リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第二十三話 手本

 

 先導するファナの後姿を、オルトは訝しむような視線を送りながらも乗降場の階段を上がっていく。足を向けた階段は乗降場に入って来た際に利用した過合成スネークが残した痕跡の無い綺麗な階段だった。その先の通路の状態も、遺跡内を漂う僅かな空気の流れや周辺を移動する警備機械の発した音が反響した事で情報収集機器が捉える事の出来た地形情報によって、もはや透視に近い形で視認している。曲がり角の先に機械系モンスターが潜んでいるという事もなく一切の戦闘もせず悠々と進んでいた。

 不気味なほど遺跡内の警備機械に遭遇しないことに目を瞑れば非常に安全な遺跡探索を行っている。それを理解しているからこそ、(かえ)ってオルトはその現状に関しての質問をファナに出来なかった。

 オルトが現状を不可解に思っていることを、その表情から確認したファナが微笑(ほほえ)みを浮かばせながら状況説明を始める。

 

『先程私が離れた際に彼女。この施設の管理人格から、この施設内に配備されている警備機械の現在の配置場所や巡回ルート等を、構造情報と共に取得してきました』

 

 おおまかな結論から入ったファナの説明が続く。

 この遺跡、名付けるならばユウセツ駅遺跡となるが、現在は準活性状態。要は活性状態へと移行する為に必要な客や職員という要素が抜けている所為で、駅本来の機能は働いておらず、遺跡内に侵入した暴徒鎮圧用に警備機械が再配置された結果、今の状態に落ち着いているとのことだった。

 商店街として場所を貸し出しているヨノズカ駅遺跡とは違い、乗降場以外の区画もユウセツ駅遺跡の管理人格の管轄内であり、それは上階の倉庫も範囲内だ。倉庫に積まれた遺物はただの預かっている商品でしかないが、信用を得て預かっている時点で、暴徒が入って来た所為で奪われましたでは済まない。よって以前訪れた侵入者に合わせた戦力を遺跡内に配備しなおしたのだった。

 

『その侵入者ってのは多分だけど過合成スネークだよな? あいつに上階の遺物は全部喰われたのか?』

『警備機械で迎撃を行い、地上へと撃退した模様です。倉庫内に侵入する余裕は流石に無かったようですよ』

『なら上階の倉庫には何で遺物が残ってないんだ? 元々搬入もされず、(から)にでもなってたのか?』

『いいえ。過合成スネークが去った後に遺物の移動を行ったのです。より一層強力な警備を配置可能な場所へ』

『……ん?』

 

 オルトはファナの説明に違和感を覚えた。

 

『ファナ。一応再確認なんだけどさ。俺達が今から行うのは遺物収集って話だったよな?』

『はい』

『遺物って全部、その一層強い警備が配置されるような場所に運び込まれたんだよな?』

『そうなりますね』

『……態々(わざわざ)そんな強い奴と戦いに行くのか?』

『今のオルトならば問題ありません。恐らくアーミーマメストラよりもずっと弱いでしょうから』

『……今日は随分とあやふやな想定なんだな』

 

 ファナがオルトの疑問に笑顔で答えていく。しかしその疑問に対する納得に当たる部分の説明に珍しく曖昧な回答が返って来たことにオルトが怪訝に思う。

 ファナであれば、非常に難易度の高い状況下であろうとも、いつも通り全てが予想通りの勝利を前提とした、オルトを安心させる助言をしてくれると思っていたが、何故か今日は違った。

 

『オルトの覚悟の(ほど)によってその難易度は変動致します。目標は高く。どこまでも上を目指す気概でいて欲しいですね』

 

 何をそう臆病になる必要があるのかと言わんばかりにファナが意味ありげにオルトを見る。

 それを受けたオルトはファナの挑発に対して軽く笑う。

 

『そうだな……。軽く倒して、今の実力の確認用の的になって貰うか!』

 

 オルトはそのまま遺跡内の通路を進んでいく。あまりにも不自然過ぎる程に通路は綺麗であり、戦闘も起こらない。ファナとの雑談も相まってその不自然にオルトは気付くことは無かった。

 既に意識が確実に起こり得る戦闘への想定に寄ったオルトの中では、どこかそういった施設なのだろうという無意識の判断によって、自身の置かれている状況に対し無関心のまま目的地まで辿り着いてしまった。

 

 

 オルトがファナの案内で辿り着いた場所は広い円形の大広間だった。障害物となりそうな物は無く、瓦礫なども一切確認出来ない掃除の行き届いた綺麗な一室は、そこが閉鎖空間とは思わせない開放感をオルトに覚えさせている。

 オルトはその部屋へ足を踏み入れる事に躊躇していた。一見するだけでは敵性反応の視認されない安全地帯と思わせる。しかし、ファナの説明通りであれば、その場所にはオルトにとって強敵と成り得る警備機械が配備されている可能性が非常に高いからだ。

 先程現れた立体映像然り、旧世界の遺跡の中では何が起きても不思議は無いと考え、オルトは自身の情報収集機器と荒野仕様の大型バイクの索敵機器を併用して、室内を事細かに入念に探っている。その全てをファナに頼らない自力での実力として行なっていた。

 今のオルトは高性能な装備に振り回されない為の訓練中であり、その上でその性能を最大限引き出し、その強化された身体能力にファナから与えられた技術を乗せて、効率的且つ最善手を取り続ける戦闘を実行しなければならない。

 そしてその技術は戦闘中だけでなく遺跡探索中にも及ぶ。いかに戦闘を避けて効率的な遺物収集を行えるかどうかも、ファナの依頼を達成する為には必要不可欠であり、オルトのハンターとしての感覚にも合致している。周囲への影響を限りなく低く保ちながらの移動や、周囲の状況をいち早く把握する為に情報収集機器での周囲情報の取得の訓練もその一部だ。

 音や熱、光や振動でも周囲の正常を崩す異常を探知し、気流の僅かな変化すら感知して、隠れ潜んでいる相手の存在を看破する為に各種データの設定項目の調整をしながら、室内に存在しているであろう敵性反応を見破った。

 肉眼では、そしてオルトの使用する情報収集機器でギリギリ認識可能なほどに性能の高い迷彩を駆使して佇でいる金属で構成された巨体の全容を把握したことで、オルトの表情に呆れが混ざる。

 その巨体を、それに近い造形を持っていた物をオルトは一度だけだが肉眼で捉えた覚えがあったのだ。

 

『ファナ。俺の眼がおかしくないならビッグウォーカーらしき物体が大広間の中央に鎮座してるんだけど』

『安心してください。ビッグウォーカーは既にクガマヤマ都市のハンターが大部隊を編制して討伐しましたよ。あれは別物です』

 

 ファナが微笑んでオルトの発言に訂正を加えるが、オルトはただ溜め息を吐くだけで安堵を覚えることは無かった。

 目の前の相手がビッグウォーカーの原型だったのだとしても、それはビッグウォーカーよりも弱いという保証は無い。賞金首に認定されるほどに強大に成長したモンスターは、元々の管理元から離れ独自に変異を繰り返した結果、周囲の都市経済に対して非常に不愉快な存在となっただけに過ぎない。成長過程で元から保有していた武装を破棄して他の武装を取り付けたり、装甲を外して機動力の確保を優先したりする個体も出るだろう。

 合理性をかなぐり捨てただけの木偶の坊に変異して、ただ周囲への悪影響が高いだけの固定砲台になる可能性すらある。オルトの知る限り、アーミーマメストラが良い例だ。

 現在遺跡内に配備されている個体は、ビッグウォーカーの原型となった警備機械の同系機だと推測出来る。正しく製造され、整備され管理されている機械系モンスターだ。その全長は計測機器が10メートルを超えていると表示していた。

 

『……うん。まぁ、うじうじ言ってても始まらないか』

 

 今更不安や悲壮感に苛まれることも無い。

 オルトが意識的に呼吸してゆっくりと覚悟を決める。バイクへと近付き、補助アームに持たせたリュックサックと中身を入れ替えてから大きく息を吐いた後、回復薬を飲んで数錠だけ口内に含んでおく。

 オルトはK2R複合銃を両手に握り、通路の影から勢いよく飛び出した。

 

 

 強化服の出力を全開にして通路から身を晒したオルトは、一気に警備機械を自身の銃の有効射程の中へと入れ、銃の照準を合わせていた。真っ先に警備機械の両端に取り付けられているミサイルポッドへと、最高連射での銃撃を行なう。圧縮された体感時間の中で、その威力を証明する様に轟音と共に着弾した銃弾の雨が、光学迷彩を纏い周囲の風景に溶け込んでいた警備機械の全容を白日の下に晒す。

 だが、その着弾地点には被弾による損傷が見られなかった。

 

(はあ!? 硬いな! ……それなら!)

 

 その事実にオルトは顔を(しか)めながらも両手に握る銃の連射速度を緩めることはせずに、標的だけを変更した。展開していないミサイルポッドの開口部は、非常に強固な造りの装甲で固められていることが理解出来たからだ。

 ()ずはそれを使わざるを得ない状態に持っていこうと、脚部や腕部、至る所に点在している機銃への銃撃を開始した。機体の装甲の表面を走る着弾による連続した火花が力場装甲(フォースフィールドアーマー)を使用していないことの証左であり、同時に力場装甲(フォースフィールドアーマー)を使っていない状態でその高い強度を誇っていることも表している。

 現在装填している対機強装弾ではその装甲を貫くには火力不足だ。それでも装甲と機銃では強度に差がある。集中した連射には耐え()れず機体に点在する機銃の内の一つを容易く貫き、そこへ後続の銃弾が撃ち込まれて跡形もなく吹き飛ばす。

 警備機械による十を越える機銃から放たれている視界を埋め尽くすような銃弾の雨を、極めて緩慢な体感時間の中で広い室内を活用する様にオルトは駆け回り、躱し続けていた。

 オルトが駆け、躱し、銃撃し、放たれた銃弾が機銃の銃身を破損させ、機銃の銃口から侵入した銃弾が内部構造を破壊し、繰り返し敵の戦力の低下を(はか)り続ける。

 

 

 警備機械は通路にいたオルトが部屋へと近付いて来ている時点で認識していた。だが自身の警戒範囲内への侵入を行なっていない相手に打って出る必要性は無い。その判断の(もと)、見逃していた。

 現在その場の重要度は限りなく上昇しており、その場に配備される警備機械ともなれば不審者への牽制や防衛の為の戦闘行為へと突入する際の柔軟な思考、それを可能とさせる権限を高い水準で保有している。

 銃もブレードも握っておらず、追従しているバイクのアーム式銃座に接続されている銃も銃口が下を向いていた。広間の状況を探るだけで、そのまま何もせずに帰還するような存在であれば十分に無視出来る許容範囲内の相手だ。

 しかし、両手に銃を握り、急速に接近して銃撃を開始したオルトを不審者程度の扱いには出来ない。室内に侵入した瞬間に完全な敵対存在と判断して排除を開始した。

 ()ず最初にミサイルによる爆撃で早期の決着をつけようとミサイルポッドを開口しようとしたが、一気に距離を詰めて、K2R複合銃の有効射程内に警備機械を収めたオルトの濃密な弾幕によって妨害されてしまう。幾ら装甲が頑丈であっても、その内部まで同等の硬度ということはないのだ。そして砲室に装填されているミサイルはオルトの銃撃に耐えられる程の強度は持ち合わせていない。

 強力な外敵を排除する為に用意された弾薬は仮想敵に相応しい威力を持っている為、それが作用した場所によっては自らすらも、その被害に遭ってしまう。

 この場に配備されるだけあった警備機械には、敵の排除が不可能になった訳でもない状況下で自爆による巻き沿え行為の決断を(くだ)せるほどに無能な制御装置は積まれていなかった。

 

 

 警備機械の前面側に位置取りながら、拡張弾倉から供給され続ける大量の銃弾を用いた銃撃を繰り返しているオルトは、口の中の回復薬を少しずつ飲み込みながら敵の余力を計っていた。

 現在のオルトの物資はアーミーマメストラ戦の時とは違い、自身で用意可能な弾薬やエネルギーパックのみだ。

 チームの資金に、そしてベテランハンターとして長年積み上げてきた信用に物を言わせて、クロサワ達が絶対に討伐可能と判断出来るほどに用意され、構成された高額の物資などは無い。頭部の表示装置によって拡張視界に投影されている強化服とK2R複合銃の残存エネルギー量や残弾が非常に早く減っていく事に不満を持ちつつも、今のところは優勢を保っていた。

 機銃を一つ破壊するごとに弾幕が目に見えて薄くなり、破壊された機銃が担当していた範囲は補われるまで一時的な安地となる。オルトがその場に移動すれば、即座に機銃の照準がオルトを追い掛けて、集中し、弾幕が濃くなる。しかしその時には既にオルトは次の安全域への移動や弾倉の再装填、未だ健在な機銃への集中的な銃撃を行なっており、その大量の銃弾がオルトに当たることは無かった。

 

(そろそろミサイルポッドを開いて欲しいんだけどなー……。いや、違うな)

 

 意識が戦闘の推移に対する推測から、勝手に立てた筋道への期待とそうならない現実への不満に変わり始めたと気付き、表情を意識して引き締める。

 賞金首との連続した戦闘。

 安全だったはずの過合成スネーク討伐作戦中、発生した多数のモンスターに襲撃されるといった異常事態下であっても無傷で戦況を有利に推移させたこと。アーミーマメストラの放つ大量のミサイルによる大量爆撃による嵐の中でも生き残ったこと。その二つの経験は、オルトに戦闘に対する意識を良い意味でも悪い意味でも歪めていく。それは自身が身に纏う強化服の性能、扱う銃の威力を加味しても油断に寄り掛けていた。

 それをファナという存在で余裕の域に引き戻している。オルトのハンター稼業の成功の根底にあるのがファナとの契約であり、その身に余る程のサポートを享受しているからだ。

 ファナによる高品質なサポートも無く、目の前の敵を安全に撃破して、ファナのサポートを受けて更に飛躍する為に意気を高めていく。少なくとも遺物襲撃犯と戦闘する前にファナから引き止められた時のような、オルトを心配するような表情を、ファナは一切浮かべていなかった。それは今のオルトであれば、1人で巨大な警備機械程度ならば、安全で楽観視できる程度の難易度の敵でしかない。

 無意識下にあるその認識が、オルトを更に優勢にさせる程の安心感を与えていた。

 

 

 程無(ほどな)くして、点在していた全ての機銃を破壊された警備機械はオルトへの攻撃手段を大きく制限された。残っているのはその巨体という大質量と左右のミサイルポッドだけだ。新しく機体表面に機銃を生成するにしても、その予兆をオルトが見逃すはずもなく、機体内で予備の攻撃方法を保有していようとも、それを体外へと排出するにもその為の予備動作が必須になる。

 オルトは対象から距離を充分にとり、移動を止めてミサイルポッドの発射口をランダムに、且つ正確にそれぞれの開口部の中央を銃撃して展開する余裕を与えず、相手の攻撃手段を絞るように動き始めた。

 

(……まぁ、攻撃手段を絞らせればこんなものかな)

 

 オルトは交戦中、適宜行っていたミサイルポッドへの銃撃を片手のみの銃撃に変え、右手のK2R複合銃から手を放し背中に意識を向ける。防護コートの金属片が一部分離して隠れている収縮した威力特化型K2R複合銃を表に出すと同時に展開した。一瞬でその形を本来の姿へと変形することでオルト自身の身長よりも大型の銃が現れる。変形後の銃を握ったオルトはその場から素早く跳び退いた。

 それまでオルトの居た位置に、オルトの背程はあるミサイルが着弾してその大きさに見合う威力の爆発を起こした。

 

(さてと、ここまで来たら流石にもう手札は割れたよな? ……制御装置が感情を持つのかは知らないけど! 散々おちょくったんだ! 感情的思考があるなら是非とも溜まった鬱憤と共にミサイルを撃ちまくってくれ!)

 

 激しい連射による弾幕の圧力が半減したことで、警備機械のミサイルポッドがその開口部を展開して無数の小型ミサイルをオルトに向けて発射する。オルトが退避したことで更に銃撃の圧が下がったことで展開可能な開口部が増加する。ミサイルポッドから発射された無数のミサイルが、勢いをそのままに後部のスラスターによって自身の軌道をオルトに向けて再修正して飛んでいく。

 オルトは後退しつつ両手のK2R複合銃で追走してくるミサイルの迎撃を行う。それぞれの強度も大したことがない為撃ち落とすことに難儀はしない。ある程度の誘導性を持ったミサイルはオルトへ狙いを定めてしつこく後を追うものとオルトの逃げ場を無くすものの二つに分かれており、オルトはその差異を情報収集機器で取得して、後部のスラスター晒した瞬間を精確に捉え、自身に迫るミサイルを優先的に連続で銃撃した。

 一つ、また一つと破損して役目も果たせずに室内に残骸として散らばっていく。

 ミサイルの幕の中央部分を強引に抉じ開け、右手の威力特化型K2R複合銃で標的へと狙いを定めたオルトは周りの時間が停止したかのような意識の中で、開口部から射出され始めたミサイルへと精確に銃撃を行う。

 オルトの持つ銃の中でも突出した威力を誇る銃から撃ち出された高い貫通性能を持つ銃弾は周囲の爆発の影響下でもその弾道を歪めることなく進み、射出されたばかりのミサイルを容易に貫通した。

 そこへ後に続いた大量の銃弾がそのミサイルポッドの内部機構まで到達し損傷させる。

 オルトによって激しい爆発が誘起させられた結果、開口部付近の装甲が歪み、更に射出準備に入っていたミサイルも誘爆し、装甲の内部で大爆発が引き起こされた。そしてその被害は本体にも波及し、耐久力が一気に低下する。

 二つの戦力の大幅な低下の要因が重なったことで、一時的に均衡し始めていた戦況はどうしようもないほど大きく傾いた。

 

(よし! これならいける!)

 

 オルトは、片側が大きく損傷したことで明らかにミサイルの量が減少したのを理解すると同時に駆けだす。

 今までは警備機械の正面に立ち、ミサイルポッドへと都度牽制をしながらの銃撃を繰り返し、敵の戦力の低下を続けていた。しかし今、それは必要無くなった。

 破損したミサイルポッドの方向へと回り込んだオルトはそのまま警備機械が体勢を整える前に接近すると、その機体表面へと苦も無く着地する。

 迎撃の為の銃撃は既に止めているが、機体を挟んだ反対方向から健在なミサイルポッドから射出されるミサイルが、警備機械の巨体を回り込んで来る迄は時間に余裕があった。その時間を最大限利用してオルトは破損箇所へと駆け上がっていく。

 回避先に常に気を配っていた結果、今の警備機械の位置は広い室内の中央に近い。オルトをすり潰さんと壁へ突撃出来るような時間は無く、体表に取り付いたオルトを引き()がせるような武装も既に残骸へ変わっている。

 オルトが非常に安全となった敵の懐の中を昂然と進んでいく。目当ての位置まで移動する為の時間制限は勿論ある。それでも今のオルトの体感時間に比例した移動速度に対しては非常に猶予のある距離だった。

 ほんの僅かな時間で負傷箇所へ辿り着くと両手の銃の標準を機体内部を覗ける穴へと突き付ける。

 

「これなら通用するよな?」

 

 両手の銃に装填してある拡張弾倉の中身を全て吐き出すかのように大量の銃弾が撃ち出されていく。

 強固だった装甲の破損箇所への超至近距離の連射によって容易に機体内へと侵入し内部機構を次々と破壊していった。

 そしてオルトは引き金を引いたまま、足場保全機能を切ると同時にその場から後方へと跳躍する。情報収集機器で視界の外の状況を正確に掴んでいたオルトは、銃の反動抑制機能を意図的に低下させた。結果として、銃撃の反動で自身の通る軌道を調整しつつ、背後から迫りくる大量のミサイルの僅かな隙間へと身体(からだ)を潜り込ませる。身体(からだ)のすぐ横を通過するミサイルの起こす強い気流も、オルトは体表に張った力場装甲(フォースフィールドアーマー)によって頭部を守り、更に後方へと移っていく。

 自身を追い詰める強力な侵入者を確実に殺す為、数が揃うまで待機命令を出され、空中で漂っていた大量のミサイル群はその悉くが躱された。オルトの背後にあった待機状態のミサイルは無くなり、後部を晒した状態でオルトの視界の中でゆっくりと警備機械へと近付いていく。

 オルトは、本体へ近付いたことで軌道を逸らそうとし始めたミサイルから順に銃撃して爆発させる。更にその被害を増やすように周囲のミサイルへと標準を逐次変更して引き金を引き続けた。

 警備機械よりも遥かに小さく、一つのミサイルよりも背の低いオルトを殺す為だけに用意されていた大量のミサイルは、オルトが先程までいた場所、その小さな的へ、警備機械の破損箇所へと弾頭を向けていた。意図的に引き起こされた大量のミサイル群による一点集中の大爆発によって強烈な爆風が広い室内で吹き荒れ、爆煙が室内全体を薄く包み込んでいく。

 

 

 眼前で起きた爆発によって発生した強烈な爆風を受けたオルトは、後方へと更に勢い良く吹き飛ばされたが難無く着地して爆心地を注意深く探る。

 

「……これで終わりだな」

 

 オルトの視線の先には警備機械の脚部だけが残っていた。上体部分は大小様々の部品となり周辺に散らばっている。

 脚部のみが動く可能性もあったが、その様子は見受けられず警戒したまま数分が過ぎた。

 

『終わりでいいんだよな?』

 

 戦闘は無事終了したと判断して念話でファナへ呼び掛ける。

 

『はい。目立った負傷も無く無事勝利出来たようで何よりです』

 

 戦闘中は一切のサポートを行わない為にと姿や声まで消していたファナがオルトの視界に戻ってくる。

 

『まあな。今回持ち込んだ中でも結構値の張る方の物資なんだ。身体能力や力場装甲(フォースフィールドアーマー)の出力も問題無しだ』

 

 オルトはその事に安堵し、大きく息を吐いてから消費した弾倉とエネルギーパックの交換作業に入った。戦闘開始時には膨らんでいたバックパックもその容量は3割を切っていたことに苦笑しながらも、消耗品をケチった分だけ死に近付くと知っているオルトは、残量の残っていた弾倉とエネルギーパックを迷うことなく交換した。

 以前の装備よりもずっと強力な武装。高い防御性能を有する防護コートによって爆風を受けても、被弾したとしても力場装甲(フォースフィールドアーマー)が威力を殺し負傷までは持っていかなかった。

 

『もう少し高めの商品に変えた方が良いかもしれませんね。弾倉交換の時間を射撃に充てられればもっと素早く倒せたでしょう』

『分かってるよ。でも流石に再起用の預金(まで)使う必要性は無いだろうし、これ以上高い製品ってなると俺のハンターランクだと割引き率も低いし赤字になりそうだしなー』

『それなら、しばらくの間はハンターランクの上昇に努めましょうか』

『……そうなるよな』

 

 今の戦闘を振り返りつつオルトは改善点を模索していた。難無く勝てたとは言えど、賞金首ですらないモンスター相手に時間を掛け過ぎたとも思っている。少なくとも敵地では素早く制圧しなければ何時の間にか囲まれていたという状況に陥るだけだ。

 もしもの話ではあるが、今回の戦闘中に遺跡内の警備機械が集まって来た場合オルト個人での突破は困難になっていた可能性が非常に高い。小型であってもそれぞれが過合成スネークに損傷を与えられるほど強力な武装を保持しているのだ。室内に展開でもされたら厄介極まりない。

 

(……そういえば、どうしてこんなに激しく戦闘していたのに警備機械が来ないんだ……?)

 

 不思議に思ったオルトは通路の先を軽く探ってみるが、それらしい反応は発見出来なかった。

 周囲の状況を訝しんでいたオルトをファナが覗き込む。

 

『ではそろそろ遺物を手に入れましょうか』

『……それもそうだな』

 

 ファナの発言によりオルトは今の思考を横道に寄り過ぎた物として一度保留とした。

 それが異常だとは感じていても証明出来なければただの妄言にしかならない。そしてオルトには証明に足る証拠を持っておらず、知識も持ち合わせていなかった。

 

 

 オルトは警備機械の部品によって散らかされた室内を歩き、凹凸の無い壁付近まで移動する。しかし目の前には緩やかに歪曲した壁面しか映っておらず、その先を探ろうにもオルトの情報収集機器ではその先を捉えられなかった。

 

「……なあ。本当にこの先に遺物があるのか?」

 

 オルトがそう問い掛けるとファナが壁へと腕を伸ばし指を鳴らす。オルトにしか聞くことの出来ない音が響いた瞬間、目の前の壁に縦の亀裂が入り左右に分かれていく。

 その様子に楽しそうだなという感想を抱きつつも、オルトは内部に有るであろう遺物の山に胸を膨らませている。

 オルトの情報収集機器にはその先に存在する遺物の保管されてある大量の棚を認識した。しかし、オルトの表情は非常に険しく変化しており、扉と変化した壁面に滑り込める隙間が出来た段階で内部へと全力で疾走する。

 

『……ファナ!?』

『折角の遺物が傷付いては事ですからね。手早く済ませましょう』

 

 その存在を知覚した時点で、オルトは極度の集中により体感時間の圧縮を始め、世界の速度を限りなく落としていた。それとは別に浮かんだ対処法の内、一番安全と思われる手を打とうとした瞬間には既に強化服が勝手に動き、強烈に床を蹴り付けて倉庫内へと足を踏み入れていく。それはファナの操作による疾走だった。

 急にファナがオルトの強化服の操作し始めた為、全身に鋭い痛みが走る。既に先程の戦闘中の疲労や軽い負傷を治す為に回復薬の鎮痛効果は失われていた。だが、その激痛も奥歯を噛み締めて無視し、その動きに合わせていく。強化服に搭載されている着用者への負担減少性能を投げ捨てることによって得た強力な身体能力を駆使して、弾丸の様に駆ける。反動として踏み出す(ごと)に、蹴り付ける毎に床へと小さなヒビを刻み、両脚の筋線維や神経、骨組織が()()ぜにされてしまう。たった数秒の挙動の中、強化服の両脚部分だけが無事と言えた。

 壁面が扉として開き始めた時、倉庫の中央には巨大な砲塔を備えた機械系モンスターが佇んでおり、既にその照準をオルトへと向けていたのだ。オルトはそれが内部から開きかけの扉に当たることで発生する衝撃の余波を想定して苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべ、内心でファナが実行し始めた対処方法に激しく同意した。

 オルトの両腕の腕輪からブレードを素早く生成すると同時に、強化服のエネルギーパックから過剰に供給されたエネルギーによって青白く輝き始める。

 オルトの視線の先で、機械系モンスターは照準の再調整を行なっていた。高速で接近しているオルトを正確に狙って着弾させることは不可能。その次善策として牽制の意味も兼ねた移動予測地点への砲撃へと切り替え始める。機械系モンスターが砲身の内部を光らせ発射準備を完了させて次の瞬間には攻撃が放たれるという瞬間、オルトは限界まで圧縮した体感時間の中で、構えた刃を全身全霊で振り下ろす。

 高速で振り下ろされたブレードは、切っ先から大部分が分離し機械系モンスターに襲い掛かり、斬り裂いた。

 エネルギーを過剰に供給された金属片は溶解しつつも非常に強力な対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)機能を(たも)っており、機械系モンスターの力場装甲(フォースフィールドアーマー)容易(たやす)く斬り裂き、機体内部を更に明るくさせる。その光量は並の程度ではなく、そこから測った防御性能はオルトの持つ武装の中であれば、腕輪で生成するブレードでなければ倒すまでに相応の時間を要するだろうと思わせる程だった。

 砲塔を通過中の砲弾は外部へ発射されることなく、内部で爆発し機械系モンスターが展開していた力場装甲(フォースフィールドアーマー)によって外部に影響を漏らすことなく、機体に(とど)まらず積み込まれていた砲弾にも衝撃を与える。

 結果、まるでその機械系モンスターの型を取るように隔離された内部で、逃げ場の無い爆発の連鎖が起こり、数秒と経たず、呆気なく残骸へと変わっていた。

 機械系モンスターが自身の砲弾によって自爆していく光景を唖然としながら見ていたオルトは、身体(からだ)中に走る激痛によって我に返り、即座に回復薬を取り出して服用する。口内で溶け出し消化器官内で順に体内へと浸透し、鎮痛作用が即座に効いた後、全身を走るように刻まれていた微小な骨のヒビや筋線維の損傷を修復していった。

 オルトは取り敢えず両手にK2R複合銃を握り倉庫内部を警戒する。ブレードはファナによって既に腕輪へと形を戻していたが、片腕分しか残っていない。

 そして、先程の攻撃の意味についてファナに尋ねる。

 

『ファナ。今の攻撃は意図的に両断しなかったのか?』

『はい。制御装置の一部を損壊させる程度に抑えた結果です。発射された砲弾を斬っても同じように勝利を収められましたが、その場合倉庫内を激しく損壊させる可能性がありました。よって制御装置の力場装甲(フォースフィールドアーマー)関連の部位以外を損傷させ展開されていた力場装甲(フォースフィールドアーマー)内部で自壊して頂きました』

 

 ファナが下した判断の合理性を聞きながら、オルトは今の自分には戦闘においてどれだけの自由度が存在しているのかと頭を悩ませていた。

 局所的な場面だけではあるが、先程の警備機械よりも厄介だったのは間違いない。だが、ファナはその相手に対し些事を済ますような感覚で勝利を収めてみせた。

 一連の流れの最中、終始微笑(ほほえ)みを絶やさなかったファナを見て、今回の事は単に事を素早く、そして周囲への影響を可能な限り少なく済ませられる手段を取っただけに過ぎないのだと理解させられる。ファナの要求する強さがどれだけ高いのか、その頂など未だ(はか)れないことを改めて思い知り、オルトは溜め息を吐きつつも倉庫内の遺物が砲撃の被害に遭わずに済んだことを、今は喜ぶことにした。

 

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