リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第十八話 踏み台

 

 グレイと合流したオルトがバイクの後部にグレイを乗せ残骸と小型の芋虫モンスターの死骸塗れで悪路と化している荒野(こうや)を駆け、姉妹達の乗る装甲兵員輸送車へと向かう。

 グレイと合流して更なる負荷を与えないように応急処置を施し、ゆっくりとバイクに乗せた事で少し時間が経ってしまい、オルト達と装甲兵員輸送車の間にはモンスターが群がって来ていた。

 しかしオルトはファナのサポートを受けた三つの銃口から放つ高精度且つ高濃度の銃撃により、装甲兵員輸送車からは乗員という人数を活かし四方への連携を取りながらの迎撃を行った結果、合流するまでの交戦で負傷する者はいなかった。

 比較的広範囲のモンスターを一旦排除する事で、装甲兵員輸送車の周辺を一時的な安地と変え、装甲兵員輸送車の後方の扉を開けて貰い、オルトは後部に乗せているグレイを抱えて体勢を一切崩すことなくバイクから飛び移る。

 オルトが車内に入ってから長椅子にグレイをゆっくり座らせる。回復薬の効果を十全に効かせる場合には動かない方が一番という事はグレイも分かっている。1秒でも早く戦線に復帰出来るように座ってから車両の揺れに身体(からだ)を合わせるようにして身体(からだ)中に巡る治療用ナノマシンが修復している感覚を覚えていた。

 その様子を見ていたセレスがルインとクモンズ達を含めたチームのリーダーとしてオルトに確認を取る。

 

「オルト! 大丈夫なの!?」

「グレイなら疲れているだけだ。問題無い」

「そっちもだけど! 討伐作戦の方よ! このモンスター達ってアーミーマメストラの子供みたいな奴でしょ!? 対処法があるのは良いけど、このままだとジリ貧よ!?」

「そっちについても問題無い。無限に湧くって訳でも無いだろうし、クロサワ達の方も大して損耗してない」

「ならどうするの!?」

 

 セレスはルインとクモンズ、シーナに指示を出して四方へそれぞれが銃口を向けて倒したそばから群がって来るモンスター達の対処をしていた。装弾数の多い拡張弾倉を使用しているからと言っても積載している量には限りもある為、このままの状況が続けばいずれ弾切れを起こしてしまう。

 それでも車内に入って来たオルトは一切の焦りを見せる事はなかった。

 周辺のモンスターはオルトやグレイが合流した事で狙いを分ける必要がなくなった。その為装甲兵員輸送車の周囲に集まって来るモンスターの数は数倍に膨れ上がっていた。

 クモンズやシーナは顔を多少険しく歪めながらも的確に対処している。ルインも武装の火力は数段落ちるが精一杯の成果を上げ続けている。そしてそれはセレスも同じだ。

 だが、それでもオルト達の方まで向かっていた群れまで合流されると対処し続けるのは困難だった。

 ジリジリとモンスターの囲いは狭まって来ている。アーミーマメストラと違ってミサイルを撃たない上に撃ち放たれる砲撃の精度も決して高くは無い。しかし運悪く当たるという事はある。

 セレスは状況を悲観的に、言ってしまえばこの時点で作戦失敗であると考えていた。しかしオルトが一切悲観的な表情も動作も見せず、悠然とエネルギーパックを交換し1発でも使用した弾倉を交換していた為、言うに言えない状態だった。

 その時、オルトの通信機へ連絡が入った。

 

 

 セレスの考えは正しい。作戦通りであれば既に賞金首討伐は終了しているはずであり、現状は討伐に支障が出て、多大な損耗を受ける前に撤退するべきという判断を下すのは極めて合理的ではある。

 それでも引きたくない者達がおり、引く気の無い者がその者達の一部にこの状況が起こり得るという予想を伝えていた為、クロサワ達は現状に対しての対処を問題無く行なわせていた。

 クロサワはオルトから周辺の地面からモンスターが湧き出て来るというデータを受け取ってからすぐさま指示を出して被害を最小限に抑え、次善策の準備を整えようとしていた。

 部隊に楕円を描かせ、クロサワの搭乗する装甲兵員輸送車にモンスターを近付けないようにさせつつ、各自を援護させ易い距離に配置していた。

 同乗している男に車外の対処をさせながら車内に設置している大型のモニターに映されている部隊の車両及び個々人の反応を確認していたクロサワの顔は真剣な表情を浮かべているが、決して現状を悲観的には捉えていなかった。

 

(タンクランチュラも1回目の一斉砲火を喰らった後に自身の子機達を呼び寄せてシカラベ達を襲ったって話だった。……アーミーマメストラも生物系モンスターだ。似た様な行動原理を持ってても不思議はない、か)

 

 オルトが事前に伝えた想定通りの状況に変化しただけであり、悪化した状況により賞金首討伐が不可能になった訳ではない。

 

(オルトの部隊の車両が一つ破壊されたが本人の反応自体はまだある上に移動中。オルトと合流して移動してるがあまり動きがないな。負傷したか? 連絡が無いなら死んでは無いと思うが)

 

 クロサワが考察をしていると外の対処をしている男が声を掛けてくる。

 

「おい、クロサワ! 作戦は継続か!? それとも、もう撤退か!?」

「……それを決めるのは向こうの状況次第だな。オルトが戦線離脱なら流石に撤退だ」

「ならさっさと連絡を取ってくれ。こっちだって何時(いつ)アーミーマメストラが動き出すか分かったもんじゃないんだ。触手の再生をしてこないのが不可解だが、今はありがたい限りだ。この状況を打開出来る策があるならさっさとやってくれ」

「それもそうだな」

 

 クロサワが一旦考察を切り上げて姉妹達の装甲兵員輸送車に乗り込んだオルトへと通信を送る。

 

「オルト。この後の作戦は何時(いつ)開始するんだ? こっちの準備はもう終わってるぞ!」

「了解。先ずはあの砲弾を撃ってきた奴を引き摺り出す。俺は反対側に回るからこっちの部隊と合流してくれ」

「分かった。さっさと終わらせてくれよ」

「それはアーミーマメストラ次第だな」

 

 クロサワはそれで通信を終えて部隊への指示を出す。

 オルトの部隊の方へと徐々に近付いていく。部隊を分断するという知能を保持している為か、姉妹達の搭乗する装甲兵員輸送車との間には濃密な量のモンスターが居たが、賞金首討伐用に用意されていた銃火器や弾薬等の威力はそれらを容易く吹き飛ばしていく。だが、数だけは多く合流までにはまだ時間が掛かる。

 

 

 オルトの立てた作戦は幾つか有るが、それらは全てアーミーマメストラへの接近を前提としていた。その為クロサワはその時点に辿り着けなかった場合の策を幾つか練って来ていたが、それらはオルトのおかげで杞憂に済んだ。そしてオルトの嫌な予想通り大量のロケット弾を使用した集中爆撃は討伐には至らなかった。

 だがオルトの用意してきた策はそれが一番楽に終わるというだけで、他にも用意されている。クロサワには指揮系統に柔軟性を持たせる為に明かしている。たとえオルトがこの場で死んだとしてもその策の中から適したものを実行すれば問題無く討伐まで行けるように。

 

 

 クロサワとの通信を終えたオルトは装甲兵員輸送車の屋根に上り再度アーミーマメストラの状態を確認する。生物系モンスターであればその膨大な生命力に比例した再生能力を備えている為、負傷部位の再生を行なう事が可能だ。

 実際、先日過合成スネーク討伐時にカツヤが指揮していた主力部隊が用意した大物殺し用の火力を以ってしても致命打にはほど遠かった。多連装マイマイの主砲を(もち)いて漸く多大なダメージを与えることが可能だった。

 だが、現在アーミーマメストラの背中から伸びていた触手はオルトが破壊してからそのまま放置されている。その背に開いた解放部分からは機能を停止した触手のみが確認可能だ。そして今も尚、内部の状況を探ろうとしても色無しの霧の濃度が高いのか掴み切れない。しかし、内部に何かが潜んでいるのは確実だ。でなければ先程の一斉砲火でこの討伐作戦は終了していたからだ。

 

『ファナ。どれだけやればいいと思う?』

『オルトの許容出来る範囲であれば私は構いませんよ? ただしそれに見合うだけの覚悟を持って臨んでください』

『……そっか。分かった。覚悟持って示せばいいだけなら何時(いつ)も通りだ。行こう!』

 

 オルトは屋根の上からバイクへと飛び乗ると周囲に群がって来ていたモンスターへと銃撃し始める。ファナのサポートを十全に受けた銃撃は一切の無駄のない効率的なエネルギー消費とモンスターの排除を(おこな)った。優先的に狙ったのはクロサワ達との間に蔓延(はびこ)るモンスター達だった。オルトの銃撃が止んだ時には血肉の道が出来上がっていたが、そこも周囲からモンスターが補充されて埋まっていく。

 それでも再度同じ密度になるのには時間が掛かり、その時間中にもクロサワ達から容赦のない銃撃を浴びることになる為、大量に湧いてくるモンスターの存在は時間稼ぎが関の山だ。

 オルトが通信機で姉妹達の装甲兵員輸送車へと通信を飛ばす。

 

「クロサワ達と合流してくれ。その後は向こうの指示に従ってくれ」

「オルトさんはどちらに!?」

「アーミーマメストラの中にいる奴を引き摺り出してくる。触手は無くなったから援護は要らないぞ。……グレイ、今は休んでろよ」

「うん……」

 

 小さくグレイの声が通信機から聞こえる。

 高価な回復薬を使用したからといってグレイにはファナのサポートも無い上、オルトの様に以前から偶発的にとはいえ体感時間の操作を行使していた訳では無い為にその反動は大きい。主に脳への負担は激しいだろう。損傷した脳の回復には相応に時間が掛かるし、脳の治療を済ませるまでは身体に回る治療用ナノマシンの量は必要最低限になるだろう。

 クモンズとシーナに視線でグレイについて頼み、両手に握ったK2R複合銃を補助アームごと強化服から取り外す。

 

「そうだ、セレス。ルイン。俺の銃を使っても良いぞ。そっちの銃より威力は高いからな」

 

 オルトは装甲兵員輸送車から身を乗り出しているセレスとルインへとK2R複合銃を投げ渡す。2人は驚愕を顔に表しながらも放られた銃を問題無く手に取り、自身の強化服へ銃に付属した補助アームを接続した。

 

「そんなこと言って良いの!? その(ぶん)オルトの戦闘に響くでしょ!?」

「今からは身軽な方が良いんだ。……まあ、扱い切れないなら車内にでも放置しておいてくれ」

「……へー、言ってくれるじゃない……。こっちの事なんか忘れて行ってきなさい! 死者なんか出さずにここを終えてやるわ!」

「ああ。任せた」

 

 オルトはそう言い残してバイクを加速させ装甲兵員輸送車から離れていく。地面に散らばるミサイルの残骸やモンスターの死骸によって更に劣悪になっている荒野(こうや)を高性能なバイクに搭載されている接地機能と体勢維持機能、そしてそれらを管理する高性能な制御装置がファナのサポートを受け、より巧みな運転技術を以って悠然と単独で走り出した。

 

 

 オルトが装甲兵員輸送車から離れ、単独でモンスターの群れへと走っていく。他の者達は1箇所に集まり大きめの二重の円を描くように陣形を取っていた。外側が損耗の少ない者達、内側が損耗の多い者達で構成され物資の再分配等も行いながら群がってくるモンスターの対処を的確に行っていた。

 クロサワ達と合流した姉妹達はオルトの使用していた消耗品を手に入れる為に一度グレイの横転した車両に寄り、まだ使えそうな物資を軽く見繕い回収していた。その中に含まれる強化弾を膨大な装弾数を誇る拡張弾倉を装填して周囲のモンスターへとオルトから借りているK2R複合銃の銃口を向け、連射に近い発射速度で銃撃していた。

 

「本当に良い威力してるわね! この銃!」

「いろいろと拡張部品が組み込まれているのでしょう。持って行ったあの大型の銃ほどではないでしょうけれど相当の金額をつぎ込んでると思います」

「随分と稼いでるものね!」

「今はそれに(あやか)らせて貰っている最中ですし、もっと成果を稼いでおきましょう!」

 

 セレスとルインがK2R複合銃の威力に満足しながら外側の部隊と交代する。その2人を見て微笑ましく思っている同乗者の3人の内2人は外へ銃口を向けて、1人は一刻も早く戦闘可能な状態になる為に動かず事態の改善に尽力していた。

 グレイが目を瞑り一瞬でも早い身体の回復を待っていると、角膜に映る情報収集機器の性能が著しく下がった結果の表示がされた後オルトから激しい反応を含んだ連携データが送られて来た。

 

 

 部隊から離れたオルトはアーミーマメストラのミサイルの残骸や小型の芋虫のモンスターの死骸で構成された劣悪な地面を高性能なバイクによって駆け抜けた。

 アーミーマメストラに対して一方向から攻めた結果その方面一帯は凄惨な状態になっているが、おかげでその他の地面は比較的走行が容易い状況になっている。上空から落下して来た事でアーミーマメストラの体は地面に一部陥没しており、その余波は周辺にも広がっている。その体躯の下敷きになっているオルトの車の残骸が既に風化を始め朽ちていっているが、未だ形を残している部分が多い。そして、先ほどの一斉砲撃によって破壊されていた触手が難無く破壊されて荒野(こうや)へと散らばっている。

 それでも現状から鑑みれば綺麗な走路だ。

 オルトはその地面へとバイクの車輪が付いた時点で行動を開始した。バイクに接続している威力特化型K2R複合銃で銃撃を開始すると、アーミーマメストラの外殻は容易く貫通し内部の様子が銃弾の影響範囲分確認出来るようになった。

 

『脆くなったのか……? なんでだ……?』

 

 今オルトとアーミーマメストラとの距離は触手を破壊していた時と同じ距離を保っている。触手を破壊している最中にも自身の危険度を再確認させる為に何度も本体へとファナのサポートを受けた精密な銃撃を行ったが、結果としてはヒビが入った以上の成果は得られなかった。

 だが、対して精密な銃撃を行ったわけでもないオルトの攻撃は今、問題無く成果を上げた。

 

『あの外殻はエネルギーを供給する事でその強度を増す構造になっています。要はオルトの銃と同様に──』

『いや、今は技術説明はいいから現状を更に有利に動かせるような事をだな!?』

『……つまりは外敵から受ける攻撃を防ぐ為にエネルギーを満遍なく供給し向上させていた防御力が、今は邪魔になったのでその供給を止めたのです。来ますよ! オルト!』

 

 ファナが少し厳しい声をオルトに掛ける。バイクが急激に加速してその場を離脱する。急な加速により新たな身体へ掛かる負荷は上昇したが、体感時間の操作を行い体勢を崩す事なく機敏に操作されているバイクへと合わせる。

 オルトが離脱した途端アーミーマメストラの外殻が弾け飛び、内部から砲弾が飛び出して来た。アーミーマメストラが先程までは撃ち出していたミサイルとは違い誘導性能など皆無だが、その分放出速度は凄まじく、オルトが数秒前に居た地面を抉りながら荒野(こうや)の先へと飛んでいった。

 砲弾が巻き上げた岩や何らかの残骸をファナの巧みな運転で躱し、土砂などの細かい物は強化服の力場装甲(フォースフィールドアーマー)で防いだ。

 

『……何だあれは!? あんなの喰らったらひとたまりもないぞ!?』

『それはミサイルの時も同じですよ、オルト。落ち着いてください。……漸く全貌が明らかになりましたね』

 

 オルトへと外殻を無視した攻撃をした事でアーミーマメストラの本体が崩れていく。

 今までは全体から見れば小さい背中の解放部分だけが外と触れていたが、外殻が大きく砕けた結果内部へと外気が入り込み、内部の空気が外部へと漏れ混じっていく。

 

『ファナ。情報収集機器の精度が悪くなったんだけど、アーミーマメストラが原因って事でいいんだよな?』

『はい。内部に滞留していた色無しの霧に近い成分の一部が制御を離れ、外部へと漏れたことで周辺の索敵難度が上昇しました』

『不味くないか? 俺は良いとしてもクロサワ達は掴み難くなるだろ』

 

 オルトにはファナの索敵技術がある。それはクズスハラ街遺跡内の何らかの方法だったり、オルトの着用している強化服の情報収集機器だったり、オルトの感覚器官が得た情報だったりと様々な方法で取得した膨大な情報を即座に処理可能な演算能力を以ってして高精度な現実情報として出力した結果だ。

 だがその結果を得る事が出来るのはオルトだけだ。

 

『あちらとの通信経路に旧世界製の情報端末を経由してこちらの取得した情報を送信しています。問題はないでしょう』

『それなら、……問題はない、かな』

『そんなことよりもまだ来ます。掴まってください』

 

 オルトはバイクのハンドルを握り体勢を低く保つ。ファナとの会話は体感時間を操作した上で口頭では数分掛かる所を念話によって更に縮めている。送られてくる単純な文字の羅列や明確な図形、作戦も全てが同時に送受信され把握する事が可能だ。それはオルトの日頃の訓練の賜物だが現状はそれを喜ぶには危険な状況過ぎた。

 外殻を突き破って出て来る砲弾の数が増えていく。それぞれがアーミーマメストラの巨大な体躯の外殻に隠れながら砲撃を行って来るが、今のオルトの情報収集機器にはアーミーマメストラの内部の情報もある程度ではあるが掴めるようになっていた為、更に精度を高めた情報を得ているファナにとっては回避するには楽勝だった。

 だが油断することは出来ない。一つ一つの砲弾が荒野(こうや)仕様の車両を包み込める程の大きさを誇り、確実にオルトへ照準を定め放たれている。当たったとしても数発は耐えられるだろうが、1発でも喰らえば防御に相応のエネルギーを消費して力場装甲(フォースフィールドアーマー)を張る必要が出てくる上に、行動を大きく制限される。そしてそれを何度も喰らえば残存エネルギーは早々(そうそう)に尽き、オルトの身を守る物は無くなってしまうからだ。

 バイクは急停止急発進、急な進路変更を細かく行い砲撃を的確に避けその余波も、巻き上げられた土砂の類いから受ける被害も最小限に抑えていた。

 オルトの外的要因による負傷は皆無に等しいが、過度な負荷により身体の至る所が悲鳴を上げている。そしてそれらを全て事前に服用した回復薬が癒し修復していく。何よりも巻き上げられた粉塵の所為(せい)でオルトの生身の視界は完全に土砂に覆われており、周辺の情報収集妨害煙幕(ジャミングスモーク)の濃度が徐々に上昇し、粉塵との相乗効果で情報収集機器が取得する情報も曖昧なものが多くなっていく為拡張視界に表示される情報収集機器の解析結果は通常よりも非常に悪い。

 それでもオルトが強化服を選ぶ際に情報収集機器の性能を優先していたおかげで、ファナのサポートも含めた結果、命を守り切るに足る精度を保ち続けられていた。

 

『クッソが! こっちの索敵精度はどんどん下がってるってのに何で向こうの砲撃の精度は落ちないんだよ!』

『上空領域のモンスターの索敵能力は非常に高いです。この程度は訳ないのでしょう。それにこの周辺に広がっている情報遮断性の気体はアーミーマメストラが生成して操作している物質です。あちらの索敵を妨害し難い成分調整を為されているのでしょう』

『厄介過ぎるだろ!』

『敵の砲撃は強力ですがこちらに小型のモンスターを送る程の余力は残ってないのでしょう。砲撃にのみ対応していれば良いのは楽ですね』

『ら、楽!? これでか!?』

『以前奇襲を受けた際よりずっと楽ですね。さあ、そろそろ攻勢に出ますよ』

『……ああ! 分かったよ! やるよ!』

 

 オルトが驚愕を殺し意気を高める為に、自身への宣誓のように念話で大声を出す。

 ファナのサポートを受けた情報収集機器は砂塵の舞う周囲の状況を性能が許す限り高精度に掴み、オルトの拡張視界に索敵結果を表示している。アーミーマメストラの外殻はオルトのいる方向に限り、内部からの砲撃によって破壊され内部を露出させていた。

 バイクに接続されている擲弾(てきだん)用K2R複合銃が斜めに構えられ引き金を引かれる。銃口からは擲弾(てきだん)が放たれている。ファナが周囲の状況から放たれた擲弾(てきだん)の弾道にどのような影響を及ぼすのか完全に演算した上でバイクからエネルギーを供給し、適した角度で、速度で射出される。

 砲撃によって起こる突風や巻き上げられた瓦礫などに着弾する事なく撃ち出された全ての擲弾(てきだん)がアーミーマメストラの内部へとほぼ同時に着弾し、その内部を強い光量で照らした。

 砂塵の中を進んでいたオルトがその範囲外へ出ると違和感を感じてバイクを停める。

 

『さっきのは衝撃変換光か?』

 

 索敵精度が低下した状態にも拘らず、明らかに擲弾(てきだん)の爆炎以外の光源が内部を照らした。その事実を再確認した上で更に現状が良くなった事も理解する。

 

『砲撃もなくなってるな。防御に何かしら回さないといけないぐらいには本体は脆いのか?』

『もう少し試しますか』

 

 擲弾(てきだん)を更に撃ち出していく。装弾数の多い拡張弾倉からは通常の銃弾よりも大きな擲弾(てきだん)が大量に内蔵されている。ファナの操作により照準が微細に調整され空中へ上がり、途中でその進行方向を下方へと向け、アーミーマメストラの外殻の中で同時に着弾し爆発を起こした。

 

『……どうだ?』

『光量は変わりませんがアーミーマメストラの攻撃が完全に止まりましたね』

『よし、それなら続けて撃つとしようか』

 

 オルトはそのまま擲弾(てきだん)を撃ち続ける。内部で爆発が起きる度に衝撃変換光が外殻の内部から荒野(こうや)へ光を漏らし、オルトの反対側、クロサワ達の部隊のいる方向の外殻も擲弾(てきだん)の爆発の余波で壊れていく。

 撃ち続ければ装弾数の多い拡張弾倉と言えど中身も無くなる。周囲から敵が湧いてこないのでバックパックからかえの弾倉を取り出し再装填する。

 警戒を怠らず撃ち続け、3度ほど繰り返したところでクロサワから通信が入った。

 

 

 周辺の索敵情報から部隊全体を指揮していたクロサワはアーミーマメストラを間に挟み、オルトのいる方向から大きな反応を捉えた。即座にそれはオルトの攻撃ではなくアーミーマメストラの攻撃の反応と理解してオルトの安否を確認したが、自前の情報収集機器や車両の索敵機器では把握出来なかった。

 

「これは……、情報収集妨害煙幕(ジャミングスモーク)か? アーミーマメストラの内部が確認出来なかったのはこれが理由か」

 

 時間が経つにつれてアーミーマメストラを中心とした周辺の索敵精度が徐々に低下していく。そして、その範囲内にいるオルトは当然のように生存確認が出来なかった。

 だがオルトから送られて来る索敵情報を含む連携データは常に更新され続けている為少なくとも強化服は無事であり、情報収集機器が搭載されている頭部装備も無事であることから、本人はまだ生きており戦闘を続行していると考えた。

 最初の砲撃の後も連続して自分達とは逆の方向へ砲撃を繰り返しているのも良い証拠だった。

 クロサワはオルトから送られて来る連携データを確認しながら状況の変遷を見守る。

 

「……俺達には子機を。オルトには砲弾を、か。大型のミサイルやら何やら随分と大雑把な奴だ」

 

 それら全てをオルトが対処方法を率先して示し、部隊の安全性を高めている事を再認識しながら皮肉を呟く。

 オルトから送られて来る連携データからはオルトが砲撃を回避し、巻き上げられた砂塵の中でも何度も繰り返し続けていることが分かると、クロサワはオルトのことは一旦頭の片隅に追いやる事にした。

 理解出来ない人物を理解するのに費やす時間と余裕は流石に無いからだ。

 クロサワは指揮している部隊の安全確保の為に動き出す。負傷しないように姉妹達を含め連携を取らせながら周囲のモンスターを倒し続ける。用意した消耗品はアーミーマメストラを少人数で倒すに足ると思わせるほど過剰に揃えたので、小型のモンスターを倒す為に使う通常弾程度ならまだまだ残っている。

 

(周辺を住処にしたモンスター達はビッグウォーカーの討伐部隊の方に行ったのか、出て来るのはアーミーマメストラの子機ばかりだな。俺達は運が良い。このまま詰めさせてもらおう)

 

 その時アーミーマメストラが強い光を放った。それと同時に砲撃が止み、砂塵が徐々に落ち着いていく。

 クロサワの情報収集機器の望遠機能により、砂塵から少し外れたところから擲弾(てきだん)が昇り、アーミーマメストラの内部へと落ちていくのが分かった。そして着弾と同時に光が再度漏れ出しクロサワ達の居る方の外殻が少しずつ崩れていく。

 

(砲撃が止んだのか? さっきまで攻撃を受けても問題無いって感じだったんだが……。分からん。……周囲のモンスターの出現が止まったな)

 

 車内のモニターを確認すれば先程まで地面から湧き出ていた小型のモンスターの出現が止まった。1メートル大のモンスターを倒せばその内部から更に小さい個体が出て来るが、元々の大きさの個体が湧いてこなくなった。

 

(……なんにせよチャンスだな)

 

 クロサワは外側の部隊へ周囲に残ったモンスターの対処を指示すると内側の円を作っている部隊には別の指示を出す。

 そしてオルトへと連絡を取る。

 

「オルト。そのまま攻撃を続けて奴が動けないようにしていてくれ。出て来なくても中で死んでくれれば問題無いからな」

「了解だ。早めに頼むよ」

「それはアーミーマメストラ次第だな」

 

 オルトとの連絡を切りロケット弾の誘導設定を少し変更する。アーミーマメストラの本体と思っていた芋虫はガワだけだった。その内部に本体と言える何らかが潜んでいるのは一切砲火を邪魔された事と、現在オルトから送られてきている連携データから見れば明らかだ。

 

「まあ、掘り出すのが面倒だがくたばってくれればそれで良いさ。……総員ロケットランチャーを持て! タイミングは通信機からのカウントに合わせろ! 兎に角撃ちまくれ!」

 

 通信機から機械音声が流れ出す。

 

「29、28、27、──」

 

 クロサワの出した指示により円の内側の部隊がロケットランチャーや対応済みの自動擲弾(てきだん)銃を持ち上げる。外側の円の者達はカウントに遅れないように周囲に残るモンスター達へ掃射を行い小さい個体も含め完全に片付けた。

 

 

 グレイは外の喧騒が静まり、通信機から聞こえる機械音声だけが車内に響く中、目を開ける。身体(からだ)をゆっくりと動かし自己診断するが、頭痛は少し残っているがそれ以外の部位に違和感は残っていないことが分かった。追加でオルトが置いていった回復薬を数錠飲み込み戦闘継続可能状態を作る。

 そのグレイをシーナが見ていた。

 

「良いタイミングで復帰したようね。はい、ロケットランチャー」

「ありがとうございます。でも良いんですか?」

「良いのよ。私は擲弾(てきだん)銃が対応してるからそっちで撃つわ。一つでも多く撃つなら貴方にも撃って貰った方が良いじゃない?」

「そうですね。ではお借りします」

 

 グレイは新品の弾倉を装填済みのロケットランチャーを受け取り他の乗員と同じ様に身を乗り出す。

 グレイが出て来たところにセレスが声を掛ける。

 

「復帰おめでとう。やっぱり強敵相手の一斉攻撃には参加したいわよね。分かるわ」

「まあね。……でも、それだけじゃないわ」

「……? どういう……」

「──3、2、1、0」

 

 セレスがグレイの言葉に疑問を持つがそれを聞き出す前にカウントが無くなる。

 グレイも含め部隊全員がロケット弾を撃ち放つ。照準をアーミーマメストラへと定める必要性は無い。近くにいるオルトの情報収集機器から送られて来る連携データを基に誘導設定をされており周辺の情報収集妨害煙幕(ジャミングスモーク)の影響は軽微だ。その上クロサワ達が購入したロケット弾は高い火力と高い誘導性能を備えている為、多少高額ではあるが値段に相応しい程の命中率と破壊力を保持している。

 最初の一斉砲火よりも大量のロケット弾が上空に飛んでいく。そして上空でタイミングを合わせるかの様にアーミーマメストラの直上で周回を始め、設定された時間まで滞空し続ける。

 そして設定された時間が来たことでその軌道を下方へと変更し、全てのロケット弾がアーミーマメストラへと降り注いでいく。

 この場の全員がこれで終わっただろうと心の中で無意識に、意識的に思い浮かべた。その中で例外は居た。

 グレイは落ちていくロケット弾を見ながら自身の狙撃特化型K2R複合銃のグリップを握りアーミーマメストラへ向ける視線を厳しいものへと変える。

 姉妹やクモンズ達はグレイの様子を訝しむが、先程のグレイの様子から過敏になっているだけだと考え、終戦を期待した表情をアーミーマメストラへと向けた。

 

 

 あの日地上へ降ってきたアーミーマメストラには一つの指示を受けていた。その場にいる者達の優先的な排除という曖昧且つ強力な命令とも言える事項を本能レベルに刻み込まれていた。

 そしてアーミーマメストラは指示通り荒野(こうや)へ着地してからその場にいた者達の排除へと即座に行動を移した。

 オルトだけであればその巨体を活かした着地で潰れていた。しかしオルトにはファナがいる。オルトの身体(からだ)が壊れる事すら厭わず強制的に強化服とバイクを操作し窮地を乗り越え逃げ去ってしまった。

 アーミーマメストラは指示された事を一切為せなかった。自力での移動能力を持ち合わせないアーミーマメストラは自身の索敵機器に映る2人を見ながら次の機会を待つ事にした。

 

 

 次の機会は1ヶ月と経たずに訪れた。

 その間にも幾人かの討伐部隊が訪れたが、大型のミサイルを数発飛ばすだけでアーミーマメストラの近くからその者達の反応は消え去った。

 その結果攻撃範囲外からアーミーマメストラを観察する者が増えていった。その者達へ物資を運んでいた人間の中にオルトは居た。

 だが手を出すには火力が足りないとアーミーマメストラに組み込まれたシステムが判断を下した。

 オルトの乗る車両はグレイがFARBEからレンタルしていた大型の輸送車両だった。企業が使う分相応に防御性能が高く、加速性能、最高速度もそこらの安物とは、アーミーマメストラの下敷きになっている車両とは根本からして格と額が違う。

 そして何よりオルトの装備が変更されていた事だ。低威力の弾薬と低価格の弾倉を使い、奇襲へ対応して逃げ切った者が更に高威力の銃を所持し、銃の性能を十全に発揮する為に必要な消耗品を大量に保有した状態で訪れたのだ。殺し切るには自身の武装では足りないと判断し、追加の製造に少々多くの物資とエネルギーを必要とする様になるが必須事項だとして自身の武装を改造した。

 その結果、改造を終える頃にはオルト達は帰路に着いてしまった。アーミーマメストラは二度も機会がありながら、指示を果たす事が出来なかった。だが、自己改造を施した事で攻撃可能範囲を広げたアーミーマメストラはその範囲内に滞在していたクロサワ達のチームの者達へと攻撃を開始した。

 幾つかは撃墜されたが殺し切ることは出来た。だが、オルトが次に訪れた際にはまた武装などが変化している可能性を考慮し、単純な費用対効果よりも自己改造を優先した。

 

 

 そして結果としてその選択は正しく、またもや1ヶ月空けることなくオルトは訪れ、明確な意志を持ってアーミーマメストラへと攻撃を行い、アーミーマメストラは指示を完遂する為にお互いを殺す事を考え双方が攻撃を激化させていった。

 

 

 宙から降り注ぐロケット弾の雨を見て部隊全体が勝利を確信している中、2名の人物だけがその表情を引き締めた。

 片やハンターとしての長い経験則と協力者からの予想から、片や想い人からの信頼と齎された知識によって働いた勘と言うべき曖昧過ぎる嫌な予感を感じていた。

 クロサワは部隊全体に注意を促し緩み掛けた緊張を引き締める様に言い聞かせた。

 部隊の中から幾人かはその指示に首を傾げたが、今までの部隊行動によるクロサワへの信頼により気を引き締めようとしていた。

 

 

 グレイは1人装甲兵員輸送車の屋根の上に登り自身の情報収集機器でアーミーマメストラの様子を探った。しかしアーミーマメストラの外殻から漏れ出ている情報収集妨害煙幕(ジャミングスモーク)により内部はおろかアーミーマメストラの周囲一帯の地形情報を掴むのは難しく、オルトから送られて来る連携データ以上の成果は得られなかった。

 そしてその時は来る。

 上昇していたロケット弾がアーミーマメストラへと着弾する瞬間、既に芋虫の形を成していないアーミーマメストラの外殻の中から何かが勢いよく飛び出し降り注ぐロケット弾へと次々に被弾し、その破壊力とそれを相殺するに相応しい光量を荒野(こうや)へと撒き散らした。

 

 

 後方部隊の見守る中アーミーマメストラの外殻から飛び出たものは5メートル程のニ対の羽を生やした蝶か蛾の様な姿をしたモンスターだった。その巨体で飛ぶには不可能と思わせる胴の太さを持っているが、今も尚後続のロケット弾へと被弾し力場装甲(フォースフィールドアーマー)によって衝撃変換光を撒き散らしながらもその高度を上げていく。

 想定よりも前の位置で爆発してしまった為に威力を一点に、同時に当たる事が出来ず直前に爆発した余波に晒された他の弾が誘爆を引き起こし、総合した威力は変わらずとも飛翔したモンスターに目立った負傷は一切見当たらなかった。

 外殻から漏れ出た色無しの霧に似た気体、一点集中で着弾しなかったロケット弾、強力な力場装甲(フォースフィールドアーマー)、そして上空領域のモンスターとしての異常な変異による強靭な外皮により被害を最小限に抑えられてしまった。

 爆煙が晴れ、全貌を晒したモンスターを見上げている部隊の誰かが無意識に呟く。

 

「嘘……、だろ…………」

 

 それは自分に言い聞かせたかったのか。はたまた他者から同意を得たかったのかは定かではない。

 ただ単に目の前でアーミーマメストラは変異を遂げただけだ。

 東部のモンスターではよくある事だが、それを目前で行われ、討伐用に用意した大物殺し用の威力の高い弾を大量に浴びせた上で無傷の姿を見せられ少しの間硬直してしまった。

 個人の困惑と集団の混乱の中、それぞれ一定の戦意は残している。積み上げて来た経験と実績が諦めるという選択肢を選ぶにはまだ早いと頭の中で訴えている。だが、同時に自分達は今とても危険なのだと警鐘も強烈に鳴っていた。

 

 

 部隊を動かし指揮者としての責任感からか嫌な予感を信じたからか逸早く気を持ち直したクロサワは部隊全体に呼び掛けようとした時、オルトから送られて来る連携データが、とても鮮明に飛翔したアーミーマメストラを映していることに違和感を感じた。

 

「……あの中でこんなに精度の高い索敵結果を得られるのか?」

 

 爆発によって発生した爆煙も外殻から漏れていた気体も情報収集機器の性能を下げる効果を持っている。その中であっても索敵可能な装備は存在しているが、そんな物を用意出来るのは更に東側で活動するような者達だけだ。

 更に言えばその精度を得られるのならば最初からやっていた筈だとクロサワは直感的に察すると更に謎が深まったが、オルトの位置情報から確信に至った。

 その時オルトから通信が入る。

 

「クロサワ! ロケット弾の誘導権限を俺にくれ! そっちは取り敢えず撃って撃って撃ちまくってくれ!」

 

 通信を一方的に行ったオルトはモンスターの腹部と思われる表面に、宙に浮かんでいるとモニターに映る部隊員の位置情報が知らせていた。

 

 

 オルトの情報収集機器から1人外殻の中に潜んでいるモンスターに気付いたファナはバイクを走らせアーミーマメストラに接近した。

 モンスターの体勢、視線、周囲の状況などの様々な要因から起こり得る次の行動を予知に近い精度で予測してオルトにその対処を行わせることで、早期の決着を促す。

 ファナが微笑みを浮かべながら念話により次の行動をオルトに伝える。

 

『オルト。次の一斉攻撃で終わらせましょう』

『そんな事を言うって事はこれも防がれるのか。上空領域のモンスターってのは本当に規格外だな』

 

 オルトは圧縮された時間の中ゆっくりと近付くアーミーマメストラに対して心の中で溜め息を吐いた。

 上空からは大量のロケット弾が降って来ている。アーミーマメストラが何もしなければオルトはただ勝利直前に爆発に巻き込まれて負傷しに行くだけだと受け取られるだろう。

 

『ここで砲撃を受けると回避は不可能ですね』

『不吉な事を言うのはやめてくれ!』

 

 十分に近付いたオルトは回復薬を追加で飲み込み意識を集中して体感時間を圧縮しその時を待つ。ファナに言われた通り、近付いた結果砲撃を受ければ確実に躱せない距離にいる事実に顔を強張らせる。それでも必要な事だと強く自身に言い聞かせる。

 強化服がファナの操作で出力を上昇させ強引に、機敏に、そして神懸かりなほど精細に動き出す。バイクから跳び上がり、足裏の足場確保機能を利用して空中に力場装甲(フォースフィールドアーマー)を駆使した強固な足場を一瞬だけ生成し、それを強く蹴り付け更に加速して宙を跳ぶ。

 同時にオルトの目の前に大きな影が通過して飛翔する。先に跳び出したオルトを追い抜き上空へと飛び上がった。

 

『……クッ! ファナ!』

『問題ありません! 追いますよ!』

 

 オルトはモンスターの巨体が高速で動いた事で出来あがった乱気流の中、全身に強固な力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開しながら更に速度とオルトの身体に掛かる負荷を加速させ後を追う。

 単純な強化服の操作に、空気抵抗による負荷を軽減する為に展開する力場装甲(フォースフィールドアーマー)、足場の作成にエネルギーを加速度的に消費していくが、エネルギー消費効率はファナが調整しているおかげで非常に良い。クロサワが用意した大容量のエネルギーパックのおかげで行える無茶を、ファナは過不足なくオルトに実行させていた。

 そしてモンスターの速度が減速する。先に上空へ飛び上がった結果、大量のロケット弾を浴び始めたのだ。ロケット弾の威力、それを軽減相殺、無効化する為に展開する力場装甲(フォースフィールドアーマー)の硬度に相応しい光量を撒き散らせ、モンスターの真下の空間を駆けるオルトを影で染める。

 上昇を止めたモンスターへ蹴り付けるように着地する。同時に両脚の骨が砕け筋繊維がぐちゃぐちゃになる感覚に襲われるが、事前に服用した回復薬の鎮痛作用で痛みを緩和し、細胞単位で壊れた身体(からだ)が同じように即座に治療される。その後モンスターの展開する力場装甲(フォースフィールドアーマー)(あやか)るように身を屈め、モンスターの一部を掴む。

 そしてモンスターを挟んだ反対側から爆発音が止む。撃ち出していたロケット弾が尽きたのだ。

 オルトは全身が回復薬で完治した事を確認し、少なくなったエネルギーパックを交換するとモンスターの表面に両脚で立ち上がる。頭上を地面に向けながらも一切の恐怖を抱かず悠然に立つ。

 例えどれだけ自身が壊れようと戦闘は続行される。その結末を自己の勝利へと導く為に。

 意気を上げる為に笑みを浮かべつつ、オルトは強化服を介して通信を繋げた。

 

 

 クロサワへの要求の為に繋げた通信をこれ以上は不要だと切断したオルトは、自身で選んだ選択を正解にする為に両手にブレードの(つか)を持ち、強化服の出力を上昇させ駆け始める。(つか)から液体金属が流出し内蔵されたエネルギーにより特定の力場を発生させ、オルトの身長程のブレードを形成する。

 

『では止めを刺すとしましょう』

『了解!』

 

 左手に持つブレードを強化服の身体能力を利用してアーミーマメストラへと突き刺す。対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)機能が十全に発揮され、硬い力場装甲(フォースフィールドアーマー)を貫きその奥にある外皮を傷付ける。だが、そこで液体金属は形を崩す。

 

『…っ!?刺さらない!?』

 

 力場装甲(フォースフィールドアーマー)を突破するだけでブレードを形成していたエネルギーを使い切ってしまった所為で僅かな傷を付ける程度で形を喪失してしまう。そしてその傷は即座に痕すら残さず修復された。

 しかしオルトの視界で微笑むファナにとっては大した事でもない。

 その証明とばかりに、再度生成した液体金属のブレードを同じ様に力を加えて突き刺すと外皮も含め貫いた。

 ファナがブレードの安全装置を外し供給されるエネルギー量を増加させたのだ。効率は悪くなる。規格から外れる為、(つか)に掛かる負荷が増える。だが必要経費として許容した。

 オルトはブレードを突き刺したままモンスターの体を強引に走り始める。それと同時に視界の外からオルトへ向けられているモンスターの複数の脚を拡張視界で捉える。

 その先端が大きく開き、大型の砲弾がオルト目掛け放出される。

 

『知ってるよ!』

 

 地上で散々受けていた砲撃の出所は既に予想出来ていた。オルトは先程接近した事で外殻の内に潜んでいるアーミーマメストラ本体の体躯について精度は低いが掴めていたのだ。

 突き刺したブレードを軸にしてオルトがもう片方の手で握るブレードを薙ぐように振り抜く。ファナのサポートにより達人の技量で放つ波動の乗った斬撃によって、砲弾は誤爆し、その爆発の影響を外へと逸らされてしまう。

 同時に、又は時間差を付けて放たれる砲弾をオルトは何度もブレードを振るい被害を外へとズラしていた。ズラされた爆風の大部分はアーミーマメストラにも被害を与えている。だが、力場装甲(フォースフィールドアーマー)が光を撒き散らすだけに終わっていた。

 そして爆発のさせ方を工夫したとしても、オルトの身に掛かる負担を完全には消し去れない。その分をファナが的確に力場装甲(フォースフィールドアーマー)の強度を調整し展開する事で一切体勢を崩されること無く、全方位から押し潰される様な不快感を味わうだけで問題無く戦闘を継続出来た。

 

『ファナ! 誘導権限はどうなった!』

『既にこちらに共有されました。私が操作中ですのでご安心を。ただ、まだ部隊全体の混乱が収まってないのか射出する者が少ないです。まだ殺し切るには足りません』

『クソッ! ……こんなの予想しろってのは求め過ぎか……』

 

 斬り付けているはずの足元は即座に修復され、通った道に切断面は残っていない。

 オルトはその生命力に顔を歪めながら拡張視界に映る上空を旋回しているロケット弾の数を確認するが、その数は未だ3桁にすら上ってない。オルトのバイクに接続したままのK2R複合銃が装填されているロケット弾を機械的に吐き出している。しかしそれでも準備が整わない。

 規格を外れた挙動を強制しているブレードはエネルギーが早々に尽きる。接地機能を強力に働かせている上に力場装甲(フォースフィールドアーマー)を常に展開し続けている為、先程交換したエネルギーパックの残量は半分を切ってしまった。

 オルトが不安を孕んだ視線を後方部隊の方向へと向ける。

 圧縮した時間の中、刹那に満たない時間だけだが確実に目が合った。オルトは確信を持ち強化服の出力を向上させ、駆ける速度を上げる。

 高速で動く所為で粘性を持つ様に感じる空気のなか、オルトは目的の位置を目指して駆けて行く。

 

 

 装甲兵員輸送車の上でグレイは1人だけ冷静に、アーミーマメストラの本体に着地したオルトを見上げていた。

 通信機から聞こえるクロサワの声は既に時間感覚が違い過ぎて理解出来ない雑音へと変わっている。

 つい数分前に意図的に行使出来た体感時間の圧縮。この状態に慣れていないグレイは今の状態を解除すれば、次に行使出来るか定かではなかった。その為、クロサワからの指示を完全に無視していた。

 いつものグレイならば決してすることは無い。だが、オルトはグレイの何かを求めていた事を思い出し、オルトから与えられた影響が、自己流の訓練で身に付けた技術が、グレイの才能を、神経を研ぎ澄ませていく。

 その時、空中で戦うオルトと目が合う。そしてグレイは狙撃特化型K2R複合銃を両手で構える。

 研ぎ澄まされた感覚が、オルトの戦うその真下。そこから一つだけ何故か覗いていた触手がゆっくりと、徐々に上空へと向けられていることに気付く。

 

「邪魔なんてさせない……」

 

 圧縮された時間の中で、グレイは自分にしか認識出来ない言葉を紡ぎ、照準を即座に触手の開口部分に合わせ、対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾を連射する。

 グレイの高精度の狙撃能力が、高価な強化服の身体能力と高性能な銃、そして新たに覚えた体感時間の操作という技術により更に向上する。

 砲口から顔を覗かせたミサイルへと連続して同箇所に対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾が着弾し砲口の中で爆発させる。情報収集妨害煙幕(ジャミングスモーク)がグレイの狙撃の威力を減衰させるが、それを数で補う。補えるほどの技術をグレイは手に入れていた。

 

 

 部隊全体が徐々に混乱から立ち直る。しかしその視線は上空で戦うオルトに向けられていた。そしてアーミーマメストラの抜け殻の周辺は情報収集妨害煙幕(ジャミングスモーク)が濃く注意深く調べなければその姿を確認することも出来ない状態だった。

 索敵機器は速く動くものほど捉えやすい。逆に言えば停止に近い速度しか出さないものを捉えるのは困難だ。

 そして今この周辺で一番速く動く存在はオルトと空へと上昇していくロケット弾だ。抜け殻など見ている者は居なかった。はずだった。

 アーミーマメストラは本体ごとオルトをミサイルで爆撃しようとしていた。しかしそれを防がれてしまう。

 そして眼前にまで駆け上がって来たオルトが空中に生成した力場の足場に脚を付け、その脚を軸にして達人の技量を持った強烈な蹴りを叩き込んだ。

 

 

 ファナの演算により正確に、衝撃の一切が無駄にならない蹴りを喰らったアーミーマメストラは体勢を大きく崩した。

 普通ならばその程度では崩れない。しかし展開している力場装甲(フォースフィールドアーマー)に、それを突破され身体(からだ)を大きく斬られ続けられればその負傷の修復にエネルギーを使う。体内でオルトに通じるだけの威力を持つ砲弾を生成するのにもエネルギーを使う。更には空を飛ぶのに推進装置を働かせ続けている為、体内に保有している膨大なエネルギーは加速度的に消耗していく。

 消耗速度を減速させる為に、オルトの動きを止める為の自爆込みの行動はグレイが潰してしまった。

 容赦無く減らされ続けたエネルギーではオルトの蹴りを耐え切れる程の防御行動は取れなかった。

 

(これで最後だ! くれてやる!)

 

 そしてオルトは再度空中に足場を生成してファナが指定した座標に辿り着くと両手のブレードをアーミーマメストラへと深々と突き刺した。

 著しく減少した残存エネルギーでは既にオルトの攻撃を軽く減衰させるのが限度だった。砲弾生成に使えるエネルギーは残っていない。

 オルトは背中に担いでいた威力特化型K2R複合銃を両手でしっかりと構える。

 オルトの心の中にあるのはアーミーマメストラへの感謝だった。

 オルトの目的は三つ。既に一つは達成された。

 残りの二つも達成するために更に殺意と敵意も共存させた表情をアーミーマメストラの索敵機器を兼ねた目に該当する器官が捉えた。

 

(お前に3度目はねぇよ。じゃあな)

 

 オルトが装填済みの二つの拡張弾倉の中身を全て吐き出す様に連射し続ける。

 対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾が強化弾が、供給されるエネルギーが低下した分貧弱になったアーミーマメストラの力場装甲(フォースフィールドアーマー)を貫き外皮を抉り体内に潜り込む。

 そしてそれだけでは終わらせなかった。

 オルトの銃口の直線上には同じ様にアーミーマメストラへと銃口を向けたグレイがいた。高精度の狙撃を行いアーミーマメストラへと着弾させ、同じ様に体内へと銃弾が入り込む。

 ファナは大気の状態、グレイの照準、アーミーマメストラは着弾した際の銃弾への影響などから弾道を計算し、オルトがその弾道の直線上に銃撃可能な様に位置取りを行わせた。

 体内で正面衝突を起こした銃弾がその威力をぶつけ合い指向性を無視して炸裂する。

 体内の負傷の治癒に更にエネルギーを消耗していき遂にはアーミーマメストラはその飛行能力を喪失した。

 その巨体を空中に維持することが叶わなくなったアーミーマメストラが重力に引き寄せられていく。オルトはそれを何となく見つめていた。

 

『オルト。速く離れてください』

 

 落ちていくアーミーマメストラを見ていたオルトは、ファナに言われ自分の居る場所を思い出し慌てて地上へと戻る。空中に足場を生成するのには全身に力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開するよりも多くのエネルギーを必要とする。

 アーミーマメストラの体表で戦っている間にオルトの視界に映るエネルギー残量は既に1割を下回っている。

 

『クソッ! 間に合うか!?』

 

 オルトが体表に着地した後もアーミーマメストラは上昇していた。そして決着をつける為にグレイの射線上に入る為にオルト自身がより高く高度を上げていた。

 生成した足場を蹴り付け自由落下など比較にならない程ずっと速く地上へ近付いていく。しかし拡張視界に映る落下中のアーミーマメストラには圧縮された時間の中、徐々にだがロケット弾が接近していた。

 

『ファナ! 着弾のタイミングをズラすことは出来ないのか!?』

『落下の瞬間が一番脆くなります。この機を逃して再度変異が起こる可能性を許容出来るのでしたら構いませんよ?』

『ああ、分かった。分かったよ! そっちは任せた!』

 

 オルトは反動で作成した足場を砕く程に、骨が軋む感覚を覚えながらアーミーマメストラから距離を取っているバイクへ向かった。

 何とかオルトが先に地上へ降り立った。

 そして着地の次の瞬間オルトの強化服はエネルギーが切れてしまいその強力な身体能力を消失させた。オルトはエネルギーパックを取り出す時間も惜しんで、即座にバイクの陰に身を隠すと同時にアーミーマメストラが自身の抜け殻に墜落し弱々しい光を放つ。そこへロケット弾が一斉に着弾し、今回の戦闘で一番の大爆発を起こした。

 オルトのバイクがファナの操作で強固に展開された力場装甲(フォースフィールドアーマー)で爆発の余波を受け止める。その陰に隠れたオルトの表面にもバイクの力場装甲(フォースフィールドアーマー)が薄くだが張られていた。

 

『危ねぇ!? 今の状態であんなの喰らったら木っ端微塵だ!』

『動いてはいけませんよ。バイクの力場装甲(フォースフィールドアーマー)をオルトの身体(からだ)にも適用させるのは少々規格外の仕様です。精密に動かすにも限度はありますからね』

『……ファナでも難しいのか?』

『技術的にという意味であれば可能です。しかしこのバイクの性能ではこれが限度というだけです』

『そ、そうか……』

 

 オルトのバイクはヤナギサワから貰った高級品だ。だがそれはクガマヤマ都市ではというだけで東へ行けば相対的に安物と言われる。それでもオルトはこのバイクの性能には結構満足している方だった。

 

『今後も励みましょうね』

 

 ファナの微笑みにオルトも肯定の意味を含んだ笑みを浮かべて返す。しかしその笑みは非常に硬かった。

 爆発音が止んだ後もオルトは砂塵が落ち着くまで、極度の疲労を回復させる為に直立しているバイクに背を預け身体(からだ)を休めていた。

 

 

 グレイが触手を破壊して爆破させたことで、混乱していた者も意識を戦闘に戻し、用意していたロケット弾を残らず撃ち出していた。それら全てがファナの操作により寸分の狂いもなく同時に着弾したことでアーミーマメストラの周囲一帯は濃い爆煙に包まれていた。

 発生した強烈な爆風もある程度大気を押し込むとそれ以上広がることはない。待機中に存在している色無しの霧が押し留め異常な速度で減衰させ吸収するからだ。

 部隊の者の内、数人はオルトの行動に唖然としながら、他の者達は賞金首を完全に仕留めた事に安堵し歓喜の声を上げていた。

 

 

 セレスとルインは装甲兵員輸送車の屋根を、その先に居るはずのグレイを見ていた。

 

「凄いですね。あの瞬間1人だけミサイルに気付いていました」

「……最後の狙撃の精度も含めて、でしょう? あの量を全て命中させていたわ」

 

 合流した時点でのグレイはただの足手纏い。護衛対象だった。身勝手に動かない分護りやすいだけの存在だった。しかし身体の治療が終わった後のグレイはクロサワの指示を無視して行動し始め、結果としてオルトへ向けて発射されたミサイルを触手ごと破壊してアーミーマメストラへ止めを刺す立役者となっていた。

 

「オルト以外にも凄いのが居るのね……」

 

 セレスが感嘆を漏らすが、シーナが首を傾げる。

 

「それにしても全く動く気配がないけど大丈夫かしら」

「……あっ!」

 

 シーナの指摘によりセレスとルインが屋根へと上がるとグレイは膝をついた状態で固まっていた。口や鼻から血を流しながらその場に佇んでいた。

 上がって来た2人に対してグレイは一切反応していない。

 

「これは不味いですよ!」

「オルトが置いていった回復薬が残ってるはずよ! 早く飲ませないと!」

 

 グレイのポーチから回復薬を取り出し口の中に入れる。舌の上で溶け出し治療用ナノマシンが全身へ浸透していく。

 徐々にグレイの顔は血色が良くなっていく。浅かった呼吸も元に戻っていく。

 

 

 グレイが体感時間の操作に成功したのはつい先ほどだ。まだその速度の意識に認識を追い付かせる事が可能になっただけで身体(からだ)を追い付かせるには慣れが足りていない。技術が拙過ぎる。

 オルトにはファナのサポートがあったがグレイにはそんなものは無い。その中でグレイは出来得る限りのことを為した。

 圧縮した時間の中で触手を破壊した直後、上空を飛ぶアーミーマメストラへと照準を合わせ強化服の身体能力で反動を抑え、乱射に近い速度で狙撃し続けた。勿論銃撃を行う毎に銃口が僅かにブレるが、圧縮した時間の中で再調整を行い次弾を撃ち出す。これを繰り返していた。

 高性能な回復薬が限界を引き延ばし、今の実力の少し上を実現させていた。しかし体内の回復薬が尽きれば持続は不可能だ。グレイはその限度を見極める技術を持っていなかった。それを得るのはまだ後になる。

 それでも、後を作ったのはグレイの努力の賜物であることは明白だった。

 

 

 爆煙が晴れた後に残ったのは機械部品の残骸と大小様々な肉片。そして一切砲火によって生まれた大穴だった。そこにはアーミーマメストラの抜け殻とオルトの車があった場所だった。

 クロサワの部隊員が周囲の索敵を行ってる中で、オルトとクロサワが並んでその穴を覗き込んでいる。

 

「随分と深そうだ。これは地下遺跡でもあるか?」

「可能性は高いだろうな。その場合遺物はアーミーマメストラが食っちまっただろうけどな。でないとあんだけの量のミサイルなんか撃てないし、変異なんて不可能だろ」

「……まあ、探ってみる価値はある。オルトも混ざるか? 相応に高額で雇うぞ?」

「嫌だね! 断る! アーミーマメストラは倒した! 盛大にお焚き上げが出来たんだ! これ以上は御免だね!」

「そうか? なら、仕様がない」

 

 強化服のエネルギーパックはバイクのリュックサックから自分の物を取り出し、交換し終えている。それでもオルトの身体(からだ)には賞金首との戦闘の疲労は酷く溜まっている。

 セレスからグレイの状態が悪いという報告も受けているので借りた物資を返却し終えた時点で帰路に着く予定だ。

 

「こっちでハンターオフィスに連絡は入れた。報酬は……明後日には入れられるだろう。こっちで消耗品の計算はして良いのか?」

「ああ。流石に疲れたし、そっちも変に報酬を下げるような事はしないだろ?」

 

 オルトは笑みを浮かべながらクロサワを見るとクロサワも同じ様に笑う。

 

「まあな! お前相手にそんな喧嘩売る奴なんか俺達のチームには居ないな!」

「ならそれで良いよ」

 

 そこに連絡が入る。

 

「オルトー。物資の返却は終わったわよ」

「分かった。そっちに行くよ」

 

 オルトは連絡を終えるとクロサワに別れの挨拶をしてから姉妹達の装甲兵員輸送車へと歩いていく。

 クロサワのチームの1人が神妙な表情を浮かべてクロサワに近付いていく。

 

「おっかねえ奴も居るもんだな。……何なんだアイツ」

「ハンターランク32の……若手のハンターだな」

「……随分なランク詐欺野郎だな。それにもう1人についても勧誘は無いな」

「違いない。あんな無茶に付き合える奴なんざ限られてくる。俺達は俺達でやっていけば良いさ」

 

 クロサワ達がオルトへ目を向けると装甲兵員輸送車へと乗り込み去っていく。周囲一帯を惨状へと変えた少年とそれを支えた少女の一見した実力は高くはない。そんな不思議な者達に対して様々な感情を向けつつも、悪感情を向ける者はこの場には居なかった。

 自分達が望んだ結果を叶えた者達だ。今日は協力者であり、今後も協力者、少なくとも敵対者以外であって欲しい者達だからだ。

 クロサワが顔を手で覆う。

 

「賞金はさっさと払ってもらわねえとアイツと殺し合うかもしれないのかー」

 

 経費を除いた賞金を全額。オルトに対しての報酬だが、自分達が名声を独占する代わりに提示したそれを反故にすれば確実にオルトとの軋轢を生む。

 相手が金に五月蝿い人間かどうかは関係無く、オルトとクロサワ達は別に仲が良いわけでもない。又、仲が良いから金について曖昧にして良いというわけでもない。

 ハンターは常に金を求めている。自身の安全の為に。平穏の為に。更なる栄光を掴む為に。それを妨害する相手に対して取る手段は様々だが、大抵は一つだ。

 その結果を生み出したくないクロサワは頭を抱えていた。

 男はそんなクロサワに同情する様に肩に手を添えてから自分の車へ歩いていった。

 

「あーハンターオフィスの職員ども早く来てくれー」

 

 1人で嘆いているクロサワを横目にチームの人員は周囲に散らばったアーミーマメストラ関連の残骸を集めていた。さっさと討伐完了の報告を上げて賞金を得る必要がある。

 彼らもオルトと下手に敵対するのは避けたかった。

 

 

 クガマヤマ都市へ向けて装甲兵員輸送車が荒野(こうや)を駆けている。

 その屋根の上にはオルトが座って周囲の警戒を行っていた。実際に索敵しているのはファナなので、オルトは情報端末を取り出しハンターオフィスのサイトの賞金首関連のページを開いていた。

 

『ビッグウォーカーはまだ討伐し終えてないのか』

『オルトの奮闘の甲斐もあり貧弱な個体が真面に成熟する前に羽化せざるを得ない状況に持ち込めましたからね。その分楽に勝利を収められました』

 

 オルトが引き攣った顔をしながら装甲兵員輸送車の後を付いてくる自分のバイクを見る。ファナが出力を調整した力場装甲(フォースフィールドアーマー)で衝撃を緩和したにも(かかわ)らず、至る所が歪んでいる。まだ普通に乗れるだろうが性能を十分に発揮するのは無理だ。

 

『その貧弱な奴を倒すのに大量に弾薬を使ったし時間も掛かったし装備も結構破損したんだけど』

 

 オルトの威力特化型K2R複合銃はファナによって制御装置に組み込まれている制限を外されている。発砲時に、供給されるエネルギーによって威力向上に、命中精度や連射速度の向上、反動の抑制、銃本体の保護を自動的に行っているが、オルトが強化服を介してその配分を上下させることも可能なのだ。

 基本的には基準値よりも下げるだけだ。燃費を良くする為に。

 だが、オルトは基準値以上に威力と連射速度を上げた結果、銃身が破損した。倒し切る為に必要だったが修理せずに使用するのは暴発の可能性があり躊躇われる。

 そして何よりも、強化服に取り付けていた旧世界製の情報端末が遂に破損した。アーミーマメストラの砲撃の爆風を防ぐ為に強固にした力場装甲(フォースフィールドアーマー)だけでは流石に守りきれなかったのだ。

 予備は以前都市に回収されて以降入手出来ていない。

 

『これで明確に何か変わる訳じゃないけど、……実際どうなんだ?』

『通信経路が一つ消えますからね。私との通信が不安定になる場所が増えたとでも思って注意していてください』

『……まじかー。またどっかで手に入れたいもんだな』

 

 オルトは溜め息を吐いてから次の遺物収集の場所を機械製品を取り扱う場所にでもしようと心に決めた。

 どこか気楽に考えていたオルトは妙な頭痛がするように感じた。痛みは無いが何となく違和感を持っていた。

 突如ファナが前方を指差した。

 

『オルト。気を付けてください』

『何か見つけたのか?』

 

 オルトは視界に映るファナを見るとその表情は何時(いつ)もより少し真剣なだけだ。反射的に危険度は低いと感じ、一応注意を払っておこうとファナが指差す方向を注視すると、情報収集機器がその場所の索敵を優先し、解析精度を向上させる。

 それを見たオルトは顔を(しか)めさせた。

 

 

 屋根に登っているオルトを何となく見ていたクモンズは大きく溜め息を吐いていた。

 

「どうしたの? そんなに大きな溜め息なんか吐いちゃって」

 

 シーナが困惑を含んだ疑問を投げ掛かるとクモンズは疲労を滲ませた顔で答える。

 

「……ここまで危険な依頼だとは思ってなかった。安易に乗るんじゃなかったぜ」

「そう? 良いじゃない。その危険性の大部分はオルトが持っていったし、私達の損耗なんて強化服と車の修理費とエネルギータンクぐらいでしょう?」

「それでも危険過ぎた。一歩間違えれば全員死んでた」

 

 そう文句を吐きながらクモンズは眠っているグレイに目を向ける。

 

「少なくともコイツらみたいな無茶を簡単に実行出来ちまうような現場になんか行きたくねえよ」

「……まあ、それに関しては同感ね。流石にこうなるのは御免だわ」

 

 クモンズもシーナもグレイは使用後に副作用として昏睡してしまう戦闘薬の一種を服用したと考えていた。実際グレイの身体には近い負荷に見舞われた。そしてそれ以上の成果を上げたオルトもまた同類だとも勘違いされていた。

 そこでグレイが目を覚ましゆっくりと身体(からだ)を上げる。

 シーナがグレイの顔を覗いて背中にそっと手を添えた。

 

「今はクガマヤマ都市に向かってる途中。まだ休んでいて大丈夫よ?」

「……あの、えっと……」

 

 グレイは上手く言葉が出せなかった。何らかの違和感を感じている。しかし言語化出来るほどの輪郭を持っていなかったからだ。

 そこへ屋根の上にいるオルトから連絡が入った。

 

「前方に大型のモンスターだ。気を付け……」

 

 オルトの言葉が詰まった。それを怪訝に思ったセレスが問いかける。

 

「どうしたの?」

 

 動揺してはいないが、明らかに困惑したような声が返ってくる。

 

「んー。いや、迂回? あー、でもなあ……」

「もう! どうしたの!?」

「……これ、他言無用で頼む」

「えっ!?」

「……これは、暴食ワニですか?」

 

 オルトから索敵情報が送られてくる。そこには幾重にも変異を繰り返したような、手脚が生えていない暴食ワニに近い生物系モンスターが映っていた。

 車内に居る者の中で一番馴染みの深いグレイが反応する。

 

「これ……過合成スネーク……!?」

 

 討伐済みである筈の過合成スネーク。それをそのまま縮尺させた姿がそこに佇んでいた。

 オルトの情報収集機器の性能により先に掴めたが、迂回するにしても既に捕捉されている可能性もあった。

 グレイの呟きを皮切りに車内が少し騒つく。

 

「ちょっと待て、それって賞金首だろう!? いや、そもそも討伐済みのはずだ!?」

「何で生きてるの!? 違うわね。逃げ切れるかしら?」

「オルトの銃なら追い払うぐらいなら出来るんじゃない!? どう?」

「射程が一番長い銃は故障中だ。両手の銃だと有効射程に入るまでまだ遠いな」

「私のを使っても良いわよ? 射程ならさして変わらないはず……」

 

 突如遭遇した強力なモンスターの対処法を議論していた車内はその熱を増していくが、1人静かに、だが動揺を含んだ者の声に意識を割く。

 

「……ああ、どれも要らない。俺達の出番は無さそうだ」

 

 オルトの発言に全員が困惑する。

 

 

 オルトの脳内に声が響く。

 

『覚悟を決めるのは俺の担当だからなぁ!』

 

 オルトが頭の中に響いた声に対して動揺する。ファナの声ではない。どこかで聞いた事のある男声だった。

 だが今自分の周囲にいる人物達の声ではない。しかしそれを可能な者を知っているオルトはその存在へと目を向けた。

 しかしそこにはいつも通りのファナが佇んでおり、オルトに対して何らかの行為を行っているとはとても思えなかった。

 いきなり動揺を露わにしたオルトをファナが覗き込む。

 

『どうかしましたか?』

『いや、……何でもない』

『そうですか?』

『ああ』

 

 先程までノイズのように頭の中でなっていた反響音は体感時間を圧縮する事でその意味を理解出来た。

 誰かが過合成スネークの本体と戦闘中且つその誰かはオルトの予想通りの人物だったからだ。

 

『オルト。取り敢えず無闇に攻撃を行うのはやめた方が良いでしょうね』

『……やっぱり誰か戦闘中か?』

『はい。こちらから誤射を起こすと相手側と戦闘に発展する恐れがあります』

 

 ファナは淡々と提案する。

 突如出現した過合成スネークの対処法を講じている車内に対して、それらが不要だと言ってから停車させる。不用意に近付くのはお互いにとって不利益になりかねないからだ。

 

「オルト。撃たないの? 何故だか知らないけど、止まってるし当たるわよね?」

「撃たない方がいい。危険だ」

「危険?」

 

 グレイが身体(からだ)をふらつかせながら身を乗り出し、銃を構えようとしていたがオルトがそれとなく止めた。オルトの脳内には誰かの嗤い声が響き続けており、それを認識しているのはこの場でオルトだけだった。

 そして過合成スネークに変化が起こる。突然苦しみ出したかと思えば、体の一方向から大量の銃弾が飛び出してきたのだ。

 

「えっ!? 何アレ!?」

「……内部からでしょうか」

「まあ、お互い射程の外なんだ。取り敢えず見守るか。銃撃が落ち着いてからでも大丈夫だろ。下手に手を出して横取りだとか言われたくねえしな」

「同感だ」

 

 オルトがクモンズの提案に賛成し、他の面々も消極的だが賛成の意を示した事で暫く様子を見守っていた。

 過合成スネークは荒野(こうや)を這いずり回るようにその巨体を唸らせ粉塵を撒き上げるほどに暴れている。

 突如として暴れ回っていた過合成スネークの側面から1台の荒野(こうや)仕様の車両が飛び出してきた。それは大きく回転して過合成スネークの陰に隠れてしまい、オルト達からは目視が不可能になった。

 しかしオルト達が警戒していた過合成スネークは少し痙攣した後、微動だにしなくなった事で危険は無くなったと判断した。

 

「誰か出て来たのよね? 合ってるわよね?」

「オルトさん。どうですか? 見えますか? こちらの機器だと大まかにしか把握出来ないんです」

「ああ、見える。車両が1台、ハンターが1人だな」

「1人ね。……1人!?」

「ああ、間違いない。1人であれを倒したって事になるな。詳しくは本人に聞いた方が良いだろうけどな」

「……どうします? 行きますか?」

「少し時間を置いた方が良いかもな。高揚したままの奴に近付いて戦闘にってのも珍しくない。あれだけの戦果を上げたんだ。実行者の状態を把握出来ない状況下で近付くのはお勧めしない」

「そうですか。オルトさんは?」

「……ん? 俺もそれに賛成だ」

「……? そうですか」

 

 オルトはいつの間にか脳内に響いていた声が消えていることに気が付いた。

 

『ファナ。他に何か変な事とか起きてたりするか?』

『いえ。特にこれと言って何らかが生じたりなどはしていませんよ』

『そうか』

 

 オルトはその発言を聞いて自身の脳内で響いていた嗤い声はファナが原因ではない。それだけ理解するとオルトは大きく息を吐いてから過合成スネーク越しに居るハンターへと短距離通信を飛ばした。

 

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