リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第二十五話 稼働し続ける現世界と旧世界

 

 オルトが荒野(こうや)仕様の大型車両で荒野(こうや)を移動していた。

 車両の荷台には荒野(こうや)仕様の大型バイク、消耗品とされる弾薬やエネルギーパック、荒野(こうや)での精神面の安定化を図る(ため)に少々値が張るがそれでも構わず購入しているハンター向けの携帯食料などが積まれている。

 その中でも銃弾が過半数を占めており、その総量は本来であればオルトの車両であっても容量過多に陥る程の数になってしまう。しかし、拡張弾倉という内部に込められている銃弾の体積を格段に縮小させる製品によって、その両は傍目から見ればリュックサック数個分ほどしかない。

 その銃弾のほとんどは先日オルトが遺跡探索を行ったユウセツ駅遺跡では機械系モンスターが大量に配備されていると予測出来たために、対象と銃弾の接触地点の面積を減らし、着弾時に発生する銃弾自体への衝撃を減らすことで、その貫通性能を高い状態で維持したままモンスターの体内へと侵入させることを主な要望として製造された対機強装弾だった。

 ユウセツ駅遺跡では入り口付近や侵入が容易になる地点があれば、そこを利用して遺物収集にも精を出せればと思っていたが、ファナが居なければ長い通路を進み、その先で全長20メートルを超え、大量のミサイルをあまつさえ閉鎖空間である室内で大量にばら撒いてくるような警備機械がおり、安全な遺物収集の為には倒しておく必要が有る。再配置の周期など知ることは出来ないが、遺物収集の度に毎回戦ってなどいられない。

 その(ため)、何度も遺跡へ遺物を収集するにしても、今よりもっと余裕に且つ更に大量に遺物を回収できる目途が立つまでは見送ることにしたのだった。結果、機械系モンスターに高い優位性を保持する弾薬だけが大量に余ってしまう。

 エネルギーパックなどの他の装備、車両などに転用することも不可能な(ため)、それらを考慮に入れての遺跡探索先を選択していた。

 これらの理由に加え、アキラもまたリオンズテイル社の端末設置場所について知っている可能性もあり、荒野(こうや)で偶然何度も遭遇するという事態を避ける(ため)に一時的に未発見の遺跡探しは中断することにしたのだ。

 

「目的地までは2時間弱か。クガマヤマ地方って結構な広さしてるよな」

 

 オルトが車の制御装置に表示されているナビゲーターを見ながら呟く。

 

『周辺の遺跡の難易度の幅、隣接する他都市との距離感、都市自体の発展具合に占有面積。どれを取ってもクガマヤマ都市の位置する場所は都市経営を担う者達からすれば好立地な条件が当てはまっていますからね』

「そういうもんか? ……そういうもんか。クズスハラ街遺跡の外周部は駆け出しハンターが稼ぐには遺物の量はともかく、モンスターの脅威度はそこそこだし、戦闘経験も積める。……他の遺跡も難易度に関しては著しく逸脱したような場所もないもんな」

 

 以前クガマヤマ都市はクズスハラ街遺跡攻略の前線基地の役割を持つ様にと五大企業の一つである坂下重工が資金を出したのだとファナから聞かされていた。であるならば納得も可能だ。五大企業傘下の中小企業が荒野(こうや)の一部を自らの経済力増加の(ため)に建て揚げるのとは意味が大きく異なる。

 どちらも東部の発展と拡大に繋がるとしても五大企業の様に資金や伝手(つて)、更にはその強大な武力によって整備されれば同じような影響力を持つ企業でなければ口出しすら叶わない。

 そんな都市経営に対し明確な妨害行為を取れば、最悪坂下重工がその鎮圧、更には経済を潤滑に進ませる東部全体の意思決定に反していると見れば周辺一帯を更地にされる可能性すらある。

 そんな背景もあり、他都市よりも広大な占有領域を保持していても明確な妨害を受けることは無い。

 

「その(うえ)まだまだそこら辺に未発見の遺跡が隠れてる可能性もある、と」

『私達の場合はリオンズテイル社でしたが、もしかしたら他企業の端末設置場所を記録していた旧領域への通信端末も、という事もあるかもしれませんね』

「もしそれが当たってたとしたらここら一体どころか東部全域が遺跡だった何てオチもある訳だ」

『ふふっ。そうかもしれませんね』

 

 オルトは前方を肉眼では確認せずに窓の外へ視線を向け、車両の索敵機器と強化服の情報収集機器を併用して広範囲且つ高精度の地形情報による運転技術の向上を図っている。安定した運転を長期間行うことが可能になれば、それだけで車両上での銃撃精度の向上に繋がるからだ。

 たまに遭遇するモンスターの頭部を弾けさせながら暫く走らせていると、空中に矢印が浮かび上がった。その周辺には一応、瓦礫が大量に散乱している事が、かつて周囲一帯に綺麗に街道(かいどう)が引かれ経済区域の一つだった事が推察できる。

 それと同時にそのような街並みはかつての光景であり、現在では見る影もない程に廃れている事実を如実に物語っていた。

 

「……あそこも昔はリオンズテイル社の端末が設置されるような施設が建ってたのか」

『今は何も(のこ)っていませんがね』

「時間は相対的で平等に残酷だからな。仕方ない仕方ない。そもそもここに未発見の遺跡があっても今日の予定を変更する気は無いしな」

 

 空中に矢印が向いているという事は、その場所にはかつてビルなどの建造物が建っていたと予測可能だが、そうなれば目立つ印となり、他のハンターが(こぞ)ってやってくる。

 1人が遺物を収集すればその後そのハンターが尾行され、遺跡の位置がバレる可能性が跳ね上がり、最終的には遺物は完全に回収されハンターにも都市にも見向きされないような場所に変わるだけだ。その一例もまたクガマヤマ都市周辺に存在しており、感傷を覚える良い機会でもあるのかもしれない。

 

「ファナとの接続が切れる可能性のある地下の遺跡は基本的に後回しにするとして、そうなると結構候補地は減ることになるか」

『今回の目的地は地下でもなく、遺跡の場所を探す(ため)に後をつけられる恐れも限りなく低い(ため)、私達にとってはとても都合が良いと言えますね』

「今後もそんな都合のいい事ばかり起こってくれたらいいのにな。……今更だけどその装備って防御性能とかどうなってるんだ? 露出面積が広すぎる気がする。あれか? サラみたいな身体強化拡張者とか義体使用者が併用するタイプの戦闘服なのか?」

 

 相も変わらず着用する服装が旧世界基準なファナの格好は、現在胴の両端と腕部の内側、脚部に至っては関節部以外は真面な布地すら存在していない程に露出度の高いボディースーツのような戦闘服だった。身体の重要な局部のみを隠さんとばかりに幅の細い布などで接合されているが、焼け石に水をかけた程度でしかなく、大胆に露出させるだけでなく、絶妙に隠すことによって(かも)し出される妖艶ささえもオルトにとっては計算された武装の一つの様に感じさせられている。

 それがファナがオルトを揶揄(からか)うために着用するような種類の一般的な衣服ではないと判別出来たのは、ファナの周囲に浮かぶ二(ちょう)の少々歪な形状をした大型の拳銃のおかげでもあった。

 

『これは基本的に力場を用いた装甲での防御に比重を置いている商品です。オルトの強化服にも採用されているように皮膚の表面ではなく、表皮に同化する様に展開される為、柔軟かつ高い強度を誇ります。その為エネルギー変換効率の良い素材をふんだんに使用されているのです。攻防どちらも使用するのはエネルギーを用いた物のみであり、物体のある弾薬を使用したりなどは致しません』

「その浮いている銃は何なんだ? 力場装甲(フォースフィールドアーマー)の技術を応用したものなのか?」

『そちらについてはオルト自身で見抜いて貰えることに期待していたのですが?』

「そう言われて、も……。ん? んん?」

 

 オルトはいつものやり取りだと挑発に乗って自身の情報収集機器などを駆使する。言われたことでオルトの無意識での演算処理に使用される回路へと、ファナから送られる人間には精確に知覚出来ないほどに緻密で膨大な情報が流れていき、無意識的にオルトの脳が勝手に精査し必要な要素のみがピックアップされていく。それによって算出された情報が一種のログとして残り、オルトの脳から強化服の情報収集機器へ情報の共有が()され、演算資料の一つとして処理される。すると表示装置上にファナの姿が表示され、ファナの背部から透明な紐のような物が伸び、その先端に大型拳銃が装着されている事実が視認可能になった。

 ただしそのファナの容姿は普段からオルトの拡張現実上に映るファナよりも、数段現実味がないように感じ、オルトは僅かに眉を顰める。

 オルトの表情の変化から、無事発見出来たことを理解したファナが説明を続ける。

 

『これがこの戦闘服に付属する補助アームですね。初期状態(デフォルト)で高い迷彩機能が搭載されており、同時に高い形状変化性を持っている(ため)、着用したまま何かにもたれかかったとしても装着者に一切の違和感を抱かせません。他にも拡張パーツは多種多様に販売されており、義手による追加の腕部や戦闘用の外部ユニット、飛行用の推進装置や本人が小人に見える程に巨大な個人携帯用の大砲のような銃火器、人型兵器への接続端末としての使用など目的によって、同種の製品であっても最終的な形状は多岐に渡ります』

 

 その説明を聞きながら、オルトが脳内でファナの格好を主軸に置き、その周囲にファナの着る戦闘服へと現実的に接続可能な多種多様の装備を思い浮かべていく。

 ボディースーツの、まるで見せつけるかのように露出した脇や鼠径部(そけいぶ)などの関節箇所に、更には大きく開いた背面や胸の谷間などに開いている穴にも同様の意味があると仮定して、それをする必要性を満たす物を挙げていく。

 するとファナの背後から、人が持つには無理があるほどに巨大な多連装砲マイマイの背に付いていたような大砲を握る金属質の義手が伸び、それが地面と接触しないで済むように空中浮遊を可能とさせる金属の翼が生える。

 上半身の過剰な武装に比例するように下半身にも武装が追加されていき、脚部には飛行を更に加速させるブースターが取り付けられ、腰の両側からはそれぞれが消費してもしきれない程にエネルギーを供給し続ける為の管が伸びて繋がった。

 

「……うん、無いな」

 

 最終的に装備を含めたファナの全長は軽く数メートルはあった。無理して人型で戦う事に(こだわ)るぐらいであれば、そのような武装を前提とした重装強化服を用意するなり人型兵器に乗り込むなりすれば済むはずだと判断して、思考を中断した。

 そこでファナが楽し気に微笑(ほほえ)む。

 

『案外そうでもないですよ? 実際に近い物は想像出来ていましたからね』

「えぇっ!? あんなのが?」

『はい。近いもの、ですが。オルトの想像した装備や要望道理の威力。どれも旧世界の技術を用いれば再現可能です』

「……技術的に出来るからってなんでそんな露出をするんだよ」

『そこは感性の問題かと。もっと東側の、それこそ東部の最前線付近で活動しているハンターなら、日常的にそういう格好をしていても不思議はないでしょう』

 

 純粋な旧世界製の品ではなく、それを()して製造された衣服や戦闘服。いわゆる旧世界風と呼ばれる商品達は、現代製の品であったとしても、冗談のような煽情(せんじょう)的で蠱惑(こわく)的なデザインをしている物も少なくない。これは旧世界製の商品が、たとえ戦闘服でなくとも現代の感性を妥協させるほどに高性能な為だ。

 着用に度胸が()るデザインであっても、高性能()つ同価格帯で比肩(ひけん)可能な製品が無いとなれば、リスクヘッジを優先して目を(つむ)れる。その判断で、今まで多くのハンターが見た目を度外視して旧世界製の戦闘服を使用してきた。

 結果として、装備の性能の印象と見た目の印象が混同される事例が増えていき、蠱惑(こわく)的な、煽情(せんじょう)的なデザインのものほど高性能だ、という印象が(ひと)り歩きを始めたのだ。今では武力的には劣るとしても、戦闘を避ける(ため)に敢えて同様の格好をする者まで出て来ている始末。

 そのデザインセンスを前提条件として、胴体部で過剰な色気を(かも)しつつ、四肢(しし)へ目を向ければ強力な武装を装着し、蠱惑的に、武力的に、各方面から見ても、強そう、という印象を与える事に特化した装備を選ぶ選択肢は十分存在する。ファナがそう言って説明を締めた。

 

「えぇー……。ってことは東へ東へって移動していくとほぼ裸体の人間が縦横無尽にモンスターを屠る場面に遭遇するのか? 男女関係なく? 高い回復薬の効果も相成って年齢の幅も開いてそうだな。……地獄かな?」

 

 オルトは顔を引き攣らせながら呟く。

 以前感じた自身の感性の歪みは未だに常識の範囲内で留まっていてくれていると感じたオルトは安堵を覚えていた。ただしその基準はオルト視点でしかないことには目を瞑っている。

 結局、一歩間違えれば淫猥と思われてもおかしくないようなデザインで設計された理由の方は説明されず、オルトもそれに気付くことなく車を走らせ続けた。

 

 

 目的地に近付くと人だかりが遠目に映る。

 車両に複数人で乗って移動している者達や周囲を警戒しながら集団で遺跡の方へ歩みを進めていく者達、果てには荒野(こうや)へと売買をしに来た者達も目についた。

 彼等の活動の原動力となる場所もまた視界の両端をはみ出してしまう程に、オルトはその当時の光景を色濃く残す旧世界の都市の一つへと接近していた。

 

「あれがミハゾノ街遺跡」

 

 ちょうどその時、オルトの車両を追い越すように荒野(こうや)仕様のバイクが通り過ぎていく。操縦者以外にも同乗者がおり、その者達で組んでハンター稼業に臨んでいるのだろうと推察できる。

 

『結局諦めたようですね』

『全くだ。……ユウセツ駅遺跡から帰りの道中でも見られたか? もしくは土砂降りの中荒野(こうや)仕様車両を都市で走らせてたのを怪しんで尾行を決意したか? まあ、ヨノズカ駅遺跡の件もあるし一発当てたいってのも分からないでもないけどさ』

 

 高価なFARBE製の強化服を着用した若手のハンターが未発見の遺跡で遺物収集を行っているという噂が以前、クガマヤマ都市で広がった。しかし、直後にヨノズカ駅遺跡の発見と賞金首の騒動によって興味の対象は移り変わる。

 賞金首が徘徊(はいかい)する中、荒野(こうや)に出てまで未発見の遺跡を探索はしないだろうと考えるのが普通だ。だが、その障害が排除された現状であればと考えたのだろうと推察できるが、残念ながらオルトは既に未発見の遺跡への興味を粗方失っている。

 噂の元となったであろうグレイはリオンズテイル社の端末設置場所を探すことは不可能とは言わないが、広い荒野の地面を全て掘り返すなどという芸当は現実的ではない。オルトと同様にリオンズテイル社の端末設置場所を探すことが可能なアキラはFARBE製の強化服を使用していない(ため)、少ない情報しか持っていない者達では後をつけたところで徒労に終わる以外なかった。

 そんな彼等の後姿を目で追いながら、そのまま遺跡周辺へと眼を向ける。

 

『この時間帯でも結構な数のハンターが居るんだな。都市から離れてる方ではあると思ったんだけど……』

『その理由はあれでしょうね』

 

 オルトは手で示された方向へ眼を向けると、そこには遺跡の建造物とは少々造りの違う建造物が遺跡の外周部から少しずれた場所に建っていた。

 

『ハンターオフィスのロゴが付いてるな。そういやハンターオフィスの駐車場を利用する場合みたいな項目があったっけ……。荒野(こうや)に? 態々? って戯言の一種だろって流した一文があった気がする……』

 

 オルトは遺跡探索へ行く前に軽くであろうとも一応の情報収集を行う。それでも、荒野(こうや)で職員を危険に(さら)しながら運営してもしょうがないだろうと判断して読み飛ばしていた。

 その困惑を解消する間も無くオルトは車が駐車場の近くへ接近した(ため)、一度停車させる。そのまま次の行動をどうするか迷っていると、警備の男が近付いてきた。

 

「おい! そんなデカい車をこんなところに停めるな! 邪魔だろうが!」

「あっと、そうだった。すみません」

 

 オルトが素直に謝罪を口にして車を移動させようとする。その様子を見ていた男がいつもの事だと察して、面倒事を増やしたオルトへ向けていた悪感情を霧散させてマニュアル通りに業務をこなす。

 

「ここへ来るのは初めてか?」

「ああ。そうなるんだが……」

「そうか。それなら駐車場を使う事を勧めておく。ここら辺に無秩序に止められると通行の邪魔になるからな。ただ車を停めるだけに金を払いたくないってんなら、そうだな……、最低でもあの辺りまで離れてくれ」

 

 男はそう言って、少し離れた位置にポツンと立っている建造物を指差した。

 オルトがその方向に眼を向けながら尋ねる。

 

「結構適当だな……。それでも駐車場を使う奴はいるんだよな……? まだ朝方を過ぎたって時間なのに結構停まってるし」

 

 駐車場には3割ほどの面積を埋める様に多数の車が停車していた。その内十数台はハンターオフィスのロゴが刻まれており、クガマヤマ都市の企業ロゴも散見出来ることから、この出張所に常駐する職員もそこそこいる事が窺える。

 その車両を除外して考えても、敷地(しきち)の広さから考えれば、外部の利用者の数も相当数に登るだろう。

 男が毒気を抜かれたように軽く笑ってオルトの呟きに返す。

 

「一応、頑丈な造りの屋根も付いてるし、ここで稼げる奴等なら痛くもない金額だ。それにこの遺跡周辺にはハンターオフィスの出張所とかもあるからな、ハンター以外にも、常駐してる職員とか、ハンター相手に商売しに来るやつらも使ってる」

 

 オルトも男が指し示すハンターが使うには耐久性に疑問の残る車両を見ながら説明を聞き続ける。

 

「それにここは荒野(こうや)だ。言っちゃ悪いが良識に欠けた馬鹿が現れないってことも無い。それでもハンターオフィスや都市の管理する駐車場の車に手を出す程の馬鹿はいない。一応警備員もいるし、監視カメラで常に監視もしてるしな」

 

 オルトも聞き手に徹して頷きを返す。荒野(こうや)では安全に走行させる事すら困難なのだ。であれば荒野で長時間停車させる安全性にはそれだけの価値が付くのだとオルトも良く理解していた。

 

「まあ、それでもたまーに手を出しちまう馬鹿もいるんだが、全員お気の毒な末路を迎えていったよ。そんな訳で、利用者は結構居るんだ。お前も使うなら、受付はあっちでしてるからな」

 

 男は駐車場を施設している存在意義を、恐らく今日やっとミハゾノ街遺跡での活動が可能になったであろう新参ハンターへの親切心で以て教えると、受付所の場所を指差し、そのまま自身の持ち場へと戻っていった。

 

『……、間違いなく装備だけ揃えた若手ハンターの1人って捉えられたんだろうな』

『でしょうね。しかしそのおかげで色々と教えて貰えましたし悪い事ばかりではありませんでしたよ。……それで駐車場の方はご利用になるので?』

『うーん、……ま、運悪く車上荒らしに遭遇したなんてことを避ける(ため)に使おうか。値段もそこそこだしな』

 

 ただでさえ一定の安全すらも保障されない荒野(こうや)で、モンスターだけでなく他者へ要らぬ警戒迄していられない。停まっていようと走っていようと窮地に陥る時は一瞬だ。オルトの今までの経験がそう(うった)える。冗談で呟いた言葉が事実にならぬように駐車場の受付へと向かう。

 受付では、支払手続きを済ませて車を敷地(しきち)内へと停車させる。料金踏み倒し防止の(ため)に、ハンターオフィスの口座から直接引き落とす形式となっていた。

 

『帰りに手続きを忘れると、システムによって勝手に口座から使用料金が引かれ続けるのか。……これ、遺跡内で遭難なんかしたら金を吐き出すだけの存在に成り下がるのか』

『使用者のいなくなった金銭の有効活用の一種ですね。それが嫌なら遭難時の救援保険も同時にって勧められていましたし、そういう事です』

『換金もこの場で出来るようにってハンターへの配慮もされているんだ。その他にも色々やってる訳か』

 

 車から荷物を選別して身に着けていく。補助アームを強化服の膂力(りょりょく)で押し込み、過不足無く同じ力で押し返させて正常に機能していることの再確認を行う。腰に下げたK2R複合銃が2(ちょう)と、オルトの全力の戦闘に耐えうるバックパックと保険としてのリュックサックを背負う。

 

『うーん、やっぱり一見するだけでも一端のハンター程度には成ったつもりだったけど己惚れだったか?』

 

 先程の警備員には見縊られた訳でも見下された訳でもないが、オルトの基準からすれば、自分と同じような装備をした人物が近付いて来れば最低限の警戒をすると自覚している。その部分が僅かに引っ掛かっていた。

 

『先程の人物もここでの職務も長く、オルトの反応や最近クガマヤマ都市で流れている噂を(もと)に判断したのだと思いますよ?』

『何かそれっぽいことでもあったっけ?』

『ドランカムの若手ハンターの1人が古参派の者達とチームを組み、賞金首の一体を4人で討伐したというものですね』

『あったな。最初に討伐報告が上がった……、タンクランチュラだったっけ? 実際には追加要員を外部で募集して30人ぐらいで討伐したってやつ。酒場で楽しそうに自慢してた奴が居たけど、それが?』

『その際にその若手ハンターが大活躍したというものも幾つか耳にしましたし、恐らくそのハンターが功績にあった装備を貸し出され、はしゃいでるのだとでも勘違いされましたかね』

『うっわー……』

 

 実際オルトの強化服はそれ単品で10億弱のオーラムが軽く吹き飛ぶ高額商品であり、都市の職員やハンターオフィスの職員であれば、都市近郊で使用されている装備一覧に目を通している。

 たとえそれが若手ハンターには手が届かない程に高額な品であろうとも、徒党の財力であれば届き易くはなる。1人の稼ぎだけよりも人数を揃え、多数の依頼を同時に(こな)して収入総額を増やすなどの人海戦術も使える。その上、実績を残せる若手がいるとなれば企業や金融業者から多額の資金を(つの)ることも可能だ。

 それらの資金繰りを行えば、功績を期待出来る若手ハンター1人に一足飛びで実績を積ませる(ため)に高額の装備一式を貸し出すことも可能だろう。

 

『そのような人物との同一視に嫌悪感を覚えるのでしたら早急にランクを上げ、名を広めるしかありませんね』

 

 揶揄(からか)うように提案してくるファナの発言は正論だと思いつつも、同時にオルトは自身の戦闘力に対しての警戒度合いの低さにも着目していた。

 

 

 準備を終えたオルトは駐車場を出てハンターオフィスの出張所へと足を運ぶ。

 出張所は遺物等の買取所も備えており、遺跡から帰って来たばかりのハンターが遺物を買取所に預け、また遺跡の方へ移動する者の姿も映る。買取所の周囲には倒された機械系モンスターの残骸も多く運ばれており、それを確認した職員がハンター証との連携を行い、所有者を登録し、広く作られた出入口から自動で移動する台車と共に現れた別の職員へ運び入れる様に指示を飛ばしていた。

 

『倒した機械系モンスターも持ち帰ってくれば金になるのか。うーん。それだけ高価って事か? でもなあ』

『少なくとも、遺跡の中で倒したモンスターを放置するよりも、持ち帰って売却する方が良いと思うぐらいには高値が付くのでしょう』

 

 ある意味で機械系モンスターは、現在も動作保証がされている遺物でもある。壊れていたとしても現在の技術では再現不可能な旧世界製の素材などを含んでいる可能性も多く、下手な遺物よりもずっと高値になることもしばしばだ。

 少なくともこのミハゾノ街遺跡では、出張所の周辺で商魂たくましくも台車の貸出しや販売、軽く武装した仲間と共に出張所周辺の治安維持への貢献という(てい)の戦力提供も行っている。

 

『もう金になるなら何でもありって感じだな』

 

 都市へ持ち帰るのは面倒だと判断しても、遺跡の側にある出張所までなら持ち帰る。その程度の考えだとしても、それで多くのハンターが遺跡内のモンスターを倒せば、遺跡の難易度はそれだけ下がる。

 遺跡内に残されるモンスターの残骸も倒したハンターが持ち帰る(ため)、遺跡内の移動や情報収集機器での索敵の障害物が減るからだ。

 そうすれば遺物収集も盛んになり、その遺物が持ち込まれる都市も儲かる。そういった意図もあって、少々高値で買い取っているかもしれないと、ファナは補足説明を締めた。

 オルトはそれを聞いて納得を示す。

 

『やっぱりハンターオフィスの出張所を建てるだけあって、色々とやってるんだな。……にしてもやっぱり多い気がするな』

 

 オルトの視界の中でも数十人を超えるハンターが出張所付近で職員と遺物の買取を申し出たり、商人の車両へ上がり、消費した銃弾の補充などを行っている。最低でも眼の前の者達が、遺跡に残っている者達や、別のチームで組んでいる者達を考慮に入れれば、ハンターの総人数は結構な数になる。

 

『どうかしましたか?』

『この遺跡の遺物って枯渇しないのかなって思ってさ。俺達みたいなハンターがそれはもう大勢、その(うえ)ずっと昔から遺物収集に精を出し続けているんだろ? 何年も、何十年も、……もしかしたら百年単位か?』

『正確な期間は不明で、地域差も大きくありますが、最低でも200年近くは続いていますね』

『そんな長期間、同じぐらい大勢のハンターが遺跡から遺物を持ちかえって、よくまだ遺物が残ってるもんだよな。って思ってさ。流石に無くなるだろ?』

 

 その素朴な疑問にファナは淡々と答える。

 

『無くなりますよ? 実際ヒガラカ住宅街遺跡にはめぼしい遺物などもう残っていません。多連装砲マイマイが住み着いていたミナカド遺跡も、遺物を取り尽されて、ただの廃墟になっていました。賞金首の騒ぎでも無い限り同様の賑わいが起こることは無いでしょうね』

 

 例に挙げた遺跡だけに限らず、遺物を取り尽された遺跡は東部に幾らでも存在している。傾向としては東部の西側の地域に多く見られる。その一帯はモンスターが比較的弱いので遺物収集が(はかど)るからだ。

 そして周辺からハンター稼業に支障が出る程に遺物が枯渇すると、ハンターの大部分は新たな資金源を求めて活動拠点をより東へと移していく。東部の発展を支える高価で貴重な遺物を求める統企連も、より価値の高い遺物を求めて荒野(こうや)の開拓を東に進めていく。

 荒野(こうや)を東へ向かうごとにモンスターの脅威度は上昇していき、比例するように開拓費用も高くなる。しかし、見つかる遺物の価値も高くなるので支出に収入が追い付き、帳尻はあっていた。オルトが活動拠点としているクガマヤマ都市周辺も、まだまだ稼げる遺跡が今のところ残っているので採算に問題は出ていない。

 

『そうなるとこの辺の遺物もじきに尽きて、人が居なくなる可能性も無くは無いのか』

『少なくともオルトが心配をしなくてはならないほど早く枯渇することは無いでしょうから問題はありませんよ』

 

 遺物が大量にある遺跡であっても、それらを誰でも持ち帰れるのであればすぐに尽きてしまう。言い換えれば、大勢のハンターが遺物を求めて遺跡に足を踏み入れているにも拘らず、未だに遺物が残っているほどに遺跡のモンスターは強力だ。そう簡単に取り尽されることにはならない。

 また自動復元機能が生きている遺跡は、建物の修繕に留まらず備品等の補充まで行い、店舗等であれば商品の再入荷を、更には建物自体を再建築まで実施する事例も確認されている。

 そして時には何らかの理由で停止していた復元機能が回復した結果、遺跡が丸ごと再構築されることすらある。何も無かった荒野(こうや)に一夜にして新たな遺跡が出現した報告も東部では挙がっている。

 それらの事を話したファナは自慢気に微笑(ほほえ)む。

 

『それらの事情もあります、そう簡単に遺物が枯渇するような事態にはなりません。だから、遺物の枯渇が原因でハンター稼業は東部で廃業した、という事はありません。安心して行きましょう』

『そうか。良かった。……一つ質問なんだがその一夜にして遺跡が再構築って話、クガマヤマ都市周辺でも起きる可能性が?』

『可能性だけで語るのであればありえます。ご安心を、その兆候が確認でき次第オルトを起こして、その場から離れられるように誘導しますよ』

『なら良かった! でも実際そうなったら戦争だろうな』

『事前の話し合いも出来ませんし、敵からすれば急に現れた上、人の敷地(しきち)内で暴挙を働いていると感じるでしょう。同じ場所を取り合うのであれば武力で(うった)えるしかないでしょうね』

『だよなぁ』

 

 オルトはクガマヤマ都市を侵食する様に展開される遺跡を敵と判断した。しかしファナの言葉からではどちらがどちらを敵として見ているかなどハッキリしない。その違和感に気付くことなくオルトは遺跡へと向かった。

 

 

 旧世界の遺跡を、遺物を、英知を求めて今を生きる者達。それらを守って彼等を襲う今ではモンスターと呼ばれるもの達。

 現世界と旧世界の闘争は今も尚続いている。滅んだ国家のかつての領土に我が物顔で住み着く者達と、それらを排除しようと抵抗するもの達の間で繰り返される闘争は、これからも、そして今もまたずっとずっと続いていく。

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