リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第三十五話 救援依頼と対象者

 

 その様相を昨日とは大幅に変えたミハゾノ街遺跡の市街区画の中を、オルトがレイナ達と一緒に車で進んでいく。

 道には機械系モンスターの残骸が散らばっている。ミハゾノ街遺跡に生物系モンスターは少ない。散見される血痕は全てハンター達のものだろう。ハンターの死体も転がっている。機械系モンスターか、ハンターが運転する車両か、そのどちらかに、あるいは両方に踏み潰されており、死因はもう分からない。

 オルト達が先に進むにつれて遺跡に戦闘の痕跡が目立ち始める。

 

『ここら一帯のモンスターはもうあらかた倒され終わってるんだな』

『遺跡内を巡回していたはずの機械系モンスターが急に荒野(こうや)側へも進みだした影響ですね。ハンターオフィスの出張所の安全性を保つためにその周辺のモンスターを掃討したのでしょう』

『それでもまだまだ遺跡内には機械系モンスターが居るのか。どこに保管されているのやら』

『近くに工場区画がありますからね。製造、配送、配備の工程がスムーズに運びます。昨日のようにモンスターを乗せた輸送機械が市街区画の上空を今も飛んでいるかもしれませんね?』

『おい! 冗談でも怖いことを言わないでくれ!』

『問題ありません。次は接近する必要などなく倒せますよ』

『違う! そうじゃない!』

 

 オルト達も他のハンターチームと同様に一応車列を組んではいるが、どちらの車両もオルトの物で、前方に荒野(こうや)仕様の大型バイク、その後ろに荒野(こうや)仕様の大型車両が追走する形で遺跡内を走行していた。

 理由は幾つかある。一つはレイナ達が私用(しよう)の車両を用意するにしても即日納品をしてくれる車両専門の販売店を探すのには時間が掛かること。

 二つ目は急造で用意しても、現在オルトが使用している車両よりも性能が落ちる可能性が高いこと。その理由もあり、出張所近くに展開されていた車両貸出し業者から借りる案は自然と消えた。

 三つ目、これが大半だが、今まで荒野(こうや)に出る際にレイナ達が使用していた車両はドランカムからの貸出し品だった。ドランカムに所属しているハンターは大抵借りており、これまで通りであればレイナ達でも普通に借りることが出来た。しかし、内部の派閥争いが賞金首騒動で激化した所為で、それをどの派閥に申請して借りたのか程度でどちらかに睨まれるほどの事態になっており、結局シオリはドランカムに頼るよりも、金銭面で時間も信用もどうにかなりそうなオルトに借りを作る形で同乗する結果になった。

 それらを決めてから出発するまでの間、オルトはレイナから訝しむような視線を向けられるだけで、碌に話し掛けられることはない。正直その視線の理由が気にはなるが、護衛が護衛対象と仲良くなければならない理由は特に無い為、それが有害にならない限り放置していようと思っていた。

 ただ、オルトはこの遺跡で活動するにあたって一つだけ放置出来ないであろう理由を、明確な危険地帯、敵の反応が出てくる前に聞くことにする。

 

「なあ、俺の車を使うって案も報酬の分け方がそっち側と俺で半分ずつってのも分かった。そっちは何故か知らないけど遠距離武器を一つも持ってないような奴が居るから俺の負担が大きくなるのは目に見えてるしな」

「あはは、私、銃は苦手なんすよ」

「はあ……? 苦手って……」

「オルト様。すみません」

「……いや、本題に戻るけど、なんで護衛対象の装備がその護衛の装備よりも防御性能が低いんだ?」

「……ッ!?」

 

 オルトの指摘にレイナの身体(からだ)が震えた。

 

「オルト様。それは……」

「装備の質が低いって程度なら別に責める気は無い。どっかの重役とか、護衛対象が荒野(こうや)に出るとしたら大抵そいつの護衛が一緒に居るからな。戦闘はそっちに任せれば良いだけだから高い戦闘能力を保持している必要性は無い訳だし。でも防御面を(ないがし)ろにしたままで荒野(こうや)に出るのは無いだろう。最低限そのメイド服ぐらいの防御性能は持たないのか? って話だ」

 

 オルトは荷台を閉じて、その屋根の上に居るレイナ達と最終的な打ち合わせをしている時に、どうしてもその点だけが気に掛かっていた。昨日までならどうせ他人事だ、そのまま死んだら死んだまでだと切り捨てていたが現在はそのレイナはオルトの護衛対象であり同時に仕事仲間なのだ。

 

「あー、それともあれか? ドランカムからの貸出し装備しか使用出来ないような制限が掛かっているとかか? でも過合成スネーク討伐作戦の時のハンター達はそれより性能の高い装備を使っていたような……」

「あなたッ……!? カツヤと一緒に戦ったの!?」

 

 ドランカムの事務派閥たち、カツヤが中心として集まっているカツヤ派が主導として討伐した賞金首の名前にレイナが急に反応して、少しばかり荒っぽい応答をするが、オルトの質問に対する返答ではなかった。

 

「いや、まずはこっちの質問に先に答えて──」

 

 オルトが自分の疑問の解消を優先しようと、返答を催促しようとするが、その時間は無くなったのだと言わんばかりに、ファナがオルトの視界を拡張して索敵範囲内に捉えた反応を表示し始めた。ファナがオルトに敵の接近を告げる。

 

『オルト。雑談はここで一旦切り上げてください。前方からモンスターが多数接近中。遠距離攻撃可能な車輪付き。止まれば(まと)ですよ』

『了解』

 

 オルトは意識を切り替えて接敵に備えるために行動し始める。その変化に気付いたレイナ達が同じように警戒度を上げて敵襲に備える。しかし周囲を見渡したり自身の情報収集機器の索敵結果を見た上で困惑を隠しながら、シオリがオルトに敵がいるのか尋ねる。

 

「オルト様。敵ですか?」

 

 だがシオリの理性は否定していた。チームを組むにあたり、全員の情報収集機器のデータ連携が行なわれている為、オルトの情報収集機器が取得した索敵データも送られて来ている。しかしその索敵範囲内にはそれらしい反応は見当たらなかった。

 しかしオルトは車の屋根を歩きながら接敵前に目標地点に着くまでに行なう救援行動の為の大まかな指示を飛ばす。

 

「前から結構な大群がこっちに来てる。突破したら擲弾(てきだん)を後ろに撃つから誤爆させないように気を付けてくれ。後、敵の攻撃を(かわ)す為だったり残骸を()けたりするときに運転が多少荒くなるかもしれないけど、そこは自分達で何とかしてくれ。どうにもならないようなら車内に入っていてくれ」

「は、はあ!?」

 

 未だ掴めない敵性存在に困惑している最中、言外に足手纏いと言われたのも同様の言葉を掛けられてレイナが激昂しかけるが、その怒りの矛先であるはずのオルトは言い終わると同時に車から跳んで先を走っていたバイクに飛び乗り、両手にK2R複合銃を持つ。そして全員の情報収集機器の索敵結果に敵性反応が現れる。

 

 

 オルトは既にバイクの自動操縦へ遠隔操作による適宜の介入を行ない始め、バイクのアーム式銃座に接続しているK2R複合銃の照準器から送られてくる取得データも戦闘に活用してみせようと意気を上げる。

 

『オルト。先日とは違い、今回は物資の量も質も上げてきましたが油断だけはしてはいけませんよ?』

『分かってるよ。油断なんてしない。でも敵の数も前より少ないからな。先ずは俺だけでやってみたいんだ。ダメそうだったらサポートの質をグンと上げちゃってくれ。反省して次に()かして見せるから』

『ふふっ。では頑張ってください』

 

 ファナの激励が終わると同時に、オルトはK2R複合銃の引き金を引く。重なった3発分の発砲音が遺跡の中に響き、オルト達の前方の建物の影から飛び出して来た機械系モンスターが通路にその身を晒した瞬間に撃破された。胴体部分に強装徹甲弾(きょうそうてっこうだん)の直撃を喰らった機体が着弾の衝撃で装甲を(ひしゃ)げさせながら貫かれて、機体全体を操作していた制御装置を破壊され、機体自体の移動速度の慣性が乗ったまま通路を転がっていく。

 そのような機体が一度に三機増えた。最初に機能停止に陥った個体に残りの二機がぶつかり、通路までの障害となった。障害を押しても反対側からも同様に押し込まれ、動かない障害物の所為で路地から出てくるまでに難儀する機体群に向かって、オルトは情報収集機器で壁越しに把握している敵影(てきえい)に向かって照準を合わせて銃撃を開始し始める。

 周辺一帯が遺跡のシステムによる補修や整備を受けていないのか、建造物の耐久性能は低く、オルトの銃で撃ち出す強装徹甲弾であれば標的である機械系モンスターの装甲を壁ごと撃ち貫くことが可能だ。これで路地側に潜んでいた機械系モンスターがオルト達が走行に利用する通路にまで出てくるまでに更に時間が掛かるようになった。

 オルトは側面からの脅威度を著しく低下させることによって、正面から接近してくる機体群に集中的に銃撃を開始する。

 地上を走行する機体もいれば、ミハゾノ街遺跡に無数に建ち並ぶ廃ビルの側面を走り接近してくる機体も多くいる。

 路地から出てこようとしていた機体群は、オルトに障害物を量産された挙句、通過可能だった壁面をK2R複合銃の連射速度を活かした弾幕によって壊され、全体の進行を限りなく遅延され続けており、機械系モンスターの胴体部に持つ機銃での攻撃は遮蔽物の所為で通路側には向けられない。砲塔も装備しているが、誤爆の可能性の方が高く、高い演算能力によって判断を下せる制御装置が逆に足枷(あしかせ)となりその動きを鈍くしていた。

 今のオルトはファナからのサポートを最低限に抑えて貰った状態で、バイクの威力特化型K2R複合銃を遠隔で操作しながら、両手に握るK2R複合銃よりも広い有効射程を活かして射程内の障害物として利用可能な機体を優先的に撃破していく。

 それは地上を走っていた機体を破壊し、後続の通行の障害と変わり、廃ビルの壁面を走行していた機体を貫き、制御装置を失って動作を停止させた個体がビル側面から地面へと落下してその下にいた個体に激突し、その衝撃で諸共に大破して遺跡に転がる鉄屑の一つに加わったりと、自分だけが更に優位に立てるように、常に相手へ不利的状況を()いる様な銃撃を繰り返していた。

 敵の増援はまだまだ終わらない。それでもオルトは3挺の銃口を迫りくる敵に狙いを合わせつつ引き金を引き続けて、あっさりと撃破数を増やしていく。

 まるでこの場に居る戦闘要員が自分だけの様に戦い続け、自身の有用性を、自分を雇った者に見せつけていく。それによって路上に散らばる鉄屑が増えてしまい、少々運転が荒くなるが、オルトの車は完全にファナによって操縦されているのでそれでも搭乗者に与える負担は限りなく低下していた。

 

『まだまだ来てるようだな』

『そのようですね。救援依頼の中には汎用討伐も含まれていますから倒せば十分弾薬費が帰ってきますよ。十分に戦果と変えさせて貰うとしましょう!』

『了解! しっかし同形の個体がこんなに数いるなんてな。昨日はセランタルビルに直行したから合わなかっただけで、普段からこんなに市街区画に配備されてるものなのかな?』

『周辺に居る(こう)A24T277BW2890……、長いですね。纏めて甲A24式と呼称しましょうか。ここら一帯以外からも微かにですが戦闘音が聞こえます。ここに甲A24式をこれだけ配備可能なほどに在庫を放出しているだけである可能性も無い訳ではありません』

『在庫? というか型番みたいな名前だな。俺の銃も機械系モンスターに変異したらそんな名前になるのかな?』

『機械ですからね。製造して注文が入れば即配送が可能なように普段は倉庫にでもしまっておくんですよ』

『そういうもんか』

『ええ。そうですよ。見込み生産で仕舞っておける程度には低コストの製品なのでしょうね。このような事態に対応するためにあらかじめ製造されていた物を現在放出中なのでしょう』

『これで低コストか……。注文が入ってから製造し始めてくれ……』

 

 少なくとも以前の、高威力の銃弾を連射可能な銃を持っていなかった時の自分であれば苦戦した挙句、撤退も視野に入る相手だ。安く作られたからと言って、それは旧世界基準での話で合って、決して弱い訳では無いと自分に言い聞かせて更に攻撃を激しく()め立てる。

 昨日とは大きく違い拡張弾倉の装弾数を増やし、更にはバイクに積載出来ない分は後方を追走する車の中に積まれてあるので弾切れの心配は無いと言って過言ではない。

 

 

 以前オルトが交戦したことのあるキャノンインセクトなどの名称は、ハンター達が機械系モンスターを区別する為にそう呼んでいるだけであり、通称だ。

 オルトが倒した甲A24式も、あの機械系モンスター、という呼び方では不便に感じた者がいずれ適当な名前を付ける。それまでは、あの機械系モンスター扱いだ。現時点では名前は付いていない。

 甲A24式という略称は、実際に型番だった。

 

 

 オルトの後方、荒野(こうや)仕様の大型車両の屋根にいるレイナ達はオルトの戦闘を眺めていた。レイナとシオリは以前からミハゾノ街遺跡で活動しているだけあって、機械系モンスター相手にも十分有効的に戦闘を運べるだけの銃を持ち込んでいる。

 自分の銃の有効射程に入ればレイナは自分でも問題無く対処してみせると、高い装備を身に纏っているだけの人物に馬鹿にされたままでは終われないと意気を高めていたが、それはあっさりと崩れ去った。

 それを破壊するには容易過ぎるほどの戦闘内容に、レイナ達全員が驚いていたが、その表情には差異があった。

 レイナは驚愕を、カナエは自分の予想を裏付ける様に対する笑みを、そしてシオリは複雑な心境を写したような、重苦しい表情を浮かべていた。

 

「なに……、あれ……」

 

 レイナが敵を撃破するにも、()ず敵が残っていないのだ。オルトが前から接近してくる機械系モンスターをそれぞれの銃の有効射程に入った瞬間に弱点となる部位を狙い、高精度で撃ち貫き、即座に機能停止に追い込んでしまうからだ。更に車を置いていくかのようにバイクで加速して、最初に対処した甲A24式が通行止めに遭っている路地との交差点にずっと早く着いたオルトはそこで一度停止して、背中に収納していた擲弾(てきだん)用のK2R複合銃とバイクに接続していた同様の擲弾(てきだん)銃を両側の路地に狙いを定めて撃ち始めた。

 流石に曲射で狙っている為にその精度は銃撃時ほど精密ではないが、それを補うような爆発の衝撃によって、路地に集まっていた甲A24式は全てが鉄屑となった。

 その間にも、片手(ぶん)減った銃撃の弾幕を補うように更に連射速度を増した二つの銃は精度をそのままに前方から迫る甲A24式を撃破し続けていた。

 僅かに路地から漏れて来た爆風の余波が、通路で合流し、そこから分散しながらレイナ達の頬を(くすぐ)るが、それだけだ。甲A24式から放たれる銃弾の一つも、砲弾の一つでさえもレイナ達には届かない。オルトは自分よりも後方へ放たれた砲弾があればそれも撃ち落としているからだ。

 その光景を見てカナエは感心していた。

 

「いやー、凄いっすね! これは私達の出番は無さそうっすかね?」

「元から貴女(あなた)の出番なんて最後までないでしょ」

「それもそうっすね!」

 

 シオリの苦言を受けても、カナエはケラケラと笑いながらオルトの繰り広げる戦闘に対する感想を漏らしていた。その声は悦びも混じっている。少なくとも自分の読み通りオルトは危険地帯であっても、それに対処可能な何かしらを持っていれば即座に飛び込んで行ける人間だ。最低限、仕事として割り振ったレイナの護衛を、敵を予め排除しておくことで、レイナの周囲を警護、自分を盾とした戦闘を起こさないように、敵の群れに飛び込める精神性を持った人間だと。

 それと同時に不可解な部分もあると、カナエの冷静な部分が考えていた。

 

(最初の接敵時、こっちにオルト少年の情報収集機器の取得データが来ていたにも拘らず敵の反応は無かったっす。……わざと個別で送っていない? …………それは無いっすね。今もオルト少年から送られてくる取得データは更新されているっす。その誤差も見当たらない。……敢えて遅らせたとかっすかね? いや、メリットが無いっすね。なら後は……、勘っすかね。随分と鋭いっすね)

 

 ハンターにとって索敵能力は重要な技能だ。敵の存在に逸早(いちはや)く気付き、敵の位置を的確に把握出来れば、交戦の回避も容易(たやす)くなり、交戦時にも非常に有利になる。

 カナエも自分の勘については信頼を置いている。だからこそ、それを超える様な索敵能力に対し感嘆していた。

 確かにオルトの装備は自分達の装備などより高性能だ。今現在交戦しているオルトのような戦闘を同じ装備を使用すれば誰でも出来るとは言わないが、可能にはなる。だが、それらを差し置いて余りあるほどにオルトの索敵能力は異常としか言えない。

 

(車両の遠隔操縦技術に加えて銃撃精度の高さ、噂に聞く近接戦闘も交えた戦闘技術。うーん、戦ってみたいっすね。良い機会でも来ないっすかね)

 

 カナエは自分の中から湧き出る好奇心が徐々に増大していく事を感じ取りながら、自身に与えられた役割を最低限(こな)し続けていた。

 

 

 シオリは安堵と共に不安にも駆られていた。オルトの戦闘能力は驚異的と呼んでも良い。その根幹にあるのは使用している装備の値段に見合うだけの性能だ。だがそれだけであれば、掃射して濃密な弾幕を張ることで強力な銃弾を幾つか命中させて撃破することになる。しかしオルトの場合は全弾(ぜんだん)を最低でも命中させて確実に機能不全へと持っていく事で、レイナ達に一切の危害をもたらさないように立ち回っている。

 装備の質、判断力、戦闘技術、それらに裏付けされた結果を残し続けていた。

 確かに安全ではある。このまま救援依頼を続ければ、カナエの言っていたように大量の戦果を稼いでドランカムからの五月蠅い指令を容易(ようい)に突っぱねることが出来る。

 シオリが内心で少し険しい表情を浮かべる。

 

(オルト様の実力を過小評価していたみたいですね。ドランカム内で聞いた賞金首討伐の話では大量のロケット弾を過剰に用意した上で、そのほとんどを使用して討伐を為していました。オルト様が参加したとされるアーミーマメストラも同じだと思っていましたが、ここまでとは。……これでは安全性は担保されてもお嬢様に悪影響が出かねません)

 

 レイナは経緯や動機は別にしても、今の自分よりも強くなろうと、変わろうとしていた。クズスハラ街遺跡の地下施設での一件で自分の荒野(こうや)に対する認識が、荒野(こうや)で活動する者達の倫理観に対する認識が、防壁内の、言ってしまえば暴力の振るわれ方がある程度(さだ)まった程度の(ぬる)い環境から外れていなかったことを痛い目を見て知った。

 今後も防壁内で生活し、そのまま防壁の外のことなど知らずに生きていくのであればそれでも良かった。しかしハンターとして荒野(こうや)に出て銃などの対モンスター、対人用に製造された武器を持ち、それを扱う物としての認識とすれば甘いどころか分かっていないとさえ言える。

 防壁から一歩でも外に出れば世界が違う。例え下位区画であっても殺人が起きる可能性は高くは無いが、低くも無いぐらいには治安としては微妙な場所なのだ。

 防壁内に過ごす者の中には防壁よりも外は荒野(こうや)であり、そこに暮らす者達、防壁内に土地を持てない貧民は定期的に全て燃やすべきなどという者も少なからずいる理由の一つはそれだ。流石に下位区画まで消してしまうと都市経済が縮小してしまう為、都市の上層部はその言葉を少なくするための施策を取っている。

 だが、更に外のスラム街に関してはその限りでもない。徒党間の抗争などが頻発し、そこに住む者達で死体や荒野(こうや)から侵入してくる小型のモンスターなどの処理が追い付かなくなれば、都市の防衛隊もそれに協力するようになる。建物も含めた全てを焼却するという形で。

 それら横暴とも呼べる行為が蔓延(はびこ)っている荒野(こうや)において、レイナの認識はまだまだ甘いと言わざるを得ない。これはレイナにただの護衛対象として以外の感情を抱いているシオリだけでなく、カナエも内心抱いていることだ。

 少なくとも以前よりかは改善の兆しは見えた。たかが下位区画であっても安全のために強化服の着用を(みずか)ら言い出し、荒野(こうや)側の感覚に合わせようという努力は目に見えて行なわれている。

 それでも致命的と言わざるを得ない場所から脱却しただけであり、荒野(こうや)で活動する者達の感覚を理解しているとは全く言えなかった。

 流石にそれを、今まで知らなかったことを、ゼロから自分で知れというのは酷な事だ。その部分についてはシオリが協力することで、レイナ本人の持つ価値観に荒野(こうや)側の感覚を外付けしてでも理解させていけば良いと判断し、少々難易度は高いが戦果も討伐したモンスターの換金額も高いミハゾノ街遺跡での活動を勧めた。それと同時にドランカムから支給されている装備から、シオリが独自に用意した高性能な装備の使用も勧めたが、そちらはレイナに(かたく)なに断られてしまった。

 レイナ本人はただただカツヤの様に強くなりたいと望み、その強さを得ようと、シオリ達のような護衛に頼らない個人での強さを求め、1人で索敵を行ない、1人でモンスターと対峙し、そして()し近くで誰かが助けを求めていたのであれば、その人を助けながらでも無事に討伐、生還できる。そんな力を欲していた。

 そんな状態のレイナに見せるべきでは無いような戦闘をオルトは繰り返していた。バイクでの単独突撃に加えて高精度の銃撃、分間何千発という銃弾を撃ち出せるような銃を用いた乱射に近い銃撃で精確に機械系モンスターの弱点となる部分を破壊し、最低でも移動不能に、機銃や砲身と言った武装の破壊、警備機械としては明確な機能不全へ追い込んでいっていた。

 確かに戦力として雇ったが、これをレイナに見せるべきでは無いのではないか、そう言った思考がシオリの中にあった。

 

(このままでは、今までのお嬢様の価値観を修正するどころか破壊しかねません。焚きつけ過ぎたのか、それとも私達とオルト様の間ではそれだけこの遺跡に対する認識の齟齬があるのか……)

 

 オルトはシオリから見れば明確に荒野(こうや)側で生きている人種だ。ハンターと成る以前の情報までは入手出来ず不透明な部分も多くあるが、ハンターランク1から始めた多くの例に(もとづ)きスラム街の住人だったのだろうと推測可能だ。

 そうであればスラム街よりもずっと危険な場所である荒野(こうや)、しかも遺跡の中であれば何が起こっても不思議はないと警戒し、高性能で高い経費の掛かる装備を使用するのも頷ける話だ。

 単純に高い装備を使えば良いという訳でも無い。費用対効果が悪くなればそれだけ稼ぎが経費として消えていくのだ。安全性を高めた結果、遺跡に行って成果を稼いだ(うえ)で、逆に損をしただけということもある。長年ハンター活動を行なう者であれば、目的の遺跡の難易度に合わせて使用する装備を変更して経費を削減することも多々ある。

 

(賞金首に登録されるほどに強力なモンスターからの襲撃を受けたことも少し調べれば分かる。一度起こったことに対して二度目は無いと言い切れないだけの不安感(ゆえ)か。……今までの経験からそれだけの警戒をしておく必要がこの遺跡にはあるかもしれませんね。お嬢様の説得が無理な現状、この高い戦力を手放すという選択は出来ません。少なくとも今回の騒動中にその警戒が杞憂に終わることを願いますか)

 

 昨日、オルトは工場区画内から脱出する際に自分の装備であっても傷一つ付けられないほど頑丈で、強力な機械系モンスターがこの遺跡内に点々と配備されているということをファナから伝えられている為、それから最低でも逃げ切られる程度には高性能な装備を使用する必要が有るだけだ。

 後は、単純にオルトには使用出来る装備に選択肢が無いだけだが、今回は(かね)に関しても最低限赤字にならなければ良い。主にハンターランクの向上を図っているだけなので、持ち込んでいる弾薬はどれも高威力で機械系モンスターに対し高い効果が見込める物で揃えて来ているだけだ。装弾数もかなり多めの物を購入している為、経費としては全体から引いてもそこそこの値になることは間違いない。

 シオリ達とオルトの思惑はそれぞれ別方向に向いていることに気付いているのは誰もいない。その為指摘されずに流されていく。

 それぞれがオルトの戦闘に対して感想を漏らしている間にオルトは前方にいた甲A24式を全て機能不全とし、機銃や砲身、脚部を破損させた個体をバイクを回転させる要領で蹴り飛ばして路地から通路への出入り口を封鎖していた。

 おかげで通路を塞いでいた残骸が消えて、大型の車であっても問題無く通過できるようになる。

 そこにオルトから通信が入る。

 

「そろそろ救援対象の反応が有る場所だろ? 連絡と対処はそっちに任せるぞ?」

「は、はい」

 

 シオリがそれに応えて情報端末を取り出す間にも、通り過ぎた路地から漸く出て来た個体に向けて、オルトは擲弾(てきだん)を撃ち出して即座に撃破していた。そのまま何事も無かったかのように撃破数を稼ぎながら進んでいくオルトに対し、レイナがこの戦闘中に引き金を引けた回数はゼロだった。

 

 

 ミハゾノ街遺跡の市街区画には無数のビルが建ち並んでいる。そのあるビルの1階の出入り口を兼ねた広間で、ハンター達が虚ろな目をして項垂れていた。

 広間の通路や階段は、立て籠っているハンター達が近くにあった備品や破壊した機械系モンスターの残骸などで塞いでいる。出入り口の封鎖には大破した荒野(こうや)仕様車両を使っていた。

 ビル自体は頑丈なので、これで敵の侵入は阻止出来る。その分だけ速やかな脱出も難しくなるが、ここにいる全員が、敵に侵入されるよりはマシだと考えていた。

 ハンター達がこの場に立て籠もってから既に一夜が経過し、正午を回っている。昼夜関係なく交代で周囲の警戒と休憩を取ってはいるが、限界が来るまではそう遠くはない。死と隣り合わせの中、仮眠を取ったとしても精神は削られていき、その表情に色濃い疲労を映し始めていた。

 ビルの内外には大量の甲A24式が徘徊している。しかも油断していると通路や階段の障害物を除去して(はい)り込もうとしてくる。気の休まる暇など無い。

 逃げ込む際に弾薬をばら撒く様に使った所為で残りは僅かだ。格闘戦で勝てる様な相手ではない。弾切れになった後に襲われれば、もうどうしようもない。

 一縷(いちる)の希望に掛けてビルから脱出を図る者はもういない。それを試みた者はすでに全員殺されている。

 残された希望は誰かが救援に来てくれることだけだ。しかもそれも大して期待出来ない。救援部隊と何度か通信が繋がったのだが、敵が多すぎて無理だと言い残して帰ってしまったのだ。

 救援が来たという歓喜。そしてそれが空振りに終わった絶望。その繰り返しは、その場の者達の気力をごっそりと奪い去ってしまっていた。

 見張りの男が、焦点の合わない瞳で天井を見上げている男に声を掛ける。

 

「……何か変化は?」

 

 声を掛けられた男は手元の情報端末に視線を落としたが、それも無駄だったと言わんばかりに首を少し横に振っただけで元の体勢に戻った。

 

「……そうか」

 

 尋ねた方も、進展は何も無いことぐらい尋ねた時点で分かっていた。何かあれば聞くまでもなく騒ぐに決まっているのだから。

 それでも尋ねてしまうのは、か細い希望に(すが)る心の表れであった。

 ハンター達は徐々に、だが確実に、心身共にゆっくりと()(つぶ)されるように追い詰められていた。

 広間に籠城中のハンター達は単一のチームではなく、複数のチームが逃げる途中で合流したものだ。そして情報端末を持っている男のチームは既に崩壊している。その男を残して全滅したからだ。ビルに逃げ込む途中で、通路や出入り口を封鎖している間に、半狂乱になってビルからの脱出を試みて、()たれて即死し、負傷が悪化して死に、敵に囲まれて喚きながら殺された。

 唯一生き残った男の精神は現実に磨り潰され、気力は既に()き掛けている。だが死を受け入れる程諦観は出来ない。か細い希望に縋りながら、情報端末の表示が変わることを待ち望み続けている。

 気が狂いそうなほど緩慢に進み続ける時の流れの中、いずれくる死という現実を心の中で必死に否定している最中、情報端末は通話要求に出るか、拒否するかの画面に映り替わった。

 男は何度もそれに裏切られてきた。しかしそれ以外にもう縋れるものは無い。情報端末を操作し、通話要求を受け入れると少女の声が届く。

 

「アルハイン保険から救援依頼を受託した者よ。そちらはククリツさんであっているかしら?」

 

 男はその言葉に安堵しつつも、新たな希望にしては儚過(はかなす)ぎるだろうと歯嚙(はが)みした。情報端末から聞こえて来た声が明らかに若手のハンターであるからだ。馬鹿にする訳では無いが、若手のハンターは荒野(こうや)での経験が浅く、功名心の強い者が多い傾向にある。無理を通してここまで来ただけで、ハンターオフィスの出張所まで自分達を守り切れるのか疑問が残っていた。

 本能が助けを求めていても、理性はまた絶望するぐらいならとその声に応えるまでの時間を無駄に浪費していた。

 

「え? あれ、聞こえていない? ……いえ、問題無いわね。ククリツさんの情報端末に繋いだはずなんだけど、違う回線と混線した? 負傷で話せる状態じゃないの? それなら誰か会話可能な人はいない? そっちの状況を教えて欲しいのだけど?」

 

 その声は男の近くにいた見張りの者も気付いた。しかし同じようにその蜘蛛の糸のように細い希望に(すが)るぐらいであれば、他の救援を待つべきではないかという自問自答に時間を費やしていた。

 

「あの。何か反応して貰えないとこっちも困るんだけど。聞いてるの? 近くまで来てるんだけど。……何? 進路変更しても良いか? え、えっと……」

 

 その言葉に男の意識がはっきりとする。ここまで来た上で別の場所まで行けるほどの余力を持っているのであればと判断した。

 

「た、助けてくれ!」

 

 見張りの男は、情報端末を持っていながら反応しない者を無視してあらん限りの声を張り上げて情報端末の向こうにいる者へ助けを()う。

 広間に響き渡ったその声に反応して、休んでいた者達も起き始める。意識を脱出のチャンスに賭けて慌ただしく行動し始める。

 次の機会など無い方が良い。

 

 

 オルト達は救援対象者達が籠城中のビルの近くまで来ていた。その敷地内に突入する前に全体の大まかな決まりを定めておく。

 

「敷地内に留まるのは最大で10分。救援対象者達の確保中であっても時間が来るか、事態が急変したらその時点で切り上げる、で良いんだよな?」

「はい。基本的にこちらで救援対象の確保を行ないますのでオルト様は周囲の警戒をお願い致します」

「了解だ。……突っ込むぞ!」

 

 オルトの一声と同時に、オルト達はビルの敷地内に勢い良く突入した。

 その途端、ビルを包囲していた大量の甲A24式が攻撃対象をビル内のハンター達からオルト達に一斉に切り替える。

 多脚の先に付いた球形のタイヤを地面との摩擦で煙が上がるほどに回転させて、機体を瞬く間に反転させて、武装である砲身と機銃の照準を敵車列の先頭であるオルトのバイクと乗員であるオルトに合わせ、一斉砲火を浴びせ始めた。

 大量の銃弾と砲弾による大火力は受け続ければ遺跡の建築物であっても相当な被害をもたらす。それを殲滅までの時間ずっと受け続ける訳にはいかないと判断したオルトは、バイクの姿勢を極端に低くし、一気に横へ加速して自分を標的としていた個体を誘導する。

 それでも全てを回避することまでは不可能で、何度も被弾するが、賞金首となったアーミーマメストラの大型ミサイルや砲弾の爆風をすぐ近くで喰らい続けても耐え切ったバイクと強化服だ。そこに加えてオプション品である防護コートで更に強固になった力場装甲(フォースフィールドアーマー)で防ぎ切る。例え敵の撃った銃弾が眼に直撃したとしても、その表面に張った力場装甲(フォースフィールドアーマー)の防御性能を信じて一切怯むことなく、バイクの銃も合わせて激しく応戦している。

 流石に砲弾を何発も喰らえばエネルギーパックの消耗が激しくなる為、優先的に甲A24式の砲塔を破壊しに掛かっていた。銃弾に圧倒的な威力を与える銃に加え、機械系モンスターの強固な装甲に対して有効打となるように製造された貫通力に特化した銃弾は、ファナのサポートを受け、精確に、ただ平然に狙いを定めていく。そして撃ち出された強装徹甲弾は標的に着弾しただけに留まらず、甲A24式の重要な内部機構を破壊し、貫通して、その後ろに控えていた個体の攻撃手段を奪い取っていく。圧倒的な戦力差を見せつけていた。

 そしてその後から入って来たレイナとシオリが援護射撃を行なう。元からミハゾノ街遺跡の市街区画で活動する予定を組んでいたのもあって、その銃から撃ち出される弾丸は容易に敵の装甲を剝がし、そこへ大量の弾丸を捻じ込ませ撃破していく。オルトの車に貼られた装甲タイルのおかげで、車両を盾代わりにして危険な時は身を車両の影へと隠していた。

 明確に撃破数を稼いではいる。しかしオルトの功績から考えれば大きく見劣りする。オルトは自分を囮にした上で、レイナ達に狙いを定めている個体を優先的に撃破していた。結果的にオルトへ狙いを付けている個体の側面を衝く形での銃撃が可能になったレイナ達の戦果は目に見えて上昇した。しかしレイナの顔は晴れることはない。

 今のような戦闘はドランカムに入ったばかりの頃、古参の御守(おも)りが付いている時に何度か経験したことがあった。それの再現だ。

 

(私は、私はまだ……)

 

 内心であっても弱いとは言いたくなかった。だが現実は非情に突き付けてくる。この場に居るカナエを除いた銃を持つ者達の中で自分が一番役に立っていない。シオリは現状を早急に解決するために持ち得る技術を可能な限り出して銃撃している為、レイナとも差は出ている。

 その差が明確なものになるまでたった少しの時間だけで済む。

 周囲の甲A24式があらかた片付いたところで、新手の甲A24式が部隊で出現する。だがオルトが再度囮になるような行動を取って同じように撃破していく。今度は碌にレイナ達に照準を向けることも出来ず半壊し、全壊し、粉砕された機械部品となって転がっていく。

 敷地内は瞬く間に銃弾が飛び交い、連続した爆発による光が支配する戦場に様変わりしていた。

 

 

 籠城中のハンター達はそのオルト達の戦いを、ビルの出入り口を塞ぐ車両越しに見ていた。

 

「来た! 本当に救援が来たぞ! あの群れを相手にここまで来たんだ!」

「早く車両を退かせ! このままだと外に出られやしねえ! 外の連中が持ち堪えている間に合流するんだ!」

「今の内に負傷者を出口付近まで運んでおけ! 急げ!」

 

 ハンター達が慌ただしく動き始める。この機会を逃したら生き延びる術はもう無いと、残りの気力と体力を総動員して作業を進めていく。

 そこにオルトの車両が徐々に立ち位置を変えつつ移動し、後部をビルの出入り口へ向けるようにビルの前まで辿り着いて停車する。

 しかしビルの出入り口はまだハンター達の車両で塞がったままだ。ハンター達も急いで退かそうとしているのだが、車両は今までビル内のハンターを攻撃する甲A24式の群れに耐えていただけあって頑丈で、その分、重い。エネルギーの切れかけた強化服の出力では、すぐに退かすのは困難だった。

 それを見たカナエが溜め息を吐いてから邪魔な車両に近付くと、痛烈な蹴りを入れる。価格帯の違う高性能な強化インナ―と脚部に装着されている近接用装備、それぞれ十分なエネルギーが供給されて生み出された衝撃は、ハンター達が数人がかりで動かそうとしていた車両を別の敷地にまで吹き飛ばしてしまった。

 レイナはそれで開いたビルの出入り口に向かって敷地内の銃声と爆発音に負けないように叫ぶ。

 

「5分で出発するわ! 生死不問! とにかく全員乗せなさい!」

 

 ハンター達が出入り口の側まで運んでいた負傷者達を車両に乗せていく。だがその最中(さなか)銃を握っていた男の中に僅かばかりの悪意のある発想が募る。

 ハンター達の誘導を始めたレイナに向けて、ゆっくりと、他のハンターの動きに紛れるように徐々に照準を合わせ始める。

 先ずは攻撃手段である銃を破壊するか、動きを阻害出来るように手足を撃つだけで良い。そうすれば救援に来たオルト達が安全にした遺跡の帰り道を辿り、自力で脱出したと保険会社に言えば救援に来たハンターや、その者達を雇った保険会社に報酬金を払う必要は無くなる。万が一足りない場合は借金してまで払わなければならず、男の口座にはそこまでの貯蓄が無かった。

 負債を()わずに済む。上手く働かない頭で考え付いた思い付きを止められるほどの理性は残っておらず、レイナの視線が他所(よそ)へ向いた瞬間、男は銃口を跳ね上げてレイナへと照準を定めた。

 急激に素早く動いた為、情報収集機器に感知され易くなり、その場の全員が顔を(しか)めさせる。それはレイナも例外ではなく、突如として自分に向けられた銃口に対して振り向くことしか出来ず、避けるのか、それとも迎撃するのか選択肢を選べるだけの時間は残されていなかった。

 瞬間、ビルの壁に出来ていた僅かな隙間を縫って、銃弾が男の手に着弾する。銃は勿論、強化服で守られていた生身の部分も含めて吹き飛ばされる。

 それを身体(からだ)中を走る激痛によって理解した男は絶叫を上げながら倒れ伏す。腕からは血が大量に漏れ出ており、吹き飛んだ手はどう見ても回復薬程度の応急処置で治るようなものではない。

 下らない真似をした報いを、目に見える形で受けさせられた男は貧血でそのまま気を失った。ビルの中に居た者達も、報いを受けさせた者に視線をやると、そこではオルトが非常に不愉快そうにハンター達を見ていた。

 もしこれ以上怒らせれば、居なかったことにされ、放置されてしまうかもしれないと思った者が率先して行動し始める。残りの者達もそれに続いて撤収作業を再開した。その速さは先程よりも少し早かった。

 

 

 レイナ達がハンター達の誘導をしている間に周囲にいた甲A24式を倒し終えていた為、念の為救援対象達の様子を窺っていると、自分の護衛対象を狙い始める者が出たのだ。

 態々(わざわざ)遺跡に来て、異変が起きた後も引き際を誤るような人間に真面(まとも)な思考回路を求めるなど無駄だろうと、大きな溜め息を吐いたオルトは至極冷徹に、正当防衛と言い切れる程度には手遅れだと判断出来る程に、男がレイナに敵対した瞬間を狙って、銃撃した。

 本来ならば銃の破壊だけで済ませても良い所をオルトは態々手を狙って撃つことで、他の者達にも明確に意思表示を行ない、これ以上この場で馬鹿な真似をしでかす者が出てくる可能性を排除した。

 周囲の状況は安定し余裕が生まれている。だが猶予が伸びる訳では無い。これだけ派手に戦えば周辺のモンスターを刺激し、呼び寄せる。更にオルト達はここまで道中のモンスターの群れを殲滅してきたわけではないのだ。悠長に留まっていれば、障害物で塞ぎ、引き離して来たそれらの群れに追い付かれかねない。

 けれど、オルトは一息ぐらいであれば付いても問題無いと判断し、大きく息を吐いてゆっくりと脱力してから再度気合を入れる。

 

『この戦闘音で近付いて来るぐらい近くに居た奴等は倒せたな』

『そうですね。しかし更にその外側にはまだまだ居ますからね。この救援依頼の期間中にどれだけ撃破数が増えるのでしょうね?』

『そうか……、ハンターオフィスに登録されてる俺のモンスターの討伐数って案外多くないんだっけか。汎用討伐も未発見の遺跡探しの時とかは基本受けてないもんな……』

『この際にモンスターの討伐数を荒稼ぎするとしましょうか。この遺跡のモンスターの機動力、装甲の防御性能、武装の攻撃性能、どれを取ってもそこらのハンターであれば脅威に成り得る強敵と認知されています。ここでの討伐数や甲A24式の討伐履歴であれば軽く見られることはないでしょうからね』

『なるほどな。下手に侮られて喧嘩を売られたくも無いし、この装備で出来ること程度はやるか』

 

 今回の救援依頼ではオルトは強化服の性能を完全に理解、把握、掌握してみせようと訓練の一部としてファナからのサポートも一部受けないで済むように努力している。

 力場装甲(フォースフィールドアーマー)に関して、オルトの操作ではまだまだ調整の甘いところが多々ある所為でエネルギーの消費量に無駄が発生しているのが現状。防護コートを手に入れたことで力場装甲(フォースフィールドアーマー)の頑丈さは以前よりも増した。だが、その分エネルギー使用量は増す。

 そして力場装甲(フォースフィールドアーマー)を絶えず展開して有効化させたり、無駄に強固に展開してもエネルギーはただただ無駄に消耗していくだけ。その上、上限の取り払われたオルトの強化服が全力で力場装甲(フォースフィールドアーマー)を張ると、力場によって発生する圧力でオルトの身体(からだ)を押し潰す結果になる。

 現状ファナによってその微調整が為されており、オルトの身体(からだ)は回復薬を大量に飲むような大怪我を力場装甲(フォースフィールドアーマー)で受ける様なことはない。しかし、何時(いつ)までもファナに調整を任せていられる訳では無い。オルトとファナの関係はいつか終わりが来る。その時までには完全に制御出来る程度には装備への理解を持っていなければならない。その思いでオルトは救援依頼で戦闘が発生するかもしれない状況では常に気を張っていた。

 一度それを落ち着けようと、精神の安定を図っていると、撤収までの時間が迫っていた。

 オルトがレイナに連絡を入れる。

 

「レイナ。そっちはどうだ? そろそろ時間だが」

「え、ええ。問題無いわ。後もう少しで終わるわ」

「そうか」

 

 オルトは情報収集機器の集音機能が捉えた遠くの戦闘音の方へ警戒を向けながらレイナ達の撤収作業が終わるまで待っていた。少なくともこの近くに敵対的な反応は無いので、オルトは帰りに発生するであろう戦闘に備えていた。

 

 

 オルトにどう接するべきなのか、レイナは測りかねていた。今朝大まかにだが、オルトというハンターについてシオリから聞かされている。

 その中の特徴として、同年代の若手ハンターという一点だけで言えば、オルトとレイナは共通点がある。

 しかしそれ以外は全く類似性が無い。

 今現在レイナの置かれている状況や環境は、ドランカムのB班が言っているように恵まれている身分だ。防壁の外だけでなく、内側に居る時であっても常に護衛が最低でも1人ついている。装備も自分の稼いだ金ではなく、ドランカムの古参達が徒党の為に稼いだ金によって購入され、それを貸し出されている。非常に恵まれている。

 対してオルトはと言うと、スラム出身の少年で、基本的に1人で活動しているハンターだ。活動期間はレイナ達ドランカムの若手ハンターとそう変わらないにも拘らずハンターランクは30を超えており、使用している装備の(おおよ)その価格は10億オーラムを超えている。

 どこかに所属もしていなければ、誰かの助けも無しにそれだけの成果を挙げている。

 自分達のように誰かが稼いだ金で装備を整え、あまつさえ事が上手く運ばなければ、装備や古参との経験の差の所為にする者達などとは大きく異なる。今回の救援依頼が実際に始まるまでは、オルトのことを幸運にも大金を手に入れて、凄い装備を手に入れることが出来ただけの者なのだろうと高を括っていた。その装備による性能で強敵を一方的に倒し続ければハンターランクも自然と上がるだろうと、そうであれば、合点がいく。

 凄い装備を持っていれば凄いことが出来る。出来て当たり前とさえ思っていた。以前までのレイナであれば実際オルトに対面した瞬間にその類いの発言をしていただろう。

 しかし、今のレイナはそうとも言い切れなかった。

 自分よりも質の劣る装備で奥の手を切ったシオリと張り合えるアキラがいる。その時点で今までの価値観など荒野(こうや)に出れば通用しないということを知ったレイナは、自分で失態を犯さないように注意深くオルトがどちらなのか知るべきだと判断した。

 装備だけの者なのか。それとも装備を手に入れられる実力を持つ者なのか。

 その機会はすぐ訪れた。救援依頼が発生するだけあって大量の機械系モンスターが群れを成して襲って来たが、オルトはたった1人で事態を収めてみせた。それも護衛という仕事の為か、被弾も許容しつつレイナ達の乗る車にまでは決して銃弾も砲弾も向かわないように交戦し、チームの全員を無傷のまま救援対象のいるビルまで安全に移動させたのだ。

 確かに装備の性能は馬鹿に出来ないほど高い。レイナが使用している装備など価格帯から違うような高性能な装備を着用しているが、それだけではない。状況の把握能力の高さ、瞬時の判断能力、そして戦闘能力の高さ、どれもが自分の持っていないものだった。

 同じ装備、同じ車両を与えられ、同じことをしろと言われてもレイナには無理だ。精々が高威力の銃と装弾数の多い拡張弾倉、装備の性能に物を言わせた掃射で片付けるのが関の山だ。

 回避などは考えられないだろう。そうなれば正面から敵の攻撃を受け、その分力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開するバイクや強化服側のエネルギーを大きく消耗することになる為、弾薬、エネルギー共に費用対効果が非常に低下するという結果を残すだけだ。

 レイナは歯噛みした。直前に言われた足手纏い扱いのような発言も、そもそも手も足も出させない交戦内容によって、ある意味でそれが正しかったのだとオルトは証明したのだ。自分だけでなく、シオリやカナエに対しても。

 ただの被害妄想でしかないが、自分ではそれは出来ないだろうと言われている様で、レイナは悔しい思いをしていた。何よりも自分がそれを理解してしまっていることがだ。

 だが解決策など浮かばない。ドランカムの公報でカツヤ達が賞金首の一件で更に功績を残したことも含めて心の中に焦りもあって更に思考が狭まってしまっていた。

 今居る場所は荒野の、そして遺跡の中だ。現状を憂うような場所ではないことにさえ気付かない。

 

「逃げるぞ! 飛び乗れ!」

「……えっ?」

「お嬢様!」

 

 結論の出ない思考の渦にいたレイナの意識が、情報端末から聞こえるオルトの大声によって現実に戻された。しかし悲嘆に暮れていた所為でその対処も一歩遅れてしまい、結局はシオリが抱きかかえて、急発進したオルトの車の上へと飛び乗る。

 オルトはバイクを先に走らせながら、その後を追うように走らせる車に飛び乗って後方にあるビルへと威力特化型K2R複合銃の銃口を向けた。

 オルト達がビルのあった敷地から出た瞬間、先程まで救援対象者達が立て籠もっていたビルの反対側から大量の爆発が引き起こされ、ビルの下層部分が吹き飛んだ。そして消失した階層分の加速度を伴い、残っていた上の階層が地上へと落下し始める。

 そのまま倒壊を始めたビルとその瓦礫が落下の衝撃で粉塵を撒き上げ、その実行犯を覆い隠す。その建築物であれば、そこらのモンスター程度容易に圧し潰せるほどの重量を持っているが、落下してくる瓦礫などは自身の防御力で以って、お構いなしにオルト達へ急速に接近し始め、その姿を完全に露わにする。その姿を見たオルトは顔を僅かに歪めた。

 ビルを倒壊させたのは先日アキラとキャロルが対峙した多脚戦車だった。それも一機ではない。最初に現れたものを先頭にして、その後ろにも多数の反応がある。

 ビルを倒壊させた多脚戦車は、障害物の排除は完了したと言わんばかりに次の目標であるオルト達に狙いを定め、機体に装備している主砲をオルト達目掛けて撃ち出した。同時にオルトも体感時間を極限にまで圧縮させて、砲弾に狙いを定め引き金を引く。

 発射された強装徹甲弾は砲弾に直撃し、内部構造を滅茶苦茶にして宙を駆けている途中で爆発する。しかし高威力を伴って放たれた銃弾は進路を変えることなく多脚戦車の主砲の中へ侵入すると、砲室に再装填されていた砲弾に命中し内部からの爆発を引き起こした。そしてまだ内部に保管されていた砲弾すら次々に誘爆させていく。

 後方で発生した大気を震わす大爆発が強風を起こし、その風を急加速している車に、ひいてはオルト達に届かせる。その風量が多脚戦車の放つ砲弾が持つ威力の高さをレイナ達にも理解させた。

 オルトなら数発程度は耐えられる。シオリやカナエも対処法があるので問題は無い。しかしレイナは直撃すれば死ぬだけだ。逃げ切ることすら難しい。

 起こりうる可能性が脳裏に過ぎったシオリが顔を顰めさせて、後方を見やるが目視では爆煙によってその先は隠されている。だが情報収集機器は可視光範囲内以外の情報も含め収集して解析し、その索敵結果を表示装置に映し始めた。その光景は車内のハンターに知らせることが憚られるほどに酷い。

 オルトが今倒したばかりの多脚戦車を押し退ける様に、その後ろから一機、また一機と姿を現し、脚部の車輪を高速で回転させて敷地内に転がっている甲A24式の残骸をすり潰しながら前進を始めた。

 自分が対処すべきだろうとシオリがそっと刀の柄に手を伸ばすが、それをオルトから止められる。

 

「俺の銃を貸すから前から来るやつを対処してくれ。あっちは俺がやる」

 

 そう言いながら普段使いしているK2R複合銃をレイナとシオリに押し付けた。

 

「えっ、ちょっと!?」

「どのぐらい敵が残ってるか不明なんだ。そっちの銃でちまちま撃ってたら帰り道でごたついて仕方ない。それならお前の強化服でも反動は何とかなるから使え」

「……だからって」

「お嬢様。状況が状況です。今はオルト様の厚意に甘えましょう」

「シオリ……」

 

 納得できないレイナに、オルトの提案は尤もだとシオリが説得する。少し逡巡した後、レイナとシオリは車の前方へと向かいハンターオフィスの出張所までの間に再配備されているであろう敵や、行きの時に無視することになった路地の甲A24式などは時間も経って通路側まで出てきている個体などを発見次第対処にあたる役割を担った。

 話し合いの間にも撃ち出された砲弾の中で、オルトはファナによって拡張された視界の中で自分達に被害を与えそうなものを見極めながら撃墜させていく。そしてその都度、余裕が出来た瞬間に多脚戦車へ照準を定め、一機ずつ沈めていった。

 甲A24式との戦闘時よりも増した被弾時のリスクを、丁寧に対処しつつオルトは自分で強化服を操作しながら更なる命中率の上昇、判断力の向上をこの場での課題として拡張弾倉の装弾数とエネルギーパックの容量を効率よく消費していく。

 どこまでも遅滞した世界の中で、オルトだけがいつも通りの思考と動きで以って、拡張部品によって強化された連射速度に見合う乱射に近い銃撃を繰り返し続ける。その全てを自分達を狙って放たれた多数の砲弾に、自分達を照準に収める数多の機銃に、そして徐々に加速して接近してくる多脚戦車の群れに対して、時間経過と共に変化する優先順位を推測し着弾させ続けていた。

 

 

 現場から救援対象者達を救出したオルト達が先を急ぐ。後方からはまだまだ多脚戦車の群れが広い通路に可能な限り広がって主砲や機銃でオルト達を狙ってくる。更にその後方にいる個体達は、オルト達の間にいる個体の隙間を縫うように砲弾を撃つものもいれば、射出角度を調整して曲射によって進行妨害を行なう個体もいる。

 

「面倒だな」

 

 愚痴が思わず口から漏れた。

 砲弾であっても数発程度であれば耐えられるぐらいには耐久性の高い装甲タイルを、オルトは自分の車に貼り付けている。そのおかげで車両を狙った銃弾の雨を喰らっても貫通することも車両が破損することも無く走行を継続していられる。しかしそれも砲弾の直撃などを喰らえば、耐久可能な時間が大きく減少するのは避けられない。

 遺物などよりも低価だが、車の中には救援対象者がいるのだ。銃弾一つであっても貫通すれば精神的に参っている者達はパニックに陥り、車内で銃撃戦が起きかねない。

 加速力、最高速度、共に多脚戦車の方が高く、それでも未だ追い付かれていないのは多脚戦車が大きく、一機倒せばそれだけで群れの後方を走る機体はそれを避けるか退()かすかするしかなく、その(ぶん)接近し辛く出来るからだ。

 だが機械系モンスターも馬鹿ではない。搭載されている制御装置がその対処方法を編み出し実行してくる。

 徐々に彼我の距離は近付いて来ていた。

 それを理解していただけに、ある程度の接近を許してしまったオルトは、落胆を含んだ溜め息を吐き、()いている片手で展開済みの擲弾(てきだん)用K2R複合銃を握り、角度を調整して撃ち始める。それと同時に命中精度に振っていた意識の優先度を敵の殲滅に切り替えて、威力特化型K2R複合銃で掃射し始める。

 今までの点での攻撃から線での攻撃に、更に群れの中腹ほどに降り注ぐ擲弾(てきだん)の雨によって多脚戦車の数は一気に減少し始めた。

 撃ち出される砲弾の数も銃弾の数もそれに比例して減少し、群れの後方から撃ち出された弾も、残骸と化した装甲が宙を舞うことで一瞬の盾となり、オルト達の下までは届かない。そして間も無く減少した砲弾と銃弾の雨へと割かなければならない意識が少なくなったと判断した時点で、オルトは大量に生成された残骸の間を縫うような精密射撃によって残った機体たちを沈黙させていく。

 擲弾(てきだん)銃を使い始めてから数分足らずでオルト達を追走していた多脚戦車の群れは殲滅された。

 

『装備は整って来たけど、実力の方はまだまだだな』

『あくまで装備は装備。あるだけで強くなれる装備があっても、敵がそれを使ってくれば勝敗の差を分けるのはそれぞれの技量、判断力、総合的な実力に他なりません。今後も絶えず努力し続ければ相応の実力は付きます』

『そうだな。今後も頑張っていくしか道は無いよな』

 

 まだ反動を完全に抑制出来てはいない。その所為で命中精度に重きを置くと、銃撃ごとの間隔が開き、その分敵の弾幕が濃くなってしまう。

 それでもオルトは気分をある程度良くしながら銃を降ろした。以前よりも高威力の銃を手に入れ、自分で強化服を動かして威力に見合う反動を制御下に置き、高い命中精度を維持することは難しい。それでも訓練と実戦の成果として、実際に身に付きつつある現実をしっかりと自覚して今後への期待と、ファナとの契約に対する覚悟を強めていく。

 オルトが回復薬を服用して身体(からだ)に溜まった疲労を取り除いていると、横にいたカナエが笑って話し掛けてくる。

 

「いやーあれだけの数を相手に無傷で終わるっすか。やっぱり強いっすね。……ところでオルト少年。言いたくなかったら言わなくて良いんすけど、この車とかバイクはオルト少年が操縦しているんすよね?」

「自動運転も入ってるけど。それがどうしたんだよ」

 

 オルトは少々怪訝な顔でカナエを見る。

 そのオルトの態度から何かしら誤魔化したい部分もあるのだろうとカナエは勘付いた。その上で下手に琴線へ触れぬように言葉を選ぶ。

 

「純粋に褒めてるっすよ。自動運転の補助ありきとは言っても車どころかバイクの運転、それをしながらモンスターも狙ってちゃんと当てて、普通は無理っすよ? どこで習ったんすか?」

 

 実際に運転しているのはファナだ。流石に強化服のサポートを限界まで加減に落とした上で車両の運転までは手が回らない為、そこは頼っている。おかげでバイクのアーム式銃座に接続している銃での銃撃には集中出来るので、そちらでしっかりと命中精度の向上を図っている最中だ。

 それらの複合的な部分を褒められていると判断して気を緩めるが、詮索には答えるつもりは無い。

 

「頑張れば俺にだって出来るんだ。普通から脱却するか普通の基準を変えれば良いだけだろ」

 

 頑張れば出来る。少なくともオルトが今まで習得してきた技術と言えるものは、ファナから無条件で与えられ、手にしたものではない。視界を拡張して索敵の補助を受け、知識でどこを注視すべきなのか、無意識が何を感じ取るべきなのかを判断し、それを行動に出力出来るようになっていった。

 ファナによる強化服の操作で身体(からだ)に合理的な動きを、達人のような近接戦闘術の数々を叩き込まれた結果、徐々にその動きへの理解を脳と身体(からだ)が深めていき、戦闘時の挙動が精細になっていく。

 その早く鋭い挙動に出来る限り追い付こうと必死になっていった結果、大怪我を伴いながらでも意識的な体感時間の操作が可能になった。

 その全てに真剣に取り組み、この程度で死んで(たま)るかと喰らいついていった証だ。

 それでもまだまだ出来ないことの方が多く、ファナの依頼達成に近付いているのか全く近付けていないのかの判別すら出来ない状況でしかない。だが、訓練を続ければ問題無く強くなるとファナが断言しているのであれば、自分はまだまだ成長の余地があるということだ。

 それが旧世界基準の強さであり、現代のものから逸脱していようが、それがファナの依頼達成に必要なのであれば問題は無い。オルトが最終的な目標に据えていることはそれを含めて二つだけだ。()ずはそれらを達成してから考えれば良いだけなのだから。

 オルトがそう考えていると、先程のオルトの発言が何かに触れたのかカナエは笑いを(こら)えるのに必死になっていた。

 その様子にオルトは少々の不快感を持つ。

 

「……。それよりもお前は何してるんだよ。レイナの護衛だろ? 向こう行けよ」

 

 溜め息を吐きながらオルトが戦闘中ずっとオルトの傍に立って車両の後方を眺めていたことに疑念を抱き、護衛対象であるレイナの下へと行くように促す。当のレイナはオルトのバイクやシオリと共に、車列の前方から迫って来る甲A24式の群れを相手している。

 オルトもバイクのアーム式銃座の銃を遠隔操作しながら、2人に渡した銃よりも広い有効射程を活かして遠方の敵を狙っており、レイナ達はオルトには劣るものの高い命中精度を見せながら殆ど連射に近い速度で銃撃を繰り返して、通路やビルの壁を走る機体を破壊し、近寄らせていなかった。

 カナエもそれは知っている様で、オルトと同じように顔を向けるが、それ以上は動こうとしない。

 

「大丈夫っすよ」

「何がだよ」

「私はあれっすよ。お嬢と姐さんが頑張っている間、後ろからちょっかいを出されないように、残ってるんすよ。ただ、出番が無かっただけっす」

「……」

「あれ!? 自分の仕事はするっすよ。信用して欲しいっすね!」

 

 カナエが笑いながら自分が働かざる状況になっていないのは、オルトが大抵の敵を1人で倒す所為だと遠回しに言ってきた為、オルトはそれを無視してレイナ達の的を減らせるようにバイクに接続している銃へ意識の比重を傾ける。

 オルト達はそのまま周囲の機械系モンスターに襲われながらも、全員無傷のまま遺跡の中を駆け抜けていった。

 

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