リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第三十話 落下(ぶつ)

 

 旧世界製の直刀(ちょくとう)をバイクに積んだ後も倉庫内(そうこない)の遺物を調べていくと、その内の一つへとファナが誘導した。

 オルトは逆らうことなくバイクを後に付けながら示されている棚の前まで歩いていく。天井付近までの高さを持つ棚の見るからに足場には不向きな細いフレーム部分を、重力を無視した角度で悠々と歩き、強調表示されていた箱の元まで辿り着く。

 

『オルト。これにしましょう』

 

 ファナが強調表示した物は直刀(ちょくとう)が収納されていた箱より少し小さめの大きさだった。梱包(こんぽう)状態では中に入っている遺物の正体は視認不可能だ。しかし顧客に対して内容物確認の為に、一見普通の梱包材だとしても、旧世界の技術によって拡張現実情報の送信機能が付属されており、購入予定のお客様へ立体映像として中身の状態や、その使用時の状態を表示することが出来る。

 その情報を受け取る為の機能は現代でもそれなりに性能の高い情報端末や情報収集機器には、結構初期状態(デフォルト)で搭載されている機能だが、オルトの情報収集機器からはファナの改造の結果、取り払われていた。

 オルトとしてもそれを不思議に思うことは無い。ファナがオルトの旧領域接続者としての受信機能で読み取った各種データを解析し、オルトの拡張視界へ自身と同じように映し出せば済む話だからだ。

 日々行われる当たり前が他者からすれば異常だという事実であっても、この二者間で完結するやり取りの中には指摘する者が存在しないことを、今日も大いにファナだけが利用していた。

 そして、オルトの拡張視界へ投影された内容物は、頑丈なトランクケースに入った展開式の簡易防壁と思われる物体が規則正しく保存されて綺麗な層を成していた。総重量はかなりのものだが、内容量を考慮に入れれば、一つ分の重さは軽量な方ではないだろうかとオルトは考えていた。

 オルトはファナに言われた通り、持ち帰る遺物をその箱に決めて強化服の力で軽々と持ち上げる。地面へと落とさないように慎重に棚を降りバイクの補助アームに掴ませると車体に強く固定させた。

 その作業の途中に軽く問い掛ける。

 

『ちなみになんでこれを持って帰ることにしたんだ?』

『私の指示では不安ですか?』

『違うって。他にも、見た感じ高価そうな遺物はあっただろ? それでもこれを優先した理由は何なのかなって思ってさ』

『ふふっ、冗談です。その遺物の包装材に印字されている企業ロゴが先程の直刀(ちょくとう)の製造企業のロゴと一致したからです』

『……つまり?』

直刀(ちょくとう)に使用された製造技術の流用先か元か、それは不明ですが、製品開発時に用いられている技術が同じであれば、構成要素の解析に()てられる物は多いに越したことはありません』

『……あぁ、対照実験みたいな感じか』

 

 特異な設計思想の下で製造された物でもなければ、現代製の装備と同時に使用可能な遺物は東部には多々存在している。以前オルトが使用していた旧世界製の情報端末がそれに当たる。

 他にも旧世界製の自動人形と呼ばれる遺物であれば、使用されている内蔵部品をそのまま義体者の体の一部にも転用可能だ。

 だが、相性というものが必ず存在する。過合成スネーク討伐時にドランカムが利用した多連装砲マイマイの主砲を無理矢理接続した車両は、最後の砲撃時に主砲から漏れ出た余剰エネルギーの波動によって、車体を大破に追い込んだ。

 オルトが使用していた情報端末も、強化服の正式な拡張パーツではない。爆撃や砲撃から身を守るため仕方なかったとはいえ、力場装甲(フォースフィールドアーマー)を可能な限り強力に展開していた所為で徐々に内部の機器が狂い、最終的には使い物にならなくなったのだ。ファナからはそう言う意味で安物だったのだと言われ、オルトは素直に納得した。

 このような事態になるのは未解明部分である技術が現代製の製品と無駄に干渉しあっている所為だ。だが同じ企業の製品であればその憂いも無く内部構造の交換、乃至(ないし)は解析に掛かる期間の短縮に(つな)がるだろう。そうファナは締め(くく)った。

 

(そうなるとこの遺物もFARBE行きか。……金に変わらないけど、企業が持ち込まれた遺物の持ち逃げなんかすると他所(よそ)からの信用に関わるし、俺が強力な武装を手に入れてもおかしくない状態になったらその時にでも返して貰えばいいか)

 

 今回の遺跡探索での収入はゼロ。機械系モンスターとの交戦も考えれば実質マイナスになってしまうが、オルトは将来の為の投資としてFARBEに恩を売ることで収支は合うだろうとした。

 実際、企業が貴重な遺物の持ち逃げなどは許されない。オーラム等の金銭的やり取りにせよ、物々交換による物資の流れにせよ、統企連は東部での健全で公平で自由で平和な経済活動を推進している。阻害する要因を一切許可しないとも宣言している。実際に取り締まるかどうかは別として、それらの規則(など)をしっかり公布している。何よりも誰よりも自分達の経済活動のために。

 その為、それを無視するような行為が露見した場合、五大企業だけでなく、他企業からも潰される恐れがある。五大企業と呼ばれるほどに規模を拡大した組織が保有する戦力は、そこらの企業とは隔絶した差があり、その戦力で以て経済域を拡げ始めた企業を完全に潰すとなれば周囲一帯に甚大な被害を(もたら)すことになる。その余波だけで無関係だった企業も輸送経路や付近に構築していた工場、支店(してん)などを諸共(もろとも)に吹き飛ばされる可能性も決してゼロではない。金で解決できる問題だからと、どの企業も纏めて消し飛ばされては困る。事前に、速やかに、可能な限り穏便に自分達で消しておこうという人間は少なくない。

 そして何よりオルトという顧客も問題だ。以前オルトはクズスハラ街遺跡の外周部で強奪されかけた遺物を、その場に居る強奪犯達を皆殺しにして回収している。

 ハンターオフィスでの経歴には()っていない為、それを知っている者は限られてくるが、そこに目を付けたのが他でもないFARBEだ。一時の利益を優先して持ち逃げなどをして将来的な大損害を選ぶほど経営陣は愚かではない。そうオルトは判断しており、選ばせるほどに落ちぶれるつもりもない。

 東部で最終的な決定権を持っているのは武力的に強い方だからだ。

 

 

 バイクにしっかりと遺物を固定し、残量が減っていた弾倉やエネルギーパックを交換して帰り支度を整えたオルトが倉庫から出ていく。入る時と同じように自動的に扉が閉まり、中にあった数多(かずおお)くの遺物の存在を完全に隠してしまう。

 オルトは回収出来た遺物が変に厄介事に巻き込まれて破損しないようにと気合を入れ直しつつ、工場内を進み始めた。

 オルトが去った後、倉庫の扉がその形をゆっくりと変形させて、ただの壁の一部となる。見た目や質感どころかその在り方までも既に倉庫の出入り口としての機能を喪失し、誰かがそこを注視したとしても強力な力場(りきば)が張られている頑丈な壁という結論が出るだけになった。

 そしてその変化は力場(りきば)で隠蔽された下で、まだ続いている。それは決して一つの倉庫だけで行われている現象ではない。

 一連の変化を唯一認識していたファナが非常に冷たい視線で見つめ、オルトの見えない位置で溜め息を漏らすと視線を前へ戻す。その挙動はオルトにすら見えない。

 バイクの補助アームを座席代わりにしているファナが、オルトへ話し掛ける。

 

『帰りは行きとは別のルートを進むとしましょうか』

『そうだな。途中こっちを認識してたハンターも居たし、それが安全か。……にしても、さっきの場所もいずれは他のハンターに見つかって遺物が無くなっていくんだよな』

 

 どうせならばそれをするのは自分でありたい。ありふれたハンターの利益にならない願望の一つに過ぎないが、遺物が大量に残されている遺跡の未調査部分という稼ぎ場所を既に知っているオルトは、他のハンター達よりも大きなアドバンテージを得ている状態だ。内部を(から)に出来るほど通えるかどうかは別にして、可能ではあると考えていた。

 だが、同時に時間が掛かり過ぎる点についても思案していた。

 

『あの倉庫の遺物を持ち出すにしても一人だと持てる量に限界もあるし、でも流石にグレイとかに協力を頼むのは、……無理だな』

『ええ、無理です。やめてくださいね?』

『分かってるよ。ヨノズカ駅遺跡は、……ともかくとして、ユウセツ駅遺跡みたいな発見方法は見当もつかないしな。ファナみたいにあのセランタルとかいう管理人格と交渉でも出来れば別なんだろうけど、そんな奴ならもっと東側に行った方がマシだろうしな』

 

 今日初めてミハゾノ街遺跡に来たハンターが、遺跡の主な稼ぎ場所である市街区画から大きく逸れて工場区画に向かい、地図も無しにその奥に立ち寄り、遺物が大量に残されていた未調査部分を発見し大きな成果を上げた。

 これらすべてを偶然と片付けるようなハンターがいればただの間抜けと嘲笑を受ける。オルトも流石に偶然で片付けられないことを理解している。未調査部分に関する情報を、そこへ辿り着く方法を何らかの手段で入手したと考えるのが自然だ。具体的な入手方法は不明であっても、何らかの入手経路を保持していることが明確に露見し、広まることは避けるべき事項だ。少なくともファナに繋がる情報は一片であっても漏らすことは出来ない。

 同じハンターであるならばグレイもそれを知りたがるだろう。理性ではオルトと敵対してまで知るべきではないと分かっていながらも、以前のようにヨノズカ駅遺跡みたいな手付かずの遺跡でも見つかればそれだけでそこらのハンターを大きく上回る成果になる。人が持つ欲というものは理性で押さえ込み続けられるほど小さくはない。

 この場所の情報を漏らすデメリットについてファナと話しながら、既に手を伸ばし終えたオルトは自身に言い聞かせていた。

 

 

 オルトが去り、また倉庫のある場所に完全な静寂が訪れる。

 しかしそれを乱す事態が発生する。オルトが入らなかった倉庫の壁が変形し始める。人だけを通すような、オルトが出入口とした扉よりずっと広く、高い開閉口が出来上がると、徐々に開いていく。

 中から出て来たのは多種多様の警備機械だった。足先に車輪がついている脚を多数取り付けられている機関砲や、中央に変形機構を思わせる機械で出来た車輪の機械系モンスターの数々(かずかず)。それらがある方向へと進行し始める。

 倉庫の体積分すべてを吐き出すかのように中に居た機体たちが途切れることのない長蛇の列を構成する。

 その上部では黒い球体が機体の群れを眺めていた。

 

『契約の遵守は為されたと判断する』

 

 警備機械は起動され指示通り動く。高い戦闘力を持つ不審者の排除のために。

 

 

 バイクという移動手段を(もち)いながらも大分時間を掛けて遺跡の奥へ行き、そこでも大きく時間を要した。それだけの甲斐はあったと理解しているだけ、オルトの顔は緩んでいた。しかし、バイクの後部で移動経路の指示を出していたファナが急に指示を変更した。

 

『ん? ファナ。どうかしたのか?』

 

 オルトの拡張視界の中でいつもの場所にまで移動したファナの表情が少し険しくなっていた。それに気付いたオルトは気を引き締めて自身でも周囲の索敵を念入りに開始する。バイクの車載式の広範囲の索敵装置が機械系モンスターの反応を捉えるが、強化服の情報収集機器も用いて更に解像度の高い解析結果を出すが、入り組んだ通路の向こう側であり、射線は通っていない。更にはこちらへ近付いてくることも無く別の場所へと消えていった。

 交戦の危険は無くなった。だがそれでもオルトは気を緩めることはしない。未だファナの表情が険しいままだからだ。

 

『……情報収集機器の精度が落ちてきています。それも継続的に、今も尚。色無しの霧の濃度が上がっている?』

 

 ファナの口から聞き捨てならない言葉が出たのを聞いて、オルトの表情が強張(こわば)る。

 

(事態が悪化中(あっかちゅう)って事だよな?)

 

 オルトには目に見えて変化したようには思えない。それでもファナが言ったのであれば、自分では気付けないような索敵機器ですら検出できないような、本当に微細(びさい)な変化が遺跡内で起きているということだ。

 

『ファナ。それで色無しの霧がどうしたんだ?』

『先程から情報収集機器の精度が落ちています。この工場区画に用いられた建築資材の影響か、設置されている物品の配置状況にも左右されますが、それだけでは説明不可能なほどに低下しています。……オルト。早急に事態の解決に取り掛かるとします。ちょっとだけ荒くなりますよ』

 

 ファナからの言葉に、オルトは息を吐いて自身を落ち着かせてから答える。

 

『了解だ。流石は旧世界の遺跡だ。何が起きても不思議はない。って理由で死ぬわけにもいかないしな。致命的に悪化する前に気付けて良かったにしよう!』

『では行きますよ!』

 

 ファナの合図と共にバイクの後輪が勢い良く回転する。車体が斜めに倒れて進行方向を変更すると、その先は遺跡の壁だった。

 

「はあ!? いや、ちょっと()っ────」

 

 オルトの言葉を置き去りにするように車輪の回転数に相応しい加速度を、バイクと搭乗者へもたらし、高速で壁面へと接近する。激突するかどうかまでの数瞬、突如として勢いよく壁がヒビ割れて更には穴が開き弾丸が貫通してくる。

 バイクのアーム式銃座に接続さてれている銃から発射された対機強装弾が、時間経過と共に増え続ける穴へ返すように撃ち込まれ続ける。

 突然の事態にオルトの顔には驚愕が浮かんでいるが、既に体感時間を操作しファナと壁越しの何かが作りだした事態への干渉を始めている。

 被弾も覚悟の上で、濃密な体感時間の歪みの中、身体(からだ)を強化服側を操作して動かし、徐々に近付く壁面へ両手の銃を構えていた。

 ファナによって壁越しの銃撃を更に有効にする為の射線が表示されると、オルトは可能な限り誤差の無いように照準を重ねると引き金を引く。装着されているエネルギーパックから供給されたエネルギーによって、銃本体の保護と薬室から撃ち出される弾丸の速度、更に再装填までの時間が極端に短縮された結果、装填されている拡張弾倉の装弾数に見合った連射速度で可能とした弾丸の数という単純な物量差で、壁を挟んだ銃撃戦で優位に立つ。

 2挺のK2R複合銃と、バイクのアーム式銃座に取り付けてある威力特化型のK2R複合銃。合わせて3つの銃口がファナの計算により随時照準を変えて、効率的且つ効果的な場所へ次々と着弾、耐久力を落とした壁を貫通して、その奥にいる存在達を最速で制圧する。

 両側から激しく銃撃された壁は旧世界製であっても、耐久性能を一気に喪失し、オルトのバイクの激突によって完全に破壊された。

 壁の向こう側に居たのは小型の、それでも1メートルは越える大きさの機械系モンスターの群れだった。最初に壁へ穴を開けた原因だ。

 オルトに着弾した弾丸は壁を貫通する際に大きく威力を低減させており、力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開することで難なく防御することが出来た為、無傷のまま戦闘を終えた。

 そして機械系モンスター達は、オルトがモンスター達が作った穴を利用するかのように弾丸を撃ち出したことによって、頑丈な装甲を持つ機械系モンスターを倒し切れるだけの威力を失うことなく、群れの後方にいた機械系モンスターも含め装甲を貫き、銃身を吹き飛ばし、仕留め切っていた。

 オルトが一連の流れを後追いで理解する。情報収集機器では今破壊した壁には対機強装弾が通用しない程度には強固な力場装甲(フォースフィールドアーマー)が展開されていたはずだった。しかし機械系モンスターがオルトへ照準を定めて銃撃を開始した瞬間、その強度が完全に失われて建築物本来の強度のみとなった為、お互いの攻撃が届くようになったのだった。

 その所為でファナは少々荒い対処をしたのだとオルトはそう考えていた。そしてそれすらもすぐに否定される。

 

(……する前に言って欲しかった。……ッ!?)

 

 不満が湧いてくるがすぐさまそれが掻き消える。オルトの拡張視界に新しい情報が映し出されたからだ。そこには先程までの通路を床どころか壁すら利用して走行する機械系モンスターの群れが映し出されていた。

 ファナが情報収集機器で取得したデータを解析し、現状打破の為、致命的な状況へ陥らない為、膨大な演算能力を駆使した結果、突如強度を喪失した壁の向こう側にいる少しばかり多い機械系モンスターから逃げるのではなく、破壊してその通路へ移動することを選択した。

 ちょっとだけ荒くなる理由が、オルトにも良く分かる状況だった。

 情報収集機器が継続的に周辺の反応を収集、解析、出力を繰り返し、索敵結果をオルトの拡張視界に映し出す。機械系モンスターの群れの後続が途切れることなくオルトの方向へと勢いよく進み続けていた。

 

『さっき居た奴は俺に気付いて仲間を誘導してきたのか!』

『推察は後で! 囲まれる前に脱出しますよ!』

 

 既にバイクの両輪が最高速度で回転し、一気に発進して機械系モンスターの残骸を踏み潰しながら移動を開始していた。高速で回転する車輪と(ゆか)の間に挟まれた機械部品が粉砕されてバイクで走り去った後の軌跡を作り出していた。

 高速でバイクを走らせたことでその場に一時の静寂が訪れ、数秒を待たずにその状態が壊される。機械系モンスターがオルトが壊した穴へと殺到していた。律儀に順番待ちするような機体などいる筈も無く、脆くなっていた壁は機械系モンスターの体当たりによって崩れ落ち、徐々に穴の面積を縦にも横にも拡大させていった。

 

 

 ファナが強化服と荒野仕様の大型バイクの索敵機器から得た情報を基に分析し、計算し、活用し、全ての敵の位置、全ての敵の射線を把握する。状況の変化を掴んだ段階で即座に移動を選択出来ていた為、周囲に出来ていた色無しの霧の濃度が低い方へと移動してから、追撃してくる機械系モンスターの群れと開戦出来た。おかげで索敵範囲と精度の低下をある程度解消。追随してくる敵の僅かな動きでさえ察知可能とした。

 ファナがオルトの強化服を操作し、視界を拡張して、照準を補正して、オルトに致命傷を与える可能性の高い個体から順に撃破していく。同時に敵の攻撃の効率を最悪にし続けるように計算して銃弾をばら撒いていく。敵の火器の誘爆が他の敵を巻き込むように、破壊した敵の残骸が他の敵の動きを阻害するように、敵の射線がオルトから()れていくように、ファナは一瞬で変化する状況を常に掌握し続けて最善の行動を演算し続け実行し続ける。

 更にはバイクの操縦も完全にファナが引き受けており、車輪が地面から受けた衝撃を完全に抑制して搭乗者の銃撃の精度の低下を防いでいる。それを前提として敵の放つ銃弾や砲弾が補助アームで掴んでいる遺物に直撃しないように左右への不規則な蛇行、車体を傾けて体勢を低くして弾幕の下を()(くぐ)るなど高度な運転技術を実現している。

 一手間違えれば敵の集中攻撃を受けて痛烈なダメージを負う状況をオルトは全力で駆け抜ける。装備している強化服が着用者の影響を死なない程度まで無視した無理な挙動を強いている。バイクの唐突な挙動の変化によって身に掛かる慣性が一瞬にして切り替わり、空気の壁が身体を押し潰す。それらから身を守る為に力場装甲(フォースフィールドアーマー)を強力に展開すれば、身体(からだ)を圧殺する程に強力な力場が全身を痛め付ける。骨と筋肉がその多大な負荷に耐えきれず悲鳴を上げ続けている。事前に服用している回復薬の効能がその悲鳴を黙殺して動ける程度に負荷を治した瞬間に、強化服が更なる負荷を()いてくる。

 オルトは数え切れないほどに大量の敵が撃ち出す銃弾が飛び交う空間を、単位時間を体感時間を歪める事で引き延ばし、すぐ(そば)を銃弾が駆け抜けていく(ひず)んだ音を聞きながら、銃弾が押しのけた空気の波を肌で感じながら動き続ける。可能な限りファナの操作を阻害しないように、可能な限り動きを補えるように、自身の身体を強化服の動きに合わせて酷使して動かし続ける。

 ファナのサポートにより、オルトの拡張された視界にはオルトの次の移動位置、次の行動内容、次の撃破対象が表示されている。膨大な情報と膨大な演算能力から計算されたファナの予知に近い指示に従って、オルトは必死に動き続ける。

 オルトの拡張された視界には、敵の射線も表示されている。ファナから確実に被弾する位置への移動を指示されることさえある。オルトはそれを理解した上で構わず躊躇(ちゅうちょ)なくその位置に移動する。計算通り被弾したオルトだが、防護コートの金属片の一つが力場装甲(フォースフィールドアーマー)を局所的に最大出力にして耐え切る。機能限界を迎えた金属片が防護コートから落ちて地面で跳ねて、2、3度しない内に機械系モンスターの群れに呑まれて消える。オルトはただただ体勢を崩さないように食いしばりながら、次の指示に従って移動と攻撃を続ける。

 敵の数が多すぎる。全ての銃弾を避けるのは不可能だ。ならば被弾しても比較的問題の少ない弾丸を食らうのは生き残る(ため)の必要経費と割り切って、オルトは気にせずに戦闘を続ける。

 その被弾は必要なものだった。そのファナの指示は必要なものだった。そうしなければ戦況が悪化するだけだった。オルトはファナの指示を信じて戦闘を継続する。通路に散らばる破壊した機械系モンスターの残骸が一秒経つごとに増えていく。それでも全く減ったようには見えない。隊列の中程で、後方で、時にはオルトの前方から機械系モンスターが群れに合流する。

 荒野は、遺跡は常にモンスターの味方だ。

 

 

 オルトはファナのサポートにより、最大の効率で敵を撃破し続け、最悪の効率を敵に押しつけ続けている。

 オルトは片手の銃を擲弾仕様のK2R複合銃に変えて、通路の後方へと擲弾をばら撒くように撃ち続けていた。更にはバイクのアーム式銃座の2挺も後方へ向けて片方は擲弾をばら撒き、もう片方はオルトへと致命傷を与える可能性の高い個体を優先的に精密射撃を行うことによって効率的な排除を実行している。

 それでも破壊された機械は停止せず、被弾しながら前進し続ける。隊列の前に居た個体が撃破され、破壊され、機動力を奪われれば、その後に続く個体群が続々と押し出し、踏み潰し、障害物の強引な突破を実施する。

 先端にタイヤの付いている多脚を器用に動かして飛び越える小型の砲台が、障害物を押し退けて進める程の出力の無限軌道で移動する楕円(だえん)形の胴体と複腕から銃口を覗かせて照準を定めようとしている機械が、全身が車輪の様に回転しつつも中央から伸びた腕に接続されている機関銃から銃弾を連射している機械が、脇目も振らずオルトへと(せま)って()ている。

 1挺の値段が1億オーラムもするK2R複合銃は、その値段に見合うだけの威力を保証している。手とバイク、2挺のK2R複合銃から撃ち出された弾丸の1発1発が確実に機械系モンスターの装甲を砕き、貫通し内部の機械部品を工場区画内に撒き散らす。空中を飛んでいる砲弾を撃ち落とし誤爆を誘発させる。

 2挺の擲弾銃から放たれ続ける擲弾が途切れることのない爆発を引き起こす。ファナによって照準を合わせられているこれらは、高速で走行するバイクの上から撃っていてもより効果的に、より効率的に敵を撃破できるように常に再調整されながら撃ち続けられていた。

 着弾点はそれぞれ変えており、片方は群れの前方に、もう片方は群れの後方へと。しかし長大な群れを構成されている所為(せい)で、着弾地点はよくて中程(なかほど)、悪ければ前方に分類出来る。

 

(クソが! 次から次へと! 過合成スネークと1人で対峙した方が遥かにマシだ! 機械で構成された津波みたいだ! 見たこと無いけどっ!)

 

 冗談で言っているが、どうせならばそちらの方が良かった。敵が蛇のような単一生命体であれば既に決着はついている。頭が破壊されようとも、首が吹き飛ぼうとも、機械達にとっては群れの一つ以上の価値はない。先頭を走る機体が後続のものになるだけだった。

 床を走る機械が壊されれば壁を走る機械が床に下りて先頭を代わり、壁に出来た隙間は後続によって即座に埋まる。壁を走る機械達であってもそれは変わらない。

 

『と言うよりも! なんでこんなに多いんだ!? 工場区画内のモンスターが全部こっちに回ってきたか!?』

『遺跡内の対不審者用の排除対象優先度で他のハンターに圧勝でもしましたかね?』

『全く嬉しくない!』

『収集している遺物の価値、装備している武装の強力さが違うのでしょう。遺跡内で対処し回収出来れば失態にはなりません』

『そうか! 面目は立てないとだからな! それは仕方ない、なっ!』

 

 バイクの側面が床に掠るほどに車体を斜めに倒して進行方向を曲げる。搭載されている接地維持機能により両輪が床を力強く掴んでいるおかげで、地面に血の池が出来ていてもスリップすることなく急激な進路変更も難なく熟す。強化服の姿勢維持機能のおかげで搭乗者であるオルトが転倒することも無い。

 オルトが戦闘を開始してから既に1時間は経った。被弾は少々、それも力場装甲(フォースフィールドアーマー)で弾いた為、目立った傷など負ってはいない。無傷と言っても良い。十二分に優勢を維持している。

 だが、優勢なままだった。明確な戦闘終了には至らない。

 何度進行方向を変えても執拗にオルトの(あと)をついてくる。時折見つける人間の死体が生前頑張らなかったおかげで倒さなければいけない個体が更に増える。

 

『いつまで俺だけ狙うつもりだよ! まだ生きてる奴ぐらい他にも居るだろうが! 少しぐらい他所(よそ)に行け!』

『愚痴を吐いても戦況は変わりませんよ! 次の角を曲がったら弾倉とエネルギーパックを全部交換してください!』

『これで何度目だ!』

 

 以前大量に購入した拡張弾倉だが、そのまま放置する気にもなれなかった為、機械系モンスターが多く徘徊しているミハゾノ街遺跡へと訪れることにした。機械系モンスターとの戦闘経験や遺跡探索中に交戦する機会があるだろうとは予想していた。しかし流石に数が多過ぎる。

 使用している拡張弾倉は持ち込んだ中でも高額商品の部類だ。一つ一つの装弾数はその大きさからは計り知れないほどに多い。これを一度に2つ装填可能なK2R複合銃であれば単純に2倍の時間撃ち続けられる。

 それを戦闘が始まってから休むことなく常に撃ち続けている。

 擲弾が放物線を描いて後方の機械群へ断続的に被害を与えている。

 前方から現れ、(せま)って来た個体や横道から合流しようとする個体の迎撃のためにも、擲弾銃以外での銃撃も欠かすことなく行っている所為(せい)で、持って来ていた弾薬類を入れていたリュックサックが既に一つ(から)になった。それは持っていても無駄だと判断してファナが捨てていた。おかげで補助アームが1本収納されて空気抵抗が僅かに少なくなった。だがそれだけだ。

 そしてもうすぐ捨てるリュックサックがもう一つ増える。そうなると残りの消耗品はオルトのバックパックの中身だけになる。

 優勢の維持すら出来なくなるまでは時間の問題だった。

 

 

 通路はかなりの広さを確保されており、走行も苦にはならない。オルトの稚拙な操縦技術であっても問題無く速度を出せる。更にはファナのサポートも入って高度な操縦技術を体現していた。

 曲がり角をギリギリの距離間で、最短距離で最高速度を維持したまま曲がる。たったそれだけでも今のオルトには有り難かった。弾倉の再装填に消耗したエネルギーパックの交換、回復薬の追加服用。そして長時間の戦闘に耐えるためにも適宜脳を休ませる必要があった。敵の攻撃によって生成される弾幕の中でそれを行うのは至難(しなん)(わざ)だ。

 体感時間の操作によってオルトの銃撃の精度は跳ね上がる。しかしそれで掛かる疲労は尋常ではない。普段からファナの訓練によって慣れ始めていると言っても適宜休憩時間を取りながらだ。

 いつになったら休めるのだろう。誤った操作をすれば死んでしまう。それらの思考もオルトの精神的な負荷となって体力を削り続けている。

 それでもオルトが諦めることはない。

 

 

 走行中のオルトの前方から反応が近付いてくる。それは機械系モンスターだった。表面に出来た弾痕から戦闘後であることが分かり、オルトは有り難くその弾痕へ照準を合わせて引き金を引いた。

 他の部位より格段に脆くなっていた場所へ着弾したことで、内部構造を滅茶苦茶にされて機械が停止する。

 オルトはその横を通過し先へ行くと、ハンターと思われる死体が転がっていた。

 

『救援要請が随分と多いな! もしかして外もこの調子じゃないだろうな!?』

 

 工場区画内に来ていたハンター達のものだろう救援要請が大量に届く。指向性の無いその発信端末たちの送信可能範囲は案外狭い。それが入るということは通信環境の改善がされたという意味でもある。おかげで周囲の色無しの霧の濃度が下がっていることの確認も出来た。

 だが、オルトもファナもその救援要請に応えようなどとは思わない。今そこへ行けば後方から迫ってくる機械群を引き連れていくだけだ。逆に助けて欲しいとさえ思っていた。

 更に事態が変化する。オルトが握っていた擲弾銃を縮小させて納めた。そちらに回せる弾薬もエネルギーパックも遂に尽きてしまった。面での制圧力が半減してしまった影響で機械系モンスターの群れの進行速度が僅かだが上昇する。

 今まで障害物の多くは擲弾による爆発と爆風で体勢を乱されて走行速度が低下したり、体勢を完全に崩したことで機能が停止していなくとも、後続の邪魔になってくれる程度にはオルトに利になる存在となっていたからだ。その上2方向で起きる連続した爆発によって、機械系モンスター達の射線をほんの僅かに狂わせるだけでも相当有り難い状況であったにも拘らず、それが一つ消えた。

 拡張視界に映る機械系モンスター達の予測線の密度が上がり、それを乱すためにバイクの機動がより激しくなり、身体(からだ)に掛かる負荷が上昇する。骨が軋み回復薬の治療用ナノマシンの消費速度が比例して上昇する。

 

『クソッ! いい加減脱出しないと不味いぞ! あいつら相手に近接戦闘何て御免被るからな!』

 

 弾薬が尽きれば残るオルトの武装は可変式腕輪で生成可能なブレードか手甲になる。それでも戦闘は可能だが、斬撃は飛ばせば飛ばす程金属片を消耗する。近付かなければ効果の無い手甲など論外だった。

 

『……仕方ありません。手っ取り早く行きましょう』

 

 ファナの操作でバイクの向きが急激に変わり近くの建造物へと急速に接近する。

 オルトがまたかと思いながら体感時間の圧縮率を一気に上昇させる。近くの瓦礫を踏み台にして大きく跳躍したバイクの上では、オルトがそのままバイクから立ち上がり跳躍の体勢を取り始めていた。

 強化服の操作もバイクの操作もファナが行っている。オルトはその動きに生身を合わせていた。

 オルトはファナを信用している。それでも建造物内に入るだけであれば跳躍の必要性までは見出せなかった。

 その答えは急速に迫って来ていた。

 オルトの目の前に巨大な穴が出現する。オルトが建造物だと思っていた物は胸部中央に巨大な主砲を持つ大型の人型の機械系モンスターが迷彩機能を利用して(ひそ)んでいたのだった。

 そして急速に接近してくるオルトを最初は敵だと判断していなかった。そのまま通り過ぎるのであれば無視する程度の危険度(きけんど)だと。しかしバイクに接続している銃の銃口の向きから確実に自身の事を認識しているのだと判断し、オルトを敵と判別して走行中のオルトへとその砲口を向けていたのだった。

 一秒を数時間にさえ感じる一瞬の中、その主砲から漏れ出る高エネルギー反応からその威力を察したオルトの顔が引き攣る。余りにもエネルギー量が凄まじい為、その周辺の空間が歪み、発射口である砲口の形を視覚的に歪ませる。

 そしてその時は来る。主砲の中が眩い光を放つと同時にオルトは体感時間を極限にまで圧縮させて跳躍する。レーザー砲が蓄えていた全エネルギー。オルトを敵対存在と認定してから、たった数秒で蓄えたにしては余りにも多すぎるエネルギー量で構成された光の奔流が工場区画内に放出される。

 全てを消し飛ばさんとする巨大な光の柱から僅かに(まぬが)れた位置へと退避できたオルトを巻き込まれた気流が削り取ろうとする。空気を伝播してくる熱量が空間の気温を局所的に上昇させる。それを全身に強力に展開した力場装甲(フォースフィールドアーマー)で防御しながら、強化服の脚の足場確保機能によって空中の何もない所に生成した力場の足場を蹴り付けて加速し、人型の機械系モンスターの機体表面に張り付く。そのまま表面を駆けながら両手のK2R複合銃で機械系モンスターが追撃として振るってきた腕を銃撃する。

 圧縮された時間感覚の中でさえ早いと感じるほどに急速に迫る大きな腕は、ただ掠るだけでも危険だと理解出来てしまう。

 銃身内部にも力場を張られ、強度を増しているにも拘らず、銃弾の発射速度に耐えられずに銃身が痛むほどの連射速度へ上げて生み出された弾幕は、しかしそのどれもが機体の表面で衝撃変換光を撒き散らすだけ。装甲の凹みも掠り傷も、一切(いっさい)の負傷さえ与えられずに終わる。

 

(だろうな! クソ(かて)え!)

 

 それでも腕が振るわれる速度は減速し、その腕が通るはずだった軌跡からわずかに逸れて、オルトの後方へ叩きつけられる。更なる追撃が来ないうちに機体の背後に回り再度空中へと跳ぶ。空中を何度も蹴り付けて不規則な軌道で加速しながら移動する。

 地面に着地したオルトと寸分違わぬタイミングで横切るバイクへ飛び乗ると、最高速度まで加速させて離れる。オルトの跳躍の反動を十分受けたバイクはオルトとは逆方向に飛ばされたことで、先に地面に着地しており、地表で吹き荒ぶ爆風を車体(しゃたい)表面に強力に展開した力場装甲(フォースフィールドアーマー)を用いて防ぎ、オルトの着地に合わせて減速せず横切れるように距離感を調整していた。

 そのまま何度も道路を曲がり、瓦礫の山で埋まっている空き地を通過して、人型の機械系モンスターから大きく距離を取った。

 

『ファナ! 前にも言ったけどやるならやるって言って欲しい!』

『私も以前その(ひま)がない時は前もって伝えられないという旨を言った覚えがありますね』

『あー、うん? ……これ平行線か?』

『暇になりましたし続けても構いませんよ?』

 

 数秒にも満たない死地を駆け抜けただけはあり、後方からのオルトへ向けた攻撃は完全に()んでいた。拡張視界に映る後方の風景では、何故か人型の機械系モンスターと先程までオルトを追撃していた機械群が交戦し始めていた。

 その機械群の数は人型の機械系モンスターのレーザー砲の砲撃により、通路の幅の6割以上が一直線に削り取られ、吹き飛ばされて、直撃した機体は跡形も無く消滅。余波を受けた機体は圧倒的な破壊力で通路の端まで押し退けられており、表面の装甲が溶けて内部機構を露出させていた。

 大幅に数を減らされ、残っている機械達もレーザー砲による攻撃の影響をもろに受けている。更に人型の機械系モンスターはその場から動くことなく脚部に取り付けてある機関銃などを用いた掃射を開始した。

 火力が違う。防御力が違う。両者の間には決定的な差があるのだと見るものに理解させる交戦が開始した。

 だが決着がつくまでそう時間は掛からないだろう。オルトはその後に次の標的とならずに済むように、その場から距離を取り始める。

 

『あんなのがこの遺跡にはいるのか、……そりゃあ高難易度(こうなんいど)(なん)て言われるわけだ。明らかにあの機体だけ物が違うじゃないか。あのレベルの機械系モンスターが迷彩でそこら辺に隠れてるなんて危険どころじゃないな。……もう何もかも遺跡が悪い。そうしよう』

『そうそうあのような個体を配備できるほどの判断は下らないと思いますが、まあ気を付けるに越したことはありません。残弾の数も心もとないですし、慎重に抜けるとしましょう』

 

 工場区画を抜けたオルトの現在位置は市街区画と工場区画の境目。安全になったとは言えないが、それでも危機的状況は脱した。次の窮地を可能な限り後にする為に慎重にバイクを走らせる。

 情報端末が受信する救援要請は市街区画内で更に数を増やし続けていた。

 

 

 暫くすると人型の機械系モンスターは再度動きを止めて迷彩機能を使う。周囲一帯はレーザー砲の影響で酷い壊滅状態に追い込まれている。地面は焼け溶け、近くに建っている廃ビルの面した側は熱で焦げている。そして地面の至る所には機械系モンスターの群れだった残骸の山が形成されていた。その過半数が溶けて機能停止に追い込まれていた。

 そしてその酷い状況の範囲内に在りながら、迷彩として姿を現したビルの景観は今まさに新しく建てられたかのように綺麗な状態だったが、ミハゾノ街遺跡には同じような状況の場所が幾つも存在している。それがこの遺跡内の常識だった。

 

 

 オルトが慎重に索敵しながら市街区画と工場区画の境を進んでいく。工場区画内で発生していた情報収集機器の精度低下は既に解消されている為、いつも通り、異変が起きていることを念頭に入れた上で丁寧に索敵を行い進んでいた。

 そしてそれだけだと精神的な疲労が溜まるだけと判断したファナと念話で会話しながらハンターオフィスの出張所へと向かう。

 

『先程私達を襲っていた機械群はミハゾノ街遺跡の工場区画が施設内の各所に配置している警備機械です。私達が移動していた経路であれば警備機械に遭遇することは殆どありませんでした。それは個々に割り当てられている警備範囲や巡回ルートから割り出した安全になる時間帯の場所を順に通っていたからです』

 

 それは凄腕の地図屋が遺跡内の調査を行う際に自身の調べた情報を基に、遺跡の奥まで足を運び、顧客に売り付ける値段に値するほど高精度のマップを制作する時にも使われるようなルートの一つでもあった。

 だが今回の事態は、警備用に配置されている筈の機械系モンスターがその警備範囲を無視した行動を取り続けていた事だった。

 機械系モンスターは基本的に強力な個体が多い。自然繁殖した生物とは違い、敵対者の排除を前提に設計された機械であることが大半だからだ。

 そのような強力なモンスターが遺跡内に多数徘徊しているにも拘らず、大勢のハンター達がミハゾノ街遺跡を(かせ)()にしているのには理由がある。それは機械であるがゆえに、融通の利かない部分も多いからだ。

 基本的に警備機械は警備範囲を遵守する。侵入者が範囲外へと逃げたからと、他企業の敷地内へ侵入すれば大問題だ。それは旧世界でも変わらない。

 それにより、その場がシステム上、他社の私有地、建物、管理場所であれば、そこが既に瓦礫の山であっても立ち入ることはない。

 そのおかげでミハゾノ街遺跡で活動するハンター達は、勝ち目のない機械系モンスターと運悪く遭遇しても、案外助かる場合が多い。警備機械が警備範囲外に立ち入らないことを利用して、その境界線を越えれば逃げ切ることが可能だからだ。

 近くの建物に、整備の行き届いている場所に、瓦礫の撤去されている空地(あきち)に、目に見える警備範囲の境目は、遺跡の至る所に分かり易く存在している。

 ミハゾノ街遺跡はモンスターの単純な強さだけで言えば結構な高難易度だ。それにも拘らず多くのハンターが稼ぎに訪れて、ハンターオフィスの出張所まで建てられるほどになったのには、そのような背景がある。

 

『だったらなんで別の警備範囲に入ったり、攻撃したり、やたらと自由にやってるんだ? 大丈夫なのか?』

 

 場所が場所な為、オルトの情報収集機器には市街区画の状況も大まかにだが把握可能だ。そこに映る機械系モンスターの動きは明らかに先程市街区画を移動していた時とは違うと分かる。

 機械系モンスターから逃げるハンター達が今までの常識に当て嵌めるように、外観の整っているビルへと入り身を隠すと、途端に移動を止めて一息入れ始めていた。それで良かったからだ。助かっていたからだ。今までは。

 だが無慈悲にも後ろから追い掛けていた機械系モンスターが同じようにそのビルへと入り、交戦音が響き始める。本来なら始まることの無かった戦闘が遺跡中で起こっていた。

 彼らが勝とうが負けようがオルトには関係がない。無視して先を行く。たとえ勝てたとしても残弾の数によっては移動困難に陥るかもしれない。そう思っていると救援要請がまた一つ増えた。少なくとも生きている事だけは確定した。

 

『警備機械の制御装置が一斉に機能不全を引き起こして警備から外れ、近くにいる敵性反応に襲い掛かっているとは考え難く、そうなると……。オルト。注意を』

 

 説明を途中で切り上げたファナが真面目な表情で注意喚起する。少なくともそうせざるを得ない状況に再度切り替わったのだと判断し、オルトが情報収集機器での索敵精度を引き上げる。しかし、最大限拡げた索敵範囲内に敵性反応は見当たらなかった。

 だがファナによってオルトの拡張視界に、ファナな表情を真剣なものに変えた原因が映る。それが在るのはオルトの直上。

 オルトが今まさに横切ろうとしていたビルの最上階付近。その横の空中に小さな亀裂が走っていた。

 

(結構高いな……。奥行きが無い? なんだアレ……)

 

 オルトは怪訝な表情でその亀裂へと視線を向け続けていた。以前起きたような急襲は2度と起こさない為にも、オルトは残り少ない残弾をバイクの銃へと集中させておく。単純な威力で言えばバイクからエネルギーの供給を受けた弾丸の方が僅かに射出速度が速く、威力も高いからだ。

 そしてその保険は生きた。出来れば杞憂で済んで欲しかった異常事態の発生という形で。

 遠目で見れば小さな亀裂でも、それが発生している近くまで行けば十数メートル程度の長さになっている。

 それを訝しんでいたオルトの視界の中で亀裂が徐々に広がっていく。それは光学迷彩を有効にしていた大型輸送機の貨物部側面の開閉部分だった。更にその隙間が縦にも開き始めて、オルトの遠視機能以外でも完全に把握可能なほどに積み荷を明らかにする。

 

「……え!? あれって!? セランタルビルの!?」

 

 積み荷は大型の多脚戦車だった。しかし外部に露出したにしては、その主砲を明後日の方向へと向けており、何かを狙ってはいるように見えるが標的が見つからない。オルトの情報収集機器で探っても、その射線の先には何もないと解析結果が出ている。更にその先の建造物でも狙っているのかと、加速した思考で推測を立てている間に主砲から大型の砲弾が撃ち出され、何も無かったはずの空間に命中した。

 迷彩機能を使って透過処理されて見えなくなっていたコンテナが横並びとなって、空中に2つ存在していたのだ。

 

「はあ!? 輸送物資は他企業製品とかだ……、ろ?」

 

 砲弾の直撃を受けたコンテナは抗う事も出来ずに破壊される。砲撃の衝撃によってコンテナは無残にもバラバラに砕け散ったが、中に居た者達は事前に多脚戦車に気付いていたこともあり、吹き飛ばされただけで済んでいた。

 砲撃されたコンテナの中に入っていたのは人間が2人。アキラとキャロルだった。

 

「あー、……うん」

 

 空中に放り出された2人を視界に納めたオルトの顔から表情が抜け落ちる。

 オルトは色々と諦めた。

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