リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第二十九話 脅威の始まりは

 

 倉庫の中に足を踏み入れたオルトの眼前に広がる遺物の数々は今までにない程に整備された状態で保管されていた。大きな棚が幾つも並び、等間隔に梱包された高級感漂う遺物が数多く置かれていた。

 その光景を見て、オルトは思わず期待の声を漏らす。

 

「おおっ! 確かにこれなら高値の遺物が残っていそうだな!」

 

 ヨノズカ駅遺跡のように放置されたように保管されている訳でも無く、ユウセツ駅遺跡のようにどれも一様に回収し保管されている訳では無い。完全に旧世界基準で修繕、整備が行われている保管場所なのだと感じ取れる。そこに保管されているあらゆる遺物が、それを売買した時の価値が今までと段違いなのだとオルトでも見て取れた。

 普通のハンターが訪れればそこに保管されている遺物だけで、それまでの稼ぎを大幅に上回る可能性のある遺物ばかりであり、その場所への移動経路を示した地図情報であっても高額で取引が可能な程だった。オルトの喜びようにファナも得意げに笑う。

 

『当然です。私が案内をしたのですよ?』

『それもそうだな! ありがとう! よし、早速持ち帰るとしよう!』

 

 オルトがその光景と、手に入る遺物の品質の高さに満足しながら棚に置かれている遺物を見る。目の前にある遺物は箱に梱包(こんぽう)されており直接内部の確認は出来ない。内容物を示すラベルなども見当たらないが、ファナがオルトの拡張視界に追加で描写したことで判別がつく。

 そこには肌に張り付くように胸部や腹部、腕部(わんぶ)それぞれが薄い布のような材質の物で覆われ、足回りも関節付近を優先的に隠すようにベルトが巻き付き、少々露出度の高い衣服を身に着けたオルトが映っていた。

 

『えっ!? これって旧世界製の戦闘服!?』

『を模した防護服ですね』

『……なんだあ。そっか』

 

 倉庫の外観や内部に設置されている遺物に感じる異質さから、オルトは自分の中で膨らんでいた期待が大き過ぎた。期待を向けるものはちゃんと制限しておかなければと再度自身に言い聞かせながら、反省の言を反芻(はんすう)しつつその箱へ伸ばし掛けていた手を収める。

 

『防刃防弾に加え、防爆防塵(ぼうじん)性能も高く、耐熱性も非常に高く製造された品ですね。使用されている素材のおかげで着用者の周囲を覆って、常に適度な温度管理、湿度管理が()されるようです。私がオルトに渡した衣服よりも性能自体は高いですよ?』

 

 眼の前の梱包されている衣服を着用する利点を、ファナに告げられたことで一度それを着用し、下位区画を歩く自分を想像したオルトは、これの着用を求められるほど下位区画が危険な場所になったのならば、そもそも強化服を着用すればいいだけなので、尚のこと不要だとしてその棚から離れることにした。

 どれほど衣類としての耐久性能が優秀なものであったとしても、現代で高値が付き、その値が付けられるほど求められている遺物の多くは旧世界の技術が多分に使用されている機械製品等だ。

 

『……それにしても、だ。この場所ってあのセランタルビルの管理人格から教えて貰ったんだろ? 良いのか? そもそもそういうの教えて貰えるものなのか?』

『遺跡全体の管理人格ではなく、あのビルの管理人格ですからね。自分の管理外の場所が荒らされたところで痛くも痒くもないのですよ。実際あのビルの周囲は酷い有様になっていましたからね』

『ふーむ。そういうものか』

 

 オルトは棚に並べられた箱を物色しながら、納得したように頷いた。そして素朴な疑問の解消も済んだことで、本格的に遺物の選別を始める。以前のように車両との往復は出来ない。持ち帰られるものには限界がある。

 

 

 倉庫の(すみ)から順に、結構な時間を掛けて大部分の遺物を見て回ったオルトは、好い加減持ち帰る遺物を選定しなければ、遺跡内からの帰路の途中で日が暮れてしまうかもしれないと思い始めていた。別に日が完全に落ちたとしても大した問題は無い。オルトの情報収集機器の表示装置はかなり高性能な製品だ。

 完全に光源が無い状態であっても、音響探知などで周囲の地形を把握し、視界以外での取得可能情報によってそれを視覚情報へと応用することも可能ではある。しかし、それでも貴重な感覚器官の一つによる情報取得が困難になればその分危険度が増すだけである以上、可能な限り光源の少ない場所での活動をオルトは控えるようにしていた。

 そのような理由から少々焦り始めたオルトの視界に、一つの大きな箱が眼に入る。オルトの全長ほどの横幅を持つそれを視界に納めた瞬間、胸中に湧いた激しい興味によってオルトは()き動かされ、その箱へと近寄り始めた。

 それが危険な物であればファナが止めるだろうという思考すら自分の身体(からだ)に追い付かないほど速くオルトがその箱へと手を添えると、梱包されている遺物が拡張視界に映し出される。

 

「……刀、だっけ? 歪曲(わいきょく)してないし直刀(ちょくとう)ってやつか?」

 

 オルトの視界に映っている物は武装の一種。その箱には計2本の刀が、四方の角と全辺を直角部分を無くすように削られた直方体の形をした鞘と一緒に納められていた。

 

『旧世界製戦闘服の装備一式の近接装備のようですね。旧世界の企業が開発した製品が今も尚残されていたのでしょう』

『おお!? 凄いんじゃないか!? もしかしたらこれ一本で最前線のモンスターも真っ二つか……。開けても問題無いかな?』

 

 帰りの道程で非常に高性能な武装があれば、如何(いか)に運の悪い自分であっても対処可能な範囲が一気に広がるだろうという思いと、それに直接触れてみたいという思いもあり、オルトは開封したいという欲を隠せなかった。

 そしてファナもそれに同意する。

 

『使用できればオルトの戦力は一気に上昇しますし、出してみましょうか』

『よし!』

 

 オルトはファナからも賛同を得られたことで、何の(うれ)いも無くその刀の入っている箱を丁寧に開封し、中から鞘に納められている刀を一つ取り出すと何時ものように強化服の補助アームを鯉口に当たる場所に見つけた接続箇所に接続する。

 銃や可変式の腕輪、防護コートの操作は強化服に取り付けている情報端末から、補助アーム、通信許可対象に制限を掛けている短距離通信、接触通信回路などを通して行なわれている。少なくともオルトはそうファナから教えられており、それで今までの高速戦闘にも問題無く反応し、対応出来てきた(ため)、深く追求する気もない。

 今回もそれで刀の制御装置にファナが改良を加えてくれるだろうと信じ、一連の行動はあたかも呼吸するかのように終わっていた。

 そしてその調整が終わるまでの間、オルトはもう一つの刀を引き抜いて鑑賞していた。(つば)は無い。(つか)、鞘も含め全体的に銀色で構成されており、刀身は薄く藍色に帯びており、鏡面のように見つめ続けるオルトの(ひとみ)を反射させていた。

 そしてファナが口を開く。しかしその言葉はオルトの予想外のものに終わる。

 

『これは使用できませんね』

『……え!? なんで!?』

 

 突然告げられたことにオルトが驚愕をもって返す。今までオルトの要望に可能な限り応えてきたファナが完全な否定を示し、その理由が一切思い付かなかったからだ。

 

『確かに使えればオルトの現在の装備を大きく上回る程に強力な武装ですが、使用可能なエネルギーの供給源が制限されています。その(ため)このまま使用したとしても、ただ切れ味の良い直刀程度の役割しか果たせません』

 

 ファナが説明を続ける。

 この直刀の刀身はミスリル製。素材が素材な(ため)非常に軽く、全長の割に羽を持っているかのように扱える。その切れ味はその軽さであっても重力に従って落ちて地面を容易(たやす)く斬り()くことが可能だ。

 いつものようにソフトの設定だけであればファナが色々と手を加え、書き換える事で使用制限を取り払う事ができた。

 だがそれでも、ハード自体を別物に変質させることまでは流石に不可能だった。その刀に搭載されている内部機構は大分特殊で、使用可能なエネルギーパックに掛かる制限が酷く、少なくともオルトがその類いのエネルギーパックを入手することは今のところ叶うことは無いのだという。

 販売されているとすれば、その性能の高さゆえに、(ひど)い制限すら許容してでも恒常的に使用されるような場所。最低でも最前線の西部側ぐらいには東へと(おもむ)かなければ販売はされていない。クガマヤマ都市のような言ってしまえば中小企業都市が乱立可能な地域では、決して取り扱いなどされない。

 同系統の装備が広まらないのであれば売り上げも見込めず、特定の製造企業が生産したとしてもその場所へ輸送することなど決してない。

 需要と供給が釣り合ってこその商売と経済だ。たかがハンターランク30程度の個人のお願い程度で動くものなどいる筈もない。良くも悪くも、東部全体は営利団体の管理する地域だからだ。

 それらの説明を受けたオルトの表情は酷く沈み込んでおり、碌な反応を示す気配が無かった。

 

『世の中には使うことの出来ない武装もある。それだけですよ。気を取り直して行きましょう』

『………………そうだな』

 

 オルトは非常に大きな落胆を込めた()め息を吐いて、そのまま箱の中に(さや)ごと収納し直し、とても残念に思いながら元の位置に置こうとした。

 しかしそれをファナが止める。

 

『どうしたんだ? 持ち帰っても使えないし使えるような奴も居ないんだろ? 需要の無い武器なんてヒガラカに転がってる瓦礫と同じだろ?』

『今使用不可能であっても、それを使用可能な状態にして貰うか、構造ごと作り替えて貰えばいいだけですよ』

『……? あー、FARBEに渡すのか』

『構造の変更が可能ならばそれで。不可能であってもこの刀と同性能を持つ武器との交換や、将来の装備の担保など使い道は多々ありますよ』

『そっか、そういう使い道もあるか。もう観賞用の陶芸品とかにしか見えてなかった』

 

 盛大に期待していた(ぶん)、使えないと()げられた時の衝撃は大きく、強力な武装とも、貴重な遺物とも見れなくなっていたオルトにとって、思いつけなかった案にオルトは感嘆の息をもらした。

 

(……駄目だな。またやった。……思い通りに行くのは自分の意志だけ。ちゃんとしないとな)

 

 今は使えなくとも、構造の解析が進み将来的に内部装置の交換で使用可能になる可能性はある、僅かに藍色を()びた刀身が自分の純粋な装備の一つとして振るえる時を、オルトは一先(ひとま)ずは待つことにした。

 オルトは気分を変える(ため)に表情を明るくしながら話を振る。

 

『それにしてもこれって所謂(いわゆる)コロン払いの武器ってやつだろ? どっかの企業と交渉すれば同程度の武器と交換とかできないかな? 強化服とかならむしろ大歓迎だし、銃でもこの(さい)手甲(てっこう)なんかでも文句なんか無いし』

『可能かどうかで言えば可能でしょう』

『だよな! そうだよな!』

『ですが、それをした際オルトの周囲に都市の職員が数多く監視として付く可能性があります』

『え!? な、ん、……あー、ランク制限か』

『ええ、その通り』

 

 自分で答えに辿(たど)り着いたオルトへ、ファナは優しく微笑(ほほえ)み補足説明を加える。

 強力な武装を購入する際、購入者へちょっとした調査が入り、場合によっては拠点としている都市か、装備の製造企業、もしくは両方からの許可が必要になる。その最たる例がハンターランクによる購入制限だ。

 使用すれば素人であっても強力なモンスターを瞬殺可能なほどに高性能な装備を、モンスターからの被害が減少し都市が安全になるからとスラム街の人間に無秩序に渡せば、その銃口を都市へ向けることもあり得る。そこから犯罪者集団の手に渡る可能性も十分考えられるため、ハンターランクを十分上昇させることが出来るほどに功績を積んだ、信用のある人物へ対象を絞っているのだった。その範囲は強化服や銃などの武装だけに(とど)まらず、弾薬類やエネルギーパックなどの消耗品にも(およ)んでいる。

 それらは東部西側のハンターにも知れ渡っており、ランク向上へ意欲を偏らせることで、ハンターオフィスや都市、ひいてはその親企業である統企連への反抗意欲を削ぎ、東部の治安維持に貢献させているほどだった。

 それを崩壊させる恐れのある人間は、たとえ可能性の域を出ないのであれば、その可能性があるという理由だけで処理される危険が非常に高い。

 ハンターランクとはただの実力に即した指標ではなく、東部における五大企業への貢献度、そして信用の表れでもあるからだ。

 

『結局そこでネックになるんだな。うーん……、俺のハンターランクから考えると期間の長さか難易度か……。無所属の俺が受けれる依頼ってなると、最近はクズスハラ街遺跡の前線基地周辺の警備か、後方連絡線設置作業の補助の二つになるんだよな……』

 

 以前のクズスハラ街遺跡外周部の地下街攻略によってヤラタサソリの大規模な巣の殲滅(せんめつ)の後、地上で並行して行われていたクズスハラ街遺跡の仮設基地の構築は何事も無く終了した。そこから更に大規模な遺跡攻略へ向けた、ハンター達の装備の整備、点検、修繕を行い、都市の部隊が駐屯、そして彼らが使用する武装を格納する為の施設と、これらの運用に際して消耗する物資の保管庫などを増築する作業へと移行していた。

 個人で活動しているハンターや、徒党に所属しているハンター達はハンターオフィスを通じて、都市が大々的に掲載しているその依頼へと参加し、物資の運搬や遺跡内から襲ってくるモンスターの排除を(おこな)っていた。

 

『どちらか受けてみますか?』

『……遺物収集でランク上げができなくなったら考えよう。少なくとも俺のハンターとしての活動に長期間の警備は基本的に含まれてない』

『ふふっ、それもそうですね。ではこの刀とは別の遺物も積み込んでから帰るとしましょう』

 

 ハンターランクを上げることも重要ではあるが、オルトのモチベーションが著しく低下することを許容してまでの急務でも無いと判断し、ファナはいつも通りにオルトへと微笑(ほほえ)みかけていた。

 

 

 オルトがファナの案内で工場区画の中で発見した倉庫に保管されている遺物の中から持ち帰る物を選別している頃、同遺跡の市街区画、セランタルビルの周辺では異変が始まっていた。

 オルトとの交戦によって完全な破壊、機能停止は(まぬが)れていたであろう無人兵器は一機残らず破壊されており、その残骸を運び出そうとハンター達が集まってきていた。だがそれはセランタルビル周辺に居たハンター達の一部に過ぎない。大まかに見積もって、精々(せいぜい)が既に討伐終了し、その強力さから測れる売値を考慮した上で、セランタルビル内の遺物より軽視され放置されるぐらいのモンスターを回収する程度の実力しかないからだ。

 彼らはオルトがセランタルビル周辺の警備をしていた機械系モンスターと交戦した際の騒ぎに一度は足を運んで確認し、警備機械の健在ぶりに落胆し各々(おのおの)解散した者達の一部だ。

 だがその後、もう一度交戦中のような派手な戦闘音が響き、ミハゾノ街遺跡にいる多くのハンターが集まっていた。オルトとの交戦により程度に差はあれどどの機体も損傷を負っていたこともあり、挑んだ者が出たのだろうと考えたからだ。

 

 

 セランタルビルを警備している強力な機械系モンスターを撃破してビルの中に入る場合、大まかに2種類の方法がある。

 一つ目は、多数のハンターで周辺の機械系モンスターを殲滅して、少数のハンターをビルの内部に送り込む方法だ。そのハンター達がビル内で遺物収集を(おこな)っている間、残りのハンター達はビルの出入り口を制圧して他のハンターがビルの内部へ侵入するのを防ぐのだ。

 それは遺物収集班が他のハンターと遺物の争奪で戦闘になるのを避ける(ため)であり、苦労して強力な機械系モンスターを倒した利益を、他のハンターに()(さら)われるのを防ぐ(ため)でもある。誰かに強力なモンスターを排除させて、自分達は労することなく利益を得ようと考える者は何処にでも存在している。それが明確な利益の塊であるセランタルビルであれば尚更だった。

 強力な機械系モンスターを倒すのには相応の費用がかかる。治療費、弾薬費、人件費。それらを差し引いて黒字にするためには、仲間以外のハンターに遺物を奪われるわけにはいかないのだ。

 強力な機械系モンスターを倒せるほどの者は、当然ながらそれ以上に強力なハンター達である。彼らがビルの出入り口を制圧している間は、他のハンターはビルの中に(はい)れない。そして彼らが去る頃には、どこからともなく別の強力な機械系モンスターが現れて元の状態に戻るのだ。

 二つ目は、機械系モンスターの警備に一時的に穴を開けて、少数のハンターを送り込む方法だ。送り込んだ遺物収集班がビルから脱出する時は、外にいるハンターが再び火力を集中させて警備網に穴を開けて脱出させるのだ。瞬間的な火力に自信の有る少数のハンターチームが選択する手段である。

 どちらの手段を取るにしても攻略チーム以外のハンターがビルへ侵入するのは難しい。一時的に薄くなった警備の隙を()いて後先を考えずにビルへと入る物もいる。倒された機械系モンスターの残骸をこっそり運び出す者もいる。

 そして稀にだが、強力なハンター達が強引に警備の機械系モンスターを殲滅して、そのまま帰ってしまうこともあるのだ。理由は不明だ。単純に気が変わったのかもしれない。ただの八つ当たりや憂さ晴らしなのかもしれない。どこかの企業が新しい装備を開発して、ハンターを(やと)ってその性能テストとしてその装備で戦わせたのかもしれない。

 だが少なくとも他のハンター達にはそれらの理由は関係ない。重要なのは、労せずにセランタルビルに侵入出来る状況だけだ。オルトの、そしてその後にもう一度起きた激しい交戦音はミハゾノ街遺跡にいた多くのハンターにその期待を抱かせた。そのため多くのハンターがセランタルビル付近まで確認に来ていた。

 偵察に来たハンターの1人がセランタルビルの正面出入り口周辺の光景を確認する。彼は破壊された機械系モンスターの残骸を確認する。そして周囲に見張りなどをしているハンターの姿がないことも確認する。状況の確認を()えた彼が満面の笑みで仲間に連絡を取る。

 

「俺だ! すぐに他のやつらにも連絡しろ! セランタルビル周辺の警備が全滅している! 出入り口を制圧しているチームもない! 遺物収集でも、機械系モンスターの売却でも、今なら大儲けだ! ……ああ、そうだ! すぐにだ! グズグズしていると他の連中に先を越されるぞ! 他の奴等(やつら)も確認に来ているんだ! 急げ!」

 

 他のハンター達も彼と同じように仲間と連絡を取っていた。程なくして、多くのハンターがセランタルビルに集結した。倒された無人兵器を売却するために運びだそうとする者。ビルの中に入って旧世界の遺物を探そうとする者。多数のハンターが行動を開始する。

 そのままビルの奥に進む者もいれば、仲間のハンターの到着まで1階で待機している者もいる。そして1階のフロアには、そのハンター達に警告を繰り返す立体映像の女性、ハンター達がセランタルと呼ぶ者の姿があった。

 

「……お客様。当ビルは現在休館中でして、関係者以外立入禁止となっております。お引き取りください。……警告します。当施設は不法侵入者に対する殺傷権を保持しています。速やかに退去してください。……お客様──」

 

 事前にセランタルビルに関する情報を得ており、1階の立体映像の女性について知っているハンター達はセランタルを完全に無視していた。彼らはミハゾノ街遺跡での活動が長かったり、事前の調査を怠らない、比較的真面目な方と言われるハンター達だ。

 しかし、そうでない者もいる。1人のハンターが1階のフロアで仲間のハンターの到着を待っている。その仲間の到着が遅れており、彼は非常に苛立(いらだ)っていた。彼も(しばら)くはセランタルを無視していた。しかし繰り返される警告に苛立(いらだ)ちを高め、セランタルを怒鳴(どな)りつける。

 

「うるせえ! 黙ってろ!」

「警告します。当施設は……」

「黙れ!」

 

 彼がセランタルに銃を向ける。立体映像であり攻撃しても意味がないことは知っていた。それでも引き金を引いた。それだけ苛立(いらだ)っていたのだ。

 銃弾はセランタルを通り抜けて背後の壁に着弾した。運良くそこには誰もおらず、怪我(けが)人が出ることはなかった。

 しかしこんな場所で発砲することの意味は大きい。彼の周りにいるハンター達が一斉に彼に銃を向ける。彼は(あわ)てて両手を上げて謝り始める。

 

「わ、悪かった! そいつがうるさいから腹が立ったんだ! それだけだ! 謝る!」

「……次は殺すぞ」

 

 周りのハンターが殺気を乗せて警告した。彼らも無駄に殺し合う気はないのだ。彼らもこの千載一遇の機会を、金にならない無駄な殺し合いでふいにするつもりはない。そのおかげで、彼の命は辛うじて繋つながった。もし怪我(けが)人が出ていれば、彼は殺されていただろう。

 

「わ、分かった。悪かったって」

 

 彼はひたすらに謝った。周りのハンターが舌打ちをして銃を降ろす。彼もそれで(ようや)く息を吐いた。

 この騒ぎの所為(せい)でセランタルに注意を払うハンターはいなかった。そのためセランタルの言葉が変わっていたことに気付いた者もいなかった。

 

「不法侵入者に対する判断基準の人数の超過を確認。従業員及びそれに類する存在への殺傷を許容した敵意を確認。ビル本体への破壊行動を確認。状況をDへ変更。くたばれ」

 

 セランタルがお客様に向かっては絶対に口にしない言葉を吐いて姿を消した。(しばら)くしてセランタルが姿を消したことに少数のハンターが気付いたが、そのことを気に掛ける者も、その意味を理解した者もいなかった。

 

 

 (ほか)のハンターなど滅多に見掛けないほど踏み込んだ遺跡の奥。ファナが当たりだと言ったその場所は、入り組んだ遺跡内部を足場の有無すら無視して進む必要のある場所だ。そこにある頑丈に設計されている倉庫の中。そのような場所で遺物の物色(ぶっしょく)を行っているオルトには、同じ工場区画内の喧騒ですら容易には届かない。当然市街区画で起きていることなど知る由もない。

 そのため旧世界製の直刀以外に持ち帰られるだろう遺物で高値を期待出来るものを探している間にも、状況は変化していた。その異変はそうだと確信出来ないほどにゆっくりと進行していた。

 何も知らない者達はそれに巻き込まれるだけだ。これによって生き残れないのであれば、それはただの個人の実力不足と言われて終わる。それが東部という場所だからだ。

 

 

 異変は既に始まっており、その進行具合は徐々に目に見える形で表れ始めていた。その事にビルの外に居るハンター達が気付き始めていた。

 ビルの外ではハンター達が破壊された無人兵器を運び出そうとしている。彼らはハンターが殺到(さっとう)しているビルの内部に入って旧世界の遺物の争奪戦をするより、下手をすれば殺し合いになるほどの奪い合いに加わるより、機能を停止している無人兵器を金に換えることを選んだのだ。

 これを誰が倒したのかなど知ったことではない。だが、放置しているのであれば捨てているのと変わらない。恐らくはビル内の遺物が目当てで、倒した無人兵器への興味は薄いのだろう。彼らはそう判断していた。

 彼らは運搬用の機材が到着するまで周囲の警戒を続けている。情報収集機器の反応を確認して近寄ってくる小型の機械系モンスター達を破壊している。この無人兵器を持ち帰るのは自分達だ。(ほか)の機械モンスターに回収されるわけにはいかない。

 彼らも(しばら)くは余裕だった。しかし徐々にその表情に怪訝(けげん)なものが混ざっていく。近寄ってくる機械系モンスターの量がかなり多いのだ。しかもその量は時間経過と共に増加量も増していっている。

 彼らの1人が仲間へ話す。

 

「おい、なんか変じゃねえか? なんでこんなに寄って来てるんだ?」

「セランタルビルの防衛をしている強力なモンスターは、破壊されても(しばら)くすると再配置されるって話だ。回収して、修理して、再配備するのかもな。これだけデカい機体を運ぶんだ。小型の機械に運ばせるなら、それだけ量がいるんじゃないか?」

「ああ、そういうことか」

「連中が態々(わざわざ)回収するぐらい貴重な部品を使っているのかもしれない。きっと高値で売れるぞ」

 

 手に入るであろう大金の額を思い浮かべて仲間の男が顔を緩ませた。

 少し心配していた男も、仲間の発言で表情を緩めた。近寄ってくる機械は楽に撃破できる個体ばかりだ。気にしすぎていただけかもしれない。男がそう思い直そうとした時、離れた場所から爆発音が響いた。更にかなり激しい銃声も聞こえてくる。(ほか)のハンター達の交戦音だ。

 それらの音は段々とセランタルビル側に近付いて来ている。そしてこちらに向かってくる多くのハンター達の姿が見え始める。

 心配していた男が表情を引きつらせて仲間に話す。

 

「い、幾ら(なん)でも多すぎるんじゃないか?」

 

 セランタルビル側に向かうハンター達の背後には、一帯を埋め尽くしそうなほど大量の機械系モンスター達が(せま)ってきていた。必死に応戦しているハンター達が機械の津波に飲み込まれていく。半狂乱となったハンターが手榴弾や擲弾銃を自分も巻き込まれる距離で使用する。その爆発が機械の波を一時(いっとき)だけ吹き飛ばして敵の包囲に穴を開けたが、その穴もすぐに後続の波に()まれて()き消えた。

 ビルの周辺にいるハンターが叫ぶように仲間に話す。

 

「に、逃げるぞ!」

 

 仲間の男が周囲を見渡して叫ぶように答える。

 

「に、逃げるってどこにだ!?」

 

 いつの間にか機械系モンスターの群れはビルの周囲の全方向から迫って来ていた。その包囲に隙間など見当たらない。ビルの外にいるハンター達が唯一の逃げ場に向かって走り出していく。周囲を包囲されても立て()もって戦えそうな唯一の場所、セランタルビルの中へ。

 外にいたハンター達の生き残りが全てセランタルビルに集まったことにより、彼らは一時的にモンスター達を押し返した。ビルの出入り口を自然と防衛地点として、火力を集中させ、ビルの中に入ろうとするモンスター達を撃破し続けていく。

 しかし周囲一帯の機械系モンスターを()き集めたような数の前にハンター達が再び押され始める。敵性機械は他の個体が撃破されても恐怖など感じることはなく、進軍を続けていく。後続の群れが破壊された他の個体の破片や部品を押しのけ、かき分け、踏み潰して、前進し、攻撃し、包囲を狭めていく。

 ハンターが周りの者達に叫ぶ。

 

「おい! 誰でも良いから上の連中に連絡を取れ! 遺物の収集をやっている場合じゃねえだろうが!」

「やってる! (つな)がらねえんだよ! 色無しの霧の影響か!?」

「はぁ!? 何でこんな時に!?」

「知るか! (つな)がらねえものは(つな)がらねえんだよ!」

 

 遺物収集をしているビルの上階にいるハンター達の応援がなければ、1階のハンター達に勝ち目はない。しかし通信が取れないため応援を呼ぶことができない。

 

「……仕方がない。直接呼んでくる」

 

 そう言って1人のハンターがその場を離れた。

 

「お、俺も行く」

「俺もだ!」

 

 更に数名のハンターがその場を離脱していく。

 

 1人目は本当に応援を呼びに行くためにその場を離脱した。しかし(あと)に続いた者達は必ずしもそうではなかった。この場に留とどまると危険だと判断して、逃げだそうとしていたのだ。もっと大勢のハンターがいるはずの上階へ。

 そしてそれに気付いた他のハンターの一部が、逃げ出した者達を激怒して呼び止めるのではなく、同じ口実で後に続いてしまった。全員ではない。しかし戦線を崩壊させるのには十分な人数だった。

 なんとか押しとどめていた機械系モンスターがビル内に侵入してハンター達に襲い掛かる。銃撃で、体当たりで、小型の砲弾で、ハンター達が機械系モンスターに殺されていく。恐怖に耐えきれなくなった者から我先に逃げ出し始める。戦意を失っていない者もこの状況では1階に(とど)まることができず、彼らに続いて上階へ後退していく。

 ビルの1階がモンスターに占拠されるまでに掛かった時間はごく(わず)かだった。

 

 

 喧騒は徐々に広がっていく。市街区画内でセランタルビルを中心に一時的に機械系モンスターが居なくなったことに喜び遺物収集を開始した者もいれば、稼ぎが急に消え失せたことを不思議がる(もの)もいる。

 それでも時間と共に再度警備用に補充され、ハンター達と交戦する機体が現れる。何ら変わらず交戦し、勝利したことから、機械系モンスター達の様子の変化に気付く者はいなかった。

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