リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第三十一話 観察する者達

 

 アキラがそこに居たのは半ば偶然だった。

 ミハゾノ街遺跡に足を延ばしたのも、途中でキャロルと遭遇し、工場区画内で起きた異変のさなか、共に脱出を試みるために一時的にチームとして行動したのもまた偶然だ。

 リオンズテイル社の端末設置場所の探索が連続してハズレを引き続け、ようやく見つけたと思ったアタリは地面の中。地下深くに反応が示されていたのだ。

 いたずらに掘り起こしてヨノズカ駅遺跡のような騒ぎにもう一度巻き込まれることを避けるために、アキラはその場所の探索をその場で諦めた。しかし、約2週間以上の期間を以てハンター稼業の再開を果たしたアキラは目に見える成果を上げて、少しでも自分のモチベーションの維持を図りたいと考える。

 そこにアルファが既存の遺跡の中にもリオンズテイル社の端末設置場所が存在しているという話を聞いて、興味を持ち、ミハゾノ街遺跡にやって来たのだ。

 オルトや他のハンター達と同じようにハンターオフィスの出張所の駐車場に車を停め、ちょっとした邂逅の後、リオンズテイル社の端末設置場所があるセランタルビルへと向かった。

 セランタルビル周辺に配備されている警備機械の多さに気圧されたアキラだったが、アルファによって拡張された視界にはそのどれもが少々の損傷を負っている状態だと表していた。

 交戦したにしては被害が少なく、一機も失うことなく撃退したにしては損傷が多い。にも拘らず機体表面にある弾痕のいずれもが、警備機械の中にいる小型の機械系モンスターの機銃から撃ち出された弾丸を受けた結果だろうと、アルファはその損傷具合から説明する。

 要は味方同士の誤射が発生するような場所を通った人間がいるのだと締めくくった。

 アキラはその弾痕からどのようにその結論を導き出したのか気になりつつ、自分でもその様子を直接確認しようと、自身の持っている銃の照準器越しに警備機械達を視認した。そしてその行為は容赦無く、セランタルビルへの攻撃行為と判断され、アキラにも明らかに分かるほどの状況の変化を知らしめる。

 アキラが照準器越しに見ていたミサイルポッドを搭載した車両から無数のミサイルが発射されていたからだ。周囲にアキラ以外のハンターは居ない。オルトが交戦してから既に結構な時間が経ったこと、リオンズテイル社の端末設置場所へ向かう道中を見られることをアキラが嫌ったこと。様々な要因があり、撃ち出されたミサイルは全て自分に狙いを定めていると、状況が、アルファが知らせていた。

 アルファのサポートもあり、何とか難を逃れたアキラだったが、自分が犯した失態の代償は確実に支払うことになった。

 ミサイルの迎撃のために使用した大量の弾薬。室内で起きた爆発によって生み出された爆風に吹き飛ばされたことで負傷し、服用する必要性が出た回復薬。強化服を一時的に最大出力にしたことで消耗したエネルギーパック。

 何よりも、賞金首騒ぎの最後の最後。過合成スネークの本体に襲われた際に、アルファとの接続が完全に途切れるという窮地の中でも、自分の力だけで生還してみせたという成長の実感と自信が完全に砕かれた。

 その程度であれば無意味だと言わんばかりの痛烈な門前払いを喰らったアキラに、アルファは選択肢を与えた。進むのか。それともここで引くのか。

 それは選択肢ではあったが、アキラにとっては最初から一つ以外選ぶ気の起きない二択だった。今までの経験からアルファは出来ないことは出来ないと、ハッキリと断言する。しかし、聞き方のニュアンス的にも、質問の内容的にも進める可能性は十分存在している。それどころか些事の一つであるかのように語っていた。

 であればアキラに出来ることは決まっていた。アルファの事を信じ、覚悟を決めて飛び込むだけだ。

 

 

 結果としてアキラは30階近い廃ビルの屋上から地面まで駆け抜けながらの戦闘を行った。DVTSミニガンで警備機械の展開する力場装甲(フォースフィールドアーマー)の強度に偏りを作り、薄くなった防御を貫くようにCWH対物突撃銃での精密射撃を繰り返し行う。

 それぞれの銃は賞金首騒動で手に入れた資金を潤沢に注ぎ込んだことで威力、精度、連射速度のどれもが上昇しており、専用弾が着弾した場所には大きな穴が広がり、内部機構を完全に破壊し尽くして、機能停止に追い込んでいく。

 避け切れないような無数の小型ミサイルでの範囲攻撃の際には、廃ビルの屋内という、地面だけの二次元的戦闘の場合には決して存在しない足場への避難して難を逃れるなど、一般では考えられないような戦闘を行い、効果的に、効率的に、警備機械達を撃破し続けた。

 辺りに響いていた銃声や爆発音、警備機械の機動音が、最後に力場装甲(フォースフィールドアーマー)の衝撃変換光で周囲を強烈に照らした後、完全に()む。

 最後に残った反応は地面に着地し、DVTSミニガンから手を放して、両手でしっかりとCWH対物突撃銃を構えたアキラだけだった。

 

 

 セランタルビル周辺での交戦音は、セランタルビルへ、その周囲に配備されている警備機械への挑戦権すらない者達にとっては非常に興味がそそられるものだ。強いハンターによって撃破された警備機械は、ミハゾノ街遺跡中に配備されている機械系モンスター達よりも明確に強い。セランタルビルというミハゾノ街遺跡でも屈指の稼ぎ場所、今も尚過去の景観を維持し続けている旧世界製の商品を扱う施設なのだ。その警備ともなれば非常に強く、そしてその強さに見合う貴重な機械部品を使用されており、買取額も期待出来る。

 そしてセランタルビル周辺に集まって来たハンター達の期待通り、警備機械は全て撃破されていて、その上セランタルビルの出入口には警備機械を討伐したハンターチームの見張り要因も確認出来ない。

 今が好機と判断したハンター達はすぐさま仲間達を呼びセランタルビルへと殺到した。

 その状況を作った両名の内、オルトはその警備網の中を自己評価を上げる為だけに強引に突破し、アキラは自身の成長具合を再度確認する為に、各々の都合と方法で警備機械の布陣を突破し、セランタルビルへ足を踏み入れ、そしてその場の難易度の高さをそれぞれの契約相手から諭されたことで撤退を選んだ。

 セランタルビル周辺の警備機械達相手に交戦するよりも、その結果弾幕やミサイル、砲弾の飛び交う空間を駆ける事になっても、強化服に接地維持機能がないにも拘らずビルの屋上から飛び降りて壁面を駆けながら戦闘する事よりも、ずっと危険な場所であるのだと。

 そう言われれば無理に立ち入ろうとは思わない。今までのハンター稼業で助けられたことは数え切れないほどだ。それを無視出来るほどに、過信や慢心を持てるほど強いとは思えないからだ。

 

 

 セランタルビルから撤退したアキラはアルファの案内の元、工場区画へと足を踏み入れた。アルファが特異な方法により、ビルの管理人格であるセランタルからミハゾノ街遺跡内で高額で売買可能な遺物が保管されているであろう場所を聞き出したからだ。

 その最中に何度か遺跡内を徘徊する機械系モンスターと遭遇して交戦することになったが、セランタルビルの警備を請け負っていた無人兵器を1人で撃破したアキラにとっては易々と倒せる程度でしかなかった。

 アルファの案内中、道程は至って安全と言ってもよいものだった。他のハンターとの遭遇もあったがどちらにも交戦の意志など無く、そのまま悠々と道を進んでいく。

 その後、予定通りに遺物が残っている倉庫に辿り着いたアキラは、持ち帰る遺物の選別をアルファと共に行ない、目算で最も買取額が高くなりそうな機械系部品の詰まった箱を選択した。

 そこまでは良かった。だが、ミハゾノ街遺跡での異常事態は伝播してくる。

 帰りのルートを行きの時とは大きく変更して進んでいる最中にアルファから注意を促され、その結果アキラが先程会ったキャロルという女性が機械系モンスターの群れに襲われている場面に遭遇した。

 襲って来ていたモンスターの脅威度は()して高くも無かったが、その量が異常だった。キャロルが壁を壊して合流してきた為、最初は情報収集機器での索敵に(あら)が出た。情報収集機器の索敵の精度は範囲内の障害物が少ない程に上昇する。普通の人間が飛び込める程度の大きさの穴がより大きく(ひら)けばその索敵精度は自然と上昇する。そこにアルファのサポートも加わり鮮明になった索敵結果では壁の向こう側を覆いつくすような量の機械系モンスターが、キャロルの作った壁の穴へと殺到していたのだ。

 幸か不幸か壁の穴はその時点では幅2メートル程度の狭い穴だった為、キャロルの案内の(もと)、更に危険な状況になる前にその場から離脱した。

 

 

 キャロルと逃走している最中、地図屋であるキャロルから確実であろう逃走経路を買うかどうかの交渉を尋ねられたアキラは特に考えることも無く購入を断念した。それはキャロルからしてみれば異常なことだ。現在工場区画内で異変が起きている最中だ。工場区画内に配備された警備機械が警備範囲を超えて攻撃行動を取っている。であれば確実でなかったとしても可能性の高い脱出手段は求めるだろうと判断していた。

 しかしアキラにはアルファがいる。彼女を認識できる存在は現状アキラのみであり、そのアルファならばアキラ単独での工場区画脱出を容易に為してくれるだろうという信頼感があった。アキラの不安感はこの異常事態の所為で折角収集した遺物を失いたくはないという軽い心配事程度の不安感だった。

 更に言えばキャロルから明示された脱出経路の情報は2000万オーラム。以前の賞金首騒動で稼いだとはいえ、アキラはその稼ぎの殆どを新装備へと注ぎ込んでおり、現在のアキラの口座残高は非常に心もとない額しか入っていない。勿論一日、二日で底をつくほどでもないが、稼ぎが無ければその内食事のグレードが一気に下がってしまう。つい最近オルトの奢りで再度シュテリアーナに足を運び美食のありがたみを再確認したばかりだ。下手に味を落とすのは避けたかったアキラは今回の遺物収集ではきちんと成果物を持ち帰りたかったのだ。

 

 

 キャロルの説明を聞きながらアキラ達は工場区画内を進んでいく。

 キャロルが途中ではぐれてしまったと言っていたモニカという女性に関しては後回しとしていた。工場区画内で異常事態が発生している最中にはぐれてしまった仲間を探す程の余裕などない。アキラもそれに同意して後に続く。

 キャロルをミハゾノ街遺跡のハンターオフィスの出張所まで送り届ける事を対価にして脱出経路を共にすることを約束しているアキラは、キャロルからの期待に最大限応えていた。

 警備機械との遭遇にも慌てずに、逆に逸早く察知してDVTSミニガンの連射を一点に集中させて装甲を貫き、撃破する。

 敵の数が多い場合は相手の機銃などを即座に破壊して攻撃能力を奪い、次に多脚を破壊して移動能力を奪い、非常に固いだけの的に変えた上でキャロルに倒してもらう。片手に遺物の入ったリュックサックを持っている所為でCWH対物突撃銃を握って戦うことが出来ないからだ。加えて言えばアキラの改造済みのCWH対物突撃銃よりも、キャロルの使用している大型のハンドガンの威力の方が僅かに上だ。移動しながらであれば一度リュックサックから手を放してCWH対物突撃銃とDVTSミニガンの両手持ちよりも早く進める。

 アキラの行動は非常に理に適っているものだった。ただし現状に於いては。アキラの要望の中では。

 

 

 アキラがミハゾノ街遺跡の工場区画をキャロルの案内で進んでいく。散発的な戦闘はあったものの問題は生じていない。

 そのまま目的地となる大規模な物資集積所に辿り着く。そこには大型のコンテナが幾つも並べられている。そしてその内の幾つかは急に浮かび上がると、そのまま空高(そらたか)くへ消えていった。

 アキラはその光景に目を奪われ、周囲を見回していたが、キャロルは目的の物に、アキラにはその場には何もないように見える場所を手で掴むと手前へと引き寄せる動作を行なう。瞬間、アキラの視界の中に裂け目が生まれた。

 光学迷彩機能付きの物資運搬用のコンテナだ。キャロルはこれを見つけて、扉を開けたのだった。

 アキラは非常に興味津々でそのコンテナを見ていたが、キャロルに促されてコンテナの中に入り、一緒に入って来たキャロルが扉を閉めれば、コンテナの存在は光学的に消えて無くなる。

 コンテナの内部は荒野仕様車両が余裕を持って入るぐらいの大きさで、側面や天井にはその先の、外の光景が窓の様にはっきりと見えるようになっていた。

 

 

 キャロルから地図屋としての情報、それに関連する噂話、機械系モンスターが警備する管轄区域の区分などをアキラは非常に興味深く聞いていた。

 そのまま暫く待っていると、コンテナターミナルから浮かび上がったアキラ達の入ったコンテナは、そのまま内容物が何であるかも区別することなく工場区画から運び出されていく。他のコンテナと同様に空輸で外に出ると、ゆっくりとした速度で市街区画へと向かって進んでいく。

 移動中、自分の護衛代としてアキラに色々なことを教えていたキャロルは、そのことについても話をしていた。

 

「それでね? あのコンテナターミナルのコンテナには中身が(から)のものも結構あるのよ。本当ならいろいろ積み込むんでしょうけど、それを作る方の工場はもう廃墟になっているんでしょうね。それでも輸送システムの方は動いているから、(から)のコンテナを運んでるってわけ。ま、推測だけどね」

「そうなのか。でもこうやって運んでるってことは、遺跡のシステムは動いてるんだろ? 積み荷のチェックとかしないのかな。何か、いろいろ凄いって言われてる旧世界のシステムにしては、随分好い加減な気がするんだけど……」

 

 そのアキラの素朴な疑問に対して、キャロルが軽く首を横に振る。

 

「逆よ。その遺跡のシステムが中途半端に動いてるから、ハンターはミハゾノ街遺跡を稼ぎ場所に出来るのよ。もしアキラの言うその旧世界の凄いシステムが万全に動いていたら、私達はミハゾノ街遺跡に近寄ることすら出来ないわ」

 

 遺跡の警備機械達は遺物収集に来たハンター達を攻撃している。だがそれだけでもある。町の外から強盗が毎日大勢来ているのにも拘らず、その程度の中途半端な対処しかしていない。

 本来ならばミハゾノ街遺跡も防衛の為にもっと大掛かりな軍事行動を取るべきなのだ。以前クガマヤマ都市が大規模なモンスターの群れの襲撃に応戦したように、ミハゾノ街遺跡もハンター達を撃退しなければならないはずだ。

 しかしミハゾノ街遺跡はそれをしていない。その時点で遺跡のシステムに何らかの劣化、損傷、問題が生じているのは明らかだった。

 キャロルからそう説明されて、アキラも納得して頷く。

 

「言われてみればそうだな。そのおかげで俺達も無事に脱出できたわけか……」

 

 アキラがコンテナの窓から外を見る。そこには真新しいビルと瓦礫の山がモザイクの様に混在している市街区画の景色が広がっている。その光景を見て、アキラはこれも遺跡のシステムが真面に動いていない証拠だと何となく理解した。

 そしてふと、(なん)となく視線を軽く上げた。するとその視界の中の空中に亀裂が生まれていた。

 

(……なんだ?)

 

 アキラはその亀裂を怪訝な表情で見ていたが、それは怪訝な表情を顔に浮かべる程度の事態では終わらなかった。アルファから真面目な表情で指示を飛ぶ。

 

『アキラ! 敵よ!』

「はあ!?」

 

 突如言われた突拍子もない言葉に声を上げた時、アキラは既にアルファに強化服を操作されて動き出していた。弾薬を入れたリュックサックを素早く背負い、床に置いていたCWH対物突撃銃とDVTSミニガンを掴んで両手に持つ。

 

「アキラ! どうしたの!?」

「キャロル! 敵だ!」

「えっ!?」

 

 キャロルは慌ててコンテナの外、直前までアキラが見ていた砲口を見た。そして顔を引き攣らせる。

 アキラが空中の亀裂だと思っていたものは、光学迷彩を有効にした大型輸送機の貨物部側面の開閉部だった。更にその隙間が縦に開き、積み荷をアキラ達に見せる。

 積み荷は大型の多脚(たきゃく)戦車だった。しかもその主砲をアキラ達のコンテナに向けていた。キャロルが反射的にその場から飛び退く。しかしそれで直撃こそ逃れても、ここは空中のコンテナの中だ。逃げ場そのものは無い。多脚戦車の砲撃がコンテナに直撃し、キャロルは空中のコンテナから投げ出された。

 宙を飛ぶキャロルの視界に地上が映る。

 

(高い……! これ、落ちたら……)

 

 死ぬ。それをありありと理解させるだけの高さだった。敵の砲撃で吹き飛ばされても強化服のおかげで今は無傷だ。だがそれだけ高性能な強化服であっても絶対に助からないという説得力が、遠い地面までの距離にはあった。

 死の実感がキャロルの体感時間を引き延ばす。しかしそれも空中で碌に動けないキャロルにとっては、死の恐怖を感じる時間を無駄に引き延ばすだけだった。助からないという感情が、キャロルの顔を険しさよりも恐怖で染めていく。

 その時、アキラがまるで体当たりするかのようにキャロルに飛び込んでくる。

 

「アキラ!?」

「死ぬ気で掴まってろ!」

 

 死の恐怖を突然の衝撃で塗り替えられたキャロルは一瞬の間呆けていたが、アキラから大声で指示されたことで我に返り、アキラにしがみつく。

 アキラはキャロルが離れないように引き寄せて、キャロルが自分に掴まったと判断すると両手の銃を構えて引き金を引いた。

 

 

 コンテナが砲撃で破壊された時、それを察知していたアルファは既にアキラに最善の行動を取らせていた。着弾位置を算出し、着弾後のコンテナの状態を算出し、アキラの脱出をサポートする。

 アキラはコンテナが砲撃された直後、大穴が開くどころか原型を失い掛けているコンテナを足場にして、強化服の身体能力で勢い良く跳躍してキャロルの元に向かった。

 そしてキャロルに追い付くと、今度は両手のCWH対物突撃銃とDVTSミニガンを発砲し、その反動で横方向に無理矢理加速した。

 そのまま宙を飛び、その先にあった高層ビルの側面に着地すると、セランタルビルの防衛機械と戦った時のように駆け()りていく。

 変わり続ける事態の変化に、そしてビルの側面を駆け降りるという常識外れの行動に混乱したキャロルが、アキラに掴まりながら叫ぶ。

 

「ちょっとぉ!? アキラぁ!?」

「良いから掴まってろ!」

 

 キャロルとは異なり、事前に敵の存在をアルファから知らされ、ビルの側面を駆け降りるのが本日2度目であるアキラは、険しい表情をしながらも冷静さを保っていた。敵を倒そうと視線を空に向ける。だが何も見えなかった。

 アキラが光学迷彩を疑う。しかしアルファはビルの上方向を指差した。

 

『アキラ。上よ』

 

 アキラが視線をそちらに向けるのと同時に、足場にしているビルが揺れる。それは輸送機から飛び出した多脚戦車がビルの壁に着地した衝撃だった。

 多脚戦車が多脚の先にあるタイヤを勢い良く回転させてビルの壁面を走る。更には主砲でアキラ達を狙う。

 

『嘘だろ!? あの大きさでか!?』

『向こうはアキラと同じ走り方をしている訳ではないわ。壁面でも走行可能な機能が初めから付いているだけよ。コンテナが飛行していることに比べれば驚くようなことでも無いわ』

『そりゃそうかもしれないけど……』

『そんなことより倒すわよ。アキラ。気合いを入れなさい』

『……了解だ!』

 

 驚き慌てたところで状況は好転しない。敵の撃破が最優先。アキラは自身にそう言い聞かせて戦闘に集中する。ビルの壁面を滑り落ちながらCWH対物突撃銃を構えると、しっかり狙って銃撃した。

 ほぼ同時に多脚戦車もアキラ達を砲撃する。銃弾と砲弾が高速ですれ違い、互いの標的へ駆けていく。

 銃弾は標的へ着弾した。多脚戦車の力場装甲(フォースフィールドアーマー)から飛び散った派手な衝撃変換光が、その高い威力を示していた。

 しかし撃破には至らない。力場装甲(フォースフィールドアーマー)だけでは防ぎ切れなかった衝撃により機体表面を大きく凹ませていたが、交戦能力は十分に残っている。

 砲弾は標的に着弾せず、そのまま空中を貫いていく。アキラは強化服の身体能力とDVTSミニガンの反動を利用して、無理矢理横方向の移動を行ない砲弾を回避していた。

 地面に命中した砲弾が爆発する。その爆風が、着弾地点である地上からかなりの距離があるにも拘らず、アキラ達の身体を押し上げる。それだけの威力があったのだとアキラ達に示していた。

 

『一発じゃ駄目か!』

『それでも効いているわ。撃ち続けなさい』

『分かった!』

 

 アキラと多脚戦車によるビル側面を駆け下りながらの撃ち合いが始まる。その常軌を逸した攻防を、キャロルはアキラに掴まりながら半笑いで見ていた。

 攻防の最中、アキラは多脚戦車にCWH対物突撃銃の専用弾を更に3発着弾させた。効果はあったがそれでも撃破には至らない事に表情を険しくする。

 

『頑丈だな! これ、地上で戦わないと駄目か?』

 

 地上であれば、今は発砲の反動を利用した回避のために使用している銃撃の分も敵への攻撃に回せる。そう思っての発言だったのだが、アルファは首を横に振った。

 

『出来れば地上に着く前に倒しておきたいわ。地上戦での機動力は相手の方が上よ。今はビルの側面で戦っているから、そこでの動きは相手の方が鈍っているの。その優位性が崩れると危ないわ』

『面倒だな……。仕方無い。多少無茶をしてでも勝負を決めるか!』

 

 アキラがそう覚悟を決めた時、同じく覚悟を決めたもう1人が動く。キャロルだ。

 キャロルは意を決してアキラから離れると、ビルの壁面を駆け下りながらの撃ち合いに加わった。そのままでは引き攣ってしまいそうな顔を、無理矢理不適な笑みで上書きし、拳銃に似た大型片手銃で強力な弾丸を撃ち放つ。

 精密射撃までは流石に無理だ。しかし相手の大きな胴体になんとか当たる。その途端、CWH対物突撃銃の専用弾に匹敵する衝撃変換光を周囲に飛び散らせ、軽減し切れなかった衝撃を本体に与えて機体を大きく揺らした。

 

『おっ! 凄い! あれ、俺のCWHより高威力なんじゃないか?』

 

 標的が分かれたことで、多脚戦車はその主砲をキャロルの方にも向けようとする。アキラのようには動けないキャロルに砲撃の回避は難しい。

 だがそれをアキラが補う。キャロルを狙う砲身に銃撃を命中させて砲撃の邪魔をする。加えて身軽になった分だけ苛烈に攻め立てる。

 火力が増したことで、アキラ達は一気に優勢になった。集中砲火を浴びた多脚戦車が、ろくに反撃も出来ずに穴だらけになる。そしてビルから剥がれ落ち、地上に激突して全壊した。

 その勝利の喜びがアキラ達の集中を僅かに緩ませた。それでもアルファのサポートを得ているアキラは問題なかった。だがキャロルは体勢を崩してしまい、ビルから離れてそのまま落下してしまう。

 それを見たアキラは急いで地上に向かう。足場である壁面を蹴って自由落下より早く地上に辿り着くと両手の銃を地面に置き、落ちてきたキャロルを抱き抱えて地面との衝突を防いだ。

 アキラとキャロルの目が合う。急展開の連続だったこともあり、意識が事態に追いつくまでどちらも数秒の沈黙を必要とした。

 そして、先にキャロルが喜びを露わにした。抱き抱えられながらアキラに抱きつく。

 

「やったわ! アキラ! 助かったわ! あー! あーー! 危なかった! 本当に危なかったわ! 死ぬかと思った! でも生き残ったわ!」

 

 一方アキラは喜びよりも安堵と疲労を強く吐き出していた。キャロルを下ろしながら大きく息を吐く。

 

「何とかなったか……。全く、こんな真似は一日に一度で十分だ」

「一日に一度ならいいの!? 私は一度でも御免だわ! あんな目に遭ったのにそんなことを言えるなんて、アキラって本当に強いのね!」

 

 流石にここで自分の強さを否定しても謙遜とは捉えられず、むしろ余りにも不自然だ。そう思ったアキラは下手に否定するのはやめた。

 そこで視界の端に映るアルファの表情がまた真剣なものへと変わる。好い加減にしてくれと思いつつ、アキラもアルファの見ている方向へ視線を向けるが、何も無い。しかしアキラはそれで安堵はしない。先程、その何も無い空間から現れた物に攻撃されたことで危機に陥ったからだ。

 そこでアキラの情報収集機器に反応が出る。だがそれはアルファの見ている方向ではなく、地上部分で、だ。

 アキラの変化と自身の情報収集機器の反応に気付いたキャロルが、アキラから離れて同じ方向を確認すると、そこは向かい側のビルの出入り口だった。

 地上部分は先ほどの戦闘中、多脚戦車が撃ち出した砲弾の爆発によって粉塵が舞っており、その分索敵精度が少しばかり落ちている。それでもそのビルの出入り口に隠れている物の形状程度は把握可能だった。

 

「バイク……、かしら? 誰の?」

 

 キャロルが呟いたように荒野仕様の大型バイクがビルの壁を盾にするように隠れており、搭乗者や所有者らしき反応は見当たらない。キャロルには当然その所有者には心当たりなどない。だが、隠れているのであれば怪しい人物である可能性が非常に高いと考えて自分の銃を構えようとした。

 その時アキラがキャロルの腕を抑えて銃口を無理やり下げさせる。アキラの強制するかのような行動にキャロルが違和感を感じて疑問を抱く。

 

「アキラ?」

「キャロル。やめてくれ。流石に無理だ」

「…………っ?」

 

 キャロルがその言葉に驚く。異変を起こした工場区画内の機械系モンスターに対しては大して苦戦などもせず、先ほどの多脚戦車にも勝利を収めたアキラをして無理だと言わしめる相手だと認識して、更に警戒する。

 アキラはそのバイクの形状を知っていた。そしてそのバイクがクガマヤマ都市周辺で使用されるような代物ではないことも知っている。その所有者と敵対などしたくないという思いと共に、同時に自分の護衛対象が敵対しないように気を払う。今の自分はキャロルの護衛だ。敵対者に追われれば共に撃退するなり返り討ちにするなりはする。

 だがそれにも限度というものはある。そして状況が変化する。

 

『アキラ。手出しはダメよ?』

『……? どういうことだ?』

『良いから』

 

 アルファからの言葉に怪訝な表情を浮かべるアキラを他所に、バイクがビルの影から徐々にその姿を表して、アーム式銃座に接続されているK2R複合銃を上へと向ける。

 同時にアキラ達の情報収集機器が上空から落下物の反応を捉えた。輸送機の迷彩機能を使ってここまで運ばれてきた大型の機械系モンスターが姿を表して、多脚を丁寧に使ってアキラ達の向かい側のビルの壁面に向かって跳ぶと、その重量を思わせるほどにビルを揺らしながら着地し、同時に主砲を地面のアキラ達へと向ける。

 アキラ達は顔を顰めて再度迎撃に動こうとするが、アキラは今さっきアルファに言われた言葉を思い出し、取り敢えず即座に反撃行動へ移れる程度の準備に留めた。

 その様子を見ていたキャロルは焦って逃げるか迎撃するかの判断をアキラに促そうとしたが、その間に機械系モンスターが主砲から砲弾を放つ。

 そしてそれをバイクに接続されているK2R複合銃から撃ち出された対機徹甲弾が撃ち貫き、その衝撃を至近距離で喰らった大型の機械系モンスターの全体を揺らす。

 

「アキラ! 逃げるの!? 撃つの!?」

「準備だけしておいてくれ。……あいつどこにいるんだ?」

「あいつ……?」

 

 アキラ達に降りかかるのは迎撃された砲弾の爆発によって発生した爆風だけだ。それもずっと上空で発生させているおかげで減衰し続け、髪を揺らす程度の微風でしかない。

 そのアキラ達の上空では、現在地では有効打は与えられず、このままでは(まと)になるだけと判断した大型の機械系モンスターが、多脚の先に付いた移動用の機能を動作させ、壁面を高速で滑らかに降下しながら主砲から何度も砲弾を撃ち続ける。だが何度撃とうと、その砲撃の瞬間を完全に掌握しているかの如く、全ての砲弾が砲身から出た瞬間に迎撃されていく。

 K2R複合銃から撃ち出された弾丸は砲弾を破壊し、標的までの間にある空気による威力減衰によって下がった威力を機械系モンスターの機体へ多少の衝撃を与えるに終わる。だが砲弾の威力が高い。機体近くで爆発させられた砲弾の威力によって機体表面の装甲が徐々に変形してきていた。

 

『アルファ! もうそろそろやばいんじゃないのか!』

『いいえ。他人の獲物を横取りする方がよっぽど(まず)いわ。相手が相手なだけ、特にね』

『だから! そいつが近くに居ないんだけど!? バイクだけ置いて本人は、オルトはどこに居るんだ!?』

『あそこよ。……出てくるわ』

『はあ!?』

 

 アキラの視界が拡張され上空から降下してくる機械系モンスターの他に拡張表示される存在が追加される。機械系モンスターが足場としているビルの中に人影が映し出される。そしてその反応は全く動くことなく、両手に長めのブレードを握ったまま構えて来るべき一瞬をただ待っていた。

 そしてオルトの直前を大型の機械系モンスターが通り過ぎる瞬間、最上段に構えたブレードを一気に斬り下ろす。オルトと機械系モンスターの間にある壁など無視するかのように滑らかに斬り込まれた切断面から、青白く輝くブレードが屋外へ飛び出してそこを走行中の機械系モンスターへと襲い掛かる。

 ブレードの刃と機体表面のごく僅かな接触面から衝撃変換光が強烈に辺りを照らし、それがなんの障壁にもならないと証明するように、一瞬の刹那に行なわれたその一太刀によって、大型の機械系モンスターが胴体部も、砲身も含め、両断された。

 

『アキラ。そのまま動かないでね?』

『ああ、分かった』

 

 アキラはキャロルを引き寄せて、先程自分達で撃破した多脚戦車の残骸の中で大きめの物を、落下物によって発生する衝撃を防ぐ為の簡易的な盾として利用する。

 両断され、制御装置も破壊されて全機能が働かなくなった大型の機械系モンスターがビルから離れ、自身の出していた速度のまま地面へ激突し動作を完全に停止させた。

 砲弾の爆風と機体が激突した衝撃が合わさり、周囲がまた粉塵に包まれるが、それもすぐに落ち着くとビルの中へバイクが独りでに戻っていく反応を捉える。先程からの精密な狙撃と言い、遠隔操作をしているのは確実で本人は機械系モンスターへ(とど)めを刺せる程度には動けるはずにも拘らず、バイクと合流するとそのまま動かなくなってしまった。

 

『あれを一刀両断か。凄いな』

 

 アキラの視界の中に映る機械系モンスターの切断面を合わせればほぼ無傷の状態に戻せると思わせる切断力で斬り裂いたその武装に驚いていた。

 

『似たようなことならアキラもしたことがあるでしょう? それよりずっと劣るわ』

『いや、あれは……』

 

 まだ装備が一切整っていなかった頃、アルファの指示で収集した旧世界製のナイフを制御装置を壊してまで使用して自分を殺そうとしてきたハンターを両断し、返り討ちにしたことがあったアキラだが、その後使ったナイフは原型も残さずチリに還ってしまった。たった一回使うだけでその威力を出せたこと、たった一回しか使用出来ないことを天秤に乗せると、費用対効果が高いとは流石に言えない。

 使用回数に制限が無いのであれば、旧世界製のナイフよりもずっと使い勝手が良いのだろうと勝手に判断していたが、アルファからしてみれば大した装備では無いのだという。アキラはそれに対して何かを言おうと思っていたが、連戦の疲労と未だ遺跡内に居るという事実を思い出して()めた。無駄に疲れる事をしても仕様が無いからだ。

 オルトがビルの中で停止し、アキラがオルトの武装について頭を悩ませている間、オルトの存在を明確な敵性存在では無い程度の認識のキャロルは未だ警戒状態を保ち続けていた。

 




アキラ側のやつ大抵がアキラが引き起こす→厄介事じゃなくて
アキラが何かする→誰かが便乗する→厄介事発生→アキラ巻き込まれる
とか、誰かの思惑に巻き込まれる
系だから大抵引用になるんですよね……。介入しようにも、主人公は絶対強者じゃないし体制側でもないからきつい。
物語構成出来る人ならそこら辺どうにかしそうと思う日々。

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