リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第二十六話 無人の兵器たち

 

 オルトがミハゾノ街遺跡の市街区画を進んでいく。拡張視界に表示されている矢印は遠方(えんぽう)に見える高層ビルの上層階を示していた。

 既存の遺跡に残っているであろう未調査部分を、リオンズテイル社の端末設置場所の情報を利用して発見することこそ、オルトが一先(ひとま)ず定めた目的だ。

 取り敢えず矢印の場所を目指し、当たりであればその場で遺物収集を行う。ハズレであれば別の地点を目的と設定して遺跡探索へと変更する予定だ。少なくともこの遺跡内で発見されているモンスターの中でオルトが1人だけで対処するとしても苦戦するような個体の報告はされていない。

 市街区画内であっても建造物が崩れ、その瓦礫が散乱して車両での通行が困難になっている箇所も多いので、今はバイクを車内に残して徒歩で進んでいる。瓦礫で塞がっていようと、付近に足場と出来る建造物があれば、接地機能を駆使して一度壁を経由して飛び越えるので苦にはならない。

 

『にしても、なんであんな高所にあるんだろうな? 見晴らしは良いかもしれないけど、あそこまで階段で登ると考えると萎えるな……』

 

 以前の経験からそこに遺跡の未調査部分が存在している可能性は十分にある。事前に手に入れた地図にも該当箇所の情報は載っていない。正確にはセランタルビルという名称と位置は記載されているが、ビルの内部構造などろくすっぽ載っていなかった。

 もっともその地図はネットに無料で転がっていた程度の確度の低い物だったからという理由も十分考えられる。しかし、その理由の内情は単純に発見が困難な場所だったからというよりも、純粋に到達難易度の異様な高さが(ゆえ)だろうと、推察に至ることはオルトにとって容易だ。

 

『稼働中の遺跡を何個か見たけど、その中でも上位の壮麗さだな。それだけ整備も行き届いてそうだ』

 

 クズスハラ街遺跡の外周部の地下施設、ヨノズカ駅遺跡、ユウセツ駅遺跡など稼働すればその様相を一変させる遺跡の脅威度は計り知れない。オルトの知っている最上はそもそも一つの都市としての機能を残しているファナの管理区域だ。

 オルトはセランタルビルにファナの管理区域にほど近い雰囲気を感じていた。

 ファナはそんなオルトに自信を感じさせる笑顔を向ける。

 

『取り敢えず、接近してみましょうか。他の人は無理でも、私が調べれば案内も可能になるかもしれません』

 

 実際に今まで多種多様な遺跡内でのファナの案内によって、遺物収集やモンスターとの戦闘で生き残って来た。少なくとも確率はゼロではないと分かっただけでも期待できると判断して、オルトは笑って頷く。

 

『あの外観を維持してるほどのビルだし、階段どころかエレベーターとか螺旋(らせん)状のエスカレーターで一気に最上階までとかあるかもな』

『その手の設備の使用はお勧めしませんがね』

『あー、……やっぱりどっか故障してるとか?』

『いえ、ここからビルの状態を確認する限り、自動修復機能は今も稼働していることは確かです。動作自体に問題はないでしょう。ですが同時にビル自体のセキュリティも当然機能しています』

 

 そしてその視線をビルへ向ける。

 

『そもそも私達はミハゾノ街遺跡から見れば、ただの武装した不審者であり、遺物へ、向こう側から見れば商品へ触れた時点で窃盗犯へと認識が変わる程度の存在。歓迎など期待しても無駄かと。それこそビルの設備の使用権があると思いますか?』

 

 説得力のある理由をファナが言い終えると同時に、ビルまでの間に出来ている瓦礫の山が拡張視界上で透過され、下敷きになっている平たい機械系モンスターが露わになる。全身を地面に固定化させ、上に乗っている瓦礫に干渉しないよう丁寧に照準調整を(おこな)っている姿が目に入った。

 その銃口が調整終了と言わんばかりに停止する。銃口から伸びる弾道の先にはオルト以外いない。その機械系モンスターは明確にオルトを認識しており、ハンターという武装した不審者の排除を実行しようとしていた。

 それを見たオルトが僅かに希望論に傾いていた認識を改める。

 

『なるほどね』

 

 長距離狙撃用に製造された銃身から撃ち放たれた銃弾が瓦礫を削り取り、直進する。徐々に重力に引っ張られながら銃弾の先端が(した)(した)へと向いていく。辿る弾道は僅かに歪曲し、標的へと高速で接近し、不審者の排除を完了しようとしていた。しかし、銃弾が辿る弾道予測線のその先には、オルトが構えるK2R複合銃の銃口が既に重ねられている。

 自身へ迫る銃弾を視認しつつ、オルトが自身に着弾する少し手前で引き金を引く。装着されたエネルギーパックから供給されるエネルギーによって、射出速度などを調整された対機強装弾が撃ち出される。同じ弾道を真反対(まはんたい)に辿る銃弾同士が正面から衝突し、その威力と貫通性能の差によって対機強装弾が打ち勝つ。弾速を僅かに落としはしたが、貫通性能の高さと弾丸を撃ち出す銃自体の性能も合わさって当初の弾道から()れることも無く、機械系モンスターが(ひら)いた瓦礫の隙間へ侵入し、機械系モンスターの銃口内部へと吸い込まれるように着弾した。着弾までのたった数瞬、モンスター側もただ着弾を待つことはしない。連続して数発程度は連射していたが、それでも対機強装弾の弾道を狂わすことは叶わなかった。最低限弾速(だんそく)を落とすことに成功。比例する様に威力も落ちる。

 それでもオルトの狙いは銃身の内側。装甲で守れる外部とは違い、内部の耐久力ではその低下した威力であっても耐え切れず、そのまま本体の制御装置まで(つらぬ)き機能不全を起こす程度に内部構造を破壊され、完全に沈黙する。

 ミハゾノ街遺跡の市街区画を巡回している警備機械たちは、今日も招かれざる客達へ対処していた。

 

 

 オルトは自身の訓練も同時に行う(ため)に、場所によっては空中に足場を作り、また別の空中の足場へと移動を何度も行なっていた。そこに無いものを、あると断言出来るほどの確信を強化服を介して、搭載されている機能を十全に駆使する。自分が扱う装備に搭載されているにもかかわらず使用が困難など許されない。

 使わないならばそれでいい。そもそも、そういった余分な機能は過去の事例や当人達の経験から必要と感じられた結果生まれ、積み上げられていった技術だ。使わなければいけない事態に遭わないに越したことは無い。しかし、使えないのであれば話は別だ。

 命に関わる万が一がいつ起きるか分からないのが東部の常識。使える物を持っているのであれば何時(いつ)いかなる時でも使用出来るように備えるべきだという判断で今日も訓練に(せい)を出していた。

 もちろんファナのサポートを受ければ、オルトの動きを更に昇華させた達人級の近接格闘技術での応戦や、引き延ばされた時間感覚の(なか)で空気に粘性(ねんせい)を覚えるほど高速で移動しながらの高精度の銃撃が可能となる。オルトだけでは()()ない精緻(せいち)(きわ)まる挙動を、高価格の強化服を手に入れたことで問題無く行なえるようになった。しかしそれはファナのサポートを十全に万全に受けられることが前提だ。

 もちろんファナはオルトとの契約により、求められれば、オルトのみに危険が生じれば最大限のサポートを実施する。それでもファナとの接続が不安定になったり、そもそも完全に切断された場合、(せま)ってくる危機への対処はオルトだけで行う(ほか)ない。その万が一が来るかもしれない備えとして真面目に訓練に取り組み、時折入るファナからの指摘を聞き入れ、浮かぶ疑問を余すことなく問いかけていく。恥も外聞もない。知っていて常識とさえ笑われるような内容であっても、それを問うのはオルトだけであり、それに答えるのはファナだけだ。

 その関係に他者が入り込む隙は無い。作らせはしない。

 共有されないが、共通の思考だった。

 

 

 訓練場所として利用している市街区画は瓦礫やモンスターの残骸、倒壊したビルなどが不規則に道路を塞ぎ、簡易の迷路のようになっている。

 その上で瓦礫の山のすぐ隣の敷地は不自然なまでに綺麗だったり、完全に倒壊したビルの横には真新しいビルが建っており、少々ちぐはぐな光景にも思えた。

 

『無事な場所とそうでない場所の格差が激しいな。なんでだ?』

『恐らくその境界ごとに警備機械や整備機械の担当区画が違うのでしょう』

 

 それらの機械の性能や整備される時期が担当区画ごとに差があり、その差が明確な形として区画の境目として表れている。

 ()れている範囲では強力な警備機械が配置されていた。そしてハンター達と激戦を繰り広げた結果、戦闘の余波を受け、建物なども纏めて酷く破壊された。若しくは整備機械の性能が低いせいで区画の修繕が破壊される頻度に追い付いていない。綺麗な部分はその逆になる。

 その説明を受けたオルトが頷く。

 

『そうなると……、綺麗な場所は比較的安全か凄い危険かの二択か』

『どちらなのか確認に行きますか?』

『やめとくよ。折角セランタルビルが近くなってきたんだ。遺物の量も質も建造物の外観に左右されるっていうなら、セランタルビルに勝てる場所は無いだろうしな』

『では少しばかり速度をあげますか。周囲のハンターが増えてきましたからね』

『了解だ』

 

 ファナが笑う。それがどんなに(くだ)らない内容であっても障害さえなければオルトはファナを優先する。それが無意識の判断によって(くだ)された(こた)えだと分かり、その事実に欺瞞(ぎまん)ではない笑みを浮かべ、満足していた。

 

 

 ミハゾノ街遺跡の市街区画を進むオルトの視界には多くのモンスターが映る。基本的に全て機械系だった。一見生物系のような見た目であろうとも、頭部を吹き飛ばせば、制御機械とそこから発せられる信号を即座に送る為の回路、その指示に忠実に従う各器官を構成していた部品を辺りに散乱させる。

 普通の大型犬のような見た目をしていても、体毛で覆われ、その挙動も含め犬と遜色(そんしょく)ないと思えたとしても、その内部を構成するのは全てが機械部品だ。破壊され露出した体内では着弾によって、ひしゃげた部品が外から確認出来る。

 

『髭も体毛も頭部も、その中身も含めて全部が機械の犬か。この遺跡では機械系モンスターが多いって記載されてたけど、そもそも生物系モンスターがいないだけか』

『この遺跡では生物系モンスターが繁殖可能な余裕を持てるだけの食料が少ないですからね。後は単純に警備機械に駆除されてしまったのかもしれません。あちらに生えている街路樹も金属製です。既定のナノマテリアルで構成する様に製造されていますので食料にするのは少しばかり困難ですね』

 

 オルトがその街路樹へ眼を向ける。そこには青々とした葉の一枚一枚が本物の様に風に揺られている樹々が等間隔に並んでいる。しかし、情報収集機器で注意深く探ってみれば、その内部構造が自然なものとかけ離れており、外見だけの偽物であることが分かる。

 

『なるほどね』

 

 造花の類い。そう説明されれば違和感を抱く程度には本物と見分けがつけ(にく)い。

 だが、本物ではないだけに利点もある。義体の植物であれば、季節に沿った景観の変化が可能。全体を構成する(いろど)りの為の一部出るのならば、街路樹が本物である必要などどこにもない。半永久的に維持可能という点で本物に勝る価値がそこにはある。

 

 

 ミハゾノ街遺跡の市街区画でセランタルビルを目指して進むオルトの頭上を、小型の飛行機体が何度も通り過ぎる。

 

『さっきからずっと、あの高度を維持したまま右往左往としてるな。そのくせ襲ってこないし、……偵察用か監視用って事か?』

『そうでしょう。気にする程でもありません。……さて、オルト。あちらを』

 

 情報収集機器がファナによって操作され、遥か前方に位置するセランタルビル周辺の様子が立体的に捉えられる。その光景を見たオルトが表情を少し険しく変えた。

 拡張視界上に表示される矢印はオルトよりもずっと上方(じょうほう)に位置し、セランタルビルの上層階を指し示している。そんなミハゾノ街遺跡の市街区画のどこからでも見える巨大な高層ビルの周辺には、破壊された街並みが広がっていた。それはまるでそのビルが支配地を示しているように感じさせる。

 更にその支配地にはセランタルビルの防衛機械、兵器群が存在していた。大型のミサイルポッドを複数装着した自律兵器。機関砲を搭載した歩行台座のような機械群。今まで市街区画内で遭遇した機械系モンスターとは別格であると一目で理解出来るそれらがビルを防衛していた。

 

『あいつらがファナが注意した理由か。上を飛んでる奴はあいつらのお仲間って事かな? 中央に居る防衛機械がもう少し大きかったら、この前戦った警備機械に匹敵したかもな』

『今まで遭遇したのは市街区画全体に配備されている機体で、あれらはセランタルビルが独自に防衛用として配備した機体群なのでしょう。性能も違います。指示系統も独立していると考えて問題無いかと』

『性能はともかく指揮系統もミハゾノ街遺跡から離れているって事か? 厄介と考えるべきか、周囲からしたら敵ではない誰かが、明確な敵と戦ってくれることを良しとするかって感じかな? うーん、……よし』

 

 オルトは少し悩んだ末に結論を出した。セランタルビルへと行くことは変わらず、その上で一つだけファナへ要望を出す。

 その内容を聞いたファナは自信のある笑みで返す。

 

『分かりました。では始めましょうか』

 

 その内容への疑問を返すことはしない。今はそれを淡々と、ただ当然の様に(こな)し、自身の優位性を相手の無意識へと伝える。

 先に進むと判断したオルトに、ファナは手を貸す。

 いつも通りの流れだ。ただ戦う相手が強力になっていってしまうだけ。それに(あらが)えるだけの力を誇示(こじ)して生き残るだけ。ファナと契約してから得た力は、装備の全ては、ファナとの契約という幸運の延長線上にある、ファナが保証した内訳の一つだ。持ち得なかった力を、振るえる程度には成長出来たのであれば後は覚悟を決めて飛び込むしかない。そこに確たる勝率が見えなかったとしても、ファナが勝てるというのであれば勝ち筋はある。

 オルトは全てを()してその証明を果たすだけだ。

 

 

 遅々たる進行だがいつかファナの依頼を達成してみせる。それがファナのサポートという、前払い分に見合うのかは分からずとも、既に前払い分として受け取っている以上、応えないという選択肢など存在しない。

 我が儘にも優しく対応して貰った。対応し切れない相手から生還させてもらえた。借りだけが、時間が経つに連れて積み重なっていく。それを見ぬふりなど決してせず、それに応えるように努力を積み重ねていく。

 その意思を自身で否定するのであれば、それは既にオルトではない。

 そして何よりも、数は力だとしても、今まで勝利を収めてきた相手より弱い存在が、多少の群れを成していたからと尻込みする程に憶病であったのならば、最初からオルトはハンターになどなっていない。

 

 

 リュックサックから取り出したエネルギーパックと弾倉を強化服や銃に装着し、それぞれの残量を最大へと戻す。回復薬を限界まで服用しておき、口の中にも数錠含んでおく。流石に邪魔になる可能性を考慮してリュックサックは近くのビルの一室へと隠しておく。

 街道の一つに立てば、瓦礫の山を挟んでセランタルビルと一直線上になる立ち位置となる。

 一呼吸入れるように、長い時間を掛けて深呼吸をして精神を集中させる。

 覚悟を決めた。

 後は踏み込み、体現するだけ。

 

(さて、覚悟を示そうか)

 

 お互いの意思決定が一致した瞬間、オルトは両手にK2R複合銃を持ち、強化服の出力を最大にし、セランタルビルへ接近し始めた。

 

 

 先に服用していた回復薬が、遺跡を進む際に溜めていた全身を蝕む僅かな疲労をすべて取り除き、同時に鎮痛作用も効き始めて使用者であるオルトの痛覚を鈍化させる。

 そよ風がまるで暴風であるかのように感じるほどの速度で駆けるオルトは、強化服の身体能力(しんたいのうりょく)で以て強引に突破して一歩、また一歩と跳躍するかのように目標地点との距離を確実に詰めて行く。

 オルトの生身の動きに対して、ファナが強化服側で(さら)に調整を加え、踏み込みを、身体(からだ)の捻りを、地面を蹴る際の体のバネや足の小指の動きでさえも、一瞬すら長いと感じさせる時間感覚の中で最も適した挙動へと変化させ続ける。一手(いって)一手(いって)、常にオルトの身体(からだ)へ正しい動きを叩き込む。

 セランタルビルとオルトの間に障害となるように存在する巨大な瓦礫の山へ向けて高速で駆けていく。見上げるほどに高い瓦礫の山の手前まで数秒も掛けず接近し、蹴りの威力が最大になる最適な位置へとオルトが強力に踏み付ける。そこを刹那の時間のみ接地機能で強力に固定させ強靭な軸足を作り、その地点まで移動する際にオルトの身体(からだ)に掛け続けた慣性の一切合切(いっさいがっさい)を乗せるように、身体(からだ)の各部位の可動域によって発生する加速すら上乗せした一撃を瓦礫の山へ叩き込んだ。

 瞬間、爆散するように瓦礫の山がセランタルビル周辺の開けた一帯へと盛大に飛び散る。衝撃を間接的に受けたことで、掛かった負荷の向きが変化して空へ飛んでいく物もあれば、地面を高速で転がり続け、その先にあった別の瓦礫を巻き込んでいく物、近隣の廃ビルに衝突して地面へ墜落するものなど様々だ。

 しかしそれを引き起こしたオルトは、その結果までの時間を悠長だと思うほどの時間間隔の中にいる。目の前に花火のように広がった瓦礫群を抜き去る勢いで、再度最高速度で地上を駆け始めた。

 

 

 障害物が無くなったことで、肉眼でも捉えられるようになった防衛機械群がオルトへとその銃口を、砲口を、既に向けていた。高速で接近してくる反応が有ったのだ。当然、その様な挙動を見せる不審者は要排除対象(ようはいじょたいしょう)に認定される。即座に沈黙させる為に武装を反応のある方向へと向けていた。

 防衛機械を中心とした警備機械達の武装はミハゾノ街遺跡の市街区画に配備されている機械系モンスターたちの武装を超える性能を持っている。それはこの遺跡に足を伸ばすハンター達にとって常識とさえ言えることだ。

 機関銃から放たれる銃弾であれば、雨の様に浴び続ければ数分と掛からず強化服の力場装甲(フォースフィールドアーマー)が突破され致命傷となる。頭部であれば更にその時間が縮む。並みの防護服を越える防御力を持つ高価な強化服がない(ぶん)防御性能が弱まるのだ。耐久上限は下がる。

 その上、同時に撃ち出されている砲弾は巨大で、人が喰らって生存を望めるような代物ではない。その後を追うように発射され続けている小型ミサイルは飛来(ひらい)し続ける瓦礫群の間を()うような軌道を取る所為(せい)で速度を(にぶ)らせており、危険性を大きく削がれているが、着弾時の破壊力は他のどれよりも高く、その誘導性能も同様に高い。非常に危険だ。

 並みのハンターが見れば臆するような状況下であっても、オルトは一切の焦りを見せることなく両手の銃で冷静に照準を合わせていく。狙うはファナのサポートによって映し出されている自身の移動経路の障害となる銃弾や砲弾、小型ミサイルのみだ。

 オルトへ接近していた小型ミサイルが、砲弾が中心を銃撃され、貫通したことで内部の火薬に点火し暴発し、連続して引き起こされた爆炎と爆風が周囲を揺らし、近くの弾丸等の弾道へ影響を与える。一つ一つの爆風が他へ与える影響は微々たるものであっても、その数が、桁が増えていけばその効果は上昇していく。それでも自身の誘導性能を最大限発揮し、爆炎で構成された障壁を通り過ぎ、反対方向の標的へ着弾しようとしたが、その先にオルトの影は無い。爆煙(ばくえん)で構成された空間が一種の情報収集妨害煙幕(ジャミングスモーク)を散布した状態になり、小型ミサイルに搭載された程度の索敵機器ではその奥までは捉えられず、直前の情報を参照しての軌道を取っていた。

 しかしオルトは、引き金を引いた時には既に跳躍を開始していた。爆煙(ばくえん)で構成された壁を最初に突破してきた小型ミサイルへ着地し、敵の攻撃を足場にして更に前方へ力強く跳躍する。

 オルトは身体(からだ)の前面に力場装甲(フォースフィールドアーマー)を優先的に展開して荒れ狂う暴風の壁を突破し、次の足場として定めた物体へ足を着ける。それは、ミサイルからほど近い場所で落下中だった瓦礫の一つだ。あと数秒もしない内に地面へと衝突するであろうそれの表面には、機械系モンスターが放った大量の銃弾よって作られた多数の着弾痕に加えて、オルトの銃撃によって迎撃された砲弾やミサイルの起こす強烈な爆風によって四方八方から押し潰すように圧力を受けており、耐久力を大きく喪失させられていた。それでもまだ問題無く足場として活用可能な程の強度と体積を(たも)っている。そしてオルトが次の足場へと移動する(ため)、足首を伸ばすような僅かな身体(からだ)の動きで跳躍する。その僅かな挙動で以って与えられた衝撃により、元々全体に走っていた亀裂が肥大化した。そして一瞬遅れて到来した砲弾によって巻き込まれ、周囲の空気をその巨大さで(えぐ)りながら通過し、地面へ着弾すると同時に爆発し纏めて粉々に吹き飛んだ。

 平面から立体的に行動を変えたオルトの動きに付いて行くために、防衛機械は最大火力となる砲弾や、扇状のミサイルポッドを搭載した車両を展開して小型ミサイルの量を増やし続ける。更には大型のミサイルを放ち始める車両も現れる。逆に、比較的小型の機械系モンスターは数での点となる銃撃をしても無駄と判断し、被弾による動きの制限を主な目的へと変更し、面での攻撃を開始する。搭載されている機関砲に装填されている弾倉を切り替え、有効射程の長さを捨て、圧倒的な速度で接近してくるオルトへ、時間が経てば経つほど有効に働く散弾を放ち始めた。

 戦闘開始から時間が経ち、現状尤もセランタルビルの脅威となっているオルトへ向けて、防衛機械たちが周囲への展開ではなく、オルトという個人を、驚異的な武力を持った不審者の排除を選び、オルトのいる方向へとその総戦力を集結させ、更に苛烈に濃密な弾幕の嵐で以て攻め続けていた。

 その圧倒的物量をしても、オルトの進行速度を落とすことは叶わない。砲弾の通過した後には一瞬すら長く感じる程度の時間だけだが、その巨大な物質が通ることで発生する安全な空間が出来る。ミサイルの後部にあるスラスターに味方の弾丸が誤って入れば誤爆を引き起こし、周囲の小型ミサイル、果てには大型ミサイルも巻き込み誘爆を起こす。そしてそれを敢えて発生させてオルトの移動を阻害する。

 それら全ての(たくら)みを、オルトは真正面から叩き潰す。

 オルトの2(ちょう)のK2R複合銃が、その体積からは信じられないほどに異常な装弾数の拡張弾倉から放たれ続ける対機強装弾を、上へ横へと、下へ前へと照準を切り替えて引き金を引き続ける。弾倉から高速で行われる薬室(チャンバー)への再装填までの極僅かな時間で以て照準を精密に切り替えて連続した銃撃を繰り返し続ける。だが、それだけの弾丸が精密に砲弾やミサイルを撃墜しても、弾丸の軌道を曲げたとしても、安全な場所になど決してならない程に、セランタルビル周辺は、オルトと機械系モンスターの群れが作る密度の濃すぎる弾丸や砲弾、大小のミサイルが、更にその場の空気を乱し着弾によって僅かに浮いた砂埃や、人ほどの大きさを持つ岩すら巻き上げ、引き起こされた乱気流に運ばれ、その一帯の構成要素の一つに加わる。

 もしオルトが地上での戦いしか出来ない者であれば、既に死体となっているほどに地面は乱雑に抉られており、爆風や着弾の衝撃によって浮かび上がった倒壊した廃ビルの一部などが、オルトの新たな空中を駆ける為の足場として再利用されていた。

 

 

 オルトは両腕を全力で振りながら自身が通る道を邪魔する銃弾や砲弾、果てには(いま)だ空中に揺蕩(たゆた)っている自分で蹴り飛ばした瓦礫へと照準を合わせ、引き金を引き、強引に道を切り開いていく。その軌道は高速()つ不規則に行われている。

 高額の回復薬に物を言わせた鎮痛効果の高さ。そして同時に伸びた身体(からだ)へ掛かる負荷限界によって可能となる極度な体感時間の圧縮率の上昇。飛来する銃弾すら眼で追えるほどに周囲の時間を遅らせ、その時間の中でもどかしく感じる程に遅い自身の動きを強化服で無理矢理加速させていく。

 ファナのサポートによって精度を増していく挙動、未来予知を疑わせるほどに精密に計算された照準補正を受けた射撃性能によって、周辺を飛び()う銃弾同士が(はじ)きあい、乱雑な動きへと切り替わった銃弾の一発がオルトへ向かうが、その数秒前に撃ち出され、同じように弾道を()じ曲げられていた別の銃弾によって、同じようにその弾道を逸らされた。

 砲弾に関しても既にかなりの距離を詰めたことで砲口から飛び出てすぐの場所で撃ち貫かれ、爆発する。それを一番近い場所で受ける防衛機械は表面に展開された力場装甲(フォースフィールドアーマー)で衝撃を眩い光へ変換して、爆煙(ばくえん)から無傷のままの砲塔を晒し次弾(じだん)を放つ。セランタルビル付近に散らばる、廃ビルが倒壊されて出来た瓦礫が転がされ周囲の機械系モンスターに当たり動きを停止させる。

 普通のハンターであれば着弾の余波だけで木っ端微塵になるような威力であろうと、オルトも、防衛機械も、お互いが展開する力場装甲(フォースフィールドアーマー)の出力を衝撃が身体(からだ)穿(うが)つ一瞬だけ上昇させる事によって、威力を相殺し被害を最小限に抑え、傷一つ付くことなく戦闘を続行させていた。

 大小問わず、空中を駆けるミサイル群は、細かく動き回るオルトを追い詰めるには速度が足りず、勢いよく射出されながらも自身の軌道上にオルトを収める(ため)に一度勢いを落とし、その場に停滞し、可動ノズルからの噴射で自身の軌道を修正しオルトへと殺到する。しかし近くの砲弾が銃撃されたことで発生する爆風に煽られるように軌道をまたもやずらされ、地面へ墜落する物や、弾道を大きく捩じ曲げられる物も出てくる。そのまま外周部のビルへと当たる直前に、何とか弾道を再度修正をする(ため)に空中で停止した瞬間をオルトがK2R複合銃を振るうように一番脆い箇所へ、一瞬だけ照準を合わせ狙い撃つ。

 最初から最後まで、(ことごと)くをあらかじめ決めていたかのようなオルトの挙動についてこられる者は、オルトただ1人だけではあったが、その顔に浮かぶ必死の形相でそれら全てを台無しにしながら、次の足場となる砲弾へと跳躍していた。

 

『アーミーマメストラよりマシ! アーミーマメストラよりマシ! あの暴風区域よりずっと、マシッ!』

 

 要望に沿った戦闘を行なうと危険度が増す。ファナから事前にそう教えられた上で、オルトはそれを為すと宣言して現状を作り出している。セランタルビル周辺に配備されている3桁に届きそうなほどの機械系モンスターの部隊。それも一機ごとに、小型の個体でさえも、銃撃爆撃のどちらも高い威力を有する武装を、取り付けられており、数を揃えているのだ。

 細かな銃弾は常にオルトの周囲を飛び交い続ける。人間大の砲弾がオルトの逃げ場を無くすように本人から外れた場所も含めて大量に撃ち出されている。小型のミサイルが更に後詰(ごづ)めのようにスラスターを吹かして接近してくる。

 砲弾やミサイルに直撃する訳にはいかない。躱す必要のない程に威力を減衰させた銃弾は完全に無視し、躱し切れないほどに密集した場所では、その中で一番密度の薄い場所へと力場装甲(フォースフィールドアーマー)を局所的に強力に展開して飛び込み、強引に進み続ける。

 悲鳴混じり情けない声を念話で発しているオルトとは対照的に、非常に落ち着いているファナは随分と余裕のある笑みを浮かべていた。

 

『全くですね。あの時と違って逃げ場も多数、防護コートのおかげで更に強固に、扱いやすくなった力場装甲(フォースフィールドアーマー)のおかげで、この程度では掠り傷一つ付きませんね』

『なんか! 想定する事象に! 大きな差がある気がする!』

『はしゃぐ暇があるのでしたらよく狙って撃ってください。幾らサポートがあるからと言ってもそれはサボる言い訳にはなりませんよ? それとも、辞めますか? そちらの方が非常に楽になりますが』

『嫌だね! 絶対、辞めない!』

 

 宣言を体現する為に、オルトは顔を引き締めた。

 そして、オルトがとうとう防衛機械の眼前へと到達する。主武装だと確信出来る砲塔の発射口付近へと跳躍した。周囲が遅く感じるほどの体感時間の中で、その巨大な砲の中を覗く。オルト程度であれば簡単に収まってしまいそうなほど長大な砲塔から、内部に再装填されていく砲弾を、極限の集中によって緩やかになった世界で目視する。

 事前に利用した足場は程よく巨大な瓦礫であり、最初の蹴りによって空高く舞い上がり、今ようやく銃弾飛び交う低高度まで落ちて来たのだった。

 そしてその大きさを()かしてオルトの背を隠し、後方からの弾道を完全に()っている。それでもその耐久力は無限ではない。撃ち込まれる弾丸一発一発によって徐々に削られ続けている。

 だがそれが破壊されるまで待つ必要などない。オルトは空中を防衛機械へと跳んでおり、一見逃げ場はない状況だ。しかしオルトも今更逃げ場など必要としていない。

 砲塔の内部が光り、巨大な砲弾が射出される。

 人間大の体積を有し、それに見合った質量と破壊力を持った物へ、オルトは極限の集中の中、時間が停止したかのような錯覚の中でタイミングを合わせて身体(からだ)を捻る。

 砲塔から全身を露出させた砲弾の下部へと、ファナの膨大な演算処理によって(はじ)きだされた、蹴る位置やタイミング、威力、そしてオルトの身体で再現される達人のような技術によって望んだ通り、砲弾は爆発することなく弾道を鋭角に曲げられ、防衛機械の真上を通過して防衛対象であるセランタルビルへと向かう。

 防衛機械の砲塔に着地したオルトはその上を数歩で踏破し、砲弾の後を追う。周囲を囲んでいた機械系モンスターの群れも、流石に防衛対象を傷付けることは許されていないのか銃口が砲弾へと向けられるが、オルトがそれを許すことは無い。

 機械系モンスターが照準を合わせた瞬間に、既にオルトはK2R複合銃の照準を合わせ終えており、引き金を引く。

 K2R複合銃を下方から上方へ振るい、それぞれの角度で撃ち出された銃弾が連続して勢いよく着弾し続け、まるで()()くかのように砲弾を両断して、爆発させる。

 計算されつくした着弾地点へと撃ち込まれたことでファナの意図した通りに爆発が引き起こされ、オルトが走る道の外側へと爆風が向く。その結果、オルト達の戦闘によって今の今まで巻き上げられ続けた粉塵や今まで使用されてきた砲弾やミサイルの爆煙に含まれる微細な粒子、それらによって上昇させられた周辺の色無しの霧が勢いよく押し込まれ、普段とは比較出来ないほどに強力な威力減衰現象を引き起こし、簡易の盾として機械系モンスターの撃ち出す弾丸を空中が受け止め続け、金属のカーテンが形成され、文字通りの弾幕が二枚、確認出来るようになった。

 僅かな瞬間に出来上がった弾幕によって生成された細い経路を、オルトが強化服の出力を全開にして駆ける。両手に握っていたK2R複合銃すら手放し、それらは補助アームを使って腰付近へと下げ、無手となったオルトは大きく腕を振り、可能な限り低く姿勢を維持したまま空気の壁すら突破していく。

 周囲の激しい銃撃音(じゅうげきおん)()んだ頃には、オルトはセランタルビルの正面出入り口から受付となっているフロアへと足を踏み入れていた。

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