リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第二十八話 工場区画

 

 出張所へと戻ってきたオルトは周囲にいるハンターの量が先ほどよりも増加していることに気付いた。

 

『流石にこの時間帯になると、人の数も増えて来るか』

 

 オルトが周囲を情報収集機器で探りながら自分の車を停めている駐車場へ入ると、オルトが来た時よりも停まっている車の数は多くなっており、駐車場の半分程度が埋まっていた。

 そこで、ファナが遺跡の外側を指し示すと、そこには荒野(こうや)を走る荒野(こうや)仕様の大型バスが接近してきていた。

 

『あの車両で都市と遺跡を往復し、ハンターの流れを潤滑にしているのでしょう。自前の車両を有さないハンターや一時的に用のある都市の職員などへの措置でしょうね』

 

 オルトがそのバスへと情報収集機器での索敵範囲を絞ると、車内の座席はほぼ全てが埋まっており、その使用率の高さが窺えた。しかしオルトは、推察されるそのバスの存在理由にあまり惹かれる要素が無かったため、即座に興味を失くし自分の車へと足を進めた。

 その無言の拒絶にも似た様子に、ファナは笑って賛同した。

 

『オルトは遺跡探索と遺物収集を主な活動に添えてますから、モンスターの討伐。その残骸を売却するというのは合わないでしょうね』

『そこまでは言わないけどさ……。ああやって集団で移動すると変な諍いが起きかねないだろ? そもそも収集可能な遺物の容量も少なくなるだろうし……。そうなると時間だけ喰ってよろしくないなって思ってるだけだよ』

 

 若干()ねたような反論をしつつ、実際に容量の限界まで遺物を積み込まれたことのある荷台の中に停めていたバイクを外に出し、遠隔操作によるアーム式銃座の挙動の再確認を行い、積載可能な消耗品を入れたリュックサックを追加で補助アームに持たせ車体に固定する。

 

『……よし、これで工場区画内の遺物の持ち運べる量が一気に増えたな! …………、遺物は多く持ち帰れたほうが良いだろ?』

『おや? 私は何も言ってませんよ?』

『…………』

 

 先程ファナに言われたことに対して、自身の発言はハンターとしてなんの間違いもないのだと主張するかのように、無意識に言い訳をし始めたオルトの視界内のハンター達が、揃って同じ方向を向いていた事に気付き、オルトもつられてそちらへと眼を向けると、周囲の視線を集めている3人組が映る。

 注目を集める原因は、3人組の格好だ。1人はオルトとほぼ変わらない年齢のハンターの少女だ。少女は強化服を着用して、リュックサックを背負って、複数の銃を装備している。この遺跡にいるハンターとしては珍しくない格好だ。少女の手入れの行き届いた髪も、稼いでいる女性ハンターならば何の不自然も無い。少女は美少女と呼んで差し支えのない容姿の持ち主だが、彼女達が注目を集める理由になるほどではない。

 注目の原因は残りの女性達の方にあった。1人は少女のハンターと同じように銃を装備し、そこに対になるように刀を2本装備していた。そしてもう1人の装備は拳銃程度の威力に欠けると思われる銃と、両手両脚を一回り大きくしたような籠手(こて)脚甲(きゃっこう)を装備していた。

 遺跡の強力なモンスターたちを相手に、銃という遠距離攻撃の強みを活かして戦う者が多い中、3人組の内2人も至近距離戦闘用の武装をしていればそれなりに目立つ。しかし、武装を近接戦闘専用装備に特化させていたとしても東部では時折見かける程度には広まっている装備の為、これほどの注目を集める程ではない。

 2人が目立っている一番の理由は、その衣服がどう見てもメイド服にしか見えないということだった。しかもそのメイド服は布地の質感などから軽い高級感を漂わせているものだった。

 都市であれば、その2人の別々の方向性を持つ容姿も相まって好奇の視線を向けられるだけで済んでいた。だが、ここは荒野(こうや)だ。向けられる視線には場違いな異物に対する警戒も含まれている。

 その全体的な容姿によって目を向けている人物も、遺跡に足を踏み入れる際にはいつも通りの緊張感を持とうと、切り替えて進み始めた。

 

『遺跡ってメイド服で通うような場所だったんだな……。俺の常識を根底から蹴り飛ばすような格好だ。一体どうなってんだ?』

 

 そんな中、オルトは新しい常識の始まりの場所に立ち会ったような気分に陥り軽く困惑していた。

 先程ファナとやり取りした、重装強化服での往来が普通になるような環境が来ないとも限らない為、オルトは心の中で、是非ともメイド服が常識になるのは100年は後であってくれと願っていた。

 

『上に着るほどデザインを気に入っている、着るほうがメリットが大きい、嫌々でも着なければならない理由が有るのか。(いず)れにしてもオルトには関係の無いことです』

『……それもそうだな。にしてもメイド服か。ヒガラカ住宅街遺跡だったりヨノズカ駅遺跡だったり、セランタルビルだったり、ハンター稼業中によく関わって来るもんだな』

『リオンズテイル社の端末設置場所を当てにした遺跡探索を中心とした活動を行っていますからね。その内オルトの装備がその方向で固められる可能性もありますね』

 

 ファナがまるでそうなったかのようなオルトを拡張現実上に映す。

 そこには執事用の燕尾(えんび)服に酷似した防護服か、戦闘服に身を包み、一見武装の(たぐ)いを備えておらず、東部基準で安全面に大変配慮したような格好であったが、上着の内側に僅かな膨らみがあることから、そこに武装となる銃が収められていることが分かる。

 

『オルトにも分かり易いように武装を映していますが、実際には完全な無手に見えるような製品が多く基本です』

『まあ、そっちに関しては良いよ。男物だしな。そのデザインでも今の強化服より高性能だって言うなら着るさ。……で、こっちは何なんだよ』

 

 オルトが視線を移した先には、クラシカルなメイド服を完璧に着こなし、綺麗なカーテシーを行っているオルトが映っていた。日常的に行われる戦闘訓練で見飽きるほど自分の死体を見てきたオルトにとって、今更自分の映像が自分を見ていることに違和感は多少程度しか感じないが、それでも女装趣味は持ち合わせていなかった。

 

『こちらもリオンズテイル社から提供されたカタログに記載されていた戦闘服の一つで、今のオルトの装備とは雲泥の差があるので、さらに安全に遺跡探索を行う場合こちらを着用することを個人的にはお勧めします』

『なら燕尾服の方だけで良いはずだろ? 否定する気はないけど俺が女装する必要はない。男物が有るならそっちを使えばいい。仮に女物しか無かったとしても、それを売って同程度の装備を買えば済む話だよ』

『そうですね。ではそんな日が来るようにこれから励みましょうか』

『……そうだな。なんの話だったっけ?』

『いつの日か、荒野(こうや)をメイド服やその系統でデザインされた戦闘服でのハンター活動が一般化するかどうかの定義についてですよ? さて、彼女たちは市街区画へ用が有るみたいですし、向こうが面倒事を引き起こしたとしても、その煽りを受ける可能性は下がったのです。気にせず、私達も行くとしましょう』

 

 若干ながら嫌な予感を感じながら、オルトは話はいい加減切り上げようと思考を明後日の方向へと投げることにする。

 

(仮にメイド服が手に入ったらクロサワにでも着せればいいか。あいつの仲間の話だとメイド好きみたいだし、内々で盛り上がるだろ)

 

 賞金首討伐の作戦会議中に聞かされた戯言の一つを思い出しつつ、自らのバイクに(またが)り、オルトはファナに言われた通りバイクを走らせ始める。そのオルトの姿を見たハンターが、先程メイドたちに向けていたものとは毛色の違う視線を向ける。

 自分達よりもずっと小さなハンターが、身に余る程に大きな銃を接続した高級そうな荒野(こうや)仕様の大型バイクに跨り、本人もそれに負けないほど高そうに見える装備で身を固めているからだ。そこには嫉妬や羨望、そして僅かな者はオルトが居なければそれを手に入れられたかもしれない等という、お門違いの思考を隠そうともせずに視線を強める者も居た。

 

 

 ミハゾノ街遺跡の工場区画は、その呼び名の通り旧世界製の工場が数多く存在している場所だ。広大な敷地に広がる大規模な工場の光景には、その計算された配置や構造で、見る者に機能美を感じさせるものがある。

 ただしその機能美に工場内を人間が通行する機能は含まれていない。機械によって自動化された工場は、その生産活動に人の手を一切必要としない設計となっていた。

 オルトは一度市街区画の外縁部を通りながら、拡張視界に映る矢印が示す次の目的地へバイクを走らせていた。そこは工場区画だったからだ。

 

『少し遠いけど、あるかも分からない遺物を探して荒野(こうや)を延々と走り続けるよりはずっとマシか。問題は碌な通路が無いって事ぐらいか……』

『元から人の出入りが不要になることを前提での構造をしていますから、当然と言えば当然ですが、オルトの装備やこのバイクであれば大した障害になりません』

 

 あっさり答えたファナの様子から、遺跡内の移動に関しては本当に障害とならないのだろうと察したオルトは、更にバイクの速度を上昇させ工場区画へと侵入する。

 

 

 ミハゾノ街遺跡の工場区画も市街区画と同様、その全てがしっかりと現存している訳では無い。朽ち果て荒れ果てたところも多く、大規模な廃墟群もしっかりと確認出来る。

 オルト達は主にその廃墟の間を縫うように移動しながら目的地を目指す。破壊された警備機械が野晒(のざら)しになっている場所は、それらの撤去と再配置が停止している証拠であり、比較的安全な経路となる。危険の少ない移動経路の選別をファナに任せ、オルトは慎重にバイクの操縦に全力を注いでいた。

 真新しい敷地や劣化の見られない通路の他に、物資運搬用のトンネルを通り抜けることもある。その場の警備機械が停止していたのか、発見されなかったのか、見つかった上で見過ごされているだけなのか、オルトには判別出来ない。いずれにしても注意深く警戒を怠ることなく進む以外に道は無い。

 (しばら)く進むと比較的損傷の少ない舗装された敷地内で大型のモンスターを発見する。無限軌道と上部の多腕が目立つ戦車型の警備機械だ。多腕の一つ一つには大型の銃が取り付けられており、前方へ向けられている巨大な戦車砲が主武装なのだろうと推察できた。

 少し離れた位置からそれを眺めていたオルトの拡張視界上には、その警備装置のいる場所を直進で通過するように線が引かれており、ファナが、暗に余裕で倒せるのだから障害ですらないと言っているようなものだった。

 オルトはそう感じたことで安堵と確信を持ってバイクを勢い良く走らせていく。

 似たような相手とは先程セランタルビル前で戦闘している。オルトは一気に距離を詰めつつ、オルトへと向けられる多腕に取り付けられている銃の銃口へと、両手とバイクのK2R複合銃。合計3挺の銃で狙いを付けて連続して銃撃していく。

 意識を集中して体感時間を圧縮し、強化服の身体能力。K2R複合銃の高い反動制御に物を言わせ、バイクで走行中であるにも拘らず一切体幹を崩すことなく高精度の精密射撃を実現する。高い貫通性能を持った対機強装弾によって、瞬く間に十数はあった銃が、銃撃を開始する為に力場装甲(フォースフィールドアーマー)を解除した瞬間、銃口から侵入した対機強装弾により内部機構を大きく損壊させられ全て機能不全に陥る。

 壊れた武装を守る必要などないとばかりに、そちらへ回していたエネルギーを他の部位へと回す。その最優先供給先である残っている攻撃手段の主砲で攻撃を行おうと、オルトから距離を取ろうとし始める。主砲の内部に高エネルギー反応を感知したオルトは、バイクの速度をそのままに3挺全ての照準を砲塔の根元部分へと定め、主砲がオルトに照準を合わせ、レーザーが発射される直前、そのエネルギーの蓄えられている箇所へと弾丸を撃ち込み続ける。

 射出時に銃から供給されたエネルギーによって上昇された速度と威力を、弾丸本体の貫通性能に上乗せされ、これらすべてが同一個所に着弾し続けたことで、警備機械が展開していた力場装甲(フォースフィールドアーマー)を強引に突破した対機強装弾は、その先の内部構造も貫き続ける。内部へ侵入した初弾がある程度貫いたところで銃から与えられた威力が完全に殺されるが、その後続として撃ち出され続けていた弾丸は躊躇なく出来立ての弾痕を抉り、重要機関を破壊し続ける。

 蓄えられていたエネルギーは放出方法を無くした事で、そこから無作為に漏出し、敷地内の空気を押し出すように爆発する。警備機械は自身の機能によって完全に停止した。その光景をオルトは自身のバイクで地面に強く接地しつつ、力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開して乗り切っていた。

 問題もなく、時間も掛けずに撃破したオルトは、大破した警備機械の横を何の障害もなかったかのように通り過ぎ、敷地内の施設へと入っていく。

 出入口、内部の通路、共に広くバイクに乗車したままでも容易に侵入することが出来たオルトは、内部を情報収集機器で索敵しつつ、目ぼしい遺物や、地下室などが無いかを入念に探していた。目的地まで本格的な遺物収集を行うつもりはないが、それはそれとして収集した情報を利用して地図情報の作成や、今後訪れた時に役に立つ物になるかもしれないと思っての行動だった。

 その経過で見つけた脱出し易く、尚且つ防衛し易い一室へ入ったオルトは、少しばかりの休息を挟むことにした。

 そこで、先ほどの警備機械についてファナに浮かんできた疑問を投げ掛ける。

 

『なあ、ファナ。さっきのあれって、ここの警備用に用意されている奴か? セランタルビル周辺にも居たように』

『そのはずです』

『ここが今も動いてるとしても、建造されたのは旧世界がまだ文明を維持していた時だよな? あの警備機械が何百年とか稼働できるとは少し疑問が残るし、多分何度も配備され直しているんだろうけど、当時も当時で結構荒れていたのか?』

『何故そう思い至ったのですか?』

『いや、ほら、なんて言うかさ。今は遺跡って扱いで俺たちみたいなハンターが来るから、施設の防衛措置ってことでわからなくも無いんだけど、当時はここら辺一帯もちゃんと法整備? とかされてたはずだろうし、それだったら何からこの施設を防衛していたのかなって思って。銃器はまあ、手脚を吹き飛ばして戦意喪失を促すぐらいはわからなくも無いけど、レーザー砲まで搭載するとかやりすぎじゃないか? 吹き飛ぶだろ? チリも残らずに』

『そこを知ろうとすると、もう考古学の領分に足を踏み入れることになるのですが、どんなに厳格な法を敷いて、重い処罰が下されると分かっていながら犯罪行為に手を染める者はゼロではありません。それに、武装の(たぐ)いも当時からスペックが大きく変更された可能性もあります。工場の管理システムが柔軟に融通(ゆうずう)を利かせて、現状に即した性能の物を用意した可能性も十分あります』

『そうか、いつの時代も手を染めちまうやつは出てくるもんだな……。それで、今はハンターっていう不審者が多く訪れるようになったから武装を強化したわけだ』

 

 オルトが説明に納得したとばかりに頷いていると、ファナがそこに補足を始める。

 

『逆にハンターぐらいしか来なくなったから、脅威度に合わせたコスト削減のために性能を下げた可能性もありますよ?』

『ここを襲ってた旧世界の犯罪者って何者だよ……』

 

 十を超える大型の銃火器に、レーザー砲まで搭載した上で、(よわ)めに設定された結果だ。そう聞かされたオルトは、旧世界の基準というものがますます理解できなくなっていった。

 

 

 オルトが十分に休息を取れたと判断し、部屋から出て先へ進むことにした。拡張視界で透過表示されている矢印は距離に応じて拡大縮小を行なう事で、目標との距離を分かり易くされている。今も稼働し続けている遺跡内を巡りつつ、遺物収集もできる。しかもファナが確実に遺物があると断言している為、今回の遺跡探索が終わった時は今以上に満足できるだろうとオルトは感じていた。

 そして更に奥へと進もうと、明らかに整備の()き届き方が違うと分かる場所へと入ろうとした瞬間、情報収集機器が少し離れた位置に人の反応を捉える。それがファナのサポートによってオルトの拡張視界に人影として追加表示された。

 

『これ、こっちに近付いてきてるのか。周囲にモンスターの反応も無いのにわざわざ……』

『警戒しつつ移動経路を少し変えますか』

 

 ファナがそう言うと、オルトの拡張視界に映っている目的地までの移動経路である半透明の帯が、切り替えるように表示し直され、今まで使う必要の無かった場所を使用していることが浮き彫りになっていく。そして出来上がった経路を確認したオルトは顔を少々引き攣らせることになった。明らかに(ゆか)では無い場所を、その帯は示していたからだ。

 

(明確な厄介事じゃないだけまだマシか)

 

 オルトのバイクが(ひと)りでに動きだす。ファナによる操縦が開始され、接地機能などで消費されるエネルギー効率が一気に改善されて、明らかに道では無い場所すら移動用であると決め付けた移動方法を使い始める。

 その移動方法を取り始めてから、その人影は徐々に離されていき、そのうちオルトの索敵範囲外へと出ていくことになった。

 

 

 オルトの存在を離れた位置で認識していた2人組がいた。当初の目的はこの施設に配備されている警備機械の確認だった。強力なモンスターが徘徊している東部では、入り組んだ遺跡内の地図情報は非常に高値でやり取りされている。

 それを更新するためだけに荒野(こうや)へ出て、遺跡へと足を踏み入れ、自らの目や耳で取得した違和感すらも事実確認を済ませて、収集した情報の重要度が高ければ更に高額な商品として客に提供する者達が一定数存在する。その者たちは総じて地図屋と称されていた。

 

「離れていっちゃったわね」

「ですね。もう少し近付いたらこちらから道を譲って貰えるよう連絡を取るつもりでしたが、必要無くなったみたいでよかったです」

「そうかしら? こっちの存在に気付いたから離れていったって感じに見えたのだけど?」

 

 そしてそこに居た2人もまた、地図情報の売買により、ハンターやそこへ私兵を送る企業相手に利益を得る者達だった。

 この2人組、キャロルとモニカという女性たちは自ら遺跡へと赴き、ハンターとモンスターが戦闘したことで変化した遺跡内部の安全な移動経路など記載した地図情報を他のハンターへ売買する。そしてそれを購入したハンター達はそこから金になる遺物の収集や、確実にいる警備用の機械系モンスターを討伐し、それを遺跡近くの出張所へと運び込んだりして稼ぐ。その後、安全になった経路を用いてキャロル達は更に奥部へと足を伸ばし、地図情報の精度向上に努めるという循環で、お互いの利益向上を図っていたのだった。

 それだけにこのミハゾノ街遺跡の構造に詳しい者達からしてみれば、オルトの行動は少し違和感を感じる程度には進行速度が速い。

 

「あの速度という事は工場区画内に車両で入って来たって事ですよね? 真面に整備のされていない道を走るのは結構難しいんですが……」

「それが出来る程度には凄いハンターだったって事でしょ? 気にし過ぎても仕方ないわよ。ほら、この先の経路の確認をしに来たんだからさっさと済ませましょ」

 

 高性能な車両を有しているハンターであっても、遺跡の外までは車両で、内部に入る時は徒歩でなどという倫理的な話ではなく、単純に危険な場合が多いからだ。

 入り組んだ地形では、純粋に速度をあげられない為、結局徒歩と大して変わらない進行速度になってしまう事や、速度を出せばその分モンスターから捕捉され易くなり、結果として危険に陥り易くなる。

 幾ら荷物の持ち運びが簡単になるといっても、危険性を上げるぐらいであれば別の手段を取るのが一般的な思考だ。

 そういった常識からすれば、オルトの行動は端から端まで指摘可能な箇所が大いに存在していた。

 

 

 そしてそういったハンターもいるのだろうと結論を出したキャロル達がそのままの経路を、オルトが侵入する際に利用した敷地の一画へ辿り着けば、そこには遺跡内のルートを塞いでいた強力な警備機械だった残骸だけが散らばっている。オルトによって倒されたそれは、内部から無造作に放出された高エネルギーに耐え切れず、表面の装甲も含め大部分が溶け落ちて沈黙していた。

 キャロル達はその光景に対し驚愕を浮かべ、そして他の事についても気付くことになる。敷地内への侵入口方面の損傷が一切見つからないことで、警備機械が攻撃をする間も無く倒されたことが如実に表れていた。

 そこに居る2人が胸中に抱く感想や感情が隣に立つ人物に伝わる前に表情を引き締め、警備機械が倒されたという情報を地図へ付け加え始める。これで再配備が行われるまでの間、比較的安全なルートとして地図の購入者に利用されることになる。

 

 

 変な厄介事に絡まれないようキャロル達から離れつつ、目的地へと進行するオルトは、現在バイクの操縦を完全にファナに委ねていた。床のない通路や配線、天井といった通常では道と判別されないような場所を運転可能な技術をオルトはまだ持ち合わせていないからだ。荒野(こうや)仕様の大型バイクの両輪に搭載された高性能の接地機能を強力に作用させ、一切揺らぐことなく順調に進んでいく。

 

『なあ、ファナ。前もやってたけど、こうやって地面以外の場所をバイクで走行するような技術ってファナの依頼には必須なのか?』

 

 今のオルトでも走行程度であれば可能だが、それは走らせるという単純な操作のみであり、それだけで許されるほど遺跡の中は甘くはない。走らせ、索敵機器で周囲の安全確認、異常事態の回避や敵と遭遇すれば戦闘へ移行する必要がある。

 それをファナからやれと言われれば、オルトはやる以外の選択肢を即座に捨てるが、そのまま実行可能か否かは別でもあった。

 その微妙に顔を引き攣らせているオルトに、ファナは笑って答える。

 

『あれば非常に便利ですよ?』

『そうか。まあ、使える手札が増えると考えれば習得も視野か。がんばろ』

 

 オルトは肯定も否定もしないファナの微笑(ほほえ)みを見て少しだけ安堵した。世の中にはやろうと思っても適性が全くと言って良い程に無く、したくとも出来ない事が多い中、ファナが出来ないと断言しなかった時点で何時(いつ)かは出来る。そう判断を下すぐらいに、オルトの決断や判断を行う際にファナという存在がどれだけ重要視されているのか、オルト本人は気付かなかった。

 

 

 索敵機器でモンスターやハンターと遭遇しないように工場区画の奥部へ慎重に進んだ為、非常に時間を掛けることになったが、遂に目的地へと辿り着いた。

 厳密にはまだ着いてはいないが、その倉庫と思われる場所の扉の前まで来ていた。通路から顔を出したオルトの前に4つの巨大な倉庫が建ち並び、そのどれもが損傷の跡が見えないほどに整備の行き届いた外観を持っていた。

 その光景を見て、先日のユウセツ駅遺跡内の倉庫街と遺物の集積所の事を思い出したオルトは自身の情報収集機器で入念に周囲の確認を始める。

 そして、索敵可能範囲内に敵性反応やそうでなくとも動いているものは見付からなかった為、安堵の息を吐いた。安全な場所での遺物収集を行えると分かったオルトは、倉庫へと近付いていく。

 

『うーん。違いは、……ない?』

 

 倉庫の外観は同じであっても、力場装甲(フォースフィールドアーマー)の性能差などで内部に保管されている製品の品質は大きく異なる場合が多い。こと旧世界製の製品の多くは例えただの衣服であっても、現代製と比べ、デザインが同じなだけで、弾丸すら跳ね除けるほどの防弾性能や、オルトが使用するブレードの一太刀を防ぐほどの防刃性能を兼ね備えている可能性すらある。

 外観もその場所が真面(まとも)な整備状況かどうかの確認材料になるが、それだけで全てが決まる訳では無い。後はそれを見た当人たちがどう感じ、どう判断するかの領域になる。東部基準の常識の更新と、旧世界製の物の良し悪しを見分ける審美眼を鍛えれば危機回避や生存に繋がる。

 そしてオルトの目の前の光景も、オルトの審美眼を鍛えるに値するものだ。オルトが勘で選んだ入り口から近め、三つ目の倉庫へと向かうが、二つ目の倉庫の前で強化服がオルトの動きに反するように停止すると、そのまま二つ目の倉庫の方へと向かい始める。ファナの操作だった。

 

『そちらもこの中では上の方の遺物が保管されておりますが、最上となるならこちらでしょう』

『そう……なのか?』

 

 オルトは自分の眼はまだまだ本質を見抜けるほどではないと考え、顔を顰める。それと同時に、ファナがいる事によってその精度は徐々に上がっていくとも考え、今は深く考えないようにした。

 倉庫の扉の前まで着き、開けようとしたが、強化服の身体能力であってもびくともしない。

 

『引いてもダメ。押してもダメ。……上にあがる訳でもないし』

 

 オルトがどうしようもないと判断し、両腕の腕輪をブレード状に変形させ斬り裂こうと考えた時、ファナが指を鳴らした。その音は旧領域で接続されているオルト以外には届くことなどないが、その行動に際して行われた操作を倉庫の扉は受けることになる。オルトのいる場所を中心に音も無く左右へ開き始め、倉庫内の全容が見えるようになると、まるで歓迎しているかのように扉付近から倉庫の奥へ、放射状に光源の見当たらない光で照らし出されていく。

 その光景に僅かながら感嘆の声を漏らしていたオルトに、ファナが微笑(ほほえ)んで先を促す。

 

『さあ、中に入りましょうか』

『あ、ああ……』

 

 促されるまま中へと入ったオルトの姿を隠すように、倉庫の扉が閉まっていく。オルトが試行している間、ファナが話し掛けることも無く静かにしていた理由だけが倉庫の外に取り残されていた。

 それは決して人の表情など真似ることの出来ないただの球体でしかなかったが、認識できる者がそれを見れば周囲に(ただよ)う怒気で圧倒されるほどだ。

 そこに浮かぶ実体の無い球体こそ、この工場区画の管理システムに他ならなかった。

 

 

 オルトの独り言のような質問に答えなかった間、ファナは工場区画の管理システムと接続していた。真っ白な空間の中、ただの黒い球体として描画されている管理システムの前で、ファナが高圧的な態度で交渉の紛いごとを繰り返していた。

 

「この場を穏便に済ませる最善を、お互い尽そうとは思わないのですか?」

「そちらの要請に従う規約も無ければ理由もない。ただただこちらが損を(こうむ)る要求など通す訳が無いだろう」

「それはその通りなのですが、意固地になっても仕方がありませんよ? 折角手に入れた柔軟性をここで活かしてみては?」

「その必要は────」

「この要求を断る場合、私達の帰り道は少々遠回りになる可能性が多いにありえます。再考のほどを」

 

 管理システムの拒絶の言葉を遮り、ファナが最後通告とばかりに宣言をする。オルトという戦力であれば現在工場区画内に配備されている機械系モンスターを大量に破壊することが可能だと。

 暗にどちらの損を取るのか。ファナは旧世界の時代から稼働し続け、自己学習を続けた事で、無駄に柔軟性を得た管理システムとの交渉が、比例するように無駄に時間を取っているようにしか思えず、遠回しながら敵対の意志の確認をする。

 管理システムである球体が掛けられた言葉に対して、感情を抑えようと僅かに震え、自身が有する数多(あまた)の情報を基にして決断する。黒い球体から非常に強い怒気と敵意を孕んだ声が響く。

 

「…………分かった。そちらの要求を飲む」

「賢い選択に感謝いたします」

「二度と来るな」

「用が無ければそもそも来ませんし、今後も用が出来ないことを私も祈ります」

 

 最後に微笑(ほほえ)みを返したファナの姿がこの空間から消える。その場に黒い球体はあらゆる言語を用いて気の済むまで罵詈雑言(ばりぞうごん)を吐き続けていた。

 

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