リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第二十七話 欺瞞を重ねて

 

 セランタルビルの防衛機械による迎撃を全て躱し、逆に砲弾やミサイルの悉くを撃ち落としたオルトは、その勢いのまま逃げ込むようにセランタルビル内へ踏み入った。ミハゾノ街遺跡の市外区画のどこからでもその遠景を確認できるほどに巨大なビルには、それが旧世界製であることも含めて分かりやすい威圧感があった。

 

「よし! 狙い通りビルの中に攻撃は出来ないか!」

 

 ビルの外にいた機械系モンスターたちは結局のところ、外部から侵入しようと試みる者達の排除が目的であり、内部に侵入したり、撤退を選択したのであれば深追いはしない。その可能性を考え、少しでもビルからの印象を良く出来るように戦闘を行なった為、外の防衛機械たちは一機たりとも致命的な損傷を負ってはいない。

 流石に迎撃した砲弾やミサイルの爆発、狭い範囲での銃撃戦によって起こる跳弾での負傷まではどうにもできない。が、それらも含め、ファナが緻密に計算し続け、その被害は最小限のものとなった。

 弾薬等の補充が必要になってしまった機体も出たかもしれないが、拡張弾倉を基本武装の一つとして使用しているのであれば、問題ないだろうと判断して無視。

 少なくとも、出入口付近にオルトが居て、攻撃可能な射線が通る場所へ身を晒したとしても、外の防衛機械はこちらへ銃口を向けることはなかった。

 

 

 オルトは現状に取り敢えず安堵し、強化服や銃のエネルギーパックや弾倉を交換する。既にそれぞれの残量は心許(こころもと)ないほどに減少しており、弾倉を二つ装填可能なK2R複合銃であっても、一方は使い切り、もう片方も残り百数十発程度しか残っていなかった。

 もし途中で(おく)して足を止めていれば、あの銃撃や爆撃の嵐の中にそんな状態で取り残されてしまうところだった。そう感じながら、回復薬を飲み込んで身体中(からだじゅう)を蝕む痛みと疲労を取り除かせる。

 

「……よし、これである程度回復したな」

 

 拡張視界上の装弾数やエネルギー残量などの表示を確認したオルトが、遺跡探索に不必要な分の緊張を(ほぐ)す。

 (なん)となく振り返ったオルトが自分が入り込む際に使用したドアを見ると、そこには大型車両でも通るのかと思うほどに縦にも横にも広いガラスのような材質のドアが眼に映り、安堵の息と共に呟きを漏らす。

 

「……、にしても出入口がデカくて助かった。常識的な広さしかなかったらもっと大変だったかもな」

 

 実際にはファナのサポートを十全に受けた(うえ)で最後の瞬間は後方から迫る防衛機械たちの攻撃に対して迎撃する必要もなかったおかげで、ただ走ることだけに集中出来た。強化服もファナが操作している(ため)、何百回も連続して針の穴を通すような作業すら児戯(じぎ)に等しいことぐらいオルトも理解はしている。それでも旧世界製の製造方法も、使用されている材料すら不明な建造物に激突するような光景を、一人称視点で見るのは少々精神的にクルものがあった。

 

『このビルが建造された時代と現代とでは、根本から常識といったものに差異があるのでしょう。当時ではこのサイズのドアが常用されるほどに大柄な方が居たか、重装強化服のような体躯(たいく)が大きくなるような装備を利用するものが多かったか、……色々考察は可能ですが、結論は出ませんね』

 

 以前重装強化服と戦闘した経験のあるオルトは、その人型を模した金属の重武装を思い出し、顔を(しか)める。

 

「あんなのが常用されてたのか? いやいや、無いだろ。道ゆく人が皆あんなデカいの着てたら迷惑だし、とても邪魔な気がする」

『その迷惑や邪魔になる基準自体に現代とは大きな差があるのです』

 

 オルトが想像したクガマヤマ都市の下位区画を歩く全ての人が、重装強化服を着て往来を移動している光景に、ファナが手を加え、理解可能なものへと変化させる。

 街に並ぶ建造物も、そもそもが重装強化服で入店することが前提となる設計思想であれば、生身で入店(にゅうてん)しても(わずら)わしい客と捉えられてしまう。周りから白い目を向けられるぐらいであれば、最初から周囲に合わせ、自身も使用するようになり、それが徐々に伝播(でんぱ)していき、最終的にその状態がその時代の普通、常識と呼ばれる共通認識へと自然と移り変わっていく。

 

「あんなのが大量に……、ゾッとする話だ。…………やめだやめ! 先に進もう!」

 

 以前噛み締めた苦い経験を吹き飛ばすように、意気揚々とオルトは出入口から内部へと足を進める。その様子を見ていたファナは楽しそうに微笑みながら後に続いた。

 

 

 セランタルビルの中へと足を向けたオルトを、受付を兼ねたフロアが迎える。

 吹き抜け構造のフロアはとても広く、天井までも遠く、高い。壁には経年劣化の兆候など欠片も無く、埃一つ落ちていない。

 派手な調度品などで華美にし装飾されている訳では無い。しかし、壁や床の材質だけで十分な高級感を漂わせている。更には開放的な設計のフロアデザインと合わせて、見る者に高級感すら超えた、ある種の神聖さを感じさせていた。

 そこを戦闘の余波で、その広い一室の僅かな出入り口のみだけでも汚してしまったことを、オルトに申し訳なく感じさせているほどに。

 それでも、たいした休憩も無しに先程のような戦闘を繰り返すきも無い(ため)、せめて外の防衛機械が散開するまではビル内を調べようと思い、オルトは警戒しながらフロア中央まで移動する。

 そして当然のように、オルトはセランタルビルに歓迎されることなど無かった。

 

「お客様。当ビルは現在休館中です。関係者以外の立ち入りは御遠慮願っております。お引き取り下さい」

 

 その声は先程まで誰もいないと感じていた、オルトの前、完全に無人(むじん)だった場所に突如現れた女性から発せられたものだった。オルトはそれに驚きつつも、以前にも経験があったことから、どこか冷静にその事態へ対処しようと判断した。

 

(これってユウセツ駅遺跡の乗降場に出てきた奴と一緒……だよな?)

『ファナ。これって……』

『はい。彼女は単なる立体映像。実体が無いので撃っても無駄です』

 

 全身を包む衣服は、既に見慣れてしまった旧世界製であると感じさせるデザインの物。非現実的な美貌を併せ持っており、その肉体の輪郭は一見生身に思わせる程に現実感を思わせる。

 肉眼での情報、耳朶(じだ)(たた)き脳に知覚させる音。どちらも目の前の女性を実在しているのだと、見る者、聞く者に感じさせるが、オルトはその事に違和感を持てる程に成長していた。

 情報収集機器もまた、その場から取得可能なあらゆる情報を精査してその場に物質などないと結論を出す。物体が放つ気配と呼べる何かが女性からは欠如していた。人の可視光範囲内にのみ存在し、その範囲外、紫外線や赤外線上には存在していなかった。声もその場から聞こえるように調整されただけで、反響定位も、その場から返ってくるはずの物が無いと、示していた。

 そして、何よりも、ユウセツ駅遺跡の時のように銃を構えようとすれば、きっとファナに止められる。そんな感じがしていた。

 不信感からではない。目の前に居る女性から放たれる雰囲気がユウセツ駅遺跡で会った女性よりも、ファナに近い。理由は無いがオルトにはそう感じたからだった。

 オルトは一定の警戒を残しながら、会話が可能であるならと、試しにその場から動かない女性に話し掛けてみることにした。

 

「あの。このビル内にリオンズテイルの支店があると思うんだけど、何階にありますか?」

「お客様。再度説明させて頂きます。当ビルは現在休館中で御座います。事前に来訪申請を済ませているお客様の(ため)に、1階受付フロアのみ開放しておりますが、基本的に全フロア立入禁止で御座います。お引き取り下さい」

 

 眼の前の女性とは会話可能であることは確認出来た。そしてこのビルから出ていって欲しいことも確認出来た。

 

「来訪申請ってのはどうやってするんだ? ここでも可能なのか?」

「休館中の当館では受け付けておりません。各フロアの責任者からの申請のみ受け付けております。お引き取り下さい」

 

 オルトはその後も色々と彼女へ質問をしたが、その返答の全てを要約すれば、駄目だ、帰れ、だけであり、有意義な情報を得ることは叶わなかった。

 少し大きめの溜め息を吐いてから、オルトは情報収集を諦める。

 

「そういや、旧世界の幽霊とかいうのがクズスハラ街遺跡の噂として広がっていたっけか。質問投げても一辺倒な応対しかされなきゃそうもなるか」

「お客様。繰り返します。当ビルは現在休館中で御座います。速やかにお引き取り下さるよう、お願いします」

 

 女性はそう言って、オルトに申し訳なさそうな表情で丁寧に頭を下げた。

 

「いや、お引き取ろうにも外のアレに襲われるだけだしなぁ……」

 

 終始真面(まとも)な会話になっていなかったが、話が通じる相手ではないことはオルトにも理解出来る。

 荒れ果てた遺跡に無断で立ち入り、廃墟となった店舗跡から店の商品である遺物を勝手に持ち帰ることに、オルトも今更躊躇などしない。

 しかし新築同様の外観を持つ建物の中、たとえ相手が幽霊であっても一見程度では実在するとしか思えない相手から、無断()()りへの文句を頭を下げられてまで言われると、知ったことではないと気に留めずにいるのは難しかった。

 彼女に対して明確に敵対している訳では無いが、女性からしてみればオルトはただの武装した不法侵入者。外の防衛機械を全機軽傷程度に済ましたと言えど、ビル外の無人機群には完全に敵対していた人物に対して丁寧な対応で良いのかと考え、オルトは困惑を残していた。

 だが苦労してここまで来たのであり、(なに)()しに(きびす)を返して帰ろうとはならない。外の粉塵は未だに静まる様子を見せていない(ため)、出れば即戦闘の可能性が高い。どちらにせよ戦闘が発生するのであれば、この当時の様子を残したビル内を探索するか、多少なりとも遺物を持ち帰りたいという望みもあった。

 それらの迷いもあり、オルトに判断できる許容量を超えていた。

 すると、ファナが口を開く。

 

『オルト。少し席を外しますので待っていてください』

『……は?』

 

 次の瞬間、オルトの視界からファナの姿が消える。視界の違和感に気付き視線を元の方向へ戻すと、その場に居た女性の姿も消えていた。

 そして以前のように強化服等の装備品一切の性能が低下する。ビルの防衛機械と戦っていた時から続いていたファナのサポートが完全に消えた。

 最後にオルトがファナへ送った念話への返答はない。場違いなほどに強力なモンスターが荒野(こうや)を無秩序にうろついていれば間違いなく賞金首として登録される。その制度に容易に当て()まりそうな機械系モンスターが防衛している遺跡の施設内で1人となった。

 もし今、外の防衛機械がビルの損壊を無視して突入して来てしまえば、先程のような高度な戦闘は行えない。

 だが対処し切れないなどと弱音を吐くつもりもない。

 

(前と同じ。……のはずだ。落ち着いていい。接続が切れる前にファナが待ってろって言った。ならファナが戻ってくるまでは完全に安全だから、俺だけでも対処可能な何かしか起こりえないからのどちらかのはずだ。なら大丈夫だ)

 

 オルトが極めて冷静に努めようと自分の現状について再確認していく。焦って意味の無い、程度であればマシだが、状況を悪化させる事だけは絶対に避けなければならない。周囲を情報収集機器で警戒つつ気を静めていく。外部の喧騒すら遮断した静寂の中、自身の感覚を研ぎ澄まして時間がただ経つのを待つ。

 そこにファナが戻って来た。僅かに申し訳なさそうな、その上でオルトを安堵させるような顔をオルトへ向ける。

 

『お待たせしました。待ちましたか?』

『……多少はね』

 

 少々不機嫌な表情を交えながらも溜め息を吐いてそれを誤魔化した。

 

『それで、どんなことがあったんだ?』

『そのあたりの説明は少し長くなりそうですからね。先ずはここを出るとしましょう。さあ』

『いやいやいやいや!? さあ。とか言われても、外にまだ防衛機械が集結してるんだぞ? またさっきのやるのか? やるにしても、もう少しばらけていて欲しいんだけど?』

『問題ありません。行きますよ』

 

 ファナが少し先へ歩いていくと、オルトを急かすように手招きする。オルトはそのファナを訝し気に見ながらもその指示に従う。

 この(あと)に起こるであろう戦闘にゲンナリとしていたオルトは背後から自身へと向けられる視線に気付かなかった。そこに気配があれば、もしオルトへの悪感情が少しでも込められた視線であれば、その正体に気付いたかもしれない。だが、女性の表情から如何(いか)なる感情で以てその表情を浮かばせていたのかまでは察せないだろう。

 

 

 その女性のいた位置から離れる最中にファナが話し出す。

 

『彼女はこのビルの管理人格。先日、ユウセツ駅遺跡で見た彼女と同じ存在です。以前同様、席を外している間にいろいろ聞いてきました。今回私たちが目的地として定めたビルの上階を示す矢印は、正確にはこのビルの57階にあるリオンズテイル社の支店でした』

『57階か……』

 

 セランタルビルの周囲一帯に入る前から見上げるほどに高い場所に位置していると思っていたが、具体的な数字を出されると気後れする。強化服に壁面移動を可能とする機能が搭載されているため、歩く向きが直進から横向きに変わった程度の認識ではあるが、セランタルビルの階層の一つ一つはかなり広く、天井も高い。

 中の階段を使う、外壁を強化服の機能を応用して頑張って歩いて登る。どちらをとってもかなりの時間が掛かることに違いはない。

 

『登ってみたいですか?』

『まあ、可能なら……?』

『そうですか。ですが、やめておいた方が良いですね。今のオルトでは確実に死んでしまいます』

『え!? この装備でもか? 外の奴らも大変だったけど、結果だけ見れば終始あしらったって感じで行けたのに?』

 

 自惚れているわけでは無い。実際にファナのサポートありきではあったが、それが可能な現状であれば、そこらの機械系モンスターにだって負ける気はしなかった。

 

『それだけこのビルの警備が高性能というだけです。オルトが入るなら、桁を一つ増やしましょうか』

『桁? ……ああ、装備のか? ということは、80億オーラム? ……無理だな』

 

 購入時の単純計算だけで、オルトが顔を渋くしているところをファナが間違いだと指摘する。

 

『全装備含めた額の方ですね。コロンに切り替えれば億から万に単位が切り替わるかもしれませんが』

『改めて無理だろ。少なくとも100億オーラムもコロンも、今のところ稼ぎ方が分からないし、クガマヤマ都市でそんなに稼ぐやつも居ないと思う』

『案外そうでも無いかもしれませんよ? 少なくとも以前の装備から今の装備まで、オルトは一足飛びで整えることが出来ましたからね。またそれをすれば良いだけです』

『ええ……、そう言われてもなー』

 

 戦闘に(もち)いる技術以外に、この場の攻略に求められる単純な装備の性能、及びそれに掛かる費用について話し合っていると、セランタルビルの出入り口付近まで歩いてきたオルトへとファナがフードを目深(まぶか)に被るように指示を飛ばす。オルトも反論して時間を浪費する気も起きなかった(ため)、その指示に従いながらも最低限の疑問を投げ掛ける。

 

『確かに防護コートには迷彩機能が搭載されてるけど、それっているかどうか分からない物を、更に分からなくする程度だろ? 既に居るってバレてる俺が今使っても、あんまり意味は無いんじゃないか?』

『外の防衛機械に関しては無視して構いません。一応の対処というだけですので』

『……? まあ、いいか』

 

 オルトはその言葉に従い、ファナが迷彩機能を完全に制御する中セランタルビル外へと足を踏み出す。本来であればその場にいること自体許可されていないオルトが居れば、即座に対応してくるはずの防衛機械は、それぞれが持つ感覚器官であるカメラや照準装置をオルトへ向けながらも、攻撃を開始する素振(そぶ)りは見せなかった。

 

(うわー。こんなこと出来るやつはもっと東部のすごい装備持ってる奴ぐらいなんだろうな)

 

 非戦闘時で、超至近距離での機械系モンスターから向けられるあるはずのない敵意を感じながら、オルトは指示されたルートに沿って丁寧に身体(からだ)を動かし進んでいく。

 先程とは打って変わって非常に静かな一帯をオルトは少々不気味にも感じていた。

 それでも、ファナがいるという恩恵を最大限味わいつつ、オルトはセランタルビル周辺の荒廃した一帯を抜け、防衛機械たちの警戒範囲外へと脱出した。

 

 

 

 ミハゾノ街遺跡の市街区画では、セランタルビルで戦闘があった場合、早急にその場に辿り着くことが可能にしているハンターが多数存在している。

 その理由は明白。ミハゾノ街遺跡内での遺物収集の効率で、セランタルビルに勝る場所は無いと言って過言では無いからだ。市街区画では多くのハンターが機械系モンスターの討伐、及び破壊され機械部品と化したそれらの回収、売買。修繕機能によって再配置された遺物の収集等で賑わっている(ため)、逆を言えば他のハンターが回収した地点には遺物は無く、再配置を待っても、その周期を知っている者がいればそちらに先を越される。

 市街区画以外に、工場区画という場所も隣接しているミハゾノ街遺跡ではあるが、そちらはそちらで問題も多い。市街区画では遭遇しないような強力なモンスターが配置されたり、そもそも入り組んだ構造である(ため)、準備を怠ったハンターが辿る末路に餓死が入ることもあるとされている。

 結果として、モンスターと()りあいながら遺物収集をするのであれば、セランタルビルを狙うのが効率的という結論に至る。

 だからこそ、そのセランタルビルを防衛している機械群を倒した場合、そのおこぼれに与ろうという(やから)も相当数存在している。その為、セランタルビル周辺の防衛機械が全て倒された時には、ミハゾノ外遺跡中にいる活気に溢れたハンターたちが(こぞ)ってセランタルビルへ駆け込んでいき、ちょっとした騒動が起こる。

 という話を、オルトは自身のリュックサックを回収する際、(そば)に居た男のハンターたちから聞いていた。

 

(……俺がさっきの段階であの一帯の防衛機械を全部破壊してた場合、セランタルビルで管理人格と話す暇もなくミハゾノ街遺跡全体の騒ぎになってたかもしれないのか。……まあ、ファナみたいに管理人格と多少の話すら出来ない奴が多数なんだ、倒さず突破して中で遺物収集できたとしても、結局脱出時には全滅でもさせないと安全に運び出せないよな…………)

 

 オルトはその男たちから受ける説明に頷きながら、表情が怪しいものにならないように注意していた。

 

「へー。ってことは、今周囲にいるハンター達は防衛機械たちが倒されてる可能性に賭けてここに来たのか」

「そういうことだ。お前もその口だと思ったんだがな」

生憎(あいにく)とさっきまで離れた場所にいて、その用事が済んだから荷物を取りに戻って来ただけなんだ。……それに、あんな粉塵吹き荒れるような場所に突っ込むような奴等がいるのか?」

「いる時は居るもんだよ。新装備の性能を試す(ため)に、ここら(へん)じゃ強力な方のあの機械どもを相手にってな感じでな。他にもちゃんと準備して、集団で倒してから出入口を自分たちのチームで封鎖して、その間にビル内で遺物収集するとかな」

 

 男たちは、その話を得意げに話していく。それは別に自分たちで調べた情報を無償で渡しているわけではなく、事前にオルトがその年齢にしては高額の装備を使用している点について疑問を投げ掛け、オルトはそれに自身の収集した情報を絡めて渡していたからこそだった。

 つまりはお互いの持つ情報での等価交換を行うために、男たちはオルトの渡した情報に釣り合う程度の話をしていたに過ぎなかった。

 

「──っとこんな感じだな。……ふむ。しかし、ドランカムの若手が頑張った(あお)りが他所(よそ)のハンターの助けになるとは、世の中分からんもんだな」

「賞金首の騒動でドランカムの名前も、そこに所属しているメンバーの名前、他には内情もだけど良い所、悪い所含めて広まり始めたからな。俺の知り合いにも、新しい装備が自分のハンターランクに不釣り合いだって言ってる奴が居たし、今は若手に功績を積ませるのが一種のブームなのかもな」

「はーっ! ヤダヤダ。どうせなら俺たちにも旨みのある施策をして欲しいもんだね」

 

 オルトの話に肩をすくめる1人の男に、他の男が笑いを飛ばす。

 

「ハッ! お前にゃ無理だろ。なんなら今からその(ため)の功績でも作ってくるか? あそこに飛び込んで全滅させてくれば、企業のお偉いさん(がた)も目を付けてくれるはずさ」

 

 指で示した方向は徐々に落ち着きを見せ始めたセランタルビルの周囲一帯だ。舞い上がっていた砂塵の大部分は再度地面の一つになり、そこに先ほどの交戦で使用された様々な弾薬の破片や、誘爆によって負傷し削がれた機械系モンスターの装甲などが加わっている。

 オルトとの交戦で弾薬も多く使用しているはずだが、それでもその防衛力、継戦能力(けいせんのうりょく)は維持したままだろうと見て取れる。

 

「誰が好き好んであんな死地に行くかよ。防衛機械どもが無事ってことは、あれを起こした奴は逃げたか、最悪全部纏めて吹き飛んだかのどっちかじゃねぇか! テメェが行ってきやがれ。応援してやるぞ?」

 

 仲間の戯言に舌打ちで返しながらも、その仲の良さを見せる男たちにオルトも笑って返していた。

 

 

 その後、数言交わした(のち)、そのハンターチームと別れ、オルトは市街区画を出張所の方向へと進んでいた。

 

『確かにあの防衛機械たちの中で、攻撃も受けずに歩いてる姿を見られると流石に疑問を持たれても仕方ないか』

『その対処として迷彩機能を使い、あの一帯を脱出いたしました。その後のハンターたちとの会話も含め、オルトの存在を認知出来た者がいた可能性はグンと下がりましたね』

 

 力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開し、その表面へ周囲の環境に(がら)を合わせる程度の単純な迷彩機能しか搭載されていないが、それでも舞い上げられた砂塵や、迎撃され、誘爆を起こし、周辺に撒かれた爆煙などが()き混ぜられて出来上がった急造の情報収集妨害煙幕(ジャミングスモーク)内では、その効果を存分に発揮し、周囲に状況を確認に来ていたハンターたちの索敵を()(くぐ)っていた。

 そして、放置していたリュックサックを回収する際に、近くにいたハンターと情報のやり取りをし、嘘を話さないことで自身の話に対しての信頼性を上げることにしたのだった。

 

『どの程度の効果があるかは知らないけど、あの様子なら俺が起こしたって思われて無さそうだし、良かったよ』

 

 防衛機械を破壊せずに入館したオルトでさえ、帰れの一辺倒だったセランタルビルの管理人格が、その防衛機械を全滅させ、その(うえ)大人数で押し掛けた場合どのような対処を行うかなど不明だ。

 防備として雇うのは端金(はしたがね)で済むから、それでも変わらない対応をするのか。それとも面倒事を更に増やした不審者、犯罪者として、悪い意味での歓迎をするのか定かでは無い。

 少なくとも今のオルトでは死ぬだけだと断言したファナの言葉に、説得力を持たせるだけの警備用の何かが襲ってくるのは間違いなかった。

 

『まあ、オルトが比較的被害を小さく収めたことで遺跡全体の警戒レベルが上がることはなかったのです。彼女から別の場所にある遺物集積所を教えてもらいましたから、今のうちに行くとしましょう』

『おおっ! 骨折り損にならずに済みそうだな!』

 

 オルトは機械系の遺物の買取額は高額な(ため)、別の場所での遺物収集で、自分の装備を更に充実させることが可能になると教えられ、満足気に頷くと、更に軽快になった足取りで出張所へと戻った。

 来るかもしれないセランタルビル攻略の時に必要な戦力を整えるために、可能な限り遺物を収集に精を出し、ファナとの訓練で自力を上げ、ついでにハンターランクも上昇させて装備と消耗品の性能を向上させていこうと、頭の隅で大まかな予定を立てていた。

 

 

 笑みを浮かべて歩くオルトの様子を、ファナは同じように満足しながら頷く。セランタルビル内部を探索できないと知ったオルトは、外にいる防衛機械群に対しての表情と混ざり判別が困難になっていたが、幾分か気落ちしていた。それはオルトの遺跡に対して強い興味を持っている(ぶん)、比例して大きくなっていた。

 だからこそファナは市街区画よりも、遺跡の、当時の規格を大きく残した場所へ遺物という別の興味の対象を含めて誘導することで解消することにした。

 万が一にでもオルトに不満を募らされては、ファナが困るのだ。だからこそオルトの表情の変化に、挙動の変化に、そこから推察可能な感情の変動に注意深く観察を続け、自分の求める結果へと誘導し続けている。

 

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