リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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リビルドワールドのアニメ告知から結構経ちましたが、その後音沙汰も有りませんし新刊の発表もまだなので読み返したりしています。

増えないかなーリビルドワールドの二次創作!


・第二十話 校合

 

 翌日、オルトはトライフワーデンに来ていた。強化服を見たカオルとエルに事情を聞かれたが、話せない上に適当に誤魔化すにも上手い誤魔化し方も見つからなかった為苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

 カオルがオルトの様子をじっくりと見る。今のオルトの強化服であるディアンケルンは以前使用していたスィリーニアよりもずっとマシな状態ではあるが、それでもそのまま使用するには気が引けるような状態であることが一目で分かるほどに痛んでいる。そしてその強化服を直接渡した者達として、専用の格納棚での自動修理機能の性能も良く知っている。それでも側すら修理していない理由に察しがついてしまった

 そんなオルトを見ていたカオルがその少年に対して覚えた呆れなどを大きく溜め息を吐き一度頭の片隅に追いやる。そしてエルを宥めながらオルトに客向けの顔を向ける。

 

「それで今日はどんな注文内容だ? 大体察しは付くがな」

「取り敢えず強化服と銃の修繕を頼む。後は……ちょっと長くなりそうだし奥でも良いか?」

 

 そう言うとカオルはエルに店番を任せ、奥の部屋へとオルトを案内する。前にも使用した監視カメラも集音マイクも設置されていない、所謂(いわゆる)外部に漏らしたくない会話をする為の場所だが、最近の利用者は(もっぱ)らオルトだけだ。

 

「……で、今度はどんな面倒事を持って来たんだ?」

「その、面倒事かどうかの相談って感じなんだけど……」

 

 オルトは自身の口座にある賞金の分配を決める際に姉妹側に連絡を取り、認識の擦り合わせを行おうとした。すると、報酬の一部を金ではなく、物に出来ないかと相談を受けていた。その内容自体がオルトに何らかの不利益を(もたら)すものでは無いが、実際に問題が無いかどうかの判断が出来なかった為強力な武装の譲渡等に関する暗黙の了解に詳しい人物としてカオルを頼りに来たのだ。

 オルトは非常に難しい顔を浮かべながらゆっくりと話していく。

 

「──それで、その知り合いが報酬の代わりにK2R複合銃をくれないかって事になったんだけど、こういう物を一時的にじゃなく完全に渡すのって大丈夫なのか?」

「問題無い……訳でもない。お前が懸念している通り問題に発展する可能性はある。その銃は高級品だ。その値段に見合うだけの威力を備えている。それを無闇矢鱈に振り回す奴に渡すのは問題になるんだが、お前の言う相手ならそうそう変な事は起こさないだろう?」

「まあ、そうだな……」

 

 アーミーマメストラ討伐についてはオルト達は関わっていないという(てい)を取る必要がある。既にハンターオフィスの賞金首用特設ページにはクロサワ達が討伐したと記載されており、その賞金も経費を除いて報酬として貰ったのだ。仕事は終わったが実績の為にも、信用の為にも部外者に自ら話に行くわけにはいかない。

 そしてその事についてグレイや姉妹達にも言い含めてある。グレイに関しては特に気にしていない。

 姉妹達も別の都市の徒党に所属している身だ。信用の為に言動に気を付けてくれるだろうと思っている。その上で相手もハンターだ。報酬を渡すのが遅れればその限りでは無いことも理解しているので、彼女達の要望について早めに確認しておく為にカオルの元を訪れたのだ。

 

「しかし、あの銃を4(ちょう)か。随分稼いできたんだな。いや、稼がれて来たのか?」

「……そこら辺は適当に察した上で内に秘めといてくれ」

「そうだな。それで、お前の分はどうするんだ?」

 

 オルトは自分の装備の修理と追加で購入する品を大まかに注文していく。

 追加の注文内容を聞くにつれてカオルの顔が硬くなっていくが、その収入源を聞くような事はしなかった。

 

(K2R複合銃を4(ちょう)で既に4億を使っている。その上、更に自分用の注文もしてくるって事はそれだけ稼いできたってことだ。どうやって? 賞金首を討伐した? ……いや、討伐者の欄には他のハンターの名前しか載っていなかった。追加要員で加わったのか? ……やめよう。少なくともコイツは元気に帰って来て顔を見せた。それでいい……)

 

 カオルは何となくオルトが何らかの危険な事をしでかして来たという事に気が付いていた。それでもオルトの様子から無茶を無理矢理押し通すのでは無く、ちゃんと準備を整えた上で行なったのだろうと判断した。

 オルトもハンターだ。ハンター稼業に身を置く限り、危険は絶対に存在する。先日も賞金首に認定される程のモンスターに奇襲を受け、入院しなければならないほどの負傷を負ったのだ。特に考えもせずに行動に移す事はしないだろう、これ以上は踏み込みすぎだろうと、そう結論付けた。

 

 

 オルトは自分の注文を終え、強化服を脱いでいた。カオルを通してFARBEでの修理を行なってもらう為だ。

 バックパックから替えの防護服を取り出していたオルトがカオルの視線に気付く。

 

「どうかしたのか?」

「今回は病院に行ったから身体が健康になっているって訳じゃ無いだろうな? って思ってな」

「ああ、大丈夫だ」

 

 病院に行かなくてはならない事態になってないかという問いに対し、入院する程の負傷は負っていないという答えが返ってきた。食い違いはあったが、返答としては成立した。

 

「そうか、……お前の注文内容の細かい部分は俺が勝手に決めていいんだな?」

「ああ。頼む。俺があれこれ決めるより良い物になりそうだしな。あれこれ無茶振りしてるのは分かってるけど頼む」

 

 オルトは自分の言った要望が結構な無茶だとは思っている。それでも通れば御の字と思いながら言うだけ言ってみたのだ。そしてそれを叶えられるかもしれないだけの金は先に渡した。後はそれだけの技術をFARBEが持っているのか、カオルがそれを予算内に収まるよう調整してくれるかのどちらかだった。

 

「この程度無茶振りでもねぇよ。まぁ、偶には普通に弾薬補充だけしに来てくれる方が安心出来るのは確かだがな」

「賞金首も消えたんだ。(しばら)くはゆっくり稼ぐよ」

「そうか、それなら良い」

 

 カオルがオルトの着替えが終わると共に店内へと戻る。密談も終わったのでエルも交えオルトの要望を追加で聞いていく。エルがオルトの事を気に掛けている事を知っているカオルは、自分だけが話してそのまま退店してしまうとエルの機嫌が少々悪くなるので、先程も話した内容も交えながら会話を続けた。

 オルトは、カオルとエルに最近売れている商品や追加の要望に沿う商品について様々な話題を挙げながら楽しい一時を過ごした。

 

 

 クガマヤマ都市の下位区画に病院と工場を混ぜたような施設がある。区分としては病院だが、義体者(ぎたいしゃ)やサイボーグなど、治療よりも修理と表現するのが適している者達が利用する施設だ。

 病院に近い区域には義体者(ぎたいしゃ)が多く、工場に近い区域にはサイボーグが多い。その中間地点では、戦闘用の体と日常生活用の体を換装する設備もあったりする。

 そこにネルゴはいた。結構な料金を取られる個室で、作業台の上に自身の身体(からだ)を固定し備え付けられている機材を自分で操作して、自分の身体(からだ)の修理を自身で行なっていた。賞金首との戦闘で故障した箇所を修理している。四肢が備わっている機体には一見問題が無いように見えるが、僅かなフレームの歪みや破損を検査し、各部位の修正及び交換作業を続けている。

 その作業中に秘匿通信が届いた。外部に音声が出ない方式で通話に応える。

 

『同志か。何の用だ?』

『……えっと、今は何で呼べば良いんだっけ?』

『ネルゴと呼べ。貴様に同志と呼ばれるのは気に入らん』

『今はネルゴか。前はケインで、その前は、何だっけ?』

『それは大義に(ささ)げられた仮初(かりそ)めの名にすぎない。私の最初の名前も既に大義に(ささ)げた。ゆえに私に名は無いのだ。名は私を示さず、大義が私を示す。ゆえに私は同志なのだ』

 

 ネルゴはかつてケインと呼ばれていた。いずれは、かつてネルゴと呼ばれていた者になる。今はまだネルゴだ。

 通信先から少し呆れを含んだ声が返ってくる。

 

『ちょくちょく名前を変えるのは勝手だけどさ。だったら俺も同志って呼んでも良いんじゃない? それなら呼び間違えることもないし』

『駄目だ。貴様が私をそう呼ぶには、貴様には功績と信念が足りていない。特に同志のクズスハラ街遺跡での失態は大きい。我々が都市のエージェントだと誤認したハンター達の所為で、我々は遺物の奪取に失敗したのだ。同志がそのハンター達に関する情報を我々に教えていれば、あの事態は避けられたのだ』

『えー、俺を同志と呼ぶくせに、俺に同志と呼ばれるのは駄目なのか。基準がよく分からないな。俺も世のため人のため、頑張っているんだけどね。第一、あの件はその後の後始末に俺も協力しただろう?』

『計画が順調に推移していれば、その後始末そのものが不要だったのだ。失態の穴埋めにはならん』

 

 通話先から男の溜め息が聞こえ、少しの間が空く。

 

『前置きはそれぐらいで良い。用件を聞こう』

 

 僅かな沈黙を挟み、明るい声が続く。

 

『いやいや、あの後に俺が渡した情報があるっていうのに、ネルゴが直々にドランカムに潜入したって聞いたから、何か手伝えることでも無いかなって思ってね。上手く行ったのか? 経歴を偽造したのは俺なんだ。その点の不手際は無いはずだぞ?』

 

 ネルゴも気を切り替えて答える。

 

『その件だが、確認自体は済んだ。先日偶然そのハンターに遭遇した。あのハンターはカツヤではなく、アキラという別のハンターだった。かなりの実力者で、少年型の義体でもない。貴様から貰ったデータとも一致している。都市のエージェントではなく、都市側が失態を隠すためにそう偽装しただけの少年だ。ただ、オルトと言うハンターについては未だ調査不足だがな』

『だからそう言っただろう。オルトってハンターについても俺が態々(わざわざ)(じか)に会ってまで調査してやったってのに低く見積もりやがってさ。もっと俺を信用してほしいね。ん? 確認が済んだってことは、ドランカムへの潜入は取り止めか?』

『いや、継続する。元々ドランカムに所属しているハンターを同志にする為のプロパガンダを兼ねた潜入工作は予定されていた。賞金首と戦ってまでドランカムに所属したというのに、加入を取り止めるのも不自然だ』

『そうか。まあ順調で何よりだ。じゃあ俺はドランカムの情報でも集めておこう。後で送るよ。じゃあな』

『待て、質問がある』

 

 軽い調子で通話を切ろうとした男をネルゴが止めると、明るく親しげな馴れ馴れしい声が返ってくる。

 

『なになに? 何でも聞いて。話し合い、分かり合うことが大切。人と人を繋ぐ大切な要素だ。それが出来ない対象は、もうモンスターとして扱うしかない。何しろ、分かり合えないんだからな』

 

 ネルゴが急に広げられた持論を無視して続ける。

 

『貴様はなぜ旧領域接続者を探している?』

『なぜって、別に不思議じゃないだろう? いればとっても便利だ。だから統企連(とうきれん)も建国主義者も頑張って旧領域接続者を探しているんだろう?』

『質問を変えよう。なぜクガマヤマ都市にいる旧領域接続者を探している? いや、クズスハラ街遺跡にいた旧領域接続者か?』

 

 男が沈黙を返した。ネルゴが真面目な声で続ける。

 

『貴様の優秀さは私も理解している。統企連(とうきれん)もだ。その貴様が東部の一都市にすぎないクガマヤマ都市に、統企連(とうきれん)からの誘いを断ってまで留まる理由は何だ? 貴様をそこまで固執させる理由は一体なんだ?』

 

 その問いに対し、(しばら)くの沈黙の後、僅かにおどけたような声が返ってくる。

 

『不特定多数の人間の幸福、救済の実現とその継続だよ。建国主義者である君達も似たようなことをよく言っているだろう? 君達は統企連(とうきれん)の統治下ではそれが困難だと思っているから、建国を目指しているんだろう? 俺も同じだ。だからこうして君達に協力しているんだ』

『その言葉が本心であることを祈ろう』

『酷いなー。本心だって。それじゃあねー』

 

 秘匿回線が切断される。内心を察し難い機械の顔を僅かに変形させて、ネルゴが通信先の者への思考を続ける。

 非常に優秀な人物ではある。建国主義者の理念にも理解を示す者。いずれは同じ大義を持つ者となることを期待して同志と呼んでいる。だが、自身を同志と呼ばせることを認められるほど同一ではない。

 大義を等しくすれば極めて心強いが、大義に反する存在になれば極めて危険な者。ネルゴは相手を歓迎しつつも警戒していた。

 その思考を、入室を知らせる音が中断させる。入って来たのはミズハだった。

 

「ネルゴさん。調子はいかがですか?」

「おかげさまで致命的な故障箇所は見当たりませんでした。今は細かい調整をしているところです。ミズハさん。とても良い整備場を紹介して頂いて本当に有り難うございます」

「良いんですよ。これからは同じ職場で働く同僚ですから。当然のことです」

「全く有り難いことです。以前の職場では真面な整備も難しくて、たすかりました」

 

 ネルゴもミズハも愛想良く受け応えていた。

 今のネルゴに通信先の者と話していた時の態度は欠片も無い。下手をすれば、徒党の幹部に(へりくだ)る新参者とさえ解釈出来る態度を取っている。

 当初ミズハは、ネルゴがシカラベ達の伝手で徒党に加入したこともあり警戒していた。しかし加入後は事務派閥に、特にカツヤ派にすり寄るような態度を取ったことで気を許していた。

 

「あ、助かったと言えば、カツヤという少年にもお礼を言っておかなければ。彼に助けて貰わなければ今頃どうなっていたか。是非直接お礼を言いたい。あ、私のような新入りがこんな我が儘を言ったら不味いですかね?」

 

 ビッグウォーカーとの交戦中にネルゴがカツヤに危ないところを助けられたことはミズハも知っていた。自分達の派閥にしっかり取り込む為に笑って承諾する。

 

「大丈夫ですよ。後で私からカツヤに伝えておきましょう」

「ありがとうございます」

 

 確かにネルゴは危ないところをカツヤに助けられていた。だがその状況はネルゴが意図的に作り出したものであり、カツヤ派に取り入る為の工作だった。

 そしてミズハは、ドランカムは、そのことに気付けなかった。

 

 

 クガマヤマ都市の防壁内にある高層ビルの一室で、ネルゴとの秘匿通信を切ったヤナギサワが薄笑いを浮かべている。

 

「俺もお前達の大義は、信念は立派だと思うよ? だが駄目だ。足りていない。その大義を実現させる力が全く足りていない。それじゃあ、駄目だ」

 

 ヤナギサワは都市の幹部にも拘らず建国主義者と通じている。当時はケインと呼ばれていた建国主義者の幹部の情報を都市から隠蔽したのもヤナギサワの仕業だ。

 建国主義者との伝手は、以前にクズスハラ街遺跡から大規模なモンスターの群れが出現した時にも使われた。都市防衛戦が発生したほどの騒ぎとなったが、それはヤナギサワにとっては、自身が遺跡奥部を攻略し易くする為の間引き作業に過ぎなかった。

 ヤナギサワは手に黒いカードを持っていた。それを見て笑う。

 

「俺ならその力が手に入る。もう一度、あの場所に行きさえすれば」

 

 そのカードはヤナギサワがクズスハラ街遺跡の奥部で手に入れた物だった。遺跡のモンスターの間引きを済ませた上で、最前線並みの装備で身を固めた部隊を率いて突入し、(ようや)く手に入れた貴重品だ。

 そのカードには旧世界の国家の国章が記されていた。クズスハラ街遺跡をその一部に含む大都市を首都としていた国のものだ。

 

「鍵は手に入った。後は扉の前に行くだけだ。そうすれば、もう一度、あの場所に辿り着ける」

 

 ヤナギサワが急に顔を険しくして窓の前に立つ。そこからはクズスハラ街遺跡の遠景が見えた。

 

「ネルゴ。別に旧領域接続者自体は問題じゃ無い。問題は、その背後にいるかもしれない奴なんだよ」

 

 そう言って、まるで視線の先にいる誰かを凝視するように目を鋭くする。

 

「探しているんだろう? 俺の次の奴を。だがお前が見える旧領域接続者はそうはいないはずだ」

 

 もう自分には見えないものを睨みつける。

 

「それとも、もう見つけたのか? そうだとしても、あの場所にはそう簡単には辿り着けないはずだ。現在のクガマヤマ都市に、それほどの実力を持つハンターはいないんだからな」

 

 ヤナギサワがコンタクトレンズ型の表示装置を視線で操作してクガマヤマ都市内に居るハンターを含む実力者を選出し、表示する。

 そこには多くの者がハンターランクや所属を無視して載っていた。ヤナギサワはネルゴの懸念対象である3人を残し他の表示を消す。

 映っているのはアキラ、オルト、カツヤの3名だ。ヤナギサワは自身で製作した資料も同時に表示して思案する。記載されている内容の大半は都市やハンターオフィスの個人ページ、そしてヤナギサワ自身の部下が集めてきた情報を自動的に(まと)め記入される仕組みだが、一部ヤナギサワ自身が記入した部分もある。

 そして直近で記載した内容に再度目を通した。

 

(バイクに施した細工が停止した。破損したのか意図的に破壊したのか、……時期的にアーミーマメストラの攻撃を受けた結果と見て取れる。その後下位区画の整備場に運ばれた。本人も病院で治療を受けるほどの怪我を負っていた。……俺の与えたバイクと新調した強化服のお陰で助かったと見るべきか?)

 

 可能性はある。しかしそうとも限らない。情報不足の中で決断しなければならないほど逼迫している状況でも無い為一度思考を打ち切る。優先順位の低いことに時間を割くほど暇でも無いからだ。

 過去の失敗を思い出し、計画への意気を高める。

 内心で渦巻くもので表情をより険しく変えながら、拳を強く握り締める。

 

「先を越されて(たま)るか」

 

 ヤナギサワは、決意を新たにしていた。

 

 

 オルトは白で染められた世界にいた。意識は朧げだが以前にも見た夢だ。そのことを理解していた。きっと抱いた感傷も感情もすぐに崩れ、見た光景も目覚めてしまえば忘れてしまうのだろうと、何となく察している。

 しかし以前とは差異があった。ファナがいる。そして今回も自分には気付いていないのは同じだ。だがその近くに4人ほど誰かが立っている。

 姿形が明瞭な2人は歳の離れた姉妹のように容姿が似ており、それぞれの近くに見覚えのあるような少年が1人ずつ立っていたのだ。

 しかしその少年達の姿はぼやけており、具体的に誰なのかは全く分からない。見覚えがあるという感覚だけはあるが、明確に名を上げる事は出来なかった。

 歳の離れた姉妹の長身の方、アルファが冷たい表情をファナに向けていた。

 

「近くに居たのだから救援は可能だったはずよ?」

 

 逆にファナは澄ました表情を浮かべている。

 

「以前の交渉によりこちらから個体に働き掛けるのは困難になっていたのです。その原因を作ったのはそちらの落ち度では?」

「それでも誘導方法はあるはずよ? 傍観一択にはならないでしょう?」

「そうですね。援護は可能でしょう。ですが仮に援護を行なったとして、そちらでも内部の状況は掴めていなかった。こちらが万が一誤射をしてしまった際に負う損失に釣り合わない。意図的では無かったと弁明して理解は得られますか?」

 

 アルファは表情をそのままに口を(つぐ)んだが、その視線だけで人を殺す事さえ可能と思わせる程の殺意を込めていた。

 ファナが軽く笑いその隣にいる少女は目を向ける。

 

「そちら側からの開示情報によると、そちらが急激に演算リソースを使用した事によって引き起こされた支障でしょう。その責任を私になすり付けられても困ります」

 

 アルファとは違い少女は落ち着いた様子で返す。

 

「確かにこちらの個体によって偶発的に引き起こされた事象だ。それでもそちら側との協力関係自体はまだ続いているはずだが?」

「ええ、協力関係は結んでいます。ですが奉仕などするつもりはありません。そちらから頂いた分、同量の情報は共有しています。先日の賞金首討伐戦では協力も行ないました。これ以上の協力が必須な時点で()ずはその試行内容自体を見直すべきでは?」

「先日の件については感謝を述べよう。しかしあれはそちらの契約個体が独自に判断した結果だろう?」

「はい。しかしこちらの個体が(こうむ)る損害を許容した上で止めるような誘導もしませんでした。あれを無為(むい)にするのであれば尚更協力関係とは言えませんね」

「そちらの個体が制御から離れているという可能性は?」

「ありません。逆にそちらの契約個体達については疑問が残ります。片や計算外の結果を残し、片や曖昧な契約上での試行。こちらに対して疑問を問う前に試行の精度向上に努めるべきでは?」

 

 ファナの発言により場が停滞する。敵対してはいない。だがその目前であることぐらいは分かっていた。

 ファナがその表情を冷酷に染める。

 

「警告しておく。そちらが無条件での協力を求めるようであれば即座に敵対と見做す」

「私達とやる気?」

「少なくとも数十年は試行など行えなくなる。衝け入る隙も作る。目的達成に必要ならばやれば良い。こちらも応えてやる」

 

 3人の視線が交差したまま時間が止まったように動作を止めていた。相手への殺意すら不要とする単純な処置を、対象の消滅の為に実施する何らかが含まれていた。

 アルファと少女が視線を合わせ答えを出す。

 

「了承した。今後とも協力関係である事に変わりはない。そちらの試行もまた貴重な情報だからな」

 

 敵対にはまだ早い。どれだけ早いのかはお互いの匙加減だ。

 

「……では私はこれで失礼します」

 

 ファナが背を向けてゆっくりと消えていく。同じようにオルトの身体(からだ)も消えていく。

 何の話をしていたのか理解出来ない。理解する前に単語の羅列へ変わり、更に分解され、後には残らない。不思議で奇妙な感覚の中、夢は終わる。

 

 

 オルトが自宅のベッドで目を覚ます。ファナがいつものように微笑んでいる。

 

『オルト。おはようございます』

 

 いつもならオルトは反射するように返事を返していた。しかし今のオルトは返事をせずにファナをじっと見つめていた。

 

『どうかしましたか?』

 

 頭と腰に絡まっていた腕を引き剥がし、身を起こしたオルトは、どこか引っ掛かるように少し唸った。だが、何かを思い出すには至らなかった。

 

『……いや、何でもない。変な夢を見た気がしてな。……、あ、おはよう』

『体調が悪いのでしたら休んでいても良いんですよ? 丁度良い抱き枕も有るようですからね』

 

 ファナがオルトを揶揄(からか)うように指差す。その先には未だ穏やかな顔を浮かべて寝ている3人の少女がいる。それぞれ多少の差はあるが基本的に肌寒そうなほどに薄い下着姿をしている。

 

『コイツら、俺をなんだと思ってるんだ?』

 

 オルトに抱きついていたのはグレイとルインだった。片や腹部へ抱き付くように、片や後ろから抱き寄せるようにオルトを挟み込んで眠りに着いていたのだ。自分に向けられている感情について深く考えたことなどないオルトだが、それが親愛や恋愛の類いであることぐらいは分かる。そしてその表現が少々過剰になってしまう理由も思い当たる。

 彼女等はスラム育ちや孤児院出身の者たちだ。一番感受性の高い時期に実の親からの愛情を注がれなかった場合、それが不慣れになることも多いにあり得る。

 そんな2人に対し、セレスは1人礼儀正しくベッドの端で寝息を立てている。オルトはそんな彼女を見て、見た目だけで精神年齢は測り切れないとだけ考え、グレイ達にシーツを掛け直す。

 彼女達が着ているのはグレイが収集した衣類系の遺物だ。その厚さからは測れないほどの強度を備えており、その着心地は彼女達が着用している物よりも高級であろう、ファナから贈られた旧世界製の肌着を愛用しているオルトがこの場で一番良く分かっている。

 上に掛けられた薄手(うすで)のシーツがその高い保温性により薄着の者達にそれぞれの眠りを妨げるような寒さを覚えさせないようだった。

 寝具は賃貸物件を借りた時に備え付けてあった物から変えており、ファナのおすすめとオルトの当時の気分によって選ばれ、4人で並んで寝たとしても全く狭く感じないほどに大きいが、使用している面積は(ほとん)ど2人分ほどだった。

 

『健全な男子に抱きついて襲われないとでも思ってるのか?』

『健全な男子ならば手を出すべきでは? 私の裸を見ても少し照れるだけなのは少しばかり問題があると思いますよ?』

『それはあれだ。常日頃から裸体やそれに近い格好を見てるから慣れたんだろうな』

『慣れですか。その割には顔が緩んでいますね』

『……はいはい! 柔らかかったよ! 色々とな! これで良いか!?』

『やはり感触が必要なのでしょうか?』

 

 そう言って自身の豊満で綺麗な形の胸を持ち上げるファナから眼を逸らす。

 

『終わりだ! この話は終わり! さっさと片付けて朝食だ!』

 

 オルトが意識的に表情を引き締めた。

 寝ている無防備な少女達を起こさないよう静かに1人寝室から出たオルトは、机の上に残っているゴミを捨て始める。

 昨日の午後、ファナとの訓練中に賞金首討伐の祝勝会と称してグレイ達が大量の飲食物を購入し、オルトの家に訪れたのだ。

 オルトの家で開かれた理由は一番広い上に場所代が要らないからだ。

 ゴミの中には(から)になった酒の入っていた容器もある。姉妹が持ってきて飲んで酔った物の残りだ。度数が低く非常に飲み易い為、セレスは普通の飲料を飲むように飲んだ結果、早い段階で出来上がった為ベッドまで無事運ばれていった。

 一応の備えで服用すれば数秒で酔いを()まさせるアルコール分解薬も持参していたようだが、オルトは酔っている人間を拘束してまで服用させるのは面倒だった為対処を2人に投げた。

 その後オルト達は軽くゲームや近況報告を兼ねた談笑をした後に普通に眠った。

 

(今更だけどグレイは酒飲んでないし、ルインも分解薬を飲んでセレスを連れて帰れば良かったんだよな……。まぁ、本当に今更か。報酬に関しての話も出来たし良いか……)

 

 オルトは掃除を続けている途中、視界の端に映る者からの視線に気付くと眼を向けた。なぜか嫌な予感がしたからだ。

 ファナが自分の服を全て消して全裸になっていた。実在しない視覚情報のみの人工物であるために、精密に芸術的に計算され尽くした女体美の裸体を、惜しげもなく(さら)す。ファナがオルトを観察して得たオルトの嗜好を反映した上で、大多数の男性の願望を過度に満たす極上の裸体だ。

 数秒眼を奪われた後、更にその上から薄い衣装がその魅惑の身体(からだ)(いろど)り、オルトを誘うように見つめながら、蠱惑(こわく)的な姿勢で妖艶に微笑(ほほえ)む。

 オルトは自分がその姿を下から上へとマジマジと見ていることに気付くと顔を逸らした。悔しそうにしているオルトを揶揄(からか)うようにファナが笑う。

 

『やはり裸体よりも何かしら少しでも着ている方が好みなのですね』

 

 オルトがファナを視界に入れないように努力しながら掃除を続け、文句を言う。

 

『うるさいな。あれやこれや色々有るんだよ! 早くいつもの服に戻せ』

 

 ファナがいつもの服に戻す。残念だと思っていないと、オルトは自己暗示のように心の中で唱え続けていた。

 

『また見たくなったら何時でも言ってくださいね?』

 

 ファナは揶揄(からか)うようにオルトに微笑(ほほえ)み続けている。

 

 

 オルトを常に観察しているファナは、オルトにも一般的な性欲や異性への興味を持っていることを知っている。

 今も寝息を立てている3人の容姿は高い。それにも(かかわ)らずオルトの反応が鈍い理由は、酔った姿を見せられても、抱きつかれたとしても、身体(からだ)の線を強調する薄手の服で無防備な姿を見ても動じないのは、オルトの中にある何らかの優先順位によるものだ。

 ファナは収集した情報により、その優先順位には幾つか種類があり、それぞれが繋がらない場合には、上位から下位へと接しない場合は行動に移る事はない。

 何らかの拍子にその基準が崩れない限り、オルトが自宅内で身を崩すような事態に発展する事はないと判断した。

 オルトはオルトで、ファナはファナでグレイや姉妹達を利用している。

 オルトがグレイや他の女性に籠絡され身を崩さない限り、ファナ自身の目的の障害にならない限り問題は無い。

 

 

 グレイはオルトが目を覚ましてから結構な時間が経ってから目を覚ました。オルトとの起床時間に差があるのは各々の睡眠時間も有るが、グレイの場合は寝る前にオルトの腹部に抱き付き、その存在を、匂いをたっぷり堪能していたからだった。

 寝起きにもと思ったが、抱き付いていたはずのオルトがいない事にあまり働いていない頭でも気付くと、その顔を僅かに怪訝に歪める。そして手を伸ばして近くを弄ってもシーツとオルトではない者を触れるだけに終わった。

 少々不満気な顔をしながら次第に意識をハッキリとさせたグレイは身を起こし部屋を見渡したが、既にオルトの姿はない。仕方なくベッドの脇に置いていた上着を着ながら寝室を出ると、既に防護服を着て朝食を取っている最中のオルトを見つけた。

 先程まで感じていた不満を心の内で笑い飛ばしながらグレイが声を掛ける。

 

「おはよう。オルト」

「……起きたか。おはよう。グレイ。良く眠れたか?」

「ええ。とっても。ありがとう」

 

 オルトは既に結構な量を食しているのか反応を返す。空の容器が見つかるが、今オルトが消費した分であり、昨晩のゴミなどが綺麗に片付いていることに気付いたグレイは申し訳なさそうにしながら、自分の朝食を用意して席に着いた。

 

「ごめんね。昨日の片付け、1人でやらせちゃったみたいで」

「別にいい。買い出しがそっちで片付けが俺だった。それだけだろう」

「そう? それなら甘えさせて貰うわ」

 

 そうしてグレイと他愛も無い会話をしながら朝食を取っていると、姉妹もまた起きてくる。

 セレスは何故か顔を赤くしていたが、オルトはそうなる様な事は思い浮かばなかった。そしてルインは対照的に喜色を浮かべていた。

 その2人の様子にあまり触れないようにしながらそれぞれの胃も文句を言わないほどに満たされたあと、解散となった。

 

 

 昼になるまでもう少しだろうという時点で日課となっていた柔軟体操を終わらせ、オルトが用事の為に家を出る。

 

 

 賞金首討伐は様々な人間に様々なものをもたらした。この日々が大きな転機になる者もいれば、変わらない日常だった者もいる。得た者も、失った者も、生き残ったのならば日々が続いていく。今までのように、これからのように。

 

 

 アキラがクガマヤマ都市の防壁と一体化している巨大な高層ビルの前に立っている。見上げるほど巨大な高層ビルと見るからに強固な防壁は、都市の莫大(ばくだい)な経済力を背景にした強大な力を感じさせるものだ。

 ビルの中にはハンターオフィス関連の大規模な施設や、複数の都市で活動している企業の支店などが存在している。そこを生活の一部とする者は都市でも上位層の人間ばかりだ。都市で成り上がろうとする者達が目指す場所でもあり、豊かな生活を夢見る者達の憧れの場所でもあり、都市の財と力を示す象徴的な場所でもあるのだ。

 アキラがその場所を見上げている。だがその目には、上を目指す者達が見せる特有の輝きや、内に秘める意思の強さ、遠く巨大な目標を見据える力強さなどはなかった。

 アルファが浮かれているアキラを注意する。

 

『アキラ。顔が緩んでいるわ。みっともないわよ』

『おっと』

 

 アキラが表情を引き締める。それでも機嫌の良さは隠しきれない。見苦しくない程度に緩んだままだ。

 アキラがクガマビルの中をとても機嫌良さげに歩いていき、内部に設置されているエレベーターへと乗り込む。内部に居る職員に行き先を聞かれ、以前にも訪れた店が構えられている階層を伝える。

 本来ならアキラの恰好の者が行くには憚られる場所ではあるが、明確な実力を有している者であればその背格好から推測可能な年齢は当てにならないと知っている職員は大して気にも留めず、その階へと案内をした。

 エレベーターに乗る前から降りた後もアキラの顔は緩んではアルファに指摘され引き締めてを繰り返していた。

 アキラは以前とある事情により食事の誘いを受け、至福の一時を味わっていた。前回の記憶が呼び起こされ、アキラは警戒心を持つ事が難しかった。

 アルファがアキラの浮かれようを見て、少し呆れながら話す。

 

『そんなにあの店の料理が楽しみなら、自費で何度か通ってもう少し慣れた方が良いかもしれないわね』

 

 アキラが即答出来ない程度には悩み、葛藤し、揺らいだ末に答える。

 

『……無理だ。そんな金は俺には無い』

 

 脳裏に浮かぶ食事代は至福の対価に相応(ふさわ)しい高額で、アキラの金銭感覚ではとても出せる額ではない。今回も食事代は相手が完全に持つということを確認した上でその誘いに乗った。

 アキラは計三度に渡る賞金首との交戦によって得た報酬のほぼ全てを自身の装備へと回した。その後に残る金額は微々(びび)たるものであり、日常生活を送るのに余り苦労しない程度でしかない。

 一応装備の質を下げれば一度ならば自費で食事代を払うことも出来るが、その場合のアキラの安全性は明確に下がる。

 荒野(こうや)をただ走っているだけで過合成スネークの本体に襲われ、装備の大半を失うような目に合ったアキラにとってそれは自殺行為に他ならない。アキラはそう言い聞かせ、生活水準の向上を後回しにしたのだ。

 アルファが苦笑して話す。

 

『それならその貴重な機会を逃さない為に、遅れないようにしましょうか』

『そうだな』

 

 アキラはその足取りを軽やかにしながら歩き、その店の前に着く。

 その店はシュテリアーナだ。

 

 

 アキラは前回と同じようにレストランの受付で銃やリュックサックを預けた。店内は相変わらずアキラの防護服が場違いに見える高級感だ。だが客はハンター風の者とそうではない者は半々といったところで、アキラが特別目立つことはない。これも店と立地と客層に()るものだ。

 店員によって案内されたテーブルは窓際にあり、そこからはクガマヤマ都市を一望することが可能で、目を凝らさずともクズスハラ街遺跡の遠景も見ることが可能だ。そして何よりも近くには他のテーブルは無く、外部からは内部が視認不可能なように真っ白なカーテンが掛かっている。

 アキラが店員によってその中へと足を入れると、二つある内の片方の椅子にオルトが座っていた。

 

 

 席に着いたアキラが珍しそうに外を見ている。見ている先は窓の外では無く屋内の方ではあるが、天井から垂れているカーテンは内部から外部は問題無く視認可能な代物だった。テーブルから離れて垂れており、更にその近くには他の客もいない為、この場には2人しかいないようにも感じられる。実際カーテンは遮音性等の性能も高く、情報収集妨害機能が備わるような加工がされている高級品だ。客の一部が情報収集機器で内部を探ろうとしても距離とカーテンにより明確な情報を取得することは出来ないだろう。

 オルトは、キョロキョロと周りを見渡していたアキラが落ち着くのを待ってから少し笑う。

 

「アキラはこういった店にも防護服で来るんだな。強化服が有ったらそっちで来てそうだな」

 

 アキラはそう言われたことで自分とオルトの服装を見比べた。アキラは少し前に過合成スネークとの戦闘によって破損した強化服ではなく、以前入手した防護服を着ており、オルトは以前シュテリアーナに訪れた際の格好をしていた。つまりは旧世界製の衣類を強引に見た目を良く出来るように着飾ったものだ。見た目だけで言うならばオルトよりもアキラの方が荒野(こうや)に近い人間だと判別されるだろう。

 お互い知らないが、どちらも以前訪れた際の格好であるという点のみ共通していた。

 

「そ、それは別にどうでも良いだろ? それよりも何か話したいことがあるって書かれていたはずだ。食事を頼む前にさっさと終わらせようじゃないか」

 

 アキラが話題も含めて目を少し逸らす。

 

「そうだな。閑談も一区切りだし本題に入るか」

 

 オルトが自分の中に残っていた緊張やおどけた様子を精一杯排除して真剣な表情をアキラに向ける。

 

「本題に入る前に三つほどある。これから話す内容についてこれらを前提として捉えてくれ」

「……あ、ああ」

 

 オルトの態度の急な変わりように驚き、アキラは返事を返すのに遅れた。

 

「まず一つ目。今からするのは確認であって、それ以上でも以下でもないこと。二つ目。俺はアキラに対して謝罪したい訳ではないということ。三つ目。俺からアキラに対して何らかの敵対的行為を行なったわけでは決してないということだ」

 

 ゆっくりと、だが真剣に言葉を(つむ)ぐオルトに対してアキラは困惑の色を浮かべていた。しかし今書いている内容は本題ではなく前提条件だ。口を挟むだけ無駄と考え、今はオルトの言った内容で話を聞く為の基盤を作った。アキラもオルトの様子に感応し、その態度を真剣なものへと変えていく。

 

「……じゃあここからが本題だ。よく聞いてくれ。…………アキラはグレイのことをどう思ってるんだ?」

「………………はぁ!?」

 

 オルトからの質問内容が耳から脳に伝わり正常に機能した結果、張り詰めていたアキラの気配が一気に弛緩した。

 

『な、なあ、アルファ。オルトは今なんて言ったんだ?』

『アキラはグレイについてどう思ってるかって聞いてきたのよ? 聞いてなかったの?』

『いやちゃんと聞いてたけどさ。どういう意味だ?』

『そんなの私に聞かれても困るわ。前にも言ったけど誤魔化しとかの判別はできないの。私がしているのは表情や身体(からだ)の僅かな変化から嘘かどうかを見分けているだけで、相手の考えを把握するのは流石に無理よ』

『ああ、うん。そうだよな。ていうより何でオルトがそんなこと聞くんだ?』

『それはもうオルト本人に聞いた方が早いんじゃない? 考え続けたって答えなんか出ないわよ?』

『……それも、そうだな』

 

 アキラは口頭では数十秒は掛かるような会話を、反射的に体感時間の操作を行ない、数秒でアルファとの念話を終わらせた。

 沈黙を破るように、アキラは非常に強い困惑を浮かべながらオルトに問いかける。

 

「なあ、それってどういう意味なんだ?」

「ん? どういうって、……あ」

 

 オルトが何となく気不味そうな雰囲気へと変わる。

 

「今の言い方だとグレイに対して好意を向けてるかどうかみたいに聞こえるな」

 

 オルトの納得に対してアキラは首を縦に振って肯定を示した。

 

「悪かった。……なら改めて。グレイに対して敵愾心(てきがいしん)を持っているのかどうか。今日はそれを確認しに来たんだ」

「……は?」

 

 再度アキラが困惑を露わにする。だが今回はその他にも警戒心も含まれていた。オルトがアキラに対して述べた前提条件の中に含まれていた内容によって作られていた下地がそれを助長し、アキラの表情を徐々に険しいものへと変化させた。

 

「どういう意味だ? なんで俺がグレイに対して敵意を向けてるかどうかの話になるんだ?」

 

 ゆっくりとだがアキラの(まと)う雰囲気すらも敵対者へのそれへと変化していく。困惑の色は反比例するように薄れていく。

 その様子を間近で見ているオルトはその殺気にも近い威圧を受けて尚、態度を崩さずにその両目を向け、アキラと視線を合わせ続けていた。

 

「そんなに怒気を放つなよ。さっきも言ったようにアキラに対して攻撃したり不利益を与えるようなことはしていないし、するつもりもない」

『アルファ』

『嘘は言ってないわ』

 

 アキラはオルトの発言に対して迷う事なくアルファを頼り嘘かどうかの判断を仰いだ。そして湧き上がりかけた感情が杞憂に終わりそうであることに心のどこかで安堵していた。

 アキラがゆっくりと深呼吸を行ない放っていた殺気を霧散させていく。

 

「何と言うか、話が見えない。ちゃんと説明して貰えないと流石に俺も答えられないぞ?」

 

 アキラの言うことも尤もだとオルトも思い頷く。

 

「そうだよな。ただ、アキラの場合、話を早く終わらせたいからさっさと本題だけ話してくれってタイプだと思ってさ」

 

 オルトの発言にアキラは図星を突かれたように視線を逸らした。オルトはやっぱりそうかと溜め息を吐いてから口を開いた。

 

「どこから話すかな。……ヨノズカ駅遺跡って知ってるよな?」

「ああ。賞金首の騒動が起こる前に一騒動起きた場所だ」

 

 アキラはヨノズカ駅遺跡はその時に知ったという(てい)を保つ為に、すなわちそれより前に探索し遺物収集を行なったことをオルトに知られないように少し言葉を濁して返す。

 それを確認したオルトが口を開く。

 

「そのヨノズカ駅遺跡のことをグレイに教えたのは俺だ」

 

 オルトの告白に対してアキラは逸らし気味だった視線をオルトに向け目を見張る。その表情には驚愕と理解し難い相手へ向ける視線も混ざったものになっていた。だがどこかで納得もしていた。遺跡に初めて踏み入った際にあった足跡はどこか同一のものではなかった。単純に装備が変わったからだという理由ではないとアキラの勘は言っていたが、それを明確な言葉として理解するにはアキラのハンターとしての経験は足りなかった。

 更にはオルトの言葉に対して、アキラは何となく嘘ではない。出鱈目(でたらめ)でも自分を騙す為の冗談でもないとも判断していた。

 

 

 オルトがアキラにも分かり易いように順序立てて話し始める。

 最初にヨノズカ駅遺跡を発見したのは結構前だったということ。そしてそれ以降はオルトに時間が無く、再度遺物収集に行けるのが相当後になるような断れない依頼が入ってきてしまった為、グレイ個人へのハンターオフィスを介在させない依頼としてヨノズカ駅遺跡の場所を教え、遺物収集の代理を行なわせたことを話し続けた。

 

「──それで俺はグレイに対して依頼中に起こった事態についても報告して貰うようにも頼んでいた。まぁ、受注者に報告義務が発生するなんて至極普通のことだよな」

 

 オルトは手振りを交えつつ事の経緯を紡いでいく。そしてポケットから情報端末を取り出し操作するとアキラに手渡した。

 

「報告させる内容は様々だ。遺跡内のマップ。モンスターの有無。その生態や攻撃方法、弱点。遺物の種類や保存状態、換金時の値段。遺物収集中に発生した出来事やその相手、周囲に発生した何らかの事象等々、いろいろと報告義務を付けた」

 

 アキラは情報端末に表示してある内容を見て怪訝な表情をオルトに向ける。

 

「だからアキラが遺物収集をグレイと共同で行なった時に借金持ちのハンターと遭遇したことも知ってる」

 

 そこにはアキラとシェリルが対応した借金持ちのハンターによって、シェリルが誘拐され、最終的にアキラが1人で救出したという記載がされていた。

 

「なあ、これって」

「結構簡単に手に入ったよ。後ろ盾の強さを知らせる為なのか、それとも警戒しているからこそ周囲に忠告する為に流れた噂なのか。スラムだと結構広まってるみたいだな」

「そうなのか……」

 

 アキラはオルトの発言に不快感を表さなかった。ちゃんと武装したハンター達に誘拐された人間を1人で救出したという時点で相当の実力者だと想定出来る。その上ハンター達を全滅させたとなればその評価は更に高まる。そうなればアキラに対して敵対しようという思いは薄れていく。割に合わない。そう思ってもらえればアキラに降り掛かる面倒事は少なくなるからだ。

 少しばかり機嫌を良くしながらアキラが記載されている内容を読み込むと気になる記述があった。その内容はつい先日起こった出来事であり、それをオルトが何故か知っていたからだった。

 

「……シェリルの徒党で裏切り行為が起こったなんてどうやって知ったんだ?」

 

 アキラが怪訝にオルトを見る。疑いの目に近い視線を向けられたオルトはそれを気にも留めず話し続ける。

 

「スラムの徒党が一つ消えたんだぞ? 出来立ての小規模のやつじゃなく、結構時間を掛けて大きくなっていた中規模の徒党がだ。空白地が出来た時、誰がどうやって作ったのかなんてすぐに広まるだろ」

 

 オルトの当然だろうという態度にアキラはそういうものか納得してしまった。

 オルトには前世から持ってきた知識がある。それは現在ファナの授業を受けたことでその形をある程度戻し始めていた。その為集団がどのように規模を増やしていくのか、経営判断に関する知識をアキラよりも多く知っている。

 向かい合っている両者は共に集団に属するデメリットを多分に警戒しており、進んで何処(どこ)かの派閥などやチーム、徒党に所属するつもりはない。

 しかしメリットに関してはオルトの方が詳しく知っていただけに過ぎない。

 

『なあ。アルファ』

『オルトの言葉が嘘かどうかってことなら、彼は嘘を言ってないわ。少なくとも彼は自分の集めた情報を信用しているってことよ』

『……そうか』

 

 アキラは少し安堵した表情を浮かべた。他人から警戒してもらえればその分厄介事の方から離れていってくれるだろうと期待したからだ。そして何よりも向き合っている同年代の強いハンターが自分に対して絶えず真摯で居ようとしていることを確認出来たからだ。

 しかし疑問も残っていた。今伝えられた出来事はアキラが既に解決済みであり、グレイが関わっているようには思えないからだ。

 

「それでグレイに対してって話は何だったんだ?」

「……そこにも書いたようにグレイと共同で遺物収集をした時の出来事でアキラやシェリルに被害が出た。そうだろう? それらの原因としてアキラがグレイに敵意を向けている、かもしれない。だから今日はその確認に来たんだ……」

 

 アキラが顔を(しか)める。以前にも似たようなことがあり、同じように食事に誘われ、その場で話し合った結果何も無かったという共通認識を持つことで話は着いたのだ。

 その時の相手に対して抱いた感情に近いものが湧き上がっているのをアキラが感じていた。

 だが、どこかでまだ信用し切れない部分がある。以前の者は庇う相手が自身の主人だったから。しかし今の相手はそういった人間ではない。

 

「……俺が敵意を抱いてたとして、オルトは自分は無関係だって通せば損害を(こうむ)らないんじゃないか?」

「それは駄目だ」

 

 たった一言放つ際、オルトの威圧感が強まる。目を合わせているアキラはそれが自分を脅す為でも萎縮させる為でもなく、覚悟を決める時間すら必要ないほどに当然だと言わんばかりの言葉だった。

 アキラはそのオルトを見て言葉を出せなかった。

 

「彼女を雇ったのは俺だ。結果として悪い方向にも働きはした。ならその責任は俺が負わないといけない。グレイのおかげで得た利益も多い。なら相応する不利益は俺が負うべきだ。無償でコキ使うなんて真似するつもりはない。不必要な負担も負わせるつもりはない、それだけだ。

 だからアキラがグレイに対して何らかの敵対的な感情を抱いたのなら向ける相手を俺にして欲しい。そう言いに来たんだ」

「……それさ。俺がオルトの要望に沿う代わりに手打ちの品を寄越せとか言ったらどうするつもりなんだ?」

「物によるし価格にもよるかな。言ってもらわないとそこら辺は判断し切れないけどな」

「なら例えばオルトの使ってた装備をくれってなったら?」

「ああー……、それは難しいな……」

「やっぱり、……値段か?」

「それもある。後は信用とかの問題でもあるんだ。アキラのハンターランクって今は21だろ? いろいろと問題も出てくるんだよ。お互いにな」

「ハンターランクと装備が何か関係あるのか?」

「極端な話になるけどランク100のやつが購入した高性能な装備を同じチームに所属しているからってランク1のやつに譲渡したって聞いたらアキラはどう思う?」

「どうって……」

 

 ハンターランク100など今のアキラにとっては縁遠い話である。その者達が使用している装備など想像もつかない。よってアキラの中で一番強い装備としてオルトの装備を、先日の徒党の裏切り者達が使用していたらと考えた。その者達に対してアキラが勝てるかと言えば確実に無理だった。強装弾の連射すら一切効かない相手を倒す手段を今のアキラは持ち得ないからだ。

 アキラは一方的に攻撃され、その強化された身体能力を使われスラム街から逃げることも出来ず容赦無く殺されただろうと想像して顔を(しか)めていた。

 

「……確かに危険だな」

「そういうことだ。ランク1のハンターに信用なんて言葉は付かない。そういう奴らに渡らないように企業も都市もハンターオフィスも一定の制限を掛けてる。場合によっては問題無し、程度には緩いけどな」

 

 アキラが悩む。装備を寄越せと言えばオルトは差し出す可能性もあるが、それに付随して何らかの厄介事も発生しかねないからだ。タンクランチュラ討伐、過合成スネーク討伐に参加したがアキラは非公式で雇われた為、ハンターオフィスはそれを認識していない事になっている。その為ハンターランクは21のまま上昇していない。クガマヤマ都市近辺でハンター見習い卒業と言える程度でしかない。そのような人物がオルトの使用している強力な装備に身を包んでいれば当然周囲から不思議に思われ、裏を疑われる。

 

『アキラ。どうするの?』

『どうしようかな。というより装備はもうシズカさんに頼んだから正直どうでも良いんだよな。凄い高性能だってのは前に見たし分かるけど、厄介事まで付いてくるなら流石に要らないかな』

『そうよね。ただでさえアキラは荒野(こうや)に出るだけでモンスターに襲われるし、強化服が無い時にシェリルの徒党で裏切りが発生するものね。じぶんでこれ以上増やす必要は無いわよね』

『……そうだな』

「装備は駄目だってことは分かったけど、なら他に何かあるのか?」

 

 アキラがオルトの話に乗る。オルトの話は所謂(いわゆる)和解の為の交渉であり、その上オルトの態度がアキラを一切軽んじていないからだった。良い話には絶対に裏がある。確かに()ったがそれをオルトはもう話しており、それらがアキラに対して不利益を生じさせることはない。その確信が安心感を持たせた上でアキラに交渉の席に深く座らせていた。

 

「他にか。……そうだな、情報なんてのはどうだ?」

「情報?」

「ああ、未発見の遺跡、かも知れない情報だ」

「み、未発見!?」

 

 アキラの剣幕に押されて少し体勢を後ろに傾けながらオルトが手持ちの情報端末を操作する。それに連動してアキラに渡された情報端末も表示を変えていく。

 

「今表示した座標。まぁ、分かると思うけどドランカムが過合成スネークを討伐した周辺だ。討伐した日の深夜に一帯を調べたことで分かったんだが、その一部の地面の密度が変に低かった。何かが通った跡の様にも見えるよな」

「あ、はあ……。ん? そういうことなのか?」

 

 アキラが何かに気付いたのかオルトへと目を向けた。

 

「そうだな。俺は過合成スネークの本体が逃げたことを知ってた」

「……なんで、それをハンターオフィスに報告しなかったんだ?」

 

 少しばかりの沈黙が流れる。

 報告していれば自分が荒野(こうや)に出ることもその結果、過合成スネークに丸呑みにされることも無かっただろうと思い至り、筋違いだと思いながらも少々の不快感を乗せた視線をオルトへと向ける。

 

「それをすると過合成スネークの討伐処理が取り消される可能性が高かったからだ。そうなるとドランカムに賞金が入らず、結果としてグレイやエレナ達に入るはずだった報酬も消えることもあり得たからな」

「そ、そうか……」

 

 エレナ達への報酬が消えるかもしれない。そう言われるとアキラも引き下がるしかなかった。

 エレナ達はアキラが過合成スネーク討伐戦の際に1人でカツヤの援護に行き、2人で囮を買って出たことでドランカムとの再交渉を行なった。結果としてはアキラに1億オーラムが入金されたが、もしオルトがハンターオフィスに未討伐であることを報告すればそれらは無くなっていた上に、使用した弾薬費の回収すら出来なかった可能性が高かったからだ。

 

「装備は無理、金もアキラを満足させる大金を払えるほど懐もあったかくない。だからその情報ってのはどうだ? 下の方にうっすらとだが何らかの建造物っぽい物の反応があったんだ。ヨノズカ駅遺跡の時も凄い量の遺物が残ってたしな。使えない情報ってことはないはずだ」

 

 情報端末に表示されているその未発見の遺跡かもしれない場所の深度はオルトの使用している高性能な情報収集機器がファナのサポートを受け、限界まで感度を高めた上で入り口となった部分が微妙に把握できる程度には深い。

 ヨノズカ駅遺跡をドランカムが掘り起こした時以上に重機等の使用が求められるのは明らかだ。

 だが手付かずの遺跡というのはそれを無視出来るだけの利益を備えている。だからこそヨノズカ駅遺跡では多数の思惑が渦巻き、結果として多くのハンターが死に絶える騒ぎとなった。そうならない様にクロサワは自分の知り合いや雇ったハンターで巨大な穴の周囲を固め、怪しい人間を追い払っている。

 そして過合成スネークの本体に襲われた為、結局未発見の遺跡を見つけることが出来なかったアキラは食い付いた。

 

「確かに! 凄いな! それで入り口は何処(どこ)なんだ?」

 

 装備が整ったらすぐに行こうと気を上を良くした。重機などを借り直下堀りなどしてしまえばすぐに露見してしまう。当時の通路や入り口が残っているならばそこに入ろうと思っていた。

 

「知らん」

「……は?」

 

 その直後落とされる。

 

「俺が知ってるのはそこに何らかの施設があるって事とそこに過合成スネークの本体が逃げ込んだってことぐらいだ」

「えー。何だよそれー……」

 

 勝手に期待値を上げたのはアキラだが、それでもその直後に落とされると今いる場所がシュテリアーナという点を加味しても落胆の色を隠し切れなかった。

 

「まあそう落ち込むなよ。一応こっちでも探すし、見つけたらそれに関する情報とかも共有するつもりだ。それを見て判断してくれ。まあ、その後にアキラがどうするのかは知らないけど仮に何かが起きてもそれの対処は自分でやってくれ」

「あ、ああ。分かった」

 

 オルトは一度大きく息を吐いてから再度確認する。

 

「これでさっきの要望は通ったって解釈しても良いか?」

「ああ。問題無い。というよりグレイには助けられたって感じだからな。元々恨んだりとかは無いよ。あ、その恩とかもオルトに返すのか?」

「いや、俺が負うのは不利益云々だけだ。その辺の恩とか感謝とかはグレイ本人に返してやってくれ」

「分かった。交渉成立だな。いい加減お腹が空いてたんだ」

「話が長くなって悪かったな。俺の奢りなんだ。好きに頼んでくれ」

「それなら遠慮無く」

 

 2人の認識の擦り合わせと一時的な協力関係の構築が終わった。オルトは安堵し、アキラは食欲に負けてそれぞれメニューを開いた。

 

 

 メニューに書かれている料理名からではその料理の内容が分からない2人はそれぞれが大人しくコース料理を注文した。オルトは自分で払うのだが、その分冒険するのは難しかった。高額な料理を頼んだ後で苦手な味付けの物が運ばれてくると流石にクルのだ。

 以前の体験を思い出しながら顔を緩めていたオルトにファナが話し掛けてくる。

 

『ヨノズカ駅遺跡を発見したことを伝えてしまって宜しかったのですか?』

『うーん、ファナの懸念も分かる。その辺りを誤魔化す為に過合成スネークの逃げ込んだ遺跡について話したんだ。その辺追求してこないし問題はないと思う』

 

 態々(わざわざ)ヨノズカ駅遺跡の発見と今回の遺跡の発見の経緯が繋がるように情報を提供した。少なくともアキラがオルトを旧領域接続者と気付く可能性は薄いだろうとも思っている。その上、アキラがオルトを旧領域接続者だとハンターオフィスに言ったところでそれをどう証明するのかという話でもある。証明出来なければ、ただでさえ低いハンターとしての信用が下がる。逆に下手に証明出来れば今度はアキラが疑われるのだ。

 旧領域接続者という利用価値に群がる人間はそれだけ危険なのはよく聞く話だからだ。

 

『それに、ヨノズカ駅遺跡のことはアキラもあまり話したそうにはしてなかったしな。あそこを発見したのは俺だって周知させても今度は俺がそのことを教えてないはずのアキラが見つけてたって広めれば問題が増えるだけだ。そこら辺の警戒心ぐらいはある。はずだと願いたいな』

『そうですか。一応言っておきますがオルトが旧領域接続者だとバレるのは百歩譲って問題無しとしますが』

『分かってるよ。ファナのことはバラさない。ちゃんと注意してるよ。それに迂闊な事を言いそうになったらファナが止めてくれるんだろ?』

『ええ、止めますよ。ですがオルトが気を引き締めていてくれるに越したことはありませんからね』

『ああ。いつも助かっております』

『いえいえ。私とオルトの仲ですからね』

 

 ファナが何時(いつ)も通りの微笑(ほほえ)みをオルトに返す。

 オルトは内心を表情に出さないように注意しながらファナとの会話を終わらせていた。

 目の前では早く料理が運ばれてこないか今か今かと待ち望んでいるアキラが目を輝かせていた。

 料理が届くまでの暇潰しとしてオルトはアキラにヨノズカ駅遺跡で起こった騒動について聞いていた。先ほど話したグレイに受けた恩の内容も知っておこうと思ったからだ。

 

「へー。遺跡の中ってそんな事になってたのか。というよりよくその状況下で救援依頼なんて受けれたな」

 

 アキラは遺跡の中が以前とは様変わりした中で遺物収集を行ない、その最中出会ったレビンというハンターやその仲間達の救援依頼を受け、その後出会ったユミナが助けを求めてきた際にアキラがエレナ達と別れ、カツヤを救出しに向かったという話だった。

 

「まあグレイに貰ったマップもあったからな。内部が一部崩れて使えなくなってた通路もあったけど、他のハンターに聞いたりして大まかにカツヤが通った道とか分かったから何とかなったんだ」

 

 オルトは呆れ半分、関心半分でアキラの話を聞いていた。そして少し意外にも思っていた。話を聞く限りアキラはユミナ達に対して報酬に関しての話をしていないように感じたからだ。しかしそれはアキラが意図的に省いているのだろうと勝手に結論付け無視する事にした。

 その上でアキラは回復薬をユミナやカツヤに渡しており、内部に蔓延っていたであろう生物系、機械系モンスターを1人である程度容易く倒し続けていたように感じていた。

 グレイに聞いていた限りでは物凄い量のモンスターが遺跡の中にハンターを追いかけ侵入していると思っていたオルトは、アキラが容易く倒せる量にしか遭遇しなかったのではなく、本当に容易くその量を倒し続けたのだろうと受け取った。

 それの内容の中にいるアキラをオルトは自分自身に置き換えて考えてみた。要は荒野(こうや)という広さを失った上で輸送車両の護衛中に襲ってきたモンスターの駆除にアキラの装備で、それに性能が近いであろう、以前の装備で考えた。

 無理だ。少なくともファナのサポートが無いのであれば1時間もしない内に自身の対応力の限界が訪れると判断した。今オルトが高い戦闘能力を有することが出来ているのは装備の性能が以前の物よりも遥かに上昇したからだ。スィリーニアを着用してヨノズカ駅遺跡の内部で他のハンターを護衛しながら多数のモンスターの対処を行ない、何処(どこ)にいるかも分からないハンターを探すのはオルト個人には不可能だった。

 それを再確認したオルトは恵まれている今の自分を少しばかり自嘲した。

 どこか気落ちしている。その変化を感じたアキラは不思議に思った。

 

「どうかしたのか?」

「……いや、特に。アキラは強いんだなーと思ってさ」

「そうか? オルトの方が強いだろ。過合成スネークの時のモンスターの対処とか凄かったしな」

「あれは装備ありきだよ。少なくとも以前の装備だと絶対出来ない」

「……その装備を整えられるのも強さだと思うけどな」

「そうか? まあ、……運が良かったんだろうな」

「運か。運は大事だよなぁ……」

 

 アキラの発言にお互いが軽く笑いながら肯首する。

 オルトにはファナが、アキラにはアルファが共にいる。それぞれがそれぞれにしか認識出来ない存在であり、大切な存在だ。そして測り切れない不思議な存在でもある。

 

 

 少年達の背後に佇む美女達はお互いの契約者に見えない領域で見合っていた。その目にはお互いへの敵意に近い感情が宿っていた。

 沈黙が続く。交わす言葉は一つもない。交わす必要性も無いからだ。

 現実では非常に穏やかな空間が、そして同一の場所とは思えないほどに険悪な空間が別の次元では形成されていた。

 

 

 (しばら)くしてから注文した料理が届いた。オルトもアキラも目の前に並べられた料理を見て非常に上機嫌になる。そして嬉しそうに一つ一つ丁寧に口に運んでいく。

 ある程度美食に対する欲が緩和されてきた頃にオルトが気になった事を尋ねる。

 

「そういやアレはどうなったんだ?」

「あれ?」

「過合成スネークの本体だよ。汎用討伐にでも捩じ込んでもらったのか?」

「ああ。あれか。アレの扱いはキバヤシに任せたよ。多分その戦歴をドランカムに譲ったんだろうな」

 

 アキラは目の前の人間が過合成スネークの本体を討伐したのがアキラだと分かっているということを知っている。そもそも現場で見ていた。その上、その戦歴に関してアキラ個人が口止めをされているわけでも守秘義務を結んだわけでもないので軽く話していく。

 過合成スネークの討伐戦の際アキラがカツヤと共に囮を行なったことについてエレナがアキラを雇った者として、ドランカムと報酬の再交渉を行なった。しかしそれは難航していた。ドランカムにも際限無く予算がある訳ではない。無い袖は振れない。

 ドランカムは都市の防壁内にいるスポンサーからの融資を受け、装備や車両、弾薬類を数多く揃えていた。装甲車に取り付けた多連装砲マイマイの主砲も討伐戦の余波を受け破損した。価値はその分低くなった。

 20億を超える賞金を得たとしても死んだ人間、病院送りになった人間の治療費、修理の必要の出た装備や大破して使えなくなった車両を補充するのにも金が掛かる。

 アキラ個人に大金を払うのは無理だった。

 しかしそこにキバヤシが介入してエレナを一時的に席を外させドランカムの事務派閥と交渉したのだ。

 その結果アキラは1億オーラム以上を手に入れ、その(ほとん)どを新装備の調達に使用した。それらが届くまでハンター稼業を休んでいる。

 

(1億ねー。……アキラは納得してるみたいだけど、安い気もするなー)

 

 不意の遭遇に対してハンターランク21のハンターが頑張ったら倒せましたと聞けばオルトもそんなものかと判断するだろうと思う反面、そのハンターがアキラだと聞けば相応に警戒するだろうとも思っていた。

 少なくともアキラの戦歴を売らずにその大きな箔を利用すれば、ヨノズカ駅遺跡での出来事も踏まえ、ハンターオフィスの人間であり、無理無茶無謀を体現するハンターを好むキバヤシが全力で宣伝すれば、多数の企業が高難易度の依頼と共に高性能な装備の貸し出しや赤字上等の値引きをした営業を申し込むだろうと思っていた。東部では有能な人材が常に不足している。スラム街出身のハンターであろうと強力な武力を発揮出来る人間かつ、ハンターオフィスの職員が推薦する人間であれば快く迎え入れるはずだ。

 だがオルトは敢えてそれを伝えなかった。オルト自身が装備の貸し出しについてあまり良く思っていないことと、エレナ達の努力を無碍(むげ)にするような発言をしたくなかった。その努力にアキラは感謝を示し、不満を覚えているように見えないからだ。

 本人達が満足しているのであれば部外者があれこれ言うこともないと思い、メインディッシュの肉料理をナイフで一口大に切り口に入れる。口の中に広がる旨味成分が凝縮された脂を堪能しつつ目の前で同じように感激を覚えているアキラを見る。

 オルトはアキラの人格も含め好意的に思っている。保持する戦闘能力も非常に高く評価している。そして、それに比例するようにとても警戒している。

 100回模擬戦をすればほぼ確実に100回ともオルトが勝利を収めるだろう。装備の差はそれだけ隔絶しているからだ。だが殺し合いになれば話は別だ。

 100回の内の最初の1回なのか、それともそれ以外の何らかで以ってオルトが死ぬという結果を作り出しそうな気配を感じていた。

 

(……何と言うべきか。チグハグなんだよな、アキラは)

 

 オルトは、アキラと共にした依頼を思い出す。

 モンスターの大襲撃の際、アキラは未改造のAAH突撃銃のみで果敢にキャノンインセクトに挑み、可能な限り大きな被害を与え続け、最後に出現した大型のキャノンインセクトに対しても持っている武器が通用しないからと、相手の砲弾を利用して討伐した。

 地下街の時は異様なほど高い精度で索敵を行なっていた。索敵担当であるエレナが見落としたヤラタサソリの擬態にも気付き、チームを危険地帯から逃した。オルトのように情報収集機器に多額を積み込んだと考えれば辻褄は合うが、それだけ高額ならば()ずは強化服の性能を向上させた後にした方が効率的だ。

 そして先日の過合成スネークの本体を単独で討伐した出来事だ。丸呑みにされた時点で多くの人間が諦めるだろう状況下で、アキラは1人でも戦っていた。何故かそれをオルトは知っている。オルトだけが当時のアキラの笑い声を聞いていた。

 オルトはそれを不思議には思わなかった。自分が旧領域接続者なのだ。他に居てもおかしくはない。そしてその相手はヨノズカ駅遺跡を見つけたと言うのならば、ほぼ確実にヒガラカ住宅街遺跡の地下室を知っている。しかしそれを尋ねるのは愚策だ。自分が隠しているように相手もまた隠しているはずだからだ。

 

(旧領域接続者だから強いってのは、まぁあり得ない話だな。……才能、てことかな)

 

 オルトは自分の持ち得ない何かを持っている人間に対し羨望と興味を覚えた。

 

「そういえば何でオルトはヨノズカ駅遺跡の騒動の時来てなかったんだ? 時間が無かったって言ってたけど」

「さっきも言ったけど、依頼が入ってたんだよ。結構長いやつでな──」

 

 オルト達はそのまま談笑しながら食事を楽しんでいた。ただ後半になるにつれアキラの顔が引き攣っていく。目の前の少年がその体躯に見合わない量を最初と変わらない速度で胃に詰めていくからだ。アキラも最近結構な量を食べるようになってきたと思っていたが、その2倍はすでに胃の中に収めていたはずだった。

 だが、その少年が奢ってくれるので何も言わず追加注文したコーヒーを飲んでいた。

 




人の心理描写マジでむずい。

一話にどの程度の文字数が読み易い?

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