リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第二十二話 監視下

 

 名付けさえされない程に寂れた遺跡の中に侵入したオルトは早速目当ての物を発見した。

 

「……外まで出てきたのか? それとも捕食しながら移動した?」

 

 過合成スネークの痕跡を辿っていた為、既に日付も変わり、日が昇るには数時間は掛かるだろう暗闇の中であっても、オルトの視界はファナのサポートにより拡張表示されており、昼間と変わらない明るさの中で探索を可能としている。そこにオルトの高額の強化服に相応しい高性能な情報収集機器が合わさり、周囲の探索を容易にさせた。

 その中で発見した残骸は半壊した廃ビルの瓦礫の下に埋まっていたが、その程度の障害物は何ら問題とはならなかった。

 更に詳しく調べたかったオルトは上に乗っていた瓦礫を退かし、下から残骸を取り出した。出てきた残骸は機械系モンスターの成れの果てであり、オルトの予想では過合成スネークによって破壊されたであろう施設内の警備機械の一つだ。

 その状態を確認したオルトは施設内の凡その危険度を推測する。壊された後にビルの瓦礫を浴び、押し潰されていたその残骸は意外にも損傷が少ない。戦闘で発生した負傷は確認出来るが、それ以外の影響から負った負傷は見当たらなかった。

 

『恐らくは捕食しつつ地上へと脱出。追跡を不可能とさせる為に壊したのでしょう。随分と周到のようでしたね』

 

 脱皮や囮などを用いる高い知能を持っていながら、十分に成長し切る前にハンターを襲った事についてファナは皮肉に笑いながら遺跡の内部を指し示す。強調表示された過合成スネークの逃走経路は不必要なほどに蛇行しており、遺跡内の建造物の多くが倒壊して往来を不自由なものにしていた。

 

「確かにこれなら追撃は難しいだろうな。……よし。そろそろ掘り起こすか」

『気を付けてくださいね。外へ出ようとしている個体がいないとも限りません』

 

 ファナの忠告を聞いたオルトは頷く。

 自分の車を隣接した廃ビルの屋内へと隠すように停車させ、上から迷彩シートを被せておく。

 半壊した廃ビルの中を情報収集機器で入念に探りながら瓦礫の撤去を続ける。

 

「そういえばここって過合成スネーク討伐戦の場所からは結構離れてるよな? 地下の施設って結構広いのかな」

『直接通路が繋がっている可能性もありますが、他にも考えられるものがありますよね?』

「……あっ、ヨノズカ駅遺跡か!」

『ヨノズカ駅遺跡の地上部分は既に荒野(こうや)へと還っていましたが、周囲に残っていた建造物から見てあの周囲一帯には何らかの建造物が建ち並んでいたのは間違いありません』

 

 オルトはヨノズカ駅遺跡の地上部分を思い出し、現在いる遺跡内の光景と見比べてみる。環境の所為か別の意図によってかは分からないが荒廃の程度に差がありすぎた。万が一ヨノズカ駅遺跡と同時代に存在していた都市の残りであるのなら。そう考えたところで思考が中断される。

 瓦礫の下から僅かにだが情報収集機器が反応を捉えたのだ。瓦礫の隙間、非常に狭い隙間に風の通り道ができた為、その先の空間の把握が可能になったのだ。

 

「結構深い場所まで埋まってるもんだな。8メートルって所か? そりゃ見つからないよな……」

 

 強化服の身体能力のおかげで大した労力も無しに地上部分の瓦礫の撤去は終わり、今は1階層の床の更に下部。露出した階段の先を埋めている瓦礫を取り除こうとしていた。

 するとファナが苦笑を浮かべて口を出す。

 

『手っ取り早く済ませましょう』

「ん?」

 

 強化服がファナの操作でゆっくりと脇構えを取る。両の腕輪が変形してブレードを形成し、強化服側からエネルギーが供給され、刀身の全体が蒼く淡く輝き出す。

 

「大丈夫なのか?」

 

 ファナのサポートに対して文句は無い。しかしその後に発生するかもしれない厄介事も含め、口から洩れた疑問に加えて念話に依る懸念事項の共有も行うが、ファナの表情が悪い方向へ変わることは無かった。逆にファナはオルトへ挑発気味の笑みを返した。

 

『大丈夫ですよ。相応の覚悟さえ決めて頂ければ問題になどなりません』

「相応ね。アーミーマメストラの時みたいなのは流石に嫌だぞ?」

 

 オルトは口から文句を溢しながらも構えを取った身体(からだ)に力を込める。

 

『あの時ほどの覚悟は必要ありませんよ。さあ、行きましょう』

 

 オルトは軽く笑うと身体(からだ)の動きを、ファナの強化服の操作に合わせた。

 ファナのサポートを得たオルトがブレードを達人の技量で振るう。輝く刀身へ更にエネルギーを供給させると刀身の先端部分が臨界点を越え白く輝く。振るう瞬間に刀身の一部を分離させる。与えられた運動量に従い前方の瓦礫溜まりへと飛ぶ。瓦礫の存在そのものを無視したかのように直進する融解した金属片は斬性の波動を保持したまま、瓦礫が溜まっている原因へ衝突すると同時に保持していた斬性を突如として鈍らせ、切断ではなく粉砕する為の衝撃を加えて物体を破壊した。

 残身の体勢を取っているオルトが、一呼吸置いて両手のブレードを腕輪の状態へと移行させ構えを解く。少し遅れてから瓦礫の壁が奥の方から徐々に崩れ、階段の下へと転がり落ちていく。

 その結果を作った両の腕輪に対してオルトが感嘆の息を漏らす。

 

「凄いな。近接武器として買った筈なのに間合いじゃなくて射程って水準の攻撃が出来るのか」

『程々の性能はありますね。使い捨てとしては及第点というところですね』

「えー、これで及第点なのか? 今の一撃って俺が喰らったら真っ二つになるだろ!?」

『以前まで使用していたブレードであればエネルギーを飛ばすだけで同じことが可能でしたが、今回の装備は物質も含めて飛ばす必要があります。切断範囲、切れ味という面で大きく劣ります。それに多用すると費用が嵩んでしまいますしね』

 

 過剰供給したエネルギーは戻ってこない。切り離した金属片は既にその機能どころか形すら喪失しており回収など不可能だ。再利用など出来ない。旧世界製のブレードなら発生させた力場を利用すれば外部へ垂らした液体金属を柄の中へ回収することも出来た。何よりも遺物だ。遺跡で発見すれば実質只で使える。入手出来るかどうかが運に左右されること以外は旧世界製のブレードが非常に優秀だ。

 

「……比較対象が間違っている気がする」

『そんなことはありません。私が指定する遺跡攻略の為にも、オルトにはその内もっと高性能な物を入手していただきます。今は戦闘技術取得の為の繋ぎに過ぎませんよ』

 

 ファナの発言が正しいなら、旧世界にはこの程度の物は微妙だと言われる程度に強力な武装がごろごろとしているようだ。オルトは旧世界の恐ろしさを再び垣間見た。

 雑談をしている間に階段を封鎖していた瓦礫の山の大半は階下へと消えていた。反響音も鳴り響いていたがそれも空気中の色無しの霧がかき消してしまい、地上部分まで漏れる事は無かった。

 

 

 オルトはバイクの自動追従機能で自身の後を着いてこさせながら階段をゆっくり降りていた。階段の途中には転がり落ちる程の運動量を失った瓦礫がちらほらと確認できた。上り下りの邪魔になる場所に残っていた物は通路の端へと寄せた。

 以前、ヨノズカ駅遺跡へ下りた時のように慎重に下っていく最中、突如として階下から強い光が視界に入った。それと同時にオルトの体感時間が歪んだ。

 引き延ばされた時間の中で強化服を動かし、生身を意識的に追従させる。身体(からだ)を横にずらしつつ下げていた銃を構えたオルトの横の空間を数発の銃弾が通り過ぎた。光源は強力な弾薬を使用した際に起こる発火炎(マズルフラッシュ)だった。

 発火炎(マズルフラッシュ)や銃声を情報収集機器が捉え、階下にいる存在を強調表示する。

 機械の駆動音すら収集され始め、オルトが意外そうに眼を開き、それでも問題無いと不敵に笑う。

 

『会敵が早いな! それに、反応は無かったんだけどな!』

『愚痴と推察は後にしましょう。来ますよ』

 

 ()ずは有効射程に収める必要があるオルトは階下へと跳躍に近い歩幅で駆けて行く。その最中にも銃弾の雨がオルトの前方を埋めるが、階段だけでなくその側面、綺麗な壁を足場にしつつ変則的な軌道で標的との距離を縮めた。

 拡張視界に収めた反応に向けて銃の照準を合わせて引き金を引く。K2R複合銃から放たれた対機強装弾が、拡張された時間感覚の中で慎重に狙いを定めたオルトの射撃能力を底上げする。機械系モンスターに対して効果的な貫通力の高い銃弾が、先頭にいるモンスターを貫通してその背後のモンスター達を巻き込み損害を与える。

 単位時間を拡張したオルトはその時間の中で最大効率で動くことを目標にして両手の銃の連射速度を緩めず、広い階段の通路を、壁も天井も一時的に足場として利用しながら優位に立ち続ける為の位置取りを続ける。

 オルトの移動速度に狙いが追い付かない為か、階下にいる機械系モンスターの行動が一点集中の銃撃から階段の通路全体を埋めるような弾幕へと切り替わった。

 

『少し選択が遅かったな!』

 

 戦闘開始時の機械系モンスターの数であれば問題無く弾幕で階段の通路を逃げ場なく埋め尽くすことが出来た。しかしオルトの銃撃によって、大半の機械系モンスターの機体に取り付けてあった機銃は破損しており、その機能を発揮することは出来なかった。

 減少した銃弾から形成される弾幕の密度の薄い位置へと跳躍し、その場を通過する銃弾を回避しながら、既に破損状態の酷い機体へと銃撃を繰り返し、負傷することなく、被弾することなく勝利を収めた。

 

『取り敢えず危なげ無く勝てたな』

『階段に配置される警備機械にしては中々の防御力でしたね』

『……分かってるよ。被弾してないからって外して良いって訳じゃない事ぐらい……』

 

 ファナからの皮肉の内容を察したオルトは顔を顰めて戦闘内容の反省点を挙げながら弾倉の交換を行なう。

 ファナの指摘通り、命中精度を上げれば交戦時間の短縮にも消費する弾薬やエネルギーパックの量を削減出来る。まだまだ実力不足だと、ファナのサポートを受けた時とは差がありすぎると痛感しながら破壊したモンスターの残骸を確認する。

 

『……こいつらじゃないな。過合成スネークの中にあった残骸はもっと大きかったし』

 

 一撃で制御装置を破壊され比較的真面な状態を残した機械系モンスターの残骸はオルトの腰程度までの大きさしかなかった。しかし過合成スネークの体内で、廃ビルの外で見た物は全体の一部であろう残骸でありながらオルトの身長ほどの大きさを持っていた。複数種類の警備機械が施設内に配備されているという事実を再確認したオルトは軽く溜め息を吐いてから階段の続きへ歩みを進める。

 今のオルトの収支は圧倒的に赤字だ。

 アーミーマメストラとの戦闘で現れた大穴の所為で地下遺跡の発見など今はあまり価値が無い。今収集した情報だけを持ち帰っても話題性はかなり低い。遺跡内の地図情報の精度をさらに向上させる為に、遺物収集を行う為に地下施設の中に足を踏み入れる。

 

 

 十数分下り続け、階段の先に漸く広い面積の床が見えた。

 通路は非常に明るく、暗い部分などは無かった。オルトの足下の影から、光は上から降り注いでいることが分かる。しかし天井に照明器具のような物は見当たらない。

 オルトが周囲を見渡し過合成スネークが遺した痕跡の先を見ていた。しかし遅まきながら異常なことに気付いた。

 

『……あれ? 転がり落ちた瓦礫はどこに行ったんだ?』

 

 慣性を持って床に激突して急停止したとしても運動量が瞬間的にゼロになることはあり得ない。長時間転落し続けそれなりの運動エネルギーを保持して階段から離れた位置で停止したとしても、たいして色無しの霧が発生していない遺跡の中でオルトの情報収集機器の索敵範囲外へと出ていくとは到底思えなかった。

 

『遺跡の機能により備え付けの清掃機械が掃除をしたのでしょう。因みにですが先程交戦した機械系モンスターもその清掃機械ですよ』

 

 旧世界の遺跡の中には無人になってから長い年月が経っているにも(かか)わらず、非常に奇麗な状態を保っている遺跡がある。そのような遺跡は清掃機械や修復装置が今も稼働し続けていることが多い。

 そのような遺跡は要注意だ。モンスターの痕跡が掃除され、その存在が把握しにくいこともある。また、警備機械も品質を保ったまま稼動していることがあり、不法侵入者として攻撃されることもあるのだ。

 

『え!? 清掃機械なのか!? 機銃とか付いてたんだけど!?』

『清掃機械であっても機銃程度の武装を施すだけの価値のある場所なのでしょう。遺物に期待が出来ますね?』

『なるほど! 危険なだけはあるって事か。なら、ちゃんと稼がせてもらおう』

 

 オルトは意図的に笑みを浮かべ意気を上げる。今のオルトはファナのサポートは一切受けていない。それでも問題無く遺跡探索を終えられると証明する為にも怯えて足を止めることなどあってはならない。

 オルトは周囲にモンスターが居ない事を確認してから注意深く進んでいく。

 

 

 オルトが周辺の状況を含めて詳細な地図情報を取得しながら遺跡を進んでいた。通路には瓦礫や何かの破片すらない比較的綺麗な状態ではあったが、通路自体には所々跡が残っていた。過合成スネークが地上に脱出するまでに通過した痕跡だ。オルトはそれを一応の道標として利用しながら進んでいた。

 

『ファナ。これがサポートに入るって言うなら答えなくて良いんだけど、ここってなんなんだ?』

『何なのか。どのような目的を持った施設なのかという質問でしたら、駅という停留所ですね』

『なんでここに停まるんだろうな? 少なくとも人の利用者は少なかったんじゃないか?』

『どうしてそのように思ったのでしょう?』

『ヨノズカ駅遺跡と違って店舗が明らかに少なすぎる。宿泊施設や飲食店っぽいのが階段付近にあったけど、この周囲にそれらしい店舗は無いからな。かと言って空き店舗って雰囲気でもない。何がある?』

 

 オルトが通路の端に寄りバイクを盾にしながら小休憩を取る。それと同時に通路に面している頑丈そうな扉の先を確認しようとしたが、その先の情報を取得することは叶わなかった。非常に強い情報収集遮断物質で構成されている事だけが分かる。

 周囲に確認出来ない場所があるという不安に駆られながらも一定の緊張感まで上げたところで、それが過剰の域に至らないように意識的に呼吸を行なう。そのオルトの様子を見ていたファナが楽し気に微笑んでいた。

 

『……なんだよ』

『いえいえ。ちゃんと成長していることが分かって嬉しいだけですよ。私が確認出来る成長性は傍目に見える情報程度でしかありません。オルトがどう考え、何を基準にどう判断し、行動したのか。その理由までは勝手に知ることなど出来ませんからね』

『そうか。そういうもんか。それで回答は無しか?』

 

 オルトはファナの発言に対して特に気にも留めず気楽に返答した。

 

『そうですね。少しばかり見え易くしますか』

 

 ファナの視界へのサポートが入り周囲の光景が一変した。頑丈な扉の中を透視可能なように、ファナがオルトの視界を拡張表示して、その内部にあるものを露わにした。

 

『これは……、倉庫か?』

 

 それぞれの室内には等間隔で棚が並べられていた。その棚は店舗に設置されるような見栄えの無い装飾の施されていない物置としての機能しか持っていない。しかしその中に物が置かれていることは無かった。

 

『正解です。正確には集配拠点でしょう』

『そうするとここには結構な量の商品を集めて他の場所に……、今来るか!?』

 

 オルトが両手の銃を通路の進行方向へと向ける。オルトの情報法収集機器の表示装置がオルトの角膜に索敵結果を表示する。

 反応の動きから、モンスター達がオルトを確実に認識していることが分かる。反応が遠方から続々と増えていく。進行方向にある十字路、オルトのいる方向以外の三つの通路それぞれから強い反応が続いている。

 機械の駆動音や車輪と通路の床が擦れ合う音が徐々に近付いて来ていた。

 

『オルト。サポートはどうしますか?』

『ファナの見立てだと必要そうか?』

『それはオルトの覚悟次第でしょうね』

『なら問題無いな。危ない時、ファナの判断でサポートを入れてくれ。基本無しだ』

『頑張ってくださいね』

『了解だ!』

 

 オルトが左手の銃を腰に下げ、背中の擲弾用K2R複合銃を展開して握る。そしてそのまま通路の一つに向けて引き金を引いた。バイクのアーム式銃座も遠隔で操作して別の通路に向けて擲弾を撃ち出していく。

 無数の擲弾が遺跡内にばら撒かれ、爆発し、両側の通路から迫って来ていた機械系モンスターの群れを吹き飛ばしていく。そしてその余波をオルトのいる通路の直線状から迫って来ていたモンスターの群れが真面に喰らっていた。

 十字路はオルトから離れた場所に位置している。数の利を敵が得る前に対処を行い、そしてその余波を別の敵にも与え続けていた。

 連続する爆発が敵の群れを容赦なく呑み込み消し飛ばしていく。

 

(多いな。それに結構硬い。擲弾の直撃か連続した爆発に巻き込まれでもしなければ問題無い程か。アーミーマメストラの時みたいな高額の弾薬じゃないからって、そこそこ値の張る弾倉なんだけどな……)

 

 オルトは中央の通路から多少の損傷程度で済んだ機械系モンスターを精確に銃撃しつつ敵の戦力を推測し続けていた。

 賞金首討伐時の物よりも多少威力は低い。だがそれでもK2R複合銃で使うに値する程の威力を持った擲弾の拡張弾倉だ。相応に値の張る品でもあったが、それでも躊躇わず使用する選択になる程に敵の量は多かった。

 

 

 戦闘が続く。遺跡内部に響き渡る銃声と爆発音は敵対者の生存を許さないとばかりにその音響を継続させていく。それは引き金を引く者がいなくなるまでいつまでも続いていく。

 そしてついに引き金を引く者がいなくなった。

 最後に引き金を引いたのはオルトだ。最後に発射された銃弾が、最後尾に位置していたモンスターの制御装置を貫き、機能を停止させた。十字路周辺のモンスターが殲滅され、銃撃対象がいなくなったことにより、戦闘は漸く終了した。

 地下施設に静寂が戻る。オルトは警戒を解かずに周囲を見渡した。

 10秒ほど経った後、オルトが息を吐いて気を緩めた。

 

『漸く在庫切れか? 長かった……』

 

 戦闘を終えたオルトが弾倉とエネルギーパックを交換した擲弾用K2R複合銃を収縮させ背負いなおす。強化服側で自動的に防護コートの金属片が補助アームの通り道を作り、その間を通る様は少し慣れない。

 オルトがバイクの方の弾倉も交換し終えると通路の先へと歩みを進める。十字路へ差し掛かり隣接する通路には破損した大量の機械部品が散らばっている。

 

(こいつら、なんで合流するように襲って来たんだ? ……遺跡が俺の位置情報を警備機械に共有してる? 可能性としてならあり得るな。かと言ってこの程度のモンスターならまだまだいけるんだけど……)

『どうかいたしましたか?』

『いや、何でもない』

 

 思考を切り上げる。自分が遺跡に対して何かをしたところで無駄だからだ。極論、現世界に生きる人間は起こった事柄、起こる事象への対処以外の手段を持ち得ない。先人たちのそれに倣うだけだ。

 用意してきた消耗品はまだまだ残っている。撤退という判断を下すには早すぎると苦笑しながら通路の痕跡を辿っていく。

 

『それにしてもやっぱり旧世界の遺跡は頑丈だな。あれだけ擲弾を撃ち込んだってのにヒビすら入ってない』

 

 ほぼ同一の箇所に向け擲弾を連射し続けた。その相乗した威力であれば通路の床や壁にヒビ程度は入るかもしれないと危惧していたオルトは、それが杞憂に済みそうだと安心しつつもその頑丈さに感嘆していた。

 

『倉庫だって言ってたけど、この遺跡の構造は前に入ったクズスハラ街遺跡の地下街の時よりも頑丈な造りになってるんだな』

『施設施工時の指針の相違等が挙げられますが、クズスハラ街遺跡の地下街は既に殆どの機能が停止していたからです』

 

 以前オルトがクガマヤマ都市からの依頼を受けた際に足を運んだクズスハラ街遺跡の地下街は、既に商店街としての機能を失くしていた。その証拠に現在オルトが探索している遺跡とは違い、証明などのエネルギーを用いた施設の運用等には、都市側が用意したエネルギータンクを使用していた。

 オルトもその話を聞いて地下街へと降りる階段の前には鉄格子式のシャッターがあった。オルトは見ていなかったが、その周囲には都市の職員が複数人配置されており、その中央にはそのシャッターを稼働させる為のエネルギータンクが繋がれていたのだ。そしてそれ以外の場所。地下街の至る所には都市の用意した照明を取り付けており、施設として保有していたであろう機能を起こそうとはしていなかった。それは地下街には機能を起こせるだけの何かが足りなかったのではなく、そもそも機能が喪失していたからに他ならなかったのだとファナは説明を終えた。

 機能が死んだ理由は様々挙げられるが、基本的に管理者の居なくなった都市はその形を長い期間を経て崩して行き、荒野(こうや)へと還る。()しくは対外的な理由。クズスハラ街遺跡の地下街の場合は大量発生したヤラタサソリによって中枢機能が破壊された結果、外部からでも操作可能な簡易的な施設の機能以外を起動出来なかった。などが挙げられる。

 

『遺跡は遺跡で色々と問題が発生してるんだな。ここがまだ生きてるのはまだ管理者が居るからか、侵入者がそれ程暴れまわってないからか。そうなると、今の俺の遺跡からの評価は惨憺(さんたん)なものになってそうだな』

 

 この遺跡は未だ生きており、管理者も存在していることは明らかだが、オルトはその者への不満などを覚えることは無い。申し訳ないとすらも思っている。しかし、そうでもしないとオルトは生きていけない。

 仕方がない。割り切ろうと考えつつ歩くオルトの様子をファナは見続けていた。

 

『それでも今は使用されていませんからね。大本の管理から離れたような施設に配慮してまでオルトがハンターを辞める必要などありません。結果としてそうなった。それだけですよ』

『……そうだな。そういう事にしとこう』

 

 施設に対してか、過去に遺された遺跡に対してか、オルトには一切判別できない。しかし、妙な割り切りを見せたファナに同意する様に頷いたオルトは通路の先に見えた階段に足を掛けた。

 

 

 その後、オルト達は特にモンスターと遭遇することも無く過合成スネークの残した痕跡を辿って行った。その道中にあった壁に偽装された倉庫の中には空の棚が並んでいるだけだった。

 今のところオルトの成果は無い。強いて言えば破壊した機械系モンスターの残骸があるが、それを都市に持ち帰るのはあまり取りたくない選択肢だった。

 オルトの持ち帰った機械系モンスターの種類がクガマヤマ都市周辺に確認されている物と乖離していれば、そこから遺跡のことがバレてしまう可能性が高いからだ。ヨノズカ駅遺跡の事もあり、また功を焦ったハンターが集まり遺跡を刺激した所為で遺跡探索すら出来なくなるのは御免だからだ。

 消費した弾薬等をどうするか悩んでいたオルトの視界に改札らしき装置が見えた。そしてそれは一部が残骸へと姿を変えていた。装置を押し退ける様に過合成スネークが強引に通過したのだろうと容易に推察出来た。

 

『この奥が駅のホームか?』

『そうなりますね。行きますか?』

『……行きたいな。ヨノズカ駅遺跡はもう入れないし』

 

 現在のヨノズカ駅遺跡はその地下トンネルからはクズスハラ街遺跡の奥部に生息する強力なモンスターに非常に類似した生物系モンスターが多数出現し、賞金首に認定されるほどの強力なモンスターの巣窟へと変異した。

 アキラから聞いた話ではあるが、そのトンネル自体は既に閉じられており、態々強引に隔壁を抉じ開けてまでその先へ足を運ぶ輩は出ないだろう。クガマヤマ都市のハンターや職員はそう判断している。だが一応警戒する為にと都市がヨノズカ駅遺跡へと人員を派遣して近辺を封鎖している。

 一度、オルトは折角ならとヨノズカ駅遺跡へ足を運んだが、遠目からでもその封鎖状況が確認出来た。残念に思いながらオルトは引き返した。賞金首の騒動が起こる前に、FARBEからの依頼を是が非でも断って確認に行っていればと無念に思っていた。

 そういった経緯もあり、オルトはその先にある先人が遺した施設に対しての興味を隠せずにいた。

 浮足立ちそうな状態にあると感じたオルトは真面目に索敵を続けながらその先へと進んでいく。

 その様子を微笑ましそうに眺めているファナは既にその先へと視線を向けていた。それをオルトが認識することは出来なかった。

 

 

 階段の先、そこには荒野(こうや)の地下を貫く内径約30メートルの筒状のトンネルがあった。細い金属のような物体で支えられた乗降場が空中に設置されており、このトンネルを通っていたであろう乗り物がそれほど巨大で、且つ自力で浮いていたであろうことを示している。

 遺跡の通路から続く渡り廊下を通ってその乗降場に辿り着いたオルトは、その巨大さに圧倒されていた。

 そして乗降場のからトンネルを一望する。片方は隔壁が閉じられており、その先は完全に隔離されていた。もう一方は隔壁が上がっており、トンネルはその先の暗闇へと続いているのが分かる。

 オルトが周囲の様子に感嘆の息を漏らした。

 オルトの知識にある駅とは一切似ていない。それでもその構造の理由程度は直ぐに察することが出来た。

 

「周囲から遠隔でエネルギーを供給するか、トンネル全体にエネルギーを行き渡らせて内部を通る車両自体を浮遊に近い状態で走行させるのか。……確かにそれなら車内にいる乗客や積んでる貨物に掛かる負荷は少なくて済むか。それにこの広さで乗降場は結構な広さで数もあるってことは利用者も相当な──」

 

 オルトは非常に目を輝かせてトンネル内部をくまなく眺めていた。旧世界の高度な技術を用いた移動用且つ輸送用の施設だ。設計思想やどのような意図で、どんな構造で施工されたのか。その場所が遺跡の中だという事さえ忘れてオルトは推測し続けていた。当時の人がこの施設にどのような意思を持って製造に携わったのか、それを完全に理解することなど出来はしないと頭の中で分かっていながら、オルトはその行為を止められはしなかった。

 周囲は今までの通路と同じように光源となる照明は確認できなかったが、巨大なトンネルの向かい側まではっきりと視認出来るほどに明るい。乗降場に繋がる他の出入り口なども見付け、情報収集機器を最大限利用して単純な地図情報としての意味以外も感じ取りながら、その場の光景を記録として残していた。

 地上からこの場まで、結局遺物自体は見付からなかったが、オルト個人としては非常に満足のいく結果を得ていた。

 

「──凄いぞファナ! こんな光景見たことな……」

 

 自分が覚えた未知と既知の境界に対する興奮と喜びの共感を得ようと、ファナへと身体(からだ)ごと向けて呼び掛けたオルトは、その方向に突如見覚えのない女性が現れたことで、表情と思考を臨戦状態に移行させた。反射的に飛び退き両手に銃を握り、構えようとした。しかし銃口が女性へと向けられる前にオルトの身体(からだ)が動きを止めた。ファナが強化服を操作して止めたのだ。

 

『ファナ……?』

『落ち着いてください。あれは立体映像。撃っても無駄です』

 

 オルトが改めて女性を見る。旧世界製と思われる服に身を包み非現実的な美貌を持っているという点ではファナに似ている。だが肉眼で目視している。他者にも見える存在とそうでない存在、それはオルトにも判別出来た。

 そして同時に、実在していない事にも何となく分かった。目の前の女性には気配というものが欠けていた。

 オルトの情報収集機器も同様の結論を出している。女性の姿は可視光範囲内にのみ存在しており、その範囲外である紫外線や赤外線上には存在していない。反響定位、動体探知、そこに何かが出現したのであれば、或いは既にそこに居たにも(かか)わらず今まで見えなかっただけなのであれば、確実に生まれる空気の流れなども一切無かった。

 オルトは臨戦状態を解いて首を傾けた。

 

『立体映像か……。旧世界の幽霊とか噂があったな。急に現れて姿は見えるのにそこに物体として居なかったらそりゃそう言われるか』

 

 目の前の旧世界製の衣服を着た立体映像の女性はオルトの事を認識しているのだろうが、その口からはオルトに対しての明確な発言は為されない。繰り返し似た様な言葉を発していた。

 

「ユウセツ駅へようこそ。当駅は現在準活性状態です。エラーG5255431487……」

 

 女性の顔を見たオルトは何となく建設的な会話は無理そうだと判断して対処を投げられる相手へと投げる。

 

『ファナ。これ、どうすればいいんだ?』

『そうですね。少しこの場でお待ちください』

『えっ!?』

 

 次の瞬間、オルトの視界からファナの姿が消えた。女性の姿も消える。

 トンネル内をくまなく探る為に受けていたファナのサポートが消えた事が情報収集機器の索敵精度が低下したことから理解出来てしまった。

 

『ファナ!?』

 

 念話で呼び掛けても返事はない。遺跡の中でオルトは1人になった。

 ハンターと成り始めての経験にオルトが緊張を高めていく。

 ここは広々とした荒野(こうや)ではない。上空から強力なモンスターが突如として落下してくることは無い。だが未だに警備機械を各所に配置している遺跡の中であることに変わりはない。

 更に言えば場所が場所だ。ヨノズカ駅遺跡では駅の乗降場があった場所のトンネルの隔壁が独りでに開いたことで内部の状況が悪化したと聞いた。現在開いている隔壁の先にモンスターが居るのか、それとも閉じている隔壁が開きこの場を埋め尽くすモンスターを排出するのかは不明だ。隔壁の奥は非常に強い情報遮断物質で構成されているのか確認することが出来ない。

 逃げ場として乗降場への出入り口をしっかりと把握してはいるが、その先には先程交戦した機械系モンスターの同系機が再配備され、地下と地上の狭間で挟み撃ちに遭う可能性も高かった。

 

(……()ずは落ち着こう。問題無い。ファナが待ってろって言ってから消えたんだ。()ずはこの場で待機だ。それにさっき戦ったやつらの同系機相手なら俺だけでも勝てるんだ。だから、大丈夫だ)

 

 オルトが冷静さを保つ。パニックに陥るのが一番不味いのだと、周囲を警戒しながら気を静める。自身の神経を研ぎ澄ませながらその場でじっと待つ。機械の駆動音を、何かが破裂するような音を情報収集機器が捉えるが、その発生源は非常に遠い。その反応の方向へと顔を向ける。隔壁の開いているその先。トンネルが歪曲した更に先であり、この場よりも色無しの霧が濃いのか表示の精度は非常に悪い。

 トンネルの曲がった先を警戒していたオルトの前にファナが姿を現した。どこか楽し気に笑顔をオルトに向ける。

 

『お待たせしました。寂しかったですか?』

『……、そうだな』

 

 オルトは安堵を覚えたのは事実であるので急に消えたことを踏まえても責める気は無かった。感謝する気も無かったので素っ気無い反応を返した。

 

『……で、どうだったんだ?』

『この遺跡の現状や構造情報を取得してきました。では、行きましょうか』

『行くって、何処に?』

『遺物のある場所に、ですよ。さあ、遺物収集ですよ』

 

 オルトに対して揶揄うように微笑むファナがバイクを操作してまで、急かす。オルトは怪訝に思いつつも、特に反論も無いので乗降場から離れるように歩き始めた。

 その途中、オルトは何となく背後を見た。ファナと共に姿を消していた女性が何時(いつ)の間にか再び姿を現しており、先程と同じような表情でオルトを見ていた。しかしその口から言葉は発されていなかった。

 

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