リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第六話 斡旋

 

 翌日、オルトは遅くまで寝ていた。巡回依頼受注者の救助依頼は日が落ちてからも行われていた為だ。

 救助依頼中、終始助手席から話しかけてきていたキバヤシに、オルトはハンターの一般常識のようなものを聞きながらその依頼を達成した。

 依頼中、その対象者となっているグレイは荷台に居た。仮眠を取っていたグレイは近くで銃撃音が響いても起きなかった為、心配になったオルトだったが、都市の広場に戻った後、肩を揺すっただけで何事もなさそうに起き上がりオルトに謝礼を言い、その場を去っていった。

 オルトが宿に着いたのは、日を跨いだ後だった。

 寝ぼけ眼で起き上がったオルトは、傍に立ち微笑(ほほえ)みを浮かべるファナと目が合う。

 

「おはよう、ファナ」

『おはようございます。オルト。昨日の報酬、その他の通知も届いていますよ』

 

 報酬や他にも届いているという通知に興味を示したオルトは机に置いてある情報端末を確認した。

 昨日の依頼履歴から報酬額を辿って確認すると相応と思われる金額の表示を見つけた。その後、通知の方の確認を行う。

 

「……救援依頼、救助依頼の報酬額は合計6500万オーラムか」

『救援依頼中に渡した回復薬分も計上されてあるみたいですね』

「通知の方は今朝方にグレイからとキバヤシからか」

『グレイからは弾薬費等の振り込みがされていますね。キバヤシの方は昨日話した賃貸についてのようですね。早速行きますか?』

「そうだな、早速行くとしよう」

 

 オルトは遅めの朝食を取りながら、ファナと賃貸物件に求める要望をどうするか相談していた。いくつかの要望をまとめた後、荒野(こうや)などの危険地帯に行くわけではない為、強化服を着てAAH突撃銃のみを装備してキバヤシの紹介した不動産業者の事務所へ向かった。

 オルトが不動産業者の事務所に入り、窓口にキバヤシの名前を出すと担当者がやってくる。担当者は都市の職員が紹介したハンターが随分幼いように見えて驚いたが、都市の職員への信用を信じて、オルトに丁寧に物件の紹介を行った。

 要望を伝えた後、業者に紹介された物件を幾つか見て回ったオルトは、ファナと相談しながら一つの物件を選んだ。

 オルトが選んだ物件は、下位区画の中間から荒野(こうや)側にある一戸建てだった。

 東部には土地など幾らでも余っているが、安全という付加価値をつける場合、その範囲は極度に狭まる。防壁の内外で安全性に雲泥の差が出るほどにはその価値は明確だ。

 当然防壁に近くなればその価値は順に増していく。逆に荒野(こうや)に近ければ下がっていく。東部では安全は高価なものだった。

 家賃は月に100万オーラムになるが、一階にある車庫、倉庫が共に広く今オルトが使用している車が数台駐車しても問題ないくらいに広い。二階は住居スペースになっており寝室、浴室、浴槽は文句なしに広かった。備え付きの家具もありそのままでも問題ないと思える。

 ハンター向けの住宅で使用している建材も強固なものを使用している。火器の暴発などが起きても被害を抑えられる。

 一応、契約している民間警備会社が周辺の治安維持を実施しているが、強盗などに襲われても基本自力での対処が基本になる。応援や、戦闘の余波で破壊された家屋の修理、死体の処理は有料で不動産業者が請け負う。

 水道代、光熱費、警備代、各種保険等は家賃に含まれている。それ以外を頼む場合はオプションとして追加料金がかかる。

 この物件は基本的にハンターランク40を超える者に紹介している物件だが、オルトは昨日の依頼でハンターランクが上昇したといっても今のハンターランクは25だ。キバヤシの権限はそれを覆せる程度には高い。

 それを考えていると担当者が諸々の説明を終える。

 

「一通りの案内と説明をさせて頂きました。オルト様。何か御質問は御座いますか?」

 

 オルトはこの物件を気に入ったため、直ぐにでも引っ越しをしたかった。

 

「この家はいつから借りられますか?」

「家賃の振り込みが済み次第となります。この場でお支払い頂ければ今すぐにでも」

「ではお願いします」

 

 オルトはハンター証を担当者に渡す。

 担当者はオルトのハンター証を手持ちの機器で読み取り、契約処理を終わらせ、ハンター証をオルトへ返した。

 担当者は頭を深々と下げ、オルトへ家の鍵を手渡した。その後、幾つかの注意項目をオルトに伝え担当者は帰っていった。

 家賃は自動的に引き落とされるが、一秒でも支払いが行われなければ物件は中の物も含めて管理会社に所有権が移るということ。つまり案内の際、内部にあった家具は前の居住者の物だったということになる。単純に払えなくなったのか、荒野(こうや)に呑まれたか。恐らくは後者だ。

 オルトは一度宿に戻り荷物を纏める。弾薬等を入れているリュックサック、自分用に残してある遺物、まだ換金していない遺物の山、銃火器などを全て車両の中に入れて宿を後にする。

 

 

 借りた家に着くと、オルトは車両内の物を次のハンター稼業に使うもの以外を下ろしていく。それらの作業を終えた後、鍵を閉め部屋に入りソファーに腰を下ろし、大きく息を吐く。

 

「……家か。俺の家だ」

 

 ファナが今までの努力を労うように微笑(ほほえ)む。

 

『おめでとうございます。オルト。ようやく家を手に入れましたね』

「ああ、ありがとう。ファナ。……遺跡で目が覚めて右も左も敵だらけ。ファナと会えたおかげで一気に変われた。本当に感謝してる」

 

 オルトは目が覚めた当初から今までの事柄を思い返しながらファナへ最大限の感謝と笑顔を表す。ここに来る前に手にしていたであろう虫食いの知識や身体に遺る記憶、起きた時の居場所、そこを住み処とする存在、全てがオルトを苦しめるものだった。それが変化したのはファナに会ってからだ。少なくともオルトを助けている者だ。

 オルトは彼女に貰ったものの対価を知っている。だからこそ足を止めても、止め続けることはしない。必要なものをファナが示してくれる。後はオルトが覚悟を決めてそこへ行くだけだ。必要なのはそれを示すこと。

 昨日よりマシな今日を手に入れるために。今日より強い自分を明日手に入れておくために。

 

『ええ、感謝は受け取っておきます』

 

 からかうように笑うファナに自然と笑いが零れる。

 

「分かってるって。依頼達成のために精進するよ。気長に待ってくれ」

 

 オルト達は暫らく笑いあった後、生活用品を買いに下位区画に出て買い込んでいた。夜になる頃にはオルトの新居での生活の準備も終わっていた。

 1日の締めとして新居の浴槽で風呂に入り疲れを癒している。オルトが要望した通り浴室、浴槽は広く手足を伸ばしてゆったりと湯を楽しんでいた。

 視界の中にはファナも湯船に浸かっている。彼女の姿かたちは映像なので実際は浸かっている訳ではない。最初の頃はファナの裸体に恥ずかしがっていたオルトも毎日一緒に入っていると慣れてしまった。

 

『これからのハンター稼業の予定を決めておきましょうか。オルトは何か要望はありますか?』

 

 オルトも遺物を売るだけの生活をしたいわけでもない。しかし、以前行ったクズスハラ街遺跡の地下施設はヤラタサソリで溢れているだろう。遺物収集に身を入れるには少々厄介なモンスターだ。それ以外にする場合、地上部分ならばファナの索敵が有効だ。奇襲を受ける可能性はないと言って差し支えない。が、先日のモンスターの襲撃の影響でモンスターが少なくなっているため、他のハンターが多く遺跡探索に乗り出しているだろう。

 大量の遺物を見つけ、それを他のハンターに見つかれば成果を奪われる可能性があり、オルトは遺跡探索に他のハンターと遭遇することを嫌っている。

 

「うーん、前の地下施設は無し、地上もハンターが多すぎる。……前発見したリオンズテイル社の施設を探すってのはどうだ?」

 

 オルトは多くのハンターがクズスハラ街遺跡で遺跡探索を行っている間に未発見の遺跡を探し、その場に眠る手つかずの遺物を入手することを提案した。

 

『それがいいでしょうね。次の装備更新は桁が億に届く強化服を選べることのできるように頑張りましょう。端た金の品から早く脱却しましょうね』

「目標が高いな。まあ、そこもまだ通過点の一つってのは解るんだけどさ」

『ええ。高いところを見て、実際にその場所まで行けば問題はありません。私のサポートがあれば辿り着くのも早くなります』

「分かったよ。……遺跡、見つかると良いな」

 

 オルトの表情に映る安堵とファナに向ける信頼と信用が見て取れ、ファナはそれを見てただ微笑(ほほえ)み続ける。

 

 

 翌日、オルトはトライフワーデンに足を運んでいた。弾薬の補充と他の用事を済ませるためだ。車を駐車場に停めるがそこには他の車も多く停車していた。

 オルトが店内に入ると多くのハンターが代わるように店外へ出ていった。

 カウンターにはエルとカオルが居り、先程の客の対応をしていたのだろうと見て取れる。

 

「ようこそ、いらっしゃい。オルト」

「いらっしゃいませ。オルト君!」

 

 2人がオルトに気付きいつも通りの挨拶をする。オルトもいつも通りそれに返す。

 

「おはよう、2人とも。繁盛しているみたいでなによりだ」

 

 まだ日が昇って早い頃だが2人の顔には少しの疲労が見て取れる。それだけの量の客を対応していたのだろう。だが年季の差だろう、カオルは元気そうに笑いながら、ちょっとした理由を話し始めた。

 

「まあな。先日クズスハラ街遺跡からモンスターの襲撃があったが、その影響で奥部のモンスターが多少捌けたって話で、多くの腕に覚えのあるハンターがこぞってそこに行っているんだ」

「やっぱりモンスターが少なくて高値の遺物がありそうな場所には皆行くよな」

 

 オルトの少し冷めたような反応を見てエルは疑問を抱く。

 

「オルト君は行かないの? いつもは居るモンスターが今はいないんだよ?」

「今はな。旧世界の遺跡なんて何が起きても不思議はない。モンスターがいきなりいつもの数に戻ったら危険じゃないか。そんなことが起きたら最初に相手しないといけないのは一番奥に行った奴かもしれないし、中途半端なところから出てきてそこに居た奴が相手しなければならなくなる。少なくとも、もう少しいい装備に変えてからだな」

「ふーん、そっか」

 

 エルも得心した様子でオルトが注文していた消耗品の入った箱をカウンターに置く。これからの事を考えて全て拡張弾倉にしている為、値が張ったが命よりは安価な品だ。

 

「そうだカオル。装備について相談に来たんだ」

「相談か。いいぞ? どんな物が欲しいんだ?」

「情報収集機器とこの強化服の性能を上げれないかと思ってな。どうにかならないか?」

 

 オルトが今使っている情報収集機器は、以前パッカ達から奪ったものを使っている。他のハンターを襲って購入していたものだったのかそこそこ性能が良かったが、これ以上のものがあるのならばオルトとしてはそちらを使用したかった。

 強化服も大きな不満があるわけではないが、GRD対物突撃銃を装備したままでは運べる遺物の量も減少してしまうと考えていた。引きずって動かすことは可能だろうが、それではリュックサックの寿命が一気に削れてしまう。消耗品として見れるくらいの金額だが、長持ちするのなら長持ちしてほしい。

 

「予算はどの程度だ?」

「両方合わせて7000万オーラムは出せる」

「なるほどな。グレイが言っていた通り、随分活躍したみたいだな」

「グレイが?」

「うん。昨日弾薬の補充に来て色々聞いたよ。オルト君に助けてもらったってグレイちゃん喜んでたよー」

 

 エルが楽しそうに話し始める。年頃なのだろう、そういう話をカウンターで長くしてしまってカオルは久しぶりに叱ったようだった。

 

「無事ならいいよ。俺は仕事でその場にいる奴らに死なれると困る立場にあったからな」

 

 オルトの発言に2人の顔が少し顰めるがオルトは特に気にしなかった。

 カオルが大きく息を吐きながら店の奥へと消えていく。その最中もエルがグレイの事を話していた。奥からカオルが戻ってくると大きめの箱をカウンターに置く

 

「……まあいい。これがオススメの情報収集機器だ。といってもその強化服のオプション品の一つだ。その中でも一番高価な品だがな。値段は3500万オーラム。本体以上に高いがその分性能も高い。……強化服の性能を上げたいって話だが、そっちもオプション品で全体の装甲を付け替えることで可能だ。そっちは3000万オーラムだ。付け替えはこの店でもできるが、どうする?」

 

 結構な値段するが情報収集機器は高性能な品が欲しい。未発見の遺跡を見つけに行くのだ。探知能力は高いほうがいい。強化服の性能も上げられるのなら上げておきたかった。

 

『ファナ。俺は良いと思うけどどう思う?』

『私も良いと思いますよ。取り付け後は私の方で掌握するので情報端末に繋いでいただければ問題ありません』

『決まりだな』

「よし、それで頼む」

 

 オルトの返事を聞いたカオルがオルトを別室に招く。

 

「分かった。こっちに来てくれ。ついでに身体測定も行おう。強化服を渡してから結構経つからな、そろそろ測定して強化服を合わせておいたほうがいいだろう」

 

 カオルと共に別室へ行き強化服を脱ぐ。カオルはオルトの強化服を受け取ると測定用の強化服を渡してくる。そしてそのまま装甲の付け替えを始める。

 オルトは測定用の強化服を着て広めの部屋で身体を動かす。柔軟体操をしながらカオルの仕事のさまを見ているとカオルが話しかけてくる。

 

「グレイから聞いたが、お前は随分良い回復薬を使っているそうだな。それも結構な量を一度に持ち込んでいるとも」

 

 真剣な表情をしながら作業を進めるカオルは、どちらにその表情を向けているのか分からない。もしくは両方に、か。オルトは困惑を表情に残しながら答える。

 

「ああ」

「物によっては体内に残留して悪影響を出す物もある。カプセル内に入っている治療用ナノマシンが強引に治しているだけだからな。使うだけの理由があるのだろうとも思っている」

「……」

 

 非難になど聞こえないカオルの声にオルトは声を返せなかった。

 

「残留は汚染の一歩手前みたいなものだ。定期的に病院に行って残留数値の検査と除去は行っておけ」

「……分かった」

 

 その後もハンターとして、回復薬に関する注意点を聞きながら装甲の付け替えが終わるのを待っていた。

 オルトは新しくなった強化服を着てみる。基本の装甲の色は変わらないが全体を走る線の色が濃い橙色になっている。少しだけ身体を動かすがぎこちない部分はなく問題は無いように見える。店内で全力を出すと大きな被害を出すためその場でわかるのはものが変わったのだろうなということだけだった。

 

「さて、これでお前の装備はより良い物になったな。これからも長く生き残ってくれ」

荒野(こうや)での活動は俺の領分だからな。任せてくれ」

「そりゃ何よりだ」

 

 オルトはそのままカウンターに戻ると、残りの500万オーラムの使い道をどうするか2人に相談する。補助アームは既に6本も付けていてファナのサポートがないと無様な動作になる。これ以上増やす必要性は感じない。銃火器についてもGRD対物突撃銃のおかげでAAH突撃銃では倒せないモンスターがいても対処は可能。それ以上に強いやつが来ればそもそも費用が足りない。

 そんなふうに3人で話しているとエルが一つ提案をした。

 

「そうだ。お守りなんか良いんじゃない?」

 

 エルの発言に目を丸くしてオルトが答える。

 

「お守り? どうしてだ?」

「ハンター稼業ってどのくらい稼げるか、異常事態に陥らないかの賭けを行っているようなものじゃない? なら験担ぎとかそういったものでもどうかなって。流石に500万オーラム使うようなものは無いだろうけど」

 

 オルトはそれもそうかと納得すると、カオルにそのような品はあるかと聞く。カオルは少し考えてから、倉庫に行って探しに行った。

 その間、エルに所持している銃で使えそうな銃弾で強力なものを聞いていた。

 

「1発500万オーラム!? 高いな!」

「高いよー。対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾は特殊な銃弾だからね。一応GRD対物突撃銃でも使えるけど本当に奥の手になるだろうね」

 

 異様に高価な銃弾の存在を知ったオルトは驚愕を隠せなかった。しかし、強化服に力場装甲(フォースフィールドアーマー)の機能を付けている商品もあり、力場装甲(フォースフィールドアーマー)を使用してくるモンスターも東部では多く生息しているという話を聞くと需要は高いのだろうと理解する。

 箱を抱えたカオルがケラケラと笑いながら倉庫から戻ってきた。

 

「随分でかい声が聞こえたが、対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾を買っていくのか? いざという時のとっておきにはなるだろうが」

「……1発だけ買っておこうかな。いざという時がいつ来るか分からないからな」

「毎度あり。お守りはどうする?」

「買うよ。500万オーラムはしないだろ?」

「そんなに取れるやつがあったら効果は折り紙付きだろうな」

 

 お守りを見ているとファナがその中の一つを指さしていた。

 

『これにしましょう』

『一応聞くけど理由は?』

『金銭が関わる際に縁起のいい数字が彫られてあります。ハンター稼業とは相性がいいでしょう』

『そういうことか』

 

 オルトはファナが選んだお守りを購入してから、店の奥から対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾をエルが運んできたので受け取る。手のひらに乗る500万オーラムの銃弾を微妙な顔で見つめるが、性能については問題ない。バックパックにしまい込み店を後にする。

 

 

 エルがオルトの出ていった店の出入り口を未だ眺めていた。

 オルトは少し前にハンターになった少年だ。そんな彼が大きな車両を購入し、高価な強化服に身を包んでいる。先程は対力場装甲(アンチフォースフィールドアーマー)弾を購入していった。どれも子供のハンターが、1人でそれを成し遂げるには困難といえる行為ばかりだ。

 ならば、それを可能にする賭けに勝っているという証だ。得られる金が多くなる勝負は比例して負けやすくもある。

 店の手伝いをするようになってから、多くのハンターを見てきたエルにとって、勝負できるオルトを幸運と喜ぶべきか、不運だと悲しむべきかは分からない。

 エルの様子を見たカオルがエルの頭に掌を乗せる。

 

「あまり入れ込み過ぎるんじゃないぞ。何処まで行ってもあいつは客のハンターだ」

 

 エルの心情が分かるからこその発言と、そう分かっているエルは無理やりにでも笑う。

 

「パパも人のこと、あまり言えないと思う」

 

 オルトの装備を整える際に、カオルが何かをしたということをエルは知っている。だからこそ、オルトは遺物をカオルの店に持ってくる。カオルもオルトに合う強化服を店の利益が下がることを承知で選んだのだ。

 カオルはエルから目を逸らしながら同じように店の出入り口を見る。

 

(数少ないエルの同年代の友達になってくれたんだ。無茶は控えてほしいもんだ)

 

 そこらのハンターとは稼ぎ方が違うオルトのハンター稼業に口出しはできない。それで足が止まれば死ぬこともある。自分の存在を足枷にしないためにも、エルの友達が減らないようにするためにもカオルは今日も商売に精を出す。

 

 

 数日後、オルトは車で荒野(こうや)を走っていた。

 既に情報収集機器や新しくなった強化服はファナが掌握済みだ。オルトが新しい情報収集機器の使用感をある程度掴んでから一日を休養に挟みハンター活動に出かけた。

 クズスハラ街遺跡から大きく距離を取りながら荒野(こうや)に存在しているであろう未発見の遺跡を捜索する。手掛かりは以前ヒガラカ住宅街遺跡の隠し部屋で見つけたリオンズテイル社の支店か端末が置かれているであろう場所だ。

 

「ファナ。目の前には何も映ってないんだけど。強いて言うなら空が映ってる」

『ここに有ったであろう建造物は内部ごと崩壊してしまったのでしょう。既に廃墟すら残っていないだけですよ。ちなみにヒガラカ住宅街遺跡で入手したデータで分かる正確な位置はあそこです』

 

 ファナがオルトの視界を拡張して表示した先には具体的な位置を示す矢印が浮かんでいた。宙に浮かぶ矢印が指し示す場所は空中だった。

 

「……そうだよな。ここに高値の遺物のある旧世界の施設なんてあったら皆押し寄せてくるよな」

『ここには既に何もなかった。次に行きましょう』

 

 一か所目から当たるような場所なら既に見つかっている。見つかっている場所ならば企業が優占したり、他のハンターが挙ってやってきている。

 オルトは暫らくリオンズテイル社の支店や端末があるであろう場所を巡っている。その場所が人に知られていないような場所である場合、未発見の遺跡である可能性が高い。少なくともあまり知られていない少数のハンターのみが遺物収集するだけの遺跡になるだろう。その場合、多くの遺物が眠っていることになる。

 しかし、データ通りの場所に訪れても、建物ごと朽ち果て倒壊して瓦礫になり、瓦礫が余風にさらされて細かく砕け、人やモンスターなどの死体が土に還り、積もった土から草木が生えている荒野(こうや)しか見つけられなかった。

 

 

 オルト達は数日、データ通りの場所を巡る日々を過ごしていた。

 空中や何もない地面を指し示す矢印を見て溜め息を吐く。そんなことを繰り返していた。

 見兼ねたようにファナがオルトを気遣うように明るい声を出す。

 

『外ればかりですね。未発見の遺跡ではなく、発見済みの遺跡に向かいますか? 既存の遺跡と重なっているデータも存在します。他のハンターに見逃されているような分かり難い場所の発見にも繋がるでしょう。そこにも高価な遺物が残っている可能性はあります』

 

 オルトは迷ってしまうが結論を出す。

 

「せっかく手に入れた情報だしもう少し粘ろうと思う。未発見の遺跡があれば数日分の挽回も容易なはずだし。明日までやってダメだったら既存の遺跡に切り替えよう」

『分かりました。次の場所まで少し距離があります。仮眠を取ることをお勧めします』

「ありがとう。何かあったら起こしてくれ」

『はい、おやすみなさい』

 

 オルトは運転を完全にファナに任せそのまま仮眠を取る。ファナの運転はオルトを起こさないように、モンスターに気付かれにくいように比較的速度を落とし、道がなだらかな場所を選んでいた。

 

 

 ファナの声がオルトの頭に響く。

 

『オルト。起きてください。着きましたよ』

 

 ファナの声はオルトの耳を介さず脳に直接話しかけられている。よってファナがどれだけ大声を出したとしても他の人間に聞かれることはない。

 オルトが意識を急激に覚醒させて周囲を見る。そこは、元は建物だったであろう瓦礫が散乱している場所だった。

 オルトは何度も見た光景に落胆しながら大きく溜め息を吐いた。

 

「また外れか」

『いいえ、地上ではありませんよ』

「え?」

 

 落胆するオルトの様子を見て、笑みを浮かべながらファナがリオンズテイル社の端末があるであろう位置に指をさす。

 その方向は地面の方向へ向いていた。オルトの視界が拡張されその施設があるであろう位置に矢印が出てくる。その矢印の大きさから見れば、相当離れている位置になるが、地下に遺跡が隠れている可能性は大きかった。

 

「……地下か」

『どうしますか?』

 

 オルトは周囲を見渡す。しかしどこも瓦礫だらけで入口と思われるものは見つからなかった。

 

「データの中に入り口の情報とかはないのか?」

『位置情報以外は取得できませんでした。当時は少し調べれば目的地への経路などは簡単に調べられたから位置情報だけで十分だったのでしょう。地下も既に崩壊して埋もれているかもしれません。ですが、もし無事な場合未発見の遺跡になりますね』

「だとしても、入り口がないと入れないんだよな」

『入り口を探してみますか?』

「……もうすぐ日が沈むんだよな。……地上だったらファナの索敵は問題なしだよな?」

『はい、問題ありません。その上、情報収集機器の性能は以前のものより向上していますからね』

 

 オルトは少し思案して答える。

 

「周囲を調べて入り口を探そう。ハンターやモンスターの反応があったら休んでるってことにでもしよう」

 

 ファナはオルトの発言に微笑(ほほえ)みを返す。

 

『適当ですね。では探しますか』

 

 オルトは情報収集機器を駆使しながら周辺の瓦礫や塵、砂の下を掘り返しながら探ってみるが特にそれらしいものは見付からなかった。

 

「地下に続く階段なり通路なり有ると思ったんだけど読み違いか?」

『周辺にはそれらしいものは有りませんね。瓦礫も少ないですし探っても出ない可能性の方が大きいかと』

「……ここの周辺は地下街があると思われる場所の中央部分。その可能性とか考えられるか?」

『その場合、中央には元々高層建築物が存在していて、その残骸が地面を埋め尽くし、長い年月で風化、土やらなにやらが積もりに積もって、当時の地面が地下深くにまで埋もれてしまった、と』

「そんなの掘り返すのは重機が必要だろうな。直下掘りは却下だな。他の連中にバレる」

『出入り口がビルの1階や地下部分にあって、そのビルがある程度原型を残していれば、そこから内部を通っていけますね』

「それに賭けるか」

 

 オルトはファナと話し合いながら周辺の探索を続けた。怪しい場所を強化服の力で掘り起こしたり瓦礫を動かしてみる。

 既に最初に停車した場所から大分離れてしまったが、そこでファナがオルトへ指示を飛ばす。

 

『止まってください』

「何かあったか?」

 

 オルトが身をかがめ、警戒態勢を取る。

 

『お目当てのものを発見しました』

 

 ファナがオルトから少し離れた場所に立ち、近くの瓦礫を指差している。オルトの視界が拡張され、その下に隠れているものが表示される。そこには瓦礫に埋もれている階段が表示されていた。

 

「よし! 見つけた。……既に日は沈んだけど、考えようによっては他のハンターはもう都市に戻って、こんな所うろつきには来ないだろ」

『早速調べてみましょうか』

 

 オルトは興奮した様子で瓦礫を一つずつ退けて階段を露わにする。より高性能になった強化服は十全にその性能を発揮し、10分ほどで撤去作業を終わらせた。その間にファナの操作で近くの瓦礫の陰にオルトの車両が隠れるように停車する。

 

『これで車両が見つかり難くはなったでしょう。後は地下が崩壊していないか、遺物が残っているか』

「……ファナとの通信が不安定にならないか、だな」

『ええ。旧世界製の情報端末で補助していますが絶対ではありません。地下で私の姿、声が届かなくなった場合。つまり私を認識できなくなった場合、すぐに引き返してください。認識できない状況は私のサポートは受けられなくなります。ご注意を』

 

 オルトがファナを真剣な表情で見つめ返す。

 

「ああ、分かってる。……それじゃあ、行くか」

 

 オルトは両手に改造済みのAAH突撃銃を握り、背中にあるGRD対物突撃銃をすぐさま扱えるようにしながら地下への階段を下りていく。

 

 

 地下に存在する未発見の遺跡、その出入り口と思われるものを見つけたオルトは、真っ暗な地下へ続く階段を、照明で照らしながら慎重に下りていく。

 階段の幅は4メートルほどで、天井も高く、崩落している部分も見当たらず、武装しているオルトが余裕で通れるほどだ。

 出入口の瓦礫はすべてを撤去したわけではないので、中に差し込む光は僅かだ。

 照明を階段の階下に向けても闇に呑まれ、階下の状態は探れない。その先は相も変わらず闇のままだ。

 その状況でファナから指示が出る。

 

『オルト。照明を消してください』

 

 オルトは迷わず照明を消して周囲の警戒度を上げて少し待つ。光源を失った一帯が闇に包まれる。自分の姿すら見えないほどだ。

 それでもファナの姿はいつも通りくっきりと見えていた。そしてファナが指先を階下へと向ける。

 その途端オルトの視界は強い照明に照らされたかのように色付いた。近くの壁のひび割れや変色すら認識できる。

 自分の周囲だけ昼間になったような光景にオルトは感嘆を溢す。

 

「凄いな」

『情報収集機器で取得した情報に、私が補正を掛け、オルトの視界に拡張表示しました。これではっきり見えますね』

 

 得意げに笑うファナにオルトが笑って答える。

 

「ばっちりだ。……あれが階段の終わり地点か。意外と下りてきてたな」

 

 オルトの視界のギリギリに階段とは違う面積を持つ床が見えていた。

 

『銃の照準器を使用すればその部分を優先して解析、表示しますので確認してください』

 

 オルトは階下をAAH突撃銃の照準器で覗く。その先の光景は自分の周囲の様に明るく鮮明な光景を映していた。

 

「これなら暗所への射撃も問題なさそうだな」

『私のサポートですからね』

「助かるよ」

 

 オルトは万一この状況でもファナとの通信が切れたとしても焦らず地上への撤退を選べるだけの緊張感を持ちながら階段を下っていった。

 

 

 進んだ距離的にオルトは4階ぐらいまで下りてきた。

 周囲への警戒を怠らずファナの姿に一切の違和感がないことに安堵を覚えながら通路を進み始める。

 通路はかなり綺麗な状態だった。白骨死体もなく、機械系モンスターの残骸、生物系モンスターの死骸等も見当たらない。床に少々埃や塵が積もっているのみだ。

 クズスハラ街遺跡の地下施設と同じように自分以外の何かが長期間侵入した形跡がないことを示している。埃すらない場合、遺跡の内部を旧世界時代の清掃装置などが今も稼働している可能性もあった。その場合、同じように稼働しているであろう警備装置が襲ってくるがその点も否定された。

 オルトがそれらを軽く見まわしながら推察していた。

 

「モンスターもハンターも居ない。立ち入られている形跡なし。後は遺物があれば完璧だ」

『この辺りはまだ通路ですからね。遺物がある店舗はこの先です』

「行こうか」

 

 通路を進むオルトの視線の先にショウウィンドウのようなものを発見する。内部には何かの箱のような物、その横に関連しているであろう情報の書かれた端末が見つかる。

 

「おお! やった、遺物がこんなにある。内容は分からないけどきれいに並べてあるし、きっと高く売れるな」

 

 オルトはガラスのように見える壁を触りながら入り口を探すが、それらしいものは発見できなかった。

 

「あれ? 入り口はないのか?」

 

 オルトが情報収集機器を駆使して周囲を探り続けるが見つからない。

 ファナがそんなオルトに話しかけてくる。

 

『オルト。その遺物は持ち帰れませんよ』

「え? まあガラスをぶち破ると警備装置が動くだろうけどせめて店内に入る入り口くらい探せば……」

『そういう話ではありません。もう一度先程の遺物をご確認ください。オルトにもわかりやすい状態に表示します』

 

 オルトがショウウィンドウの中を覗くと、そこには奥行きの失われた光景のみが映っていた。

 

『地形情報を優先させて、疑似的な立体視を無効化させました』

「……ってことはこれ、ポスターかよ」

 

 オルトが見ていたものは壁に貼られていたポスターだった。現実と見間違うほど高度な視覚効果の所為で、実物がそこにあると勘違いしていたに過ぎなかった。

 オルトがそう理解すると大きく溜め息を吐く。

 

「……ぬか喜びか」

『そういうこともあります。これも経験、ハンター稼業にはつきものですよ』

「……それもそうか」

 

 オルトはファナの先導に従いながらさらに通路の奥に進んでいく。

 

 

 遺跡の中をしばらく進むと通路の横に無人の店舗群を見つける。

 店の壁はガラスのように透明で、通路から中が良く見える。広い店内に複数の陳列棚が並んでおり、遺物と思われるものが多数置かれていた。

 

「ファナ。中の遺物の価値って今まで収集してきた物とどのくらいの差がある?」

『遺物の価値は流動性ですから確定ではありませんが、クズスハラ街遺跡の地下施設で収集した遺物の方が高価でしょうね』

「そっか」

 

 オルトは遺物なら何でも持ち帰るつもりはなかった。装備や消耗品に費やす金額が大きくなるのならば、相応に手に入れる金額も大きくしなければいけないからだ。赤字になってまでハンター稼業を行う者などいない。

 

『でしたら、更に下の階に下りますか?』

「……行くか。クズスハラ街遺跡は奥に行くほど高価な遺物が遺ってる。此処は下ればその分高価な遺物が、という可能性もある。それにリオンズテイル社の支店があるかもしれない。まずはそこを目指してみよう」

『大まかな方針も定まりましたし行きますか』

 

 店舗群を無視してさらに奥へと足を踏み入れる。その先にある何かを期待して。

 

 

 幾つかの階段を下り、オルトは大きな店舗の前に立っていた。そこはリオンズテイル社のデータのところに着く前に見つけていた店舗だ。

 ファナの案内でリオンズテイル社の支店を見つけ、出入り口から店内へ入ろうとしたが、ファナが真剣な表情でオルトを止めた為、そこへ足を踏み入れるのを中止した。オルトの実力では何かが起きた際、確実に死んでしまうと言われ大人しく引き下がることにした。

 目の前の店舗の内部は陳列棚に多種多様な機械部品が陳列されており、見るからに高価そうに見える。

 

「ファナ。ここは大丈夫なんだよな?」

『はい。店内に入っても問題は有りません。しかし、店内の備品等を破壊するような行為は控えてください』

「了解だ。よし、遺物収集だ」

 

 店内に入ったオルトは陳列棚から機械部品を手に取り、バックパックに畳んで入れていたリュックサックに入れていく。

 保存状態が悪いものがたまに存在しており、手に持った瞬間砕けて床に広がってしまうことが何度かあったが警報が鳴ることはなく、オルトは安堵していた。

 

「ダメなものもあるけど大部分はちゃんと形を残しているな。……カオルの店みたいに陳列していないけど搬入はしていて裏に保存している物とかあったりするかな?」

『ここは汎用的な機械部品を主に取り扱っていたのでしょう。これを使用して、自作をする者達も居たのでしょうね。ここを贔屓にしている者が居たのなら裏に何かある可能性は高いかと』

「……行ってみるか?」

『まずはここの遺物をリュックサックに詰めて車に詰めてからのほうがいいのでは? 少々長い時間地下に潜っていますからね』

「確かに。なら持てる分だけ入れて一度戻ろう」

 

 陳列棚の遺物を片っ端からリュックサックに詰めてから満杯になったそれを補助アームに持たせ地上を目指して歩く。

 

 

 長い階段を上りながら、この遺跡での遺物収集をどの程度の頻度で行うか考えていた。

 オルトには装備を整えること、戦闘技術を磨くこと、遺跡探索の腕を磨くこと。大きく分けてこの三種類の優先事項があった。

 間に勉強だけの日、休日を挟ませている。強化服が勝手に動く格闘戦はオルトの意識もその速さに徐々に付いていけるようになってきたが、満足にファナに一撃入れることは未だできていない。遺跡探索も自分のみで行っているとは言えない。装備もファナから言わせれば端た金で買える程度の性能しかない。

 装備については、単位がオーラムの時点で100億あっても端金と言っている為、最低でも一つ100億オーラム以上の製品を手に入れなければそもそも話にならないそうだ。

 その値段の強化服など想像すらできないほどの性能を備えているのだろう。それくらいしか分からない。今のオルトには。

 

「なあ、ファナ。しばらく遺物収集する場所はここでいいとして、俺1人だとやっぱり持てる量に限界あるよ。グレイ辺り呼ぶか?」

『実際オルトが交流のあるハンターは彼女くらいですからね。よいのでは?』

「グサリと来る言葉ありがとう。……次回の遺物収集の時に呼んでみるか」

 

 オルトは苦い顔をしながら次回以降の遺物収集の事を想像しながら階段を上がった。そこでは既に荒野(こうや)の先から朝日が顔を覗かせていた。

 視界の端に映るファナの姿が朝日に照らされ、幻想的な光景を荒野(こうや)の上に描いていた。

 オルトは見とれてしまう前に用事を済ませようと周囲を探りながら自分の車の元に向かった。消耗品しか置かれていない荷台に、遺物が満杯に入れられているリュックサックを置く。まだまだ置くスペースは残っている。

 しかし、このままずっといれば近くを通るハンター達に見つかる可能性もある。

 

「どうしようか。一度都市に戻って遺物の価値でも調べるか?」

『オルトはどうしたいのですか?』

「できれば、多く遺物を持ち帰りたい。金は欲しいしな」

『ではそうしましょう』

「いいのか?」

『それで何か悪いことが起こったら運が悪かった。それだけですよ』

「……そうだな。行くか」

 

 オルトは空のリュックサックをバックパックに詰め込んで階段の先にある遺跡へ駆け込んだ。

 

 

 オルトは先程遺物収集を行った店舗へと戻ってきた。陳列棚に残っている遺物を無視して店の奥側へと進んでいく。ファナによって拡張された視界の中には関係者以外立ち入り禁止のマークが出ていたが無視して奥へ進む。

 幾つか横道があったが、それらを覗いても遺物のような物は無かった為、更に道なりに進むと大きめの扉があった。ファナが言うにはそこは倉庫として利用されていたところで、他の店舗と裏手で繋がっている可能性があるらしい。

 扉を強化服の力で抉じ開けるとその先には棚に積まれた不透明の箱が多数積まれていた。

 目を輝かせているオルトは少しずつその棚へ近づいていたがファナが急に視界を拡張した。

 

『オルト。今、強調表示している箱には触れてはいけませんよ』

「……触れたら何が起こるんだ?」

(ちり)が残ればマシ、程度に捉えてください』

「……なんでそんな物まであるんだよ」

『裏手で繋がっている場所が悪いのでしょうね』

「そういう問題かよ」

 

 強調表示されている箱は幸いにも固まって積まれている為、態々(わざわざ)触りにいかなければそのなにかは起きない。少なくともファナがそう言っている。

 オルトは中身の見えない箱を幾つかリュックサックに詰めてからその倉庫を後にする。ファナに内部を見てもらったが、内部を表示する機能が切れているのか確認はできなかった。しかし遺物が入っていることは確定している為、持って帰らないという選択肢は無い。

 帰り際に遺跡の階段付近に遺物の入ったリュックサックを放置して他の階段が無いかを調べる。今使用している階段が何かの拍子に使用不可になる可能性、自分で隠すために何かで埋め立てる可能性を考慮しておくことにした。

 

「一応二か所は見つけたからこれで次回以降も問題なく入れるかな?」

『傾斜と私たちが入ってきた階段の長さを計算すれば地上のどの部分に入り口があるのかすぐに分かるでしょう』

「よし。ならもう帰るか」

 

 地上まで戻ってきたオルトはリュックサックを車の中に置くと階段の所まで戻る。近くにある瓦礫を幾つか上に乗せその中の数個を殴り砕く。

 

「……これでいいか」

『バレた時は仕方がなかった。心配のし過ぎはいけませんよ』

「そう言われてもしてしまうものだからなあ。……帰ろう」

 

 運は悪い方だ。そう思いながらもその場を後にする。大きく迂回して直線状に別の既存の遺跡が来るようにしてから都市へと戻る。未発見の遺跡の探索は、今日は成功で終わった。バレなければその期間は長くなる。

 

 

 オルトは今日の疲れを取るべく、たっぷりの湯に身体を浸けている。車の荷台いっぱいとは言わないが、高価そうな機械部品にその奥にある倉庫にあった遺物が入っているであろう箱。オルトの機嫌はとても良かった。

 

「カツラギの伝手は機械とかの製品に偏ってたからな。高値を期待してもいいかもな」

 

 オルトが同じように湯船に浸かっているファナに同意を求めた。

 ファナはオルトがどのように遺物を扱うかを理解している為、オルトを見て微笑(ほほえ)みながら一応の注意を促す。

 

『そうですね。これで高値が付けば次の装備へ一歩近づきます。しかし、一度に大量に持ち込めば強く探られるでしょう。小出しにしていきましょう』

「そうだな。あの箱も中身を調べないとだし。取り敢えずリュックサック1つだけ持っていくか」

 

 ゆっくりと沈む意識を起きておくのに必要な量だけ残して遺物の事を思案していたが、ふと疑問が浮かんだ。

 

「……そういえば、あの遺跡。なんて呼べばいいんだ?」

『ヨノズカ駅遺跡でよいかと』

「ヨノズカ駅遺跡か。ヨノズカ……ね」

 

 教えられた名前を反芻させながら湯船から眠気を身体の中に蓄えていった。

 

 

 2日後、カツラギのトレーラーに来たオルトは、カツラギの目の前に機械部品の入ったリュックサックを置いて買い取りに出す。カツラギが真剣な顔をして査定を済ませ、買い取り額を提示する。

 

「5500万オーラムってとこだな」

 

 提示額を聞いたオルトは少し考えた様子を見せてから首を縦に振る。カツラギは直ぐに情報端末を操作してオルトの口座に振り込む。

 東部全体ではハンターオフィスが基本的に遺物の買取をしている。そしてハンターオフィスは統企連が運営していることもあり、高価な遺物がハンターオフィスに買い取りに出された場合、基本的に統企連が手に入れる。

 よって、中小企業が手に入れることのできる遺物は既に解析する必要のなくなった品などになる。そうなると、大企業と中小企業の技術格差はなかなか縮まらない。

 中小企業が追いつく為にはハンターオフィスとは別のルートが必要になる。つまり、カツラギ達の様な商人を経由して買うのだ。

 そして、中小企業同士でも競争はある。その分、技術的価値の高い遺物は高値が付く。

 遺物を棚に収納してから、オルトの座っている席に着きながら商人としての笑顔を浮かべながら話しだす。

 

「前の遺物ほどじゃないが随分良い品質の遺物を持ってきたな。何処で手に入れたか気になるところだな」

「その質問にはいつだって、内緒、の一言を返すようにしてるんだ。悪いな。見つけたかったら自分達で探してくれ」

「……そうか。まあ、お前がここに持ち込んでくれるのを待つことにするよ。アキラは最近遺物を持ってきてくれないからな」

「アキラか。あいつの遺物収集はクズスハラ街遺跡が主だったみたいだし、今は難しいだろうな。あれだけハンターがうろちょろしてたら前みたいに潰れるほど背負って、だと他のハンターに狙われそうだ」

「そうなんだよな。クズスハラ街遺跡は今、前線基地ってのを作っている最中みたいでな、そこに行くハンターの多くにその建設の補助依頼を出して雇っているんだよ」

「へー、都市も本腰を入れてクズスハラ街遺跡を攻略しようとしてるってことか。便利な施設ができるなら有難い限りだが」

 

 カツラギも数日間クズスハラ街遺跡へ行き、トレーラーで商品を運び、現地で商売をしていたそうだ。都市の外での消耗品の購入は荒野(こうや)料金となり、通常時よりも高価になるが、現地で補給、仕事の継続が可能になるため需要が大きい。

 多くのハンターが参加していたみたいだが、依頼というものに興味の薄いオルトは遺物収集と訓練の日々を過ごしていた。

 仮設基地の設置によって、遺跡近くで戦車、輸送車、人型兵器の整備が可能で前線基地の構築も直ぐだろうと言われていたが、どうやら前線基地構築予定地の周辺から多くのモンスターが湧き出ているとのことだった。

 オルトには覚えのあることだが、自分にはもう関係ないと思いコーヒーの入ったカップに口を付けて味を楽しんでいると、情報端末に一つの通知が入った。その内容は都市からの依頼だった。

 

 

 自宅に戻って情報端末を見ているオルトは、そこに記載されている内容に頭を悩ませていた。確実に普通の内容ではない。少なくとも子供のハンターが受けられるものとは思えない上、斡旋されるなど以ての外だろう。

 その内容は簡単に言えば、クズスハラ街遺跡にあるヤラタサソリの巣の駆除作業、その際にオルト個人で特定のチームに参加、探索や討伐の協力、離脱を繰り返し、地下に複数存在しているであろう巣を発見、殲滅するようにと書かれていた。

 

「……いじめか何かか? 子供のハンターにやらせるものじゃないだろ。しかも特定のって、これ絶対危険な場所に入れられるだろ。遊撃部隊でも作って勝手にやっててくれよ。俺に課すなよこんなの」

 

 オルトは頭を悩ませながら愚痴を吐いていた。どうにかこの依頼を断る方法を探すが見つからない。依頼元はクガマヤマ都市の長期戦略部。ここからの依頼を下手に断ると、都市の発展に非協力的だと判断され、都市から悪い意味で目を付けられる。最悪、別の都市に移住すればいいが、せっかく家を手に入れたのだ。失いたくはなかった。

 

『キバヤシから通話要求が来ました』

 

 ファナがそういうと情報端末に通話要求が入る。なぜ情報端末よりも先に分かったのか謎だが、目下の問題の解決方法を求めて通話要求に出る。

 

「よお、オルト! 元気にしてるか?」

 

 オルトの状態に反比例するような元気の良さを持つ声が聞こえてきて、更にオルトの元気が失われる。

 

「声量を落としてくれキバヤシ。こっちは元気じゃねえ。この依頼の断り方考えてる最中なんだ。なんか案があるなら欲しいくらいだ」

「ああそれか。お前を推薦したのは俺だ。協力はできるぞ? 依頼を受ける方向でだけどな」

「……」

 

 キバヤシの言葉に何も返せなかったオルトは情報端末を憎々し気に見る。

 

「まあ良いじゃねえか。受けとけって。確かに難易度は高いだろうが、その分色々要求は通るぜ?」

「要求?」

「ああ。例えば特定のチームってあるだろ? 1人で行動しても良いとかな。弾薬費を都市に前払いさせるとか。治療費を実質無料にするとか。難易度に応じて、ハンターからの要求には応えられるようにしてるんだ」

 

 オルトは不明瞭な部分を一つずつ聞いていく。

 期間は明後日から7日間。希望すれば単独での探索に出れるが、地形情報など収集した情報は都市に渡すこと。依頼中に発見した遺物は都市に所有権があること。ヤラタサソリの討伐数、巣の殲滅数に応じて報酬は加算されること。特に要望がない場合、都市側の意向で組ませるチームを決めるということ。弾薬費依頼元負担にする場合の上限は定めていないが、使用金額分、報酬額から引かれる。マイナスになれば、もちろんオルトから取り立てること。依頼を受けた上で放棄した場合は違約金を払ってもらうということ。

 

「とまあ、こんなところか。危険だが報酬金額は高い。ハンターランクもぐんと伸びるさ」

「……俺は慎重派な人間なんだ。ゆっくりでいいよ」

「何言ってんだよ。モンスターの襲撃騒ぎに後からやってきて、思いっきり首突っ込む奴が慎重派なわけがないだろう?」

「……弾薬費依頼元負担ってのはエネルギーパックとかも含むのか?」

「ああ。消耗品に含まれる物は大抵対象だ。銃とか強化服は無理だぞ?」

「そうか。わかった」

 

 キバヤシの勧めを聞きながら依頼を受ける際の要望を、唸りながら情報端末に書き込んでいく。

 

『ファナ。他に何かあったりするか?』

『そうですね、依頼期間中に消極的行動をとった際に減額をしないとかでしょうか』

『それもだな。単独での撤退行動がそれに含まれることも記載しておこう』

 

 ある程度内容を決め、読み直しながら自分の命を守る事項になってくれる可能性を秘めているであろうそれを依頼受注の旨と共に送る。

 それは通話越のキバヤシにも確認可能だったのか、キバヤシから笑い声と、都市から支払いの立て替えコードが送られてくる。

 

「その立て替えコードを添えて会計処理を済ませればいい。再度言っておくが、会計処理を終えた後に逃げると碌でもない結末が待ってるからな、気をつけろ。それじゃあ、高額な弾をじゃんじゃん撃って大暴れしてくれ。期待してるぞ」

 

 キバヤシからの通話は切れた。オルトは情報端末をソファに投げつけた。

 この依頼の通知が早めに来たのは、おそらくキバヤシの計らい。悪く言えばキバヤシが勝手をしたからだ。そしてその程度の勝手が許されるくらいにはキバヤシの権限は高い。

 オルトは大きく溜め息を吐くと情報端末を操作して、トライフワーデンで購入する消耗品を選んでいった。

 

「こうなったら高価で手が出し辛かったエネルギーパックや、拡張弾倉を山ほど購入してやる」

『安全第一で行きましょう。不運なことが起きても私達のみで解決できるように、準備できる分はちゃんとしておきましょうか』

 

 ファナからの同意も取れた。取り敢えず自分の貯金を超えるか超えないかくらいの総額になったそれを先に送信しておく。取り寄せにも時間がかかるのだ。

 早めに依頼の通知が来た理由の一つだろう。

 

「明日受け取って車の中に入れておいて仮設基地まで持っていくとしよう」

『何事もなく終わると良いですね』

「……運は悪い方なんだけど」

『私のサポートで帳消しにできる程度の運の悪さでいてくださいね』

 

 ファナからの微笑(ほほえ)みを少し怖く思いながらオルトは少し早めに就寝する。明日も準備で忙しいのだ。依頼に万全で挑むために、万全な状態を維持し易くしておくのだった。

 

アキラ、カツヤ側のストーリーもオルトの動きに合わせて書いた方がいい?(尚、書籍版やWEB版の流れは踏襲するつもりです。細部に変更を加えたり等が発生します)

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