リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第三十七話 判断基準

 

 ファナとカナエに揶揄われていたオルトは、自分達の方へと近付いて来るユミナを発見したのだが、彼女が自分達へ接触してくる理由に思い当たることがないため不審に思う。ユミナはカツヤが率いるチームの一員と、オルトは認識している。それもチームの中心に限りなく近い立ち位置にいる人物だ。そんな相手が態々カツヤから離れてまで自分に用が有るとは想像だに出来ない。

 特にこれといった理由も思いつかなかったオルトは、ユミナ単体で想定出来ないのであればと考慮に値する材料を増やせば良いと考える。

 視野を少し広げ、部隊行動中にあるはずのカツヤ達が態々接触してくるだけの事情は何だろうとオルトは頭を捻り始めた。

 そして幾つか思い当たるものが浮かび上がって来る。その中から最も適していると判断したものとして、カツヤ達がレイナ達と組んでいたことを思い出した。そこからクズスハラ街遺跡の地下街攻略時に同じチームメンバーだったレイナ達とミハゾノ街遺跡内の現状について情報交換でも行うのかもしれない。若しくはドランカムの主部隊と合流してオルトへの依頼内容の一部変更、乃至は完全に終了させるに(あたい)する交渉事でも始まるのだろうと推測したオルトは、ドランカムとは一切関係ない自分は離れておこうという選択をとったのだ。

 どちらにしてもドランカム内での情報交換や調整であれば、部外者である自分が残る必要性は皆無に等しい。むしろ居ない方が都合が良いだろうとオルトは考えた。

 加えてハンターオフィスの出張所の前に何時(いつ)までも自分の車を置いていると他の者達に迷惑だろうと判断した為、さっさと移動することに決めたのだ。

 その内容はドランカム内で周知され始めている情報で、シオリが共有する必要が有ると判断すれば(のち)ほど教えて貰えるだろうとも考え、レイナ達をその場に残す選択をしたのだが、それは不正解だった可能性を考慮に入れて内心項垂(うなだ)れる。しかし、この場には自分の他にカナエがおり、そちらもまたドランカムの一員だ。

 

(……いや、シオリ達経由じゃなくて直接ドランカム所属のハンターに伝える事項が有ったんだろうな。多分カナエがこっちに来たから仕方なくユミナが来たんだろ)

 

 徒党に所属する者達への一斉送信でもなく、トップに近い立ち位置にいる者が直接伝言しなければならないほどのことならば、尚更(なおさら)自分が聞くべきではないだろうと考えた結果、オルトは2人で話せるように席を外すように1人車両の上へと飛び移ったのだった。

 

 

 ドランカム内の情報交換を邪魔しない為に車の屋根に飛び乗ったオルトは、情報収集機器の索敵範囲からカナエ達付近の取得情報を拾わないように設定してから、再度待ちぼうけの状態になる。

 徐々に地平線の向こう側へ傾きつつある陽が見せる青い空を見上げながら内心何をしようかと呟いた。

 

『暇になったな』

『お暇でしたら後ろの(ほう)でしている会話にでも加わってはどうです? 特段物珍しい情報のやり取りなどはしていませんが』

『良いんだよ。聞こえないし聞いてないってことにしてるんだ。向こうだって部外者が近くにいるから話し辛いとか考えるかもしれないだろ? 話しやすい状況を作ったっていうアピールでもあるんだから、加わったら迷惑じゃないか』

 

 実際、オルトの耳朶(じだ)にはユミナ達の会話内容が僅かにだが届いてしまう。それは情報収集機器の性能如何(いかん)に関わらず、オルト本人の身体機能が日々の訓練などによってほんの僅かずつだとしても強化され続けているからだ。

 しかしそこそこ離れている(ぶん)ユミナ達の話し声も、周囲の者達の雑談や遺跡内から響く戦闘音が混じって正確に把握することは不可能。少なくとも下手に反応しない限りは問題無いとして基本的に無視を決め込む選択をした。

 だが情報収集機器の表示装置は収集した取得データを解析し、装着者に見せているに過ぎない。その表示内容を限定化させたり、解析強度を上げる為に索敵範囲を制限するのだが、それでもオルトの車から()して離れていない場所で会話しているユミナ達の情報は嫌でも取得してしまう。オルトがその情報を表示しないように、たとえ拾ったとしてもオルトの耳へと届けないように設定している為、オルトには確認出来ない。だが、ファナは違う。オルトの感覚器官どころか情報収集機器が収集した解析前の取得データを受け取って別途解析している為、オルトの後方でなされている会話内容が、オルトの危惧している事柄に一切触れていないことも把握していた。それらのこともあり、ファナの表情には多少の呆れが混じっている。

 それでも態々(わざわざ)一から十まで間違いを指摘してまで聞くべき内容でもなく、オルトが危険視しているカツヤに近しい人物との交流を勧めて、オルトから疑惑の目を向けられる恐れを生む必要性もファナにはない。この話はさっさと切り上げようと、身に纏う衣装をいつものドレスから動き易いものへと変更する。

 

『……そうですか。でしたら少しばかり身体(からだ)を動かしておきましょう。下手に頭を休めて眠気を抱えてもいけませんからね』

『ん? それもそうだな。向こうの話もいつ終わるか分からないし、そうするか』

 

 オルトは周囲へ向けていた視線を、いきなり装いを変えたファナへと向けてからその提案に乗った。大して違和感も持たない。いつも通りをいつも通り行なうだけなのだから。

 立ったまま前屈(ぜんくつ)し、両手を足元に付けてから両足を浮かす。緩慢な動作のまま両脚を一直線になるように開きながら肘を曲げて腰を床に付ける。そして上体をゆっくりと前方へと伸ばしていく。

 オルトの目の前で実演しているファナとは違い、少々のぎこちなさが見られるが強化服で無理矢理開く必要もないぐらいには柔軟性が上がっていることから顔に映る苦悶の表情は以前よりもずっと軽減されていた。

 

『流石に姿勢維持機能を使わずには出来ないな。けど開脚自体は結構スムーズに出来るようになったし、成長はしてるってことか』

『最近はオルトも柔軟性が上がってきましたが、先日のように逃走を図りながら後方へ銃を向けるとなると肩関節を痛めますからね。次は上半身の関節可動域を広げて行きましょうか』

『分かった。確かに擲弾の方は肩に担ぐ感じで撃てたけど、普通の弾薬だとしっかり狙わないと絶対に効果が出ないからな。戦闘中だったからあんまり考えなかったけど、回復薬が無かったら絶対肩を痛めたままだった』

 

 昨日、遺跡からの脱出中に発生したモンスターとの交戦。その中で後方から追ってくる機械系モンスターの対処のため、常に後ろを見ていられる訳では無い。荒野(こうや)に出ている時点でモンスターは後方からも追ってくる。前方からも出現する。同時に起これば瞬間的に判断して行動しなければならないが、身体(からだ)を向けて銃撃する暇など無い時が多々ある。そんな状況の不利を覆す為に無茶な体勢で銃を撃つ必要が出てくる。半身だけ、腕だけ、手だけと対処のために動かせば、切羽詰まっている(ぶん)だけ強化服は高速で動き着用者に多大な負荷を掛けてしまう。状況の改善の為に関節の可動域を無視した強化服の挙動に付いていく生身は常に筋繊維を引き千切りながら照準を敵に向けて引き金を引き、反動で四肢が捩れて骨が軋む。ただでさえ体感時間の圧縮中は脳に多大な負荷を掛けてしまい、その治療に回復薬が使われていく。長時間の戦闘可能状態の維持のためには一部だけであっても負荷の軽減は必須事項だ。

 全身の柔軟性が高ければ、その負荷をある程度低減することが出来る。

 その為オルトは毎日の日課に柔軟体操を取り入れていることもあり、ファナのサポートも助けとなって、関節の可動域は徐々に広くなってきていた。今では強化服で強引に広げなくとも脚を一直線に伸ばすことも可能だ。

 

『ファ、ファナ。いぁ、……痛い』

 

 それでも全身が高い柔軟性を得た訳ではない。オルトのハンター稼業では走る蹴るといった動作が非常に多い分、今までは股関節(こかんせつ)より下の柔軟性を重視していた。ハンター稼業を開始してからあまり時間は経っていないが、ある程度の柔軟性を得たことで、今後はその部位以外の割合が徐々に増えていくということになる。

 土台がしっかりと出来上がれば、出来ることが広がっていく。

 

『先程服用した回復薬の鎮痛効果は消えましたが、治療効果はまだ有効ですので怪我の心配はありませんよ?』

『ぬぐぐ……』

 

 救出依頼の最中(さなか)、強力な銃弾も擲弾も使いたい放題使用したことで、そこまで苦労することはなかった。精々が帰路の途中に遭遇した甲A24式を直接視認せずにバイクに取り付けてある銃での狙撃に集中する際、一瞬だけ体感時間の圧縮率を極端に上昇させる程度だ。

 それぐらいであれば既に治療済みであり、全身の疲労もとっくに抜け切っている。だから(また)が裂けても待機状態にある治療用ナノマシンが負傷箇所へ集まるだけだとファナは楽しそうに笑っていたが、オルトは笑えなかった。

 強化服を使用し始めた頃よりもずっと柔軟性は向上しているので、実際に(また)が裂けることはない。苦痛に顔を歪めることは時折あるのだが。

 

 

 ファナの冗談であって欲しい言葉を聞きながらオルトが柔軟体操を続けていると、車の屋根の上に誰かが飛び乗ってくる音が聞こえてきた。

 流石にこれは無視できない。意識を向ければ当然情報収集機器の索敵優先順位はそちらへ向けられ、取得情報の解析結果を立体映像として、視界外の情報を拡張視界に投影し始める。そしてオルトの予想通りそこにはユミナが立っており、オルトの方へ顔を向けていた。

 今(こえ)を掛けると、柔軟体操を続けているオルトの邪魔をすることになると思い、声を掛けてこないのだろうと察したオルトは、このまま延々と無視を続けておこうかとも考えたが、長時間筋線維(きんせんい)を伸ばし続けたところで返って逆効果しか生まないとファナに言われてしまい、日課としていた一連の柔軟体操を渋々終えて立ち上がる。

 

『なぁ、ファナ。ユミナは何の用事なんだと思う? ドランカム内のことならカナエが対応するだろ?』

『さぁ? 私に問われたところで推測しか出てきませんよ? 切羽詰まってる状況でもありませんし本人に聞いてみるのが一番かと』

『そうかぁ……。面倒だなぁ』

 

 ドランカムとの伝手など一切(いっさい)必要としていないオルトにしてみれば溜め息を一つ吐きそうな状況だが、今から話す相手をいたずらに挑発することも無いだろうと飲み込んでユミナの居る方へ振り返った。

 

「久しぶりだな、ユミナ」

「……えぇ、久しぶりね」

 

 過合成スネークの一件に加え、先程から感じるオルトからの拒絶に近い無関心さ。かと思えばこちらが近付けば別段気にする様子もなく話し掛けてくる。今まで関わりのあった者達とは違い、自分達を毛嫌いしている訳でもなければ、特段好意的に思っている訳でもない。

 最近の他者から自分達へ向けられている二極化した視線とは一切の類似性が見つからない所がゆえに、ユミナは自分の中でオルトに対する(せっ)(かた)の難易度を引き上げていた。だが以前も仕事が終われば即座に元の持ち場へ戻ったり、自分達との事前交渉に似たものを早急に終了させたりと、似たような対応をされていたこともあり、一呼吸置いてから応える。

 そして部隊から離れているユミナには無駄にして良い時間も特に無い為さっさと本題に入ることにした。

 

「以前の一件について感謝を伝えに来たの。私を、(みんな)を、カツヤを助けてくれて本当にありがとう。感謝してるわ」

 

 ユミナはオルトに深々と頭を下げて本心の感謝を告げた。この言葉に一切の偽りなど無い。陰りもない。

 そしてそれに対し、オルトは少しだけ考え、僅かに表情を和らげると頷いてから返答する。

 

「なら、どう致しまして。と言っておく。感謝は受け取るよ。それに俺にとっても都合が良くなる状況だったんだ。あまり気にしなくても良いぞ」

「そう? なら、ありがとう」

 

 ユミナが安堵と共に笑う。この場には自分たち以外の所謂部外者と呼べる者達が居るため、言葉を濁しながらの会話をすることになってしまったが、何時(いつ)(なに)についての会話なのかをお互いが理解していた為、問題無く、(いま)、解決した。

 本来ならばもう少し早く解決するような心残りだったのだ。しかし、ユミナにはその機会が訪れなかった。

 過合成スネークの一件について、グレイがドランカムとの報酬額の上乗せ交渉の際にオルトも同席するものだと思っていたユミナは、部隊の副隊長だったという立場を使い同席していたのだが、しかし交渉の場に現れたのはグレイだけであり、オルトはその場には現れなかったことで本人に感謝を伝えることも、オルトを通じてアキラとの接点を作ることも出来なかった。

 今、その片方の懸念を解消できたことに安堵の息を吐く。流石にもう一つの懸念について話すにはこの場には人が多すぎた。

 それでもカツヤが納得出来るだけの説得材料を手にする為に時間が許す限りと自分の中で一定の区切りを決めて、話し始める。

 

「それにしても酷いんじゃない? 避けることはないと思うんだけど」

 

 少しばかり意地が悪いだろうかと思いつつも、少々相手を責めるような口調で先程までのオルトの行動に対する不満を漏らした。先程までの心のつっかえも取れた為、ユミナは気を緩めており、実際オルトへの態度からその心持ちが軽やかなことが窺える。

 そのユミナの様子に、オルトもどこかおどけた様子を見せながら答えた。

 

「避けていたというよりそっちの話を邪魔しないように配慮していたって感じなんだけどな」

「配慮?」

「レイナ達に用が有ったんだろ? どちらもドランカムの所属だ。徒党内で共有しておく事項を部外者である俺が聞くことも無いだろうなって席を外していたんだからな?」

「確かに直接伝えに行くこともあるけど、周知させておくことがあれば徒党内で支給されてる情報端末に連絡が行くものよ? だから足を運んで伝えに行く必要性は特にないんだけど。……まぁ、私は、って付け加えることになるんだけど」

 

 ユミナは途中までは揚々と答えていたが、最後の辺りになると徐々に微妙な表情になっていく。

 オルトはその様子に疑念を抱く。少し考えて結論を出す。

 

「……? あぁ、カツヤだっけ? 仕事中にナンパは不味いと思うんだけど、そこら(へん)、結構(ゆる)いんだな」

「ナンパじゃっ……。うーん」

「いや、そこは断言しろよ」

「……。因みに、なんだけど、オルトから見たら、……どう?」

「ナンパだろ。しかも既に両手に(はな)状態でやるのは、もう一種の病気な気もする。まぁ、小隊長をやってた時はハーレム部隊とか揶揄されてるとか噂で聞こえてきたしな」

 

 その返答を聞いてユミナは苦笑いを浮かべることしか出来ない。

 

「まぁ、それで助かる奴が居るならそれで良いんじゃないか? 気にするもんでもないだろ」

「そういうもの?」

「半端なデリカシーの無さが返って足を止めさせて、結果として危険地帯にそこそこの装備や実力で行く奴を踏み(とど)まらせる材料になり()る。かもしれない。……あまり良い意味で使われることは無いけど、良い方に転がるならそれはそれで良いからな」

「カツヤにだってデリカシーぐらい……」

「対話中の相手に生来(せいらい)の外見的特徴を取り上げて会話を広げたりとか」

「……」

「一緒に出掛けたのに見てない間に知らない女()()けていたりとか」

「……、…………」

「したのか。いや、うん、もう、なんか、……流石だな」

 

 ユミナが視線を逸らしたせいで(たと)え話に現実味を帯びさせる結果となってしまったことにオルトは半ば呆れを持ち、少し感心した。決して良い意味ではないのだが。

 僅かに気不味(きまず)い沈黙が流れる。オルトが見兼ねて話題を変えに行く。

 

「結局ユミナはこっちに来てまで何を話してたんだ?」

 

 オルトが他に話題など無いからと、先程までカナエと会話していた内容について挙げる。

 

「えっとね。レイナとは少し前までは同じチームとして行動してたのよ。けど、ちょっとあってね。別に仲違(なかたが)いしたって訳じゃないんだけど……」

 

 どこか歯切れの悪いユミナの口から語られるのは随分と抽象的な内容だ。ユミナ個人からしても、レイナという一個人(いちこじん)は、恋敵の1人であろうと心の底から嫌っている訳では無い。ただ単に、他者に話せる内容が著しく少ないのだ。それは(ひとえ)にドランカム上層部からユミナに()かせる情報が非常に少ないことが原因となっている。

 クズスハラ街遺跡の地下街攻略。その際に発生した事柄に関して上司であるミズハから口止めされている。

 レイナに何かがあったのはその時だ。当然気になる。ユミナも、そしてカツヤも知りたがっていた。その時に何かがあったからこそ、何かが起きてしまったことで、レイナはその後大きく気を落とし、結果としてカツヤ達のチームから抜けるに至ってしまったのだから。

 その時に何があったのか。ドランカムの上層部や都市に聞くことは出来ない。答えられないと言われて終わりだ。無理やり聞き出すこともできない。

 他に事実を知るのはレイナとシオリ、そしてその場に居たアキラの三名だけ。その三名と、身内として、内情として明かしてもらえるぐらい深い間柄に無い者では、その場で起きた出来事を知る(すべ)などない。

 だが、その一件を発端とした出来事に首を突っ込んだ者に関しては異なる。

 オルトはユミナから与えらえた不明瞭な情報の塊から必要な部分のみを抜き出して当時なにが起きたのか、その結果なにが発生したのかを察した。

 

『……あぁ、そう言えば地下街でアキラとシオリが殺し合ったんだっけ? キバヤシが言ってた気がする』

『アキラが地下に潜っていた遺物強奪犯の主犯格と交戦。決着が付く直前にレイナ達がやって来て事態が悪化したとのことでしたね』

『そうそう。情報収集妨害煙幕(ジャミングスモーク)の影響でその場にあった索敵機器搭載型の照明も機能してなかったからってんで、結構な時間掛けて事情聴取したとか苦労話(くろうばなし)風に聞かされたな。……今更だけど俺が聞いていい内容を逸脱してないか? これ』

 

 オルトは遺物強奪犯が収集した遺物の運搬用に用意された巨大な輸送車両とそれを中心として周囲に配置されていた強奪犯のメンバーを襲撃した挙句、合流してきた強奪犯の主戦力の1人と思われる重装強化服を着た者まで倒すに至っている。

 敵同士だ。殺し合いをしたのだと現場の状態とその場にあった索敵機器から取り出した取得情報から明確な情報のやり取りは行なわれていないと判断されてはいるが、殺し合いも立派な接触であることには変わらない。その為、オルトから不明瞭な物であっても情報が漏れないように、何を口止めしているのか、これを明確にしておく必要が有ると都市は判断した。概要を説明した上で多額の口止め料を払い、都市は自分達の失態を隠し切ろうと、舵を切ったのだ。

 

『良いのですよ。そもそも本来失われていたはずの遺物をオルトが()り返したのです。口止め料に加え、明かされた情報に本来掛かるはずだった料金を含めて割に合ったとでも思えばよろしいかと。それに今更騒いだところで既に契約書にサインはしましたからね』

『それもそうか』

 

 ファナに言われ、オルトはそういうものかと納得する。その間にも目の前のユミナは色々と説明していたが、同じ徒党に所属しているだけのユミナと裏の事情をある程度把握しているオルトでは情報の精度が違う。

 結局オルトが知らなかった情報は、その一件を発端としたドランカム内で後ろ指を指され始めたレイナ達の立ち位置などに関してだ。

 

(カツヤは事務派閥……所謂若手派って言われてる連中の旗頭。そんでそこからはじき出された連中がB班と言われるスラム出身の奴等。そいつらを纏めて軽視或いは蔑視してるのが古参派って言われてるドランカムを立ち上げた連中……だったかな。……ユミナが言ってることが正しければ本当にレイナ達はどの派閥にも属してないって感じか。……これなら俺も敵対派閥の協力者、みたいに下手に目を付けられることも無いかな。あるとしたら徒党から支援すら受けられず外部協力者を雇うしかなくなった者達って感じで更にレイナ達の立場が無くなるぐらいだろうけど、……まぁ、知ったことじゃないな)

 

 噂話(うわさばなし)から知れる内情には限度がある。ドランカムは現状内部で様々な派閥が乱立して足の引っ張り合いまで起きている始末だ。その余波が自分の所までは波及しないだろうと判断してオルトはそれで良しとした。

 自分の中である程度の対処方針を決めながらオルトはユミナの話を聞き続ける。時折口を挟んではいるが、それは相手が会話の切り所を見失うような反応だったことに、ユミナは気付けなかった。

 

 

 粗方の話が済んだ後、最後にとユミナは自分達とレイナの間にある問題の解決策をオルトに求めた。しかしオルトにはそんなことを聞かれたところで知ったことではない。少なくともレイナ本人が自分を見つめ直すか、若手派がレイナに向ける悪感情をどうにかしないことには無理だろうと言って、それで終わった。

 ユミナもオルトから明確な案が出てくることは、そこまで期待していない。何かしら別の視点からの突破口でも無いかなという気休め程度だ。

 そしてオルトへの感謝とカツヤが気にしていたレイナ達の現状についての確認。その二つが済めば、(よう)は無い。加えて今のユミナは上からの指示で部隊行動の最中。にも(かかわ)らず自分勝手に動いていると捉えられかねない状況だ。長話に華を咲かし続けて良い訳がない。自分の口だけが良く回っていたことに今更気付いても、相手も同じだけ話してもらうには時間という制約が許さなかった。

 そろそろお暇するとオルトに一言(ひとこと)告げて、急いでその場から去っていく。

 走り去っていったユミナを見送ったオルトは面倒事が(ようや)く済んだとばかりに大きな溜め息を吐いて腰を下ろす。

 その様子を見ていたカナエが声を掛けてくる。

 

「可愛い女の子と話してその態度は無いんじゃないっすか~?」

 

 揶揄うような笑みを浮かべながら話し掛けてくるカナエにジト目を向けながらオルトが答える。

 

「四方八方に愛想を振りまく趣味なんか無いだけだ」

「そうっすか」

 

 オルトはカナエの視線から自分を見透かそうとしてくる感覚を覚え、僅かな不快感を持つ。

 しかしそんなオルトを無視して顔を近付けるカナエが話をガラリと変える。

 

「ちょっとした提案なんすけど、少年、(いま)(ひま)っすよね? お嬢や姐さんが来るまで軽く手合わせでもどうっすか?」

「なんでだよ」

「ほら、さっきも柔軟体操してたじゃないっすか。感心したっすよ? 身体(からだ)が固まったところで急激に動かすと痛めるっすからね。休憩時間もちゃんと有効的に使えるってところは(わたし)的には高得点っす」

「……、で本音(ほんね)は?」

「出番もなければやることも無くて暇っす」

「はたら……、働いてんだったか」

「そうっすよ? 私の仕事はお嬢の護衛っす。有事の際は外敵の排除、自分の身を盾とし護衛対象を護るのがお仕事っす。私が全力を出さないといけないような状況にならないのが一番っすよ」

 

 一応は自分の仕事に信念を持っているということを確認したオルトは少し悩む。オルトは格闘戦の訓練を積んでいる。しかしそれは強化服を介した拡張現実上にのみ存在するファナとの訓練に限定されており、実在する相手が居ない為に限度がある。ファナからも近接格闘術に関しては装備の触覚フィードバック機能の性能的に、あまり高密度な訓練はすべきではないと言われているので、訓練全体の割合からすると極端に少なかったりするのだ。

 格闘戦の技術を実戦で殺し合う以外の方法で積めるのであれば確かに良い機会かもしれない。オルトはそう考えてからカナエを見る。

 カナエがどういう人間性をしているのか、それは未だ測り切れてはいない。少なくとも真人間(まにんげん)だとは言い(づら)い性格をしていることは確かだ。

 銃が広く普及している東部において、相手から距離を取り安全性を確保出来る銃などの遠距離武装よりも、接近戦上等の近接装備を優先して主武装(しゅぶそう)に添える人間は、大抵が頭のネジがはずれているか()じ切れているかの二択になる。同業者であるシオリでさえ、最低限対モンスター用の銃を携帯しているにも(かかわ)らずカナエは小型の拳銃すら持っていないことを加味すれば、その度合いは別格と言えるだろう。

 同時に、レイナを(まも)るという一点に関しては嘘を吐いていないのだ。それ程までに自分の実力に自信があるが(ゆえ)か、自分の(つか)える(あるじ)に対する忠誠心故か、単純に自身の命を低く見積もっているが(ゆえ)か。オルトには分からない。

 オルトは少し悩んだ(すえ)に結論を出す。

 

「前提条件としてそっちには凄く手加減をしてもらう。具体的に言うなら頭を狙ったり、その手甲とかの対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)機能持ちの武装を起動させたりとかは、絶対に無しだ。それで良いなら、だ」

「おっ!? それだけで良いんすか? ならそれでやるっすよ! いやー、言ってみるもんすね! それじゃあさっそく始めるっすよ」

 

 カナエがウキウキしながら車の屋根から降りる。

 そしてオルトもその後に続いた。

 そんなオルトをファナが意外そうに見る。

 

『よろしいのですか?』

『まぁ、制限は掛けてもらったし、気兼ねなく戦える格闘戦の訓練相手ってなると実際貴重だしな』

 

 強化服を着用しての格闘戦は下手をすると相手を殺しかねない。しかし生身で戦うのもそれはそれで危険だ。カナエという存在は強化服を着用した上で、それなりの出力で戦える都合のいい相手ではある。

 

『それにレイナとシオリに関してはある程度の戦力を把握したけどカナエに関してはさっぱりだったからな。(しば)らくは同じチームとして動くんだし、最低限の把握はしておきたい。まあ、あの様子から近接格闘に特化した訓練を積んだんだろうなってのは分かるけど』

『そうですか。万が一の場合はサポートを入れるので、先ずは彼女の胸を借りる思いでいきましょうか』

『そうだな』

 

 オルトとカナエが対峙して構えを取る。カナエは楽しそうに笑みを浮かべているが、向かいに立つオルトは静かに呼吸を繰り返して緊張を(ほぐ)していた。

 

「私は要望通り手加減するっすけど、少年は殺す気で全力を出して良いっすよ。さぁっ! いつでも良いっすよ!」

 

 近接格闘術に関してはオルトも最低限(おさ)めている。だからこそ理解出来る。相手は間違いなく格上なのだと。

 体感時間を徐々に圧縮しながらオルトがカナエとの距離を詰める。

 カナエの視線から先手は譲ると言われていることぐらいは今のオルトでも理解可能だ。立ち位置を左右に振って緩急を付けつつ徐々に加速しながら接近する。そして間合いの中にカナエを収めた瞬間オルトが地面を蹴り、カナエの頭がある最上段に蹴りを放つ。

 手合わせが、(いま)、始まった。

 

 

 ちょっとした提案として挙げられたオルトとカナエの手合わせはお互いの値踏みを兼ねたものだ。だが、その目論見を達成しているのは一方的に攻撃を受け続けているオルトの方だ。

 オルトは初手の攻撃で鋭い一撃を(はな)った。自分の方は頭に攻撃はなしだと言っておきながら、初手から対処に失敗すれば即死しても可笑しくない威力の蹴りを放ったのだ。そんなだまし討ちに近い攻撃を、カナエは上体を逸らして(なん)なく躱し、そして自分の眼前を通った蹴りの鋭さを見て口角を上げる。

 その一撃からある程度の力量を推測したカナエは、即座に攻勢に出た。逆にオルトは最初の一撃は何だったのかと言わんばかりに守勢に回り続けている。

 何発か躱しているが、その数倍の量の(こぶし)を、蹴りを叩き込まれながら少しずつ後退していく。オルトもカナエの攻撃を弾き、躱せるものはきちんと躱しながら(ふところ)(もぐ)り込んで攻撃を繰り出しているが、そのほとんどが有効打にはなり得ないものばかりだ。

 時間が経つにつれて最初は楽しげだったカナエも表情を曇らせていく。その原因は相手への落胆か、失望か、それとも高揚感を打ち消すに足る困惑か。少なくとも強者同士の戦いとは全く言えない手合わせへと推移してしまっていた。

 

(……正直期待外れっすね。(たま)に通る一撃も威力はあるっすけど感覚的に強化服の身体能力で無理矢理殴って来てる感じが強いっす。けど、……うーん、ちょっと違和感があるっすね)

 

 オルトの拳打を受け流してカナエが殴り飛ばす。周囲に衝撃変換光の光が漏れ、その光量がカナエの(こぶし)がどれだけの威力を持っているのかの証左となる。

 オルトとカナエの間に距離が出来て、少しばかりの静寂が訪れた。そしてカナエが僅かな希望に縋るように口を開く。

 

「オルト少年。もしかしなくとも本気出してないっすよね?」

「……さぁな」

「素っ気無いっすねー。あっ、殺したら不味いとか考えているなら問題無いっすよ? 護衛に関しては替わりが来るだけっすからね」

「……、そういう考え方は嫌いだ」

 

 ケラケラと話すカナエに対してオルトは眉根を寄せて不機嫌そうに返す。

 

「おっと、これは悪かったっすね。でも本気を出しても問題無いってのは本当っすよ?」

「……俺としては一緒に行動する奴がどれぐらい出来るのか(はか)れればそれで良いんだけど」

「あー! やっぱり手を抜いてたっすね!」

「別に良いだろそんぐらい」

 

 オルトは呆れ半分でそろそろ切り上げても良いだろうと判断したが、カナエはまだまだ収まりがつかない様子を見せている。

 

「……だったら貸し一つってことでどうっすか? それを対価にオルト少年は本気を出すってことで」

「貸し?」

「そうっす。私に出来る事なら何でも良いっすよ?」

「はぁ……?」

 

 半ば呆れ、同時に悩む様子を見せるオルトを見てカナエは可能性を感じる。

 

「何でも良いっすよ? それこそ、これでも」

 

 そう言ってカナエは自身の胸を持ち上げる。自信があるのかそのままポーズまで取り出した辺りでオルトは呆れ果て、ジト目でカナエを見ることしか出来ない。

 

「他のことでも良いっすけどね! あっ! 流石にお仕事が最優先になるっすからそこら辺は配慮して欲しいっす!」

「……軽い感じで身体(からだ)を売る奴が連日出てくるとか……、はぁ……」

 

 オルトは大きな溜め息を吐いた後、これ以上(はなし)を広げない為に取り敢えずの決着をつけることにした。

 

「分かった。取り敢えず貸し一つってことで」

 

 そうオルトが結論を出したことにカナエは先程までのつまらなそうな気配を消し、満面の笑みを浮かべて答える。

 

「おおっ! マジっすか!?」

「本当に返せよ?」

「返す返す、返すっすよ~! それじゃあ、さっきも言ったっすけど本気で、殺す気で来て欲しいっす!」

 

 軽く返答するカナエの様子に、オルトは内心に抱える半信半疑を表情にありありと出しながら改めて構えを取る。要望を述べたカナエの顔には獰猛な獣のような表情が映っており、下手な手加減も調整も出来ないことを察し、表情を真剣なものへと変えてからゆっくりと一呼吸(ひとこきゅう)入れ、意識的に集中力を引き上げていく。反比例していくように現実の時間が緩やかになっていき、徐々に自分を置きざりにして周囲だけが停滞していくように感じ出す。

 オルトの視界に映る自身の両手が腕から伸びてきた白い金属片を纏い始め、手甲を生成する。カナエの装備よりも数段貧弱に感じる物であれ、そこらの装甲程度なら容易く砕き殺し切れる武装だ。

 消費される可能性のある金属片と確実に消耗するエネルギー。脳裏に()ぎったそれらをオルトは必要経費として割り切り、たかが模擬戦と言えど、たかが手合わせと言えど、使用することに躊躇は無かった。

 

 

 目の前のオルトが構えを取った瞬間から、徐々に気配が変異していくのをカナエは感じ取っていた。先程までの、言ってしまえば自分の攻撃をいなすのが精々で、大半の攻撃を喰らっていた存在とは、もはや同一と言えないと本能が言っている。

 

(やっぱりさっきまでは普通に手加減してたっすか? それとも別の何か、……多分っすけど力場装甲(フォースフィールドアーマー)の強度か展開範囲の調整でもしてたっすかね。誘ったつもりが上手く使われてたってことっすか……)

 

 少しだけ湧いて来る怒りや不満といった感情さえも、今の、全力を出すオルトと闘えるという期待と高揚感が邪魔だと言わんばかりに圧し流し、消し潰した。強者と対峙した時に感じる特有の緊張感が全身を走り、背筋に冷や汗が流れていく錯覚を覚えてしまう。

 黒を基調としたオルトの強化服。その上に羽織っている同色の防護コートによって見え(づら)くなっているが、それでも視認可能な武装がある。両腕の前腕を覆うように装着してある白い腕輪。

 それが形を変えて両手を包み込み手甲を作り出したことで、どの程度オルトが本気を出し、闘ってくれるのか。それを感じ取ったカナエの感情が頂点を突破した。パッと開いた花のような笑みを浮かべたと思えば、次の瞬間には飢えた猛獣のような表情に変わり、瞬間、カナエの足元(あしもと)が爆ぜる。

 オルトの示した本気度に合わせ、カナエも本来の実力を発揮するかの(ごと)く強化インナーの出力を一気に引き上げ、オルトを一瞬で自身の間合いに入れると上段の回し蹴りを放つ。

 その一閃は先程まで行っていた模擬戦で初手でオルトが放った蹴りに酷似しており、当然ながらその軌道上にあるのはオルトの頭部だ。

 当たれば、死ぬ。力場装甲(フォースフィールドアーマー)があっても間違いなく即死するだろう。

 しかしオルトはその鋭い蹴りを上体を逸らし、紙一重で回避した。決して大きく逸らさず()(あし)が眼前を通り、その一閃の余波だけで肉が剥げそうな強風を、頭部に張った力場装甲(フォースフィールドアーマー)で守りながら前に出る。(こぶし)に纏った金属片にエネルギーを回し、対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)機構を十全に機能させた左の拳で、脚を振り切ったカナエの空いている頭部へと狙いを澄まして突き出す。

 

(今のを紙一重で躱して即反撃っすか!?)

 

 少なくとも反応はするだろう。だが、それは退避など距離を取る類いの物だとカナエは想定していた。しかし先程までとは別人なのではとさえ思わせる回避の精度と攻撃までの切り替えの早さにカナエが驚愕と歓喜を覚える。だが、その感情のまま終わらせるなど勿体無いと、地力の差で以て対処を行う。

 自分の右側から迫って来る鋭い拳。カナエは右脚で蹴りを放ったことで体勢が崩れている。だがそれがどうしたと言わんばかりに身体をねじり右手で強引に(はじ)く。

 崩れた体勢では行えない。しかし両足に仕込まれている足場確保機能によって右脚を空中に固定し、更には軸足を補強すれば問題は無かった。少々崩れていようが身に沁み込ませた戦闘技術によってオルトの(こぶし)を軽々しく(はじ)いたのだ。

 

(……ッ!? 軽いっ!?)

 

 そして易々(やすやす)とそれを為し得てしまったことに困惑する。乗っている筈の威力を感じなかったからだ。

 何かが来る。そう警鐘が鳴った。カナエはそれが何かは分からなくとも引き離せば問題無いと判断して左脚を軸に、宙に固定していた右脚で下段への後ろ回し蹴りを放つ要領で眼前を薙ぎ払う。想定通り、なんの抵抗もない。

 だが、オルトの行動だけはその想定を超えていた。

 素早く振るい、戻した()(あし)。オルトは更にその(した)。地面すれすれになるまで体勢を低くしながら軸足になっているカナエの左足へ足払いを放った。そして空中に浮かんだカナエへ止めとばかりに(こぶし)を握り、(はな)つ。

 体勢を戻そうと無理矢理動かした結果、悪い方向へと転がった。両脚を固定化していれば少なくとも態勢を大きく崩されることなど無かったはずの現状。極端な不利的状況に立たされたカナエは、それでも問題無いと言わんばかりに空中で両手両足の力場発生機構を用いた身体制御技術によってオルトへ(こぶし)を繰り出す。

 

(リーチは、……こっちが上っすよっ!)

 

 お互いが生身かつオーソドックスな強化服使いだ。そして単純な身体能力として、身長はカナエの方が高い。この条件下であれば、腕の長さが長いカナエの攻撃が先に当たる。たとえ安定感などない空中で身体(からだ)が高速で回転していようとも、そのような場合の対処方法も知っているカナエにとっては動揺する理由足り得ない。常識までは変わらないと言わんばかりに、オルトへカウンターを放つ。

 その(こぶし)がオルトへ直撃する瞬間、オルトの身体(からだ)が更にもう一段加速(かそく)してカナエの間合いの更に内側へと入る。そしてカナエがカウンターとして突き出した腕を、自分が突き出していた腕で掴んだと思いきや、それを引っ張りカナエの身体(からだ)を強引に引き寄せ、同時にカナエの腹部に強烈な一撃が入れられた。

 カナエの攻撃と引き寄せられた事によって増加した速度にオルトの強烈な一撃が加わったことによって大きく吹き飛んでいくカナエを、オルトは残身(ざんしん)を残したまま、ただ見送る。高く、そして遠くまで飛んでいくカナエは、今()きた一瞬の攻防から発生する充足感と更なる興奮により笑みを深め、そのまま空中を一回転して着地しようとしたところに、蹴りが入った。

 突如入れられた横槍の所為で、上手く受け身を取れず顔から地面に激突したカナエが勢い良く起き上がり、自分達の戦いの腰を折ったものへ憤りをぶつける為に顔を向ける。

 

「……あぁっ!? ()ーいところだったのに! 何するん……す、かー……」

 

 語気が徐々に弱くなっていくカナエの顔に冷や汗が流れていく。

 カナエに蹴りを入れたのはシオリだった。

 オルトとの模擬戦の途中、カナエは折角盛り上がってきた所に水を差された気分になり、その犯人が誰であろうと文句の一つや二つでも言ってやろうと視線を向けたのだが、しかし徐々にその気勢は衰えていく。カナエの視線の先にいるシオリの顔からは表情と言えるものが抜け落ちており、周囲には怒気が満ちているからだ。

 カナエは顔を引き攣らせながら、どうにか落ち着かせなければと思考を回すが良案など浮かばない。しかし自分の次の行動を契機に物理的な処罰が(くだ)りかねない状況だ。助け船でなくともよい。最低限、この場の空気を和らげてくれる横槍でも入ってくれればと命の危機に瀕した脳が回転する。

 しかし残念なことに自分達の仕事に向かったのか、都市へ帰っていったのかは不明だが周囲にはカナエを含めた4人以外、人影は見当たらない。

 シオリの(となり)に立つレイナは既に視線を明後日の方向へ逸らし、徐々に擦り足で離れて行きつつ関わらないようにしている。助けは期待出来ない。

 ならばとオルトへ視線を送る。何でもいい。せめて時間を稼いでくれと願いながら。

 

「ルール違反だ。貸し二つな」

 

 助けは、無い。

 視界の外から何かを引き抜く音が響く。非常に緩慢な動作で首を元の方向へと回すカナエがシオリの方へと向き直れば、その手には陽光を反射して輝く刀が握られていた。

 シオリの冷淡な声がカナエの耳朶を打つ。

 

「首を出しなさい、カナエ。せめて苦痛無く逝くと良いわ」

 

 発言を間違えれば即斬首だ。

 冗談など言ってられない雰囲気の中、カナエは土下座し、必死に謝罪と弁明を続けた。

 

 

 少し離れた位置で土下座を始めたカナエを無視してオルトは全身のチェックを行っていた。

 

『流石にあれだけ殴られた上に体感時間の圧縮率を極端に上げると、残ってた治療効果も使い切るか』

 

 カナエから全身に受けた攻撃の数々。強化服の上からで、力場装甲(フォースフィールドアーマー)有りであっても問題無いと言わんばかりのカナエの攻撃は確かにオルトの身体(からだ)へと明確なダメージを残している。

 それらは先程の救出依頼中に服用し、全身の治療は完了したと判断して待機状態に移行していた回復薬の治療用ナノマシンが再度活性状態に移行するには十分な負傷と見做され、一気に消費された。

 それに加えて最後に行った数秒の戦闘では脳にも負荷が掛かり、その修復にも使用されれば、たとえ骨折程度ならば数秒で治す数百万オーラムの回復薬であっても長時間()つわけがない。

 

『相手の攻撃に合わせて力場装甲(フォースフィールドアーマー)の強度を適宜変更し、接触範囲に対して身体(からだ)に伝播する衝撃を打ち消すのに必要な展開範囲の調整などなど、一朝一夕には()()る者などいません。しかし、以前よりも素早く対応出来ていたと思いますよ?』

『そうか?』

『ええ』

『そっか。なら良い経験にはなったな』

 

 ファナに頼らないで行う近接格闘訓練は無事終了した。

 強化服の性能を十全に活かすために力場装甲(フォースフィールドアーマー)の展開、関節部に展開した時に発生してしまう柔軟性の低下の低減。強化服の出力を限界近くまで引き上げたことで得た爆発的な加速力と、外部骨格とも言える強化服に置いて行かれたことによって生身に掛かった負荷など、まだまだ課題は山ほどあると締めくくると、オルトは息を吐いてゆっくりと疲労を癒していた。

 そこにレイナがやって来る。その顔には理解し難い人物へ向ける困惑と警戒、そして少々の興味が映っていた。

 

 

 レイナは戻って来た時からオルトとカナエの戦いを見続けていた。シオリが介入するべきではないと判断したからという理由もあるが、シオリと同様にオルトという人物を測る良い機会でもあったからだ。

 救出依頼中にオルトの戦闘能力の高さは理解出来た。自分には理解出来ないということが。だからこそ、その時目の前で繰り広げられている戦いに違和感を抱いた。一方的とも言っていいほどにカナエが優勢に立ち、オルトは殆ど攻勢に出れていなかったことで、依頼中に見せた動きが幻ではなかったのかと疑うほどに。

 才能にも方向性がある。カナエがそうであるように、オルトにも苦手なものがある。それが近接格闘だったのだろうかと当たりを付け、内心僅かに安堵したが、数秒掛けてそれはないとレイナは判断した。戦っているカナエは勿論のこと、横にいるシオリですら訝しむようにオルトを見ていたからだ。

 その視線は敵対者へ向けるものに近い疑惑の視線だった。どれだけの実力を有しているのか。そしてそれを一見して追い詰められていようと未だ見せない辺りから、必殺の手札の可能性を考慮して警戒している時の表情を浮かべていた。

 明らかに手を抜いている。レイナ達3人の考えは一致した。

 レイナは(こぶし)を強く握りしめながらオルト達を見続ける。

 

(……、見たい……)

 

 嫉妬も羨望も湧いてこないほどの強者。もし未だに隠している力があるのであれば見てみたいとレイナは思う。

 自分と同じかそれよりも下の年齢でありながら高価で高性能な強化服に身を包み、それに見合うほどの実力を有する1人のハンター。苦労に対して戦果が伴わなければ、装備やハンターとしての歴を理由にする徒党内の同年代の若手ハンターとは一線を画す存在の実力を、今はただ、見てみたかったのだ。

 その思いは、最初は焦りから来ていた。今の不甲斐ない自分をカツヤに見られたことや、そのカツヤの口から語られた、この短期間に挙げた戦果の数々に対して大きく見劣りする今の自分から来る焦り。

 シオリやカナエでは比較にならない。培ってきた年数が違うと心のどこかで言い訳をしてしまう材料になる訓練期間の明確な差。オルトであればそれが無い。それならば何かが分かるのではないか、と。今の自分に足りない何か(答え)が。

 しかし自分では口出しなど出来ない。オルト達の間に割って入るような実力など無いのだ。声を掛け、全力でやってくれと願った所で無視されて終わりだと不思議と理解していた。

 だがそこでカナエが疑問を口にしたことで状況は一変する。その疑問は正しかったのだと、全員の覚えていた違和感は解消された。しかしそれでは本気を出した場合どれほど出来るのかという新たな疑問が、興味が湧いて来る。

 そしてそれもまた、すぐに解消された。

 カナエに貸しを作るという言葉にどれだけの意味を見出したのか。カナエの要望通りの一戦が始まる。

 辺りの気温が幾らか下がったかのように感じる程のオルトの集中力と、敵と認識したカナエへ向ける視線に込められた殺意を感じる、たった数秒間の攻防。さっきまでの手合わせに対する意趣返しかのように放たれたカナエの上段蹴りから始まった交戦は、言ってしまえば一方的だった。先程まで当たっていた攻撃を、オルトは常に紙一重で躱す。受け流しすら必要ないと言わんばかりの距離感で一切引くことなく更に、悠然と前へ。カナエの攻撃さえ利用して()ち込まれた掌底(しょうてい)は正しく致命の一撃だった。

 たったの数秒で終わってしまう程の一戦は、気を()らして他所(よそ)を見ていれば気付く間も無く終わってしまうものだ。だがそれを目の当たりにしていた者達はその数秒に込められた数々の戦闘技術の(すい)を見た。その一片にでも触れた者達に与えた衝撃は決して少なくない。実際、眼前で行われた戦いの全てを理解することの出来なかったレイナは唖然(あぜん)として動けずにいる。

 それはレイナ達の方へと飛んできたカナエに気付くまで続いた。

 

 

 オルトがハンターオフィスからほど近い工場区画方面へと車を運転している。横にはレイナが座っており、何かを話したそうにはしているが言葉に変換できないのか、単純に話し掛け(づら)いのか言葉が発されることは無い。

 

『さっきから本当に何なんだろうな? 話があるならそのまま言えばいいだろうに』

『下手に刺激して顰蹙(ひんしゅく)を買うことでも恐れているのでは?』

『そんな人を危険物みたいな。……いや、スラム出身のハンターとか人の形してる暴力装置みたいなもんだったな』

『1人で解決してしまうと世話のしようも無いですね』

『全くだ。護衛とは言え折角人生経験の長い2人が付いてるんだから頼ればいいのに。……ん? なんか今、俺の方に(そし)りが来なかったか?』

『頼ることが恥ずかしいと思っているのでしょう。今までそれで問題無かったからこその固定観念ですね。あと、気の所為ですよ』

『ふーん、気の所為かー』

 

 気にはなるが、その程度。それ以上にでもならない限り優先事項からは蹴り出されるぐらいにはどうでも良いとばかりに、自分の方を見てくるレイナを無視しながらオルトはファナと雑談を続けていた。

 向かう先は工場区画の入り口付近だ。次の依頼は救出依頼ではないが、現在のミハゾノ街遺跡では特に必要とされている遺跡内外を通る安全な通路の確保作業だ。

 市街区画は当然として工場区画内にも取り残されているハンター達や、その者達の救出に向かい、連絡が途絶えた者達を救出する為にも多くの人員を要する。しかし多くのハンターを送ろうにも徒歩では時間も掛かり、救出した後の護送にも支障が出るということで、可能な限り工場区画内にまで比較的大型の車両でも通れる通路の確保は必須だ。

 だが工場区画では機械系モンスターが製造されている関係上、想定される危険度は確実に跳ね上がる。強力なモンスターの討伐が前提であるこの依頼の報酬額は、その(ぶん)高値に設定されている。シオリはそこに目を付けた。

 急遽(きゅうきょ)稼ぎを増やす必要が発生したのだ。端金であっても報酬額の高い依頼を受け、少しでもそこへ充てるために多少の危険性は許容した。今回オルトを雇うに至った経緯などを踏まえて、ミハゾノ街遺跡の鎮静化に繋がるであろう様々なことに従事する腹積もりだ。

 なお、当のシオリは現在オルトの車の荷台の中で、正座している金を稼ぐ必要性を生み出した原因であるカナエを、冷気が幻視出来るのではと思うほどに冷ややかな双眸で以て見下ろしていた。

 

「貴女が蒔いた種ということは理解しているのよね?」

 

 非常に冷淡な声が車両の駆動音を無視してカナエの耳に響く。カナエはコクコクと頷き肯定を返す。

 

「そう。それで足りない場合は貴女の給料からオルト様への報酬の上乗せという形にするけれど、文句は無いわよね?」

「え、えーと。オルト少年とは貸しという形で落ち着いたというっすかー……。あれにも一応の意味はあったというか意義はあったというかー……、ひぅっ! 無い! いえ、ありませんっす!」

 

 徐々に言い訳じみた言葉を口にしだしたカナエに対して、シオリは腰に携えた刀に手を添える。それと同時に放たれ始めた圧に完全敗北したカナエは全面降伏を示した。

 その光景を荷台に置いてあるバイクの索敵機器で精細に捉えていたオルトは、折角掃除したのだからやり合う時は車外でやって欲しいと、どこかズレた考えをしており、それを察することが出来るのはこの場では最も近しい位置にいるファナだけだ。

 

 

 オルト達がミハゾノ街遺跡の工場区画、ハンターオフィスの出張所からほど近い場所にある大通りの中に侵入して与えられた警備位置へと移動している。

 既にハンターオフィスの職員が用意した制圧部隊や、大通りの整備を行う為の重機などが準備を終えており、安全な経路確保の為の封鎖区画製作に動いていた。当然ながらその中にも多くのハンターが集められており、順に遺跡内へと送り込まれ、封鎖区画外から近付いて来る機械系モンスターの対処を任されている。

 

「随分と多いな」

 

 その集団に混ざって制圧区域の最前線付近まで移動しているオルトはぼそりと呟いた。

 その声は周囲の喧騒にすぐに搔き消される程度であったが、警戒の為に情報収集機器を最大効率で動かしている者達には届く。そしてオルトの近くにいたレイナがおずおずとした様子で聞いてきた。

 

「えっと、何が?」

「ああ、いや、色々とあるなと思ってな」

「そう? よく見る光景じゃないの?」

 

 レイナからすれば、オルトと自分とでは絶対的な境界線があるほどに荒野(こうや)で生きている存在だ。その為、多くの依頼等で都市の用意した車両や重機などは見慣れているものだと思っていたが(ゆえ)の疑問だった。

 

「あまり見ないな。というより俺のハンター稼業は基本的に遺跡探索と遺物収集が基本で、依頼を受けるとしても汎用討伐とか自由度の高いやつに限られるんだよ」

「そうなの? それにしてはハンターランクが高い気が、あっ……。ごめんなさい。変な意味は無いの」

「別に気にしないから自由に話してくれていい。おずおずされて伝えるべきことを(おろそ)かにされる方がこっちも困る」

「そ、そう? 分かったわ。さっきまではあまり良い態度じゃなかったわね。ごめんなさい」

「ああ、謝罪は受け取った。……それでさっきの回答だが、それだけの遺物をハンターオフィスに買い取りに出しているからだな。基本的に1人で動くから、都市やハンターオフィスの掲載してる特定地域下でのモンスター駆除依頼は大抵効率が悪くなる。人数に応じた担当範囲になると個人で動くハンターの警戒範囲は狭くなるし、かと言って少人数で活動してる者同士で臨時のチームとか組まされたくもないからな」

 

 オルトはそう言って締めくくる。

 

「そう。いろいろ……考えてるのね」

 

 そんなオルトのハンター活動に対する認識を聞いたレイナは、自分はどうかと考え、そしてそこまで深く考えたことなどなかったと悔しさと自嘲を混ぜて軽く笑う。

 その様子など気に介せず、オルトは淡々と続けた。

 

「死ぬからな。考え続けないと」

 

 そう呟いたオルトの様子からレイナは不用意な言葉は言えなかった。それだけ強いのであれば易々と殺されることも無いのではないか、という言葉が脳裏を()ぎったがそれすらも言えないほどにオルトの放つ気配には、弱者としての、ある(しゅ)の持たざる者としての覚悟と、濃密に凝縮されたことで覆い隠された苦悩が込められていたからだ。

 その小さな身から放たれているとは思えないほどの重圧を間近で浴びたレイナは、ただただオルトの横顔だけを見つめてしまう。

 しかし、それを怖いとは感じることはなく、そのことに気付いたレイナは自分の中に湧きあがってきたものが何なのか、(わか)らないでいた。

 

 

 ハンターオフィスから伸びる工場区画までの安全な経路を作成する為の依頼は、たいした脅威も発生することなく終了した。

 ミハゾノ街遺跡全体に配備される機械系モンスターの製造場所である工場区画は、当然のことながら市街区画よりも危険性が高くなる。それは偏に製造されてから配置されるまでに掛かる時間だったり、異常事態の発生によって予定されていた輸送経路の使用が困難になり配置箇所へと配備出来ないという問題が起きた際に、輸送が滞ることがあるからだ。

 既に製造済みの機体が工場区画内の倉庫に保管されていたとしても、その輸送経路が真面に機能しないのであれば戦力としては期待出来ない。

 その原因の大部分は現在ミハゾノ街遺跡に訪れているハンターだ。

 市街区画内を多くのハンターがチームを組んだり、セランタルビルまでの経路確保に従事しているおかげで輸送中のコンテナを撃墜することも珍しくはない。別段、彼らの扱う情報収集機器が非常に高性能である訳ではなく、接敵した機械系モンスターとの戦闘中に発生した流れ弾が運悪くコンテナに着弾し、その存在が露呈しただけに過ぎないということが数度発生している。

 これらの事態により市街区画内から機械系モンスターが溢れるということはなくなっていた。

 しかし工場区画は違う。そちらへ進めば進むほどに機械系モンスターを乗せたコンテナの輸送経路は安全になる。当然、遺跡側の、だが。

 それは単に工場区画まで来るハンターが少ないからという理由ではなく、他所の企業が所有している場所を通る必要が無いからだ。契約事項上、権限的に使用可能な輸送経路には制限がある。だがそこに自由度が生まれ、そして実際に工場区画内から市街区画へ運搬される旧世界製の光学迷彩機能付きのコンテナと工場区画内で配備するだけの二つには大きな差が生まれていた。

 昨日発生した異常事態によって遺跡中に配備されていた機械系モンスターが、それぞれ担当していた警戒範囲を外れ始めたことにより、その後に製造されている機械系モンスターも同じように警戒範囲を無視しており、当然他社の私有地であっても移動経路として使用可能な状態に陥っている。

 地続きである以上、機械系モンスターの発生源となる工場区画内から輸送用のコンテナを使用せず市街区画へと移動する機体も大量に存在しており、それらは工場区画内へ多くの人員を送り込むために安全な移動経路を確保しようと、進路作成に従事している物資輸送用の大型輸送車両や大型重機の駆動音に引き寄せられ、数えることも億劫になる程の量が襲撃を仕掛けてくる結果となった。

 勿論ハンターオフィスの職員もその程度予想している。その為、大量の武力要員を雇い、その作業中襲い掛かって来る機械系モンスターの排除、及び車両(など)の護衛を行わせていた。

 その中にいたチームの一つがオルトを含めた4人だ。

 主にカナエが前衛に立ち、その後方からオルトとレイナが銃撃を繰り返して作業の邪魔に成り得る機械系モンスターの群れを逐一排除し、周辺に散らばった機械系モンスターの残骸などは都市が遣わした者達によって、回収可能な物は速やかに車両に積み込まれてハンターオフィスのある方向へと消えていった。

 そして再度群れが現れれば殲滅し、その残骸は回収されていく。

 それを日が傾き、地平の彼方に付きそうな時間になるまで何度も繰り返していた。

 態々モンスターに接近してまで接近戦を行う者がいた所為で、その作業警戒の依頼にやってくるハンター達が一度はオルト達の方へと視線を向ける。その人物の装いがメイド服だったことも拍車を掛けており、難易度を見誤っていた者は注意散漫になり敵の攻撃を喰らい、時にはそのまま死ぬものまで出ていた。

 こちらに視線を向けていた者が注意を疎かにして死んだという事実に対し、オルトは気付いた上で大して気にすることもなく銃撃を繰り返す。荒野(こうや)に出て注意散漫でいることの末路の一つだからだ。

 そして隣で戦っていたレイナはそもそも気に掛ける余裕すら出来なった。自らの前方で縦横無尽に駆け回り、機械系モンスターの頑丈な装甲ごと殴り壊しているカナエがいる。当てないようにと強く意識しなければならないほどに、オルトが貸したK2R複合銃の威力は高く、そしてその(ぶん)反動も強い。

 オルトが戦力増強と殲滅速度向上の為にと渡したK2R複合銃の反動は、元よりオルトの強化服の性能に合わせて調整されたものだ。レイナの使用する強化服では、使える、という程度が(せき)の山であり、オルトのように両手に握って四方八方へ銃撃をするなどということは出来ない。そのような真似をすればレイナの身体(からだ)が先に悲鳴を上げる。

 その為、散発的に発生する機械系モンスターの襲撃に対する警戒と、襲撃を受けた際に求められる高い集中力。そして戦闘が終了するまで継続しなければならないという精神的負荷により、依頼の終了時、レイナは無傷でありながら体力が底を突いていた。

 銃撃に意識を割き過ぎて、自分を狙っている個体がいるという事実に気付きながらも、避けるという動作を取れなかったことが、後半、何度もあった。そして避け切れないと判断した銃弾はカナエが手の甲に力場装甲(フォースフィールドアーマー)を発生させて(はじ)き、シオリがレイナを引き寄せて回避させ、レイナへ着弾する筈だった銃弾の弾道予測線にオルトが身を割り込ませ銃口を合わせて宙を駆ける銃弾ごと機械系モンスターを撃破するなどして防ぐ。各々がそれぞれの中にある手遅れという判断基準の擦り合わせも行なわれていた。

 後追いではなく、起きた瞬間に認識可能なほど才能がある(ぶん)、レイナの精神に掛かる重圧は重さを増していく。

 

(……気付くのか、それとも気付かず終わるのか。……いや、俺の趣味嗜好は勝手についてくるか。あとで良いな)

 

 拡張視界で常に捉え続けているが(ゆえ)に、オルトにはレイナが内心で現状に圧し潰されまいと必死に藻掻いていることが分かる。

 だが正論や答えという固形物を飲み込むには今のレイナの思考は一辺倒に過ぎ、受付(うけつ)け無いことぐらい予想がつく。だからそれをどうにかする方法を知っていたとしても教えることなど出来ない。それは更に強く反発させるだけだと知っているからだ。

 下手に助言して意固地にさせるぐらいであれば、という思考すらも頭の隅に捨ててオルトは仕事を優先する。

 




Ⅳから構成むっずい

Ⅵ下はある程度整理できるんだけど

一話にどの程度の文字数が読み易い?

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  • 5001~10000
  • 10001~15000
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