リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第十七話 贅沢な飢餓感

 

 前衛を自ら望んで買って出たオルトは、その無謀と思わせる大言を余裕の笑みを浮かべながら実行している。

 アーミーマメストラの注意を一身に引き付け、宙を駆ける大量のミサイル群の迎撃を単独で成功させ続け、後衛に配置されている残りの部隊員の損耗をゼロに変えていた。

 それを叶える(ため)にどれだけの無茶をしているのかは実行している者以外では正確には量れない。上空で今も尚、迎撃され続け爆発を繰り返しているミサイルの衝撃と爆風に晒され、それを無理矢理に回避し続ければその真下を通る者に掛かる負荷は相当なものに変わるはずだ。

 それでもオルトの顔からは笑みは消えず、バイクの速度を落とすことも無くアーミーマメストラへと接近していた。

 バイクを巧みに操縦し、接近と自身へと降り注ぐミサイルの迎撃、果てには本体への攻撃さえ行っているオルトの姿は余りにも異常過ぎた。

 荒野(こうや)の地面は都市の整備され舗装された道路とは比べるまでもなく劣悪だ。更には、アーミーマメストラが過去に接近してきたハンターの討伐チームやモンスターに向けてミサイルを撃ち出したのか、所々抉れている(ため)、悪路と化している。その中を迎撃するのに最適な位置取りの(ため)に無茶苦茶な挙動を以て走破していた。

 そうして上空へと銃撃を繰り返し、宙を駆ける大型ミサイルを易々と破壊しつつ、そのミサイルの爆発によって発生した爆風や衝撃を、力場装甲(フォースフィールドアーマー)を使用しながら本人への負傷を軽減、消失させていた。それでも上空から地面へと押し付けられる力は空間に及んでいる(ため)、バイクの両輪が荒野(こうや)の地面を削り、濃いタイヤ痕を残していた。

 1発だけでも真面に喰らえばここに集まっている人員の装備でも致命傷は確実だ。それが上空に大量に存在しており、更にその数は時間が経つごとにアーミーマメストラが増やしている。それを一身に引き付けながら悠然と迎撃を繰り返し接近しているオルトの姿は、間違いなく高ランクハンターの技量を表していた。

 その姿に賞賛を送る者。その無謀の実現者に驚愕する者。それを自身から発した事に呆れる者。様々存在するが、人一倍心配そうに顔を歪めながらも手出しを行えないグレイは、今はまだ堪えなければと奥歯を噛みしめていた。

 

 

 グレイは悲痛に顔を歪めながらも、自分がここで無駄に手を出せば計画が破綻する。オルトの努力を無駄にすると理性で自分を止めていた。

 

(……まだ。まだ駄目……。ここで私が狙撃して注意を引いても私だけで迎撃出来る量なんてたかが知れてる。作戦はまだ第一段階。まだ堪えるの……)

 

 今はバイクの加速力を利用して急激に接近している上に、高精度の銃撃で撃ち出されるミサイルを迎撃し続けているオルトへアーミーマメストラが最優先撃破対象だと認識している筈だ。そこでグレイが攻撃してしまえば、その優先順位を変化させてしまう可能性がある。

 オルトがグレイに求めた役割りは共に敵の注意を引き付け、的として散る事ではない。適したタイミングでグレイの持つ狙撃特化型K2R複合銃を用いた援護を求めているのだ。それならば、どれだけオルトの顔が歪もうと役割りから外れる事など出来ない。

 グレイの車が、迎撃され残骸と化したミサイルを踏み越えて激しく揺れるが、グレイは完全に無視しており、前方を走るオルトが想定している自体以上の事が起きた際に、自分の役割りを果たすべき時がきた時に力になれるように集中して周辺の索敵を念入りに行っていた。

 

 

 グレイは先日、オルトからクロサワ達が賞金首の威力偵察目的で派遣している偵察班へと物資輸送を行う依頼に誘われて、自分がFARBEからレンタルしている大型で高性能な輸送車両を使って参加する事にした。

 オルトはアーミーマメストラに奇襲を受けて、所有していた車両を失っていた(ため)、他の輸送手段としてグレイを誘っただけだが、当の本人にとってこの依頼で得た認識は今までのどのハンター稼業で得た成果よりも、グレイの力へと変わった。

 オルトのどこから仕入れているのか不明な知識や派生して変異していく知恵はグレイにとって奇妙且つ合理的な内容だ。生物系・機械系モンスターの生態や行動原理に関わる知識、戦闘時に変化する挙動の理由等は圧倒的な戦力で倒せばいいとだけ考えるハンターには不必要なものだ。しかし、安全に討伐を終える(ため)には、戦闘そのものを回避する(ため)には必要になるものだ。

 オルトが何故危険な状況下から生還するのかを知れた気がした。

 気がしただけだった事に、都市へ帰還中に教えられた。

 物資の輸送が終了して輸送車両の荷台にはオルトとグレイの消耗品だけが残り、後は都市へ帰還すれば終了という状態になった。

 だが、アーミーマメストラが出現した事により、周辺一帯にハンターが長期間近付かないという事態に発展していた(ため)、賞金首と比較すれば小型の生物系モンスター達が増殖し群れを成し縄張りを広げていた。そこを輸送車両で通過する際に駆除を行おうと自動運転に切り替えようとグレイが席を立とうとした時、オルトが1人でやると言い出した(ため)、グレイは大人しく運転を続ける事になった。

 輸送車両は大型で、その形状は力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開する際効率的だという事で平面を組み合わせた横長の箱型だ。その(ため)、輸送車両の屋根は人1人が走り回るには充分過ぎる程の広さを持っていた。オルトは屋根の上を機敏に駆けながら、接近してくるモンスター達を大小関係なく容赦無く蹂躙していった。

 グレイはその姿を車両の索敵機器とオルトの情報収集機器から送信される連携データを同時に確認しながら、再度オルトの戦闘力の高さに感嘆を漏らしていた。だが同時にグレイの才能がオルトのある挙動の異常さについても感じ取らせた。オルトが銃を構えた後に照準が、銃口が微細に動いていることに気付いた。

 グレイも強化服を着用するようになってから結構な期間が経過した。だからこそ理解出来る。銃の照準のブレを抑える(ため)に前腕から上腕、肩や胴、腰や脚を体外的要因である人工筋繊維で編まれた強化服の出力で固定化させ、強引に安定化させる。グレイも高精度の狙撃を行う際によくやっているし、それで身体(からだ)を痛めた事が何度もあった。

 オルトが狙撃する際にも似たような事をしているし、強化服の身体能力を利用しなければ、走行中の車両の上で機敏な機動力を確保する事は常人には不可能だ。間違いなくオルトの強化服に搭載されている接地機能を利用しているし、強化服の保持する身体能力で移動している。

 であるのならば照準のブレを強化服の身体能力で強引に抑えるという事もしているはずだった。だが、その僅かな動きを止める事なくオルトの銃撃は続く。外れる事も有るが、その命中率は悪路を走行中の車上から銃撃しているという状況から考えれば相当高いと言える。

 照準のブレを抑える事なく銃撃した際の命中率の低さぐらい、グレイも知っている。それでもオルトはモンスターに、その弱点であろう頭部へと撃ちだした銃弾を着弾させ続けた。

 群がってくるモンスターを遠距離から一方的に銃撃し続け、周辺一帯からモンスターを殲滅したオルトは依頼開始時とは比較出来ないほどに明るい表情を浮かべて車内に戻ってきた。

 グレイも走行中の車上からの銃撃精度向上の(ため)に、荒野(こうや)を駆けるモンスター相手に戦闘を積みたかったが、周辺の反応は既に消えてしまっていた。この場所でその機会を得るのは少し経った後になるだろうという事が分かる。

 オルトの強さの理由が不明な事と相まって、無意識に不機嫌になってしまったのか、オルトはグレイに謝罪と次の機会は交代する事を宣言した。

 しかし、グレイはその機会を脇に置き、自分の中で渦巻く疑問の解消に繋がればという淡い期待と共にオルトの銃撃時に感じるブレについて聞く事にした。

 返ってきた内容にグレイは納得と困惑の両方を覚える事になった。

 死に掛けた際に起きる意識の暴走による時間感覚の矛盾。オルトはそれを利用して、身に付け、扱い、戦闘に活かしていた。

 1秒で狙った時と10秒掛けてしっかり狙った時とでは、銃の扱いに慣れてない者でもない限り命中率に大きく影響が出る。

 そんな常識の中で、オルトは時間の流れをゆっくりに捉え、たったの一瞬であろうとも10秒や100秒掛けて照準の調整を行い銃撃を行っている。であれば、オルトの命中率の高さにも納得がいった。

 駆け回りながら周囲の状況を確認すれば、自分以外は酷く緩慢に動いているのだから、その弱点を狙うのならば精確な銃撃の難易度は確実に下がる。そしてそれは銃撃を行う本人や、それを受ける相手以外にも、環境にも左右する。

 銃撃時に身体(からだ)に伝わる振動などを完全に無視出来るのならば自分の銃撃の邪魔をするものは無くなるからだ。

 しかしそれには多大なメリットに見合うだけのデメリットが存在する。速くなった意識に認識が追い付き、認識に身体が付いていくかは別の問題だ。常人の身体はそこまで速くは動かない。

 そこで強化服という体外的要因を利用する。そうすれば認識通りに速く行動を行える。

 そこにデメリットは発生する。

 身体(からだ)の外側を覆う強化服は高めた身体能力に比例して強度を増す。そうしなければ自壊してしまうからだ。しかし生身は強度を増す事など不可能だ。速く動いた分強度を増した強化服に柔らかい生身は叩きつけられる事になる。

 自身の行動によって自滅に近付いていくだけのところを、高性能な回復薬を大量に服用して痛覚を麻痺させ、骨折や強化服と皮膚によって起きた裂傷を強引に治癒させることで戦闘可能な状態を作り続ける。

 グレイはそれを聞いて初めてオルトが高額の回復薬を所持して依頼に臨むのかを理解した。そんな大怪我を許容しながらの戦闘を長時間単独で熟すには、骨折などその場で完治するほどの回復薬は必須になる。

 オルトに教えられた戦闘時のコツと言えるかどうか怪しい技術をグレイは理解した。グレイ自身にもそんな感覚に陥った経験があったからだ。

 危険性までを理解してしまった(ため)、ハンターではないカオルやエルに言うときっと心配させるだろうと遠回しに注意すると、伝えたのはグレイが相手だったからとオルトが何の躊躇いもなく放った所為(せい)で、グレイの緊張感と真剣さはどこかへと散ってしまった。

 

 

 オルトとの物資輸送依頼の日からグレイの訓練内容は大きく変化した。

 強化服を自分の生身とは別々に動かすための訓練を始めた。

 オルトから教えられた通り、軽く柔軟体操を行ってから近場の荒野(こうや)へと赴き、銃を使った訓練へと移行しようと計画を立てていた。

 グレイの計画は1歩目から破綻した。

 柔軟体操を行おうと強化服を別に動かしたことで、身体は思うように動けなくなってしまった。強く固め過ぎた結果、関節が曲がらなくなったり、逆に曲がった後にそのまま固定されてしまい、ゆっくりとした動作でも良いから自由に動くという課題から入る必要があった。

 今までも基本を追従式で局所的に読み取り式へ変更しながら戦闘を行なっていたが、オルトは戦闘時には確実に読み取り式でのみ強化服を運用している。それを真似るのであれば確実に読み取り式だけでの訓練をしなくてはならなくなる。

 筋が伸びたまま固定化され身体が痛む事もしばしばあったが、用意しておいた回復薬を使い事なきを得た。

 ただの訓練で、その前段階で回復薬を使うとは思ってなかったグレイは、自身への自嘲とそれを平然と行っているオルトへの呆れにより悲しげに笑ってしまった。

 それでも折れる訳にもいかず、何日も掛けてぎこちなさはあっても歩く、手を振るという基本的な動作のみは問題無く行えるようになった。

 次は荒野(こうや)へと出て動作の強度を上げなければならない。自分の両脚で走る。最初は軽く、そしてどんどん速く加速していく。

 振るう腕と脚が強化服に叩きつけられ股関節を酷く痛めた。激痛に顔が歪み、訓練に集中出来ずゆっくり減速していくという事ができなかった所為(せい)で、派手にコケることになった。また回復薬を消費する事になった。

 現在グレイが着用している強化服はオルトのおかげで高価で高性能な商品だ。強化服の性能が以前の、桁が億未満の製品のままであったら生身へと伝わる衝撃緩和機能が貧弱で、グレイの精神が耐えられても身体が耐えられなかった。

 全身に走る激痛を回復薬で無理矢理誤魔化して訓練を再開した。強くなる必要がグレイにはあるからだ。

 足を止めてしまったら、自分が想う人に見捨てられるかもしれなかったから。あの日選択した自分に失望されるから。今の自分を作った全てを無駄にはしたくなかったから。

 こんなところで終わっていられるか、と。

 浪費のように回復薬を服用し続け訓練を続けた。それは何日も行った。有難い事にFARBEに売却していた大量の遺物の換金も終わり、グレイの口座には100万オーラムを超える回復薬を大量に買えるだけの資金があった。

 

 

 過剰な訓練密度のおかげか数日経つ頃にはそこらの荒野(こうや)仕様車両を超える速度で問題無く走る事も可能になった。

 次は銃撃だと思っているとドランカムから依頼が舞い込んで来た。賞金首討伐に向かう主力部隊の補助要員として参加して欲しいという内容だった。

 グレイはオルトから教えられたドランカムの内情を思い出し、最初は断ろうとしたが、先日の物資輸送の報酬としてオルトに付いて来て貰うことにした。

 賞金が10億オーラム以上にまで上昇した賞金首が相手であれば、オルトを呼ぶ理由にもなる。その上、今までの訓練の成果を信頼出来る相手に確認して貰える。基本的にグレイが対処を行うが、万一オルトが戦闘を行えばその戦闘記録も手に入るだろうと思い依頼を受けることにした。

 オルトに連絡を入れるとすぐさま了承を得た事で、依頼までの数日、厳しい内容の訓練を熟しながらもグレイの頬だけは色々な意味で緩んでいた。

 依頼当日、討伐作戦開始前に主力部隊の部隊長に不安を覚えることになったが、作戦中のモンスターへの対処には訓練の成果が十分出ていた。

 結果として大量のモンスターを討伐した。主力部隊に少なくない被害が出た。オルトの異常とも思える戦闘記録を入手出来た。

 その日からグレイの訓練から身体(からだ)を動かす比率が減少した。自分の動作とオルトの動作を見比べ、どこを雑にしてしまっているのか、取り入れられる動きはどれか、記録映像を何度も繰り返し繰り返し見返していた。

 高額の強化服と回復薬の相乗効果は大きく、身体(からだ)の動作の精度は格段に向上した。その自覚もあるが、体感時間の操作だけは結局可能にはならなかった。

 自分の才能の限界を疑った。この程度で終わるのかと擦り減った精神が悲鳴を上げる。それでも自分の信頼する者の言葉を疑うという考えには至ることは無かった。グレイなら出来るだろ、と。何の疑問も躊躇も無く放たれた言葉は覚悟も信念も不安も混じらない純粋な一言だった。

 グレイは機会を得た。そこらのハンターでは手をすり抜けてしまう程か細い機会を掴めた。どれだけ磨耗しようと無様に泣きじゃくろうと手放す気にはなれなかった。

 

 

 グレイが明確な成長と、立てた目標にまで達していない事実に打ちのめされながら、それでも前を向く。下を向く時間など今は無い。

 戦っているオルトはバイクを蛇行させながらも着実にアーミーマメストラに接近している。

 周辺を縄張りとしていたモンスター達は先日オルトに駆除され、新たに住み着こうとしていたモンスターは、大部隊が行っているビッグウォーカー討伐時に起きている激しい戦闘音に反応して引き寄せられていったおかげで、アーミーマメストラ討伐部隊を外から襲うモンスターは確認されなかった。

 グレイを含めた後方部隊を襲うのはアーミーマメストラだけであり、撃ち出されているミサイルは尽くオルトが迎撃している(ため)、賞金首討伐というにも(かかわ)らず非常に安全な走行を行えていた。

 オルトがアーミーマメストラのミサイルによって抉れていた地面を通り過ぎて、更に中心部の攻撃されてなかった(ため)に綺麗な状態といえる場所まで到達した。

 

(…………もう少し。後、少し…………)

 

 後方部隊の車が走る地面は賞金首認定されてから討伐に訪れたハンター達を狙った結果出来た悪路を通っている。

 グレイが1人で飛び出しても意味がない。後方部隊で連携して援護を行う為にも、既に右手にK2R複合銃を握っていても決して構えることはなかった。

 そしてその時は何の障害もなく訪れた。

 後方部隊の車両全てがその悪路を突破して綺麗と思える程度に荒れているだけの地面へ車輪を移し終える。

 その事実を車両の索敵機器から送信される連携データを受け取ったオルトが問題無く進行出来たと判断し、作戦を次の段階へと移行させる指示を出す。クロサワからも攻撃開始の合図が部隊全体へと送られ、後方部隊全員がそれぞれ大型の銃を持ち、車両から身を晒した。

 グレイはただ1人安心していた。作戦通りに事を順調に進め続けたオルトが、そのまま1人で討伐へと移行しなかったことに。

 安堵を覚えた。指示を出したオルトが両手に握っていた銃を下ろして後方部隊に迎撃を任せたことに。

 たった一言発するだけで、たった一つ行動を起こすだけでグレイは自分へ向けられる信頼を如実に感じ取った。

 摩耗し続けていた精神が無意識の内に回復する。自身の選択への信頼と他者からの信頼を以って明瞭な、グレイという個人の輪郭を形成していく。

 通信機で通信を繋げる。

 

「任せておきなさい」

 

 グレイがそう言って狙撃特化型K2R複合銃を上空へと悠然と構え引き金を引く。オルトが迎撃した事で発生したミサイルの残骸をグレイの車が踏み越え発生する振動すらも感じないほどの集中力が、強化服の身体能力によって照準のブレを完全に殺しきり、宙を駆ける大型ミサイルへと着弾する。

 撃ち出された銃弾は着弾と同時にミサイルに展開されている力場装甲(フォースフィールドアーマー)に阻まれ、一瞬衝撃変換光を発生させ荒野(こうや)を照らしたが、銃弾に内蔵された対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)機構によって容赦無く貫き、更に奥にある内部機構を諸共に撃ち貫いた。

 オルトが迎撃をバイクに接続したK2R複合銃のみに変えた直後、最初に迎撃されたミサイルはただの1発でその役割りを果たす事なく地に落ちた。

 

(流石対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾ね。1発500万オーラムとか言う馬鹿みたいな値段設定なだけはあるわ。…………まあ、今回は色々値引きして大量に購入したって話だし、有難く使わせて貰うわ!)

 

 その次の狙撃も難無く成功させる。銃弾の効果、銃の性能、威力に比例した反動を相殺し切れる強化服。それらもその狙撃に十分貢献しているが、それでもグレイの狙撃の精度は強化服の訓練の甲斐もあり格段に向上している。

 他の部隊員達が連射するように撃って迎撃しているところをグレイは1撃で、精確に撃ち落としていた。

 

 

 装甲兵員輸送車から身を乗り出してオルトへ降り注ぐミサイルを姉妹とクモンズ、シーナが迎撃の(ため)に上空へと銃を構えていた。

 後方部隊の中で迎撃数が多いのは部隊長のクロサワとその同乗者だ。それは理解出来る。ハンター歴の長さと今回の討伐作戦の(ため)に様々な準備を行った者達ならば必要となる技術を多少なりとも磨く時間もあるからだ。

 だが、その下に位置する者はグレイだった。精確な銃撃を連射とまではいかなくとも素早く行い、それでいて確実にミサイルを落としている。

 その情報をルインが表示装置に投影して確認していた。

 

「あのグレイさんって人、凄いですね。こっちの迎撃数だとトップ争いに加わってますよ」

「ハンターランクはこっちの中だと最低値でその結果ってどうなってるのよ!? オルトといいグレイって子といいクガマヤマ都市はランク詐欺を輩出するのが流行ってるの!?」

「装備自体は良い物を使ってたしそれに見合うだけの実力を備えてたってだけだろ?」

「そうよ、2人とも。そんな事にヤキモキしてないでちゃんと迎撃してあげないと」

 

 セレスもルインも訓練通り、否、今回の依頼を受けるに当たって徒党から何時(いつ)もより大型且つ威力の高い銃を貸し出して貰っている。徒党内での若手でも実力が確かな者という信用を元に貸し出された高性能な強化服も相まって、その成果はミサイルの残骸塗れの荒野(こうや)を走行中である車上からの銃撃という難易度からしてみれば、高い命中率を出してはいる。

 それでも銃の威力不足か着弾させる位置が悪いのか、一つ落とすのに数発掛かっている。即座に危険度の高いミサイルを姉妹は時に同時に着弾させたりと工夫しながら銃撃を繰り返していた。

 

「うーん、やっぱりこの銃だと火力不足かー」

「仕方ないですよセレス。私達のランクでこれ以上を借りる場合、色々と報告義務が付いてしまいます。それだとオルトさんからの依頼に参加出来ませんからね。クモンズさん達が付いてきたのも怪しいぐらいなんですから」

「それはそうなんだけどね……」

 

 セレスが情報収集機器を確認すれば、自分達よりも高性能な銃を扱っているクモンズもシーナも着弾させれば1発でミサイルを落としている。装備の性能差を感じながら、しかしここで放り投げる事はハンターとしてあり得ないと断じて意気を逆に上げていく。

 足りない火力という質は足りる様に数当てれば良い。性能に不満を感じたのならば感じない程の性能を持つ銃を扱える様になれば良いだけだとして、()ずはこの依頼を無事終わらせる事を優先した。

 そんなセレスを見て笑みを浮かべたルインもまた同じ様に連射速度を上昇させた。

 

 

 前衛を行い部隊全体をアーミーマメストラへと接近させる事が出来たオルトはバイクの速度を更に上昇させ標的へと接近していた。

 アーミーマメストラの背部から伸びている複数の触手から吐き出され続ける大型のミサイルへの迎撃の大部分を後方部隊へと任せ、自分は兎に角接近を優先する(ため)に銃から手を離し、バイクにしがみつく様に乗っているだけだ。

 バイクのアーム式銃座に取り付けた威力特化型K2R複合銃の操作もファナが行っている(ため)、今のオルトは爆風と衝撃からの被害を最低限にする(ため)に機敏な挙動を繰り返し続けるバイクの動きに体感時間の操作を使って身体(からだ)を動かし、重心を安定させる事ぐらいだった。

 上空で役目を果たせず散っていくミサイルが撒き散らす残骸や荒野(こうや)に飛び散った残骸の山を避けていると、拡張視界に映るミサイルの一部がオルトの後方へと進行方向を変え始めた。

 

『……ミサイルの軌道に変化が生じました。後方部隊への脅威度が上昇してそちらへの攻撃が行われ始めましたね』

『おかげでこっちに向いてる攻撃が薄くなってきたな』

 

 オルトは片手にK2R複合銃を握り、自分に背後を見せるミサイルへ向けて照準を定めた。引き金を引く瞬間に体感時間を限りなく圧縮して、機敏に動くバイクの揺れも腕の僅かな振動すらも抑え込み銃撃する。

 異常な訓練によって磨かれたオルトの技量にファナのサポートも加わった正確無比な銃撃は、内部機構が剥き出しになっているミサイルの推進装置へと滑り込み、対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾で無くとも余裕で破壊した。

 

『よし、推進装置に撃ち込めば強化弾1発で壊せるのは楽だ!』

『弾薬費も抑えられますからね。援護をしつつ援護されましょう。さあ、もっと接近しますよ』

 

 オルトのバイクに接続されている銃も含めて後方部隊へと標的を変えたミサイルを背後から撃ち貫き、オルトへと向かって来ているミサイルには後方部隊が対処するという良好な援護関係を築き始めていた。

 

 

 オルトが迎撃を続けながらも、威力特化型K2R複合銃で本体へと接近中に幾度か銃撃を行い続け、その負傷度合いを調べ威力減衰が掛かり過ぎて無意味な攻撃になってしまう場所から近付くを繰り返していた。

 そして明確に強化弾を撃った際の負傷に差がで始める事になった。

 

『……結構近付く事になったが、ここからが本番だな』

『既に危険地域の中です。気を緩めることのないようにお願いしますよ?』

『了解だ』

 

 オルトが通信機越しに部隊全体の前進を止めさせて、作戦を第三段階へと移す。

 両手とバイクのアーム式銃座の銃を合わせて三つの銃口を触手へと向ける。体感時間を圧縮させて撃ち放った銃弾は触手の同箇所に同時に着弾した。しかし、光を撒き散らして特段負傷らしい負傷を与えることは出来なかった。

 

『予想通りと言えば予想通りだけど、面倒臭いな』

『取り敢えずどの程度の強度を保持しているのかの把握は済みましたし、どの程度覆っているのかも掴めました。次は対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾を使いますよ』

『了解だ。節約出来た分贅沢に使うとしよう』

『経費が高くなりますね』

 

 ファナの言葉に無言の念話という無意味な事を返しながらオルトは再度銃口を触手へ向け、引き金を引いた。

 威力特化型K2R複合銃の弾速は威力向上に伴って両手に握る銃よりも遥かに速い。その(ため)今までも両手の銃から撃ち放たれた銃弾と着弾の瞬間を同時にする(ため)に、ファナがその高度な演算能力を以って調整していたがこの瞬間だけはそれを止め、両手に握る銃の銃弾を置き去りにして先に着弾した。

 そして間髪入れずに同箇所に着弾した事で3発の対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾がその効果を発揮して、先に着弾した銃弾が展開された力場装甲(フォースフィールドアーマー)を弱め、続く2発の銃弾が弱まった力場装甲(フォースフィールドアーマー)を撃ち貫き触手の内部機構を破壊した。

 1本の触手が機能を停止させてアーミーマメストラの外郭に沿って倒れ込んだ。その光景は先日見た過合成スネークを縮小版の様に感じたが、人が受ければ容赦無く潰される程の質量を持っている事が(うかが)えた。

 オルトはそんな触手を確認して意気を高める。

 

()ずは1本。次々行こう!』

 

 上空から降り注ぐミサイルに邪魔されず、破壊されたミサイルの残骸を避けつつも正確に狙いを付けて再度銃撃を合わせる。

 着弾した3発の銃弾が眩い光を荒野(こうや)に放った。オルトの視界を光で遮るが拡張視界に映される情報は問題無く確認出来る(ため)、その触手の状態が掴めてしまった。

 

『……破壊出来てない。なんでだ?』

 

 先程の攻撃は破壊出来ていたにも(かかわ)らず、今度の銃撃による負傷を確認出来なかった。

 

力場装甲(フォースフィールドアーマー)に回されるエネルギー量を増やしたのでしょう。その分強度が上昇して先程のように容易な破壊が行えなくなりました』

『……面倒臭いな本当に』

『仕方がありません。節約はここまでです。これからは潤沢な物資にものを云わせて行きましょう』

『そうだな! それを選んだのはアーミーマメストラだ! 撃ち続けていくとしよう!』

 

 オルトが認識を変更して、それぞれの銃の単発での破壊を諦めた。そして通常弾を撃つような連射速度で目的の触手へと、無数の銃弾がファナのサポートを受けて狂いなく着弾し、強度を増した力場装甲(フォースフィールドアーマー)を容赦無く貫通して破壊した。

 

『これで2本目。続けて行こう!』

 

 アーミーマメストラの背中から飛び出している触手の数は数十と有るが、生えている場所はそれらを自由に動かすには狭くそれぞれの持つ巨大さ故に同じ標的を狙うのには不向きだった。

 オルトは自分に向く触手を優先的に破壊して自分の安全性の確保を行い、本体を狙わせない事で後方部隊への脅威度を相対的に減少させていく。

 オルトの精確な銃撃により一つ、また一つと触手は損壊し外殻へと、偶に他の触手へと倒れ込む事でアーミーマメストラの戦力を徐々に削いでいっていた。

 

 

 クロサワの乗る装甲兵員輸送車の中で、同乗している男が車内に停車しているバイクから既に不要となった武装を外している。

 車外では上空を駆ける大量のミサイルとそれを撃ち落とす為の銃弾が飛び交っている。だが、その状況を作る(ため)に用意された武装はオルトが1人で囮として活躍したおかげで、予備として用意されたそれらはただバイクの重量を増やすだけの無用の長物と成り果てていたからだ。

 

「そろそろ準備は出来たか?」

「これを外せば終わりだ。……それにしても向こうの連中もやるもんだな。随分と楽が出来た」

 

 クロサワが情報収集機器から得た情報を表示して確認しながら頷く。

 

「確かにな。オルトも良い伝手を持っているって事だ。他都市の連中を呼ぶって聞いた時は他の連中が顔を(しか)めたが、話の分かる奴が来てくれたからな。蟠りも出来ずに作戦に移れたのは重畳だ」

 

 クロサワ達は自分達の車に迫って来ていたミサイルを撃ち落としつつ笑いながら会話を続けていた。

 男が武装を外し、必要な追加武装のみ残して軽量化したバイクに跨りながら外の確認をする。

 

「……オルトは脈無しだろうが、あのグレイって奴も個人で動いてるハンターなんだろ? チームに誘うのは有りなんじゃないか?」

「まあ、検討に値するな。若手であれだけやれる奴はクガマヤマ都市にそう居ない。あいつが加わってくれれば仕事の効率も安全性もぐんと上がるってのは俺も認める。それもこれが終わってから考える事だ。頼んだぞ!」

「了解! 第四段階開始!」

 

 男がバイクに跨り車外へ飛び出した。荒野(こうや)の地面には既に大量のミサイルの残骸が散乱しており、爆撃によって抉れた地面とはまた違った悪路を形成していたが、高い運転技術とバイクの高性能な制御機能が転倒する事を許さず搭乗者の体勢を安定させ、加速して装甲兵員輸送車よりも前方へと、アーミーマメストラへと接近していく。

 男の視界に映るのは標的であるアーミーマメストラと撃ち出されるミサイル、そしてそれを全て引き付けるだけの存在と認識させ続けるオルトだけだ。そしてオルトがその瞬間また1本触手を破壊してアーミーマメストラの危険性を減少させる。

 

(良い腕、良い判断能力、良い胆力だ! クロサワが最初協力を持ち掛けた時は疑ったが、装備も良いからと他の奴らは無理に納得していたな。だがあの技量の持ち主なら誘うのは大正解だ! どこにも所属してないのならうちに欲しい人材だな)

 

 装甲兵員輸送車から飛び出す際に飲んだ加速剤のおかげでオルトの行う行動を把握し易くなった男は、前方で1人で戦うオルトの姿を見て意気を上げていく。

 男もバイクの遠隔操作自体は可能としているが、オルトはそれに加えて多数のミサイルの迎撃、アーミーマメストラ本体への攻撃、現在は背部から伸びる触手への精確な銃撃を行っている。偶然が重なり続けてもここまでの成果など出ない。

 男からしてみれば非常に戦闘能力の高いオルトの存在は有り難くもあり、不可思議な存在でもあった。

 だが、今はその存在が作り出す状況に最大限あやかろうと自分の仕事に集中する。

 

 

 オルトが上空を飛んでいるミサイルの対処の一切を後方部隊へと任せ、触手の破壊へと移った事で徐々に撃ち出され対処しなければならないミサイルの数は減っていった。

 そしてまた一つ触手がミサイルを撃ち出そうとした瞬間に、まだ砲口に収まっているミサイルへ銃撃を行い暴発させる。その結果他の触手と違い、内部機構を破壊され動作を停止したのではなく、完全に制御する対象を失ってしまった。

 そしてその爆発の余波は隣接していた触手にも効果を及ぼしてしまい、一時的にだが力場装甲の強度が低下した。それをファナが見逃すはずも無く、バイクに接続されているK2R複合銃の対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾を用いた銃撃によって容易に破壊された。

 

『これで23本。後は15本か』

『既にアーミーマメストラにこちらへの有効な手段は残されていませんね。このまま丁寧に処理していきましょう』

 

 オルトが一つ触手を破壊する毎に敵から飛び出すミサイルの圧が大きく減少する。二つ破壊すれば更に、三つ、四つと破壊した触手を増やす度に指数関数的にオルト達の安全性が増していく。

 オルトの移動の負荷は既に作戦開始時とは比較にならない程楽なものになっている。後方部隊も撃ち落とすミサイルが減った事で容易に対処を行っている。

 

「第四段階開始!」

 

 通信機から聞こえた声から、オルトはアーミーマメストラへと与えた損傷がそれほどに(のぼ)った事を再確認する。

 後方から近付いてくる部隊員は一応個人兵装としてミサイルを余裕で迎撃可能な武装を所持しているが、それを行えば仕事に多少の支障と遅れが生じてしまう。それを回避する(ため)にとオルトが攻撃を更に激しくする。

 

 

 アーミーマメストラへと十分に接近した男はバイクに取り付けてある武装をその手に握る。銃というには口径が些か大きく、砲に近い口径を持つそれをアーミーマメストラへと向けると、囮役のオルトへ、ミサイルを迎撃する後方部隊へと攻撃を続けるその触手の根本は着弾するよう照準を合わせ、引き金を引いた。

 撃ち出されたのは小型の機械だ。高い粘着性を持つ物質に包まれており、着弾後はそのまま標的に貼り付く。

 アーミーマメストラは男からの銃撃に気付いていたが、それを受けたところで全く損傷を与えられる事はなかった所為(せい)で、迎撃を続ける者達へ、痛烈な損害を与え続けるオルトへの攻撃を優先していた。

 そのおかげで男は大した労力も掛けずに銃撃を続ける事が出来た。小型の機械が15メートルはあるアーミーマメストラの開いた背部の中へと問題無く入り込み、一部は外に出ている触手の根本付近に貼り付いている。

 仕事を終えた男が、離脱していく。

 その最中にもオルトは追加で触手を破壊していた。

 

(あの働き振りで数億払って終わりだと殺されかねんな。クロサワが賞金を経費を抜いた全額を渡しても割りに合うかどうか……、まあ、そういう契約だ。再交渉になったら、その場に顔ぐらいは出してやろう)

 

 仕事が終わった後の事を考えながら男は次の作戦の(ため)に装甲兵員輸送車へと戻り、確認を行う。

 だが、無事仕事を終えたと思っていた男は、クロサワから聞いた言葉に対して怪訝な顔をする事になった。

 

 

 オルトの奮闘により触手の数は既に一桁へと減少し、後方部隊の迎撃の手も緩まってきていた。緩めても問題ないぐらいに宙を駆けるミサイルの数は減っており、素早く撃ち落とす為に連射し続ける必要もなくなり、部隊の人数で一つずつ丁寧に対処していった。

 しかしオルトの顔に浮かぶには作戦開始から消すことは無かった内に秘めた自信を表す笑みは浮かんでいなかった。

 攻撃の密度が薄くなり、対処すべきものが減った事で余裕が生まれ広範囲且つ高精度の索敵を行えるようになったオルトの情報収集機器に入ってくる情報に些か不足しているものが有ったからだ。

 

『……やっぱり何度確認してもアーミーマメストラの内部を探りきれない。ファナはどうだ?』

『こちらでも把握しきれません。クズスハラ街遺跡では無いため私の索敵は万全とは言えませんが、オルトの強化服に見合うだけの情報収集機器を用いても触手の生えている根本の確認が出来ません』

『…………理由はなんだと思う?』

『おそらく高濃度の色無しの霧に似た気体で充満されているのでしょう。あの殻の内部に留まるように制御もされていると考えられます』

 

 オルトの情報収集機器はFARBEに頼んで強化服の身体能力等の機能よりも優先して性能を求めた一品だ。その精度は高く、適当に広範囲の索敵をするだけで極めて小さな反応すら掴み切れる程だ。

 だからこそ数百メートル程度しか離れていない距離で、開放されている内部の様子を掴みきれない事に対して顔を(しか)めていた。

 そこにクロサワから連絡が入る。

 

「オルト。こっちで取り付けた誘導装置の反応が変だが、比較的上部に付いてるやつは問題なく反応を掴めている。第五段階へ移行したい。残りの触手を片付けてくれ」

「分かった。残りは3本だ。ミサイルの迎撃をこっちのチームに任せてそっちは次の準備に移ってくれ」

「了解だ」

 

 疑問の解消は出来ていないが最優先事項では無い。オルトは一度思考を切り上げて自分の役割りを終わらせる事にする。

 3本まで減った触手から吐き出されるミサイルの迎撃はオルトが呼んだグレイとセレス、ルインだけでも十分対処可能で、そこにクモンズとシーナも加わる事で安全に処理を進めた。

 オルトもミサイルを撃ち出す瞬間を見極め砲口内で爆発させ効率良く触手を処理し終えた。

 

「オルト。お疲れ様。離れた方がいいんじゃない?」

「そっちもな。第五段階開始だ」

 

 グレイから入った通信に軽く返しながらオルトがアーミーマメストラから離れていく。

 

 

 部隊全体に配布されている通信機から部隊長であるクロサワの声が響く。

 

「配布したロケット弾の使用を許可する。各々10発は撃て。それ以外の攻撃は行うなよ」

 

 上手くいけばこの段階で終わらせられる。部隊の士気は一気に上昇した。

 

 

 バイクに接続された擲弾(てきだん)用K2R複合銃からロケット弾を撃ち出しながらゆっくりとだ。

 

『うーんこれも拡張弾倉で渡されたんだよな。高そうだ』

『元々の経費が10億を目安にされていましたからね。これもその内の一つです』

 

 クロサワがオルトに協力を求める際に出した報酬は経費を抜いた後の賞金額だ。クロサワはそれにより名声を、オルトはそれに見合うだけの金を手に入れるという事で話は付いている。

 そしてそれぞれがそれを得る(ため)の努力をして、片や物資を集め討伐時の不安要素の削減を、片や討伐時の負担を担う事で討伐時の損耗の軽減を行った。それだけだ。

 

『やっぱり金が無いと安全にハンター稼業は行えないな。次の装備はもっと高性能なやつを選ぶとしよう』

『向上心に溢れているのは喜ばしいですが、まだ終わっていませんよ。気を抜いてはいけません』

『流石に気を抜く気はないよ。上空領域のモンスターな上に賞金首になる程の変異体なんだ。何が起きても不思議じゃない』

 

 オルトは自分の視界にアーミーマメストラを収めながら、拡張視界に映るロケット弾が上昇していき、互いに干渉し合わないように一定の距離を保ちながら上空でゆっくりと旋回している状況を把握していた。

 不安要素はまだあるがこれで終われば重畳。

 オルトは周囲の空気が弛んでいるのを感じていたが、オルトは鋭い視線を常にアーミーマメストラへと向けていた。

 クロサワの合図に合わせて、グレイや姉妹達も含めて部隊の全員がロケット弾を最低でも10発は撃ち出した。

 合計で200を超えるロケット弾がアーミーマメストラの上空へと上昇、各自の位置と発射タイミングによる誤差を空中で補正して、同時にアーミーマメストラの背部へと降り注いだ。

 だが後もう少しで直撃するというタイミングで、アーミーマメストラの背部の開放部分から砲弾が飛び出し、巻き込まれたロケット弾が役目を果たす事なく空中で爆発し、残ったロケット弾は数十とその数を激減させつつも解放部分へと着弾し、その性能に相応しい威力に比例した光量を解放部分から外部へと漏らさせた。

 オルトは半ば理解したくないと言う感情と早く行動を起こせという理性に板挟みになりながら、アーミーマメストラへの接近か、距離を取るのかの二択を選べずにいた。

 

『……ああ、クソッ!』

 

 嫌な予想が悉く当たりやがると心の中で吐き捨てながらも、オルトは自分の取るべき選択を取れずにいた。

 しかし、オルトでは無い存在は状況の変化に即座に対応してバイクを搭乗者であるオルトの強化服を操作してアーミーマメストラから距離を取らせる。急激に動き出したバイクと強化服に身体(からだ)を痛めるが、その負荷は回復薬が即座に癒す。視界の端に映るファナの表情は真剣ではあるがどこか危機的なものではないとオルトは直感した。

 

『ファナ、何が起こったんだ!?』

『……()ずは部隊の安全の確保を行います。オルトに多大な負荷を掛けてしまいますが宜しいですね? オルトだけなら余裕で逃げ切れますよ?』

『……逃げない。ファナの言い方的に勝てる場面なんだろ? 勝てる時に勝てないって判断すると、きっとこの先で後悔する。それは御免だ。それに俺が連れて来た連中は囮にする(ため)じゃなくて戦力としてだ。絶対生かして帰す』

『そう言うと思い既にバイクを走らせています。拡張視界に表示しますが冷静に対処を行なってください』

 

 ファナがオルトの視界に赤い点を表示する。それは今までの経験上、敵対的存在を意味する。モンスターや銃弾やミサイルがそれに当たるが、オルトの視界に映る赤い点の数は異常な量を捉えていた。

 顔を(しか)めながらその情報を部隊全体へと送りつつ通信機を取り出し指示を出す。

 

「全員連携を取りつつ群がってくる奴らを殲滅しろ! 今はアーミーマメストラのことは無視して良い!」

 

 討伐作戦を終了させる段階で躓いてしまった。それを妨害した何かに対する理解を得ようと脳だけを動かしていた者達が少なからず出ていたが、通信機から響くオルトの叫び声に反応して取り敢えずの行動を取ろうとし、オルトから送られて来た解析データを見て驚愕を、そして同じように顔を歪めた。

 

 

 クロサワの仲間で構成されたチームはクロサワが、オルトが呼んだメンバーはオルトが指揮を取ると言う非常時の備えにより、既に持ち直していたクロサワがオルトから送信された解析データを基に各自に指示を出している。

 そして同じように連携データを貰ったグレイが状況の悪化に気付いた。

 オルトの高性能な情報収集機器とオルトが行う高精度の索敵の結果により周囲一帯に小型のモンスターが這い出て来る事を把握した。1体1体は1メートル有るか無いか程の大きさだと掴めたが、その数は悠に3桁を超えている。

 グレイは必死な形相で後退するオルトへと通信を繋げる。

 

「オルト! どうするの!?」

「作戦を一部変更して討伐を続ける! でも周りのモンスターが邪魔だ! 排除を優先! 今はアーミーマメストラに構うな!」

「さっきの攻撃はどうするつもり!? あんなの喰らったらひとたまりも無いわよ!?」

「あれを俺達に当てれるなら最初からやってる! やって来なかったって事はあの殻を貫通してまでは攻撃出来ないって事だ! 出て来るぞ注意しろ!」

 

 オルトがそう言うと地面の至る所が盛り上がりアーミーマメストラを小型にした様な芋虫が大量に湧き出した。それぞれ背中に1本の触手を生やしており、その攻撃方法をグレイや確認した者達に直感させる。

 グレイはすぐさま両手に銃を握り、片方で正確な狙撃を、もう片方で碌に狙いを定める事なく乱射する。

 小型の芋虫はアーミーマメストラ本体ほどの強度を持っておらずグレイの無改造のK2R複合銃の強化弾で容易に貫けたが、死んだと思った瞬間にその身を破裂させ、更に小型の芋虫を荒野(こうや)にばら撒いた。

 グレイが非常に険しい顔で応戦を続ける。しかし他の車両と違ってグレイの車の乗員は本人のみだ。元々の作戦では先程の一手で終了していたはずなので追加で他者を乗せる必要性など無かった。

 それが仇となった。

 

(……多い! 私の所に集まって来る量が他より多い気もする。なんで!?)

 

 グレイの車へと群がる芋虫の量は他の車両よりも多くなっていた。それと同程度の量を相手しているのはクロサワの乗る装甲兵員輸送車ぐらいで、一番多く群がられているのはオルトだ。

 それでもグレイは挫ける事なく諦めることなどせずに両手の銃を握り、車の自動運転に偶に介入しつつ芋虫を躱し銃撃を行い続けた。

 小型の芋虫が湧き出たことで更に劣悪な地面へと変化した(ため)、運転の難易度は非常に高くなり、それ以上にグレイを苦しめる要素がこの場所に撒き散らされ続けていた。

 

(この芋虫、撒き散らしているのは小型の個体だけじゃ無い! 多分情報収集妨害物質を含んだ何かを体内に持ってる!)

 

 グレイの情報収集機器に入る周囲の状況を表示する解析データの質が時間が経つ度に、小型の芋虫を倒す毎に悪くなっている。その(ため)、車の自動運転へ介入すべきタイミングの把握を困難にしていた。

 

(早くッ……、オルトか装甲兵員輸送車のどっちかと合流したいってのに!)

 

 少しでも距離を縮められれば多少は連携して対処を行える。しかしオルトは大量の芋虫を相手にしており、その体内から湧き出る更に大量の小型の芋虫の相手を余儀無くさせられている。

 そして姉妹達の方はグレイの方へ近付けないように誘導するかのように芋虫が攻め立てている(ため)にグレイとの合流を妨害され続けていた。

 グレイが自分以外の状況を確認した一瞬、それは起こってしまった。

 丁度車輪の下の地面から勢い良く湧き出て来た芋虫によってグレイの車が横転してしまった。

 速度を出して逃げ回っていた(ため)に非常に強い慣性をその身に受けていたグレイはその衝撃によって空中に投げ出されてしまった。

 

 

 横転した車から放り出されたグレイはどこか他人(ひと)事のように自分の状況を感じてしまっていた。両手に握る銃にはまだ残弾の残っている弾倉が装填されている。着用している強化服の身体能力ならば問題無くモンスターの身体(からだ)を粉砕出来る。

 だが、それは何時(いつ)まで保つのだろうか、と。銃弾を撃てば減っていきいずれポーチに入れている替えの弾倉も尽きる。

 強化服で近接戦闘を行った場合破裂した芋虫の内部から飛び出して来る小型への対処はどうするのか、自分の技量ではまず無理だとグレイの持つ才能が漠然と、しかし確固たる事実として教えて来る。

 

「……それでも! こんな所で! 終われない!」

 

 グレイは身体(からだ)へ掛かる負荷を無視して強化服を無理矢理操作する事で強引に地面へと両脚で着地をする。強化服に叩きつけられた生身が訴える激痛が、慣性を持ったまま着地した事で骨に響いた軋む音がグレイの顔を悲痛で歪めるが、泣いている暇など周りのモンスターが許してはくれない。

 グレイは片手の銃を手放し回復薬を取り出すと、強引に蓋を開け頬張るように飲み込んだ。その間も両脚を動かし、砲撃して来るモンスターの密度の薄い方へと狙いを付け難くする(ため)身を低く保ち、不規則に方向転換を挟みつつ、片手で握るK2R複合銃を連射し続ける。

 回復薬を仕舞う手間を惜しんで、口に限界まで含んだ後に中身が幾らか残っていたが荒野(こうや)へと捨てた。再度両手に銃を握り、情報収集機器を利用して接近して来ているモンスターや自分に狙いを定めているモンスターを優先的に排除し続ける。

 しかしその(ため)に最高速度で連射し続ければ装弾数が異様に多い拡張弾倉と言えどもクガマヤマ都市で購入可能な品には限度がある。K2R複合銃の連射速度が高い事も相まり、1分も保たずに残弾が尽き弾倉の交換を強いられる。

 手放した銃を補助アームを利用して空中に固定化し、銃の制御装置を操作して空になった弾倉を遠隔で排出させ、ポーチから替えの弾倉を取り出して装填する。その一連の動作により接近を許してしまいK2R複合銃の特徴である二つの弾倉装填を行えず、戦闘継続を強いられていた。

 グレイは必死で抗い続けた。1メートルの芋虫を倒せば更に小型の芋虫が大量に飛び散り、銃弾を受けなかった芋虫達はそのままグレイへと襲い掛かる。それらも連射速度を活かして対処し続けた。

 しかしそれでも限界は来る。先に限界を迎えたのは弾倉だった。空になった弾倉を排出し替えの弾倉を手に取ろうとしたが、既にグレイが身につけていたポーチも空になっている。替えの弾倉を入れたリュックサックは車の近くに転がっているが、取りに行くにもモンスターの排除が必須になる(ため)、どちらにしても弾倉交換を行う事は出来ない。

 そこに銃撃という圧が無くなった事で芋虫が飛び掛かる。連射によって遠距離武装を破壊されたが、生物系モンスター特有の強靭な身体能力によりグレイへと飛び付き押し潰そうとした。

 グレイはその芋虫を認識した瞬間に口の中に残っていた回復薬を全て飲み込み強化服を強引に操作し、蹴り上げた。高額の強化服の身体能力を十全に活かした蹴りが入り、そのモンスターを一撃で仕留める事が出来た。出来てしまったからこそグレイは選択を誤ってしまった。

 そのモンスターの外殻を破壊してしまう程の威力で蹴り上げてしまったことにより、内部に巣食う小型の芋虫が破裂部位から飛び出してグレイを襲う。

 駄目だ、詰んだ。蹴り脚を引いて1匹倒している間に他の個体に襲われ身体(からだ)の自由が阻害される。その対処の最中に他の個体が群がって来る。

 明確な死の感覚がグレイの才能が自身の終わりを告げる(ため)、世界の速度を遅延させる。非常に緩やかな世界の中でグレイは不自然な程に冷静になっていた。

 

(ああ……、こんな感覚で戦い続けてるんだ…………。強いなぁ……)

 

 自身の死よりもオルトへの賛辞が思い浮かび、グレイに教えられた戦闘時の異常な技術。過去に体験した記憶を思い返しながら、それを久し振りに体感していた。

 次の瞬間、グレイの目の前を大量の銃弾が通り過ぎ、その全てがモンスターだけを破壊して荒野(こうや)へと消えていった。

 

(……あの時と一緒…………?)

 

 そして凶悪すぎる程の自己が投擲したそれを、モンスター襲撃騒ぎの時と違って足りなかったそれを、グレイは無意識のうちにその世界の中でしっかりと手に取った。

 

 

 オルトは、後方部隊のオルトが担当するチームへと合流する(ため)にバイクの速度を限りなく上昇させて駆けていた。アーミーマメストラからの爆撃も無くなり、走行の障害物は地面に散乱しているミサイルの残骸の山だけだ。

 正確に言えばそれらだけだった。地面から湧き出て来た1メートル程の芋虫のモンスターがオルトの周辺を取り囲む。その上、オルトの進行方向、グレイや姉妹達の居る方向への密度は異常に濃く、倒しても内部から更に複数の個体を撒き散らす為に突破を困難にしていた。

 

『ファナ! なんで俺だけこんなに群がられてるんだ!?』

『この小型の芋虫達はアーミーマメストラの子機と言っても過言ではありません。そして現状アーミーマメストラに対して非常に危険度の高いオルトは最優先排除対象です。孤立している今を好機として今のうちに潰そうとしているのでしょう』

『なるほどな! それだけ俺を怖がってるって事だな? あの時とは状況が逆転したようで何よりだ!』

『これも成長ですね。再度逆転しないように叩き潰していきましょう』

 

 ファナとの冗談の言い合いを行いながらも、両手に握るK2R複合銃を掃射に近い動きで銃撃し続ける。その1発1発が全て芋虫に命中し、内部から飛び出した小型の個体が空中にいる間にも着弾し絶命させ続ける。

 それでも減ったと実感できないほど量が地面から湧いて来る。

 

『クロサワ達はもう連携を取れてるみたいだな……流石というべきか』

『元からチームを組んでいる者達ですからね。連携の練度に差が出るのは仕方がありません。()ずはオルト自身の安全の確保を』

『分かってる!』

 

 オルトのバイクが制御装置を介して操作され後輪だけを浮かし、前輪を巧みに操作しその場で旋回する。回転数を上げた車輪に巻き込まれ直撃したモンスターが挽肉へと変えられていく。

 1周をたったの一瞬で終わらせるさなかでも、オルトの感じる世界は緩慢な速度で流れその中でバイクの範囲外にいるモンスターへ精確に銃撃する事は今のオルトにとって困難と思う程の事でもなかった。

 1体毎の強さは大した事はないが、数だけは尋常では無く即座に殲滅する事が出来ずにいた。

 オルトが拡張視界で捉え続けていた自身のチームに変化が起きる。グレイの車が運悪く芋虫に突き上げられ横転してしまい、乗員であるグレイが放り出されてしまった。

 オルトは今まで変化した状況への対処に歪ませていた顔を、真剣な表情へと変化させ、許容範囲を拡大させた行動の要求を混ぜた念話を送る。

 

『危険ですよ? それでもやりますか?』

『やる』

『……そうですか、では行きましょう』

 

 ファナはオルトの顔を少しだけ見つめ、表情が持つ感情と念話に乗った感情の差を把握するとサポートの質を更に上昇させた。

 バイクの速度は搭乗者を無視した挙動へと変化し、強化服が無理矢理合わせ続ける。その強烈な慣性と付いて行くために掛かる身体(からだ)への負荷に顔を大きく歪めつつオルトはその両手に握るK2R複合銃で周囲に群がる芋虫へと連射し続ける。

 今までは数発ずつ撃っていた(ため)拡張弾倉の装弾数からすれば微々たる量しか使用していなかったが、今は銃弾を吐き出すように連射し続けている。

 

『オルト、弾倉の交換を』

『分かった!』

 

 激しい攻撃により数秒の余裕が出来た瞬間にファナから出た指示に従い、リュックサックから取り出した弾倉をバイクに接続している銃に装填する。そして空になったポーチと装填していた両手の銃の弾倉も交換する。

 今までの戦闘で使用を控えていた擲弾(てきだん)用K2R複合銃から多数の擲弾(てきだん)を撃ち放ち、着弾点にいる芋虫を殲滅していく。

 

『索敵精度が凄い落ちてるな。こいつら情報収集妨害物質撒いてやがるのか?』

『濃度は低いですがアーミーマメストラの内部に充満している物質と同じものでしょう。体外に出た(ため)そのまま散っていきますが、それでもこの数から放出されれば周囲一帯の濃度は上昇します』

 

 擲弾(てきだん)の巻き上げた土砂とモンスターの体内から漏れた物質が相まって更に索敵精度を落としていくが、オルトの情報収集機器であれば、よほど遠距離でもなければ問題なく把握出来る程度だった。

 その分、それを使って尚掴み切れないアーミーマメストラの内部に居る何かの危険度の高さを感じていた。

 視界に映る周辺状況から、姉妹達の方よりもグレイの方が危険な状況と判断して擲弾(てきだん)が落ちる場所へと走り出す。強化服とバイクの力場装甲(フォースフィールドアーマー)を限界まで高め、その所為(せい)で生身を潰されるような不快感を感じながらも荒野(こうや)に降り注ぐ擲弾(てきだん)とモンスターの撃ち出す砲弾の影響を相殺していた。

 砂塵の舞う一帯を抜けて視界に入ったグレイはモンスターに蹴りを入れていたが、その両手に握る銃から乱射すらしていなかった。

 オルトは極限まで時間を圧縮させ、グレイの周囲に群がる芋虫へと連射する。ファナのサポートにより強力な銃撃の余波をグレイに与える事なく倒していく。ついでとばかりに弾倉を取り出しグレイの目前へと投擲する。

 使用している銃は同じ、強化弾の拡張弾倉はK2R複合銃ならば無改造の状態でも使用可能だ。

 オルトの圧縮された時間感覚の中で、グレイの正面にまで飛んだ弾倉はそのまま空中をゆっくりと飛び去ろうとしていた。

 

(駄目そうか? ……出来るだろ?)

 

 しかし、グレイの身体(からだ)の前を通り過ぎようとし始めていた弾倉をオルトの圧縮された時間の中、普通の速度で、現実時間では驚異的な速度で跳ね上がった手で掴み取った。

 

(……やっぱり問題無いな)

 

 弾倉を掴んだグレイは即座にK2R複合銃へ装填し、オルトが撃てなかった自身の延長線上から迫るモンスターへと銃撃を行い始めた。

 オルトがそのグレイを見ながら更に広範囲にいるモンスターを銃撃し続け、そして一帯からモンスターが消えた事でオルトは安心してバイクの速度を落として(ほう)けているように動きを止めているグレイの側に停まる。

 

「グレイ。大丈夫か?」

 

 声を掛けられたグレイは酷く緩慢な動作で顔をオルトの方へと向け、声を出す程の気力も残ってないのか返事はない。それでも問題無いと伝える(ため)に笑顔を浮かべた。

 

 

 グレイの圧縮された意識に過去の追体験のような状況が加わり認識が追いついた。世界の時がゆっくりと流れる感覚の中で掴み取った弾倉はオルトが投擲した物だった。表示装置から得られる情報から何時(いつ)もより遅い銃弾が自身へ群がるモンスター達を撃ち貫いている事を理解すると、掴んだ弾倉をK2R複合銃へと装填し、オルトの位置からではグレイが射線に入る所為(せい)で狙えない延長線上のモンスターを優先的に銃撃した。

 撃ち出される銃弾は悪路と化した地面を不規則に動くモンスター達に、吸い込まれるように命中していく。

 体感時間の操作に成功したグレイは、モンスターに、モンスターが撃ち出した砲弾に次々と着弾させていく。

 グレイの銃撃の速度と精度は体感時間の操作を成功させたことにより、元々持ち合わせていたグレイの才能を更に後押しした。

 そしてグレイは、体感時間の操作に成功した事を喜び、更に先にいたオルトの強さを認識できたことに歓喜しながら、更に集中して銃撃し続けた。

 オルトが遠方のモンスターを擲弾(てきだん)で、他をグレイの銃も合わせて4つの銃口から放出され続けた銃弾により周囲から敵が消えた。

 

(頭、痛い……。身体(からだ)……痛いな……。体感時間の操作ってこんなになるんだ……。高い回復薬が必要になる……わけね……)

 

 体感時間の操作の要である脳だけでなく、その速度で動く身体(からだ)の方にも非常に高い負荷が掛かっている。その場から碌に動きもせず銃撃していただけの自分でもこの負荷ならば、それを作戦開始時から行ない続けていたオルトにはどれだけの負荷が掛かっていたのか。漸くおおよそを測れるだけの尺度を得たグレイは、正確に測りきれない当人の存在に驚愕していた。

 再度強さの秘訣とそれに付随する欠点を許容し続ける者へ呆れながらも賛辞する。それを行ない続けているオルトが近寄って来るのが情報収集機器から得たデータにより分かるが、グレイの身体(からだ)は回復薬の効果を受けずに無茶をしてしまい、僅かでも動けば激痛を走らせてしまう状態にあった。

 それでもオルトが側に停まり、自分を案じてくれた(ため)、無理矢理にでも笑顔を作ってそれに答えた。

 オルトはバイクから降りて自身の回復薬を取り出す。

 

「喋らなくていいから口を開けろ」

 

 回復薬を片手に持ったオルトは、グレイの顎に手を添えて上を向かせ口の中に少しずつ流し込み、飲ませる。

 オルトが飲ませた1箱600万オーラムの回復薬は服用されてからすぐにグレイの破壊された身体(からだ)の治療を開始した。その回復薬に含まれる高性能な治療用ナノマシンは負傷した部位へ、最も負傷の激しい脳へと優先的に送り込まれ、細胞単位で正常な状態へと治されていく。

 身体(からだ)の治療を後回しにされた結果、自分で動くにはまだ不自由なグレイの代わりに強化服と銃のエネルギーパックと弾倉を交換したオルトは、グレイを抱き上げてバイクに乗せる。

 まだ治療が済んでない部位も高額な回復薬の鎮痛作用により、痛みを感じる事はなかった。

 自分の前に座るオルトの背中に身を預け、グレイは荒野(こうや)にいる事を理解していながらも、酷く安堵し身体(からだ)中へ回り始めた治療用ナノマシンの効果を感じていた。

 

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