リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

32 / 40
・第三十二話 押し付けれる物とそうでないもの

 

 オルトは上空からアキラ達や多脚戦車(たきゃくせんしゃ)が空中に投げ出された瞬間、反射的に防護コートの迷彩機能を有効にし、周囲の景色に紛れて身を(ひそ)めることを選択した。流石に荒野(こうや)仕様の大型バイクまでは隠しきれないため、近くのビルへと自分と一緒に、情報収集機器に捉えられないよう、ゆっくりと移動して身を隠した。

 その間にも高層ビルの中層付近に着地したアキラが、同じように着地しアキラとは違って多脚のタイヤに搭載されている機能で壁面を走行しだす。オルトは自分の情報収集機器でその情景を把握しつつ、ことの成り行きを観察していたが、頭の隅で未だ嫌な予感が警鐘のように鳴っているのを感じていた。

 気のせいであって欲しいと願いつつ、良くも悪くも確実性を高める為にオルトはファナに聞くことにする。

 

『ファナ。気のせいだったらいいんだけど、あの多脚戦車以外にも輸送されている機体か、乃至(ないし)大型のコンテナが近くを通っていたりするか?』

『旧世界製の物資輸送用のコンテナですからね。周囲にいる者達(ものたち)やモンスターに把握されない為にも、高精度の迷彩機能を使って見えないようになっている物なら幾つか上空を移動していますよ。その上でオルトが気に掛けている物だと……、あれですね』

 

 ファナがオルトの視界を拡張して、この場から少し離れた位置。工場区画内から市街区画への輸送経路を辿って来たであろう輸送機の姿が映し出される。ファナの索敵精度の異常な高さ、それについて言及はしないが、現状どのような索敵行動を取ればそれを把握出来るのか不明な程高いその索敵結果であっても、流石にコンテナの中までは確認出来ないようだった。

 

『あれにもあの多脚戦車みたいなのが乗っている可能性はあると思うか?』

『可能性だけで言えば、現在ですら起きていますからね。確実な否定は出来ません』

『くそっ! 弾薬なんてもうほとんど残ってないんだ。無駄弾(むだだま)なんざ撃ってられないぞ……』

『では、あの多脚戦車については彼等に頑張ってもらうとして、あちらへの対処はこちらで請け負うことに致しましょう』

 

 オルトはファナの提案に賛成してバイクから離れ、隠れ潜んだビルの上階へと歩いて進む。屋外では地面に着弾した砲弾が、発射速度と大きさに見合った爆発を起こし、周囲に粉塵を巻き上げていた。その粉塵がビルの中に入ってきており、オルトの迷彩機能を後押しして発見を困難にする。

 オルトは砂埃の舞い始めたビルの中を更に進みながら、外で戦い続けるアキラの様子も確認していた。

 

(壁を駆け下りながらの戦闘……、少し前に俺もやった覚えがあるな。DVTSの連射を使って横に移動って……、俺の時は補助アームを窓枠に引っ掛けて慣性を受けながら横に移動したっけか。そもそも敵は上じゃなく下に居たしな。流石に護衛対象っぽい奴を運びながらするのは御免だが)

 

 アキラの戦闘を特に指摘するべき点も無いと思いながら、クズスハラ外遺跡の外周部で重装強化服と戦った時の事を思い出していた。

 当時のオルトではGRD対物突撃銃を常に敵に向けながら戦わなければならず、もう片手に持っていたAAH突撃銃では流石に反動で横へ移動するほどの威力は出せなかった。そのことを思い出しながら、今の自分は大層恵まれているのだと再確認していた。

 

 

 アキラが多脚戦車の力場装甲(フォースフィールドアーマー)に苦労しながら、終盤はキャロルも手伝い、勝利を収めた頃、オルトは自分の隠れたビルの中程まで歩いてきていた。

 所々床と天井に穴が開いており、そこを使いながら登った結果だ。可能であれば一気に屋上まで上がり、万が一が起きた際に先制攻撃を仕掛けれられる場所まで行ければ最善だった。しかし隠れながらでは流石に出来ない。

 しかし視界の中に映る輸送機は着実に近付いてきており、アキラ達の戦闘が終了した頃にはオルトのいるビルの真上まで接近していた。

 

(……どうなる?)

 

 オルトは体感時間を操作しながらゆっくりと事の成り行きを見守る。そのまま輸送機が通り過ぎれば問題はない。だが嫌な予感は拭えず輸送機が持つコンテナをオルトはただただ睨みつけていた。そしてオルトの予想通り機械系モンスターがコンテナの中から放たれ、オルトが(ひそ)んでいたビルへと着地して巨体に見合った重量で、ビル全体を揺らす。

 

(ああ、クソッ! 流石にアキラ達じゃ有効射程から離れすぎてる。……やるしかないか)

 

 屋上付近の壁面に着地した機械系モンスターは最初、多脚戦車を撃破したアキラ達を優先的に狙い始める。しかしオルトが、砲身から飛び出た瞬間の砲弾に、遠隔操作で動かしている威力特化型K2R複合銃で狙撃を行ない、機体間近で爆発させて機械系モンスターへ衝撃を加えた。その爆発で発生した衝撃の大半は機械系モンスターが展開している力場装甲(フォースフィールドアーマー)で軽減されてしまったが、機体表面に出来た損傷具合を見て、地上からの狙撃で威力減衰が掛かった弾丸を命中させるよりも効果的だと判断し、再度機械系モンスターが砲弾を発砲した瞬間を狙って狙撃する。

 ファナのサポートを受けたバイクの操縦とバイクに接続している銃での狙撃の精度は高く、体感時間の操作をしていることで拡張視界に映し出されている狙撃箇所、タイミングの補正を大きく受けた上でバイクの索敵機器、自分の情報収集機器で取得した情報を基に常に敵の動作を掴み続けていた。

 機械系モンスターが即座に狙いをオルトのバイクに切り替えるが、逆に狙いやすくなった分、オルトに掛かる疲労が低減し、命中精度が上昇する。

 遠距離からの砲撃では分が悪いと判断したのか、脚部の機能であろう壁面移動機能を使用して重力を無視したような横への移動を交えながらの機動を取り始める。

 

『ファナ。これ大丈夫なのか? 目の前に来るとは限らないんじゃないか?』

 

 ビルの側面は機械系モンスターが狙撃位置をずらせる程度には広く、その分オルトが待っている場所を通る可能性は余り高いとは言えない。しかしファナは余裕を多分に含んだ笑みを浮かべたまま追加の指示を出す。

 

『問題ありません。ここに誘導するまでです。オルト。しっかり集中してください』

『そう、なのか? 分かった』

 

 オルトは何故そこまではっきりと断言出来るのかは分からないが、それはきっとファナの特異性ゆえにオルトには明かせない何かを駆使した演算を既に終わらせて、後はその道順に沿って行動するだけで終わる程度の相手なのだろうとオルトに認識させる。僅かに胸の内に湧いた疑問や好奇心には蓋をして奥底に二度と浮上しないように沈める。ファナと会えたという幸運から手を離さない為にも。

 そうしてバイクの銃の遠隔操作による狙撃に神経を集中させつつ、自分の身体(からだ)の方では最後の一瞬の為に腕輪の金属片を変形させてブレード状に変形させていた。

 拡張視界の中で何度も砲撃のタイミングに狙撃を合わせられた機械系モンスターは、ビルの側面を不規則に動き回りながら、遂にオルトの居る階層の壁面を通ろうとする。ファナの宣言通り、機械系モンスターの足場はオルトが居る丁度目の前を通り過ぎる瞬間に、上段に構えていたブレードを加速した意識に追い付くほどの一瞬で振り下ろす。

 過剰供給されていたエネルギーによって先端から大部分が溶け始めていた金属片は、オルトがブレードを振り抜いた瞬間、ファナの操作で光の刃となりオルトの前面にあった壁を空気を斬り裂くように無視して、壁を挟んだ先に居た機械系モンスターを、展開していた力場装甲(フォースフィールドアーマー)すら強引に突破して下部から上部までを一瞬で両断した。

 ブレードを形成していた金属片との僅かな接触によって力場装甲(フォースフィールドアーマー)は衝撃変換光を放ち、周囲を同じように一瞬だけ明るく照らしながらも、その強度さえも無視するかのような一太刀は別に腕輪の機能ではない。(なん)となくオルトはそう感じながら壁越しに存在している機械系モンスターを眺めていた。

 全体を左右に分かたれた機械系モンスターは、動力源や制御装置を破壊されて、そのまま力場装甲(フォースフィールドアーマー)を喪失し脚部に搭載されていた機能も機能不全を起こしてビルから離れ、自由落下していった。

 もともと持っていた速度も乗せた落下の所為で地面への衝突は一層激しくなり、再度辺り一帯が砂塵に塗れてしまった。

 

(この腕輪……、もしかしなくとも燃費悪いな?)

 

 元の形状に戻した腕輪の金属片は片腕分のみで、再度家に帰ってから格納棚での補修が必要になった。近接装備特有の対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)機能が強力に働く(ぶん)、至近距離での戦闘が発生した際の安全性を加味しても、流石のオルトでも出費が少々多い気がしてきていた。

 

 

 周囲一帯の粉塵が収まって来たことでアキラ達もオルトの様子を把握し易くなったことで次の行動に()い加減移ろうと、キャロルが口を開く。

 

「ねぇ、アキラ。あのビルの中にいるハンターは知り合いって事で良いのよね?」

「ああ」

「それでさっき無理とか言ってたけど、アキラと良好な関係ではない感じかしら?」

「いや。単純に攻撃行動なんかとったらあの機械系モンスターも無視してこっちに来そうだったからな。流石にこんなところで三つ巴の戦いなんて出来ないし、キャロルの護衛は引き受けたけど態々死にに行くような奴を守る気は無いからな」

「そ、そう。それで、なんであそこから出てこないのかしら」

 

 アキラが見る限り、今の言葉でキャロルの緊張もある程度柔らいだとはいえ先程の戦闘風景を見ていて、完全に気を抜いても問題無いとは流石のアキラでも言えない。一刀で機械系モンスターを撃破可能な戦闘力を持った見知らぬ個人を信用し切れるとはアキラも思えないからだ。

 2人の情報収集機器に映るオルトの姿はバイクに寄り掛かったまま動こうとしない。先程の戦闘で負傷した訳など無いし、であればその前から負傷で動けないから、その場での治療か救援を待っている可能性もあったが、その場所から救援要請の信号が出ている訳でも無いのでそちらも無いだろうと結論付けた。

 このままではキャロルの警戒状態が続いたままで、(らち)が明かないと判断したアキラが情報端末を取り出し短距離通信で通話要求を飛ばすと、直ぐに相手が通話に応じた。

 

「えーっと、オルトで合ってるよな? 負傷でもしてるのか?」

「ああ、オルトだ。合ってる。負傷はしてない。そっちはアキラと……、誰だか知らないけどなんでいつまで経っても移動しないんだ? 遺跡中がちょっとおかしな気配がしてるから、ハンターオフィスの出張所まで出来るだけ誰とも会わないようにと思ってここまで来たんだ。だから友達であっても干渉しないようにしてただけだ。さっきの多脚戦車だってそっちが汎用討伐依頼を受けてる可能性を考慮して手出ししなかったんだからな?」

「いや助けて頂戴よ!? どういう思考してるの!? こっちは死に掛けたのよ!?」

「えっ!? それを分かっていたから俺が機械系モンスターと戦闘してる時に介入しなかったんじゃないのか!?」

「え!? じゃないわよ。頭可笑(おか)しいんじゃないの!?」

 

 オルトの発言に、キャロルが耐え切れずアキラの情報端末に向けて反論する。アキラはその発言に対して正論だと思いつつも、銃撃をしながら近接戦闘も行なうような変な戦闘スタイルを確立していることを考慮に入れると、オルトの変な思考回路も充分あり()そうなそうな選択だとも思っていた。

 アキラはそう考えながら、一方的に熱くなっているキャロルの口から出る言葉で、オルトが怒る可能性も考慮して()い加減止めることにした。

 

「キャロル。抑えてくれ。()()えずこっちもハンターオフィスの出張所まで行く予定なんだ。行き先が同じなら一緒に行かないか?」

『アキラ。いいの?』

『結構疲れたしな。それにオルトの銃なら射程も威力も俺の銃より高いし、何よりあいつのバイクなら俺の遺物も……』

 

 アキラが急に念話でさえも口を閉じて停止する。そしてそのまま膝から崩れ落ちる。

 

「アキラ!?」

 

 元気に見えていたのだが限界だったのかと、キャロルが慌ててアキラの容態を確かめようとする。

 オルトも急に動きを変えたアキラに警戒しながら返答しようか迷う。

 

(回復薬の使い過ぎでまた気絶したのか?)

 

 以前起きた事柄を思い出していると、オルトの情報収集機器の集音機能がアキラの声を拾う。

 

「お、俺の……、俺の遺物が……」

「…………えっ?」

「……、はぁ……」

 

 思わず間の抜けた声が2人の口から漏れる。そしてアキラの視線の先を見ると、そこにはアキラがここまで運んできた遺物、その残骸が散らばっていた。

 遺物は旧世界製の頑丈な箱に入っていたが、かなりの高度から地面に叩きつけられ、敵の砲撃に巻き込まれ、更に落下してきた多脚戦車や大型の機械系モンスターの直撃や衝撃を喰らっては、流石に耐えきれなかった。

 リュックサックは千切れ飛び、箱は吹き飛び、中身の機械部品はバラバラになっている。アキラの今日の成果は無残にも飛び散ってしまっていた。

 

「苦労して見付けたのに……、頑張って運んでたのに……」

 

 遺物の価値など、どう考えても無くなってしまっている。その思いに、今日の苦労が水の泡と化した現実に、アキラは打ちのめされていた。

 キャロルが戸惑いながら尋ねる。

 

「えっと……、アキラ。大丈夫、なのよね?」

「この有様のどこが大丈夫に見えるんだよ!」

 

 アキラは通話中だということも忘れて声を荒げていた。その元気いっぱいな様子にキャロルは安堵しつつ、念の為、一応尋ねる。

 

「……あー、その、怪我とかは、大丈夫なのよね? さっき随分無茶をしたでしょう? 大丈夫?」

「ん? ああ、そっちは大丈夫だ」

 

 そっちの話かと、アキラは普段の表情で軽く頷いた。そして再び顔を悲しそうに歪ませる。

 

「俺の……、遺物…………」

 

 そのアキラの落胆ぶりに、キャロルは悪いと思いながらも吹き出してしまった。情報端末からもオルトの呆れた溜め息が聞こえてくる。

 ビルの側面を駆け下りながら多脚戦車を倒した実力。その勝利に対しても、まるで当然のことのように、喜ぶ様子すら大して見せない態度。それ程の実力者。

 それにも拘らず、ありふれた子供のように項垂れるアキラの姿に、キャロルは妙な可愛さを覚えていた。

 アキラがムッとした顔をキャロルに向ける。

 

「笑い事じゃないぞ? 俺の今日の成果が無くなったんだぞ?」

「ごめんなさい。悪かったわ」

 

 まだむくれているどこか子供っぽいアキラの態度に、キャロルがまた面白く思って苦笑を溢しながら宥める。

 

「そんなに怒らないでよ。じゃあこうしましょう。お詫びって事でその遺物、私が元の状態の値段で買ってあげるわ。これでどう?」

 

 予想外の申し出にアキラが戸惑う。

 

「えっ? それは助かるけど……、良いのか?」

「ええ。考えようによっては、私を助ける為にアキラに遺物を諦めて貰ったようなものだからね。雇用主としてそれぐらいの補填はするわ。それで、幾らぐらいの遺物だったの?」

「いや、実は俺にもよく分からないんだ」

 

 アキラは正直にそう答えた。キャロルもそれが何らかの交渉術ではなく、本当に分からないからそう言っているのだとすぐに察した。

 この手のことはその気になれば、非常に高額の遺物だったと幾らでも嘘を()ける。それにも拘らず、アキラからはその気配が欠片も感じられないことに、キャロルは内心でアキラの評価を高めた。

 

「そう。それじゃあ幾らにするかは後でゆっくり話すって事で、そろそろ出発しましょう。そっちの、オルトだったわね? 出来れば送って欲しいのだけれど?」

 

 キャロルはアキラとの話が一旦纏まったとして本題であるオルトへと話を振る。本人が言っていたようにアキラ達が動かない限りは目視すら出来ない場所に居るようだった。

 遮蔽物の向こう側に居ることで敵対しないことをこちらへ知らせているのか、それともじぶんたちに見られて困る物でも持っているのか。その二つをキャロルは天秤に掛けて、この提案にすら乗らないのであればと顔に浮かべた笑顔の裏で警戒を高めていた。

 

「……分かった。ただしお互い詮索はしないって事で」

「勿論よ。こんな状況だもの。助け合っていきましょう」

 

 今日の成果が何とかなると分かったアキラが意気を取り戻し、しっかりと立ち上がる。キャロルはその様子を見ながらオルトに対して更に警戒度を上げた。まず間違いなく知られたくないことがあると、オルト本人が口にしたからだ。

 オルトがビルの出入り口の影から出てくる。アキラは以前は無かった防護コートに意識が向き、キャロルは自分の情報収集機器の取得データから分かってはいた事だったが、オルトがアキラと大して変わらない年齢の子供でありながら、見るからに高額で高性能な強化服を着用していることに改めて驚いていた。

 オルトは近くまでやって来て、軽く自己紹介をしてから再度キャロルの姿を見る。体の線をハッキリと映し出す強化インナーを着用しており、その上に強化服も着ている。だが強化服の露出部が多く、薄手の強化インナーを隠す役割は全く果たしていなかった。そして明らかに色気を出すことを優先したようなデザインのフルハーネスを装着している。

 いわゆる旧世界風と呼ばれるデザインの装備を常用しているであろうキャロルに対して、オルトは訝しむような眼を向けていた。

 

『ファナ。これって現代製……、だよな?』

『はい。デザインだけ寄せただけの商品ですね。クガマヤマ都市周辺で着用する人物は余り見掛けませんが、この人物は例外のようですね』

『対人用のハッタリか……、そういった装備が凄い性能をしてるってのは東部でハンターをしてる奴ならだれでも知ってる常識だし、旧世界製の装備を使えるほどの実力者だと判断して襲うのを止めさせる為か。若しくは……、まあ、そういう系の人間ってことだろうな』

 

 旧世界風のデザインは武力的なハッタリとしての効果もある。ファナからそう教えられたことを思い出して、オルトは面倒な相手だと判断した。

 

『効果があるのはモンスターにも存在していますよ。種類にも依りますが』

『へー、そうなのか』

『はい。ただこの周辺に居るモンスターがそうか断言は私にも出来ませんが』

 

 ファナと旧世界風デザインについて会話しているオルトは自然とキャロルの強化服の方へと眼を向けていた。それは傍目からすればキャロルの胸元や腰回り、脚などをまじまじと見ているようにしか見えず、アキラとキャロルはそれぞれ、オルトがキャロルの格好に対してどういった感想を出すのだろうと考えていた。

 

「私の格好がどうかしたの?」

「……それ、燃費は良いのか?」

 

 オルトは単純に疑問をそのままキャロルに問う。オルトの高性能な情報収集機器を更にファナの改造によって上昇した性能により取得可能だったデータによると、キャロルは強化インナーと強化服だけでなく、キャロル自身の肉体に身体強化拡張者としての改造処置を施していたからだ。その質問の意図をキャロルは正確に理解し、そして呆れたように苦笑する。

 

「まあ、日によるってところね。……最近の若手ハンターは皆こうなのかしら?」

「ん? ……ああ、今日は稼ぎが悪かったのか。まあ、今のミハゾノ街遺跡は俺でも分かるぐらいには様子がおかしいし仕方ない部分もあると思うぞ?」

「そうじゃ、……ないんだけどね?」

「…………」

 

 オルトが見当違いの返答を返したことで更にキャロルの苦笑いが濃くなるが、そこにアキラが口を挟む。

 

「その話は後にしないか? オルトも言ってたように異常事態の真っ只中みたいだし、オルトのバイクならさっさとハンターオフィスの出張所まで行けるだろ?」

 

 オルトもその発言に同意するようにバイクへと跨る。キャロルが悪戯っぽく笑いながらその後ろに乗り込み、アキラは補助アームの一つを台座として利用して出発した。

 

『オルト。良かったのですか?』

『まあな。これで遠距離の敵に態々接近してまで戦闘せずに済むようになったんだ。それに、遺物の方は大丈夫なんだろ?』

『はい。時間は掛かりましたが拡張現実情報送信機能は現在機能停止にしてあります。トライフワーデンに着く前に戻せば良いでしょう』

『ありがとう』

 

 オルトもビルの中でただ待っていた訳では無い。もし断り難い内容の提案をされ、同行することになっても自分の収集した遺物の情報が漏れないで済むようにファナに細工を施して貰っていたのだった。

 キャロルの様子から拡張現実情報を取得可能な情報収集機器を利用している可能性を考慮した結果だ。オルトは工場区画内で最初にすれ違った2人組の片方がキャロルだと分かっている。

 普通であれば工場区画内ほど入り組み、機械系モンスターが多く徘徊し、警備範囲の境界線の判別が難しい場所をたった2人組で行動するのは少々おかしい。そこに合理性を持たせるのであれば、各々が強いか、もう片方を護衛しながらでも問題無い程に1人が強いか、それとも戦闘にならずに済むような知識を持っているかのどれかだ。

 そして先程の多脚戦車との戦闘を見る限り、威力の高い銃を使用しているが、そもそも戦闘を最初に考慮していないような、精度の高い地図情報、若しくは高性能な情報収集機器で取得したデータを基に行動しているハンターかの二択だ。流石にその二択を装備を一見した程度では判別することは難しい為、ファナに片方の条件が当てはまった際の保険として旧世界製の遺物の箱の設定を変えて貰ったのだった。

 補助アームで車体に固定されている旧世界製の箱に興味を示したアキラがそれについて聞いてくる。

 

「オルトは遺物収集の成果を上げたんだな」

「ああ、まあな」

 

 オルトは何でもない風を装って軽く、そして少々自慢げなものを乗せながらそれに答える。不自然にならないように気を付けてはいるが、キャロルはその機微に気付くと、アキラに便乗するように質問する。

 

「へぇ、どんな遺物を持ち帰って来たのかしら? ちょっとだけ興味があるわね。ね、アキラ?」

「ん? 確かにそうだな。俺が運んでた遺物は機械部品の詰まった箱だったけど、オルトの遺物は何なんだ?」

 

 キャロルが何でも無いことのようにオルトが収集した遺物の内容を探ろうとし、ある程度把握出来たアキラとオルトの間柄も使って聞き出そうとするが、オルトも何でも無いことのように事前に取り決めた事を実行するかどうかの催促をする。

 

「んー。詮索しないに引っ掛かりそうだから蹴落として良いか?」

 

 オルトが軽くそう答えるとアキラ達が目を逸らす。この場で一番戦闘能力が高いのがオルトだ。キャロルはアキラを高く評価しているが、明確な強化服の性能差は覆せないと判断しており、アキラはこの距離では持っている銃の性能は存分に発揮出来ない。そもそも乗っているバイクはオルトの所有物であり、先程遠隔操作で大型の機械系モンスターを一方的に攻撃し続けることが可能な物であれば、高度な運転技術を以て振り落とされる可能性も十分にあった。

 

「冗談だ」

「そうそう、軽い世間話よ」

「……そうか、俺も冗談だ。まあ、単純に重さで選んだよ」

「ふーん? 確かに拡張現実情報送信機能が働いてないわね」

「働いていても俺の情報収集機器には拡張現実情報取得機能が搭載されてないからどっちみちなんだけどな」

「凄い高性能な強化服に見えるけれど?」

「索敵精度の向上とか索敵範囲の拡大を主目的にしたから、そういった活動用の機能は後回しにしたんだよ。仕方なかったってやつだ」

(やっぱりコイツ。そういった機能を持ってたか。(ブラフ)の可能性もあるけど、腹の探り合いは終わりなんて無いし、ここら辺で終わらせとくかな)

 

 オルトは自分の予想通りの保険があってよかったと内心安堵しつつ、別の話題でも出そうと頭を捻るが、大したものは出なかった。

 しかし、バイクの広範囲の索敵結果からオルト達に用のありそうな気配のある人物達が検出される。そちらへオルトが視線を向けるとアキラとキャロルも同じように目を向けた。

 そこには3人のハンターと思われる者達が確かにこちらへとやって来ていた。

 思われる、とは、その見た目からは確証が持てなかったからだ。

 メイド服の女性が2人。強化服を着た少女が1人。銃を持っているが、今のミハゾノ街遺跡で銃を持たずに行動している人物がいればそれこそ怪しい為、姿格好以外は怪しくない人物だろうとオルトは判断し、後ろに居るアキラの表情から恐らく知人の可能性に思い至る。

 

「アキラ。彼女()(よう)か?」

「いや、俺は特にない」

「なら向こうがこっち側の誰かに用が有るって感じか。……こんなところで話す必要は無いし無視するぞ?」

「バイクの持ち主はあなただから私はそれで良いと思うわ。アキラは?」

「……俺もそれで大丈夫だ」

「知り合いなら話し合いはハンターオフィスの出張所でってメッセージでも送っておけば良いだろうしな。飛ばすぞ」

 

 オルトはそのまま3人組のことを無視してバイクを飛ばす。その速度によって掴みやすくなった反応に、機械系モンスターが何体か近寄って来たが、同乗しているアキラとキャロルが迎撃することで大した時間も掛けることなくミハゾノ街遺跡の市街区画を脱出し、ハンターオフィスの出張所まで戻った。

 

 

 オルト達はミハゾノ街遺跡の外周部にあるハンターオフィスの出張所の前まで漸く戻って来た。そこでアキラ達と別れようとしたオルトを、アキラと何か話していたであろうキャロルが呼び止める。

 

「良かったらあなたも一緒に食事でもとっていかない? 一応助けてもらった側だし、(おご)るわよ?」

()いのか?」

「ええ。何なら食事だけと言わずにその後も……、ね?」

 

 そう言ってお客に向ける笑みを浮かべて誘うように微笑んだ。オルトはその微笑みに対して非常に薄い反応と頷きを返した。

 

(おご)ってくれるのなら有り難く頂くよ。荷物を置いてくるから先に席を取っておいてくれ!」

 

 そのままオルトは駐車場の方へと向かっていった。

 

「……ええ、そう」

 

 間違いなく喜色を浮かべた。だがそれは食事に対してのみだ。その後の情事、自身の副業に関しては理解していながら欠片の興味も持っていない。それが欠けることなくキャロルにも伝わり、溜め息を吐く。その様子をアキラは不思議そうにしつつ、それと同時に同情も含めた言葉で宥めようとする。

 

「キャロル。大丈夫か?」

「大丈夫よ。アキラも高いの奢ってあげるから覚悟しておきなさい」

「そうか! ……まあ、これだけ自信ありそうだし大丈夫か」

 

 キャロルは半分自棄(やけ)になりながら宣言するように発言する。その様子にアキラも問題なさそうだと判断して後半の言葉は小声でその思いを補強する程度に留まった。

 

 

 既に日の落ちた時間帯ということもあり、食堂の中は一仕事終えたハンター達で賑わっている。銃火器などの装備品や遺物などを持ち込んでいる者もおり、人が多い場所はそれだけ混雑していた。

 しかし食堂の奥のテーブルは不自然なほどに空いていた。オルトがバイクを自分の車両内に停車させ、全ての銃の弾倉とエネルギーパック、強化服の弾倉入れの一部に回復薬を入れて、(ようや)く武装をある程度万全に整えたことで一息ついた後、食堂へと足を運んだオルトがアキラ達が座っていたのはその空いているテーブルだった。

 周囲の様子を見ながらそこへ向かったオルトはそのままアキラの隣りに少し離れて着席した。

 

「ここって何かしらのルールでもあるのか?」

 

 オルトがそう聞くと、先にキャロルに聞いていた事を自慢気(じまんげ)にアキラが教えてくる。

 この食堂を使用するハンター達は、座る位置を食事の代金で決めているのだと説明を受ける。出入口の手前ほど安く、奥ほど高い。たっぷり稼いだハンターは奥の席で気前よく豪勢な料理を頼み、微妙な稼ぎだった者は手前の席でそこそこの飯を口にする。

 食事代はそのハンターの稼ぎに比例し、その稼ぎは実力に比例する。よって近い席に座る者の実力は大体同じになる。

 これにより稼ぎや実力の差に起因する騒ぎは減る。実力が近いこともあって、何度も顔を合わせて気が合えばチームを組むこともある。暗黙の決め事ではあるが、上手く機能していた。

 そのルールを無視して奥の席でそこそこの飯を注文する者も偶に出てくるらしいが、そこに座るに相応しくない実力しか持たない者は力がものをいう荒野(こうや)でその力に逆らったものとして悲惨な末路を辿ることも良くあるとのことだった。

 ルール無用の荒野(こうや)だからこそ、そこにある暗黙のルールには相応の強制力がある。

 

「オルトはその辺大丈夫そうだよな」

「どういう意味だ?」

「安い料理頼んでも最終的な金額が膨れ上がってそうだからな」

「……随分気安い態度なのね」

 

 キャロルがアキラが皮肉を交えて話すことに驚き、その気安さの理由を探ろうとするが、当のアキラはあまり自分の変化に気付いておらず、一方オルトは注文用にテーブルに接続されている端末を操作して表示されたメニューの中から一つ一つ今食べたい物を考えて選んでおり返答は無い。

 アキラとしてはキャロルにもオルトにも大して対応の差をつけているつもりは無いが、一緒に依頼を(こな)したことも、シュテリアーナで(おご)って貰ったことも、そして一度死に掛けた際に助けてもらったこともある。それはアキラの中で無自覚の認識となり、対応にその差が僅かに表れていた。

 キャロルはオルトの何かしらがアキラの琴線に触れたことで、アキラの中である程度気安く接しても問題無く、敵対するのは戦力的ではなく心情的に避けたい相手に区分されているのだろうと判断した。

 キャロルに横目で見られていることに気付いているオルトは、奢ってくれる相手なのだからとそのままにしつつメニュー欄を操作し続けていた。

 その様子にまだ決めかねていると判断したキャロルが別の端末を操作して表示画面をオルトに見せながら楽しげに笑う。

 

「ここで食べる料理なら最低限ここから選んでね? 迷ったら全部頼んでも大丈夫よ?」

「おお! ()いのか!? なら遠慮なく!」

 

 キャロルに実質無制限だと言われ喜色を浮かべたオルトが片っ端から料理を注文欄に()せ始める。

 

「沢山注文しても良いけど残したら駄目よ?」

「ああ、大丈夫だ」

 

 オルトは喜色を浮かべながら端末を操作し続けている。その様子に本当に大丈夫なのかと心配そうに見ているキャロルと、一食10万オーラムもする料理を何の躊躇いも無く注文欄に入れていくオルトに若干引いているアキラがそこには居た。

 

(この2人の様子からして資金的な繋がりがあるとは思えないわね。かと言ってアキラは1人で行動することを好むハンター。このオルトって子も私達と会った時は1人だったし、同じ思考の持ち主だから気が合った? 何か違うような気がするし、……駄目ね、特にこれといった共通点は年齢が同じ程度。一緒に活動していたのなら同じような装備になっているでしょうし、この料理の値段にも慌てていない……)

 

 キャロルはアキラがどこか気安く接しているオルトの様子をそれとなく観察していた。危険性は無いだろうと判断しているオルトは完全に無視していたが、その視線の中にどのような思惑があるのか、ファナはじっとキャロルを見ている。それがオルトに、ひいては自分に対して何らかの不利益を生じさせるのであれば、対処は必須となるからだ。

 

 

 アキラとオルトの目の前にはテーブルを埋め尽くす量の料理が並んでおり、それぞれが温かな湯気を上げている。アキラは自分の頼んだ料理に手を伸ばし、舌に広がる美食の数々に舌鼓を打っていた。

 そしてオルトもまた黙々と笑みを浮かべながら一つずつ丁寧に口へと運び、歯で千切り噛み潰し、舌で味わい喉へと流す。

 高い料理とは言っても、全て輸送費込みの荒野(こうや)料金。都市で食べるのであればもっと安い価格で同じものを食べられる。

 しかし同時に、遺跡でたっぷり稼いだハンター達の為の料理でもある。その実力で大金を稼ぎ、その金で高級品を食べ慣れたことで肥えた舌を満足させるだけの質は充分に保っている。

 よって、まだまだ食べ慣れたという域に至っていないアキラとオルトにとっては、自分達の舌を、その美味さで蹂躙されるのは容易かった。アキラは顔を緩ませて、いつも以上に子供っぽい様子を見せており、オルトは喜色を浮かべてはいるが、姿勢を一切崩すことなく丁寧に、汁が飛ぶことさえ起こさぬように口に運んでいる。その速度はいつも通り等速で、途切れることなく料理がオルトの口の中へと消えていく。

 その様子をキャロルは両手の上に顎を乗せて見ていた。

 

「2人とも美味しい?」

 

 アキラがしっかりと頷く。

 

「美味しい」

 

 しかしオルトは反応しない。

 

「…………」

 

 キャロルが返答の無いオルトの方を見るが、問題無く注文した料理を一品一品味わっていた。その様子にキャロルが少しだけ不貞腐れたように小さく溜め息を吐く。

 

「オルトは食事が一段落するまでは基本的に反応しないみたいだから気にしない方が良いぞ?」

「……そうじゃないわ。別に良いけどね」

「……? 良いって感じの顔には見えないけど、あー、流石に注文し過ぎか?」

 

 自分の数倍の量を注文したであろうオルト宛ての料理はまだ厨房で作られており、給仕が空になった皿と交換するように出来上がった料理を置いていくので一見して料理は減ったようには見えない。それだけの量だと流石に悪いだろうと思ったアキラが恐る恐る聞き、その様子にキャロルは苦笑を浮かべる。

 

「そうじゃないわ。ただ、普通はね? 私が目の前にいれば、視線は料理じゃなくてこっちに向けるものなのよ」

 

 キャロルはどこか嫌味っぽくそう言いながら自分の胸の谷間を指差した。

 それでアキラもその魅惑の胸を見る。しかしその目に異性への情欲は欠片も含まれていなかった。

 

「悪いな。色気より食い気の年頃なんだ」

「そのようね。私の体よりそっちを優先させるぐらいだもの。随分……、随分多いわね。大丈夫なの?」

「まあ、……大丈夫だろ。こいつ物凄い量食べるし」

 

 テーブルの上にあるオルトの注文した料理の割合が徐々に多くなっていく。

 アキラ達が会話している最中もオルトは料理を味わい続け、数皿を(から)にして、テーブルの端へと寄せていた。それもすぐに追加の料理を運んできた給仕によって料理の乗った皿と(から)の皿が交換され、そしてまた(から)の皿が増える。オルトの手の速度は一切緩まることなくずっと同じような速度で動いている。

 注文した料理の総量は明らかにオルトの体格以上なのだが、問題無くするすると、どこへ消えているのかと疑いたくなるほどの量を体内へと収めていた。

 その様子にキャロルが呆れ、アキラはどうにもならないだろうと半ば諦めて食事を再開すると、アキラ達のテーブルに近付いてくる者達が居た。

 

「さっきぶりっすね。いやー、無視するなんて酷いっすよ?」

 

 先程遺跡の中でそのまま無視したレイナ達だった。

 

 

 オルトが食事中聞き耳を立てながらアキラとメイド達の会話を聞いている。その様子からは険悪な感じはしなかった。

 

(こいつらは確か、……ドランカムのハンターだったか? メイド服着て遺跡に行ってるって噂があったけど常用してるなら見たやつがそこそこいてもおかしく無いし。まあ、話半分に聞き流されたんだろうけどな)

 

 その目立つ格好であるメイド服の片方。カナエと呼ばれる女性がアキラに対して、馴れ馴れしく物怖じせず気安く距離を詰めて話をしている。

 

「それで、アキラ少年は何であんな頭のおかしいことをやってたっすか?」

「……好きでやった訳じゃない」

「じゃあどうしてあんな状況になったんすか?」

「……いろいろあったんだよ」

 

 カナエは完全な興味本位で聞いているが、その近くにいるシオリはレイナの安全の為に情報を集めようとしている。

 

「キャロル様。なぜあのような状況になったのか教えて頂けないでしょうか?」

「ごめんなさい。話せないわ。私達があの状況に陥った過程を説明すると、情報料が必要な話が絡んでくるのよ。まあ、払うって言うなら別だけど」

「お幾らでしょうか?」

「2000万オーラム。悪いけど値引き交渉は受け付けないわ。その金額でアキラと取引済みだからね」

 

 予想外の金額と予想外の内容に、レイナ達が思わずアキラを見る。

 

「アキラ少年。なかなか稼いでるっすね」

「その辺はキャロルの護衛代と相殺だ。2000万オーラム払ったわけじゃない」

 

 アキラ達の会話の裏で、その時の経緯をある程度知っているオルトに向けてキャロルがアイコンタクトで知らないフリ、乃至(ないし)は黙っているようにと伝えてくる。

 

(念話出来ない相手だと、こう汲み取る作業が有るのが面倒くさいな)

 

 オルトは心の中で愚痴を吐きながらも、恐らく口止め目的で奢られているであろう目の前の料理の数々を了承の意を込めて腹の中に納めていた。

 

 

 カナエがセランタルビル内の合同探索をアキラに提案し、()えなく断られた頃には、オルトは注文した料理全てを(から)にしていた。

 

「ご馳走様でした。美味かった」

 

 手を合わせて、そう口にしたオルトにアキラ達やレイナ達の視線が集まる。

 

「あの量全部食べるとか、大食漢っすね」

 

 最初から遠慮の無いカナエがどこか感心したようにそう溢す。

 

「成長期だからな。腹七、八分目ってところだ」

「えぇ……、どんだけ食うっすか」

 

 なんでも無いことのように言うオルトだが、まず間違いなく代謝の高いハンター数人分は食べて尚、空きがあると言っている。それを聞いた者達の顔は様々だが、引いている者の方が多い。

 オルトの大食を知っているアキラは比較的マシだが、目が座っている。ただ、カナエの興味が僅かにオルトに向いたことを良いことに止まっていた食事を再開し始めた。カナエとの会話に時間を取られたのか、単純にアキラにしては沢山注文したのか、まだテーブルの上にはアキラが注文した料理はそこそこ残っていた。

 ただし、オルトの食事時のルーティンのようなものを知っているため、途中から会話に割ける意識が戻ってきた上でこの場の会話の一切に関与しなかったことに気づいており、不満を込めた視線を向けてもいた。

 厄介な人物に目を付けられているのはアキラの行動の結果なので、オルトはそれを意に介すことなく会話の方向性を決める。

 

「セランタルビル……、か」

 

 呟くように溢した言葉にこれ幸いとカナエが便乗する。

 

「そうそう! あ、そうっす! そっちの少年も行かないっすか? 凄そうな装備も使ってるみたいっすし、結構上階まで行けると思うんすよ。稼げると思うっすよ?」

「おい、俺が一緒に行くことを前提に話すな!」

「良いじゃないっすか。あ、大丈夫っす! お嬢を護らせようなんて思ってないっすよ! それはわたしの仕事っすからね」

 

 シオリから身内ということで、アキラとの間に出来たいざこざ、クズスハラ街遺跡の地下街での出来事を知っているカナエはアキラの異常性に興味を示している。

 単に強いだけであればカナエもアキラに興味を持たない。だがその強さの上に、面白い事態を引き起こす、或いは巻き込まれる。ものならば話は別だ。

 少し調べただけで、クズスハラ街遺跡での出来事のみならず、賞金首騒動の際にも楽しそうな経験をしている。都市の下位区画での一件、更には先ほどのビルの壁面を駆け降りるような戦闘を、どのような経緯であれ渦中に入り易い人物に対しては非常に高い興味を抱いていた。

 そのような面白い人物が一緒にいれば、レイナの護衛というつまらない仕事も多少は面白くなるのではないか。その思いで、アキラを巻き込める可能性を上げようとオルトも誘うことにしたが、どちらとも反応は非常に鈍い。

 

(ちな)みに俺は断る」

「そうっすか? 仕方ないっす。ならアキラ少年──」

「嫌だ。俺も命は惜しい。そっちがセランタルビルの中に突っ込んで自殺するのは勝手だけど、俺を巻き込まないでくれ」

 

 レイナ達はそのアキラの反応を意外に思い、軽く驚いている。シオリが少し険しい表情で尋ねている。

 オルトはセランタルビル周辺に配備されていた警備機械達の中を強引に突破させるだけのサポートを行なったファナから、セランタルビルの中にはいるのであれば、自分の生還は絶対に無理だと断言されているほどの危険性を理解している。行く気など全く起きなかった。

 アキラ達の会話に興味を無くしたオルトは、出張所内の食堂で話しているハンター達の会話に耳を傾けていた。

 

「大食いビル内に取り残されたハンターの救出依頼? ハンターもモンスターも区別なく食い殺す悪食ビルに突っ込めってか。俺は御免だな」

「そうか? 俺は受けても良いとも思うけどな」

 

 仲間の返答を聞いたハンターが鼻で笑うように話す。

 

「おいおい、何言ってるんだ。セランタルビルだ。ミハゾノ街遺跡の七怪談の一つだぞ? 保険会社の支払いだって負うのは保険を掛けてるハンターだ。確実じゃねぇんだぞ?」

 

 否定的な仲間に男が軽く首を横に振ってから笑って答える。

 

「まあ確かに、金額的に怪しいとこも沢山あるけどよ、保険会社と提携してる警備会社の人員とかも送った上でまだ救援部隊が帰還してないからって依頼もそこそこある。そっちの方も纏めて助け出せば保険会社が必死こいて成功報酬を集めるさ。伝手が出来れば、(ほか)の旨味のある依頼をこっちに回してくれることも含めて、悪く無い条件だと思うぜ?」

 

 彼等はその後も話を続け、纏まったのか食堂から出て行った。オルトに聞こえる範囲で話していたのだ。高い食事代を払えるだけの実力者なのだろう。

 オルトはその話を聞いた後、近くでされている会話に加わることなく自分の情報端末で周辺に起きている出来事についての噂程度のものも含めて検索を掛けていく。

 それと同時に情報収集機器の表示装置の方を視線で操作し、強化服に取り付けてある情報端末も操作する。メイド服で歩くような趣味でも無いのであれば、それは着用を義務付けられているということだ。

 そして旧世界の方にもメイド服で活動する企業がある。その関連性に思い至り、そちらの方へも警戒をするべきかどうかの判断材料を増やそうとしていた。

 

 

 アキラはシオリとカナエに自分がセランタルビルに入る気などさらさら無いと教える為に、ビルの壁面で戦闘したことを例に挙げ、そちらを何十回と繰り返した方がマシだとさえ言い切り、セランタルビルへの探索を拒否していた。

 そのアキラの拒絶とさえ取れる様子にシオリはどこか納得したように、自らの行動指針を決定する際の参考の一つにしようと考えていた。

 一方カナエは内心で残念そうに顔を歪める。

 

(あー、失敗っすね。これでセランタルビルの探索は無しになったっすね)

 

 シオリにとってセランタルビルの探索はかなり意味のあることだ。レイナの身の安全を考慮しても、なお迷うほどに。カナエはそれを知っていた。

 そこにアキラという戦力を追加すれば、迷いの天秤を探索の方に傾けることが出来るのではないか。そう思ってアキラを誘ったのだが、逆効果になってしまった。

 カナエがつまらなそうに溜め息を吐く。そしてふとアキラの横へ視線を向ける。そこには我関(われかん)せずと言ったふうに自分の世界に入って情報端末を弄っているオルトがいる。

 

(装備は……、まあ凄いっすね。この歳でこれだけ高性能な装備を手に入れられるだけの成果を上げたのか、別に伝手があっただけか。……そう言えば、アキラ少年が戦ってた場所にあった機械系モンスターの片方は両断されてたっす。地面に降りた後のアキラ少年達の姿は見えなかったっすから、砲弾へのあの狙撃はアキラ少年のものかとも思ったんすけど、もしかしてこっちっすかね?)

 

 オルトの装備している銃は複合銃だ。性能に偏りを持たせれば専用銃とタメを張れるほどの性能を持つ物もある。オルト達がハンターオフィスの出張所に戻る時にバイクに接続してあった大型の銃ならば、恐らく可能だとカナエは判断していた。ただ、断言は出来ない。

 オルトの思惑によって、アキラ達のようにビルの側面で戦闘する姿を市街区画でハンター稼業に勤しんでいる者達に見られることは無かった。だからこそその後の戦闘についても、怪しまれるのはアキラ達であってオルトでは無い。

 そう他者に思わせるために少ないエネルギーを防護コートの迷彩機能に回してまで隠遁していたのだ。それでも仕留め切れるほどの残弾は残っておらず、仕方無くブレードを用いた撃破となってしまった。だがそれでもカナエが確認する限りこの場の3人の装備に近接装備は無い。戦闘後に無くした可能性を考慮に入れても良いが、それ以上はただのイタチごっこだ。

 カナエは一先ずオルトに関する興味を頭の片隅に残して会話を切り上げた。ただ、内心では面白い玩具を見つけたように笑っていた。

 

一話にどの程度の文字数が読み易い?

  • ~5000
  • 5001~10000
  • 10001~15000
  • 15001~20000
  • 20001~30000
  • それ以上
  • 文字数に興味無い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。