リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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ただ、「  」を以て
・第二十一話 賞金首の遺品


 

 目覚めたこの世界で生き抜く為に手に持つ力で抗った少年オルトは、ファナのサポートを受け急激に成長していた。

 強力な装備を手に入れた。上空領域から落ちてきたモンスターに奇襲を受けても生き残った。1人のハンターとして頼られて賞金首と認定された強力なモンスターと準備を整え改めて交戦した。ファナから与えられる高密度の訓練を熟し、何度も死線を潜った。

 その度に身体(からだ)が傷付いていった。その度に認識が変異していった。その度に何度も修復し、強くなった。

 既にオルトの実力はそこらのハンターとは比較にならないほど高くなっている。だが、それらは全てファナのサポートのおかげだ。オルト自身、自力で切り抜けたなどと欠片も思えていない。

 それでもオルトを動かすのは自身の自己だ。選択だ。そしてその選択には絶対に対価が、代償が存在する。オルトはそれを受け入れる。許容する。自己の証明を欠かす事は赦されない。借り物ばかりで出来た今のオルトを構築する最後に残った財産だからだ。

 戦うという選択をした。自己の証明の為に。

 他人を利用した。撤退という選択を取り辛くする為に。

 危険な場所で全力を以って駆けた。自身の有用性を確認させる為に。

 強力な砲弾の生み出す爆発の嵐の中で生き残った。覚悟を示す為に。

 また一つ強くなって歩き始めた。それらを見ていて欲しい者との約束を成し遂げる為に。

 不運を自分の選択で捻じ伏せた結果得た装備で、身に付けた技術を活用して、オルトはハンターとして更なる飛躍を見せていた。

 だがまだ足りていない。ファナからの依頼を完遂することも、自分の夢を叶えることも未だゴールまでの距離すら測りかねる。

 ハンターとして更に成り上がる為に、そしていつの日か必ずその両方を達成する為に、それを可能とさせる力を手にする為に、オルトのハンター稼業は続いていく。

 

 

 クガマビルの外に出たアキラが軽く伸びをする。

 

『いやー、本当に美味かった! また来たいところだけど、次は何時になるのやら』

 

 名残惜しそうにビルの上階を眺めてそう話すアキラに、アルファが笑って答える。

 

『自費で行くならもっと稼がないとね。彼みたいに沢山食べるなら更にね』

『そうだな。……でももっと稼げるようになってもちょっとなぁ』

『駄目よ。アキラにはあの程度の食事代は端金だって思えるぐらいのハンターに成ってもらわないと困るのよ。気は長い方だけれど、頑張ってちょうだいね』

『分かってるよ。気長に待ってくれ』

 

 アキラは機嫌良くそう答えて、アルファと雑談しながら家に帰っていった。

 

 

 カーテンに映るアキラの後ろ姿を見ていたオルトは1人、席に着いたまま追加で注文したカフェオレを飲んでいた。すでに料理皿やデザートの乗っていた皿も全て下げられており、目の前にあるのは一杯のカップだけだ。

 周囲に人の姿が見えないようになってから、カップの中身を飲み干したオルトが大きく息を吐いて安堵した。

 

「疲れた…………」

『お疲れ様でした。気はお済みになられましたか?』

『……まぁ、確かめたかったことは粗方確認出来たよ』

 

 厳しい訓練を終えた後のようなオルトの様子にファナは揶揄(からか)うように笑っている。

 

『それは何よりです。いい出費になりましたね』

 

 クガマビルの最上階に店を構えるシュテリアーナは防壁の内側、中位区画の住人が荒野(こうや)に近付くことを理解しつつも、訪れるだけの価値がある高級店だ。そこの食事代ともなれば最低価格は数十万オーラムを余裕で超える。

 更にはオルトの視線の先、天井から垂れ下がっている特殊な加工の施されたカーテンなどの使用料等、席の位置に関する注文をした際に追加で料金が発生しているので、その合計金額はあまり直視したくない金額にまで膨れ上がっている。

 

『……そうだな。折角心配事を解消することが出来たんだ。これが無駄だったなんてて事にならないように、取り敢えず今後も稼いでいくとしよう』

『ええ。宜しくお願いしますね』

 

 念話によるファナとの雑談で、気持ちを切り替えたオルトは一度更衣室を通り防護服に着替え、AAH突撃銃を背負う。

 会計を済ませたオルトは改めて今回の食事の支払額を聞いた事で、次に来る時はもっと稼げるハンターになった後にしようと心に決めた。

 

 

 オルトが確認したかった事項は幾つかある。

 先ず一つ目はグレイへの依頼中に発生した不意の遭遇から始まったシェリルの誘拐。その後のアキラの対応における単純な不利益の発生から、グレイに対して何らかの不快感や嫌悪感を持ってしまっているかの確認及びそうなっている場合、その矛先の指向性を自分に向けることが可能かどうかだった。

 そしてそれは問題無く通り、自分の依頼によってグレイに何らかの負債が圧し掛からない事は確認を終えた。

 だが重要なのはここからだった。

 アキラが知ることが可能な範囲で、オルトは計ニ度、アキラを見捨てている。

 一度目は地下街攻略依頼中の遺物襲撃犯の重装強化服2機にアキラが襲われていたところを目視していたにも拘らず、オルトはそれを無視して盗まれた遺物が載せてある輸送車両の奪取に向かったからだ。

 当時の状況下で襲われていたハンターがアキラだと把握することなど出来なかったが、現場付近にオルトが居た事実は変わらない。

 ハンターオフィスのサイトのアキラの個人ページはオルトと似たように大半の戦歴が非表示設定にしている為か、大した記述はされていない。しかし地下街攻略依頼に関してはオルトと似たように、ある程度詳細な記述が為されていた。

 つまりはアキラもまた都市と何らかの交渉の結果、オルトがキバヤシから聞いた、重装強化服2機を撃退し片方の襲撃犯を捕らえたという戦歴を売り渡している事に他ならない。交渉が為されたのならばオルトが近くに居ながら救援を行なわなかったことについても聞いており、それに対して思うところが浅からずあるだろうとも思っていた。

 加えて先日の過合成スネークの本体の一件では、アキラが体内に呑み込まれていたのだとしても、オルト達が既にアーミーマメストラ討伐で疲弊していたのだとしても、加勢しなかったのは事実だ。

 気付いていたかどうかは別として、傍観するという選択を取り、チームの安全を優先し攻撃を止めたのもオルトだ。その時は賞金首もどきとの交戦、勝利からくる高揚感や余韻に浸っていて思考が纏まっておらず、数日置いた事で考えが変わっているかもしれないと思っていた。

 だからこそアキラの感情が上下するように揺さぶるように情報を伝えていった。危険ではあるが、それで怒ったアキラが狙うとしたら、それを行なったオルトだけだ。

 都市の中で大規模な戦闘行為を行なえば一帯の民間警備会社を、最悪都市の防衛隊を敵に回すことになるのは周知の事実だ。荒野(こうや)で殺しにくればファナにサポートを頼んで全力で殺し返せる。そう判断した上で臨んでいた。

 結果としてアキラはオルトやグレイに対して不満や敵意を抱いていないことが判明した。高い食事代を出した甲斐はあった。

 

 

 クガマビルからの帰路についていたオルトの情報端末に一つのメッセージが届いた。それを確認したオルトの顔に喜色が浮かぶ。

 自宅の方向へ向けていた足の向きを変えて大通りを進んでいく。その歩みの先にあるのはトライフワーデンだった。

 

 

 深夜と言うには早いが、それでもオルトの感覚からすれば少し早すぎる時刻に目を覚まし、事前に準備を終わらせていた荷台の中身を改めて確認したオルトは、クガマヤマ都市から少し離れた荒野(こうや)に1人でいた。

 

「流石に早く来すぎたか? なんか目が覚めたから早めに出たけどもう少しゆっくりしてからでも良かったか?」

 

 オルトは周囲の警戒をしているが基本的に何かが出てくる事はない。近辺には最近まで賞金首と認定される程に強力なモンスターが彷徨いていた為か、荒野(こうや)を彷徨く普通のモンスターの数が減少しているからだ。

 しかしオルトも完全に気を抜いている訳ではない。以前、準備不足の状態で荒野(こうや)を走っている最中に突然驚異的なモンスターに奇襲を受け、ギリギリで生き延びた経験があるからだ。即座に対応出来るだけの緊張感を保ちながら、それでいて適度に気を緩めていた。

 

『確かに早く到着してしまいましたが、それでも遅れて来るよりはよっぽど好感が持てるでしょう。何をするにしても時間すら守れない人間に信用などありませんからね』

「それもそうだな」

 

 オルトが視線を向ける相手は空いている助手席に綺麗な姿勢で座っているファナだ。

 目を向けたついでにファナの格好を改めて見る。そしてどこか呆れたような様子を表す。

 

「……なあファナ、その格好は流石に荒野(こうや)に合わなさ過ぎないか?」

 

 荒野(こうや)仕様車両が停車している場所は依然荒野(こうや)だ。右を見れば崩れかけの廃ビルが遠目に確認できる。左を見ればモンスターの死骸だった何かが今も尚風化を続けている。その周囲とはまるで合わない純白のドレスでその身を包んでいる。

 ファナの神懸かり的なまでに見事な肢体の上に、上品な光沢を放つ白い布地で幾重にも重ねられている。その鮮烈な白は周囲の暗闇の中で軽く神々しさすら感じさせる。

 全体に緻密な刺繍の入った白いヴェールが夜風に(なび)くように舞い、透けて見える髪と一緒に感嘆するほどの輝きの波を作り出していた。

 本来ならば布地が車のあらゆる場所に引っ掛かる所為で乗車すら至難になる服装ではあるが、ファナはその服を着て平然と車内に座っていた。オルトの視界にしか存在しないからこそ可能な格好だった。

 銃と強化服で身を包んだオルトとは正反対の姿で、ファナが自身の装いに合わせた微笑みを浮かべる。

 

『おや? お気に召しませんでしたか? オルトの趣味は難しいですね?』

「気に入ってるとか気に入らないとかじゃなくて、単純に周囲と合わなさすぎるってだけだ。少なくとも荒野(こうや)に行く奴の格好じゃないと思う」

『安心してください。ある程度意図的に行なっていることですから。私を認識出来る人間がいた場合に、私がそれを発見し易くする為でもあります。あからさまな武装を持たないこともその一環ですね』

「一環かー。ファナのことを認識出来る奴って一応俺以外にもいるんだったか。……あれ? そうすると結構不味いんじゃないか?」

 

 拡張現実であるファナの姿を、オルトは自身の旧領域接続者としての機能を以って認識しているだけだ。であれば拡張表示機能を持った製品を用いればオルトの側に佇んでいるファナの姿を見ることが可能になるのではないかと不安になる。

 

『既にオルト専用に調整済みですので大丈夫ですよ。以前はクズスハラの汎用表示領域に描画していましたから、そこを閲覧可能な人なら他の人でも見ることが出来たでしょう』

「そっか。ヒガラカとかに旧領域接続装置とかがあったからな。問題無いならそれでいいや」

 

 オルトはファナにしていた指摘を忘れて授業紛いのことが始まったことにも気付かずにファナの言葉を聞き入れていた。その知識がどれだけの価値を持つのかも知らずに淡々と与えられたものを吸収していく。

 そうこうしている内に車両の索敵機器に反応が入る。一台の車両がオルトのいる方向に向かって来ていた。

 オルトが新調した情報収集機器でその方向を注視すると、表示装置がその視線に従ってその先の光景を強調表示する。視線の先から走って来ていたのは姉妹達の装甲兵員輸送車だった。

 

 

 装甲兵員輸送車がオルトの車の横に並ぶように停車し、運転席と助手席からセレスとルインが降りてくる。オルトは車両の後部から三つのケースを持って荒野(こうや)へと降りた。

 オルトが姉妹の前にケースを置いてそれぞれの確認を促す。

 

「現金4億オーラムのケースが一つ。残りのケースにはそれぞれ拡張部品組み込み済みのK2R複合銃が2(ちょう)、専用の補助アーム、取扱説明書に少しだけおまけで強化弾の弾倉とエネルギーパックが入ってる。確認してくれ」

「なーんか怪しい取引みたいでちょっとドキドキするわね」

「ですね」

「実際、こんな大金や強力な武装を都市やハンターオフィスの口座の記録に残らないようにやり取りしてるのは怪しさ全開だけどな。取引相手が犯罪組織とかだったら容赦無く賞金首の仲間入りだ」

「じ、冗談だからやめてよ……」

 

 セレスが冗談めかして言った発言に対してオルトが揶揄(からか)うように大袈裟に返すとセレスが顔を引き()らせた。

 実際オルトの使用する武器をスラム街の子供に渡したところで真面(まとも)に使用することは出来ない。取り回しを重視した拡張部品の組み込みを行なっているオルトのK2R複合銃は全体の大きさに上限を設けた上で、主に威力や連射速度、命中精度の向上を目的としているが、その他にも反動抑制用の拡張部品も組み込まれている。だがそれにも限度があり、ある程度の身体能力を持つ強化服の着用が求められ、生身で撃つような真似をすれば大型の銃という鉄塊が銃撃の反動によって使用者の身体(からだ)を破壊する。

 他にも最低価格が億を超える銃には基本的に使用者権限が購入者に固定されているので、許可のない者が引き金を引くことすら出来はしない。

 その為オルトの銃が万が一使用可能な状態で荒野(こうや)に放置されてあっても大抵の場合使用など出来ない。

 だが使用者権限を外し渡す場合、強引に外せるだけの技術を持っている相手の場合は別だ。そのような者達は相応の装備を持っている場合が多く、強力な弾薬が起こす反動すら容易く抑え込み、その銃口を都市やハンターオフィスへと向ける。そんな相手に武装を供給するような真似を行なえばそれは統企連への叛逆行為に他ならない。

 だからこそオルトも今回の報酬の渡し方を十分に考慮し、姉妹達が帰る時間などを調整してもらったのだ。

 

「……一応そっちの要望通り、俺の普段使用してる方と同じ拡張部品を組み込んだけど本当にそれでよかったのか?」

「ええ。この前使った時結構しっくり来たのよ。それに今の私達の強化服だと威力特化にしたら反動で体勢を崩しそうだしね。必要になったらこっちで勝手に拡張部品を交換するわ」

 

 ケースから補助アームを取り出し各々の強化服に接続し、その先にK2R複合銃を取り付けながらセレスが答える。ルインは既に接続を終えており、新しい銃が身体(からだ)に掛ける感覚を覚える為か構えて背負い直してと繰り返していた。

 

「まあ、そっちがそれで良いなら良いけどな」

 

 セレスも続いて接続を終えて同じようにK2R複合銃を構えている。

 オルトはファナの制御装置の書き換えによってする必要性は一切無いが、新しい装備には使用者の癖のようなものを含め、使用感を使用者が覚え、装備の制御装置にも学習させなければならない。

 姉妹達はこの後荒野(こうや)を走ってゴリンザン都市まで帰らなければならない。安全な場所で、何かあればオルトがどうにか出来る場所である程度の調整を終わらせておく必要がある。それをこの場にいる全員がわかっている為オルトも車内に残っているだろうクモンズ達も口出しはしなかった。

 情報収集機器との連動を終わらせた2人は近くにあった瓦礫や廃墟を狙って数発撃ち込んでいく。自身の身体(からだ)や強化服に、新しい武装について教えるように真剣な表情で調整を続けていた。

 (しばら)くそれを見ていたオルトはふと気になったことを聞く。

 

「そういやそっちが帰るのって昨日の夜って話だったよな? なんで伸びたんだ?」

 

 元々オルトはその日までに武器の調達が可能なようにカオルに頼んでいた。だが姉妹達はその日を伸ばしたのだった。

 オルトの質問に姉妹は顔を見合わせて苦笑する。

 

「……うーん。内緒!」

「ですね。内緒です」

「なんだそりゃ」

 

 何らかをはぐらかしたいのか、言えない程の何かをしたのか気にはなったが、2人の雰囲気や表情を見て変なことでもなさそうだと判断してオルトは湧いた疑問を霧散させた。言いたく無いことを無理に聞く気も無いからだ。

 

 

 通常弾倉を幾つか空にした辺りで満足そうにセレスが笑う。

 

「よし! 調整終了!」

「ではそろそろ帰りましょうか。今から走れば明日の夕方には都市に着くと思いますし」

 

 セレスが地面に置いた三つのケースを回収して装甲兵員輸送車へと歩みを進める。

 ルインが綺麗なお辞儀をオルトにしてから乗り込んだ。

 扉を閉める前にセレスがオルトに向かって小さく手を振る。

 

「じゃあ、またね。危険なことに突っ込むのも良いけど気を付けてやりなさいよ?」

「分かってるよ。分かってるんだけどな。……まあ、また何かあったら連絡を入れると思う。その時は宜しく頼む」

「ええ、その時は遠慮無く呼んでね。また力を貸すわ」

 

 オルトの言葉を聞いたセレスが嬉しそうに笑みを溢す。

 そして扉を閉めて荒野(こうや)の先へと装甲兵員輸送車が走り出す。加速していく車両の最高速度であれば、オルトの以前使用していた車よりも早くゴリンザン都市に着くだろう。オルトは世話になった者達が視界から消えるまでその場に留まっていた。

 怪しい交渉をしたのもあるが、恩のある相手に対する礼儀でもあると思いながらその場を動かず、視線を外すこともしなかった。

 

 

 姉妹達に依頼の報酬を渡したオルトは改めて新調した自分の車に乗り込み荒野(こうや)を進んでいた。

 新しく購入した荒野(こうや)仕様車両は以前の物よりも荷台が広く、その分積載量が多い。更には索敵機器の性能も向上させ、駆動部の性能も高い。そして何よりも側が縦方向に伸びて簡易的な屋根になるだけでなく、横に展開して足場を広げることが可能になる。

 車上での戦闘が必要になった場合、側を縦に伸ばし障害物として使用することも、横に伸ばして回避先を広げることも可能になった。

 荷台には少し多めに消耗品を積んである。いざという時の為にもバイクは万全に整備をしてもらい、以前の物よりも容量の大きいエネルギータンクに交換してある。

 そして一番変化したのは、オルトの個人兵装だ。

 最初は10億オーラムを渡して強化服の修理と新しい荒野(こうや)仕様車両や姉妹へ譲渡する銃の調達、自分の銃の改造を頼んでいたが、追加で予算を注ぎ込んで強化服ディアンケルンのオプション品である防護コートを購入している。

 専用の防護コートは黒灰色の布地と更に濃い黒い細かな六角形の金属片で構成されている。内側に銃器類や弾薬等を格納する前提の造りで、かなりゆったりとしたサイズだ。

 力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開することが可能で高い防御力を持ち、重火器等を装着可能なほどに頑丈だ。六角形の金属片を力場装甲(フォースフィールドアーマー)で固定化することで簡易な補助アームとして使用できる。

 更にはちょっとした迷彩機能も搭載されている為、防護コート側の力場装甲(フォースフィールドアーマー)身体(からだ)全体に展開させることで、その表面の色を変化させることが可能になった。光を迂回させて透明化を実現させる光学迷彩ではないが、十分な効果が見込める迷彩を発揮できる。加えて情報収集機器等の光学認識以外での探知から逃れる為に、力場装甲(フォースフィールドアーマー)技術を応用した情報収集妨害機能も働かせることでその性能を向上させる。

 追加で防護コートの袖の内側に確認出来る真っ白な武装。手首から前腕を覆うように以前より一回り大きくなった部分には、防護コートに使用されている物と同系統且つ更に細かい金属片で構成されている腕輪が装着されている。オルトの要望で近接武装を可能な限り小回りのきく範囲で用意してもらった物だ。

 強化服側のエネルギーを供給することでその形状を変化させてブレードや籠手(こて)に変化するオプション品だが、尖った性能の製品なだけに購入者があまりにも少なかった所為で値段の割に性能が良いとファナからも言われる程に値下げされていた。

 オルトは改めて自身の装備を確認して苦笑を溢した。

 

「俺の装備も色々と豪勢になってきたな。戦闘用のバックパックとかも買ったけど、やっぱり背中のこれが一番ありがたいかもしれないな」

 

 オルトの背部、防護コートに隠れた中には手のひらサイズにまで収縮された威力特化型K2R複合銃と擲弾用K2R複合銃が、小さく折り畳まれた補助アームの先に接続されている。

 その状態では使用不可能だが、展開すれば問題なくその性能を発揮できる。

 アーミーマメストラ討伐時に自身の身長を越える程に大型の銃を背負って広大な宙を蹴って戦闘を継続したが、荒野(こうや)よりも圧倒的に狭い遺跡内の探索を行なうと考えた時、明らかに邪魔になるだろうと考えカオルを通して要望を出した結果、更に拡張部品代が掛かったが要望通りの状態になった。

 両腰には相変わらず普段使用するK2R複合銃を()げており、遺跡内で戦闘に入る時や入った後に適宜展開して火力の向上に期待出来る。

 強化服の修理にオプション品の追加、銃の使用箇所の幅を広げ、長距離移動用の車両も準備し、グレイや姉妹達に報酬として払った分も合わせ、アーミーマメストラ討伐によって得た賞金は(ほとん)どが消え去った。

 オルトはその事実から目を背けるように話題を楽しげに話していた。そしてそのオルトの様子を楽しげに眺めているファナもそれに乗る。

 

『そうですね。これで遺跡内で強敵と交戦することになったとしても基本的な戦闘能力を落とすことなく迎撃できますからね。その分費用も嵩みましたがね』

「費用は……、その分稼ぐってことでいこう。……そうだ! 稼げば良いんだ!」

『意気が高くて何よりです。そろそろ着きますね』

 

 オルトが目的地に到着する。そこはアキラが過合成スネークの本体と戦闘を行なっていた場所だ。

 荒野(こうや)の地面を這って進んでいた過合成スネークは派手に土煙を上げながら移動していたので、その跡が顕著に残っている。その為、その痕を辿れば過合成スネークがドランカムとの戦闘中に逃げ込んだ施設への出入り口があるはずだ。オルトはそう考え、その跡を辿っている最中に他のハンターに見つからない様に深夜に決行しようと提案し、ファナもそれに賛同してもらったのだ。

 

「期間が少し空いたからか這った跡が少し見辛くなってるな」

『途中で途切れないように祈りましょうか』

「またか? また運か? 運はファナと会ったことで使ったんだよなぁ」

『おや? そんなことを仰るんですね。それならその無くなった運を帳消しに出来るほどに高性能なサポートを魅せるしかありませんね。期待して下さい』

「そうか? 了解だ。頼んだ!」

 

 オルトの車がファナの操作で動き出す。情報収集機器で過合成スネークの移動の痕跡を辿って荒野(こうや)を進んでいく。賞金首が居なくなった荒野(こうや)には徐々に通常のモンスターが彷徨(うろつ)き始めているが、今のオルトの装備の前には無力だった。

 

 

 闇夜の中、荒野(こうや)を走り続けていたオルトの荒野(こうや)仕様車両が停まる。目の前には廃ビルが建ち並ぶ名前の付けられていない程に小さく旨味の無い遺跡があった。元々は整備されていたであろう道路にも崩壊したビルの瓦礫で埋まっている部分が多い。

 

「これ、ここを探索してたら間違いなく他の奴らにバレるよな」

 

 目の前の道路を安全に通れるように瓦礫を退かせば、そこを通れるようにしたい誰かが居たという証拠になる為すぐにばれることになる。

 

『取り敢えず周囲を一周して過合成スネークの痕跡がこの遺跡の外に出ているかどうかの確認をしましょう』

「そうか。そうだな。ついでに中に入れるような場所も探しておくか」

 

 ファナから言われたことで過合成スネークが目の前の名無しの遺跡をただ通り過ぎただけという仮説を立てた。もしかしたらその痕跡は見つからずに終わるかもしれないが遺跡の中を軽く探して痕跡の先を確認出来れば問題は無いとして車を走らせる。

 

 

 遺跡の外周部分は瓦礫も飛び出しており数年後には遺跡ではなく荒野(こうや)の一部に還ってしまうだろうと思わせる程に荒廃している。

 

「なあファナ。この遺跡って元々はもっと広くてここだけ荒野(こうや)に還らずに残ってるってことは有り得るか?」

『可能性という点ではあり得ます。どうしてそのようなことを?』

「いや、ちょっとした疑問なんだけど、ならなんでここだけ荒野(こうや)に還らずにまだ一応の形を残せているのかなって思ってな」

 

 目の前に広がる荒廃したビル群は今となっては単なる過去の遺品としか言いようがない上に利用価値が薄く技術的価値が低い。しかしそのような場所が残っている。そのような場所だけが残れている理由について気になったオルトは答えを求めてファナに問うたのだ。

 

『その理由は使用された建材の差、用いられた建築技術の差、供給されたエネルギーの差など多岐に渡るでしょう。分かり易く言うのであれば、スラム街の家屋と下位区画の家屋の差、下位区画と中位区画の差とでも思えば適切でしょうね』

「……なるほど。外周部の他の建造物があったであろう部分よりも富んだ連中が住んでいた場所だから相応に頑丈な建造物になっていたのか」

 

 オルトはふと湧いた疑問に対する納得出来るだけの回答を得たことで満足そうに頷いた。そうしてオルトはその富を有していたであろう過去を遺した崩れかけの建造物へ眼を向け、どこか楽しそうに周囲の探索を行ない続けた。

 モンスターとの遭遇もなくオルト達は遺跡を一周した。結果として過合成スネークの痕跡は他に見つかることは無かった。

 可能性として過合成スネークが逃げ込んだであろう施設への出入り口、若しくは過合成スネークが拓いた侵入口が存在している。オルトはその可能性に胸を躍らせながら遺跡の内部への入口を探し始めた。

 一周している最中に見つけた比較的楽に侵入出来そうな部分は(あらかじ)め幾つか見立てておいたのでその場所まで車を移動させた。

 

「さてと、コイツの初仕事は壁のぶち抜きか……」

 

 オルトは車から降りて廃ビルの壁の前に立っている。道路などの通常の入口となりそうな場所は大抵瓦礫で封鎖されており、時間を掛ければ通過可能な状態へ掃除することも可能だ。だがそれではこの遺跡の事を知っている人が偶々この近くを通った際に不自然に感じる可能性が高い。その為崩れたとしても不思議はない建造物に穴を開けることで、人為的ではなく、モンスターの特異な行動の結果、流れ弾が偶然当たって出来たという結論に辿り着きそうな理由を作ることにした。

 オルトが肩幅まで足を開いて右腕を引き、構えを取る。それと同時に腕輪から金属片が延びていき各指の第二間接までを覆い、供給されるエネルギーによって軽く輝き出す。

 次の瞬間、強化服の身体能力を十全に乗せた拳が廃ビルの壁に叩きつけられる。その一撃には、並の強化服を優に超える出力に加えてファナのサポートを受けた達人の技量を以って放たれることで、周囲を巻き込む衝撃は眼の前の壁のを容易く砕き、発生した余波によって内部に散らばっていた瓦礫も含めて吹き飛ばした。

 籠手から発生した光が未だ暗い荒野(こうや)を照らすが、それを確認する人間はいない。

 オルトは自分の手を確認する。既に役目を果たした籠手は細かな金属片へ形を崩し元の腕輪を再形成していた。

 

「うん。良い威力だ」

 

 オルトの脳裏に浮かんだ重装強化服との殴り合いでは強化服の性能差によりオルトの身体は遥か後方へと吹き飛ばされた。潰されない為の処置でもあるが、それでもその一撃でオルトの左腕は使用不能に陥り、追撃まで猶予を作ってしまっていた。

 しかし今の一撃であれば問題無く打ち勝つことが可能であり、強化服が破損することもオルトの生身が千切れ飛ぶことも無い。高威力且つ高防御を兼ね備えている為簡易的な盾としても使用出来るだろう。

 

『これだけの威力を生み出した私のサポートも含めてですけれどね?』

「分かってるよ。俺もこれを1人で出来たとは思ってないよ」

『でしたら構いませんよ。さあ、内部の壁も破壊して通路を作りましょうか』

「了解。……しかし、今更ながらハンターは野蛮な職種だな」

 

 オルトの発言に対してファナは返すことはしなかった。オルトも今の発言は唯の無意識に出た独り言だった為、特に気にすることも無く内部の壁をファナの指示に従って粉砕していく。

 崩れ掛けの廃ビルを追撃しているようなものだ。幾ら旧世界製の建造物であろうとも経年劣化を放置していればその耐久力は下がる。ファナのサポート無しに、乱雑に拳を放てば簡単に倒壊するかもしれないと感じながら、オルトは屋外への隔たりであった壁を吹き飛ばした。

 背後から近付いてくる自分の車を拡張視界で確認しながら、周囲を見渡したオルトは遠方に落ちているあるものを見て笑みを浮かべた。

 

「運が良いな」

 

 視線の先にはここら辺では発見報告の無い機械系モンスターの残骸が散らばっていた。オルトはそれに見覚えがあった。過合成スネークの本体の体を構築していた物に良く似ていたからだ。

 

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