リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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いつも誤字報告、評価、感想等ありがとう御座います


・第三十四話 前提条件となる依頼

 

 ミハゾノ街遺跡に行った日の翌日、オルトは前日の疲労を完全に取る為に十分な睡眠時間を確保した為、起床時間が少々遅れてしまった。

 朝食にしては遅く、昼食にしては早い時間で食事を取っていると、オルトの情報端末をファナが急に指差す。オルトが何時(いつ)ものことかと考えていると数秒後に何らかの通知が入ってきた。食事を邪魔されたようで少々不機嫌になりながらオルトは情報端末を操作する。

 どうやらハンターオフィスのハンター用サイトを介してオルト個人(あて)に依頼が来たみたいだった。自分の個人用ページからその依頼を確認したオルトは怪訝な表情を浮かべる。依頼主の欄に記載されている名前がシオリと書かれていたからだ。

 件名には、ミハゾノ街遺跡の救援依頼への同行等、と記されていた。概要や詳細の部分には最速で本日から、期間はミハゾノ街遺跡の状態が落ち着くまでの間、自分達のチームに加わり救援依頼に同行して欲しいという内容だった。勿論救援依頼での報酬とは別にこの依頼での報酬も出るとも記載されている為、早い話二重の報酬が出るということだ。何も考えなければ利益の大きい依頼と言える。

 その内容を訝し気に見ているオルトは記載されている名前に対して抱くそこはかとない嫌な予感と、シオリ、()しくはその主人であろうレイナが所属している組織への信用どちらを取るべきか悩んでいた。

 

「なあファナ。これどう思う?」

『怪しい場所を介さずハンターオフィスを、正規の手段を用いてオルト個人を指名した依頼文ですね。概要等に怪しい所は御座いませんが、一点、最後の文章のみが不明瞭ですね』

「まあそうなんだよな」

 

 その依頼文の最後には詳しい契約事項は現地にて交渉の場を設けたいと記されており、オルトとファナの意見は一致していた。確実にこの文に記載されていない内容を含めた依頼だろう、と。でなければ報酬欄に記載されている暫定的に設定したと思われる金額が、ただ単に依頼に同行するにしては異様に高額なのはあり得ない。

 とはいえ、そうする理由がオルトは勿論、ファナにも分からない。

 

『それで、オルトはどうなさるのですか? 依頼の為にミハゾノ街遺跡へ行きますか?』

 

 指定されている場所はミハゾノ街遺跡のハンターオフィスの出張所だ。ハンターオフィスの施設内という最低限の安全性の確保はされているが都市内部ほどではない。騒ぎを起こしても自己責任と切って捨てられる可能性も無くはないような場所だ。

 それでも遺跡に用が有る人物が可能な限り近くの施設内で所用を済ませるのであれば理解出来る。

 本人達の人間性も、昨日アキラ達と会話している様子から悪性の人間ではないことぐらいはオルトも知っている。

 

『別に断ってしまっても構わないと思いますよ。この依頼には大した強制力もありません。ただ昨日のミハゾノ街遺跡の様子からして救援依頼の際には大量の機械系モンスタ―との戦闘が予測されますのでそこは気を付けてください』

『そうだな。……向こうと合流するなら昼前にはミハゾノ街遺跡についていた方が良いだろうし』

 

 ファナの提案は終わった。昨日の件もあり、オルトの更に強力な装備への欲求は高まっている。そこでハンターランクという制度が現状ネックになっている現状。シオリから送られてきた依頼には賞金首騒動の時にグレイやクロサワからの討伐への協力要請とは違い、ハンターオフィスが介在している為、ミハゾノ街遺跡での救援依頼とは別途でハンターランク上昇ポイントが加算される。

 とはいえランク上昇ポイントについてはハンター間で囁かれている程度の噂の域を出ない。しかし遺物をハンターオフィスの提携店に卸したり、ハンターオフィスや都市、そのどちらかと提携している組織が出す依頼を(かず)(こな)すか、それだけの成果を挙げればランクは自然と上昇するのだ。あながち間違いでも無かった。

 これまで通り遺物を収集し、そちらでハンターランクを上げるのも良い。依頼を積極的に受けて戦果を稼ぎ、見合うだけの報酬を手に入れるのも良い。結局のところオルトの自由意思に任せられていることに過ぎず、ファナはそこにアドバイスを適宜入れていくだけだ。本当に好きにすれば良いと考えている。

 オルトの行動が自身の目的の妨げにならない限り、ファナはオルトの意志を尊重する。

 オルトは食事を進めながら再度依頼文を読み返しながら依頼を受けるかどうか悩んでいた。シオリはレイナと呼ばれていた少女の従者で、ついでにもう1人カナエという女性もいたが、3人全員がドランカムに所属している者達だ。

 オルトはドランカム全体を忌避している訳でも無いが、現状内部で派閥争いを激化させており、賞金首騒動の際にもその影響が波及した結果、功に焦った者達が多く負傷し死亡していた。そのような部隊の1人になるのは御免被(ごめんこうむ)りたいと考えていたオルトは過合成スネークの時の部隊員名簿一覧を思い出し、その中にレイナ達の名前が無いことに気付いた。

 

「……ふーむ」

『受けることにしたんですね』

「まあ、(わた)りに船ってやつだしな。向こうも俺を何らかの思惑で利用しようとしているんだし、こっちもこっちで都合がある。そのダシになって貰うとしよう」

『ではトライフワーデンに寄ってからミハゾノ街遺跡へ行くとしましょうか』

 

 オルトは現地で詳細を聞いた後、特におかしな事情でもなければ依頼を受けるとこに決め、取り敢えずシオリにミハゾノ街遺跡へ行くことの旨を送り、テーブルの上の料理を胃の中に片付け始める。

 オルトはハンターオフィスの掲載している賞金首のページを閲覧し、そこに記載されている討伐者の人名にもレイナ達の名前は無い。賞金首騒動ではドランカムは随分精力的に討伐に乗り出しており、それは若手派、古参派の派閥争いの一環ではあったが、徒党員の大部分が駆り出されている中で、その要請を無視した可能性が高く、それが事実であればレイナ達の現在の立場はドランカム内に乱立している派閥のいずれにも属していないのだろうと判断出来た。

 オルトが最終的に問題は無いだろうと判断したのはこれが事実であれば、どの派閥に加担したなどと言いがかりを付けられて今後のハンター活動中の障害は発生し(にく)いだろうと踏んだからだった。

 食事を終えたオルトはいつも通り格納棚から強化服と銃を取り出して再点検してから装着する。昨日の長時間の戦闘で出来ていた銃身の僅かな歪みも格納棚が修正しており、強化服の両腕の腕輪も回復している。後は消耗品を積み込めば万全な状態になるように準備をしてからオルトは家を出た。

 

 

 トライフワーデンで弾薬等の補充を済ませたオルトはミハゾノ街遺跡へ車を走らせていた。

 

「エルに聞いたけど、昨日から機械系モンスターに対して有効的な弾を買う奴等が増えてるってことはそいつらの目的もミハゾノ街遺跡なのかな?」

 

 トライフワーデンに着いたオルトは、エルが駐車場まで弾薬やエネルギーパックなどの消耗品が積まれた荷台を持って来てくれたので、そのままハンター証で支払いを済ませてから車内に積み込んでいた。その(さい)に拡張弾倉の装弾数は違うが、オルトと同じように機械系モンスターに有効的な弾を多く求めるハンターの来店が多いという話を聞いていた。

 

『現在ハンターオフィスの出している依頼の多くがミハゾノ街遺跡内に取り残されたハンター達の救援依頼で、クガマヤマ都市に在住している多くのハンターを募集しているようですね。結局昨日の内には必要とするハンターの数までは集められず、しかし保険会社お抱えの派遣部隊、伝手のある警備会社の武力要員にも限りがある。それでも、だから仕方がなかった、手が足りなかった、と言って事前契約しているハンターを見殺しにでもすれば信用は地に落ちます。高い保険料を払わせた上でそんなことをしてしまえる訳も無く、多少の金を自社内から捻出してでも自分達が築き上げてきた信用の維持の為に、渋々ハンターオフィスに依頼を掲載したのでしょう』

「なんともまあ世知辛いな……」

 

 自分達の面目の為にも、多くのハンターを帰還させたという実績作りの為にも保険会社は昼も夜も無視して、昨日からずっと遺跡内を探索して救援対象の現在地を探し当てたり、その場所へ救援部隊を送り出しているのだという。

 当然その間にも遺跡内を徘徊しているモンスターに襲われることもザラで、無事救援対象の元まで辿り着けたとしてもその時には既に息絶えており、死亡していたという記録と死体を持ち帰るだけになったり、予想以上にモンスターの数が多く、進行も撤退も叶わずに救援部隊が逆に救援対象になる可能性も十分にある。

 オルトの車も荒野(こうや)仕様で結構な大型だ。最大積載量も高く、そのおかげでユウセツ駅遺跡では大量の遺物を収集出来た。そしてオルトはその遺物を台無しにされることがないようにと、高額の装甲タイルで車体全体の保護も行なっているので万が一ミハゾノ街遺跡内を徘徊している機械系モンスターに攻撃されたとしてもある程度は防いでくれる。

 昨日から時間も()った。遺跡内が現在どのような状況になっているかは定かではない。工場区画内を警備範囲として設定されている筈の機械系モンスターが、工場ごとの敷地範囲を無視してまで追撃してきたのだ。それが市街区画まで範囲を広げて、普通は配置されないはずの強力な警備機械が配置されているかもしれないし、逆にハンター達の奮闘により少なくなっている可能性もある。

 オルトはあり得る可能性を楽な方から順番に羅列(られつ)させて、際限が無いからもういいやと思考の隅に追いやった。

 

「まあ、今は何とも言えないな。そろそろミハゾノ街遺跡に着くし、その辺はシオリたちに聞くとしよう」

『そうですね。今回も油断なく終わらせるとしましょう』

「了解」

 

 ミハゾノ街遺跡の遠景が見えてくる。オルトは深呼吸をして遺跡を見る。その遠景の中にあった高層ビルの一棟(いっとう)が中程辺りで荒野(こうや)からでも視認可能なほどの大爆発を起こし、大きく折れ曲がって上階(じょうかい)がそのまま地上へ落下していった。

 それを見ていたオルトは、モンスターが降って来るよりはマシだろうなと、どこかズレた感想を心の中で呟きながら車を走らせる。

 

 

 オルトがハンターオフィスの出張所の近くまで辿り着く。昨日とは大幅に変わっている周囲の光景を見て、遺跡の騒ぎの規模を大まかに把握した。

 周囲はごった返していた。出張所の駐車場から(あぶ)れた車が大量に停まっており、遺跡へ出発していく物もあれば遺跡から帰ってくる物もある。そしてハンター達の荒野(こうや)仕様車両だけでなく、ハンター向けの店舗を兼ねたトレーラーも至る所に見える。更に医療関係者と思われる格好の人物が簡易的な診療所を、ハンター徒党が簡易拠点の設置を行なっていた。

 ハンターオフィスへの出張所へ続く道を塞がないように警備員が交通誘導をしており、オルトも声を掛けられる。

 

「悪いが、この辺に車を長時間停めるのは遠慮してくれ。乗り降りで少し止めたり通り抜ける分には構わないがな。あと、既存の駐車場は既に満車だ。一応、臨時の奴があっちに作られてる」

 

 警備員はそう言って臨時の駐車場を指差した。そこでは現場で雇われたであろうハンター達が設置に協力していた。

 オルトはある程度形を為している駐車場なら利用出来るだろうと考えて頷く。

 

「分かった。ありがとう」

「ああ、それと、教えといてやるがな? 遺物収集に来たのなら、今日はお勧めしないぞ?」

 

 ちょうどその時近くに建っていたビルの一画に遺跡内から飛んできた砲弾が直撃して爆発を起こす。その所為で周囲に瓦礫が散乱して出張所の方にまで雨の様に大小様々な瓦礫が降ってくる。オルトに説明をしていた警備員や、周囲のハンター達のような武力要員は皆が空中へ銃口を向けて大きめの瓦礫を砕くように銃撃を開始した。降下中の瓦礫が大量の銃弾で穿(うが)たれ続け、最終的には指先サイズにまで削られたり、軌道を変えられて荒野(こうや)へ落下して周囲の景色の一つへと変わっていく。

 その様子にオルトが思わず苦笑いを浮かべる。

 

「……まあ、別件で来たんだ。何とかするさ」

「そうか。気を付けな」

 

 警備員が何事も無かったように去った後、オルトは臨時の駐車場に車を停めてから出張所の食堂へと向かう。ミハゾノ街遺跡の外周部に着いた時点で情報端末で連絡を取っており、どこで合流すれば良いのかの詳細を聞いていたのですぐさま向かった。

 オルトが食堂に入ると、目的の人物達はすぐに見つかった。3人中2人がメイド服を着ているのだから当然と言えば当然だが、休憩中のハンター達が少なかったのも理由だった。

 徒党に所属しているハンター達は現在(そと)で簡易拠点の設置を行なっており、それが済んだ後ならばそちらで休憩を取れば良いだけなので、食堂にまで足を運ぶハンターは徐々に少なくなっただけだった。

 

「あっ! オルト少年こっちっすよー!」

 

 オルトがレイナ達を見付けたのと同時に、向こう側もオルトを見付け、カナエが大きく手を振りながらオルトに大声で呼び掛けた。その所為でオルトに少なくない注目が集まる。

 

(あいつは名前の最後に少年って付けるのが口癖なのか?)

 

 カナエの自分への呼び方や先日アキラにも少年と付けていたことに対しての感想を覚えながらレイナ達の座っているテーブルの元へ近付いていく。

 

 

 ミハゾノ街遺跡で異変が起きた当日、アキラ達との会話を切り上げた後、都市に帰還していつも通りの業務を終え、深夜を迎えようという時間帯、クガマヤマ都市の中位区画、防壁内にあるマンションの一室で、シオリは難しい顔を浮かべていた。理由は簡単だ。いつも通り自分の(あるじ)であるレイナに対して届いたドランカムからの指令だ。

 ミハゾノ街遺跡内の事態鎮圧への参加。それを送って来た相手はミズハ。彼女はドランカムの若手派、事務派閥などと呼ばれており、ドランカム内にあった元々の基盤を利用して自身の立場を確実なものとする為に他都市のスラム街や孤児院などから集めて来た子供をハンターとし、仕事を割り振って成果を上げさせてドランカムの規模拡大に努めていた。その甲斐もあり、先日には2体の賞金首討伐に大きく関わり、貢献した。

 今までの規律や上下関係を一新する所謂革新的な施行をしており、彼女はドランカム全体の実権を握ろうと様々な画策をしているのだった。

 だがシオリからすれば彼女に対する評価は(かんば)しくなく、可能な限り自身の大切な(あるじ)を若手派から引き離しておきたいとさえ考えている。

 理由は明白で、シオリから見た若手派に属する面々は良いように言えば功名心に溢れた少年少女が多く、将来的には個々人が高い戦闘力を持った大規模な部隊編成が可能になると思わせている。しかし、逆に悪いように言えば向こう見ずな者が多く、作戦指揮下にあっても戦果を求めて自分勝手な行動に出る者が結構な数属している。それでは部隊と名が付いているだけで纏まりなどあって無いようなもの。真面(まとも)な指揮が取れるのかも甚だ疑問の残る者達でしかない。

 そんな、言ってしまえば野蛮としか言えない者達の中に自分の大切な主を入れるのは我慢ならない。

 そして若手派と古参派で対立しているにも拘らず、若手派は内部で最低限真面な教育を受けたであろう者達で構成されたA班と、スラム街などの文字の読み書きすら真面(まとも)に出来ないような環境に居た者達で構成されたB班の2つに分かれ、そちらでも対立構造が出来ており、それぞれが持つ不満による意図的な誤射が起きないかの警戒が必要なほどに仲が悪い。

 最低限の安全にすら気を付けなければならないほどに指揮系統が真面(まとも)に息をしていない部隊に参加など出来ないと、賞金首討伐への参加指令に対して、シオリがレイナの意向を無視して断りを入れた。これもレイナの為だと説得もして、一応の納得を得たが、それでも不満は溜まる。

 レイナは弱い自分へと。ドランカムの若手からはレイナ達へと向かって。

 

(まったくもって面倒臭い組織に入ったものです。……お嬢様がハンターをする最低条件の一つがドランカムに所属すること。選択肢が無かったとはいえ、本当に面倒臭いですね)

 

 シオリは現状を振り返り、大きな溜め息を何度も吐きつつ再度情報端末に表示されている内容に目を通す。

 レイナ達が一応、形だけ属している為、管轄が事務派閥側な所為でレイナの担当者はミズハだ。彼女から送られてきたミハゾノ街遺跡の異変への対処及び収束作戦の部隊への参加。要約すればこれだけだが、文章の節々に断った際に発生するであろう不遇措置が散りばめられており、少々、どころか、かなり腹の立つ内容だった。

 収束作戦ということは、現在ミハゾノ街遺跡で起きている異変の発端であろうセランタルビルへ関わる可能性が非常に高い。シオリにとって、セランタルビルはあのアキラですら近付くのを嫌がった危険地帯だ。そのような場所にレイナを向かわせるなど論外だ。

 それに加えて、古参派の多くが現在依頼等で遠征中だ。ミハゾノ遺跡に派遣可能なハンターの数から今回の陣頭指揮を執るのは若手派であり、当然カツヤが指揮する部隊に参加させられるだろうということは明白だった。

 自分の情報網を駆使して収集したミハゾノ街遺跡の情報とドランカム内の状況を含めた結果に対して不満が口から漏れそうになるのをシオリは(こた)えていた。断ることは可能だが、状況が続けばその圧力は徐々に強くなっていく。ここで断ったとしても決断を先送りにするだけで何の問題解決にも繋がらない。

 そのことに嫌気がさして再度大きく溜め息を吐いたシオリの耳に、部屋の扉が叩かれる音が(ひび)いた。

 

(あね)さん。起きてるっすか?」

 

 カナエが自室にやって来たのだった。何の用だと思いながら扉を開けるとカナエが部屋に入る。

 

「それで、何の用?」

「そんな不機嫌にならなくても良いじゃないっすか。ドランカムから送られてきた指令、そこまで悪質な内容って訳でもないっすよね?」

「……今はね。それでも断り続ければ最終的に徒党からの除名処分を受ける可能性も高いの」

「あー、賞金首討伐の時にも結構無理矢理断ったっすからね。事務員どころか若手派のハンター内でもカツヤ少年を見捨てただとか、古参派にすり寄る裏切り者だとか散々な言われようっすもんね」

 

 以前、レイナは事務派閥に所属する若手の中では上位の実力を持っていたが故に多少の我が儘が通り、やや強引にカツヤのチームに加わった。しかしクズスハラ街遺跡外周部の地下街で起きた一件を境に、今度はチームを抜けると言い出した。

 レイナとシオリは地下街で起きたことを知っているが、その情報はアキラが戦歴を都市に売ったことで秘匿されることになり、外部に漏らさないようにとお達しも出る事になった為、組織の一端である子供のハンターが知れる訳も無い。

 大した実力も無いくせに我が儘を言ってカツヤを困らせた挙句、そのほとぼりも冷めない内に、下位区画でアキラとカツヤが殺し合う寸前まで揉めてしまい、その(さい)にも中立の立場を取ると宣言してその場から先に離脱した。

 その揉め事自体は結果的に穏便に済んだのだが、レイナ達がある意味ではカツヤを見捨てたことに違いはなく、その後のレイナ達の事務派閥内での立場は非常に悪いものとなってしまった。

 諸事情でカツヤのチームから抜けようとしていた時に、カツヤが必死になって引き留めを行なった厚意を無碍(むげ)にした上に、そのカツヤを見捨てたということもあり、ドランカムの若手達のA班と呼ばれる者達はレイナ達に怒りを覚え、嫌悪していた。

 その若手達の感情は、カツヤ本人からレイナ達の行動は状況的に仕方なかった、と言われても止まらなかった。揉め事自体は穏便に(かた)が付いたことも、実際には大したことでも無かったのにカツヤを見捨てたと解釈されて、悪感情に更に拍車を掛けるための(あら)(さが)しだけが行なわれていた。

 そしてカツヤ達の上司であるミズハも、自身が積極的に推し進めるカツヤ派の若手達がその態度では、流石にレイナ達をカツヤ派に留めることは出来なかった。

 かと言って古参派の方に比重を置く若手達、B班と呼ばれる者達は、出身がスラム街などの経済的に非常に困窮していた物ばかりだということもあって、メイドまで連れているレイナに親近感など欠片も持てず、レイナを拒絶した。若手を嫌う古参達も、その若手であるレイナに好意的な態度は取らなかった。

 そのような経緯もありドランカムの全ての派閥から距離を取られていたレイナ達は、ドランカム内の派閥争いが激しくなっている状況もあって、単独での行動を強いられている。

 これは有益な依頼の斡旋などでドランカムから援護を全く期待出来ないことを意味している。ドランカム内で成り上がろうとするハンターにとって致命的な痛手だ。

 日和見主義のヘタレ共、派閥争いを激化させるだけの無能共、その状況に踊らされているとも知らず自身の悪感情の発露を態々こちらに向けてくる阿呆共。その者達に対する不満はあれど、シオリからしたら事務派閥は勿論、ドランカム全体から距離を取れる良い機会でもあった。

 だがそれでも、レイナ本人はいつかカツヤの元に戻りたいと、横に立って一緒に戦いたいと願っており、あまり良い傾向とは言えない。

 

「まあ、非難の声が大きくなれば問題でしょうが今は解決方法もありませんし放置しかないでしょう。……それで、好い加減用件を話したらどうですか?」

「おっと、そうだったっす」

 

 おどける様な仕草で笑うカナエは自分の情報端末を取り出してシオリに渡す。

 

「何よ、これは」

「とあるハンターについて調べられるところを調べてきたっす。まあ、あんまり時間が無くてそこまで多くも無いっすし、裏取りもそこそこっすから確実性は欠けるんすよねえ」

「あなたねえ……」

「大丈夫っすよ。ちょっと手隙の人達に頼んで集めて貰っただけっすから」

 

 仕事中に何をしているのかと睨み付けるシオリに対して極めて楽しそうに話すカナエ。仕事に対する姿勢も、物事に対する感性も対極にいるとさえ思わせるその2人の間で一瞬の静寂が走る。しかしシオリは既にドランカムとの調整等で疲れており、早くこの無駄な会話を終わらせたいと考えて情報端末の表示内容に目を通す。

 そこに表示されている情報はオルトについてのものだった。

 ハンターオフィスに登録された時期やハンターオフィスの買取所に持ち込んだ遺物の種類、受注した依頼の達成の成否、それ以外にも本人の噂のようなものまで収集されており、本当に少し整理した程度の内容だ。

 内容をそのまま受け取れば若手にしては随分と早い成長速度、成り上がり方だ。現在使用している装備は、クガマヤマ都市を拠点にしているハンターでも上位層が使用していてもおかしくないだけの性能を持っている。その上、賞金首騒動の時にはヨノズカ駅遺跡で異変が起きた際に、時を同じくして文字通り降って来た上空領域のモンスタ―、後にアーミーマメストラと名付けられた巨虫類(ジャイアントバグズ)の発生と討伐に関わった可能性が非常に高いと記載されている。

 上空領域のモンスターから逃げ切るだけでもクガマヤマ都市のハンター程度であれば困難を極める。にも拘らず、準備を整えれば討伐まで持っていけるのであればその実力は本物だ。

 明確な強者で、ミハゾノ街遺跡で1人で行動し、あの異変の最中であっても、自分の情報収集機器で大まかに確認した程度だが遺物収集の成果を上げていたのは間違いない。

 だが、その情報を渡されたところで現状自分が追い詰められている状況の改善には繋がらないと、シオリは大きく溜め息を吐いた。

 

「……確かに優秀なハンターね。それで結局何が言いたいのかしら?」

「いやー、何やら(あね)さんが困ってるみたいだったから助け船でも出してみようかなって思っただけっすよ!」

「助け船?」

「今、ドランカムから結構面倒な依頼を率先して受けろって指令が来てるっすよね? ミハゾノ街遺跡の異変を収束させる貢献をしろって感じの。断れるかと言えば断れるっすけど、それもいつまで続くか分からないっす。なら先んじて戦果でも稼いで黙らせようって話っす」

 

 要は、多くのハンターが市街区画や工場区画で取り残されており、セランタルビルにまで回せる人員がいないのが現状なのだ。であればミハゾノ街遺跡の状況収束の為にという口実で救援依頼を多く受けて、回せる人員をハンターに限らず増やせばいいのだとカナエは言っている。

 市街区画と工場区画の救援依頼が無くなれば最後に残るのは異変発生の発端であろうセランタルビル内の制圧などになる。ミハゾノ街遺跡に来ているハンターであれば最終的にそちらの依頼を受けて、ドランカムから派遣する絶対数を減らせる算段だった。

 救出したハンターも救援依頼で支払う羽目になった金を稼ぐために、目に見えて(うま)そうな依頼があれば飛び付く可能性は低くない。

 しかし、如何に戦果を上げられそうな依頼であっても報酬を出す方にも限界はある。総数が多ければ多いほど1人に払える上限は下がっていき、どこかで必ず割に合わないと言わせてしまい、不満が募るような額になる。なら間接的にそうしてしまえば良い。

 

「まあ、分からなくもないけれど私達だけで行動するのは危険よ。第一貴女(あなた)は戦わないじゃない。今後どのように変わるか分からない状況下、お嬢様だけで切り抜けられるとは流石に思えないわ」

 

 自らの(あるじ)であるレイナのことを悪く言うつもりは無いが、それでも個人戦力としては、市街区画の機械系モンスターと一対一で戦えば無傷のまま勝利を収められる程度には技量はある。しかし、警備範囲を無視する個体が現れた以上、普段は工場区画内に留まっている筈のモンスターが市街区画まで出てきているかもしれない。

 その上、救援依頼中は保護対象を安全な場所まで輸送する必要があり、遺跡内を走りながらの戦闘が必ず発生する。それを切り抜けられるほどの実力を持っているとは流石にシオリでも言えなかった。

 カナエはそれらの理由を察しつつ、笑って答えた。

 

「だったら雇えばいいっす。それらを出来(でき)そうな、外部のハンターを」

「……」

「若手派にも古参派にも属してない日和見(ひよりみ)者の事務員は一定数いるっす。そいつらから救援依頼を受けて、足りない戦力は外部から個人的に雇えばいいっすよ」

「その当てがこのハンターと。大丈夫なの?」

「うーん、そこら辺は報酬次第って所っすね。(あね)さんの場合、依頼内容にお嬢の護衛も付け加えると思うっすけど、今のミハゾノ街遺跡に戦力として働いてもらう分と合わせて十分割に合うって思わせるだけの報酬を用意すれば良いと思うっすよ?」

「その根拠は?」

「十分な裏取りが出来てないんで、あくまで噂の域を出ないっすけど、少し前にこの最後の賞金首討伐の時に1人で賞金を総取りしたって話っす。追加戦力として雇われてそれだけの横暴を許容させるだけの働きをしたってことっすね。まあ、多分経費とかは抜いた額をその賞金首討伐者から受け取ってるんすよ。……後はまあ、勘っすね」

「そう……」

 

 戦力としては申し分なく、人間性については恐らくだが問題無い。性格破綻者であれば幾ら稼ぎのほとんどを恒常的に装備購入に注ぎ込む良客だとしても、優遇措置など出来はしない。ハンターとしての信用すら出来なくなるからだ。しかしオルトはFARBEというハンター向けの装備製造企業から装備購入時に結構な割引を可能とさせるだけの契約を結んでおり、その縛り自体も相当緩い。

 それだけの割引率であれば、普通は他社製品の購入、使用禁止などを盛り込むだろう部分を、可能な限り自社製品の購入、使用するように、という荒野(こうや)に出れば関係無いだろう文言程度で済んでいる。

 それだけでも問題無いと思わせるほどに律儀な性格の持ち主か、若しくは契約事項には忠実な者であるかの二つだろう。

 そして企業からの優遇に応えるかの様にFARBEからの依頼を受けたり、収集した遺物を卸したりもしている。

 本人は先の過合成スネーク討伐戦の際にドランカムのチームに補助要員として加わり、非常事態が発生した際にも大した負傷も負わずに事態を切り抜けていたので、周囲からモンスターが迫ってきた際の対処も問題無い。

 ミハゾノ街遺跡のハンターオフィスの出張所の食堂で、テーブルを埋め尽くすほど注文していた料理の数々はキャロルの奢りであり、自分達がそのキャロルとアキラからビルの側面を駆け降りながら戦闘する羽目になった経緯を聞いた時、当のオルトは一切(いっさい)口を開かずに2000万オーラムの情報が僅かでも漏れないようにしていた。話題逸らしも行なってシオリ達の関心が他所へ向くように仕向けた点も考慮すれば、オルトは支払われる金銭に対する誠意を明確に、乃至沈黙で以て返す様な義理堅い人物であると推測可能だ。

 本人の気質、追加戦力としての評価、情報の秘匿に対する個人的方針、シオリは可能性のある問題点を挙げてそれをカナエと話しながら解決していく。

 最終的にオルトを雇うという方向で話は決まった。

 

「一応こちらから先方に連絡を入れるつもりですが、既に誰かに雇われている場合はどうするつもり?」

「それは無いと思うっすよ? アキラ少年とは気安い関係だったようっすけど、どっちとも遺跡に到着した時も入る時も1人だったっす。そういった依頼を一緒に受ける関係性の相手もどうやらそこまで居ないみたいっすし」

 

 それっぽい相手は居たが、そっちの経歴はちょっと微妙だった。遺跡の現状を知らずに誘って予期せぬ事態に陥いり、変に関係を(こじ)らせたくないのなら足踏みするだろうとカナエは思っている。万が一既に雇われているのであれば、合同でという線も無くはない。

 少なくとも2人だけで救援依頼に入るのは少々不安が残るからだ。

 

「……取り敢えず明日中には返答を貰い、場合によってはそのまま依頼に出られるように準備をしておいて」

「了解っす!」

 

 シオリは溜め息を吐いてハンターオフィスのオルトの個人ページを開き、連絡を入れ始める。カナエは足取りも軽くシオリの部屋から出ていく。その顔に浮かべる笑みの理由は本人にしか分からない。

 

 

 カナエは今日起きた出来事について思い返していた。

 

(つまらないお嬢の護衛中にアキラ少年の頭のネジが抜けてるかのような行動。それに加えて、追加で降っていった大型の機械系モンスター。他の建物に隠れてこっちからは見えなかったっすけど、あれを倒したのは恐らくオルト少年っすね)

 

 レイナ達はアキラとキャロルが多脚戦車と交戦中、市街区画の離れた位置でそれを視認していた。カナエはその戦闘を面白がり、同じような事態発生に備えるためとシオリを説得して現場へと向かった。しかし、追加でモンスターが登場したことで足を止めざるを得なかった。

 到着が遅れた所為で先にオルトがアキラ達と合流し、オルトのバイクに同乗してハンターオフィスの出張所へと戻っていくのを、引き止めようともしたが、汎用通信で話しをするのなら出張所でとメッセージが届き、レイナ達はこの場での対話を諦め、現場の確認だけを済ませた。

 アキラ達が撃破した多脚戦車(たきゃくせんしゃ)は強力な弾丸を大量に撃ち込まれ、装甲を貫かれ、機能を停止して、高高度からの落下によって完全に沈黙したのだが、大型の機械系モンスターの場合は(とど)めとなったのは斬撃による両断だ。

 地面に落ちていたそれは砲弾の迎撃や、落下の衝撃で機体全体が大きく歪んでいたが、明確に、中央から制御装置も含めて切断されていた。

 それが近くにいた別のハンターの仕業という可能性もあるが、それならばなぜ協力して遺跡からの脱出を図らないのかという疑問が残る。その点、その相手がオルトであれば説明が付く。

 一見、オルトの装備に斬撃系の近接装備は無かったが、防護コートの袖口から確認出来た真っ白な腕輪は強化服のオプション品か何かの消費型の近接装備の一種だろうと当たりを付けていた。その証拠に片方の腕にしか腕輪が確認出来なかった。

 

(現場付近のビルの壁面に真新しい切断痕があったのも良い証拠っすね。アキラ少年たちの様子から、遅れて落ちて来た方にはノータッチっぽかったっすし、砲弾を迎撃していた狙撃もオルト少年と考えると射撃精度とバイクの遠隔操作技術も相当っすね)

 

 カナエはそれを思い返しながら、明日、ミハゾノ街遺跡で多数の機械系モンスターに襲撃されても問題無いようにと、レイナの使う消耗品も整えてから就寝準備に入った。

 そして自室に残していた紙に目を落とす。その内容に満足したようにニヤリと口角を上げる。

 そこにはオルトがクズスハラ街遺跡の地下街攻略時、遺物強奪犯達に対して単独で殲滅に向かい、そして大きな負傷を負いながらも成し遂げたという情報が記されていた。

 当時、濃度の高い色無しの霧が立ち込めていたからと言って、都市へ報告に急行するでもなく、そのまま殲滅という行動に走る無鉄砲さと完遂する実力。どちらもカナエの期待する面白いことを引き起こしてくれる可能性を秘めている。

 カナエはこの情報を敢えてシオリに渡した情報端末には残さなかった。納得させられるだけの説得材料足り()ればいいのだ。

 シオリは戦力が増えてレイナの安全性が増す。カナエは突発的な事態に遭遇し、仕方なく、回避出来ない為に、全力で戦闘する状況に陥るかもしれない。そしてオルトはその難易度に見合った報酬を得られる可能性が十分ある。誰もがきっと得をするだろうという算段だった。

 

「はてさて、何が起こることやらっすね」

 

 レイナを護る役目を負っているにも拘らず、護衛対象が危機的状況になることを望むという、護衛としては本末転倒なことを望んでいる。明日から始まるミハゾノ街遺跡の事態収束までの期間、きっと何かが起きるはず、何が起こるのか、カナエはそれに期待していた。

 

 

 オルトはレイナ達に向かい合うように席について今回依頼を送ってきた大まかな理由と依頼の詳細な内容について聞いていた。

 

「要するにミハゾノ街遺跡内で行なわれている救援依頼に同行しろ、そこの……、お嬢様? も可能な限り護衛対象として護れってことか?」

「レイナで良いわ……」

「そうか。……別に構わないんだけどさ、お前らはドランカムに所属しているんだろ? それドランカム内の信用のおける人間に頼むとかせずに、昨日今日会ったばかりの奴に頼むか? 普通」

 

 オルトの訝しむ視線にレイナは居心地の悪そうな顔を浮かべるが、横に座っているカナエは大して気にも留めずに返す。

 

「そこは大丈夫っすよ」

「……なんで言い切れるんだ?」

「ちょっと経歴を調べさせてもらったっすから」

「ちょっとカナ──ッ!?」

「ああ、そういうことか」

「……!?」

 

 怪しい所が無いか調べたと、信用なんてしていないともとれるような発言に、シオリは少し焦りを見せたが、反面オルトは軽く納得を返していた。

 オルトも自分が無条件で全幅の信頼を得られると思うほど己惚れていない。

 ドランカムのようなハンター徒党に所属もしていなければ、都市の人間から推薦されてここにいる訳でもない為、後ろ盾が無い。経歴の最初はハンターランク1から始まっている為、スラム街の子供か後ろ暗い事情持ちということが窺える。

 一見、見るからに強力な装備を身に着けているからといって、それは単純に純粋な力を持っているというだけであり、それが向く方向までは分からない。危険人物に変われば逆に対処可能かどうかの見極めが必要になる(ぶん)、安心感など覚えられる訳がない。

 疑えばキリがないような相手を尋ねるのであれば事前に調査ぐらいはするだろうと、オルトは判断していた。

 

「分かった。……まあ、俺は分かったんだけど、そっちは納得しているのか? 正直言って戦力増強より、知らない人物がすぐ近くにいる不安の方が勝ちそうな気がするんだけど」

 

 オルトはそう言って自分と視線を合わせていないレイナの方を顎で示した。

 

「そこはオルト様の、ハンターとして依頼への誠実さに対して信頼していると受け取って頂ければ。こちらもそれに見合うだけの報酬を用意させて頂きます」

 

 シオリは淡々と、しかし真剣な表情でオルトに伝える。これだけは(たが)えないと自身に言い聞かせるかのように。

 

「んー……。分かった。受けるよ」

 

 シオリから受けた依頼の報酬額の欄は空欄となっている。最初はタダで雇うつもりかとも思っていたが、そもそも救援依頼がいつまで残るのかも不明、ミハゾノ街遺跡の騒動がいつ収まるのかも分からない状況で、決まった額でいつまでも働かされるのは御免だ。既に支払ったのだから決まった期間働き続けろなど言われたとしても知ったことではない。

 その部分はこの場で歩合給という形で、依頼成功後に払ってもらうことになった。

 

『良かったのですか? メイド2人はともかくとして、レイナというハンターの実力はオルトに大きく劣ります。連れていくだけ無駄か、最悪足手纏いにしかならないように思えますが』

『まあ良いんじゃないか? シオリ達からの依頼に救援依頼で二重でハンターランクを稼げるし、金も出るんだ。多少の手間ぐらいは妥協するさ。……それに俺は基本的に戦力として雇われたんだ。救援対象への対処は丸投げしても何ら怒られる理由にはならないしな』

 

 見た目だけでも装備の差が歴然だ。当然の判断だと思いながらも、メリット自体は少なからず存在するとも思っていた。

 東部に数多くいるハンター全員が常に論理的思考をし、状況に合わせた合理的判断を下せる訳では無い。荒野(こうや)に出れば極限状態に陥りパニックになったり、今までの経験を全否定されるような体験をするかもしれない。しかもミハゾノ街遺跡では現在進行形でこれが起こっている。遺跡に取り残されたハンター達が今も尚冷静を保っているかは定かではない以上、一瞬の防波堤として利用できるものは使うべきだろうと考えていた。

 オルトは別に善人ではない。かと言って悪人()ろうともしない。悪辣ではないが、博愛主義でもない。相手から自分に関わりに来るのであれば、自分の為に利用してやろうというだけだ。

 ファナはそれだけを理解してオルトという人間をまた一つ把握した。自己が恐ろしいほどに強固なオルトにとって他者との交流は、そこに柔軟性を加えることになる。少なくとも今まではそうだった。

 今回の事象もきっと自分にとっていいデータ収集の機会となるだろうと判断して、ファナはオルトを強く引き止めることなどしなかった。

 誰にも見えない場所で、旧世界の美女はただ怪しく微笑んでいた。

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