リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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好評価、感想、それとここすきとかいう機能も見るの好きなので是非


・第三十九話 名義

 

 防壁と一体化(いったいか)しているクガマビル内にある一室。信用や財力的な都合により防壁内に住めない者たちの中でも、防壁内に住む者達基準で良識を持っている、そして素行も良いと判断され、(さら)に、その上で都市に利益をもたらす存在だと認識されることで、一定の水準を満たしたと判断された者だけが呼ばれたりする部屋。多目的に使用される為、一般的には会議室として開かれているが(もっぱ)らの用途(ようと)がそちらなだけで、前者の用途でもしばしば利用されている。

 そんな一室の中では現在、呼び出した者に(たい)し、呼び出された者が殺意も乗せた視線を向けていた。

 当然呼び出した者は都市職員であるキバヤシで、呼び出された者はハンターのオルトだ。経済を回す(がわ)に立つことが可能な者と経済の流れに従う(ほか)ない者。2人の間には東部という経済区域下において、信用の差という絶対的な(へだ)たりが存在している。

 クガマヤマ都市の職員、そしてハンターオフィスの職員まで兼業しているキバヤシはこれまで様々な功績を挙げて現在の地位に昇りつめた。その最中(さなか)身に着けた交渉術や都市の上層部ですら把握できていない独自の情報網は、全貌(ぜんぼう)が不明瞭という危険性を理解してなお、キバヤシという人材を斬り捨てるには惜しいと思わせるほどに()(がた)い効力を誇っている。

 (たい)してオルトはと言えば、若手でありながら30を超えるハンターランクになり、新興ではあるがハンター向け装備の製造企業から少々過剰ではないかと思わせるほどの優遇措置を受けていたりと、見る者にハンター歴とその内情が掛け離れているところから、その裏にある見えない実績と企業が認めたという実力を想像させる存在なのだと自然に認知させる者だ。だが所詮はハンターだ。それも東部ではありふれたランク50未満の低ランクと呼んで差し支えの無い存在に()ぎない。()いて捨てるほどいる。それで済む存在でしかない。

 そんなオルトが、キバヤシに敵意や殺意の(こも)った威圧をぶつけるなど失礼な態度どころでは済まない。非常識と言える。そこらのハンターならばそのようなことは決してしない。そんなことを仕出(しで)かすと、今後のハンター稼業中どのような制裁(せいさい)が行なわれるのかという恐怖がつき纏うことになるのだ。徒党に属するハンターや行儀の良いハンターなら絶対にしない。

 実際、その良識を兼ね備えている者達はそれを()の当たりにして顔色が非常に悪くなっている。横から見ているレイナはいま、ここに呼ばれたことに後悔し始めており、シオリはオルトの臨戦にほど近い状態を感じ取った瞬間から即時の対応が可能なように身構えていた。カナエも流石に笑っていられず、シオリに遅れることなく警戒状態へと移っている。

 都市職員を相手に、それも中位区画と同水準の警備態勢が敷かれているクガマビル内で、銃は流石に抜かないだろうと誰もが思っている。思っているのだが、目の前にいるオルトからは本気で銃を抜く可能性を感じていた。

 座っているから安心。両手を机の上に置いているのは交戦の意思が無いことの担保。可能な限り周囲へ漏れ出している激情を行動へ移さないように気を付けているのだと。

 そうとも取れるが、ならばそれが一つでも消えたらどうなるのか、という最悪な想像が駆け巡り、嫌に冷たい汗がそれぞれの背中を(つた)う。常識的に考えて、などという甘い考えは既に頭の片隅(かたすみ)にすら残っていない。

 そしてキバヤシの、オルト個人への依頼だ、という一言が放たれてから数秒、オルトが口を開く。

 

「……俺の状況を知っている。さっきそう言ってたよな?」

「ああ、言った。それを加味した上で、お前に依頼を出すべきだと上は判断しているわけだ。悪いが強制だ。他所の都市に引っ越す予定でもない限り、断らないほうが良い」

 

 オルトの機嫌は一切良くなっていない。それどころか視線が更に鋭くなりキバヤシを睨み付けていた。その状況でキバヤシは至って真剣な表情で応対する。

 

「一応利点を挙げるとするなら……」

「知るかよ、そんなもの」

「……ほう?」

 

 だが、それをオルトが一蹴した。

 

「報酬がうまいとか支援が厚いとか言われたところで知ったことか。言ったよな? 俺は既に雇われてる。後からしゃしゃり出てきて、それを反故(ほご)にしろと?」

 

 いつもより数段低い声が静かに響く。キバヤシはその声に乗った殺気を受けてなお、真剣な表情を崩すことなくオルトへ向き合っている。

 だがレイナ達は別だ。この場で張り詰めている緊張感に比例するかのように気を張り巡らせていた。

 そしてシオリが顔を(ゆが)ませる。事の経緯を順に理解したことで、現状を作っている要因の一つが自分にもあるということを(さっ)したのだ。

 唐突に都市から個人への依頼が発注されるとは想像だに出来ない出来事。それも対象はたかがハンターランク30台、加えて言えばハンターになってからたいした期間も経っていないような若手ハンターに。予測しろなど言われても流石に無理がある。

 誰もが理解し同情を向けてくれるだろうが、今必要なのはオルトの機嫌がこれ以上悪化しない何かだ。

 オルトが怒っている理由が、自分の出した依頼を権力を笠に横槍を入れ強制的に破棄させることならば、この場でシオリが自分から破棄を申し出れば良いのかといえばそうとも限らない。逆にその(たぐ)いの発言をした時点で臨界を超える可能性が高い。この場で急に依頼を現段階で終了とすれば、都市が圧力を掛けて自分に強制したのだという解釈ができてしまう。破棄をするにしても自然な流れを作らなければならないが、良案は浮かばない。

 カナエもレイナも黙っている。何かしら助け舟でも出せればいいのだが、それを契機にオルトの次の行動が始まりかねない。それでは首を絞めるだけだ。シオリもそれを理解しているからこそ責めるような視線を向けることもなければ、言葉を胸の内で浮かべることもない。逆に思考の邪魔となる。

 同情するならば誰か案を出せとシオリが心の中で叫んでいるとキバヤシが口を開く。

 

「その依頼の破棄に違約金が発生するってんなら都市が払おう。そのぐらいなら問題無い。無茶を言ってるのはこっちだからな」

「そういうんじゃねぇ……! 俺は傭兵じゃねぇよ……。ハンターだ!」

 

 キバヤシの譲歩とも取れる提案にもオルトは(かたく)なに拒否を返す。剣呑(けんのん)な雰囲気の中、それでもオルトの(はっ)した言葉から周囲の者たちの中にあるオルトという人物像(じんぶつぞう)が形作られ、それを(もと)にした事態改善案が形成されていく。

 

「なるほどな……」

 

 そしてこの場でそれを一番早く()せる人物はキバヤシだ。都市の職員として、そしてハンターオフィスの職員として(かず)多くの交渉事を纏めてきた実績があり、その相手の中には都市一つ程度なら単騎(たんき)で相手取ることの出来る武力を持った者なども含まれている。その者たちを怒らせず、納得させ、ちょうどいい塩梅(あんばい)の依頼を斡旋(あっせん)し、戦果を挙げさせ、そして都市はその結果に(じょう)じて経済を活性化させるのだ。下手な交渉などすれば更に武力を()して、厄介になった相手に吹き飛ばされかねない。最悪、その都市を中心に一帯が更地と()す。そんな状況でも笑って話を纏められるだけの度胸と腕前を備えている。周囲にそう信じられているからこそ、そういった者たちの相手をさせられており、それに比例するような権限を与えられているのだ。

 キバヤシが真面目な顔で少し思案した後、小さく呟く。

 

「それなら話は少し変わる……か」

 

 交渉を開始して少し(つまづ)いた程度で脅しに切り替えることもない。かと言って諦める訳でもない。結果を変えることなく、そこに辿り着くまでの過程を少々変更すればいいだけだ。

 今回で言えばオルト個人をそのまま抜き取れればそれで良かった。だがそのままではオルトの中にある、ハンターとして依頼主への向き合い方、どう()るべきか、というその理念とは添えない。下手に押し通せば他都市へ移転するだろう。圧力を掛け続けると反発を生み、将来的に都市が得られたはずの利益が消え、最悪被害を(もたら)す。

 そうならないよう、調整ぐらいはする。下手(したて)に出る事はしないが、今回急な割り込みをしたのは都市側(としがわ)だ。柔軟な対応、多少の手間程度は誤差の範疇だった。

 

「よし分かった! お前の言い(ぶん)は俺もよく分かる! そういうチマチマとした損得勘定に縛られず無茶苦茶(むちゃくちゃ)を押し通す奴は結構いるんだ! そうそう、そうだよな! お前はそういう奴だ!」

 

 金さえ積めば即座に味方を裏切り、先程まで敵だった者たち側に回る者。傭兵と呼ばれる者たちのことだ。

 利益至上主義が普遍的に一般常識、思想として東部で生きる者達の中に定着しているからこそ依頼主が払う金額の多寡(たか)だけで、殺し合いの真最中(まっさいちゅう)であっても自分の付く(がわ)を変える者も一定数存在しているような東部でも、それを忌み嫌う者はいる。敵側にどれだけ好条件を提示されたとしても裏切ることなく、自分の信条と雇い主への義理を押し通す。

 たとえそれで収支が赤字になったとしても、死んだとしても、それを理由に後悔はしない。矜持(きょうじ)を持って仕事をしている者にとって、利益とは増やすものであって更新するものではないのだ。

 キバヤシは、仮令(たとえ)としてオルトが出した、傭兵ではなくハンター、という修飾語の無い、ある意味で曖昧な、ある意味で明確な線引きがされているその二つの、オルトの中で存在する差異を察した。つまり、今、都市の職員としてここにいる自分に対して、一文(いちもん)にもならない状況でありながら、たったそれだけの理由で威圧し、あまつさえ敵意まで()き出しにしてきたのだ。

 都市を敵に回すことの重大さを理解できない馬鹿ではない。オルトはそんな無能共とは違う。無知者では断じてない。それを知っているだけに、その分キバヤシは上機嫌になり、笑い始めた。

 置いてきぼりな者たちをそのままに、キバヤシが笑い続け、それがようやく収まってきたところで(おもむろ)に身体の向きを変えた。

 

「シオリさん。そちらに依頼を出したい。少々婉曲的な内容になりそうなのだが構わないだろうか?」

 

 不意に話を振られたシオリだったが、それでも視界の中に映るオルトの様子から恐らくこの選択は正解なのだろうと信じてその話に乗る。

 

「……是非、お(うかが)い致します」

 

 そしてキバヤシとシオリの間で、オルトという戦力を使いたい(がわ)とオルトという戦力を保持している(がわ)での交渉が始まる。

 場に満ちていた緊張は一気に(やわ)らいでいった。

 

 

 シオリがキバヤシの対応を始めたことで部外者となった者たちは室内で大人しくしている。

 オルトも急にシオリの方へ話が向かったのが自分の所為であることは自覚しているため、邪魔だけはしないようにと交渉中の2人から少しだけ離れた場所に座ってキバヤシが共有した遺跡内の情報を読み込んでいた。その顔に先程までの激情は映っていない。教科書に()っている応用を(かさ)ねた難しい問題を解いているかのような、微妙な(けわ)しさのみだ。危険性は低い。どこか気の抜ける表情だ。

 その横にはカナエがいる。何が面白いのか、笑顔が崩れることはない。いたずらに口を挟むこともなく、黙ってオルトの操作する情報端末を一緒に覗き込んでいる。

 シオリとカナエの間で、暴発の可能性は下がったとはいえ危険性は残っているとしてオルトに対する防波堤を作るべきという判断は一致していた。シオリが交渉で動けない以上、カナエがそれに対処するのは当然と言える。そしてそれを口に出すことなく、そして他者に気付かれないように意思を統一することが両者には可能だ。

 問題として、カナエの強者との戦闘を求める性分ゆえに、オルトの激情が再燃して全霊を賭しての殺し合いにまで発展することを望んでいる(ふし)がある。レイナの護衛という主業務に就いているが、同時にそういう思いもあり、何かが起きたら良し、起きなくとも良しという思考になっている。死地に切り替わる可能性がある場所へ非常に楽しそうにしながら近付いていった。その為、身近な人の近くへ行くかのような感覚のまま(きわ)めて自然な形でオルトの隣に座っている。

 殺意も害意も敵意も持っていない。それゆえにオルトはカナエが肩どころか胸が触れるような距離にいようと然して反応しておらず、カナエのちょっとばかりの要望は叶いそうになかった。

 そしてその護衛対象であるレイナは、動けずにいた。

 殺意を向けられること自体は荒野(こうや)に出ればありふれている。荒野(こうや)や遺跡を徘徊しているモンスターは旧世界の施設が現代人を不審者か侵略者と認定していることから、認識を共有されて駆除に動いている面がある。機械系モンスターにその傾向が多いが、生物系モンスターもその認識からハンター達を襲ってきているのだ。機械系は分かり難くとも、生物系モンスターの向けてくる視線は餌を求めているだけでは説明がつかない執着を感じる場合がある。それが成長過程で手にしたものなのか、それともどこかの施設で製造過程で書き込まれた感情なのかは不明でも、持っていること、向けてくることに違いはない。

 ハンターとして荒野(こうや)に出て戦っているレイナもそのような殺意を向けられたことは何度もあり、慣れている。少なくとも本人はそう思っていた。

 だがオルトのものは違った。無意味に、無遠慮に、無作為に、乱雑に振り撒かれる(たぐ)いのものではない。本来出てくるはずの無いものが姿を現しただけ。必要に応じて。

 意識的にその差を理解することは出来ない。だが、自分の中ではそれらは別物だという答えが何故か出ていたことに、室内から不穏な雰囲気が無くなったことで先程のことを思い返せる程度には回復した頭で、レイナはその違いについて考えていた。

 そのレイナの横でシオリはキバヤシが話す内容を聞いている。そこから想定される難易度から自分達を省き、その上で相当な武力を保持しているオルト個人へ指名依頼が来るだけはあると思い至って、ひとり頭を悩ませていた。

 

(……先日見せて頂いたオルト様の戦闘能力、それが全力の域に達していないことは承知していましたが……、まさか我々を欠いた状態でも支援さえすればセランタルビルの中層までなら確実に問題無いと都市(がわ)に思わせるほどとは…………)

 

 シオリはただ話を聞いているだけ。それでもオルトというハンターは非常に扱いづらい人物なのだと、今更ながら実感する。

 

 

 クガマヤマ都市(がわ)はオルトという個人戦力を、少なくともその程度は可能だろうと想定している。勿論喧伝することはしない。その戦力を試算する際、先日の賞金首との戦闘記録も参照している。その記録の中にはドランカムのカツヤ派が主導した過合成スネーク討伐時の情報は当然として、アーミーマメストラ討伐時のものも()じっていた。クロサワ達から提供された情報収集機器の取得情報を、ハンターオフィスが解析した後、都市もその情報を共有してもらい別途解析に回している。過合成スネークの本体が生きていたという事実も相まって、それは入念に行なわれた。

 40億を超える生物系モンスターの賞金首。驚異的な生命力を持つ存在の討伐完了を確認する為に、万が一を消そうと僅かな情報も見落とさないように何度も一から解析し直したことで、その場にオルトがおり、主戦力として、戦略の主軸として戦ったという痕跡が見つかったことで、都市側はそれを認識した。

 これにクロサワの落ち度を問うことは出来ない。所詮は一介のハンターと都市に雇われるほどに高い解析技術持ちの専用要員を比べるのは非情が過ぎる。そもそもその辺りの技術力に差があるからこそ、ハンターオフィスや都市が討伐完了と発表することに説得力が増すのだ。

 誰に対する説得力か。防壁内在住の富裕層や権力者、賞金首認定のモンスターに対抗する(すべ)を持たない者たち、そして賞金を懸けた輸送業者たちへの説得力になる。彼ら彼女らに教える内容は、倒した、危機は去った、その程度でいい。

 下手に情報を(おお)っぴらに喧伝(けんでん)すれば、それを隠しておきたかった者たちが怒る。この場合はクロサワ達とオルトだ。ハンターをただの外部の武力集団の一部と認識している者は多い。(かろ)んじた行動を自由に取らせるとその対象のハンター達が都市から離れるかもしれない。都市に銃を向けるかもしれない。そのような危険性もある。

 片や長期間クガマヤマ都市に拠点を置いて活動してきた信用のあるハンターとそのチーム。都市も信用を持って依頼を出し易く、クガマヤマ都市で経済活動に勤しんでいる商人や金融業者たちも(かね)を回してくれる。

 片や経歴やハンターランク、見た目からは想像だに出来ない武力を保持しているハンターだ。信用は低い。それでも依頼の達成率やハンターオフィスに持ち込まれる遺物の質と(かず)は馬鹿に出来ない。その上、少々都市の不祥事に詳しい者でもある。他都市に渡るのは避けたい人物だ。

 様々な理由が肉付けされた後、軽い緘口令が解析班の者達に敷かれてその実情を知っているものは制限された。都市にとって必要な事実は誰が倒したかではない。対象が倒されたかどうかであり、安全が確保されたかどうかなのだ。

 報酬として掛けられた懸賞金も掛けた者が払う。(くだん)の賞金首に都市は賞金を懸けていないので痛くも痒くもない。

 倒されたことが確認出来た以上、それ以上を追及することはしない。

 だがその結果に即した事実は今後も多いに活用する。今回がそれだ。

 

 

 キバヤシから一通りの内容を聞かされたシオリが思案を続ける。

 その方向性の主軸となるのは自分の(あるじ)であるレイナの安全性が保たれるかどうかだ。キバヤシから提示された依頼の該当区画はミハゾノ街遺跡でも危険度の高い工場区画と、危険性を(はか)る事さえ不可能なセランタルビルの二つ。加えて現在ミハゾノ街遺跡全体で異変が起きている最中であり、当然両方ともその渦中にある。

 

(最低限必須とされる戦闘能力、その基準をオルト様とし、比較すれば幾分か下がるでしょう。……しかしそのラインを超えられるのはこの場では私とカナエのみ。お嬢様では……、足を引っ張るだけか……、最悪の場合…………)

 

 自分とカナエならば問題無い。この件を上に報告すれば自分達の(もと)に送られてきている装備の中から数段(うえ)の性能を持つ物を、現在は過剰と見做(みな)され使用不可とされている装備の使用許可が下りる可能性が十分ある。シオリはそう確信していた。

 だが懸念もある。

 

(お嬢様の装備更新自体は即座に可能。性能も申し分ない。出来ればそちらを使用して欲しいのですが……)

 

 チラリと横目にレイナを見る。そこには難しそうに悩んでいる姿が映るだけ。先日まであった焦燥感や、カツヤと会話した際に見られた悲壮感も感じられない。成長したのか、それともそれが小さくなるほどの何かが心の内を占領し始めたのか。それを推し量ることはここでは難しい。

 だが好機でもある。シオリはそう判断した。

 最悪となるボーダーが下がったからか、それとも何らかの事象によって最悪に近付いた、若しくは押し上げられたからなのかは判別できない。

 以前(すす)めた際には危機感を理由に()げたこともあったがそれでも折れることはなかった。だが今回は名目上だけではない。文字の羅列だけで終わりに出来ない説得材料がある。避けられない事実だ。上手く行けば、そう言った言葉がシオリの中で徐々に大きくなる。

 それらの情報を一旦纏め上げてからシオリがキバヤシへ問う。

 

「可能であれば都市が保有している該当区画の地形情報などを閲覧しても構いませんか?」

「ん? それならさっき共有しただろう?」

「いえ、もう少し詳細のものを……。クガマヤマ都市が保有している中で最も精度の高いものを頂きたいのですが」

「うーん……、無理だ。こちらも無闇に情報が拡散することは避けたい。契約書にサインしていない状態で渡せるものは、その程度だ」

「……そうですか」

 

 現状キバヤシからシオリ達へ共有可能な情報として遺跡内の地図情報や発見報告のあがっているモンスターの脅威度など、普通ならば契約を為していない状態で明かしてもらえるものではない情報も渡されている。そのことに気付いたシオリは再度視界の端にいるオルトへ意識が向いた。

 

(つまりは契約状態でない現在でもある程度の情報開示が許される、問題がないと判断されている、()しくは……)

 

 再度キバヤシに意識を戻す。

 

(こちらの(かた)がそれだけの権限を持っている……。どちらにせよ情報を仕入れやすい伝手を作っていることに違いはありませんか……)

 

 疑問はある。疑念も残っている。しかし今はそれで納得した。心の内でも呟き、シオリはそれで現状を済ませる。変に(かん)()ってばかりでは話は進まない。

 キバヤシも明かせる情報は全て渡した。勿論伝達順を考えてからだ。都市から交渉役を自分から引き受けておいて駄目でしたは困る。シオリ達がどう思うかは別として、どちらかは選んでもらう必要があるのだ。

 

「さて、そろそろ決めて欲しい。こればかりに時間を掛けてはいられなくてね。まぁ、強制はしない。だが準備にも時間が掛かるだろう? ()かして悪いが善意も含んでいることは知っておいてくれ」

 

 雰囲気としては笑っているが、それでもどこか真剣さを感じさせるキバヤシの一言。それを聞いてシオリも腹を(くく)る準備をする。

 目の前に置かれた二つの選択肢。どちらを選ぶべきか。それを後押しする最後の情報を求め、一呼吸入れてオルトへと顔を向けた。返答によって、決断される。

 

 

 オルトがバイクで下位区画を走っている。目的地はオルトが懇意にしている店。ハンター用の武装を取り扱っているトライフワーデンだ。

 キバヤシとの交渉が済んだ後、それぞれの情報端末にキバヤシから弾薬費立て替えの識別コードが送られてきた。長期戦略部がこの依頼を出している以上、想定される危険度に応じた準備は必須。かと言って一介のハンターでは出せる金銭には限度がある。それで足踏みをされ、時間を無駄に浪費されては都市も困る。準備程度さっさとすましてもらい、依頼を達成して欲しい。

 その為の制度だ。

 4人分のコードが入った情報端末を見て、オルトはクガマビルでも見せていた呆れ顔になる。

 

『これ、解釈次第だけど結構やばいことになるよな……。大丈夫かな……』

 

 オルトの情報端末に入っているのだ。シオリ達が権利を放棄したとも取れる。それを無闇に使えば都市から悪い方向で目を付けられかねない。そういう思いもあり、オルトは心配していた。

 

『問題ありません。既にキバヤシから許可も下りています。そうした面についてもシオリは交渉の一環として挙げていましたからね』

『でもこれ、各部隊員に対して渡した物だろ? それをこう……、一本化して使っても問題無いのか?』

『それについてはシオリ達の都合もあるのでしょう』

『つごう?』

『彼女たちは仮にもドランカム所属のハンター。そのため、弾薬やエネルギーパックなどの消耗品は徒党を通して使用するのが普通です。ですが今回は事情が少々違います』

 

 オルトの心配が杞憂なのだと教えるためにファナが一つずつ丁寧に疑問の解消を行なう。

 クガマヤマ都市に拠点を置くハンター徒党は、徒党に利益を還元し易い状況を作り出すために所属するハンター達に帰属意識を持たせたい。ならばどうするか。簡単だ。使用する諸々の装備の所有元を徒党にしておけば良い。

 そして装備は徒党側で用意できるのだから、報酬は他の物に注ぎ込めばいいだろうとそれとなく徒党員に促していく。その成功例として、ドランカムの若手達はこの短期間に平均値を大きく上昇させている。本来徒党に入るはずだった金銭的報酬も都市へと渡す。その金銭(ぶん)、都市から報酬の旨い依頼を斡旋してもらったり、都市と伝手のある企業から装備を安く供給してもらったりなどの優遇措置を求めればいい。都市は内部で金銭の流れがあったと帳簿を付けるだけ済み、内々で溜まった金で装備を大量購入して企業とのパイプを太くしつつ、都市内に拠点を置く高い倫理観を持ち、行儀の良い徒党へ余ったからなどの理由をつけて流した装備を使用して貰う。

 都市からの依頼を忠実に(こな)してくれるハンターが多数所属している徒党なのだ。さらに力を付けたハンター達に都市周辺のモンスターの排除や、遺跡の攻略を頼めばその循環は徐々に大きくなっていく。

 大きな徒党には多くのハンターが所属したがる。所属すればその徒党の決まりを遵守しだす。徒党も都市からの覚えが良くなると徒党員に周知させるので都市に悪感情を持つハンターが減っていく。長期的な施策の為、進行は遅い。だが、ゆっくり進めれば常識として根付き易いというメリットがある。

 そのような流れを作りたがっている徒党からすれば、物資の入手経路の途中に自分達を介在させたいはずだ。実際シオリ達は自分達の装備で使用する消耗品の幾つかは徒党を通していた。以前までは。

 だが、最近では激化する徒党内の派閥争いの影響で若手派からは実質的に追い出されており、古参派からは若手派と見做(みな)されて距離を取られている。その所為で徒党からの支援はもはや皆無と言って過言ではない。

 だが今回の件はその都市からの直接の依頼だ。弾薬費立て替えコードを下手にシオリ達で使うと面倒事が増えかねない。厚かましくも自分達もその依頼に合流させろと言ってくるかもしれない。依頼を実際に開始するまでの時間の()きにはそれが可能とさせるだけの猶予が存在する。

 そんな事実は無いのだと隠す。自分達にはそんな依頼、回ってきてなどいないのだとしておく為に自分達の購入履歴に残すことはしない。

 オルトにそれを使用させるのにはそんな思惑(おもわく)がある。ファナはそう()めた。

 

『つまりはなんだ、シオリ達って所属している割にドランカムとは仲が悪いってことか』

『それもあるでしょう』

『それもって、他にも何かあるのか?』

『ええ、あると思いますよ。推測ですが……』

 

 走行中のバイクの横でニコニコと笑みを浮かべながら浮遊していたファナが、急にバイクの前方へと移動して、どこか意味ありげに微笑む。その様子にオルトが僅かに目を逸らした。思い当たる(ふし)があるからだ。

 

『下手にドランカムの干渉を受け入れると今度こそオルトが暴走するかもしれませんからね!』

………………はい

 

 都市の職員相手でも自身の矜持(きょうじ)と理念を押し通そうとしたのだ。そんな存在がそこらのハンター徒党から上から目線で協力してやるのだから利益を共有しろ、大半を寄越せなど言われれば間違いなく、オルトは銃を抜く。シオリはそう察していた。オルトも否定はしない。舐めた態度を取った相手に殴りかかった瞬間から戦争という陳腐な争いは始まるのだから。

 どちらの依頼に従事するにしても、シオリには最低限の時間は必要だ。シオリは自分達の為に可能な限りの偽装を行ない、徒党からの干渉が入るまでの時間を引き延ばした。

 その一環として自分達に配られたコードをオルトに一本化し、自分たちはその物資の流れへと関与するという形を取る。他所(よそ)のハンターが自分用に準備をしているだけ。そう思わせる。自分達が依頼に着手するまで露見しなければ良いだけだ。遺跡の中に入ったあとならば、命令が下ろうと状況次第で突っぱねることも容易になる。

 それらの工作のために、トライフワーデンへ向かうオルトの後ろにはカナエが付いて来ていた。

 荒野(こうや)仕様の大型バイクで都市を走行している若手のハンター。その後ろに抱き着く形で相乗りしているメイドという様相は、それを目にする者たちにそれとなくオルトへ抱く困惑や嫉妬などを主軸とした印象を形作らせる。オルトの着用している強化服や銃の価格を知っているものにその傾向は多かった。

 

 

 トライフワーデンはここ数日、昼間の内に客が来ることはあまり無い。クガマヤマ都市に拠点を置くハンターの多くが、異常事態を起こしているミハゾノ街遺跡の事態鎮圧用の依頼を受けている影響だ。

 夜間の遺跡では視覚情報が減ることから情報収集機器の索敵性能が下がる。それはハンター達の間では常識の一つだ。そのため日の出ていない時間帯の仕事を嫌がる者も少なくない。

 それにより、多くの者は早朝か夕暮れの時に銃弾やエネルギーパックなどの消耗品の補充に訪れる者が多い傾向になっていた。

 仮に予想以上に弾薬などの消耗が激しかった場合は、ミハゾノ街遺跡周辺に集まっている商売人たちがそれら消耗品を商機と考え、大量の消耗品を販売しているので態々都市まで戻って来て再度遺跡へ向かうことはしない。荒野(こうや)での販売の為、消耗品の一つ一つが荒野(こうや)価格として少々高めの値段設定になっているが、都市まで戻り、購入し再度遺跡へ向かうことに比べれば、時間的な収入も遺跡と都市までの間に生息しているモンスターと遭遇して戦闘する危険性などを考慮すると、荒野(こうや)価格で購入することも大して痛手にはならない。

 よって都市のハンター向けの製品を取り扱う店舗へ昼間に向かう者は減っていたのだ。

 それはトライフワーデンも同じだった。

 カウンターに立っているエルが客からは視認できない場所に設置してあるタブレット型の情報端末で店内の在庫を確認していた。

 

(やっぱり機械系に効果の高い銃弾類が多めに売れてるよね。まだまだ異変が収まる様子はないから多少多めにその系統の弾薬を仕入れておいた方が良いのかな……? でも遺跡の異変って急に始まれば急に収まる場合もあるって聞くし、下手に大量入荷すると在庫で倉庫が圧迫されるんだよね~。パパもそれを嫌ってウチの品揃えから外れた製品の仕入れは慎重に……、というか基本無しにしてるんだし……)

 

 自分の父親から店番を任されているエルは客が居ない時間帯を使って、近頃ハンター達が購入していく製品の偏りを店の売上から推測し、それを(もと)にした商品の仕入れを行なうための店舗経営の勉強を行なっていた。如何に高性能な製品が店にあろうと、客層から想定される敵よりも標的が弱い場合、それを使用すると費用対効果が割に合わないと敬遠されるだけ。逆に強い場合には、さらに高性能な製品に手を伸ばすので不必要になる。客層に合わない高性能な製品など無用の長物。モニュメントにすらならない。

 たとえひよっこだとしても商売人の1人だ。下手に不良在庫を溜め込むことの無いように仕入れは慎重に行なわなければならない。いずれは携わる業務の一部。最近のハンター達の使用する消耗品から流行りを、その点々と変化する周期を知識として蓄えて、準備しておくに越したことはないのだ。

 様々な文字や数字、変遷とそれを簡易に纏めたグラフなどが映っている情報端末とにらめっこをしていたエルの耳に入店を知らせるベルの音が響いた。

 即座に客向けの良い笑顔を浮かべ、入店してきた客へ応対する。入って来たのはオルトだ。エルの浮かべていた笑みが相手の顔を見て一層深まったあと、その後ろに付いて来ていたメイドを見て固まった。

 

 

 オルトはトライフワーデンで相談をしている。

 入店してきたオルトを見たエルがお客様へ、そして友人へ向ける笑顔を向けたのだが、その後ろからメイド服を着ているカナエが入店してきたことでその笑顔が固まった。オルトもその反応は当然だろうと頷くしかない。防壁外で暮らす者たちは基本的にメイドとは(えん)(どお)いのだ。そのため執事を含めた従者と呼ばれる者たちに対する固定観念から、ハンター向けの製品を扱う店舗に来るなどない。

 そんな存在が自分たちのような荒事に関わる商品を扱う店に来たことに加え、ハンターとは言え同年代の友人と言える者と一緒に現れたこと、そして何よりもカナエのオルトに対する距離が何となく近い気がしていたことが、非常に気掛かりだった。

 だが今のエルは業務時間内の身。その疑問は一旦()いておき、客からの要望に応える義務がある。

 カウンターでオルトとカナエから自分たちの置かれている現状を聞いたエルは、即座に自分の裁量を超えていると判断して休憩中だったカオルを呼び出した。

 そして表に出て来たカオルは無事なオルトを見て僅かな安堵を、そしてその隣にいるカナエを見て困惑を胸中に覚えながらも商売人の顔を崩すことなく、接客を始める。

 主にオルトから状況を聞き、そこにカナエからの補足説明を交えながら詳しい内容を把握していたカオルは、一先ず都市から渡された識別コードを確認しようと提案した。そして調べたカオルは少し険しい顔を浮かべ、それを見たオルトが僅かに肩を落とす。

 

「……間違いなく都市が発行したコードだ。しかも、何だこの(がく)は? 立て替え金額の上限が5億オーラムになってやがる……ッ!?」

「ご──ッ?!」

 

 カオルの驚愕の声と共にエルは呆然としており、オルトは顔が引き攣り、カナエは我慢できなかったのか吹き出していた。

 

「オルト少年! 随分と買われているっすねっ!」

 

 楽し気にカナエがオルトを褒めるが、オルトはその所為で危険な場所へ行く羽目になるのだ。良い気分になどなれない。

 

「嬉しそうだな。代わってくれてもいいんだぞ? ……それで、計20億ってことか? 太っ腹だな」

「いや、他は一律2億オーラムってところだ。まぁそれでも全体のハンターランクからすれば異様な金額なのには変わらんが」

「……俺の分だけキバヤシが上乗せでもしたか…………?」

「何をどうしたら都市の立て替え金の増減処理に関われるような職員と伝手が出来るのやら……」

「無理無茶無謀を仕出かす奴が好みらしい。俺は慎重派だっていうのに……」

 

 落ち込み始めたオルトに、慎重派は無理があるだろう、と今まで仕出かしてきた事をある程度推測しているカオルと、収集した情報に加えて先日の機械系モンスターとの戦闘などを見ていたカナエはそう思い、片や呆れを含んだ笑みを、片や耐え切れない笑い声が漏れ始める。

 カウンター近くまで下がってきたオルトの頭をエルが撫でながら話を本筋へと戻す。

 

「それで、どうするの?」

 

 あくまでも立て替え。使用した分は後で報酬から差し引かれる。最悪報酬が大した額にならずに口座から使用分がおろされてしまう。しかし潤沢な弾薬がオルト達の安全に寄与してくれることに違いはない。

 オルトも立て替え金額の高さに驚いた側だが、トライフワーデンへ着くまでにある程度決めていたことだ。具体的な金額を聞いたからといって変えるつもりはなかった。

 3人の視線を受けたオルトは改めてその意思を、決断を下す。

 

「全額使おう」

 

 その言葉を聞いたカオルが一応最終確認とばかりに真面目な顔で問う。

 

「良いのか? 合計で11億オーラムだ。ここらでそんな額を稼ぐようなハンターはそういない。下手をすれば借金になるんだ」

「ああ、使う。助かることに違いはないし、金で安全を買えるんだ。可能なだけ買っていく。死んだら報酬もクソも無いからな」

「そうか。なら、そうするか」

 

 オルトの意思が固いことを確認したカオルが頷く。

 部隊全体で使用する弾薬の(たぐ)いやエネルギーパックの容量、他の武装に関するもの、それぞれ幾つずつで揃えるのかの相談にはいろうとしたところで、カナエが介入する。

 

「あっ、そこでちょーっと私から注文があるっすよ!」

 

 全員の視線が楽しそうに笑顔を浮かべているカナエへと集まる。

 

「ただ、あまり大っぴらに話すこともないっすし、丁度良い場所とか無いっすかね? 問題無いって感じならここでも良いっすけど」

 

 どこか軽いカナエの様子に、カオルが訝しむ。だがオルトが連れてきた客であり、この依頼の最中同行する者だ。無碍にも出来ない。同時に恰好を含めて良く分からない人物だ。

 どう対処するべきかと少しの逡巡の後オルトへ視線を向け、同様に眼を向けられていたことで視線が交差する。

 危険はない。少なくともそう取れる(たぐ)いであることを読み取ったカオルがカナエを店内の奥へと案内していった。

 

 

 カオルとカナエが居なくなったトライフワーデンのカウンターでは、話に置いてけぼりのエルと大凡の推測を立てた上で確証はないと反証も上げ続けているオルトが同じように溜め息を吐いてから、目を見合わせる。その目には事態に対する困惑と想定できる面倒事を感じ取った精神的疲労も見て取れた。

 だがエルの方には時間が経つごとにそこに元から持っていたであろう感情が混ざり始める。

 

「そ、う、い、え、ば~、……オルト君とあのカナエさんは、どういう関係なのかな~?」

 

 口も、雰囲気も非常に明るく、笑顔であるにも拘らず、目だけは笑っていない。何かしら地雷のようなものでも踏んだのだろうかと考えたオルトだが、別段カナエとの間に隠し事など無い。誤魔化す気もないので素直に答える。

 

「同じチームの……、メイド……?」

 

 かと言って形容する言葉が見つからない。想像するメイドとかけ離れた存在がカナエだ。シオリならば、その所作や纏う雰囲気からまだ理解出来る。だがカナエはその辺りが適当で、よく言えば豪快、悪く言えば粗雑な面が目立つ。

 そもそも今日合流した時点で顔を合わせたのは三回目だ。時間にしたら半日も経っていないだろう。

 それでもオルトは相手側の判断の基準などを知るために、レイナ達の挙動の一つ一つを観察して自分に与えられた役割を(まっと)うできる様にとしているので、ある程度人間性の把握を終わらせている。

 ある程度は説明できることはある。オルトは(はぶ)きつつ答えていた。

 

「オルト君ってチーム組むの嫌ってなかった?」

「固定で組むことがないってだけで、雇われたりしたなら別だな」

「ふ~ん……」

「なんか意味深な返事だな」

「べっつに~?」

 

 先程までの不満気はどこへ行ったのかと言わんばかりに、今度はニヤつき始めたエルに対してオルトは疑問符を頭の上に出し始める。

 それでも何か良いことでも思い付いたのだろう。そしてそれは自分を貶めない(たぐ)いの考えだろうと推測を出し、オルトはこの話題はもういいだろうと一旦その会話を終わらせた。

 

 

 その後、オルトはエルと共に歓談を楽しんでいると、店の奥から楽し気なカナエと、内心の疑問を隠そうとしているカオルが面手へと出てくる。

 ここからは自分たちも含めて調達物資の調整が始まるのだろうと考えていたオルトだったが、それを口にしたあと、それはもう済んだのだとカオルに言われた。流石に自分の居ないところで勝手に決められた物を持って遺跡に行く気はオルトにはない。説明が欲しいと述べると、横からカナエが情報端末を差し出してくる。

 オルトはそれを受け取り、そこに書かれた内容を読むと僅かに眼を見開いた。その内容を共に見ていたファナも少々意外そうな顔をする。

 なるほどと理解したオルトはもう、これといった用事はない。そしてカナエはこの場所に用はあったがそれは終わり、ハンター稼業以外の用事が何かしらあるのだろうと察した。

 オルトはカオルとエルに一言告げて退店していく。カナエもその後に続き、バイクで防壁の方へと向かっていった。

 

 

 昼間に客が訪れることが少なくなっているトライフワーデンでは、エルが夕方ごろに来るであろう団体さんや、チームの物資調達要員として来るハンターなど用に棚卸し作業をしている。その者達も下手に大量に物資を調達して使わず仕舞いになると、不良在庫を抱え込むことになってよろしくない。機械系モンスターように調整された銃弾は、基本的に貫通力を高めるように製造されていることが多く、生物系モンスターに対しては有効打になりにくいからだ。銃撃の腕に自信があり、実際に生物系モンスターの弱点部位に的確に、狂いなく、そして群れに遭遇してもその群れ相手にそれを実行できるのであれば問題は無いだろう。だが、そんなハンターであればもっと東側へ行く。そんな腕を持っていながら東部中央付近でしかないクガマヤマ都市で活躍したところで得られる金や名声は高が知れている。

 なので大抵のハンターは自分たちが赴く遺跡に生息しているモンスターが生物系か機械系か、そしてどんな生態をしているのか調べたりした後に、それらに有効的な銃弾を予備も含めて慎重に購入していくのだ。馬鹿みたいに大量に買うことはない。だが予備はきちんと買っていく。トライフワーデンの客層は、ハンターとしてそれなりに成り上がった者たちがメイン層だ。強い弾丸ならどんな相手にも通じるから取り敢えずそれを買う、ということはあまり起こらない。

 だが今日トライフワーデンに来たオルトは違った。以前までは自分たちが教えた通り結構その常識に沿った購入品目だったのだが、いきなり消耗品代のみで10億を超える金額を提示してきたのだ。オルトも()()には驚いていた。エルは()()に気付いている。その上で、オルトの驚きは自分にそれだけの資金を提供してきたという事実に対してだけであり、金額に対してではない。エルはそう感じていた。そしてその勘のようなものを、エル自身が正しいと理性すら後押しをしたことで確信となっている。

 ならば疑問も残る。今までオルトの使用する消耗品代はどれだけ高額でも一回につき1億を超える様なことはなかった。桁が億に届いただけでも驚愕しても良いはず。それが一段飛んで11憶だ。驚愕どころではないだろう。が、金額自体にはどこか納得を見せていた様子のオルトに、エルはそんな金額を消耗品代、若しくは経費として使用した経験でもどこかで積んだのだろうと推測した。

 流石にその金額をどこで手にして、どのように使ったのか。そこまでは分からない。こじつけは出来る。だが妄想の域を出るようにはならないとして、エルは考えをいったん棚上げした。

 

まったくもう、オルト君は無茶ばっかりする……

 

 いつか問い(ただ)してやろうと心に決めたエルが倉庫の入口からカオルが入って来るのを見つけた。

 

「パパ―。もう終わったの?」

「ああ、すんなり終わった」

 

 その言葉に引っかかりを覚えたエルが聞く。

 

「すんなりってことは、……それだけ大量だったの?」

「量といやぁ量だが、大部分は質の方だ」

「質?」

「あぁ、────」

 

 カオルは明かせる内容を少しずつエルへと話していく。そして徐々に困惑を含んだ表情へと変わっていくエルの様子に、カオルは自分も同じような顔を浮かべていたのだろうと僅かに笑った。

 

 

 その二日後、予定通りの商品がトライフワーデンの倉庫に卸され、それはそのままオルトが受け取り荒野(こうや)へ共に向かっていった。

 エルはオルトへちゃんと帰ってくるようにと念押しし、そして満面の笑顔を浮かべて送り出す。その姿が荒野(こうや)へと消えるまで、ずっと。

 そして店内へと戻っていく。オルトにはオルトの。自分には自分の職務がある。小遣いを貰っているような感覚にもなるが、店主であるカオルから給料も出ているのだ。他人の心配ばかりしてもいられないと気合を入れてカウンターへと入った。

 脳裏を過ぎった嫌な予感を外に残して。

 

 

 ミハゾノ街遺跡の外周部。その荒野(こうや)との境には、クガマヤマ都市に支店を置いているハンターオフィスの職員が出張所を施設している。その場所に建てられていた旧世界製のビルの中で頑丈かつ、都市との経路を確保し易い位置という条件を満たした一棟の内部を、一部くり抜いたり改装、増築などしてハンターオフィス・クガマヤマ都市支部の出張所へ変貌させていた。

 それを行ない、維持するだけの価値がこの遺跡にはある。工場区画から送られてくる機械系モンスターは生物系とは違い、正しく設計図を(もと)に製造された遺物の一種だ。欲しい部品や装甲板などがあれば半永久的に取得できる状況がこの遺跡では続いている。

 買い取りには一層力を入れており、横に併設されている駐車場や買い取った機械系モンスター、そしてこの施設の防衛用に用意された重装強化服や戦闘車両、人型兵器を格納しておく倉庫などを含めると、出張所全体は結構な敷地を占有していた。

 そして現在、その格納庫に収められていた重装強化服など防衛用装備は全て駆り出されている。ミハゾノ街遺跡全体が異変を起こしている影響で遺跡どころかその音や光などによって荒野(こうや)側からも時折りモンスターがやって来るのだ。大抵は出張所周辺に敷かれている多数のハンターチームの簡易拠点や哨戒中のハンターが対処するが、それでも所詮はハンター。いざとなれば自分たちだけ逃げる奴らだと、ある意味で信用されている者たちでしかない。依頼などで縛っていたとしても、命と金、それらを天秤に掛けた時、どちらを重んじるかは言うまでもないのだ。

 そしてそんなハンター側の1人であるオルトは、その出張所の一室に来ていた。市街区画へと送り出されるハンターの1人だからだ。シオリ達とも荒野(こうや)に出る前に合流しており、その室内で依頼の詳細な説明を受けている。といっても先日の交渉時に予め概要は頭に入れており、今しているのはその時から変化した状況についての擦り合わせのようなものだった。

 今回のミハゾノ街遺跡での騒ぎの発端は、本来の警備範囲を超える機械系モンスター、或いは遺跡全域を警備範囲とする新手の警備機械の存在だ。よってその出現範囲を抑えることで騒ぎを抑制できると考えられている。

 そしてその出現元と判断されているのは工場区画と、市街区画のセランタルビルだ。

 工場区画とはその名の通り幾つもの工場が建ち並んでおり、そのなかのどの工場が出現元なのか判明させることが困難となっている。工場区画全域を簡易防壁で囲うにしてもそれは費用が掛かり過ぎる上に人員の配置も容易ではなく、現実的ではない。よって対象の機械系モンスターの製造元、或いは出現元を探すところから始めている。

 既にシオリは担当の職員と認識している情報の擦り合わせを終えて、レイナやカナエを連れて一度駐車場に停めてあるオルトの車両へと向かっていった。トライフワーデンで購入した商品の一部はレイナ達の物だ。なにをどれだけ持ち込むのかはレイナ達次第である。オルトは既に準備は完了しているので、少々暇な時間が出来た。暇潰しと今後の備えとして、説明を終えた職員から自分たちが関わらない方面の状況について軽い世間話程度に聞いていた。

 

「生還率が5割って、……大丈夫なのか?」

「……まぁ、現時点での生還率だし死んだと決まった訳じゃない。お前、先日工場区画方面の経路製作に関わっただろ? 知ってるだろうが工場区画はデカい建物が多いんだ。だから籠城に適した場所も少なくない。救援が間に合えば助かる奴も出てくるだろう……」

「それでまだこれといった情報が手に入ってないんだ。もっと多くのハンターを送るんだろうけど、大丈夫なのかねー」

「撤退の判断はハンター達に渡している。何を以てヤバイと判断するのかは不明だが、その情報を持って帰るのがハンター達の仕事だからな。……そもそも、今からセランタルビルに入るお前がそれを言うのか? 危険度だけで言えば不明って点で大して変わらんだろ」

 

 担当の職員が言った通り、オルトはこれから市街区画へ向かって中心に近い場所に建つセランタルビルへの進入を(はか)るのだ。その危険性に関しては職員もある程度知っている。逆にオルトは今日ここに来るまで詳しい状況は知らなかった。

 現在セランタルビル周辺には多数の簡易防壁を建て並べて完全に封鎖している。工場区画方面から進出してくる機械系モンスターの対処も行なっているため、市街区画内を徘徊するモンスターの数は減少しており、市街区画全体を見た場合、事態収束に向かっていた。

 ただしセランタルビルに関しては全くの手付かずだ。その理由として内部から出現する大量の機械系モンスターの中から、時折り場違いなほどに強力な個体が現れていることが挙げられる。全身に機銃を取り付け貫通性能を持った強力な弾丸を無尽蔵に撃ち出す個体、数門の砲台を取り付けその威力を以て荒野(こうや)仕様の大型車両でも一撃で大破に追い込む個体、この出張所に配備されている人型兵器の火力を集中させてもなお数分は持ち(こた)えるほどの防御性能を持った個体など。小型の個体群も()ることながら、それに加えて出てくるそのような個体は(そう)じて大型で、そこらのハンターでは太刀打ちできない。一応の封鎖網は敷けたが、それが関の山で状況が改善されたという訳ではなかった。

 担当者も現場班からそのような大型個体の危険性を聞かされている。この出張所に用意されていた機体の何割かは既に大破して廃棄したという報告も含めてだ。クガマヤマ都市の防衛隊や近場の都市にいるハンターオフィスの実行部隊などに応援要請を飛ばしているが、返答は芳しくない。

 余りにも強力な兵器を用いてセランタルビルを刺激すると、今はこの程度で収まっている騒動が悪化する恐れがある。必要に応じて戦力を用意するが、必要以上に用意して、それが明確な敵対行為とみなされた場合、セランタルビルが完全にクガマヤマ都市を敵性存在と定めかねない。未だにその全貌が明らかになっていない旧世界の施設を相手にそれは出来かねる。二の足を踏ませる原因でもあった。

 

「それに関してはもう諦めたよ」

「おいおい、都市だって死にに行かせる為に立て替えコードを発行した訳じゃないぞ?」

「違う! 依頼を受けるか受けないかって不毛な言い争いをすることをだ! 行かなくて良いなら今からでも行きたくないんだぞ、こっちは? それともあんたが取り消してくれるのか?」

「ああ、悪かったから落ち着いてくれ。そんでもってそっちも諦めてくれ。俺が上に(なに)()っても依頼の取り消しは起きない。そんな権限、俺にはないからな」

 

 オルトの落ち込み様から本当に心の奥底から行きたくないのだろうと察した担当者だったが、現状を放置しておくと危険なのは自分たちも同じなのだ。その安全を確保する為にこの場には大量の兵器が防衛用に用意されており、このような事態を比較的安価に行なう為に目の前のようなハンターがいる。

 ただし、その様子から何かしら断り切れない事情持ちなのだろうとも推測していた。コンタクトレンズ型の表示装置を用いてオルトを含めたチームの情報を表示させる。

 

(コイツのハンターランクは……32か。若手のハンターにしちゃ結構高いな。装備も良いもん使ってる。だがな……、子供にしてはってだけでセランタルビルに突っ込ませるには足りないだろう。何となくそこまで強そうには見えないし……)

 

 担当者の男はオルトの様子を横目に確認しながら思案を続ける。オルトの情報を()っ込めて代わりにレイナ達の情報を大きくした。

 

(そうなるとやっぱりこっちか。ドランカム所属で派閥間闘争からも距離を置いてる奴らだったはずだ。そうなると若手達に斡旋してるランクの上がり易い依頼は受けていない。……あのメイド服を着てる2人は強そうだった。恰好は別として。そしてこのレイナっていう奴の装備は結構良いモンだった。こいつのとイーブンってところか? 稼いでいるのか、それともどこぞの令嬢が酔狂でハンター稼業を興じているのか。……こいつもそれに付き合わされているって感じかな?)

 

 正答を得る必要はない。そう考えて適当に推察を終えた担当者は今も落ち込んでいる様子を見せているオルトを見て少し楽しそうに笑った。

 

「まぁ、お前も大変なんだろうが頑張ってくれ。撤退の判断はそっちで決められるようになってるし、既定の時間通りに戻ってくれば迎えも行くんだ。それでいい情報を持って帰ってくればそれで依頼は達成だ。死なないようにな」

「あー、うん。……よし! ま、出来る限りはやって来るよ」

 

 先程までの鬱屈した様子を晴らして、更に気合を入れるようにオルトは意識的に顔に笑みを浮かべてからシオリ達の(もと)へと向かっていった。その様子を見ていた担当者は今度は口からも笑いを溢す。

 

「ドランカム関連って聞いてたから心配してたが、あんな奴もいるのか。……ん? あいつは所属はしてないんだったか」

 

 オルトの様子を思い出しながら担当者は次の仕事へと向かっていく。

 

 

 担当の職員の仕事はこの遺跡に集結している多数のハンターから集めた情報から正しいものを取り出して次に遺跡へと向かう者へと説明することだ。そのため、この遺跡に来ているドランカムの者とも顔を合わせることがあるのだが、功に焦っているのか話半分程度しか聞いてない者、最低限の学すら無いのか理解していない者、事が上手く運んでいない理由を自分たちに向けてくる者など様ざまだ。当然そんな人物だけではないのだが、いやに多い。感覚的なことでしかないが、担当者はそう感じていた。

 それがカツヤのチームに最近加わった者たちに多く、最初期から加わっていた者たちに少ないことから、相対的に印象の好悪化(こうあっか)が発生していることに気付いている者は居ない。

 




傲慢10系アイドル育ててたら凄く遅くなりました。

セランタルビル周辺はちょっと難易度上がってます(旧世界基準で)
誰の所為なんでしょうね。

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