引っ掛からなかったので、仕事は一休み出来ると判断し、自分のリュックサックからハンター用の携帯食を幾つか取り出して荷台で昼食を取っていた。

 グレイの戦闘能力は以前よりやや伸びており、多連装砲マイマイの主砲を取り付けてある装甲車を再利用しようと決断したユミナへの協力も何の心配もなく行えた。その協力中、主砲に供給されるエネルギーの過剰供給に()って、荒野(こうや)に漏出した波動に寄せられた多数のモンスターへの対処はオルトにとって少々の労働となった。

 適度な労働の後という事もあり、現在のオルトは丁度良い感じに空腹だった。食べ応えもあり、先日のゴリンザン都市へと赴く必要があった依頼の時から購入するようにした食料品は、値段相応の良質な味をオルトの舌に感じさせる。食事という行為と掛けた値段に相応(ふさわ)しい美食という文化の現代までの積み重ねの有り難みを舌と胃で堪能しながら顔を緩めていた。

 そのオルトの横でグレイもまた食事を取っていた。オルトと違って周囲の索敵を続けながらなので、片手で掴める類の携帯食だが、その食事の味を十分に堪能していた。

 

「オルトの買ってきた携帯食って随分と美味しいわよね」

「そりゃあ、少し前に周りの連中からあれやこれや言われて、迷った末に購入した商品だからな。荒野(こうや)に数日寝泊まりしても問題ないぐらいには健康的な食事内容になったよ」

「つまり私達のおかげってことね!」

「……ああ、うん。そうだな」

 

 ゴリンザン都市へと行く際に安い食料を揃えようとしていたオルトを、ファナやグレイ達のオルトと交流の深い面々は、それだけは止めろ、と強く言い聞かせたおかげで当時のオルトの懐事情はとても寒くなったが、食事内容はそれを無視出来るほどに充実した為何も言えなくなった。

 オルトがリュックサックから追加の携帯食を取り出しつつ、グレイの分も取り出し手渡す。

 

「これも消耗品扱いでいいのよね?」

「ああ、その分も追加して送っておく。……でも大丈夫か? 俺が決着を早くしたいからってドランカムの助力に結構な弾数使ったんだ。その分、弾薬費も上がってるぞ?」

 

 主砲を過合成スネークに命中させる為にユミナの邪魔をしようと集まって来たモンスターを殲滅していたが、周囲に群がっているモンスターの数は相当な数おり、その場の殲滅を終えても別の場所で別のハンター達を襲っていたモンスター達が集合してくるという事が何度も起こり、その度にオルトはモンスター達を殲滅していた。

 一応オルトは安い通常弾を基本的に使用していたが、それでも弾数に心配したくないオルトは装弾数の多い拡張弾倉をK2R複合銃に装填していた。

 それでも使用した消耗品は弾倉だけでなく、強化服を動かす為に、銃の威力向上と銃本体の保護に、バイクの稼働に使ったエネルギーの消費量は結構な量になっている。

 これをグレイの報酬から考えれば既に殆どが消える筈だ。その上、グレイの依頼内容には主力部隊の帰還率が下がった場合に減額されるという記載もある。ドランカムがどのような裁量を取るかは不明だが、恐らくオルトの消耗品代でグレイの報酬から足が出るほどだろうとオルトは予想していた。

 

「あーそれは、……‥どうしようかしら?」

「案は無しか……」

 

 グレイにも金が要る。グレイも弾薬を使うしエネルギーパックも使用する。怪我を負えば回復薬を服用するし、強化服や車両が損傷すれば修復に金が掛かる。それを怠った分グレイの命は危険に(さら)される。

 だが、オルトに支払いを行わなければ、両者間の問題の発生源となる可能性は少なからず存在してしまう。

 金は多くの問題を解決するし、解決出来ないことであっても少々の緩和が可能だ。しかし金で解決可能な問題だった話を金が無いと先延ばしにすれば本人への信用は徐々に、だが確実に減少していく。

 オルトもグレイに下らない事で死んで欲しい訳でもない為ともに解決策を考えていると、車両の索敵機器に主力部隊のいる方向からオルト達に接近してくる反応が入る。

 それはカツヤやユミナ、アイリが乗った車だった。

 

 

 カツヤ達はカツヤと共に過合成スネークの囮役をしていたアキラへお礼を言いに行ったが、当人は既に疲労を理由に離脱しており会えなかった。

 アキラを個人的に雇っていたエレナ達からドランカムとの再交渉を要求され、一度指揮車に戻ってから都市にいるミズハに事の経緯とエレナ達からの要求を伝え、了承を得る。

 そしてカツヤ達が、正確にいうならユミナが助けられた相手として、オルトへ改めてお礼を言う為にオルトの位置を知る必要があった。だがオルトはドランカムから直接依頼を受けた者ではないので、位置情報の共有は為されていない。しかし討伐作戦の最中(さなか)、補助要員であるグレイというハンターが個人的に雇っているという話を聞いていたユミナが、まずはグレイに聞こうと提案し、車両の位置情報を(もと)にやって来れば、そこにオルト本人が居た。

 

 

 カツヤ達が乗った車がグレイの車の傍に停まる。だがオルトは大した反応を示さず荷台で食事を取り続けていた。依頼元との折衝は受注者であるグレイの義務であり、オルトが出るのはオルトの雇用主であるグレイに頼まれた時に限っている。依頼達成の為に必要だと判断した意見は言うが咎められたり禁止された事項を敢えて行うつもりはない。

 必要に駆られた時に限り、動く。それがグレイという個人に対しての信頼の表れでもあるからだ。

 カツヤは討伐部隊の部隊長が来たというのに、一切出迎える事もしないオルトに少々不快に感じたが、下車したグレイが目の前まで来て対応を始めたので、先ずはそちらに話をし始めた。

 

「えっと、そっちのオルトって奴に仲間を助けられたからお礼を言いに来たんだけど」

「そう、でもそれだけの為に部隊長が直々に来る必要はないんじゃない?」

 

 グレイはオルトから貰った事前情報や今回の討伐中に挙動のおかしい作戦行動から、カツヤやその周囲にいる人物は、危険な集団且つそれを理解していない者達という認識をしていた。

 オルトからそのような者達を仲介してくる人物として認識されたくないグレイは、笑顔ではあるが少々棘のある口調を(わざ)と取っている。

 先程、エレナ達からも似たように少々冷たい対応を受けた後であったカツヤは戸惑っており、隣にいるユミナもまた居心地の悪さを覚えていた。それでも自分を助けていた時のオルトの様子から、その様な人物を雇う方も似たような者なのだろうと判断し、ユミナがまず落ち着きを取り戻す。

 

「グレイさん。今日は協力ありがとうございました。オルトには随分助けられました。無遠慮だと思われるかもですがお礼を言わせて貰えませんか?」

 

 ユミナは自分を助けながら、主砲へと走ってくるアキラとカツヤの援護まで行っていたオルト本人への感謝と、カツヤを救ってくれたアキラとも縁があるだろうと想定し、少しぐらいは会話をしたかった。

 しかし、グレイの反応はやはり芳しくはない。ユミナを見るその目からは猜疑心が見え隠れしている。噂やオルトから与えられた情報から来るドランカムの若手ハンターへの偏見と、今目の前にいるユミナの取る態度に隔たりがあるからだ。

 どうするべきだろうとグレイが内心迷い始めたところにオルトが歩いてくる。

 思わず周りの目がオルトに集まり、グレイとユミナが口を開こうとしたがオルトが先に口を開いた。

 

「俺がユミナの援護を行った際、指示を飛ばした奴は誰だ?」

「……? 私」

 

 何事も無いように話し始めたオルトの疑問にアイリが答え、周りの視線もそちらへと向いたが、オルトの質問の意味が分からず、またオルトへと視線を向けた。

 オルトの視線はアイリへと向けられている。

 

「そうか、その時の指揮者はお前だった。部隊長であるカツヤでもそっちのユミナでもなく。そうだな?」

「……合ってる。それが何?」

「つまり補助要員であるグレイ、及び雇われている俺に対しての契約外の指示を飛ばしたんだ。その分報酬の上乗せをしてくれ。そちらが俺の仕事にどれだけの価値を感じたかは兎も角、作戦行動中に指揮権を右往左往させた挙句、契約外の指示だ。働かせた分の報酬ぐらいは払ってくれ。それでそちらからの感謝を受け取ったってことにする。言葉は要らない」

「……え、あっ、ちょっと……」

 

 自分の言葉だけ言ったオルトは、続けて何かを言い掛けたユミナの言葉を無視してそのままグレイの車の元まで歩いていった。

 オルトの態度に呆気に取られていた4人の中で、多少慣れていたグレイだけが先に我に返る。

 

「……まあ、そう言う事で、私の報酬にオルトへの感謝分を含めてくれれば良いわ。貴方達は部隊の隊長と副隊長なのでしょう? それぐらいは出来ると思っておくわ。じゃあね」

「……あっ、ちょっと!」

 

 グレイもオルトの後に続き車の方へと走り去っていく。

 そのまま放置されたカツヤ達は何も言うことは出来ず、オルトの意見にも賛同出来てしまった為、3人は黙って指揮車へと戻っていった。

 

 

 グレイの車に戻っていたオルトは、遅れて戻って来たグレイに少し圧のある笑顔を向けられていた。

 

「私に任せるんじゃなかったの?」

「……どっちも困っているみたいだったし、俺も向こうの奴らと長々と話す気も起きなかったし、良い解決案が思い付いたから構わないかなと思ってな?」

 

 少し眼を逸らしながら弁明するオルトへゆっくりと顔を近付けていたグレイは、それでも金の問題が多少は解決するだろうと思い軽く溜め息を吐いてからいつもの距離へと戻った。

 

「まあ、良いわ。それで報酬が高くなれば問題無くオルトに支払いは出来るし、再交渉の場が出来れば交渉の訓練の一環にもなりそうだからね」

 

 グレイが表情を和らげて笑う。

 そのグレイを見てオルトが安堵していた。

 

 

 指揮車に戻ったカツヤは1人外に出て、自分の情報端末でハンターオフィスのサイトに繋ぎ、オルトの個人ページを閲覧していた。

 

「あいつのハンターランクは32。……‥俺と同じランクであの装備と実力、……か」

 

 オルトの個人ページに掲載されている情報は限りなく少ない。オルト本人が殆どの実績を非表示にしているからだ。

 閲覧可能なのはオルトがハンターランク1から始めた者であることと、ヤラタサソリ殲滅の為の依頼を負傷により途中離脱した事、FARBEからの依頼でクガマヤマ都市から1ヶ月ほど離れていた事ぐらいだ。

 だが、それだけでは到底理解出来ない事柄がオルトの周囲にあるとカツヤは何となくだが察していた。

 カツヤはドランカムに所属している為、装備は徒党から貸し出して貰っている。依頼や遺跡探索での遺物収集で得た成果の殆どをハンターランク上昇ポイントへと徒党が変換する様に仕向けているにせよ、カツヤ本人もそう望み、そうして上昇していく自分のランクに足る実力を持っていると自負している。

 だがオルトはどこかの徒党に所属していないハンターであるにも拘らず、高額で高性能な装備を自前で揃え、それを身に纏うに相応(ふさわ)しい活躍をカツヤに、ユミナに見せていた。

 ドランカムの若手ハンターには装備だけだと古参から嘲笑の眼差しを向けられることも多いが、オルトの活躍にはそれを黙らせるに足る、他者を認めさせる実力がそこにはある。

 

(ランクが低くて装備も俺の方が良い物を使ってるのに強いアキラ。同ランクなのに装備も実力も俺より上のオルト)

「……どうなってんだよ」

 

 カツヤの中の自信となる部分は同年代の強者達と今回出た被害が共に、本人の精神へと明確な傷を残し、それを自覚しているカツヤ本人も深い溜め息を吐く。

 賞金首討伐を果たしたハンターとは思えない姿が残っている。

 今の姿を他の誰かには見られたくはなかった。

 

 

 日付がそろそろ変わるだろうという時間帯に、オルトは1人で荒野(こうや)を走っている。ただ討伐作戦中に感じた違和感の確認をしておきたかった。その為にグレイと都市で別れてから家で早めに就寝していたため、眠気は一切感じない。

 夜風が気持ち良く、周囲からモンスターや他のハンター達の反応も無いので、オルトはバイクを夜間という暗さの中、結構な速度で走らせていた。

 そのオルトをファナが少し真面目な表情で見つめてくる。

 

『オルト。もし予想が正しければこの一帯に異常事態が発生する可能性は十分存在します。気を抜いてはいけませんよ』

 

 荒野(こうや)を駆けるバイクの隣を飛んでいる様に見えるファナの言葉にオルトは頷く。

 

「分かってるよ。……それとも俺はファナから注意されないといけないぐらい気を抜いていたのか?」

『はい。荒野(こうや)に出ている時に必要な緊張感は持っていませんでしたよ。その状態では急な事態の変化に対応出来ないでしょう』

「そうか。悪かった。気を付ける」

 

 オルトが意識的に呼吸を行いながら集中する。過度な緊張をしないようにと適度に身体(からだ)全体を弛緩させながら周囲の索敵を続けていく。

 モンスターの反応は無いが、オルトにはそんな状況下でありながら死に掛けた経験がある。その事態がまた何時起きるかは不明だが、起きないと断定は出来ない。些細な事だとしても、真面なハンターとして成長する為の一つの要素としてオルトはその意識を頭の中にちゃんと刻んだ。

 

 

 暫く走っていたオルトが目的地に着いた。

 既に日付が変わってしまっているが、そのおかげで周囲からは他のハンターの気配もない。周辺のモンスターも昨日、相当数が倒されたので再びこの周辺に定着する特定の群れが出来るまでは時間が掛かる。

 

「綺麗さっぱり何もかも回収されてるみたいだな」

『一般のモンスターの死骸も旧世界製の遺物としての価値を多少は保持していますからね。賞金首だけでなく、そちらも研究材料として回収されたのでしょう』

「まあ、死肉(まみ)れの中探すのは御免だしありがたいな。死臭に群がってくるモンスターも居ないし」

『そうですね。モンスターがやってくる前に手っ取り早く終わらせるとしましょうか』

 

 オルトがバイクでやって来た場所は過合成スネークと戦闘を行った場所だ。詳細にいうのであれば、過合成スネークがとぐろを巻いて、自身への損傷を無視した挙動を取った場所だった。

 多連装砲マイマイの主砲を喰らって全長の3分の1を削られたとはいえ、その体躯はまだまだ巨大であり、その巨体でとぐろを巻いた為、地面との接地面はかなり広範囲になっている。その範囲をオルト1人で何の確証もなく捜索をするのは非常に手間だ。しかし誰かに手伝って貰うにしても違和感の証拠が一つもない状態では難しく、更に言えば予想が正しかった場合、下手にその情報が漏れるのは避けたかった。その為オルトはこの場に1人で来ているのだ。

 オルトがバイクでゆっくりとその範囲内を回り続ける。バイクの索敵機器と強化服の情報収集機器の性能を可能な限り活かしながら捜索を続けていく。

 だが、オルトには違和感の正体へ繋がる何らかは掴めなかった。

 

「……やっぱり何も見つからないな。何もないって事で安心して良さそうか?」

 

 バイクを運転しながらファナへと視線を向ける。そこにはいつも通りオルトを安心させる微笑みを浮かべる美女が浮いていた。自分の常識を一変させるほどの存在が無いというのであれば無いのだと自分を納得させ易いという考えもある。そのような理由もあり視線を向けていた。

 そして突如オルトのバイクが急に進行方向を変え、特定の場所で停車する。

 オルトはファナが運転を代わり、その場所へと移動したのだと無意識に且つ意識的に認識して特に逆らう事もなくその場所の周囲を探っていた。

 

『オルト。見つけましたよ』

 

 ファナがそう言いながら指を下へと向けていた。オルトもそれに従って視線を地面へと向けると、ファナのサポートにより拡張視界に追加の情報が描写される。

 オルトが着用する高額の強化服用に設計された情報収集機器の性能を、ファナが限界まで発揮して漸く発見出来たそれは、地面の中に埋もれた土砂や瓦礫、何らかの残骸ではない、明確にその場に固定された物体だった。

 それはオルトの知識の中で建築物(けんちくぶつ)にしか相当しない。

 

「……一部分だけが崩れてるな。あそこから侵入したってことか?」

『可能性は高いでしょうね。途中から交戦した過合成スネークの方へ殆どの体積を渡し囮として使い、本体はその騒動に紛れて逃走を図ったのでしょう』

 

 昨日、グレイに個人的に雇われ交戦した過合成スネークが、まさか途中からその外側だけになっているとは誰も想像しなかっただろう出来事だ。オルトも目覚めた際に持っていた知識が無ければ、周囲の人間の混乱に呑まれていた可能性もあったが、トカゲの尻尾切り、という言葉を思い出し、その可能性を頭の片隅に置きながら事態の改善の為に行動した。

 

『どうされるのですか?』

 

 ファナの質問の意図は分かる。この事をハンターオフィスへと伝えれば、再度過合成スネークが賞金首認定される可能性が高い。それは脱皮を行い、外皮を囮として暴れさせるという危険性を加味する分高額に設定されるだろう。

 しかし、オルトはその事をハンターオフィスに伝えた際に発生するメリットとデメリットが、自分にどのように作用するかのみで判断した。

 

「……報告はしない。するとドランカムへの賞金が無くなるし、その煽りがグレイやアキラにも行きそうだ。それにこの下に地下施設があるって情報も態々公表する必要はないと思う」

『ですが弱体化してるとはいえ賞金首相当のモンスターが消えずにクガマヤマ都市近辺に残ることになりますよ?』

「うーん、そこら辺は一度賞金首についての騒動が片付いた後にしよう。全く気は進まないけどその方面での情報を取り扱ってる奴に伝手もあるしな。もし逃げた本体に遭遇するような奴がいたら相当運が悪いってだけだ」

『そうですか。では、運悪くそんな賞金首に遭遇する前に帰りましょうか』

 

 ファナとの相談も終わり、オルトはバイクを都市の方向へと走らせる。

 未発見の地下施設がまた一つ見つかった事を喜びつつ、危険なモンスターが減る事なく荒野(こうや)彷徨(うろつ)いている事実に再度緊張感を持ちながら。

 

 

 オルトを乗せたグレイの車が荒野(こうや)を走っている。今回もオルトのバイクをグレイの車に自動追従で走らせながら、体力を一切消耗しないように目的地までの道程で遭遇したモンスターの対応もグレイに任せていた。

 グレイは自分の車の助手席で眠るオルトを見る。先日伝えられた件について再度考えながら、しかし当のオルトの覚悟に水を差すことは決してしないように、胸中に渦巻く不安を押し殺しながら見つめていた。

 

(こうして見てると本当にただの子供なのよね)

 

 寝ているオルトは起きている時とは随分と違う印象を与える無防備な寝顔を(さら)している。そこだけ見ればグレイよりも年下の少年にしか見えず、この後に控えている事など微塵も感じさせるものはない。

 

(止めることは……、できない、よね……。私じゃ代わりなんて出来ないし、他に出来る人はって聞かれても答えられない。……オルトなら出来てしまうんじゃないかって期待すらある)

 

 今回の件に呼ばれて嬉しい気持ちも確かに存在するが、それでも事前に教えられた作戦内容は聞くだけでオルトの身に降り掛かる明確な危険性が理解出来てしまう。

 そして今回もまた受ける受けないにしても、他者に伝えないようにと言われてしまい、カオルやエルに相談することも出来なかった。それならば自分の行動でオルトの身に降りかかる苦難を少しでも軽減してみせるという意思と共に、作戦への協力を自らも強く申し出ることにした。

 

(オルトはきっと無茶をする。許容出来てしまうから、それが当然とさえ考えているだろうから。対モンスター用の武器を持っていたパッカ達を(ろく)な武装もせず呆気なく倒せる程強いから。……それでも危険なことには変わりない。少しでも良いから肩代わりしてあげないと)

 

 オルトがただ全力を尽くせるように。その場の危険性を自分が少しでも排除出来るようにと考えながら、オルトの睡眠を邪魔することなくグレイは目的地へと車を走らせていく。

 予定の時間まで、まだまだ余裕がある。それを使って丁寧な運転を心掛けていた。

 

 

 過合成スネークがドランカムの若手ハンター達に討伐されてから10日後、未だ2体の賞金首がクガマヤマ都市近郊で生存していた。

 生存している賞金首。巨大な機械系モンスターであるビッグウォーカーと上空領域の生物系モンスターであるアーミーマメストラの賞金は、遂に40億オーラムを突破してしまった。

 大きな要因としてそれぞれの出没地域が若干近く、片方との戦闘中の銃声や爆撃音等がもう片方の索敵範囲に入ってしまうと、混戦状態へと移行してしまう恐れがあったので、討伐に乗り出すにしてもその危険性を考慮され、多くのハンター達を足踏みさせていた。

 しかし、クガマヤマ都市周辺での賞金首が30億オーラムを突破すると、支払い元である流通業者が、クガマヤマ都市を拠点とするハンターに見切りをつけて、もっと東側で活動している高ランクハンターのチームを独自に呼び寄せるか、都市に防衛隊を出撃させるように頼み始めるのだ。

 そして既に独自の伝手で東側のハンター達と交渉しているという噂すら流れ始めている。

 しかしそれでは、現場のハンター達も面白くない。信用や信頼が低下し、沽券や今後の仕事に関わってくる。そこで多くのハンター徒党が商売敵という垣根を越えて協力し、大部隊を編制して討伐に動くことになった。

 その討伐作戦の標的はビッグウォーカーからだ。

 アーミーマメストラは出現から今まで一度も移動を行なっていない。大規模な戦闘はモンスターを否応無しに引き寄せる。そこで、戦闘を行ったとしても移動を行わないアーミーマメストラの索敵範囲へ入ることがないように、引き離しながらの戦闘計画が練られていた。

 そして、その計画をビッグウォーカー討伐チームへと参加させている仲間から聞いたクロサワによって、その戦闘が開始され周辺のモンスターがその戦闘区域へと向かっていく、その裏で、アーミーマメストラの討伐を手早く済ませるという選択をする。

 オルトも周囲に邪魔な人間がいない方がやり易いと思い、その選択に賛同した。少なくとも討伐者の記載を自分たちのものにしたいクロサワ達が、態々オルトの戦闘映像をイタズラに流す事は無いだろうと判断してのことでもある。

 ファナのサポートを十全に受けた状態での戦闘を公表されてしまえば、それ基準に依頼を持って来られる可能性がある。口封じが要らない人員だけで片付けられるのであれば、オルトとしても都合が良かった。

 

 

 助手席で眠るオルトの頭にファナの声が響く。

 

『オルト。もうすぐ目的地に着きます。起きてください』

 

 ファナの声はオルトにしか聞こえないので、眠気を吹き飛ばす様な大声量であっても問題はない。オルトはいつも通りに目を覚まして身体(からだ)を少し(ほぐ)すように伸びをする。

 

『おはよう、ファナ』

『はい。おはようございます、オルト』

 

 軽く欠伸(あくび)をしながら周囲の確認をする。索敵範囲内に敵性反応は一切無く、視界に浮かぶ現時刻も予定の時間までまだ余裕があった。

 周囲の確認を終えたオルトが運転席に座るグレイへ視線を向ければ、笑顔で挨拶をしてくれる。

 

「おはよう、オルト。よく眠れた?」

「ああ、問題無い。ありがとう」

「そう? それなら良かったわ」

 

 その軽いやり取りによって、オルトは適度に緊張感を全身に走らせ、グレイは結果を良好なものへと変化させようと意気込みながら目的地へと到着する。

 

 

 オルト達がクロサワ達との合流場所に到着する。合流時刻にはまだ大分早いが、そこには装甲兵員輸送車が数台と輸送車両が2台停まっていた。

 まだ予定の時刻よりずっと早いというにも拘らず、既に準備を終えようとしている辺り、相当前からこの場に到着していた事が容易に分かる。今回の作戦へ気合いを入れて臨んでいる事が窺えた。

 そこで仲間達と一緒に輸送車両から物資を積み替えているクロサワがオルト達に気付き、近寄ってくる。

 

「来たか、オルト。調子はどうだ?」

「いつも通りだ」

「それなら問題無い。集合完了後、軽く作戦のおさらいをしてから出発だ。お前達の物資はあっちの輸送車両だ。準備を済ませておいてくれ」

 

 クロサワがそう言って1台の輸送車両を指差す。車両後部の扉が開いており、数人のハンターが物資の積み替えを行っていた。

 もう1台の方にはクロサワ達のチームのハンターが使う物資しかないので、オルト達にとっては用が無い。興味本位で軽く内部を確認すれば、(から)の大型コンテナが幾つか見つかり、相当量が積載されていた事が分かる。

 指示通りの輸送車両まで行ったオルト達は、自分達では購入に制限が掛かるという事で個人的に注文していた物と部隊全員に配る物を合わせて受け取った。

 対大型モンスター用のロケットランチャーとその(たま)。通信機と通信コード。強化服や銃に展開する力場装甲(フォースフィールドアーマー)を長時間維持する為の容量の多いエネルギーパック。オルトとグレイのK2R複合銃で使用可能な強化弾の拡張弾倉。そして今回の作戦で一番経費を割いた銃弾の拡張弾倉。

 オルトはそれらを車に乗せながら、自身のバイクの大型リュックサックの中にも詰めていく。

 バイクのアーム式銃座に接続済みの擲弾用のK2R複合銃でロケットランチャーの代わりが出来る為、ロケット弾の拡張弾倉のみ受け取り、もう片方に接続している威力特化型K2R複合銃には同時に二つの弾倉を装填可能という点を活かして、片方に強化弾の拡張弾倉を、もう片方には対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾を装填した。

 アーミーマメストラが撃ち出すミサイルを1発で確実に破壊する為に用意された物だ。オルトには勿論、グレイや他の人員用に複数所持している。

 グレイが対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾の拡張弾倉を見ながら苦笑いを浮かべていた。

 

「これ一つで私の装備なら揃えられるかしら……」

「かもな。強化弾の拡張弾倉も俺達だと購入に制限の入る装弾数の品だ。討伐難度に相応(ふさわ)しい金額が掛かるな」

 

 オルト達ではハンターとしての経歴や単純なハンターランクがクロサワ達よりも短く低い。高ランクハンター用の割り引きや長期間の依頼成功率等で値引きが発生している為、ここにある物資の殆どはオルト達が購入すれば、何倍と掛かってしまう商品ばかりが揃っていた。

 そして値段だけでなく、拡張弾倉の装弾数やエネルギーパックの容量という質なども高い商品ばかりだった。

 オルトも最初はカオルの店で揃えるつもりはあったが、オルト達では手が出ない。手を出したという記録を残す訳にはいかない商品ばかりだった為にクロサワ達に代わりに用意して貰うことにしていた。

 それだけの費用が掛かる相手なのだと改めて理解したグレイが、(なか)ば呆れながら作業を進めていく。その身に秘めた闘志を徐々に強くしながら。

 

 

 オルト達の準備が済んで少しした後に、オルトの情報収集機器に個人的に協力を仰ぎ、快諾してくれた者達が乗車しているだろう装甲兵員輸送車の反応が入る。

 識別コードを貰っていた為、周囲も警戒する事なくオルト達に合流した。

 オルトが呼んだのはセレスとルインの2人、それに加えて2人に雇われるという形で同行することになったクモンズとシーナだ。

 オルトが個人的に雇う事になったのはこれでグレイ、セレス、ルインの3人で、それぞれに要求する仕事内容を割り振っている。

 オルト達が積み替えを行なった輸送車両の近くに姉妹が乗っている車が停まり4人が降りてくる。

 

「久しぶりね、オルト」

「クモンズさん、シーナさん、物資の積み替えお願いしますね。……オルトさん、お久しぶりです」

 

 ルインがクモンズ達に物資の積み替えを頼むと、雇われている側として付いてきている2人は手振りでオルトへ再会の挨拶を済ませると輸送車両へ向かった。

 既に輸送車両の荷台の積み荷は姉妹達の使用する物資だけが残っており、その量は4人で無駄撃ちでもしない限り、不足を感じる量では無い。

 

「ああ、セレス、ルイン。久しぶりだな。今日はよろしく頼む」

 

 オルトが姉妹の挨拶に答える。しかし、その姉妹の視線は再会したオルトよりも少し横に向いていた。

 そこに立っていたグレイが一歩前に出てセレス達に笑顔で挨拶をする。

 

「私はグレイ。よろしくね。2人とも」

 

 姉妹はオルトが雇った人員が全員女子という事に少々オルト本人の趣向のようなものを感じたが、一旦それを無視して笑顔で応えた。

 オルトから作戦を事前に軽く説明されていた為、後方にある大型のバイクがオルトの所有物という事が分かる。だからこそグレイの車に置かれている銃は、そのグレイ本人の所有物である事が否応無しに分かってしまう。

 オルトが経歴も異常な分稼ぎも異常な人物である事は理解出来る。そのオルトに武装だけでも似通った物を使用しているという事はオルトに届かなくても似た様な稼ぎをしている人物だと証明している。

 つまり姉妹の前にいる人物は両名共徒党に属する事なくその装備を整えられるに足る稼ぎを実現しており、オルトに至っては先日その実力を実感させられた。

 その衝撃は姉妹には少し大きい。

 僅かに私情を乗せた視線が交差している場面を、オルトは気楽に眺めている。

 そこへ積み替えを終えたクモンズ達がやってくるとその状況を察して笑いを(こら)えていた。

 

「物資の積み替えは終わったんだ。そろそろミーティングだろ? 行くぞ」

 

 オルトもクモンズ達の後に続き、その後に3人は続いたがそれぞれの表情の明るさには少々の差があった。

 

 

 討伐作戦の再確認が終わりそれぞれの車で荒野(こうや)を駆け、アーミーマメストラの出没地域へと向かっていた。

 アーミーマメストラは強力な攻撃手段を備えているが、その場から移動をする事が一切行われなかった為元々の賞金額は、その単体の危険性の割に低く見積もられていた。しかし、クロサワ達の仲間の1人が殺された際に使用されたミサイルには力場装甲(フォースフィールドアーマー)が展開されており、更にはその攻撃範囲が広がっていた。

 このことからアーミーマメストラの攻撃方法は徐々に強化されていき、索敵範囲と攻撃可能範囲も比例して広がっていると推測されていた。このまま放置していると、現在は使用出来ている輸送経路すらアーミーマメストラの攻撃可能範囲内に収められてしまい、捕捉される可能性が大いにある。

 それらの事情により、最初は賞金額の上昇がゆっくりだったにも拘らず、今となっては元から危険視されていたビッグウォーカーに並ぶに至っていた。

 しかもそれは移動しない上に、クガマヤマ都市から離れた場所に位置しているという危険性を低く見積もる要因を未だに抱えている状態でだ。

 ビッグウォーカー討伐にクガマヤマ都市を拠点としているハンター達が大部隊を編制して対処している裏で、オルト達はたかが30人未満の数で同額の賞金首を討伐しようとしている。しかもビッグウォーカーの討伐開始後に作戦を始め、討伐部隊がビッグウォーカーを討伐しアーミーマメストラの確認を行う前に終わらせるという時間制限すら存在する。

 そんな中でもオルト達だけでアーミーマメストラの外殻を破壊し、討伐し切れるだけの準備はして来た。後は結果として残すだけだ。

 

 

 荒野(こうや)を集団で移動していたオルト達の通信機に真剣さを滲ませたクロサワの声が響き、それまでの平穏に終了を告げる。

 

「そろそろ討伐目標アーミーマメストラの推定索敵範囲内に突入する。既にビッグウォーカーの討伐作戦は開始され、周辺のモンスターの多くはその戦闘音に引き寄せられていった。安心して目標との戦闘に集中してくれ。賞金は42億オーラム。気合い入れてけよ!」

 

 オルトが深く息を吐き、席から立ち上がって後方を走るバイクへと飛び乗る。既にバイクの準備は終えている。過剰な気合いを吐く息に混ぜながら呼吸する。

 クロサワが再度全員に作戦を伝える。

 最低索敵範囲にオルトが単独で乗り込み撃ち出されたミサイルを出来る限り1人で迎撃しアーミーマメストラの注意を引く。

 その後、部隊全員でオルトの後方から展開しつつ近付き、ミサイルの迎撃に参加。オルトはそのままアーミーマメストラの注意を引けるように目標に接近しつつ迎撃も行う。

 オルトは十分接近したと判断したタイミングでミサイルを撃ち出す触手の破壊へと移行する。触手を自分達が放つロケット弾を撃ち落とすのが不可能なほど破壊を終了したら、全員でロケットランチャーを使用するので、指示を出すまでは迎撃に全力を注ぐこと。

 

「以上。オルトに負担を強いるが、他の面々が頑張るほど安全になっていく作戦だ。オルトに悠々自適な運転を提供出来るように各自対応してくれ」

 

 それで通信は切れた。

 この場にいる殆どの人物はクロサワの仲間であり、今更長期間の綿密な連携演習などする必要はない。

 そしてオルトが今回呼んだ人員はこの場で役に立つとオルトが判断したという、本人ではなく自分達が協力を仰いだオルトへの信用によって無視出来るだけの実力者だろうと判断した。であれば、この短期間で変に連携を強制するよりかは、それぞれで迎撃の過程を見て調整をする他ない。

 クロサワもオルトも急造の部隊で無駄に連携を強制するよりも、それぞれが持つ判断基準を戦場で擦り合わせられる人員を用意すれば良いと判断し、それが可能な者のみをこの場に呼んでいる。

 活躍に応じて、消耗品が少ければ少ないほどオルトの得られる報酬は釣り上がる。オルトの働きに()って部隊全体の安全性が高くなり、自分を援護させ易くもなる。オルトの顔には覚悟を決めた笑みだけが浮かんでいた。

 

 

 クロサワが装甲兵員輸送車の中で同じ車に乗車している男に声を掛ける。

 

「一応お前の出番があるかもしれない。準備しておいてくれ」

 

 男は車内に停車しているバイクの最終調整を行っていた。

 

「問題無い。今すぐ代われって言われても行けるぜ」

 

 男の準備したバイクはオルトのバイクよりも小型だが性能自体は負けない程の製品だ。

 準備万端の状態の男に、クロサワが笑って返す。

 

「まあ、先ずはオルトがどの程度やれるかの確認をしてからだ。真面な囮として機能するかどうかは分からん。状況次第でお前に出て貰うが、お前の出番が無いなら無いで問題は無いからな」

「それは違いない。……実際お前はどう思う? クロサワ」

 

 クロサワは少し思案して答える。

 

「分からない。だが、本人が言い出した事だ。相応に出来るとは思いたいが」

「そうか。だが、あいつがミスったから蜻蛉返りってのも洒落にならねえ。……予備の予備ぐらいは欲しかったな」

「急に準備を始めたんだ。仕方ねえさ。流石にあいつのとこに行ってやる義理はないんだ。死なない程度にやるだけだ」

 

 常に、成果を捨ててでも安全性を重視してきたクロサワも、今回限りは成果の方を重視してしまう。そしてそれを得る為にオルトの状態を確認したし、半ば脅すような形だとしてもお互いに益が有ることなので、条件を飲んで貰い、当人からの条件もまた飲んだ。

 そこで追加していた車載の索敵機器が反応を掴んだ。クロサワがその反応を確認して真剣な表情を作り出す。通信機へ向けて気合の入った声を出す。

 

「アーミーマメストラを確認! 作戦開始だ!」

 

 その号令と共に、42億オーラムの賞金首の方向へ、部隊から先行し更に加速していくバイクが全員の索敵機器に大きな反応を刻んでいく。

 

 

 オルトはクロサワ達よりも先にアーミーマメストラの反応を掴んでいた。出没した正確な時間すら知っているオルトとファナは、先日も確認した位置をファナのサポートで限界まで性能を引き出している情報収集機器を用いて、優先的に探ることで周囲の者達よりも容易にその存在を掴んでいた。

 オルトの拡張視界に情報収集機器の望遠機能が捉えた情報が、標的を拡大処理して表示される。

 そこには以前と変わらず自力での移動を行わず、背部から複数の触手を伸ばしているアーミーマメストラの姿があった。

 

『いた。大きくなってるな。……あれ? 色が変わってる?』

 

 ファナのサポートを受けて発見したアーミーマメストラの体色は赤色だった。ハンターオフィスの賞金首用掲載ページに載せられている外観情報を確認しても色は黒色だ。オルトが最初遭遇した際も、物資輸送で訪れた際も色に変化はなかった筈だった。

 

『変異したのでしょう。オルトの推測が当たっている可能性が高いですね』

『嫌な予感とか推測とかが悉く正解してるのはどうにかならないのか?』

『私のサポートで対応可能な範疇(はんちゅう)に収めて頂ければ、こちらで対処を講じる事も可能ですよ』

『……そっち方面は絶望的だな。何とかなる部分については任せた』

 

 周囲には元々は何らかの車両や武装だったであろう残骸やモンスターの死骸かもしれない肉片が散乱している。だが、それらはオルト達のずっと前方で爆撃を喰らい、爆風と衝撃の余波で高く舞い上がられ吹き飛ばされたのだろう。その状態がミサイルの威力を物語っていた。

 

『東部のもっと東側にはあれを楽に倒す連中がいるって話だけど、今の俺には想像も出来ないな』

『その地域では楽に倒されるので、同じ強さを持っていても賞金首に認定される事はありません。しかし、オルトも装備をもっと高性能な物にしていけば鼻歌混じりに討伐する事も可能です。今後も頑張っていきましょう』

『了解だ。ファナの言う今後を作る為にもしっかり討伐するとしよう』

 

 オルトがゆっくりと意気を高める。

 そこにクロサワから作戦開始を告げる通信が入った。指示を聞いてオルトが気を引き締め、敢えて不敵に笑みを浮かべる。

 バイクを操作し、走行中のグレイの車の横につける。

 

「グレイ。援護頼んだ」

「ええ、分かったわ。そっちも気を付けてね」

 

 オルトとグレイはお互い頷き、それぞれの持つ役割りを果たす為に行動する。

 

『それじゃあ、やろうか!』

『賞金首との戦闘開始です。行きましょう』

 

 加速を始め、ファナが運転を完全に引き継ぎ、オルトのバイクを更に加速させて部隊の車両を全て追い抜いていく。先ずはオルト自身が囮としての機能を得なければ始まらない。

 オルトはアーミーマメストラから奇襲を受けた際、何も出来なかった。その考えを持ち、危険は承知でクロサワ達に要求したのだ。

 無理矢理()を通した分、役に立たないなんて許されない。許さない、と。

 ファナが浮かべる微笑みに安心感を感じながら、オルトが戦闘を開始する。

 ファナの運転するバイクの速度は徐々に加速していっているが、オルトの身体(からだ)は着用している強化服を介して、ファナが精密な重心制御の補正を掛けている為、非常に安定感のある走行を実現していた。

 オルトはバイクのグリップから手を離し両手にK2R複合銃を握る。既に体感時間の操作を行い、非常なほど緩慢に流れる時間の中に自分の意識を置き、舗装されていない荒野(こうや)を走るバイクから伝わる振動を相殺し易くしていた。

 その上で、バイクのアーム式銃座に取り付けている威力特化型K2R複合銃も合わせて、三つの銃口から伸びる弾道予測線をアーミーマメストラに合わせる。そしてさらに意識を集中させ、一瞬という時間を限界まで引き延ばしていく。可能な限りの圧縮率を以て、車体の揺れも自身に掛かる空気の抵抗も感じなくなった錯覚の中、引き金を引いた。

 3挺のK2R複合銃から打ち出された強化弾が宙を穿ち、目標へと迫る。高額の強化服とバイクに相応(ふさわ)しい反動抑制機能が、強力な銃撃の反動を限界まで相殺し、それらが必要な程の威力を備えた銃弾が目標との間に存在する空気の層を強引に貫き、距離による減衰を受けながらも問題なく標的へと着弾した。

 着弾した銃弾は、アーミーマメストラの強固な外殻に弾き返されてしまった。

 

『うーん、当たった筈……なんだけどな』

 

 オルトの身体(からだ)にもファナのサポートがあり、バイクの銃は完全にファナの制御下にある。それでも相手に被弾の影響が見られないと自身の装備に少々自嘲してしまう。

 

『命中はしましたが、弾き返されてしまいましたね』

『威力を底上げしたK2R複合銃の強化弾でも無傷なんてな……』

『敵の推定索敵範囲外からの銃撃です。威力減衰が相当掛かってしまいます。この銃の十分な性能の発揮は出来ていません』

『つまりもっと近付けってことだな』

『はい。ついでに敵の意識がオルトに向きました。ここからは安全な位置取りの為にバイクの運転がかなり荒くなりますが大丈夫ですね?』

『ああ、問題無い。行こう!』

 

 オルトが両手の銃を構えながら、加速していくバイクの挙動に身体(からだ)を合わせていく。

 

 

 アーミーマメストラは上空領域のモンスター特有の広大な索敵範囲を保持しており、オルトの銃撃の前からオルト達に気付いてはいた。しかし、オルトは以前に二度逃走を図っている為、今度も同じだろうと無視していたが、明確な攻撃をそのオルトから受けたことで、排除すべき敵としての優先順位を最上位に設定した。

 背部から伸びている触手をオルトのいる方向へと向け、ミサイルの誘導性能の高さを利用して特に照準を定めることなく発砲し始めた。

 

 

 まだ裸眼では酷く遠く感じるアーミーマメストラが撃ち出した大量の大型ミサイルが、オルトをバイクごと木っ端微塵にしようと、後部の推進装置を最大限利用して宙を駆けている。オルトの拡張視界には周囲一帯の俯瞰視点の映像も映されているが、アーミーマメストラが撃ち出したミサイルを表す赤い点が数秒間隔で増えていく。

 そしてそれぞれが別々の弾道を通りながらオルトへと向かっていた。

 それをファナの巧みな運転で優位な位置へと逸早く移動しつつ、オルトの両手とアーム式銃座のK2R複合銃で銃撃を行い、迎撃を開始した。

 宙を駆けるミサイルの推進装置から漏れ出るエネルギーの指向性を、オルトの情報収集機器とバイクの索敵機器を利用して把握する。そして次のタイミングにどの場所にどのミサイルがあるのかを予測し、宙を駆けるミサイルそれぞれの保持する威力を利用した誘爆を引き起こせるタイミングに、誘爆を引き起こせる方向へ衝撃が伝播するように狙って銃撃をする。

 大型のミサイルへと着弾した数発の強化弾が力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開させ、衝撃変換光を発生させる。その光量がオルトの銃撃の威力を物語る。そして何発目かの銃弾が力場装甲(フォースフィールドアーマー)をミサイル本体の装甲ごと貫き、内部機構を巻き込み破壊する。

 オルトに近付いた分だけ狙い易くなり、威力減衰を受け難くなる。

 元々の弾道から逸らされたミサイルが別のミサイルへと激突し、同時に爆発し、その爆発に巻き込まれたミサイルもまた誘爆を起こす。

 単純に破壊されてオルトに届く事もなく宙で普通に爆発する。

 オルトの持つK2R複合銃が放つ強化弾はミサイルとの質量差を無視出来るほどの威力を、拡張弾倉が凌駕(りょうが)させるだけの弾数を供給し、それぞれの銃撃にファナのサポートが入る事で最小限の銃撃で最大限の効率で迎撃行為を為していた。

 しかし大型のミサイルを空中で爆発させたとしても、その衝撃や爆風はその下を通るオルトの身体(からだ)に人を殺すには足り過ぎる負荷を与える。

 それをオルトの強化服の力場装甲発生機能を利用して、頭部も含めて衝撃を可能な限り緩和させる。だが、オルトの技術力では適したタイミングに適度な強度の力場装甲(フォースフィールドアーマー)を張ることは出来ない。そこでファナがオルトの強化服の制御装置を介して完璧な展開を行い、オルトへの負荷を消していた。

 それでもオルトとバイクに掛かる地面へと押し付けられる感触は消えることなく、体内へと徐々にダメージが溜まるが、先に服用していた回復薬が即座に治療する。

 1箱600万オーラムの治療用ナノマシンが値段に見合う効果を発揮して、身体(からだ)に溜まる疲労や負傷を消していき、痛覚だけを麻痺させる。

 荒い運転と上空のミサイルへと次々向かう銃口に合わせて動く腕に掛かる負担を、続く激しい戦闘に問題無く耐えられる状態にしていた。

 

『……前とは段違いに楽だな!』

『高威力の銃に高威力の弾薬を大量に揃えましたからね。対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾も使わずに済んでいるのは上々です』

対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾は高いもんな! やっぱり金が無いと荒野(こうや)は危険だな! 勝ってこいつを新しい装備の代金にしてやろう!』

『そうですね。オルトの装備を充実させる為の糧になって貰いましょう。後続の方々を近付き易くする為にもっと前進しますよ』

『了解!』

 

 ファナの合図と共にオルトのバイクが標的へと接近し始める。その分飛来するミサイルにも近くなるが、オルトはその全てを易々と迎撃していた。

 そう証明する様にオルトの顔には内心の自信を表す程の笑みが浮かんでいた。それは連携データとして部隊全ての人員が確認出来ていた。

 そして部隊員以外の者もそれを認識していた。

 

 

 後続の装甲兵員輸送車の内の1台に乗るクロサワ達がオルトの戦闘の様子を、オルトの状態を見ていた。その無謀だと思える戦い振りに顔を引き攣らせていた。

 

「……多少はこっちに飛んでくると思っていたが、全て迎撃してやがる」

 

 同乗している男も似たような表情になっていた。

 

「囮として十分、以上だな。……何なんだあいつ?」

「……さあな。だがオルトのおかげで俺達は安全に前進出来るんだ。恩恵にあやからせて貰おう」

 

 クロサワが後続の部隊全員に通信を繋ぎ、オルトが開いている経路を前進するように指示を飛ばす。元々かなりの速度で走行していた後続部隊もオルトのバイクの速度が加速していくにつれて、置いていかれる方が危険と判断して速度を増していく。

 

 

 前方で宙を駆ける多数のミサイルを単独で悠々と迎撃しているオルトの姿にセレスは驚愕の表情を浮かべていた。

 

「……オルトって、……あんなに強かったの?」

 

 自分達の出番など無いと言うかの如く、自分達など不要とさえ思わせる戦い振りにセレスは、自分が築いてきた自信を疑い始め、実力を信用出来なくなりつつあった。

 その隣に座るルインは別の意味で目を見開いていた。

 

「今まで隠していた訳では無くここ最近で急激に強くなったのでしょうか? 実際武装に関しては以前よりも強力な物を使用していますから」

 

 ルインはオルトの戦い振りをただ純粋に自身の内から溢れる興味や、疑問に対する答えを探していた。

 ミサイルが爆発した際に発生した衝撃の影響を軽減する為の位置取りを優先して、バイクを急加速させたり急旋回を織り交ぜ、適した位置へと移動しながら高精度の銃撃によるミサイルの迎撃を熟していた。

 移動によって発生する慣性だけで常人なら殺してしまえるような加速と旋回を、オルトが戦闘可能な状態を維持出来るだけの運転だ。他者の介在を許さないと思わせる高度過ぎる運転技術がそこかしこから確認出来る。

 

「それでも限度が有ると思うけど……?」

()しくはあいつがバイク乗りだったってだけかもな」

 

 後部座席からクモンズが同じように前方のオルトを見て感想を述べながら姉妹の会話に参加する。

 

「バイク乗り、ですか?」

「ああ。特定の武装に限って著しく高い適性を持つ奴が偶にいる。銃の方が安全なのに近接戦闘を選んだり、人型兵器の方が高い殲滅力を持っているのに個人兵装を選んで高い戦果を上げる奴が居たりとな」

「……そういえば、以前の依頼中、バイク自体は所有していたのに乗る事は無かったわね」

荒野(こうや)を長時間移動するなら車で事足りますからね。オルトさんのハンター稼業は遺跡探索が主だと言っていました。遺跡内の狭い場所だとバイクの方が輸送車両よりもずっと利便性が高いです」

「後は、FARBEが頑張り過ぎて他チームの功績を持って行ってたからな。あれ以上は敢えて自重してたのかもな」

 

 実際にはバイクで使用するエネルギータンクの値段がオルトの顔を顰めさせるに足る程に高額だっただけだ。

 それでも前方で駆けるオルトの挙動は理解不明ではあるが、確実に本人に迫るミサイルへ対処しているということが結果から分かる。

 

「……あれだけの技量を身に着けるには才能もそうだが、それに見合った研鑽も重ねているんだろうな」

「あれが……荒野(こうや)でのオルトの本気か……」

 

 オルトの活躍は絶大の効果を部隊全体に齎していた。しかしいつかは限度が来てしまう。そこを補う為の人員として呼ばれたセレス達は、オルトの開く道を安全に且つ緊張感を持って進んでいた。

 

 

 オルトは部隊から大きく前方に陣取りつつ、更に前へ、更にアーミーマメストラへと接近出来るように頭上から迫るミサイルの迎撃を続けながら標的までの距離を縮めていた。囮役として敵の意識を自身に集中させる為に、部隊の他の人員など自分という脅威度に比べれば些事だと教えるように、ミサイルの迎撃を行いながらも本体へと何度か威力特化型K2R複合銃で銃撃を繰り返していた。

 強化弾が再度アーミーマメストラに着弾した。接近して威力減衰を受け難くなりつつある為、オルトの攻撃は徐々に効果を増してきていた。既に着弾したらそのまま弾き返されるだけという結果にはならないだけの威力を保持したまま着弾可能なほどに接近している。

 

『よし! ほんの僅かにだけどヒビが入った!』

 

 それでもオルトの内心の喜びを嘲笑うかのように、与えた負傷を何てことも無いように修復され、そこには傷一つ無い外殻のみが残るという結果に落ち着いてしまった。

 オルトは敵の生命力に再度舌を巻く。

 

『まだ足りないか? こんな所で撃っても俺の装備程度じゃ大して意味なんて無いってか』

『それでも徐々に与えられる負傷度合いは増えていっています。問題ありません。それにオルトの役目は個人でアーミーマメストラの外殻を破壊することではありませんからね』

『分かってるさ。ちょっとした期待を持っただけだ。過信なんかしない』

 

 過合成スネーク討伐作戦で生物系モンスターの圧倒的な生命力は確認済みだ。ファナのサポートをこれでもかと受けて漸くアーミーマメストラに接近できている現状だ。オルト1人で対処可能な程の戦力だとは流石に言えるはずもない。

 それでもオルト達の作戦は次の段階へと進める。それだけの距離まで標的に接近出来た。

 オルトが通信機を遠隔操作して部隊全体に連絡を入れる。上空で鳴り響く爆音に負けないように大声を出した。

 

「第二段階開始だ! 頼むぞ!」

 

 オルトがそう叫ぶと、オルトの情報収集機器が新たな変化を掴む。

 オルトの後方を走る車両に乗る部隊員達が一斉に身を乗り出し、それぞれが用意してきた大型の銃を上空へと構えた。

 逆にオルトは両手の銃から手を離し、強化服の補助アームがいつも通り腰の横にK2R複合銃を添える。空いた両手でしっかりとバイクのグリップを掴み更に激しくなる運転に耐えられるように体勢を低くし、最低限の迎撃すらファナへと任せる。

 迎撃をアーム式銃座に接続したK2R複合銃のみにしたが、拡張弾倉を活かした連射を行えばオルトだけでも迎撃は可能かもしれない。だが、その為に消費する弾薬やエネルギーはこの後必須となる。

 ここから先はオルトだけで対処するには、バイクに積める消耗品の量だけでは不安になる。

 後方の車両に乗る人員の言葉が通信機から一言だけ聞こえる。

 任せておきなさい、と。オルトの耳によく馴染んだ声が聞こえた。

 直後、オルトに迫るミサイルをファナが迎撃せずに放置する。だが、それをたったの1発で力場装甲(フォースフィールドアーマー)を貫き、その奥にあるミサイルの装甲や内部機構ごと破壊し、オルトに届くのは発生した爆風と爆音、衝撃だけに終わった。

 衝撃や爆風で飛び散る何らかの残骸や瓦礫、土砂がオルトの高性能な情報収集機器の索敵効率を悪くする中、それを行った人間を問題無く完全に捉える。

 オルトのバイクの速度に付いていく為に、自身の車も結構な速度を出しているにも拘らず、グレイはアーミーマメストラの攻撃で更に荒れた荒野(こうや)の地面から伝わる振動さえも無視した狙撃を成功させた。

 迎撃後の衝撃や爆風の指向性すら考えたファナの銃撃には遠く及ばない。それでもオルトの身を守るという一点に於いては問題無いほど高精度な狙撃を行った。

 そしてそれに続くようにクロサワ達や姉妹達がオルトに迫るミサイルの迎撃を開始した。彼等は対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾を使用している為、オルトのように同箇所に数発連続で着弾させる必要など無い。今日、この時の為だけに用意された大量の物資による物量で対処すればいいのだから。

 空を駆ける多数のミサイルがその数を減らしていく。

 

『こちらでの迎撃は不要ですね。これならまだまだ速度を出しても問題は無さそうですね』

『あのミサイルを1発でも受けたら致命傷なんだ。安全運転で頼むからな? ……さっきまでの運転を安全だと思ってしまった……』

『真面にミサイルを受けて死んでしまうよりも、多少の無茶による反動で身体(からだ)が損傷する方が遥かにマシですよ。それとも速度を落としますか?』

『落とさない! さっさと終わらせた方が安全じゃないか! 多少の無茶ぐらいで済むならやってくれ!』

『覚悟が出来ているようで何よりです』

 

 ファナの揶揄うような顔と軽い挑発に敢えて乗り、更に加速していくバイクが与えてくる強い慣性が(もたら)してくる激痛は麻痺している筈の痛覚を刺激してくる。激痛に歪みかける顔を更に回復薬を服用して自信に満ちた笑みを浮かべる。

 ここから逃走する事は絶対しない、させない為に危険な場所に居ようと自分は余裕なのだと優勢なのだと認識させる為に。自分を見ている者達へ伝わるように。常に自分を見ている者がそう判断出来るように。

 

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