翌日からオルトは、カツラギの移動店舗兼トレーラーの護衛をしていた。既にカツラギのトレーラー内の高価な貨物は客に渡っている。最前線と呼ばれる危険地帯から輸送されてきた品だ。最低額が億の桁の商品ばかりで総額はオルトでは計り知れない。
しかし、最前線からクガマヤマ都市までの経路で雇った護衛の代金や、オルト達への緊急依頼の報酬などで、経費が予想以上に嵩んでしまった。
結果としてカツラギの一世一代の大勝負ともいえる賭けに勝った割には手に入った利益はそこそこの黒字と商品の輸送をしたという記録だけになった。
商品が金に変わったことで、エレナ達に報酬は支払われ護衛期間は終了していた。オルトは金から物に変わるまでとしているため、その日もカツラギのトレーラーで周囲を警戒しながらファナと雑談していた。
『オルト、アキラから通話要求が来ました。どうしますか?』
『アキラから? 起きたんだな、良かった。繋いでくれ』
ファナを介して通話に出る。アキラの通話内容はエレナ達を助けた際、そこにだれがいたのか言っても大丈夫かというものだった。アキラの口調は少し困っているように感じたが、オルトからしてみればその場を去った後の内容にとやかく言うつもりはなく、話しても構わないが直接的な謝礼などは受け取らないと伝えるとアキラとの通話を終了した。
アキラとの通話を終えた後、ファナから問いかけられる。
『オルト。あの時のことは隠しておかなくても良かったのですか?』
『別にいいんじゃないか? エレナ達は回復薬について礼を言いたいって言ってたし、アキラがそれを踏まえて彼女らに説明するか否かは向こうに任せるよ』
オルトにとって回復薬の恩がエレナ達の中に残るもので、強盗もどき達を殺したのはその中に入っていないと考えていた。ファナが得心したように顔に微笑みを浮かべるのを見てオルトも仕事に戻ることにした。
休憩時間にカツラギに車両についての要望を聞かれていると、外に出ていたダリスがカツラギを呼び出した。アキラが女連れで話がある、という内容だった。
「アキラか。昏倒してぶっ倒れた後だってのに、女連れで顔を出すとは随分余裕だな。で、話ってなんだ? 商売人に話を持ちかけるんだ。儲け話以外はお断りだぞ?」
アキラが挑発気味に笑う。
「それはカツラギの商才次第だな」
「なら儲け話だな」
カツラギも余裕の笑みを返した。
アキラが連れてきた少女。名前はシェリルというらしいが、彼女はスラムで徒党のボスをしている。アキラが収集する遺物を優先的にカツラギの店に売る代わりに、その彼女に便宜を図ってほしいという内容だった。
オルトは少し離れたところでその様子を見ながらアキラの提案について考えていた。
(アキラは俺が知っている限り、碌な装備も持っていない時から遺跡に入り遺物を持って生還している。ファナがいる俺とはその難易度には隔絶したものがあるだろう。ファナからの援助品もあった。差は更に広がっている。最近では俺達が入れる部分には他のハンターが多くいて、モンスターよりも厄介な奴らも居たはずだ)
それでもアキラは生き残っておりスラムから脱却するに至っている。提案を飲んだ際の利益は十分なものの様に思えた。
カツラギも似たような結論に至ったのか一瞬口角を上げる。が、訝しむような視線をアキラに向ける。
「俺もアキラには借りがある。それに遺物の買取は金になる。確かに検討に値する儲け話ではあるな」
『取引成立か?』
「まあ待てって。それを決める前に幾つか聞きたいことがある。まずは、お前と彼女の関係からだ」
カツラギは色々と値踏みするような視線をシェリルに向けた。シェリルの緊張が高まり、アキラは少し不思議そうにしていた。
カツラギの疑問に一つずつアキラが答えていき、最終的には取引成立という形に終わった。カツラギはシェリルに握手を求めるがシェリルは固まっており話しかけられるまで動くことが出来ず、やっと動いたと思えば、カツラギに握力、視線、言葉で脅されていた。
オルトもその行動理由は分からないこともない。スラム街の倫理観など終わっている。食事一回分、銃弾1発分の端金で昨日まで隣にいたやつが裏切る。先程まで笑いあっていた仲が崩れ去る。オルトに残っている記憶にはそれが鮮明に残っている。
一定の信用を保った真面な取引をするならば、初めに脅しておいてある程度引き締めさせたほうが良い。
オルトはその問答を傍から見ながら各々の心情や事の成り行きを見ていた。
(シェリルの見た目は悪くないし、象徴として部下は集まりやすいだろう。労働力の確保は早く済むだろうな。統制が取れるかは別として。……アキラはあまり徒党に関与するつもりは無さそうだけど、彼女を連れて取引をしに来るくらいの仲? にしては無関心さが目立つ。カツラギはアキラを買っているからでシェリルのことはほとんど気にしてなさそうだ。まあ、妥当な気がする)
カツラギから安い情報端末を購入したアキラは、シェリルにそれを渡して帰ろうとしていたが、2人を残してオルトの方へ近づいていった。その顔には神妙な様子が窺えた。
「後遺症なんかがないようでなによりだ」
「ああ、ありがとう。……サラさんにはあの時の事を話した。オルトのこともだ。オルトの要求も話しておいたから何かがあるって訳じゃないと思うけど、出来れば他には話さないでくれ」
「ああ分かった。俺も変に広めるようなことはしない」
アキラは安堵したような面持ちになるとそのままトレーラーから出ていった。
オルト達が会話している最中にシェリルはカツラギに幾らかの支援品を渡されダリスを付けてもらい徒党の拠点に帰っていった。流石に銃なども含んだ支援品はおもかったのかダリスが拠点の近くまで運んでいったようだ。
アキラとの取引の後始末も済み、上機嫌でカツラギは商売に戻っていった。オルトもダリスが抜けた分を埋めるため外に出た。
一週間ほど経ち、カツラギが上機嫌に笑いながら目の前にある車両について説明をしていた。桁は億に届かないが手の届く範囲では一番高性能な品だ。車両の全長は長く、屋根の付いていない開放型で荷台が広い。荷台には光学迷彩によって車体全部を覆える迷彩シートがたたんでおいてあった。制御装置も最新式の物に取り換えており、素人でも問題は起きない。車両全体には装甲タイルが貼ってあった。
装甲タイルは衝撃等に反応して力場装甲を発生させ、衝撃を防ぐ効果を持つ装甲版の一つだ。ただし、力場装甲を発生させるとそのまま剥がれ落ちる使い捨ての道具でもある。
「どうだ? 凄いだろ。荒野仕様六輪駆動車フォルシテン66式。お前への支払額を全部使った車両だ。お前は射撃の腕も凄いが基本は遺物収集を主に活動しているんだ。これだけの品なら収集した遺物を守り切れるさ」
「カタログを見たが実物を前にすると結構でかいな。一番いいのは屋根を展開することもできるから雨が降っても濡れないことだな」
その車両は基本、開放型だが操作することで屋根を展開し密閉することもできる。
「そうだが、その場合屋根には装甲タイルは貼られてない状態だ。固い素材が使用されているとはいっても過信は禁物だ。……それはそれとしてだ。お前も遺物収集をするんだろ? どうだ、俺のところに売りに来ないか? アキラにも言ったがハンターランクは上がらない。その分買取額に加算するからさ」
カツラギが商売人として1人のハンターに提案してくるが、いつもの豪快さが足りない理由があった。
「別に駆け出しのハンター相手に勉強代を引いて買い取ろうとする奴からじゃなかったら良い案だとは思うんだよな」
オルトが仕事をしている最中にアキラが遺物を売りに来た。スラム街の子供に遺物を詰めたリュックサックを背負わせた状態で。カツラギはそれの買取額を低く言い渡しアキラにバッサリと切り捨てられたが、変に値段交渉をしないということで決着していた。
「いやーあれは、そう、親切心だって。ハンターとしての成長を促そうってな? な? お前相手にそんなことはしないって。何なら優先的に売りに来てくれるなら商品の値引きをするぜ?」
「いや、装備を買う店はもう決めてる。まあ、ハンターランク分高く買い取るっていうなら持っていくよ。高く買ってくれそうな物をな」
「そうか? そうか。なら頼むぜ? この車両いっぱいの遺物を売りに来てくれたらそれはもう高く買い取らせてもらうからよ。何か調達しておいてほしい物があったら連絡してくれ。いい商品をそろえておくぜ」
カツラギの店で強化服や銃を買う気はない。しかしせっかくの商売人との伝手だ、こちらから薄くする必要はないとしてハンター稼業で使いそうなものを頼んでおくことにした。
「そうか。なら回復薬を頼む。骨折とかでもすぐ直るような奴だ」
「……回復薬か。その性能のものだと100万や200万はする。急ぎって言うなら頭金くらいは欲しいが」
「急ぎじゃない。欲しくなった時、カツラギの店に用意があったら買う。それくらいだ」
「そうか。わかった。買いに来るのを楽しみにしてるぜ」
話を終えたオルトはついでにとカツラギからリュックサックを幾つか購入してからトレーラーを後にした。
宿を荒野仕様の車両を停められるところへ変更したオルトはその高さに顔を顰め、稼ぎを増やすか賃貸を借りられるようにどうにかしようと小さな目標を立てた。
「ファナ。今日は車両の掌握をしているから遺跡探索や訓練は明日になるのか?」
『はい。まずはオルトに運転技術を身に着けていただきます。難易度が低く、そのうえで多少入り組んでいる遺跡に行きますので覚悟しておいてください』
「わかったよ。頑張らせていただく」
オルトは強化服を使った柔軟体操をしてから日課を終わらせてその日を終えた。
翌日オルトは荒野を車両で走っていた。今までは足で歩くか走るかしかできなかったが車両を手に入れたことで長距離の移動も簡易なものとなった。
荒野を走らせながら車に近づいてくるモンスターをAAH突撃銃で狙撃する。しかし、銃弾は目標から大きく逸れ荒野に消えていく。
ファナの指摘を聞きながら、オルトは視界に映る弾道予測線を再度モンスターに合わせ狙撃する。3発、4発と続けて撃ち出すがそのどれもが、致命傷になるにはほど遠い負傷にとどまる。
1発外す度に自身の安全圏は侵され危険にさらされる。それを覆す力をファナはオルトに渡している。オルトは自分の持つ力を完全に扱えるようになるために恐怖を、心の中に沸き立つ怯えを飲み込み、消していく。
大きく息を吸い込み更に近づいてきていたモンスターを狙い銃弾を撃ち出す。放たれた銃弾は荒野の空中を駆け、モンスターの喉を抉りそのまま身体を損傷させ絶命に至らせた。
オルトはどこか安堵したような、そして不甲斐ない自分を笑い溜息を吐く。
「やっぱり射撃の精度はまだまだだな。こんなに近づかれた上に倒せたのは良いところに命中したからだ。明確な弱点ならやっぱり頭なんだろうけど」
オルトの発言にファナは優しく微笑みを向ける。
『向上心があるようで大変喜ばしい限りですよ? 百発百中、運よく当てず確実に命中させる。運悪く外れた。そう言える日まで頑張りましょう。少なくとも私と出会った当時のオルトとは比較にならないほど腕は上達しています』
「そうだな、そうだよな。上達してるよな」
『ええ』
オルトは周りにあるものが自力の産物でないことを理解している。装備はファナからの援助品を換金して、車両も手に入ったのはファナのサポートがあったからというのがでかい。
オルト自身が出来ているのは選択とそれを間違いになどさせないための行動のみだ。
今の狙撃も強化服を操作し、車上でも体勢が崩れないように、車の運転もファナに任せている。その上で先程の狙撃の命中率を鑑みると、自分の実力は変わってないままではないかと悲しくもなる。
だが、オルトの身体には、ファナから教えられた戦闘技術が徐々に身に付きつつあった。それを自由に扱えるようになれば、オルトは一段また強くなれるはずなのだ。
(あの時間がゆっくりに感じるやつも、ファナとの訓練中そこそこ発生するだけで意識的にやるなんてできてないからな。もっと身につけなきゃいけないものもある。一度何かで完全に掴めれば再現性が上がるんだろうけど)
オルトが頭を悩ませているとオルト達は目的の遺跡にたどり着いた。
オルトがファナのサポートをなしに遺跡の中を車で運転している。そこはヒガラカ住宅街遺跡と呼ばれる住居が数多く建っている遺跡だった。
既に多くのハンターが足を運び、遺跡に残っていた高値の遺物は持ち去られている。そのためファナはハンターが少なく、開けており、そのうえで運転技術の向上を図れるこの遺跡を選んでいた。
車両の情報収集機器を自前の情報収集機器と連携させ周囲を探りながら運転を続ける。モンスターは少ないがたまに見かける程度にはいる為、そちらにも注意を向けなければいけない。
『ここは何というか、クズスハラ街遺跡の建造物とかと違うな』
オルトは周囲にある建築物を見ながら少々の落胆を見せる。
オルトの中に構築された遺跡という概念はファナの都市を見た瞬間に決定づけられたといっても過言でないほど、高度な文明が遺したもの、という感覚になっていた。
しかしヒガラカ住宅街遺跡にはその高度な文明の面影すらも目に映りはしなかったからだ。
『クズスハラ街遺跡とは時代が違うため同じ廃墟であっても現代よりなのでしょう』
それもそうかとオルトは納得し車を走らせる。
時代が違えばそこに根付いた文化も変わってくる。そしてそれが滅びれば、次の者達から旧世界に遺跡と呼ばれ、呼んでいた者達が滅びればその者達が築いた文明も栄華もその大まかな枠組に加えられる。
クガマヤマ都市も100年もすればクガマヤマ都市遺跡と呼ばれる可能性がある。そうファナに言われたオルトは感慨深く思い。できれば自分が死んだ後の出来事になるようにと祈る。
車の運転と周囲の索敵、モンスターへの対処を数時間行った後、オルトは遺物が残っている可能性を考えて遺物収集を行うようにした。周囲の建築物の中から比較的豪華そうな建物に入り探索を始める。
しかし、どの部屋にも目ぼしいものはなく、皿の破片、破れているシーツなどしか発見できなかった。落胆の色を強く残したオルトは最後の部屋を確認して予想通り何もないことを知る。外に出ようとするが、ファナに止められた。
『オルト。そこの床に隠し扉があります。恐らく地下に隠し部屋かどこかの施設に繋がっている可能性があります』
「おお! それは……、大丈夫なのか?」
『行ってみないことには判断できかねます』
「だよな。いってみよう」
オルトはクズスハラ街遺跡の地下への階段を降りる際に言われていたことを思い出し、その上で地下へ行くことを決めた。
隠し扉を開け梯子をゆっくり下りていく。動体反応はなく危険性は薄いと感じながら梯子を下りきる。そこには光源の一つもない部屋があった。持ち込んでおいた照明を使い隅々まで調べてみるが遺物はなかった。
『他の者が先に見つけて持ち去ったのでしょうね』
ファナの言葉に賛同しながらも少々の期待を裏切られたオルトは思い付きを口にする。
「うーん、実はまだ隠し扉があってそっちの方には遺物が、とか」
『私が探したところそれらしいものは何も見つかりません。さ、大人しく帰りましょう』
オルトは肩を落としながら照明を消し、梯子に足を駆けると強化服の動きが止まった。ファナが操作しているのだ。
「ファナ?」
『オルト。遺物ではありませんが見つかりましたよ』
ファナが指さす方向には人の足の裏を円で囲ったマークが付いていた。
『透明な蓄光塗料で描かれていますね。周囲の光がなく、情報収集機器の感度を限界まで上昇させて視認できるようにしました』
「……ここに立てってことなのか?」
『どうしますか?』
「せっかく見つけたんだ。立ってみるとしよう」
オルトがそのマークに足を合わせるとその瞬間、オルトの目の前に女性が出現した。その女性はメイド服を着ており、ファナと同じように周囲の暗闇を無視するかのように鮮やかに色取られていた。
オルトはファナが視界を拡張してからかっているのだろうと結論付けファナを見るが、そこにはいつもの微笑みが浮かんでいるだけで揶揄うような表情など浮かべていない。目の焦点はその先の壁に向けられており、前に何も変化が起こらなかった事から右や左、後ろも確認してから口を開いた。
『何も起こりませんね。戻りますか』
「ファナ? 何を言ってるんだ? 目の前のメイドは──ッ!?」
ファナへ問い掛けた質問に対し明確な答えが返ってくるよりも先に、オルトの強化服が急激に動き、オルトを勢いよく後退させる。 非常に強い負荷がかかり、何かに弾き飛ばされたように床に倒れこむと、徐々に全身が痛みを覚え始めてきた。急な出来事に対して不満を強く顔に出しながらファナに文句の一つでも言おうとオルトが顔を上げるが、何時もの距離感などお構い無しにファナが詰め寄って来る。ファナの表情には他者への心配と激しい剣幕だけが残されたと思えるほどにただただ真剣なもので、その表情を視界に収めたオルトの頭からは、今しがた覚えた不満などは消え去っていた。
『頭痛や吐き気は? 意識はしっかりしていますか? 声は聞こえていますか? 私の姿は見えていますか?』
初めて見るファナの様子にたじろぎながらも、オルトは一つずつ答えていく。
「あ、ああ。問題ない。頭痛も吐き気もないし、意識についても問題ない。ちょっと体が痛むけどそれだけだ」
『そうですか』
オルトが見たことの無いような安堵の表情を浮かべるファナを不思議そうに眺めていると、真面目な表情を取りオルトへ話し始める。
『オルト。先程見えたと言っていたメイドの姿は残っていますか?』
オルトが視線を向けると先程まで存在していたであろうメイドの姿は消えている。
「いや、消えてる。さっきのはなんだったんだ? なんでそんなに慌てていたんだ?」
『今、オルトは死にかけたのです』
「は? 死にかけたってなんで」
ファナが説明を続ける。
オルトの脳には無線のような通信機能がある。それは旧領域接続者と呼ばれるものが持ちうる能力であること。それは旧領域と呼ばれる現存する旧世界の施設を繋いでいると考えられているネットワークであり、特別な接続機器を用いずとも旧領域に生身で接続可能であること。
そして旧領域にあるものは現代の者達に配慮などしない。その者達が生きていた時代を基準に行動する。よって当時の者達ならば問題なく扱えた容量の情報を、現代の者にも渡す。しかしそれを行われれば脳が情報に耐えきれない可能性が出てくる。脳が処理できない何かとして認識しなければ問題ないかもしれない。だが、それを下手に処理しようとすれば、処理しきれず高確率で脳死に至る。
オルトの最初の記憶が合致した。そんな気がした。
「……なんとかならないのか?」
旧領域接続者だった前の自分はあの部屋で何かを見て死んだ。自分がそうなるわけにはいかない。自己の認識とその危険性を理解したオルトはそれの対抗策を望んだ。
ファナの顔が唐突に事務的なものへと変化し、どこか機械的で淡々とした口調でオルトへ話しかける。オルトはそれに見覚えがあり、自分に対して何かしらの許可を求めているのだと判断した。
ファナの説明を遮ってオルトが答える。
「許可する」
『許可受諾を確認しました。……フィルターをかけましたので変なものを見ていきなり脳死、ということはなくなりました』
「そっか」
ファナとの相談の後、今できる対策はしたとして旧領域のメイドから得られる情報を求めることにした。 再びマークに立てば、今度はファナにもきちんと認識可能なようで様々な質問を投げ掛ける。ただ、ファナの姿を相手側が捉えていないのか、オルトからの質問にしか答えはしない。 仕方がなくファナがオルトを経由して幾つかの質問を投げ掛けた後、相手側から所属している企業の情報を送信して貰うことになった。しかしオルトの所持している情報端末ではメイドからの情報をやり取りできなかったため、オルトの脳を経由してファナが送信されてくる情報を受信していく。 ゆっくりと送られて来ている情報をオルトも閲覧してみようとしても、頭の中を駆けて行くばかりで、はっきりとした何かとは認識出来ない。
ファナが大部分の情報を処理してくれたらしく、用はなくなったとオルトは隠し部屋を後にした。
湯船に浸かりながら、今日の成果としてファナから手に入れた情報を聞いていた。
『今日見つけたものは旧世界の企業、リオンズテイル社との接続装置です。この情報自体は金に変わりませんが、この情報に乗っている地図にはリオンズテイル社の施設がある可能性が高いです』
「つまりそこに行けば、そのリオンズテイル社の遺物が手に入るってことか」
オルトは以前見た地下施設のようなものが眠っている可能性に胸を膨らませる。しかしファナがそこに釘を刺す。
『遺跡が存在している可能性があるだけです。既に見つかっている場合、建築物ごと消えている場合もあります』
指摘されたことにより興奮していたオルトは落ち着きを取り戻す。
「ならそこに行くのは後かな。この前の地下施設に行った方が堅実な気がする。地上ならファナの索敵は万全に機能するし、車を手に入れたから前よりも持ち帰れる遺物の量はずっと増えているんだ。ハンターランクを上げて早く賃貸でも借りよう。宿だと金がかかりすぎる」
『そうですね。以前の一件でクズスハラ街遺跡へ足を運ぶハンターは減少しているようです。持ち帰れる分、持ち帰るとしましょう』
ファナからも賛同を貰い意気を高める。風呂から上がりベッドへ横になる。
「決まりだな。なら今日はもう寝て明日に備えるよ。おやすみ、ファナ」
『おやすみなさい。オルト』
まだ日が昇るには相当に時間を要する時間帯に、オルトは車で荒野を駆けていた。オルトは車両を手に入れてから初めてのクズスハラ街遺跡での遺物収集を開始した。目論見通り外周部にも目的地周辺にもハンターの影はない。しかし、ハンターが居なければ駆除されず増え続ける存在がいる。
『今日はいやに多いな。ある程度避けてるってのに結構な数に見つかる。ハンターが居ないは居ないで面倒はあるか』
『当然です。だからこそ東部ではハンターという危険物を扱う価値が出るのです。無ければ許されていませんよ』
モンスターは旧世界の施設で繁殖、製造され日々その数を増している。生物系のモンスターが製造され、機械系のモンスターが繁殖する場合もある。近くの荒野からモンスターを完全に駆除したとしてもいつの間にかその数を取り戻し人を襲う。
遺跡の中にいるモンスターは遺跡側で管理された物、勝手に住み着いた物の二種類に分かれ、お互いを襲いあう。しかし、荒野に出ているモンスターは基本的に管理されていない部類のモンスターだ。
そのモンスターの駆除を比較的安価で行えるということがハンターの存在が許されている理由の一部でもある。いなくなれば弊害も出てくる程度には大きい理由だった。
『弾薬はちゃんと用意してきたから問題ないとしてだ。俺が地下に潜っている間に車を破壊されないか?』
『そこは運になるでしょう』
『俺に運はほとんど残ってないってファナが言ったじゃないか。何か保証が欲しい!』
『そうなってしまったら仕方がなかったというものです。大人しく持てる分だけ持って帰るとしましょう。それとも引き返しますか?』
車を破壊などされたくはない。せっかく手に入れたのだから十分に活用したい。しかし、金は別に稼がなければならない。
『帰らない。カツラギが言ってたみたいに荷台いっぱいの遺物でも持って帰って、装備を良い物にもしたいからな』
オルトはそう言いながら近づいてきていたモンスターの頭部に照準を合わせ銃弾を撃ち出す。放たれた銃弾は狂いなくモンスターの頭部に命中し、その中に詰まっていたものを含めて四散させた。
『では行きましょう。心配をし過ぎれば遺物収集など行えません。その時は壊れたのがオルト自身ではなかったと考えましょう』
『……了解だ』
オルトは以前訪れた建造物の中に車を止める。内部の壁は所々崩れており、オルトの大きめの車両を止めることもできた。
車両に迷彩シートをかぶせ、一応の保険として周囲にモンスターやハンターの気配がないか探っておく。それらしいものが無いこと、ファナのいつも通りの様子に安堵しながら以前発見した地下への階段を、瓦礫を退け下っていく。
情報収集機器を利用して足元にある塵や埃のつもり具合からするとオルト以外の足跡は見つからない。他のハンターやモンスターが侵入して危険度が増しているということはない。しかし、地下施設がどこかと繋がっていればその限りではない。
『ファナ。以前探索した範囲で一番実入りがよさそうなところへ頼む。余裕があれば範囲を広げるって感じで』
『了解しました。こちらです』
ファナに以前収集した情報から地図を作ってもらいその中から高値が付きそうなものを選びリュックサックに詰めていく。店舗一つだけでも持ち込んだリュックサックを余裕で膨らませ、その重量をオルトに課す。
オルトは補助アームを4本ともリュックサックを持たせることにして来た道を戻る。
夜中に訪れた為、地上に戻っても外は暗く周囲にも反応はなかった。しかし、その回数が多くなるにつれて外は段々と明かりを増していく。車両の荷台には遺物の詰まったリュックサックが積み上げられており、車両内の密度を上げていた。これを見られれば多くのハンターに地下施設の存在が露見するだろうがその心配はいったん無視してオルトは地下へと潜っていった。
『グレイにでも言って手を貸して貰えばよかった気がする』
流石に1人では遺物の持てる量が限られ、地上と地下を行き来する回数が増える。その上、未だ見つけていないがモンスターがいる可能性もある。周囲の警戒を分担できるようにすれば精神的疲労も抑えられた。流石にオルト1人の時より成果が減るが安全は高いものだ。仕方ないと割り切るしかない。
『今回は仕方がなかった。次は誘うとしましょう。約束もしていたようですからね』
ファナからの非難の混じった声がオルトの耳に少しばかり大きく響く。
『軽率でした。悪かったよ』
『オルトが女性に貢いで散財、借金まみれにならないのであれば問題はありませんよ? 視覚的、聴覚的にでしたら私がお相手できます』
『悪かったって! はい、この話終わり! 早く次の店舗を決めて遺物収集再開だ』
ファナは自分以外の存在がオルトの中に居座ることを許容はする。だが自分にとって代わるような存在になることは決して許さない。その場合の懸念、オルトからの契約破棄をされれば目的を達成できなくなる。
しかし、ファナは自分との約束としてオルトが行動をしていることを知っている。約束を一度破ればそれは次を容易くさせる。そんな人間になられることも許容はできない。
ファナの思惑から大きく逸れないようであるならばオルトの行動方針に非難は浴びせない。
日が沈みかけた頃、荷台の中があらかた埋まり切り、あと一度潜ればそれで終わりにしようとオルトが階段を下っていた。
『次で最後だし少し深く潜って高値の遺物の目星でもつけておこう。次来たときはそこを重点的に収集するってことで』
オルトは今日収集した遺物を売り払った際に手に入るだろう金に期待しながら施設の中を進んでいく。
ファナが指定した店舗は機械製品が陳列されており目に見えて高値の品だと分かる。オルトは意気揚々と、バックパックに詰めておいたからのリュックサックを取り出し遺物を入れていく。
その最中とある商品を手に取ったときファナから指示が出た。
『オルト。その装置を強化服に接続してください』
『ん? これをか?』
ファナから指示されたそれは手のひらサイズの直方体で角から端子を伸ばすことが出来た。
『これってなんなんだ?』
『旧世界製の情報端末です。旧領域に接続することが可能なのでオルトの補助として使用します。これがあれば地下に居ても私との通信に心配はなくなりました』
『おお! それはいいな』
『安物なので性能はそこそこですが、地下での私の索敵も範囲、精度共に上昇します』
『それは何よりだ。今後もここに来る可能性があるんだ。安全性が高く保たれるならこんなに嬉しいことはない』
地下内での懸念が一気に解消されたことでオルトの顔に安堵が浮かぶが、逆にファナの顔には真剣な表情が浮かべられていた。
『オルト。今すぐに移動を地上まで走りますよ』
オルトは遺物を入れている最中のリュックサックを背負いながら店舗から出て地上までの道を走り始める。
『ファナ。何があった?』
ファナの表情は未だ真剣なそれだ、自分の危機は続いているとオルトは判断して強化服を全力で動かし続ける。
『周囲の壁に亀裂が生じました。単純な劣化の可能性もありますが、そうでなかった場合の危険性は、……来ます。まずは走ってください! 視界を拡張しますが落ち着いて行動をしてください』
オルトの視界に後方の景色が広がる。閉鎖された地下施設の通路や店舗の出入り口のみがあったそこには、瓦礫と共に通路に広がり始めているモンスターが居た。
蜘蛛のような身体に蠍の様な尻尾を持つモンスターで大から小と大きさに差が出ているが、姿形から同種なのだと理解する。
『なんだアレ。遺跡の壁を壊してくるとかどんな生物だよ』
『あれはヤラタサソリと呼ばれているモンスターですね。既にこちらを捉えています。サポートします。覚悟は良いですか?』
ファナの顔には余裕の表情が浮かんでいた。それならば対処のしようはある。そういうことだと察しオルトは力強く笑みを浮かべる。
『今更だな! 覚悟は俺が何とかするよ! 頼むぞ?』
『ええ。他は私が何とかしましょう。行きます』
オルトの両手が動き持っていたAAH突撃銃を後方にいるヤラタサソリに向け銃撃を始める。巨大なヤラタサソリを倒し障害物として利用、それの対処に追われている隙に地上を目指す。
オルトはこれなら問題なく地上まで逃げられると感じていたが、モンスターはこちらの事情など無視する存在だ。目の前の通路の壁が突如として破壊されヤラタサソリが大量に湧き出してくる。
『クッソが!』
AAH突撃銃を宙に投げ回復薬を口にほおばり、弾倉を高価な拡張弾倉へと付け替える。エネルギーパックも新しいものへと付け替え準備を終える。
『強行突破します』
ファナの操作が更には入り、負荷の激しくなった強化服の動作に、生身の身体を合わせ、銃口をモンスターに向ける。背負う遺物の重量は無視できない物だが、捨てるにはまだ惜しい。巨大な体躯のヤラタサソリを優先的に倒し続け、小さいものは蹴り飛ばし、踏みつける。数十匹は倒したが穴の奥からはまだ湧き出していた。このままじりじり進むだけではジリ貧になると判断して、背負う遺物を前方へ投擲する。
遺物がなくなり身軽となったオルトの動きは激しさを増す。目の前に迫った巨大なヤラタサソリを踏みつけ上方へと飛ぶ。天井へと向かう最中もヤラタサソリの群れ、その後方の個体に狙いを定め引き金を引き続ける。天井を蹴りつけ空中に有った遺物を補助アームで掴み、群れを突破した。
オルトは負荷を気にせず走り続け地上まで走り抜ける。
既に車をファナが操作し、走らせていた。宙に舞っている迷彩シートを回収して屋根に乗る。車両は屋根を展開し外から中を確認できない状態にしてあるのでこのまま帰っても問題はない。荷台にまわるのが億劫となったオルトは助手席に遺物の入ったリュックサックを置くと再び屋根に上がり周囲の警戒を始めた。
『モンスターの反応が多い? 偶然集まってきているだけか?』
『可能性はあります。どうやら遺跡の奥部からも周辺に集まっているようですね』
『何が起こるのやら。まあ早く帰ろう。経路とかは……任せた』
『はい。任されました』
ファナの運転に揺られながら周囲を注意深く探る。モンスターがこちらに気づいて襲い掛かってくる様子はない。移動経路上にいたものは撃ち殺したが、警戒をしていれば問題は無いだろうとして屋根の上から遺跡の様子を眺めていた。
遺跡から遠回りで都市まで帰還したオルトは湯船に浸かりながら今日の成果に浮かれていた。
「いやー今日の遺物収集は大成功と言って差し支えないね。売れば幾らになるのか今から楽しみだ」
『幾つかは実用性があります。売らずに取っておくことしましょう』
オルトは回復薬や衣服などを自分で使用するために売却用から外している。
強化服は外付けの身体能力な為、オルト自身の身体との間にあるものは摩擦により劣化していく。安物の肌着ではすぐに使い物にならなくなるが、旧世界製の衣服ならば耐久性能が高く長く使用することが出来る。
オルトは売りに行く物を選別し終えるとその日を上機嫌に終えた。
遺物を詰めたリュックサックを開けていく。その様子を見ているカツラギは目に見えて上機嫌な様子だった。
「随分たくさん持ってきたな。種類も多い。こっちで少し鑑定したいんだが預かってもいいか?」
「ダメだ。その先で紛失しましたなんて洒落にもならないからな、やるなら目の前でやってくれ」
「そう言うなって。物によっては長期間鑑定しないと値を付けられない物だってあるんだって」
「ならそれを省いて買取に出すよ。どれだ?」
オルトは自身で高値になりそうな遺物をリュックサックに戻そうとするが、そこをカツラギが止める。
「ちょ、ちょっと待てって。わかったよこの場で鑑定して高値で買い取るから戻そうとするなって」
カツラギはそう言いながら情報端末を操作し知り合いを集めていた。
数人の商売人とその者達が懇意にしている鑑定人がカツラギのトレーラーに集まり、遺物の取り扱い方を決めている。
『結構な人数呼ぶんだな。カオルのところにも売りに行きたいし早く終わってほしいものだが』
『それなら預けてしまっても良かったのでは? それで下手に価値を軽んじるなら縁を切るかカツラギを斬ればいいのですから』
ファナからどう反応すればいいのか分からない提案に多少なりとも同意する。
そのままその様子をオルトが眺めていると、鑑定作業を続けていた者達は一度外に出され、カツラギがオルトの座っている対面に座る。
「ざっと3500万オーラムってところだ。どうする? ハンターランク上昇ポイントがない分の上乗せはできていると思うが」
カツラギの表情からは嘘やごまかしは感じなかった。
『ファナはどう思う?』
それでもある程度の信用しかない相手との値段交渉は慎重に行うべきと判断して、ファナに判断を仰ごうとする。
『値段に関して問題ありません。嘘もついていないので安心してよろしいかと』
『そっか』
「分かった。その値段でいい」
「そうか。振り込みでよかったよな?」
カツラギから振り込まれたことを確認したオルトはそのままトレーラーを去ろうとするがカツラギに呼び止められる。
「あの遺物、品質がなかなか良かった。どこで手に入れたのか教えてくれないか?」
「遺跡だ。それ以外言う気はない。探したければ他の奴でも雇ってくれ。じゃあな」
「……そうかい。また売りに来てくれよ」
オルトはリュックサックだけを回収して一度宿に戻り、衣服を詰めたリュックサックを持ってトライフワーデンへと足を運んだ。
カウンターにいるカオルにリュックサックを預けてその遺物の扱いは任せることにした。
その後、遺跡探索中の苦労を話していた。
「やっぱりAAHだけだと貫通力が少し物足りない気がするんだよな。俺の予算内で、何かいい銃はあるか?」
「そうだな。その銃に求めるものは射程か? 威力か?」
「威力だな。俺のハンター稼業は遺跡探索が基本だからな。入り組んだところで欲しいのは威力になる」
「そうか。そうなるとコイツだな」
カオルが取り出したのはGRD対物突撃銃だった。汎用徹甲弾を基本的に使用する銃で通常弾も使用できる。高価だが専用弾と呼ばれる威力の高い弾もあり、汎用徹甲弾が効かない相手などに対しての対抗策になるだろう。
オルトはそれを汎用徹甲弾の拡張弾倉とセットで購入した。流石に専用弾をそんなに撃つ気はないため、今までよりも総弾数の多い通常弾の拡張弾倉を幾つか購入するまでに控えた。
「一応言っておくが、間違ってもコイツの専用弾を撃たなきゃ倒せないやつに挑みに行こうなんて思うなよ?」
「分かってるって。そんな無謀者になる気はないさ」
「分かってるならいい。お前が死ぬとエルが悲しむんだ。生き続けて是非ともこの店にお金を落としていってくれ」
「もう何が本音なのか分からなくなってきたな」
「エルが悲しむだろ?」
「ああ分かったって。わかった。また何か買いに来るよ」
オルトは追加で購入しておいた補助アームを二つ装備して一つにGRD対物突撃銃を持たせて店を後にする。
GRD対物突撃銃を入手してから暫らくは、遺物を換金しながら、ファナとの近接格闘訓練を主体とした生活を送っていた。オルトの口座には基本的に4桁万オーラムが維持されるようになり、宿代で苦しむようなこともなく済んでいた。
オルトのハンターランクは23にまで上昇しており、子供のハンターとしてなら目を見張るものとなっていた。
「GRD対物突撃銃。買ってよかった。AAHよりも取り回しはし難いけど、純粋に火力が上がるのは助かる面が多い」
『1発が高価ですが専用弾も威力、射程共に上昇します。以前の様にヤラタサソリに道を阻まれても問題なく対処出来るでしょう。まだそこまで数をそろえられないのが残念ですが』
「そう言わないでくれよ。確かにあの時は遺物がヤラタサソリに壊される可能性があったけど次はもっとうまくできるって。それに装備の質もいずれ何とかするって、いずれ」
オルトは銃の整備を続けながらファナと雑談をしていた。部屋の隅にはまだ売却していない遺物が積まれているが、それもいずれハンターオフィスの買取所にでも持っていくつもりだ。
そうしているとオルトの情報端末に通知が入る。
それを確認しようと情報端末を持つと、先に内容を知ったファナが溜息を付いていた。
「どうしたんだ? 何か面倒事か?」
『今来た通知はハンターオフィスからオルトに対しての依頼になります。クガマヤマ都市周辺を巡回している都市の車両が、クズスハラ街遺跡から出てきたモンスターの群れに襲われている模様。その救援依頼になります』
以前オルトが遺跡の地下施設から都市へ戻る最中に見たモンスターの群れの反応はこの予兆だった。
オルトは汎用討伐依頼を受けていたわけでもないのでその情報はハンターオフィスにも都市にも伝わっていない。運悪く今日それが起きただけに過ぎなかった。
「……受けようか。ハンターランクもあげられる。善行の一つくらいにはなるだろ」
『……危険ですよ? 既に多くのハンターが死んでいます』
「ファナのサポートがあっても俺は死んでしまうか?」
オルトの表情からファナはその奥にある感情を、根幹を観察し自信を大きく映した微笑みをオルトに向ける。
『問題ありませんよ。この程度で死んでしまうような低品質なサポートなどしません』
「なら問題ないな。行こう」
オルトは情報端末を操作し依頼を受ける。いくつかの条件を組み込んで依頼を受ける旨を送信すると準備を整え、車に乗ったタイミングで返信が返ってくる。それを見てオルトは荒野へ向けて車を走らせた。
1台の都市の巡回用のトラックが荒野の中で立ち往生している。その周辺には生物系のモンスターの死骸や機械系のモンスターの残骸が車両を囲むように転がっていた。それはその車両に乗っていたハンター達が必死に抗っていたからだった。そしてそれをする必要性は荒野に残っている時点で残り続ける。
一人のハンターが疲れた様子を隠し切れず疑問を吐き出す。
「クソが、何人死んだよ」
「9人。寝かせてるやつらがくたばれば合計で15ってところか。笑えねえ」
「今日に限ってなんでこんなことが起きるんだよ。……あの女これが起きること知ってたんじゃないか? これ見よがしにでかい銃持ちやがって」
「そう言うな。彼女が居なければ俺達もやられてたかもしれないんだ。それに他の奴に聞いたが、彼女は前からあの銃を使っていた。このために用意したやつじゃねえ。当たるなよ」
「……そうだな。流石に頭に血が上りすぎてた」
二人の視線の先にいるのはGRD対物突撃銃に予備の弾倉を入れているグレイだった。グレイは自分の射撃能力を上げる為、巡回依頼を受け、揺れる車上からの狙撃を行っていた。
最初はうまくいかず、モンスターに近づかれ、他の銃を連射して対処もしていたが、徐々に射撃の精度が上がっていき、今では余程遠くの標的でない限り外す方が稀になっていた。
今日もいつも通りの巡回ルートを走っていると急にモンスターの群れがやってきた。車両に乗っていたハンター達では対処が追いつかず車両を破壊されてしまった。
その中でグレイは所持しているGRD対物突撃銃で比較的大きなモンスターを優先して狙撃していった。
(いつもの巡回依頼でこの量倒せれば大きな収入ね。ただ、いつも通りの弾薬しか持ってきてない。さっきと同じ数が来たら持たないかも)
グレイの持ち込んでいた弾倉は通常の総弾数の物で、群れに急に襲われても問題ないよう、多めにリュックサックに詰めていたが今日の群れは異常に多すぎた。
ハンター達が救援を望んでその場の警戒を行っているとトラックの情報収集機器に反応が出る。
「反応が有った! この反応はモンスターだ! 数は……、クッソが! さっきよりも多いぞ!」
トラックの情報収集機器を確認していた男が大声を張り上げる。その場にいたハンターが一斉にその方向に目をやるとそこには生物、機械問わずの群れが近づいてきていた。
有効射程に入った瞬間グレイが一早く照準を合わせ、引き金を引く。先頭のモンスターの頭蓋が弾け慣性によって地を滑り後続の障害物となるが、それが何だと言わんばかりの物量がその死骸を踏み潰し高さを失わせていった。
ハンター達が必死に応戦するが徐々に接近され始める。射撃能力のあるモンスターが後方からトラックに向けその砲口を合わせ、砲弾が放たれる。その対処にハンターが数人銃口を上方に持っていかれ地上のモンスターの接近をさらに許すことになる。
(駄目、このままじゃ押し切られる。救援はまだ? 他の反応を探ってる暇なんかない。このモンスター達は生物系で生命力が高い。通常弾で撃ってたらきりがない。機械系のモンスターに至っては装甲を貫通できない。どうすればいいの)
グレイは必死に抗い続ける。磨いた技術を持って、成果で購入した武器も弾薬も回復薬も使用し抗い続ける。しかし、モンスターの銃撃が交換しようとしていた弾倉に着弾し弾き飛ばされてしまった。
グレイの目の前には六足歩行のモンスターがその大口を開けていた。問題なく弾倉交換を行えていれば対処出来たそれをグレイはゆっくりと漠然と眺めていた。
(ああ、ここで終わりなのね。せっかくあの日、認めてもらったのに。認められたのに。呆気なかったな)
ゆっくりと迫る大口に対し、グレイの磨いた才能が後は死ぬだけだと告げていた。
突如目の前のモンスターの頭部が吹き飛ばされ、残った胴体部分はグレイの隣を滑っていった。
突然の出来事にグレイは暫く動けなかったが、周囲の銃撃音とモンスターの咆哮を認識すると銃を握る手に力を入れて弾倉を交換する。目の前のモンスターを銃撃しながら先程、銃弾が飛んできた方向を情報収集機器の望遠機能で捉えるとそこには車両の屋根に立ちGRD対物突撃銃で狙撃を繰り返すオルトが居た。
『ファナ。モンスターがこっちに来てるけど流石にGRDだと対処し辛くないか?』
『AAHを使えば問題ありません。砲撃を行っているモンスターを優先して撃破してください。まだ近づかれていません。優先度は低いですね』
オルトは群れの後方にいるモンスターを狙いGRD対物突撃銃で専用弾を撃ち出す。専用弾はその値段に見合った威力を以て、モンスターの硬い外殻を砕き一撃で絶命させる。その他の装甲を持っているモンスターも一撃で貫き続ける。
その分反動も強く強化服でしっかり反動を吸収しなければ後方に吹き飛ばされかねないが、ファナのサポートにより反動をしっかりと抑え込み撃ち続けていた。
『流石に近づかれたな。やるか』
オルトはGRD対物突撃銃をしまうとAAH突撃銃を両手に持ってモンスターの方向へ飛び出した。先頭を走る生物系のモンスターの頭部を狙い銃撃を続ける。障害物と化したそれを乗り越えようとする機械系のモンスターを蹴りつけ、後続に当てそのまま銃撃し諸共に破壊する。
遠距離攻撃持ちのモンスターを先に倒しておいたことで安全に対処することができ、トラックの近くに居たハンター達もその恩恵にあずかっていた。
オルトが接近していたモンスターを倒し終えるとトラックの方の戦闘も終わっていた。
モンスターの駆逐が済み、オルトはトラックの方へ車を走らせた。
その場には安堵した顔の者も居たが、少数のハンターは救援に来たハンターが子供であることに驚いている者も居た。
2人のハンターがオルトに近づいてくる。オルトもこの場にいるハンターに誤解されないように話をしようと歩き出すが、2人のハンターを追い越し、花のように笑うグレイがオルトに抱き着いた。
「ありがとう。ありがとうオルト。また助けられた。ありがとう」
グレイは先程までの高精度の狙撃をしていたとは思えない様子でオルトに抱き着き笑顔で涙を流していた。
トラックの近くに居たハンターならば先程のグレイの狙撃も見ていただろう。その際に浮かべていた表情とはかけ離れたそれを見てどうすればいいか思考し、目だけを合わせ、グレイが抱き着いている子供のハンターに全てを押し付けるということで無言の結論とした。
オルトはグレイよりも身体的に幼く身長も小さい。そのため頭に腕を回され抱き着かれていた。グレイの胸はそこそこ大きい方だがその柔らかさは強化服の下に隠れている。オルトの顔には強化服が硬化した胸部のみが押し当てられていた。
「ぐ、グレイ離れてくれ。強化服が硬化してるから痛いんだよ」
「堪能していいわよ」
「鉄板押し付けられてる気分になるんだ。離れてくれ」
「失礼ね。これでも最近大きくなったのよ?」
「そんなこと聞いてない!」
そこから少し問答してからグレイに離れてもらい、ハンター達と話をすることができたが、彼らからは温かい目が終始向けられていた。オルトは大きな溜息をついていた。
片方のハンターが申し訳なさそうな表情を浮かべながらオルトに話しかけてくる。
「それでな、出来ればでいいんだが回復薬を分けてもらえないか? 俺達の持ってるやつじゃ、たらふく飲ませても攻撃食らって寝てるハンターオフィスの職員が起きないんだ。他の奴らも治療してやりたい」
オルトはバックパックの中に入れてある回復薬をハンターに渡す。
それを受け取ったハンターはそれが高価な品ということを知っていた為、顔を顰めていた。回復薬を荒野で売買すると大抵の場合、購入時の値段を大きく上回る値段になる。売れば自分に使えなくなるからだ。
「あー、その……だな」
「値段交渉は後でいい。最悪タダでやる。助けに来たのにケチったせいで死にましたは気分も悪いからな」
言いにくそうにしていたハンターはオルトの発言を聞くと顔を喜色に染めた。
「本当か? 助かる」
ハンター達はオルトの傍から走り去っていき重傷者から順に手当を行い始める。
「痛むが我慢しろ。これで助かる」
先に治療を受けたハンターオフィスの職員が状況確認を済ませるとオルトに近づいてくる。
「君がこの場に救援に来たハンターか。助かったよ。私はノーツという、よろしく」
「オルトだ。よろしく」
挨拶を交わしオルトが来る途中に何かなかったかなどを聞かれるが、オルトがモンスターの群れを見たのはこの周辺に来てからだ。
「そうか。実をいうと他の場所にまだ別のトラックが救援を待っている途中なんだ。確認した限り救援に向かったのはランク10代のハンターだけらしい。どうか行ってもらえないだろうか」
グレイが厳しい目つきでハンターオフィスの職員を見る。先程戦闘を終えたオルトを危険な場所に派遣しようとしているからだ。だがオルトの疑問は別の場所にあった。
「その場合ここはどうなるんだ? もうモンスターに襲われないって決まったわけじゃないだろう?」
未だモンスターの襲撃は続いている。都市の防衛隊がクズスハラ街遺跡の最前線に立ち、原因の排除に動いている。それもいつ終わるかはまだ分からない。
「その点は問題ない。ドランカムのハンターがこの周辺を通っていくみたいだ。彼らの内から数名護衛とすれば問題は無いだろう」
「……分かった」
「そうか! ありがとう。ハンター証を出してくれ。手続きをする」
オルトはハンター証を提示して手続きを終えると車に戻ろうとするが、その後にグレイも続いた。
「私も行きます! 手続きをお願いします!」
「え、大丈夫なのかい? 彼と違って君は戦いっぱなしだし、弾薬とかも尽き始めているんじゃ」
グレイは痛いところを突かれ顔を曇らせる。その後オルトの方へ顔を向けると懇願するものへと変わる。意味は十分伝わった。
『連れてけ、銃弾とかも買うから使わせてくれってところか?』
『いいのですか?』
『俺が決めるのは俺の行動だけだよ。彼女は彼女自身の物だ。否定する気はない。限度はあるけどな』
『そうですか』
ファナからの問いに答え、グレイに告げる。
「弾薬費は使った分だけ払ってもらう。それが条件だ」
グレイの顔が明るくなり都市の職員は消耗品に不安が無いのならと手続きを終わらせる。
手続きを終えたグレイがオルトの方へ走ってくると再び抱き付いてきた。
「ありがとう。それじゃ、行きましょうか」
「その前に離れてくれ。動きにくい」
車に乗り目的地へ走り去る2人に苦笑いを浮かべながらハンターオフィスの職員は見ていたが、自身の職務に戻るべくトラックの方へ足を運んだ。そこでは重傷者も死なずに済むように治療されたことに喜んでいるハンターが複数いた。
車の荷台から弾薬や回復薬、エネルギーパックの入ったリュックサックをオルトから受け取ったグレイは、オルトの走らせている車両がレンタル品でないことに驚いていた。
「オルトは少し前にハンターになったのにもう自前の車を手に入れたのね。私ももう少ししたら買えるかなってくらいには貯蓄はあるんだけど、この値段の車両は無理かなー」
「これは少し前の緊急依頼の報酬の金をつぎ込んで買ったからな。調達してきた奴も笑えるくらいにはいい性能だ。俺も結構満足してる」
「その時もさっき見たいな無茶苦茶な戦い方したの?」
「無茶苦茶?」
「自覚無しかー。遠距離からGRDで近づいてくるモンスターを倒せばいいのにしなかったし、近づかれたら格闘戦を絡めながらAAHで銃撃してたし。危険だとは思はないの?」
「あれか。あれは仕事の内だからだ。救援の仕事を請け負ったのに、自分可愛さで救援対象が死んだら意味がなくなるからな。少なくとも問題ないくらいの量を相手したし、許容範囲だよ」
オルトの考えを聞いたグレイが驚いた顔を向ける。仕事だからと自分を危険な位置に配置できる人間は少ない。少なくとも巡回依頼はそんなハンターが集まっている仕事だ。
「そっか。凄いねオルトは」
「褒めても何も出ないけどな」
「何かが欲しいわけじゃないって」
オルト達はそのまま車を走らせていると前方に2台のトラックとそれを襲っている虫のような足の付いた大砲が列をなしていた。既に戦闘は始まって暫らく経ったのか短期決戦に持ち込んだのか多くのハンターがトラックから前方に出て銃撃を繰り返していた。
「居たわ。あれね。よし、やるわよ」
意気を上げて助手席を立って、モンスターへGRD対物突撃銃の銃口を向けるグレイは汎用徹甲弾で近くに居たモンスターを貫いた。しかし破壊し切れず、モンスターはその足を使ってこちらを向くと別方向から放たれた銃弾によって機関部を破壊され沈黙した。
その方向に居たのはバイクに跨り、強化服を身に着け、AAH突撃銃をそのモンスターから別のモンスターへ照準を移そうとしているアキラだった。
「うっそ、あの速度で運転しながらあの精度!?」
『あのモンスター、砲を回転させられないのか』
『キャノンインセクトと呼ばれるモンスターですね。彼が囮をしてくれるみたいですし、今のうちに数を減らしていきましょう』
『了解だ』
「やっぱり強いなあいつ。……さてと、やるかな」
「え? 知り合い?」
「後で話すよ。取り敢えずこの場を終わらせよう」
オルトはそう言うと立ち上がりGRD対物突撃銃を構えて近くに居たキャノンインセクトを撃ち抜く。汎用徹甲弾が機関部を破壊し、機能を停止させ、貫通した銃弾が後ろに控えていた足の生えた砲弾に命中し他のモンスターを巻き込み爆破する。
グレイもそれに続き狙撃を再開する。この場に居たハンター達の努力の甲斐もあり、ある程度モンスターが駆逐されていた。
「この調子なら問題なく終わりそうね」
「……終わってない時にそういうこと言わないほうがいいぞ」
「え、なんで?」
グレイの呟きに返し、聞き返されると同時にオルトの車が速度を急激に上昇させる。ファナのサポートがあるオルトはそれに対応できたがグレイは座席に叩きつけられた。グレイが不満をあらわにした顔をオルトに向けるが、オルトも何か言われてもどうも出来ない。
その直後オルト達の後方に砲弾が着弾し地面が爆ぜた。
『ファナ何があった?』
『先程のモンスターより巨大なものが来ました。対処する必要が生じる可能性があります』
『可能性? 別に今から行っても問題ないんじゃないのか』
『アキラが既に向かっています。彼が何とかするでしょう。近くに居るモンスターを先に倒しましょう』
『AAHじゃ小さめの奴にも効いてなかった気がするが。ファナが言うならそうしよう』
ファナの指示通り普通のキャノンインセクトを撃ち続けながらも巨大なものを視界の端で捉え続ける。グレイも同じようにアキラの走っていく方向を注視している。
どう対処するのかを考えていると、アキラは巨大なキャノンインセクト用の砲弾を蹴り上げ、アキラ自身も同じ高さに飛び上がる。その位置は砲口の目の前だ。グレイが焦るような声を上げるが、オルトは極めて冷静にその選択を褒めた。
(自分の手に無いのなら敵の手を使えばいい。少なくとも戦闘中にルールなんて無いからな。できるかどうかは別として)
アキラは蹴り上げた砲弾を、巨大なキャノンインセクトの砲口へ蹴りつける。砲身で砲弾同士がぶつかり合い内部から爆発を起こす。更に足元に居た砲弾達にAAH突撃銃で銃撃して誘爆させていくことで巨大なキャノンインセクトを1人で沈めた。
「……うっそー」
「あんな無茶苦茶な事はしたことないな」
2人は周囲のモンスターの排除が済んでいたのでアキラの行動の一部始終を見ていた。各々感想を溢しながらも周囲の警戒だけは怠らなかった。
オルトは周囲にモンスターの反応が消えたのを確認してからトラックの方向へ車を走らせると、そこにいたハンター達が笑ってアキラを迎えていた。
「お前らは他の場所から救援に来てくれたのか? 感謝する」
「ああ、他の場所の問題が解決したからこっちに来たんだが、凄いことする奴も居たもんだな」
「あいつも救援に来たハンターなんだが……、最近の子供のハンターは恐ろしく強いやつが沢山いるんだな」
ハンターから話を聞く限り、オルト達がここに来る前にもアキラは活躍したようだった。武器もAAH突撃銃しかなかっただろうによくやるもんだと感心しているとトラックの近くから銃撃音が聞こえてきた。
すぐさまAAH突撃銃を手に取り、周囲を探るがモンスターの反応はなかった。
「気絶してるだけで生きてる個体が居た! 頭部が無事な奴には2,3発ぶち込んどけ!」
その場にいたアキラがそのモンスターに襲われたが一人で対処したらしい。
周囲に居たハンター達が頭部に銃弾を撃ち込んでいるのを見ているとひとりのハンターが近づいてくる。
「な、なあ。回復薬が余ってたら売ってくれないか? 向こうの奴はさっきので使っててな。流石にあれだけ働いた奴にこれ以上は言えねえんだ」
オルトに話しかけてきたハンターは大分申し訳なさそうな表情をしてアキラの方を見ていた。アキラもここに来た後、一度回復薬を彼らに渡している。先程の一件で足の骨を折ったアキラに対し、これ以上、回復薬を要求するような無遠慮なことは彼らにはできなかった。
回復薬を取り出すオルトにグレイが疑問を溢す。
「いいの? 前の場所でも渡してたし、私にもくれたでしょう?」
「回復薬は多めに持っておくことにしてるんだ。カオルも言ってたからな」
「そうなの? 私もそうしようかなー」
1人で考え始めたグレイを余所に回復薬をハンター達に渡す。値段交渉も後に回してその場を終えることにした。
周囲が安全なことを確認してオルトがアキラに話しかける。
「久しぶりだなアキラ。緊急依頼に1人で向かってきたって聞いたぜ?」
オルトの発言に対しアキラの視線が暗いものに変わる。
「別に、俺が選んだことだ。誰かにとやかく言われる筋合いはない」
「否定したくて来たわけじゃない。そう聞こえたなら謝る。自分で選択してここにいるっていうなら、俺は尊重こそすれ、侮辱なんてしない」
オルトの返答に目を丸くしながらアキラは謝礼を述べる。
「……そっか。ありがとう」
「ああ」
その2人に割って入るようにグレイがアキラに話しかける。
「2人の話は終わった? あなたはオルトの知り合いなのよね? 私はグレイ。よろしくね」
「……あ、ああ。ええと、俺はアキラです」
「アキラね、よろしく。それと、私に敬語とかは要らないわ」
アキラに話しかけるグレイを止めることもせずにオルトはその様子を眺めていた。
『そういえばこの依頼ってどうなったら終了になるんだ?』
『クズスハラ街遺跡で起きている原因の排除が完了したら、になりますね。その場合都市から牽引車などがこの場に来るでしょうからそれまでは続くでしょう』
『そっか』
日が落ち始め暗くなっていく。オルトは視界の端に映る複数の大型車両がこちらに近付いてきているのを確認してこの依頼も終わりと判断した。
故障したトラックを牽引車に繋いでいる者、死んだハンターに哀悼の意を表している者、情報収集機器の記録を取っている者など多くの者がこの場に居た。
オルトは話を聞きに来たハンターオフィスと都市の職員に状況などを伝えて休憩を取っていた。グレイも話を終えて車の近くまで来ていた。
オルト達の近くでアキラも1人の職員に話をしていた。
(あのバイク、今回の報酬の前払い品なのか。結構な速度出していたし値が張りそうだな。まあ、俺が来てからの活躍だけでもお釣りぐらいは出そうだが)
話を終えたアキラがオルト達の方にやってくる。
「2人は帰らないのか? 俺はもう帰るけど」
「私は1人じゃ帰れないから、彼らと同行するかオルトに送ってもらうわ」
勝手にオルトの車両を当てにしているグレイを無視してオルトが答える。
「俺は救援依頼を受けてから来たからな。まだ動けるからこの後の救助依頼を受けようか考えてる」
「そうか。なら頑張ってくれ。2人ともまたな」
そう言い残してアキラがバイクで都市の方へ走っていく。
オルトの近くに上機嫌な顔をしながら立っている男が話しかけてくる。
「よお! お前らも救援に来たハンターなんだってな。俺の名前はキバヤシって言うんだ。実はちょっと聞きたいことがあってな? さっきのアキラってハンターが面白い挙動をしてたって記録が残ってるんだよ。何か知らないか?」
オルト達はその後アキラの戦闘について少しだけ話した。機器の故障などではないことが分かるとキバヤシは愉快そうに笑いだした。再び会話が可能になるまで少しの時間を要した。
「あー笑った。久しぶりに活きの良いハンターがクガマヤマ都市に出てきたってもんだ」
「活きの良い?」
「ああ。ハンターなんて死が隣にある職業選んでおいて大人しく小銭稼ぎする奴の多いこと多いこと。無理無茶無謀。命をチップに大金を掴み取るのがハンター稼業の醍醐味だろう。駆け抜けて生き、駆け抜けて死ね! 今日は良い物見たね。これからも期待できそうだ」
目の前の男が何を言っているかは理解できる。理解はできるが近寄りたくない人種のように感じたオルトは目を逸らそうとしたが、キバヤシに肩を掴まれる。
「そういえばお前の戦闘記録も見たぞ。銃を持ってんのに態々格闘戦を挑みに行くなんて良い性格してるな。これからを期待しておくよ。頑張れよ」
変に気に入られたようでオルトは面倒くさそうに溜息を吐く。
オルトは救助依頼を受けて荒野でまだ立ち往生しているトラックを巡る。グレイは荷台で仮眠を取っている。そして助手席には何故かキバヤシが座っていた。
「なあ、なんで俺の車に乗っているんだ? ハンターオフィスの職員なら牽引車とかに席が残ってるだろ?」
「心配するな。俺の権限はちょっと高くてな少しくらい自由が利くんだ。戦闘が始まっても面倒はかけないさ」
救助依頼を受けた者達の車両は牽引車を中心に周辺を走っている。その危険に近い位置に態々権限を使ってやってくる意味の分からない。分かりたくない男と閑談しながらも周囲を探る。
「これだけいい車両を若手ハンターが持てるのは珍しいと思ってたが緊急依頼の報酬か。ハンターオフィスの記録にもあるな。ついでにアキラもその場に居たと。随分な連中だな」
自分の話を聞きながらお腹を抑えているキバヤシをオルトは意識的に視界に入れないようにしていた。
「いやー、良い話を聞いた。話の礼にちょっと口利きぐらいはしてやるぞ?」
「どこにだ?」
「ハンター用の賃貸物件を借りたいって言ってただろ? 俺はそっちの伝手もあるんだ。どうだ?」
オルトとしては悪くない提案だ。相手はそれに含まれないが一緒に住むわけではない。問題はないと判断した。
「なら頼む。倉庫とか風呂とかが広いやつでな」
「決まりだな。明後日までには連絡するぜ」
思わぬところで賃貸を手に入れることができそうでオルトは安心していたがファナから警戒を促されて緊張を高める。
『オルト。警戒を』
『どうした、ファナ。何があったんだ?』
『迷彩持ちのモンスターです。視界を拡張します。ご確認を』
『……でかいな』
視線の先に居るのは全長8メートルほどの巨大な爬虫類だった。遠距離武装の類は見当たらないが、その巨体で突進をされれば車両がひっくり返るだろうと思わせる。
オルトはGRD対物突撃銃の弾倉を専用弾に変えて赤く縁取られているモンスターを凝視していた。その様子に気付いたキバヤシが話しかけてくる。
「どうした? 何か居たか? 都市の車両の方には何も映ってないが」
キバヤシは自身の情報端末で都市の車両の索敵機器の取得情報やオルトの車両の表示画面を見てもオルトの視線の先には何も映っていない。
しかしオルトはGRD対物突撃銃をしっかりと構えて、その銃口から伸びる弾道の予測線。キバヤシは長年、多種多様なハンター達との交流経験から認識したその架空の線を思い描き、オルトの構えが見せかけなどではないと見抜いた。
キバヤシが期待で胸を膨らませている
しかし、専用弾を喰らったその部位は完全に破壊はできておらず、未だ生命力に
「おお?! 暴食ワ二!? 結構な大きさだな。しかもさっきのは迷彩持ちか」
キバヤシの感嘆に近い声も無視して、頭部に負傷を負って尚接近してくる暴食ワニに向けて、オルトはゆっくり深呼吸を挟みながらGRD対物突撃銃の照準を合わせ直す。
迫って来ている暴食ワニには遠距離用の武装は見受けられない。有効射程という圧倒的有利を保持したまま終わらせる為、更に集中し、オルトは負傷を与えた部位に狂いなく次弾を撃ち込み続ける。
初弾で頭部の一部が
弾倉が
「揺れる車両の上からあの精度か。良い物を使っているな。そうだ! 俺がお前に美味しい依頼を斡旋してやろう。どうだ? 稼げるぜ?」
感嘆の言葉を漏らすキバヤシは、都市の索敵にまだ映っていなかった暴食ワニを
愉快そうに笑うキバヤシを冷ややかな目で見ながらオルトが答える。
「断る! 無理無茶無謀が見たいやつが持って来る依頼なんて命が幾つ有っても足りなさそうだ」
「遠慮するこたーねえって」
キバヤシは自分の話を無視する方向に定めたオルトを、無視するかのように話を続けていた。その後は特にモンスターに襲われることもなく都市まで帰還する。
オルトは急に変なモンスターに襲われた場面を見られたくない相手に見られたことを後悔しながらその日の仕事を終えた。
オルトを見て笑っていたものは1人ではない。
アキラ、カツヤ側のストーリーもオルトの動きに合わせて書いた方がいい?(尚、書籍版やWEB版の流れは踏襲するつもりです。細部に変更を加えたり等が発生します)
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いい
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だめ
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傍観