パッカ達を殺し、グレイへの用事を済ませたオルトは、新たに得た所持品に身体が悲鳴を上げるような感覚に回復薬を少しずつ服用し、相殺しながら都市へ帰還すると、早速ハンターオフィスへと向かった。並んだ窓口にいた職員は前回オルトの対応をした男だった。
「お前か、……ハンター証があるなら出せ」
オルトの装備が充実していること、そして放たれる独特の雰囲気が、今日オルトに降りかかったであろう不幸を物語っていた。男はそれを感じ取るが、自身の仕事に関係はないと切り捨て、提示されたハンター証と、トレーに置かれた買取品の確認を行う。
「今日の遺物は……、微妙なものも混じっているが、今回もラッキーはあったようだな」
オルトの出した遺物はパッカ達との戦闘後に収集したものに、ファナに貰った援助品を加えていたものだ。それを見た職員は軽く笑いながら、棚に収める。
その様子を見ながら、今日起こったことを思い返したオルトは、それを馬鹿にされたような気がして言い返してしまう。
「微妙なもので悪かったな。それでも前回の残金をもらえるに足る品……、ラッキー?」
怪訝な顔を見せるオルトを見て、更に機嫌をよくする職員の男は手元の端末を操作し、近くにある機械の中から出てきた札束を手に取りオルトの前に置く。
「計50万オーラム。前回の買取品の査定済みの分、今回の前払い分を含んでる。ここらでこんな額をもらう子供は居ねえ。ま、大事に使いな。……早くどきな。仕事の邪魔だぜ」
オルトは支払額を聞いて止まる。先程手に入れた金額との差に、目の前に置かれたそれを手に取り、視覚的に触覚的に確認して、その手に収まる重さの価値を、未だ背に担ぐその中の価値を知る。
昨日襲ってきた者も、今日襲ってきた者も、比較的安全な場所でこれを手に入れるために命を賭けた、それを認識したオルトは彼らの選択を間違いとは言えなかった。
オルトはそれをゆっくりと懐にしまいながら、ハンターオフィスの買取所から出ていく。そのどこか得心したように見える顔をしたまま出ていくオルトを見ながら、男はまた軽く笑っていた。
オルトは買取所から出てから少し離れたところで、手に入れた50万オーラムの扱いをどうするか頭を悩ませていた。何をするにしても決断した後にしか行動できない。大なり小なり。そのわずかな決断すら下せないオルトを見かねてファナがいつもの口調で声をかける。
『これで宿に泊まりましょう。3日続けてまともな睡眠をとれていませんからね、疲労によって体が壊れないように、今の内からお金のちゃんとした使い方を覚えておきましょう』
ファナの言葉によりオルトの心が段々と落ち着いてくる。
今所持している50万オーラムはファナがくれたものだ。自分の物ではなく、ファナがオルトを強くするための金。自分のために、無暗に使うことをオルトは躊躇っていた。
今までの戦闘で使ったナイフも回復薬も、オルトの勝手では使用しなかった。これでは意味がないだろうと、早く自身で扱える何かを得るために、ファナの提案に軽くうなずき続きを促す。
『それでは私が宿を決めさせていただきます。構いませんね?』
またオルトは頷き、それを見たファナが先導する道を歩き、宿代に使う金に先程までの重さを感じずに。
ハンター向けの宿には当然のように銃火器の持ち込みが許可されている。勿論それで撃ち合いなど始まれば宿にも宿泊客にも甚大な被害が出る。その為利用者には、一定の倫理観、御行儀の良さが必要になる。
しかし、例え被害を出したとしても、その賠償を宿側に払えるのであれば、十分行儀のいいハンターと言える。
宿に一週間分の金を渡し、部屋を借りる。その中は今まで寝る場所となっていた場所が場所な為、比較にならないほどの豪華さを誇っていた。
オルトはその様子に圧倒されながらも、とりあえず落ち着こうと荷物を下ろし、ソファに座る。改めて部屋を見渡しながらそこの価値を考える。1人で使うには広すぎる気のする空間に、腰を落ち着かせるソファに大きなベッド、壁と一体となっている冷蔵庫があり、その中には食料品が入っており、何より今までの寝所と比較にならない安全がそこにはあった。
「一泊2万オーラム。一週間で14万オーラム払った。……なんというか」
価値は理解している。金も払えた。それでも小さな溜め息とともに少し項垂れていた。その様子に、ファナが苦笑する。
『思い悩み続けるよりも食事をするか、お風呂にでも入りましょう』
「……食事、風呂か」
食事という言葉からこの3日、昨夜の配給品以外、回復薬しか口にしていないことを思い出し、冷蔵庫の中のものを取り出し、調理器具で温める。配給所に行かなくとも取れる食事、飲料水は冷えている。口に入れる食料は昨日のそれとは別物だ。加えてそれを奪われる心配もなく、その食事を堪能していた。
(高い金を払った甲斐はある。できれば次は自分の稼いだ金で払えるようにしよう)
食事を終え、浴槽の中にお湯が貯まっているのを確認したオルトはそれに浸かるのを少し我慢して、念入りに体を洗う。大量の湯と、備え付けの石鹼で流した湯に濁りがなくなるまで丹念に体を洗う。オレの記憶の中では不可能だった贅沢を満喫し、その身を浴槽の中へと浸した。
回復薬でごまかし続けた疲労が体の中で列をなし、順に湯に溶け出ていく感覚につられてその表情も緩んでいく。目を瞑りその心地よい感覚をある程度堪能すると、眠ってしまってはいけないと目を開く。その先にいるはずのファナは浴槽の中に入って、オルトと共に湯を楽しんでいた。
オルトの緩んでいた意識が急に覚醒する。
「……いやいやいや、なんで裸なんだ?」
ファナは、オルトが浴槽の中で急に立ち上がり顔を急激に赤くする様を見ながら僅かに上気した顔を微笑ませる。
『服を着て入浴する方がいますか?』
「……そうだろうけどさ」
納得は出来るが共に入っている理由にはならない。そもそも。
「ファナの肉体は描写されているものなら湯船に浸からなくてもいいんじゃないか?」
『おや、独り占めですか? つれないことを言わないでください』
たしかに自分達で借りた宿だ。ファナに使うな、などとは言えず。かといってファナに口で勝てる未来も思い浮かばない。空気にさらされ冷える体と天秤に乗せ、基本反応しないのが得策とした。
ファナはからかうような顔でこちらを見ながら満足そうな声を出す。
『オルト、今の私を見て、何か言うことはありませんか?』
(文句の類を言えって訳じゃなさそうだ。さっき言ったけど流されたし。ファナが胸を張って言ってるし)
反論を諦め、少し拗ねたような顔を浮かべながら、これからも続くだろうファナとの混浴を想像し、開き直ったようにファナの全身を見て感想を漏らす。
「……目が綺麗だと、おもう。作り物って言ってたっけ?」
『確かにこの身は作り物ですが、普通そういった評価になりますか?』
全裸の美女と視覚だけとしても混浴をしている。ファナの豊満な胸や、上気した肌、見せつけるように姿勢を変えて揺れるお尻などよりも出てきた感想に対し、ファナは逆にオルトへの感想を追加していった。
その後はファナとの雑談をしながら、湯に疲労が溶けきったと感じたオルトは、これ以上は眠ってしまうと考え浴槽から出る。ふらつきながらも風呂場を出て、体をふき、バックパックから取り出しておいた遺物の服を着てベッドに入った。
「おやすみ」
『おやすみなさい。オルト』
優しくかけられる言葉に安堵を覚えながら、意識を手放し、深い眠りについた。
窓から差す朝日を浴びて目を覚ましたオルトは、今までと比較できない質の睡眠をとれたと謎の心地良さを覚えながらもベッドから降りると、微笑みを浮かべるファナから声を掛けられる。
『おはようございます。オルト。随分長く眠っていましたね』
「おはよう。ファナ。……俺、そんなに長く眠ってたのか? まだ朝だよな?」
声を掛けられて更に意識をはっきりさせるとファナの言葉に引っかかる部分を覚えた。早寝早起きを心掛けているわけでもないオルトは昨夜もいつも通りの時間に就寝したと思っていた。
その答えはファナの口から知ることになる。
『はい、宿を借りてから
「……は?」
ファナの言葉に脳が理解するための時間を要し、状況をゆっくり整理していた。
ファナはそんなオルトを落ち着かせようと、実体のないその両手でオルトの頬を優しく挟み、目線を合わせる。
『良質な睡眠を長時間取ることが出来ました。わずかな疲労すらも残らず抜けたでしょう。思い悩むのは後にして、朝食をとっては?』
「……そう、だな。そうだよな。まずは朝食だよな!」
冷凍食品を一昨日と同じように温めながらオルトは頭に浮かんだ疑問を解消しようとする。
「……ファナ。この部屋を一週間も借りたのは、俺が一泊で起きないだろうって知ってたからなのか?」
『はい。私と会うまで。そして、その後から続く戦闘や探索などによりオルトの疲労は、本人ですら感じられない部分にも溜まっていました。それを完全に消すには長時間の睡眠が必要となりました。ただ、私が計算した中では早い段階で目が覚めましたね』
ファナの発言を受け、もっと長い時間眠り続けていた可能性があると知り、身震いをする。
その様子にファナが笑いながら、オルトは苦笑を浮かべながら食事を始めた。
クガマヤマ都市の周辺には多くの遺跡が存在する関係上、多くのハンターの活動拠点となっている。下位区画にはそのハンター向けの店舗も多い。
その中にトランフワーデンという店がある。強化服などの身体能力を外部の物で補うものを主力に、銃火器、弾薬などを幅広く取り扱っている。潰れるほど寂れておらず、凄く
その店は店長のカオルとその娘のエル、その2人で切り盛りしている。ここで初めて装備を整えた新米ハンターや強化服を買いに来る駆け出し卒業のハンターの中には、そのまま贔屓にすることも多い。
そしてその一部はしばらくすると二度と訪れなくなる。その理由は大きく分けて二つだ。一つはこの店の品ぞろえに満足できなくなり、贔屓の店を変えること。二つ目は荒野に呑まれその命を落としたから。多くは後者になる。
カオルは厳つい顔つきだが、多くのハンターやその者達が持ち込む遺物を見てきたため、その審美眼、客に合いそうな装備を見繕う勘の良さを持つ。そのうえで丁寧な接客をするため、店を訪れる多くのハンターと閑談することもしばしば。楽しそうに自分の戦果を話していったハンターが命を落としたと聞くことも少なくはない。
エルにも店の手伝いをさせながら、何かしらいい出会いでもないかと考えながらもその相手がハンターにだけはさせないと心に誓っていた。
店の中から客が居なくなりエルに休憩を言い渡した後、客が来るのを待つ。扉を開け入ってきたのは見覚えのない顔が入店してくる。子供だ。一見するとスラムにいる子供達のような衣服に身を包んでいるが、その身で背負う対モンスター用の銃などから、駆け出しハンターがここを選んだのだろうと、いい判断だとそのハンターの行動を快く思いながらもそのハンターが強盗に鞍替えをしないか、注意深く観察する。
子供はオルトだった。店内に陳列されている品を一つずつ興味深く見ていても追い出されないことに安堵しつつ、カタログなども見てみる。しかし、文字が読めないオルトでは内容の数字の桁が多いということだけだった。
きょろきょろと陳列品を眺めているオルトを見ていたカオルは、偶にオルトが何もない空間を見ていることに怪訝な表情を浮かべる。
(なんもねえ場所を見ている。誰かそこにいる? 店内は光学迷彩の類は無効化されるようにしている。……ま、気のせいか。銃を幾つか持っているが、重心がとれてねえ。つまりはそういうことだろうな)
暫く商品を眺めていたオルトがカウンターへとやってくる。カオルはオルトと目を合わせながら接客を開始する。
「トランフワーデンへようこそ。新顔のお客さん。店長のカオルという。ご要望はどんなかな?」
「AAH突撃銃と弾薬、整備ツールのセットをセットで。後、買取もお願いします」
オルトはファナに言われた通りに答えた後、先日手に入れた装備品をカウンターに置いた。遺跡でオルトを襲おうとしていた4人の物だった。
「買い取り品の中にAAH突撃銃やAAH突撃銃よりも高性能な銃が混ざっているが、本当に買取に出してもいいのか? 確かに整備状態が悪いが、どれも整備すればまだまだ現役を張れるぜ?」
黙って買い取った方が店の利益は上がる。それでも何も知らないような者からだまし取るような真似は商売人として、娘に恥じない大人でいようとするカオルの意地として許せなかった。
それを受けここに来る前に説明を受けていたオルトは答える。
「はい。買い取りをお願いします」
「そうか。買い取り額と相殺として、……2万オーラムになります」
遺物を売って手にした大金は1日経つごとに目減りしていく。オルトはその現状に苦笑いを浮かべながら支払いを済ませる。
その様子を見ながらカオルは注文の品を、商品とそれを仕入れている自分の自信を含んだ笑顔をオルトに向ける。
「こちらがご注文の品になります。……AAHは傑作銃と呼ばれて多くのハンターに愛用されている。長期間整備せずにいても一定の性能を保障してくれる。が、整備状態が悪ければ確実に性能は落ちる。しっかりやりな」
「……傑作銃?」
カオルが商品の説明を軽くすると、オルトはその中にあった知らない単語に反応した。
「そう、傑作銃だ。歴史は古く100年前に傑作銃と呼ばれた基本設計に、改修に改修を続け……」
カオルは聞き返されたことに説明を始める。簡単に触りだけでも話してやろうと思い口を開いたが、それを聞いているオルトが真剣なまなざしでカオルを見つめ、興味深く聞いている様に気分を良くし、自分でも驚くほどに舌が回った。
説明を終えても、オルトは先程の話を頭の中で反芻しているように見え、店主として誇らしく思い、上機嫌に接客を続ける。
「他に何か入用の品はあるか? おすすめは回復薬だ。死なずに帰ってくれば次が出来る。遺跡探索をする時に弾薬の量を抑えて、その分多目に、過剰に持ち込むのを勧める」
「そういうものなのか? ……ですか? 弾薬は多くて困ることはないと思う、……いますけど」
「言葉遣いなんざ気にしてねえよ。好きに話しな。……回復薬を減らして弾薬を増やすくらいなら、そうせざるを得ない状況になる前に引き返したほうがいい。軽い負傷に回復薬を節制するくらいなら、過剰に使ってでも生き残ったほうがいいに決まってる。まだ行ける、なんて言葉は疑うくらいがちょうどいい」
オルトはカオルのこちらを思う言葉に、本当に自分を思う以外の感情は籠っていないように感じ、そういうものなのかとどこか納得していた。
回復薬に関してはファナからの援助品がまだまだあるため心配はない。同じ効果を期待出来るものは今の所持金では手が出ないだろうと結論付けて、この店を選んだ本題を告げる。
「この店で遺物の換金を行うことは出来るのか? 可能なら少し相談したいことがあるんだけど」
唐突な話題にカオルが目を丸くする。
「そりゃ可能だが、信用や卸し先の幅を考えればハンターオフィスの買取所に持っていくのが一番だ。そのうえで、か?」
「ああ。そのうえで頼めないかな」
オルトは店内にある監視カメラに申し訳なさそうな視線をやりながら頼み込む。ハンターになる者達には身分を隠して、偽って、後ろ暗い秘密を隠しながらという者も少なくはない。
カオルは対応に困っていた。面倒事のような気もするが、先程までの反応からしてオルトを悪人認定することを躊躇っていたからだ。
決断できない時は判断材料を増やせばよい。改めてオルトを観察し、衣服、背に背負う物、そしてオルトという1人の人間を見て結論を出す。
「分かった。だが、その相談を聞くだけだ。その後どうするかは俺が決める。それでもいいか?」
カオルの決断を聞きオルトの顔が幾分か明るくなる。
「本当にいいのか? ありがとう!」
「約束すんのは聞くまでだ。こっちだ、付いてこい」
オルトを監視カメラの設置されていない部屋に案内しながらカオルは時間を見ながら休憩しているエルに声をかける。
「エル。少し用事が入った。カウンターを頼む」
「わかったよー。パパー」
エルと呼ばれた少女はひょこりと他の部屋から出てきてオルトの横を通る際にお辞儀をしてから去っていった。
「良い子だろ。俺の娘のエルっていうんだ。この店にまた来るならあの子が応対する時があるかもな」
「そうか。ならその時が来るように生き残り続けるよ」
オルトの返事に更に機嫌を良くしながらカオルは部屋の中にある席に着く。オルトが同じように席に座って本題を話す。
「いいか? ……今俺が持っている遺物をそちらで換金してほしいんだ。匿名で持ち込まれたとかでだ」
「なぜだ? 高価な遺物を持ち帰って来たってのはハンターとしちゃいい評価につながる。ハンターオフィスの提携店に持ち込めばハンターランクも上がる。それを捨ててでも頼みたい遺物か。ま、興味はあるな。だが俺に利点がない。そこはどうする? 俺だって商売人、取れる利益は取る方だ」
至極まともな答えを返されるが当然だとオルトは思う。
「その遺物を換金してくれたら、それを全額この店の商品の購入資金にする。1オーラム残らず」
「全額と来たか。それ程自信のある遺物があるならその話、受けてやる」
オルトはそう言うカオルを見て問題はないだろうと、あったとしたら自分の運がなかった。それだけだと心の中で唱えながらバッグの中から何かの装置のように見える小型の機械を取り出した。
それを見たカオルは驚愕の顔を浮かべ、得心した。それが本物なら目の前の子供では到底入手不可能な代物だと知っていたからだ。
「これをどこで見つけたのか聞いてもいいか?」
「そういうのはなし。ハンターとの商談なんて大抵そうだろ? ……それで、受けてもらえるのか?」
オルトの視線が少し厳しいものに変わる。自分を心配して色々教えてくれた相手だとしても、この遺物の情報は話せない。それはファナのことを話すようなものだからだ。
「……条件を二つ追加だ。一つ、お前もこの遺物をここに持ち込んだことは他言するな。二つ、お前の持ち帰る遺物の中で衣類系のものがあったら俺のところに優先して持ってこい。次は表で出せるようにな」
「一つ目に関しては了解した。誰にも話さない。二つ目に関してはなんでだ?」
「さっきお前も会っただろ? 俺の娘も年頃。おしゃれくらい自由にさせてやりたいし、旧世界製の衣服なら丈夫だから安心出来る!」
子を思い悩む父親の表情をオルトは見ていて、そうかと納得する。
「二つ目に関しても了解だ。それじゃあ、この遺物を頼んだ」
「分かった。……この遺物、俺の眼からも相当なものに見える。鑑定に出すつもりだがその結果が出るのに時間がかかる。その間お前はどうするんだ?」
「銃の使い心地を試そうと思ってる。待ってれば大金が手に入るんだ。わざわざ遺跡の奥に行くような危険な真似はしないさ」
「分かってるのならいい。鑑定中に死んで宙ぶらりんの金をつかんでもうれしくはねえ。それで連絡手段はどうする?」
連絡手段の確保のため追加で情報端末を購入し、カオルの連絡先とこの店に対しての連絡先を登録した。それ以外にもいくつかカオルから投げられる質問に返答し、話がまとまるとオルトは店を出ていった。帰り際にエルという少女にかけられた言葉に頭を少し下げ、宿に向かう。
宿の中で大きく減った金を苦笑しながら眺めるオルトにファナは微笑む。
『これで装備の方は問題ないでしょう。無駄遣いなどしていません。お金が減るのならそれ以上に稼げばいいだけです。……さて、今日はまだ半分あります。サポートをより高度に受けられるように訓練をしましょう』
「訓練? 今から荒野に行くのか? まあ、この銃も試さないとだしちょうどいいか」
オルトは訓練と聞き外に行くのだろうと思い立ち上がるがファナが待ったをかける。
『いいえ。今からオルトには念話を覚えていただきます』
「念話?」
ファナから念話についての詳しい説明を受けながら必死に理解しようとするが難しい。頭の中で語りかけてもファナには届かず、時々それらが口から漏れ指摘を受けてを繰り返す。
日が傾きかけた頃、ようやく成功し、ファナが返事を、オルト側からの指示をファナがこなすなどして慣れていく。その応用編として図形や絵柄などの文字に表しにくいものを伝える際、ちょうどいいからとファナの服を思い浮かべるよういわれるがうまくいかず、形を崩す。それを反映してかファナが全裸になりからかわれたりなど一騒動終えると、既に日は落ち切っていた。
変に疲れたオルトは食事をとり風呂に疲労を溶かしてベッドで眠りについた。
翌朝、オルトは2日経っていないことに安心しながら朝食をとる。念話の訓練のために食事中に念話を用いて雑談を続け今日の予定を聞く。
情報端末を使いやすくするためにと、意味の分からない文字や図形を打ち込み続けているといつの間にやら昼になっていることに唖然としながら作業を終える。
その後、昨日買った銃の整備を行う。バラバラに分解し、部品を丁寧に分け始める。
「これが次の俺の生命線か」
『そうなりますね。しっかり整備しましょう。これからの為にも』
ファナに拡張現実で銃の分解方法、組み立て方を教わりながら分解し組み立てを何度も繰り返し、ファナからの指摘がなくなったころには日が沈みかけていた。
「追加の銃を買ったら整備だけで1日を終えそうだな。慣れれば違うんだろうけどそれまでは追加の銃の購入は控えるべきか」
『そうですね。しかし、形がいきなり変形するわけではないのですから慣れてしまえば心配ありません』
ファナの言葉にいつも通り安堵しつつ、いい加減覚えなければと思い近くの雑貨屋から教材を一通りそろえて読み書きから覚えていく。ファナがオルトの視界の中に他にも教材を追加しながら授業を始める。それは非常に効率の良いもので、その日の内に、ある程度の読み書きは可能になり上機嫌なままオルトはその日を終えた。
その間も情報端末はその画面の内容を書き換え続けていた。
オルトは遺跡の外周部付近でAAH突撃銃の銃口を虚空に向け引き金を引く。虚空に消える銃弾を見て顔を歪める。
『まだ発砲時に体勢が崩れています。今は構えを意識しながら目標を狙うことにだけ集中してください』
ファナが隣でAAH突撃銃を構え、オルトにそれを真似させる。オルトの視界の先には赤く縁どられた小石が転がっており、オルトはそれに狙いを定めて引き金を引く。引き金に指をかけると銃口からファナのサポートによる弾道予測線が伸びており、それを目標に合わせている。
『実戦では小石ではなくモンスターを狙います。外せば接近を、反撃を許し殺されます。目標の急所に、最低でも行動不能にさせなければ、そのまま死にます。それを念頭に置いて続けてください』
外した落胆を持ってもすぐに意識を切り替え訓練を続けると、照準器越しの景色に着弾の跡を増やしていく。一時間ごとに休憩を挟みながら射撃の訓練を続けると、目標に当たる回数が増えていった。
「やっぱり便利だなこの視界の拡張とかいうやつ。どれが目標になっているのか分かりやすいし、銃の弾道がどうなっているか分かるから、どのタイミングでどう撃つのかが正解なのか知れる」
『満足しているようですがまだまだ命中率は低いままです。もっと訓練を続けましょう』
「お手柔らかに頼む」
『厳しくいきますので頑張ってください』
「……はい」
オルトは訓練を日没まで続け、始める前よりはましと自分で思える命中率に向上していた。
今日の訓練を切り上げて、闇夜に紛れながら都市へ戻る。いつもの宿に帰り、食事をして風呂に入ろうとしたが、その前に銃の整備をするよう言われ、渋々ながらかつ早く風呂に入るため迅速に終わらせた。後の心配事を消化したオルトは湯船に浸かり、溜まった疲労を溶かし、風呂場を後にして、ベッドで倒れるように就寝した。
遺跡の中をファナに指摘されながら索敵する。服の上に先日手に入れた情報収集機器を取り付け、顔にバイザーをかけている。周囲の反応や形を捉えて効率よく、安全に立ち回ることができれば、モンスターとの遭遇率を下げることが出来る。
「モンスターと会わないためって話だったけど最近ハンターのほうが見かける割合多くないか?」
『最近のクズスハラ街遺跡の外周部にはここより奥に潜るようなハンターも多く訪れているようですね』
「へー。なんでだ?」
『どうやら外周部でスラム街の子供が高値の遺物を連続して買取所に持ち込んだらしく、外周部に遺物の隠し場所、未発見の旧世界の倉庫があるのではという噂が広まっているみたいですね』
ファナのいうスラム街の子供に覚えのあるオルトが誰に対してか分からない言い訳をする。
「……俺のせいじゃないな。外周部で高値の遺物なんて見つけた覚えないし」
『間違えた情報を掴むと時間を浪費する。それだけです。……オルト、離れましょう』
オルトが索敵の訓練を止め、ファナの指示のもと、その場から離れ建物の中に潜む。
「あれってドランカム、だったっけ?」
『正解です。クガマヤマ都市内では大きめのハンター徒党ですね』
「なんかやけに子供が多い気がする」
『先日スラム街や他の都市から連れてきた子供を多く迎えたみたいですね。当たればでかい上、人的被害も少なくて済む。それに……』
「何も分からん奴らをシステムにいれれば使いやすくなる。それが当たり前と刷り込めば更に。スラムも下位区画も徒党は腐ってそうだ。この分じゃ壁の中もか? 笑えないな」
『……そうですね。そろそろ行きましょう。見つかると逃げきれませんよ』
ドランカムの子供達は強化服を着ているため単純な身体能力では逃げ切れない。彼らの内、スラムから意識が出ていない連中がオルトを見れば、情報源として無理やり捕まえるという手段をとる者も少なくないはずだ。そしてオルトのバックパックの中を確認されれば彼らの範囲はさらに拡大する。
ドランカムのハンターが遠ざかっていく内に反対方向へ歩いていく。走れば彼らの使用している情報収集機器に探知されかねないため、その歩みは普段の物より慎重なものになっていた。
大量の人間の死体の上をオルトが駆けている。頭がないもの。喉を食いちぎられたもの。腹部に大きな穴が開いているもの。その死体の全てがオルトの姿をしていた。
「……次だ!」
その言葉に反応したかのように自分の物ではない足音がする。当然ファナでもない。オルトが足音の方向に振り返りながらその先に銃口を向ける。そこには六本脚のモンスターがオルトの方へ駆け出していた。そのモンスターをよく見ながら荒くなる呼吸を無理やり止め集中し、引き金を引く。銃弾はオルトの視界の中の弾道予測線に従ってモンスターの脳髄を砕いた。
「……勝率は上がってきた。上がって来たけど、やっぱり自分の死体が転がってるのは慣れないな」
『慣れるものではありませんよ。こうならないための訓練です。実戦では勝率百パーセントを維持する気概でないと』
「分かってるよ。最近は銃口がブレなくもなって来たし、この銃にも慣れてきたってことなのかな? ……後、このモンスターに殺される時、偶に時間をゆっくりに感じるんだけどあれってなんなんだ?」
『今は特に考える必要はないかと。ただいい感覚ではあります。それが起きている時を思い出しながら訓練を続けるといいかもしれませんね』
目の前の自分の死体達、今殺したモンスター達もファナがオルトの視界に表示した拡張現実の生物達。オルトの眼には、耳には物体を持った本物のように感じられるが、それがオルトの命を刈り取ることはない。判断を間違えてもそれがオルトを殺すことはない。だが、間違え続けていいわけでもない。本物が今襲ってくればオルトはその死体達の仲間入りをしてしまうのだから。
オルトの訓練はいつも日没まで続けられるがその日は違った。
『オルト、訓練は切り上げましょう』
「そうか? 分かった。何があったんだ?」
ファナが予定以外の行動を促す時、大抵オルトに対し良くないことが起こる。しかし今日のそれは嬉しい例外の様だった。
『カオルから連絡が来ました。遺物の換金が終わったから来い、とのことです』
「おお! やっとか。早速行こう」
先程までの疲労も消え去りオルトの中には換金額への期待のみが残っていた。
「弾薬も結構使ったし、補充もしとくか」
『そうですね。額によっては武装の強化を図っても良いかもしれません』
ファナの同意を得て、更に機嫌を良くしながら、オルトは都市へ少し駆け足気味に戻る。
トランフワーデンに着いたオルトはエルに挨拶をしてからカオルに奥の部屋に通される。カオルは何も言わずその手に持っていた情報端末をオルトに手渡してくる。
「黒銀屋ってのが鑑定をして、鑑定料が……500万オーラム!? 高いな! 遺物は旧世界製の情報端末だったと」
「そうだ。正直俺も実物を見るのは初めてだったよ。噂程度なら偶に聞くがな。黒銀屋に遺物について聞かれた時は知らんとしか答えられんかったがな」
ずいぶん厄介な遺物を任せてしまったようだという思いがオルトの気を落としていく。
「勘違いするなよ? 俺の方もこれは商機なんだ。もしお前がこれを更に見つけるなら、大金を手に入れ、それでうちの商品を買ってもらえる。そうじゃなくてもお前との約束がうまくいけば常連候補が1人増えるんだ。悪い話じゃなかった、これは嘘じゃねえ」
カオルが気遣ってくれていると感じオルトも視線を戻す。
「そうか。ありがとう。それで結局幾らになったんだ?」
「ああ、黒銀屋の鑑定書を付けて付き合いのある企業に持って行ったところ3500万オーラムになった。黒銀屋の鑑定料を引いてお前の金は3000万オーラムになる」
カオルが席を立ち部屋の隅に置いてあったトランクをオルトの前に置くと、視覚的に分かりやすい札束がぎっしりと詰まっていた。
「さ、3000万オーラムか」
「そうだ、駆け出しのハンターが容易につかみ取れるような額じゃない。ほんとに疑問は尽きんが、それは無視だ。さてここからは商談だ。お客様、何をお求めでしょうか?」
オルトは目の前の大金に思考を停止させていると、カオルが、ファナが正気に戻しながら装備の注文を始める。
「強化服か。たしかにハンターを続ける上でそういった装備は必需品と言える。ただ、種類の要望の内容に少し専門的な内容が入っていたが、どこで知ったんだ?」
強化服を購入する機会が来た際にどのような種類の物を購入するか、ファナとあれこれと相談しあらかじめ決めていた内容だ。一概に強化服といっても種類がある。ファナの授業の成果としていろいろな企業のカタログの内容を大まかにだが理解出来る程度にはなっていた。
「……読み書きの勉強の際に強化服の噂話とかカタログを見てて、そういうのを使ってると調子が良いやつが多い気がして……、何か強化服選びの常識に反する内容だったりするのか?
やはり常識のない自分と旧世界の存在のファナが決めた内容では現代の強化服選びに大きな隔たりがあるのかもしれないとオルトは少し困っていた。
「ま、問題はねえ。制御装置を嫌う奴も居る。逆も然りだ。この条件とお前が持っていた情報収集機器と相性のいい奴を探すとしようか」
そういうところも考慮に入るのかと感心しながら、オルトはパッカ達から奪った情報収集機器を取り出しカオルに見せる。
「総合系のクセのない品だな。これらの条件と予算以内だとすると、……アレがあったな。ちょっと待ってろ」
情報端末を操作しながら部屋からカオルが出ていく。
『カオルが情報収集機器を見た時、顔を顰めてた気がするんだけどなんでだと思う?』
『商品を取り扱う者として気に入らない商品もあり、これがそうだった、とかでしょうか。気になるようでしたら直接お聞きになる方がよろしいかと』
『それもそうだな。にしても嫌いな品か。裏取引品だとか改造品とか形だけの偽物で本物はもっと性能高かったりするのかな?』
『どこから彼らが入手したかはともかく、私が内容を書き換えましたから性能についてはご安心を』
ファナとの閑談を楽しんでいるとカオルとエルが入室してくる。カオルが大きなトランクを、エルが比較的大きめのトランクを持ち込んでくる。
「さて待たせたな、コイツがお前の要望に沿う商品VGL型A式強化服。製品名スィリーニアだ。少し前に出たばかりの新製品で性能は保証する。制御ソフトはネットから更新すればいい。間違っても変なところからするなよ? 下手をすると強化服に殺されるぞ。気を付けな」
頷きながらオルトは目の前の強化服を隅々まで観察する。柔らかな人工繊維で織られた布地の上に、硬質ゴム板のようなものがとりつけてある。全体的に濃い灰色を基調とし、ところどころにカーキの線が走っている。
「おーなんだか凄そうだ。……そういえばエルはどうしてここに?」
「オルト君の装備を運んできたのよ」
「強化服以外になんか頼んだっけ」
オルトは疑問を口にするが、店に客が来たのか部屋から出ていくエルに代わりカオルが答える。
「いや、頼んでねえ。予算内に収まるように色々持ってきたんだ。どれも役に立つものだ。今は不要でも今後必要に駆られるかもしれない。そういう意味では早めに触れておいた方がいいものもあるってことだ」
エルの持ってきたトランクの中には幾つかのパーツが入っていた。
「……なんだこれ」
「長いものは補助アームと呼ばれるもので、強化服に取り付けて使用する。素早い動作は不可能だが結構な重量の物でも持たせられる。遺物や予備の弾倉を収納しておくバッグを持たせておけば両手が自由になるって訳だ」
その後トランクに入っているものを一つずつ確認しながら購入するものを決めていった。
結果として、強化服に両肩甲骨、両腰に取り付けた補助アーム、計4本。予備の情報端末、頑丈なリュックサック、そして追加のAAH突撃銃と2挺のAAH突撃銃を強装弾、及び拡張弾倉に対応させるための改造部品、それらの消耗品となる弾倉とエネルギーパックを購入した。オルトの装備は今日、一気に充実した。
「なんていうか。凄いな」
「確かにすげえな。これでハンターランク10未満とか見た目だけでも詐欺だぞ」
「見た目だけで悪かったな」
「ああ、早く口座くらい作ってくれ。今回のは口座に入れるわけにはいかなかったからいいものの、同じ桁の金をやり取りするのなら作っておかないと手間だ」
「分かったよ。同じような買い物をする前にさっさと口座の開設くらい済ましとくよ」
カオルの店にも何度も通うようになり笑顔で言い合うくらいには気安い関係になった。偶にカオルが店を留守にしている際にはエルが接客を行っているため、自然と話をするようにもなった。
装備の確認を済ませたオルトは多めに購入した弾薬などをトランクにもつっこんで持ち帰ることにする。
エルにも挨拶をしてから帰ろうと奥の部屋から店内に戻るとそこには見覚えのある者がいた。
「なんだかんだこっちの方が居心地いい気がするわね」
「やっぱり? 私が居るからじゃない? 一度は別の店に行っちゃったけど戻ってきちゃうんだよねー」
「そうかもねー。こんな可愛い看板娘が居たら誰でも、……で、も」
エルと会話を弾ませていたのはグレイだった。グレイはオルトを見ると瞠目したままゆっくりと後ずさりをしていた。しかし、オルトは気にも留めておらずエルに挨拶をし、僅かにしか動かないグレイを不思議に思いながらもトライフワーデンを後にした。
微妙な空気になっていた2人を一先ず置いておいて、エルは去っていくオルトに元気に挨拶をしていた。
「オルト君、またのご来店お待ちしておりまーす!」
先程よりも緊張がほぐれているグレイの様子を探りながら触れても問題の無い話題なのか考えながら、客同士、ハンター同士が変にぎくしゃくしたままでは、荒野で遭遇した際の事故に繋がるであろう。言いたくないほどのことであれば聞かないでくれと言われるだろうと考え、首を突っ込むことにする。
「ねえグレイちゃん。オルト君と何かあったの?」
「……えっと、彼、は何か言ってたりした?」
グレイの問いにエルは首を横に振る。
「ううん。少なくともグレイちゃんがそうなるような何かは聞いたことがないかな」
「……そっか、そっか」
グレイは少し嬉しいような、申しわけがないような。そのうえで怯えた表情のまま少しの時間考え込む。
「……別に今も敵対していて生死に関わるって話じゃないんじゃないか? 少なくともオルトはグレイに敵意や殺意を向けてるって訳じゃなさそうだしな」
2人の会話にカオルが口を出す。少しでもグレイの心持を軽くしてやれば話しやすくなるだろう。少なくともオルトとの関係の更なる悪化には繋がらなくなるだろうと。
多少顔色を良くしたグレイは大きく深呼吸をしてから、オルトとの間に何があったのかを2人に大まかに伝えた。
「……そういう訳で彼には酷く恨まれていても不思議はない状況でして」
「それは、確かに生死に関わる話だな。悪かった」
「うーん、グレイちゃんは仲間の仇だー、ってオルト君に復讐したいの?」
「いいえ。チームの皆が死んだのは確かに悲しいよ。でも、私は彼らのチームから外れたの。自分の意志で。意地と覚悟を持って。まあ、その後すぐにモンスターに遭遇して負傷しちゃったんだけどね」
2人に自身の問題を吐露し、心に少しばかりの余裕ができたグレイはまだまだ固いが笑顔を浮かべていた。
「敵討ちのための復讐鬼に成りたいわけでもなく、何ならその後のお礼を言いたいってだけなら、そのまま面と向かって言えばいいだろう。少なくとも俺はオルトがそこら辺を気にしているようには見えなかった。エルはどうだ?」
「私もパパと同じだよ」
カオル達の言葉を聞き、グレイがオルトと遭遇した時間を思い起こす。
(確かにそこまで恐れる必要はないのかも。あの時だって私がパッカ達の仲間だったってことを知っていたうえで私を見逃してくれた。あまつさえ遺跡から帰るのに必要な武器を残していってくれた。私が勘違いをしているだけ?)
グレイの中でオルトという人物像が少しずつ変化していく。徐々に変化するそれに従って怯えは消え失せていった。
「そうかもしれません。今度機会があれば彼とちゃんと向き合ってみるとします」
「それがいいだろうな。……さて、問題も解決したところで……」
元気を取り戻し、向き合う覚悟をしたグレイにカオルは商売人の顔を向ける。グレイはかつて目指していたものになるために、カオルはそのハンターの一助になれるようにより高額の装備に手を伸ばす。
スラム街に近い買取所を経由していたオルトはすっかり馴染みになっていた職員から渡されていた地図を頼りに下位区画を歩いていた。
『ここであってるよな?』
『間違いなくここですね。防壁と一体化しているクガマビル、その中にはハンターオフィスクガマヤマ都市支部も内包されています。行きましょう』
『ああ、そうだな』
クガマビルには多くのハンター、そしてその対応をするもの達が多く出入りしている。駆け出しハンターのオルトなど目ではない者達に気圧され立ち止まる。
『オルト。別に敵がいるわけではないのです。手続きを済ませてしまいましょう』
『そうだな。行くとしよう』
『それに臆することはありません。私のサポートを受け訓練と実戦を繰り返しているのです。すぐに追いつきますし、追い越せます』
『……俺に出来るのか?』
ファナの言葉を疑いたくはない。彼女は多くをオルトにくれた。これからもそれは続く。だが信じられない部分がある。それを貰うだけになっている自分だ。身に纏う物もファナから貰ったといって過言ではない。自身で為したことなど一つもないのではないかと顔を曇らせる。
『問題ありません。あなたは自身の放った言葉を真実にすればよいのです。有言実行。多くの者がそれを為せません。ですが』
『……ああ、俺は覚悟を示す。それは絶対だ』
『それ以外は私の仕事。それだけです。もう、だいじょうぶですね?』
『悪かった、もう大丈夫だ。さっさと手続きを終わらせて帰ろう』
俯いていた顔に意気を乗せ、前を見る。ファナから指示されながら手続きを終える。
ハンターランク10、名前はオルト、たったそれだけのシンプルなハンター証を見ながらクガマビルを出る。
「ハンター証が紙からグレードアップ、口座の開設も終わった。これで晴れて俺も1人のハンターだ。明日からも頑張らないとだな」
『そうですね。今日は早めに就寝して体力を回復させておきましょう。強化服を情報端末に接続しておいてください』
「強化服の方も書き換えるのか? カオルは更新ソフトはネットからでも、とか言ってたけど」
ファナが少し怒っているような顔をオルトに近づける。
『ネットから取り入れる物は汎用的なもの。私が行うのはオルトに合わせた調整になります。私のサポートが万全に受けられるようにするためでもあります』
「そ、そうか。ファナは凄いな。俺の知らないことを色々知ってるし、出来ないことが出来るし、……」
少し焦りながらオルトは少ない語彙でファナを褒め続ける。ある程度時間が経つとようやくいつもの微笑みに戻り安堵する。
その後も食事を取りながらや、風呂に入っている最中にも小さな、ファナの何かに触れないだろうものを選びつつ質問、応答を繰り返していた。
「そういえば強化服にはヘルメットは付いてなかったな。カオルは持ってきた中にそういったものを入れてなかったし基本セットにも、追加用の物にも入ってなかったし。クガマビルの中にいたハンターもヘルメットを着けてるやつは少なかったな」
『それについては諸説あるようですが、ヘルメットを嫌う人が言うには、勘が鈍るからだそうですよ? 噂の域を出ていませんがね』
オルトの視界にはファナのいう噂であろう情報が映っていた。
「へー、実際勘ってのは本当のことなのか?」
『本当です』
ファナの当然という態度から発せられる言葉に少し驚きの表情を映す。
「随分とハッキリ言うんだな」
『事実ですからね』
人間には感じ取れてはいてもそれを理解できていない。しかし、完全にではなく一部だけを理解し判断することが出来る何かがある。だが、それを未だ解明できていないため、視覚、聴覚のように呼び名がない。よって総じて勘としている。
ヘルメットを着用することで、その勘を働かせるための情報を周囲から知覚できにくくなり、結果として勘が鈍ると言われるようになっている。
「更に下手なものを被るとファナとの通信が不安定になる、か。俺はヘルメット被らない派に決定だな」
『ものによっては問題ありませんよ? 通信だけは、になりますが』
「やめておくよ。今の俺はファナのサポートがなくなったらすぐ死んでしまうような奴なんだ。その上、僅かに機能してるであろう勘すら無くなったらどうなるんだよ。死ぬ気はないんだ。最大限、心の底から信用していますのでこれからもサポートをよろしくお願いします。……おやすみ」
『はい、かしこまりました。おやすみなさい、オルト』
ファナは観察を続ける。オルトの信用するという言葉が、どれほどのものなのか理解するために。信じるという言葉をどれ程のものと捉えているか。心理状態の変化と人格の傾向、本質を知るために。
部屋の中は情報端末のみが光を放っていた。強化服の掌握を、情報収集機器との調整を、それを着用するオルトに合わせるために。ファナがそれをサポートするために。
皆さんはリビルドワールドのキャラでだれが好きですか?
主人公の武装や持ち物。後書きに書いた方が良かったりしますか?
アキラ、カツヤ側のストーリーもオルトの動きに合わせて書いた方がいい?(尚、書籍版やWEB版の流れは踏襲するつもりです。細部に変更を加えたり等が発生します)
-
いい
-
だめ
-
傍観