リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第七話 特殊要員

 

 翌日、トライフワーデンに自分の車を停めたオルトは恐る恐る店内に入っていった。

 入店した人物を確認したカオルは、カウンター越しに非常に険しい表情をオルトに向けていた。高額商品を大量購入しようとする客に向ける表情ではないことは、お互いが理解していながらも、どちらも非難を浴びせる様子はない。

 オルトがカウンターに近寄ったタイミングでカオルから話し始めた。

 

「昨夜送られてきた購入予定品目。あれは冗談じゃないんだな? 普通の量じゃないってことは解っているな?」

「……ああ、一度に購入すれば、俺の車の荷台が埋まるぐらいの量だってのは理解してるよ」

「……ってことは変な依頼でも来たか」

「思いっきり大変そうなのがな」

 

 カオルがオルトの様子を確認するが嘘や冗談の類ではないと分かる。頑張っていつも通りに振る舞おうとしている。カオル達を心配させないためだ。

 

「クズスハラ街遺跡関連の依頼か?」

「知ってるのか。……ヤラタサソリの駆除依頼で俺はちょっと変な役割を与えられるみたいでな。取り敢えず弾切れだけは避けておきたいんだ」

 

 オルトは自分の元に来た依頼や、受ける際に送った要望の内容をカオルに伝えていく。カオルの表情がゆっくりと険しいものに変わる。

 

「……確かに消耗品は山ほど持ち込んでおいたほうが良さそうな内容だな。消耗品の購入費用を依頼元が受け持つ。上限を特に決めてない以上、相当な規模の巣が見つかったんだろうな」

「だよなあ。そうなるよな。行きたくねえ」

 

 嘆いているオルトはハンター証と立て替え用の識別コードをカウンターに提示していた。カオルはそれが本当に依頼元から受け取ったものであることを確認すると会計処理を行い、店の倉庫へと入っていく。

 オルトは駐車場で注文した商品が目の前に全て並べられるのを待っていた。

 AAH突撃銃で使用する用の強装弾の拡張弾倉、GRD対物突撃銃の専用弾の拡張弾倉。普段使用している物よりも容量の大きいエネルギーパック。

 改めて確認してから荷台に積みこんでいく。カオルの店にも倉庫で保管している物もあるが、今回の品の多くは追加で取り寄せなければ足りない為、残りは明日以降随時購入する予定になった。それでもオルトの車の荷台の3分の1は消耗品で埋まっている。

 これらを全て一日で使い切る可能性は大いにある。それだけの量を依頼元が負担しても痛くないほど、ヤラタサソリの巣は規模がでかい。

 オルトは自分の生命線となる品々の確認作業中にふと気になったことがあった。

 

「今日はエルを見てないが居ないのか?」

「エルはグレイの所に遊びに行ってる」

「仲良しなんだな」

「……前より一層な」

 

 無理やり明るい話題を出しながら、準備を終わらせるとオルトは車に乗る。

 

「都市に戻ってきたら顔出せよ?」

「ああ、またな」

 

 オルトは車を走らせ店を後にする。

 その後、自宅に戻り荷台の中に回復薬を多めに入れてから銃の整備に取り掛かった。

 どの程度使用するかは不明だが酷使する可能性は十分にある。以前行った時と同じ状況であるならば四方八方を囲まれる恐れもあるからだ。

 確実に対処し続けられる状態にしておく。オルトは恐怖に呑まれないよう準備を万全にした。

 

 

 日が昇り切るより早い時間に、オルトがクズスハラ街遺跡の仮設基地で職員から依頼の説明を受けている。

 

「依頼内容はヤラタサソリの巣の除去作業になる。詳細は既にそちらに送信済みだ。省かせてもらう。支給する端末の案内に従って作業場所に向かってくれ。現場で指示がある。後はそちらに従ってくれ」

「了解だ」

 

 オルトは職員から端末を受け取って仮設基地を後にする。そこでファナが指示を出す。

 

『オルト。その端末をオルトの情報端末に接続してください。私とも連携可能な状態にします』

『借り物なんだけど、大丈夫なのか?』

 

 オルトは、私物ならば乗っ取りでも改竄でも好きにすればいいと思うが、貸出し用の端末まで(いじ)るのはどうかと(いぶか)しむ。

 ファナが笑ってそれに返す。

 

『自前の情報端末の方が使いやすいからそっちを使用する。そういうハンター向けの連携機能があります。それを利用するだけです』

『そういうものか』

 

 オルトは自分の情報端末と貸出し端末を接続した。これで貸出し端末の情報もファナに筒抜けになった。

 

 

 現場に到着したオルトは見覚えのある建造物の目の前に立っていた。クズスハラ街遺跡の外周部では見慣れた、ありふれた光景だ。内部はオルトの車を余裕で止めることが可能なほどに広々としている。そこには多くのハンター達とその対応をする都市の職員達の姿が見えた。

 場の指揮をしている都市の職員が広間に入ってきたオルトに気付くと手で招いた。側まで来たオルトを見ると不満そうな顔を浮かべながらも職務を果たす。

 

「確認するが、ヤラタサソリ討伐依頼を受けたハンターだな?」

「ああ」

 

 実力が定かではない若手ハンターに訝しげな視線を送っていた職員に対して、好き好んでこんな場所に来たわけでもないオルトは不満そうな表情をしていた。

職員は持っていた端末でオルトに貸し出されている端末を読み取るとその表情を驚愕へと変えた。

 

(……名前はオルト。ハンターランクは26。子供にしては随分高いが、この戦歴が本当なら納得だ)

 

 依頼元である都市の長期戦略部はハンターオフィスとも強い繋がりがある。その為、一定の地位の関係者には、関連する依頼を受けたハンターに限り、非表示情報を閲覧する権限があった。

 その権限を利用して、オルトのハンターオフィスのサイトに載っているオルトの戦歴の非表示情報を確認していた。

 スラム街出身でハンターランク1から始め、ハンター登録から短期間でハンターランクを26まで上昇させている。

 先日のクガマヤマ都市の緊急依頼では多数のハンターの生還に貢献している。その後の救助依頼でも大型のモンスターを先んじて発見、討伐している。

 ハンターオフィスの買取所には、保存状態が良い遺物を数多く持ちこんでいる。

 何よりも、それらのハンター稼業は一人で行っている。クガマヤマ都市のハンター徒党に所属した記録もない。

 そこらにいる若手のハンターとは比べることもできない戦歴を持っていた。

 そして、当人の依頼中における役割、その責任者の名前は都市の職員に同情すら持たせるものだった。

 

「そうか。お前が。大変だろうが頑張れよ。……よし、設定した。お前の行き先は7番防衛地点だ。その場の指示に従ってくれ」

「分かった」

 

 オルトが7番防衛地点へ移動を始める。立ち去るオルトを職員は微妙な顔で見つめていた。

 職員の端末には今回の依頼でオルトがどのような扱いになっているのかが記載されていた。その中から一部を見て呟く。

 

「……推薦人、弾薬費保証条件許可者、配置監督員、特殊要員担当責任者、どれもキバヤシ、か。これあのキバヤシだろ。あのガキ何をしたらこんな条件で依頼を受けさせられるんだよ」

 

 キバヤシはハンターオフィスの職員とクガマヤマ都市の職員を兼任している人物だ。そして今回の地下街関連の依頼にも口を挟める人物だ。その権限を使い気に入ったハンターにハイリスクハイリターンの機会を嬉々として与え、大勝か大敗、いずれかの結果へ続く入口へ導く。

 機会を得たハンターは一部の例外を除いて死亡している。

 賭けるには早すぎるとさえ思わせる小さなハンターを哀れみながら、職員は職務に戻った。

 オルトの側に佇むファナのおかげで、オルトはまだ敗者にはなっていなかった。

 

 

 オルトは以前に歩いたことのある通路を、多少懐かしみながら歩いていた。その時はファナのサポートにより拡張されたことで瓦礫の輪郭までもが暗闇の中でも判別できたが、今は通路に設置されている照明のおかげでそうする必要性は無い。

 暫く歩いていると以前ヤラタサソリから逃げる際に、回り込まれた時に破壊された通路から横穴の先が見えた。当時は逃げることに全力を出しており、内部を見る余裕などなかった。

 

『オルト。早く行かなくては防衛地点から催促が来るかもしれませんよ?』

『おっと。それは面倒だ』

 

 ファナから注意され、オルトは端末の案内に従って移動を再開した。

 

 

 7番防衛地点は地下街の大広間に設置されていた。周辺の未調査部分の制圧用に用意された簡易拠点で、この場を含めた重要な拠点を防衛する為に多数のハンターが配備されている。また探索チームや討伐チームの休憩場所にもなっており、かなりの賑やかさを持っていた。

 広間の中央にはこの場を指揮している都市の職員達がいた。オルトが端末の指示に従ってそこへ行くと、管理者らしき職員が驚いた表情を浮かべながら声を掛けてくる。

 

「お前が13番か。向こうにいるハンター達と合流してくれ。あの探索チームから負傷者が出て、その分空いている。お前はその分を埋めるように行動してくれればいい。相手側に連絡は既に出している。それが終了した後、端末を使ってこちらに何か要望を出してくれればそれを考慮して指示を出す。無いようならこちらの意向に従ってくれ」

「了解」

 

 オルトは指定されたハンターのチームへと近づいていく。オルトのような若手ハンターとは違う歴戦(れきせん)を感じる者達で構成されたチームだ。

 近づくオルトに気付いた一人のハンターが挑発を含んだ挨拶をしてくる。

 

「よお。お前が臨時(りんじ)の追加要員か。装備は良い物を使っているみたいだな。腕については大丈夫か?」

「知らん。期待外れだと判断したら、俺ではなく都市に文句を言ってくれ」

 

 オルトの発言に対して後ろに居るハンター達も笑いながらオルトの力の程を測る。

 

「まあそう言うなよ。都市からの推薦だ。そこそこ期待はしているよ。挨拶が遅れたな。俺はクロサワだ。よろしく頼むよオルト」

「……よろしく」

 

 値踏みをするような視線を消しクロサワは名乗り、後ろに控えているハンター達も順に名乗っていった。このチームはオルトを含め8人となった。

 そのチームは探索中に収集したデータの受け渡し作業の終了を待っている最中だった。オルトはその作業が終わるまで、クロサワから基本的な探索行動の指針を聞いていた。チーム探索中の陣形、オルトが配置される場所、重点的にしてほしい行動などを聞いていた。

 

「こんなところかな。何か質問は?」

「いや、ない。色々と教えてくれて助かる」

「そうか? 探索中に疑問があったら都度(つど)聞いてくれ。それじゃあ、行くか」

 

 オルトへ説明を終えると同時にデータの受け渡しが終了する。オルト達は準備を終えて、設置されている照明の光の届かない通路の先へ進んでいく。

 

 

 クロサワが率いる探索チームに加わったオルトは真剣な表情で地下街を進んでいた。

 索敵担当のハンターを中心にクロサワがその後方、他の者達で周囲を囲った陣形で移動していた。オルトはその陣形の左側前方に配置されていた。

 オルトは訓練として情報収集機器による周囲の把握をファナのサポート無しに行っていた。新調した情報収集機器は、以前ここに来た際よりも広範囲かつ高精度に周囲の状況を把握、解析しオルトに伝えていた。

 今の移動速度ならばオルトへの負荷は少ないが、クロサワ達は急遽加わったオルトの実力を確認するために全体の移動速度を下げていた。

 時折オルトに担当している方向の確認を取るが、的確に返答する様を見て、他の者達の中ではオルトの実力は、心配はしなくても良い程度に収まっていった。

 これなら問題ないだろうと、ゆっくりと移動速度を上昇させ、いつも通りの速度にしたとしても、オルトにはファナのサポートが入り、オルトへの確認は明確な答えが返ってくる結果になるだけだった。

 クロサワは急遽追加された要員の実力が足りないようなら、その分を他のメンバーで補う予定だったがそれは杞憂に終わった。

 

「索敵に関しては問題ないな。都市も随分腕の良い追加要員をくれるもんだな」

「まあ本人は不服みたいだけどな」

「上の指示で野郎の集団に入れられた挙句、危険な場所に行けってんだ。気分も落ち込むさ」

 

 他の者達はオルトを話のネタに軽く雑談しながらそのチームでの探索が続く。

 全体の残弾数を均す為に、周囲に配置されている要員で先頭を交代しながら進んでいるとオルトにも指示が飛ぶ。

 

「先頭。そろそろ変われ。次はオルト、行けるか?」

「ああ、問題ない」

 

 オルトが先頭にいた者と交代していると後方の人物に声を掛けられる。

 

「ん? 大丈夫なのか?」

「構わない。今後もやるときが来る可能性もある。慣れておかないとな」

「そうか。援護してやるから好きなタイミングで泣きつけよ」

「……相手は選ぶよ」

 

 先頭に立ち、同じ移動速度を維持するのは厳しい。オルトはファナへサポートを増やしてもらうように要求する。

 

『ファナ。サポートをいつも通りにしておいてくれ』

『分かりました。しかし、ここで期待外れの結果を残して依頼を無かったことにするということもできたと思いますが、良かったのですか?』

『いいよ。今更だし。それで弾薬費を払えとか言われたくもないからな』

『そうですか。では行きましょう』

 

 先頭をオルトに切り替えてそのチームはさらに奥へと進んでいく。

 

 

 他の者達が先頭だった時と同じ移動速度で地下街を進んでいく。ファナのサポートが無ければオルトには不可能な芸当だ。

 

『オルト。前方にヤラタサソリが3体。気づかれる前に仕留めてください』

 

 オルトの視界はファナのサポートによって拡張され、周囲の瓦礫の輪郭や壁のひびすらも明確に認識できる。その視界の中に赤く強調表示されているヤラタサソリの姿が映っていた。

 

『了解』

 

 オルトがAAH突撃銃を構える。拡張表示されている弾道予測線を頭部に合わせ引き金を引く。

 撃ち出された弾丸はファナの命中補正を十分に受け、弾道予測線に狂いなく沿って目標に着弾した。AAH突撃銃に装填されている強装弾は通常弾よりも強力だ。ヤラタサソリの装甲を容易に貫き、頭部を中身まで含めて破壊した。脳という指揮系統を失った個体は体を僅かに痙攣させ、二度と動くことはなかった。

 残りのヤラタサソリ達は直ぐに反応したが、既に撃ち出されていた強装弾を同じように頭部に喰らい、抵抗も逃走も許されず倒された。

 

『片付いたな。それにしても結構いるな』

 

 オルトが銃を下ろしながら、後方にいる倒した個体も含めた感想を溢す。

 

『探索チームは斥候の役割も含んでいますからね。巣の位置を掴める範囲に入れば自然とヤラタサソリの個体数も増えます』

『厄介だな』

 

 ファナの指摘を受けながら進むオルトは移動速度を低下させずに予定の経路を進んでいく。

 倒したヤラタサソリとの距離に対しての感想を後方で口論している者達は、オルトへの援護は要らないだろうという点だけは共通認識になっていた。

 使用している情報収集機器の性能なのか、本人の実力が相応に高いのか、どちらともなのか。図り切れない先頭を歩く若手ハンターに対して、クロサワは頭を悩ませていた。

 

(探索開始時の移動速度の時はそこそこ付いて来れているという印象だった。しかし速度を上げても索敵の精度は落ちずに付いてきた。今は先頭でモンスターの対処も含めて行い始めたというにも関わらず、最初に見せていた印象は見えないほどだ。慣れただけか? この短期間で? それなら相当の適応能力と言えるが、違う気がする。なんかちぐはぐな奴だな)

 

 異様な存在に対しての推察はオルト個人にしか向けられない。その側で微笑む美女を認識できない者には理解など出来ない。

 

 

 オルト達は順調に探索を終了させた。

 道中、多数の遺物を発見したり、多数のヤラタサソリに囲まれることもあったがチーム全体の練度の高さ、ファナのサポートのおかげで危険に晒されることは無かった。

 防衛地点へ戻ってくるとクロサワ達のチームの一人が治療を終えて待機していた。オルトはこの一度を臨時の追加要員扱いで参加していた為、防衛地点に戻って来た時点で離脱することになった。

 オルトは弾薬の補充も必要ない為、その後も別の探索チームへ追加要員として参加し、照明の無い通路へと足を踏み入れていった。

 その中には、オルトの扱いを同情する者もいれば、馬鹿にするような者もいたが、後者の場合、ファナに探索中の指摘部分の理由を聞いたりしていた為、無視をする形を取っていた。遺跡の中で頭に血を登らせオルトに銃口を向けるような者は流石に居なかった。

 数度の探索を終えて、軽くなっていたバックパックの中身をオルトは車の中で、今日何度目かの補充をしてから防衛地点に戻り、休息を取っていた。

 

『探索に行く度に結構な数ヤラタサソリを倒してるし、弾薬費云々での問題は無いだろうな』

『問題があれば依頼から外されるだけでしょう。本部からくる確認内容も地形情報や討伐数、負傷者の状態等だけです。ならば問題は無いのでしょう』

『だよな』

 

 オルトは今日使用した消耗品の量を頭の中でどれだけの値段になるか算出していた。探索中に囲まれている場合、強行突破のために弾丸をばらまく場合もあり、普通のハンター活動では使わないような量を好きに贅沢に使っている。しかし、消耗品である以上、使えば使うほど減っていく。

 

 

 オルトは本日の勤務時間を既に大きく超過している。最低経過時間を過ぎた分だけ追加で報酬が入るからだ。

 予備の弾薬に不安が出ない限りは、日が沈んだら帰宅する予定だった。もうすぐで帰宅できると考えていたオルトに都市の職員が近づいてきた。

 

「13番。まだ帰らないのなら、もう一仕事して行ってくれないか?」

「……内容による」

「他の防衛地点が既に制圧済みと判断されていた場所から襲われたみたいでな。死人も出てる。マップとの変化が無いかの確認をしてきてくれないか?」

「それは防衛チームに割り振られる内容じゃないか? それに別の防衛地点から人を派遣すればいいだろう」

「お前の仕事は探索、討伐、巣の殲滅だろう? これも立派な探索だ。問題ないな。それに既に襲われた防衛地点の要員の補充に派遣して手の空いてる奴はいない」

 

 オルトは職員の言葉に納得しながらも気は進まなかった。

 

『どうしようか。異常が無ければそのまま終わりで帰れるだろうけど』

『異常があればその場で待機、事態が変化すればその対処を求められるでしょうね』

『やっぱりそうなるよな』

 

 結局、オルトは様々な要望を都市に飲ませ仕事を受けている以上、その範疇の事柄には出来る限り対応しようと結論付けその指示を受けた。それが終了した時点で本日は帰宅する旨を伝えてから、その防衛地点を貸出し端末に表示されているマップを見ながら移動していった。

 今までの探索と違って、オルトが移動している通路はヤラタサソリの駆除が済んで照明が取り付けられ、地下街であっても十分の光量を保った光景になっていた。

 防衛地点はヤラタサソリの駆除が行われ、周囲の安全がある程度確保されると、その分、地下街の奥へと設置位置を伸ばしていく。

 オルトが今日来た時よりもその設置位置は前進しており、貸出し端末の地下街マップはオルトが探索に出ている最中などにも更新されていた。

 オルトは襲われた防衛地点と隣接した場所に足を踏み入れた。

 

 その防衛地点では探索、討伐に回すことの出来ない信用、実力の低いハンターが配置されている重要度の低い場所だった。

 ハンターランクの低い大人のハンターがその場に来たオルトを忌々し気に見て大きく溜め息を吐く。中央を挟んだ反対側には複数人で動いているのであろう、若手ハンター達がオルトを見ていた。

 状況を軽く察したオルトは巻き込まれないように目的の通路へと歩いていく。その先は一定の安全しか確保されておらず、職員の話では異常が発生している可能性のある通路だ。

 周囲の視線を無視して進むオルトに、防衛要員として配置されている若手ハンターの一人が話しかけてくる。

 

「おい! そこのお前! この防衛地点に配置されたハンターだろ!? 勝手な行動をとるな」

 

 オルトは振り返り面倒そうに答える。

 

「俺の仕事はこの先の確認だ。そっちの仕事を押し付けるな」

「はあ? ……お前、何番だよ」

「13番。無駄に時間を掛ける気はないんだ。じゃあな」

 

 オルトはそう言い残しその防衛地点を離れていった。

 自分より小さいハンターを見て動揺をしていたうえ、そのハンターが先程本部から派遣すると言われていたハンターだという事実でその場にいた者達は表情を驚愕に染めていた。

 若手ハンターやその仲間達はドランカム所属のハンターだ。集団での行動を前提としてこの依頼を受けることが可能になったというのに、去っていったハンターは単独且つ探索チームとして本部が派遣してきた存在だった。

 若手ハンターは貸出し端末で連絡を取り始めた。

 

「……本部。応答してくれ。本部」

「こちら本部。自分の番号ぐらい答えろ」

「ああ、93番だ」

「そうか。それで、93番。何があった?」

「先程派遣すると言っていたハンター、13番が通っていったが大丈夫なのか?」

 

 様々な意味を含ませた上での問いに通話先の職員は軽く笑って返す。

 

「13番だろ? 本日の戦歴、過去の戦歴。どれも問題ない実力を有していると証明している」

 

 本部が信用を多分に含んだ言葉を発すると周囲には困惑の表情が広がった。

 

「どんな戦歴があるっていうんだ」

「今日は地下街の探索に大きく貢献、その間にも多くのヤラタサソリの駆除を行っている。過去の戦歴も十分な実力を有していると確信できるものばかりだ。他人の実績に嫉妬する前に与えられた仕事ぐらいやれ。以上だ」

 

 職員の言葉を聞いていた者達がオルトの去っていった通路を見る。既に後ろ姿すら確認できないが、無意識にそう行動していた。

 

 

 オルトは少ない照明がうっすらと照らす通路を周囲の警戒を行いながら歩いていた。探索チームに追加要員として参加し、地下街を何度も探索したがその時は複数人での行動だった。しかし今はオルト一人だ。前方の確認に加え、後方の警戒を怠れば撤退ができなくなる可能性が高くなる。モンスターはオルトが一人だからといってその数を減らしはしない。

 

『襲われた防衛地点はこの通路を行けばあるはずだ。取り敢えずそこまでを目的としよう』

『よろしいかと。理由もちゃんとありますよね?』

『遺跡の中で理由もなくうろついたりしない。襲われた防衛地点は俺が今居る方角から襲われたみたいだからその道中に何か変化があるかもしれない。通路上にヤラタサソリの死骸や血が残ってるかもしれない。途中で大量のヤラタサソリに襲われても逃げ込めるしな』

『問題なさそうですね。では行きましょうか』

『ああ。……そういえばファナの索敵範囲は大丈夫なのか? 結構地下深くまで来てるけど』

『問題となるほどではありません。情報収集機器を更新しておいてよかったですね?』

『なるほど。それは何よりだ』

 

 オルトは基本的にファナのサポート無しで通路の探索を続けた。探索チームに合流している際は、他の要員の足を引っ張ると、余計な面倒事に発展する可能性を考慮してファナのサポートを受けていた。

 一人で且つ低くはない安全を確保している為、強化服を自分で動かしながら情報収集機器で索敵を行い、危機を逸早く察知する技術を磨く場としていた。その様子は本部の職員が見れば本日の戦歴を疑わせるものだったがオルトは現在単独だ。問題はモンスターだけが起こす。

 

『結構歩いたけどマップとの相違点はないな。ファナは何か見つけたか?』

『こちらも何も見つけていません。……オルト、前方にヤラタサソリの死骸です』

 

 念話でファナの索敵の結果を聞いて進んでいるとそれに変化が生じた。

 拡張されたオルトの視界の中には、今日大量に見たヤラタサソリの死骸が転がっていた。頭部は残っており胴体に被弾した個体が、巣に戻る最中に絶命した個体だった。

 

『こいつが防衛地点を襲ったヤラタサソリの1体か。ファナ。こいつらの仲間がどっちに行ったのか分かるか? 俺の情報収集機器だと分からない』

『分かります。視界を拡張しますのでその方向へ』

『結局異常発見か。長引きそうだ』

 

 溜息を吐いているオルトの視界が拡張され、床に残る僅かな傷跡が強調表示される。ヤラタサソリの脚で旧世界製の床を走っていった跡が通路の横道へと続いていった。

 傷跡を追っていると強引に破壊され、穴が開いた壁が見えた。その穴は幅が10メートルと広く、中は暗闇に満ちている。下を確認すれば床ではなく土の地面が広がっていた。先を確認すると人工の床が見えた。照明の光も無い為、未探索の範囲だと分かる。

 

「こちら13番。本部。応答してくれ」

「こちら本部。何か発見したか?」

「マップに記載の無いでかい穴を見つけた。防衛地点を襲ったヤラタサソリの発生元だと思われる。取得した各種情報は送信済みだ。確認してくれ」

「……確認した。方向から推測すればこちらが把握していないエリアだ。その先にもヤラタサソリの巣が多数存在するだろう」

「こういった事態多いのか?」

 

 職員の話し方から今回の件が初めてでは無いように感じたオルトは職員に尋ねる。

 

「ああ。探索チームに参加しているときに見ただろうが、地下街の崩れている原因の一つがヤラタサソリだ。床も壁も店舗等施設もな。今日も数件同じような事態は発生している」

「そうか。……それで、俺は追加要員が到着するまでここで待機か? 早く帰りたいんだが」

「長時間の勤務後に悪いが頼む。そういう契約でもあるしな。こちらでも追加要員の用意は早めに済ませるよ」

「13番、了解」

 

 オルトは穴の先に携帯していた照明を幾つか設置してから追加要員の到着を待つことにした。

 設置されている照明のおかげで探索チームに参加している時よりも周囲はそれなりの光量を保っている。それでも安全とはかけ離れた場所でオルトはその場で索敵をしながらファナの授業を聞いていた。

 一応は制圧済みの場所。自分が今日行った未調査部分の探索とは危険度は低いだろうが、目の前に広がる穴の中はその未調査の場所。危険な状況に変わる契機が訪れるのは追加要員が到着する前か後か、起こらないのか。こちらから出向かない以上、それはモンスターが決めることだ。

 オルトは授業を聞きながらも穴の内部に視線を向けていた。壁の近くに設置した照明のおかげで少し先までは明るい。しかし携帯していた照明ではその先までは光が届かない。本来ならば真っ暗なその先は、ファナのサポートのおかげで白黒ではあるが地面や転がっている瓦礫の輪郭を認識可能なものとしていた。

 

 

 静寂を保っている遺跡の通路とそこに開いている大穴。その静寂を破る音が広がった。

 表情を険しい物に変えたオルトがバックパックの中からGRD対物突撃銃の専用弾の拡張弾倉を幾つか床に落とし、補助アームを動かしてGRD対物突撃銃を穴の中に構える。

 オルトの視界はファナのサポートにより拡張されており、普段なら届かない遠方も確認ができる。オルトの視界の先からは徐々にその数を増しているヤラタサソリの群れが見えていた。

 穴の横幅は広い。オルト一人では確実に押し切られる。ファナの判断は正しい。オルトはそれに従い全霊を持って行動する。

 

『ファナ。何体だ?』

『索敵範囲内に189体。尚も増加中。防衛地点を襲ったヤラタサソリは斥候だったのかもしれませんね』

『随分と豪勢な斥候だな』

 

 オルトが大きな溜息を吐いているのをみて、ファナは楽しそうに笑う。

 

『オルトの今日分の不運ってことでしょうね』

『……待ってくれ。それじゃあ明日以降もこうなるみたいに聞こえるんだけど』

『初日からこれですからね』

 

 オルトは一度顔を大きく顰めるが、無理矢理口元に笑みを浮かべる。不運にやられていい理由などない。持ちうる全てで抗うために意気を高める。

 隣に立つファナがいつも通りの微笑みでカウントダウンを始める。

 

『来ます。3、2、1』

 

 オルトは引き金に掛ける指に力を入れる。

 

『ゼロ』

 

 オルトがGRD対物突撃銃の引き金を引く。銃口から発火炎(マズルフラッシュ)が飛び散り、1発の弾丸が空を走りヤラタサソリの群れの先頭の個体に着弾すると、圧倒的な破壊力を以て目標の体を貫通、後続の個体にも同じ結果をもたらした。たった1発で数十体分の肉片を生み出し飛び散らせた。

 

『流石専用弾。これを撃ち放題とか都市も太っ腹だな。……こんな状況じゃなければな!』

『こんな状況を予測していたからこそ負担しているんですよ。有効射程も長いですし、距離の開いている内に可能な限り減らしましょうか』

『了解!』

 

 専用弾の反動は綿密な設計と高度な技術により弾丸の威力から考えれば十分に小さい。それでも生身なら反動で大きく後方へ吹き飛ばされ、運が悪ければ銃のストックに身体を破壊され絶命する。

 その反動を強化服の身体能力とファナのサポートによる姿勢制御で抑え込み、銃撃の体勢を維持して目標を次々に変更しながら連射する。

 オルトの強化服が初期状態のままならGRD対物突撃銃の専用弾の反動に耐え続けるのは一苦労だった。しかし、全体の装甲を付け替えたおかげで身体能力の向上の度合いは高くなっている。今の強化服ならば反動にまで悪戦苦闘する必要は無かった。

 地面を覆いつくす程のヤラタサソリが次々撃ち出される専用弾を喰らい粉砕され続ける。しかしすぐさまその場所を別の個体が補う。群れの進行速度は下がることは無かった。

 

『お仲間がやられているんだ。怯むとか撤退しようとか無いのか?』

『無いでしょうね』

『襲った防衛地点からは引いたのにか?』

『此方側の戦力、位置情報を持ち帰るための行動でしょう。斥候としての役割もしっかり熟しているという事です』

『こいつらが本隊か!』

『可能性は高いですね』

『クソッ! 不運にも程があるだろうに』

『その不運ごと殺せばいいだけの事です』

『……まあな』

『さあ、どんどん撃ち込んでいきましょう』

 

 オルトはGRD対物突撃銃を突出した先頭を優先的にその銃口で狙い専用弾を撃ち込んでいく。体勢は崩れない。替えの弾倉もまだまだ残っている。しかし拡張弾倉の中身を吐ききる程に撃っても止まらない群れに対して、自分が優勢に立っているかどうかは分からなかった。

 少なくとも専用弾を用意してきた事、地の利、遠距離攻撃をオルトだけ有している事、何よりもファナの存在がこの状況でオルトの精神を補強している。支えている物の材質が何なのか。オルトすら理解していなくとも。

 

 

 既に数分撃ち続けているがファナの索敵結果には群れの端は映っていない。専用弾が一時的に空いた空間を作るが近くのヤラタサソリが埋める。そいつらが移動した所に後方にいたヤラタサソリが入る。穴の先は既にヤラタサソリの血と肉片により地面を濡らしていた。

 オルトが撃ち尽くした弾倉を排出し替えの弾倉を再装填する。足元にはバックパックの内容量の半分の拡張弾倉だった物が散乱していた。

 

『幾ら何でも多すぎる! 拡張弾倉だからって無限に撃てるわけじゃないんだぞ!』

『焦らずに対処してください。少なくとも侵攻を阻止しているのです。問題は有りません。1発撃つ度に確実に敵は数を減らしています』

『分かってるけどもうバックパックの中身が半分になっているんだ。……そうだ。追加要員だ! 準備してるって言ってたもんな! どうだ?』

『索敵範囲内にそれらしいものは確認できませんね。……オルト』

 

 ファナのサポートにより穴の先以外の情報が視界に映る。そこにはオルトが立つ通路を走るヤラタサソリの群れが見えた。このままではオルトは三方向から襲われる。

 

『クソッ! こっちの増援を求めたら敵の増援が来るってなんなんだよ! ふざけやがれ!』

『他の場所に斥候として送られていた個体達が戻ってきているのでしょう。オルト。左方向へ突破します。覚悟の程はどうですか?』

 

 オルトは右手でGRD対物突撃銃の専用弾の反動を支える。反動によって少し銃口がブレるが次弾を撃つ前には目標にその照準を合わせている。左手で回復薬を取り出し中身を貪る様に飲み込む。空になった箱を捨ててAAH突撃銃を握る。

 

『いつでも出来てる。行こう!』

 

 オルトは穴の前から左手の方向へ駆ける。GRD対物突撃銃は穴の端に行くまでは穴の中を、AAH突撃銃は左手の方向から近づいてくるヤラタサソリに向け、引き金を引きっぱなしにする。拡張弾倉の中身を勢いよく吐き出すように強装弾がヤラタサソリの頭部を破壊するために銃口から撃ち出される。

 ファナのサポートにより身体全体を大きく動かしながらも銃撃の反動を出来る限り殺し移動する。

 右手から撃ち出す専用弾の反動により、腕に大きく負荷が掛かる。左手は狙いを次々に変え、迫るヤラタサソリの頭部を破壊するために止めどなく動き続けている。両足が交差する度に股に痛みが走る。それら全てを事前に服用した回復薬が誤魔化す。痛んだ筋繊維を回復薬に含まれる治療用ナノマシンが強引に治療する。

 強化服の走力であれば穴の端まではすぐだった。そこを越え、穴の内部に照準を合わせられなくなった瞬間に、オルトの前方に迫るヤラタサソリに専用弾を撃ち込んだ。

 斥候としてのヤラタサソリ達の数は穴の先程の量ではない。最後尾まで悠に貫通し道を作る。

 

『以前ここに来たときにこれがあれば遺物を投げるなんて事しなくてよかったんだろうな!』

『今はある。その状況を作ったのはオルトです。十分に活かしましょう!』

 

 オルトはGRD対物突撃銃の専用弾の威力に、ファナはオルトの意気が更に上昇するようにその顔に笑みを浮かべる。

 開いた道が埋まる前にオルトが駆ける。ヤラタサソリが飛びついてくるが蹴りとばし、踏みつけ走り抜けた。

 

 

 左手に抜けたオルトの後を穴の先、反対方向のヤラタサソリ達が合流して追いかける。

 通路の幅は先程までの穴よりも狭い。AAH突撃銃から手を放し再度GRD対物突撃銃を構える。狭くなった分広がりきれないヤラタサソリの群れを専用弾が貫く。

 オルトは弾倉を交換して撃ちだし、空になれば交換するを繰り返していた。バックパックの中身に不安を覚えるが状況が変化する。

 視界に映っていた穴の先の敵を示す表示が全て通路側に出てきた。後続は確認できない。専用弾が穿った群れの空間の修復速度が明らかに減少する。

 

『オルト。群れの増援が止まりました』

『やっとか。終わらせよう』

 

 前方のヤラタサソリに専用弾を撃ち込み続ける。後続を巻き込む破壊力を以て視界に映る敵を減らしていく。

 オルトの視界の中に生存しているヤラタサソリが十数体になった時点でGRD対物突撃銃から手を離し、両手にAAH突撃銃を握る。通路の先に逃げようとするヤラタサソリを優先的に狙い銃撃する。

 残りの1体を良く狙ってその頭部を強装弾で吹き飛ばし、周囲から連続して反響していた銃声は消えた。辺りは再び静寂を取り戻した。

 ファナが微笑みながらオルトを労う。

 

『お疲れ様です。終わりました』

「あー、長かった……」

 

 オルトがその場に座り込むと疲労を吐き出すように息を吐く。

 その時オルトの情報収集機器が動体反応を受け取る。またかと思いながら顔をそちらに向けるが、そこに居たのは本部が用意した追加要員達だった。

 

『……遅い』

『ナイスタイミングですね。逆の意味になりますが』

『ついてなさすぎるだろ』

 

 ヤラタサソリの群れとの激戦が終了したタイミングでやってきた追加要員に対して、オルトが不満を大きく映す表情を向ける。それに対して歩いてくる者達の半数がオルトを見て笑う。オルトは通路に空いた穴の前で待機しているはずだったが、そこから大きく離れ、通路の入り口で座り込んでいるからだ。

 まともに仕事もできない若手ハンターに向ける一般的な視線は、通路の状況を確認した時点で消え去った。通路は大量のヤラタサソリの血と肉片で床も壁もまともに見えなくなっていたからだ。

 

 

 オルトは合流した追加要員のハンターに通路の先を任せ、都市の職員からの質問に答えていた。オルトを見る目が明らかに異常なものを見るそれだったが、疲労の溜まっているオルトからしたらどうでもよかった。

 

「そ、そうか。大変だったな。そちらからのデータの送信は終わった。今は本部で確認しているところだ。最低経過時間はとうに過ぎているから帰っても問題はない。途中で連絡が行くだろうから応答してくれればいい」

「分かった。それじゃあ後は頑張ってくれ」

「ああ、気をつけて帰ってくれ。帰宅中に襲われてもそれは含まれないからな」

 

 職員との会話を終えたオルトは地上へと歩き始める。本日の仕事は終了した。

 しかし、オルトの依頼の期間は7日間。まだ1日目が終わっただけだ。後6日間、今日以上の不運に巻き込まれるのか、それとも何も起こらないのか。

 とりあえず今日を生き延びたオルトの無事をファナが祝う。

 

『お疲れ様でした。これで本日の仕事は終了。明日も頑張りましょう』

『いや、地上に出るまでは安心できない。途中で襲われるかもしれない』

『そうですね。一段落しても気を緩めないことは良いことです。そのまま成長していきましょう』

『……もう少しゆっくりでも良い気がするけどな』

 

 オルトは持ち込んだ消耗品が、荷台から殆ど消えている事に顔を顰めながら自宅まで安全に帰った。

 途中本部から連絡が入ったが、内容は先程通路で対処したヤラタサソリの正確な数が把握できない為、血の量や範囲からの推測した討伐数になるという事だった。

 安全に戦うために使った専用弾の所為だが、それで少なく見積もられるよりも、使用せずに殺される方が嫌なのでそれでよしとした。

 ついでに明日も同じ時間帯から入れないかと聞かれたが、消耗品の補充を終えてからという事で断った。変な融通が利く自分の役職に笑いながらオルトは風呂を楽しんでいた。

 

 

 翌日、オルトはクズスハラ街遺跡の地下街と繋がっているビルの1階に来た。地下街にいるハンター達を纏めている本部の部屋だ。

昨日贅沢に使用した弾薬は補給してきた。オルトの車の3分の1を埋める量を1日でほとんど消費していることにカオルはかなり驚いていた。オルトがはぐらかしながら昨日の出来事を話した。専用弾の大量消費も安全に戦うための必要経費だった。

 嘘は言わなかった。中身を薄くはしたが。

 オルトが今日の依頼の場として案内されたビルに入る。本部の職員がオルトに気付いて話しかけてきた。

 

「来たか、13番。お前は防衛地点に行ってから他のチームに加わって行動するらしいな。変な役割にしか思えんが、昨日の活躍を見れば妥当な気もするな」

「変だとか奇妙だとか思うなら上に文句を言ってくれよ。いちハンターの意見よりかは通り易そうだ」

「お前がこの結果を出すと分かっている奴は容赦なく同じ難易度の依頼を斡旋すると思うから無理だろうな。俺もする。諦めてくれ」

 

 オルトが大きく顔を歪めながら貸出し端末を提示する。職員は笑いながらそれを読み取ると行き先を伝える。

 

「設定したぞ。19番防衛地点に行ってくれ」

「分かったよ」

 

 オルトが職員に背を向けて地下街に繋がる階段の方向へ行く。マップの記載から相違点が無いようにと祈りながらその場に向かった。

 

 

 オルトが19番防衛地点に到着した。昨日と同じような広さの中、多くのハンターが探索、討伐、防衛、休憩のそれぞれを行っていた。

 端末の指示に従って都市の職員の元へ向かう。

 

「お前が13番か。合流してほしい探索チームがあるんだが問題ないか?」

「ああ、基本はそっちの指示に従う内容だからな。要望ができたら容赦なく伝えるが」

「助かる。チームのリーダーの位置情報をそちらの端末に送信した。合流してくれ」

「了解」

 

 オルトが端末の指示に従って目的の探索チームの居る場所まで移動するとそこには見知った顔があった。

 アキラやエレナ達がそこには居た。

 

 

 アキラ達もオルトに気付いたのか向き直り挨拶をする。

 

「久しぶりね、オルト」

「久しぶりだな。サラ。エレナにアキラも」

「ああ、久しぶり」

 

 アキラもサラも挨拶を交わしたがエレナだけは少し笑みを浮かべた後にオルトの正面に立った。

 

「第9探索チームにようこそ。私がリーダーのエレナよ」

「オルトと言います。この度は宜しくお願い致します」

 

 エレナの冗談のような言い方に、オルトも合わせながら返す。そのやり取りをアキラもしていたのか笑いを堪えていた。

 

「追加要員にアキラが来た時もびっくりしたけど、まさかオルトまで来るとは思わなかったわ。昨日は他のチームに加わって未調査部分の探索をしていた人だって、聞いた時はどんな人が来るのかと思っていたけど」

「なんというべきか、変な役割を課されているんだ。おかげで昨日は危険地帯に行ったり来たりを繰り返したよ」

 

 オルトは依頼を受けた際の状況を掻い摘んで話し、昨日の探索中の事を軽く話すと3人から同情的な視線を頂いた。

 

「後から合流する以上そっちの行動指針に従うつもりだ」

「分かったわ。誤った指示を出さないように精進するから出来る限り従ってちょうだい」

「了解」

 

 エレナは現在探索中に収集したデータの受け渡し作業を進めていた。彼女が収集するデータの精度は都市の端末のものと段違いに精密だ。しかし、データの規格が異なるためその変換を行っている。エレナ達のチームはそれが終了するまではこの場で休息を取ることになっていた。

 オルトも席に着き次の仕事を行う際の英気を養っていた。目の前ではアキラとエレナが情報収集の重要性、それを周囲から軽視されやすい事を話していた。

 アキラとエレナがエレナの強化服を話題に出すが2人の口が止まる。オルトの横でサラが笑っている為、その理由を知っているのだろうとオルトが小声で聞く。

 

「私達の装備を買う店が一緒ってのは、前に話したわね。そこでちょっとしたことがあってね」

 

 3人の贔屓の店の店主がエレナの強化服を身体のラインが出やすい種類の物を選び、それを試着しているところで、アキラが来店しその強化服を着用した状態のエレナをアキラの前まで押し出したとのことだった。

 サラから話を聞いているとエレナがオルト達を睨んできたので2人して顔を別の方向へ向けた。その方向から一人のハンターが近づいてくる。

 アキラが強引に話題を変える。

 

「そういえば、エレナさん達の探索チームは何人ぐらいになるんですか?」

 

 エレナが誘いに乗って、気を切り替えて答える。

 

「アキラとオルトを含めて5人よ」

「5人? えっと、俺の感覚では少ない気がしますけど、それぐらいの人数が基本なんでしょうか? もう少し多くても良い気がしますけど」

 

 アキラは昨日、防衛地点から他のハンターを含め3人で探索を行い、大量のヤラタサソリと交戦する羽目になった。

 地下街の未調査部分の調査が主任務としても5人は少ないように感じた。

 オルトも昨日の経験を加味してアキラの意見に同意を示した。

 

「確かに少ないような気がするな。俺も昨日複数の探索チームに加わったがその最低人数は8人だった。昨日よりも深い場所に潜るなら危険度は増すだろう」

 

 オルトとアキラの質問を聞いてエレナ達が僅かに眉をしかめて顔を見合わせる。愉快そうな話題ではないようだ。

 サラが質問に答える。

 

「本当はもう少し多めの人数で探索する予定だったのよ。ただ、ちょっとあってね」

「何かあったんですか?」

 

 聞き返すアキラにエレナが答える。

 

「人員の相性で、ちょっと問題があったのよ。よくある話とも言えるけど、事前の調整ぐらい済ませておいて欲しかったわ」

 

 オルトとアキラが2人の表情を見ると、態度には少し違いが見て取れた。問題視している個所に差異があるのだろう。

 探索チームの最後の1人が会話に加わる。

 

「悪かったな。人員調整の問題は、俺からも強く言っておくよ」

 

 探索チームの最後の1人はシカラベというドランカム所属のハンターだった。

 シカラベがアキラとオルトに視線を巡らせ話しかける。

 

「俺はシカラベだ。第9探索チームの1人だ。お前達が追加要員のハンターだな?」

「アキラと言います。今日は宜しくお願いします」

「俺はオルトだ。今回は宜しく頼む」

 

 シカラベが2人を値踏みする。アキラに対して挑発気味に話しかける。

 

「追加要員は歓迎するが、足手纏いが増えても困る。大丈夫なのか?」

 

 そのシカラベに対してアキラが平然と答える。

 

「俺を使い物にならないと判断した場合の文句は、俺ではなく本部に言ってくれ。俺をここに派遣したのは本部だからな。本部にたっぷりと文句を言って、新しい替えの要員の実力に期待してくれ」

 

 アキラの実力不足を懸念するシカラベの問いに、アキラは自分を送った人間が悪いと答えた。

 アキラは防衛チームの方が良かったが本部の人間に探索チームへ割り振られたみたいだった。

 シカラベはアキラの答えに、見下した感じを出しながら尋ねる。

 

「随分弱気だな。そんなに自分の実力に自身が無いのか?」

「そっちがどの程度の実力を期待しているかは知らないが、少なくとも、俺が必ず何とかするとか、俺がいれば大丈夫だとか、俺は自分がそんなことを口にできるような実力じゃないことぐらい把握している。そういう意味だと、自信はないな」

 

 シカラベはアキラの返事を聞いて軽く吹き出した。そして機嫌良く話す。

 

「いや、悪かった。何の根拠もない自信にあふれた馬鹿どもの相手をすることが多くてな。少なくともそんな馬鹿じゃないことは確かなようで安心だ。それなら大丈夫だろう。本部も実力が不確かな奴をここに送るほど間抜けじゃないだろうしな」

 

 シカラベはそう言って軽い愚痴と一緒にアキラへ謝罪した。そしてそのまま視線をオルトに向ける。

 

「お前のことは知り合いから聞いた。昨日の探索では足手纏いどころか十分な活躍をしていたってな。その後のことも知っている。本部に火力要員を求めたらこれだ。今日は当たりだな」

「何を聞いてそう思ったのか知らないけど、褒められているって思っておくよ」

「褒めてるさ。さて、俺の準備は済んでる。出発するならいつでも言ってくれ」

 

 エレナが自分の情報端末でデータ移送の残り時間を確認する。全データの送信完了までの予測時間が表示されていた。

 

「データの受渡しが済み次第出発するわ。あと5分ぐらいよ。アキラとオルトもそれで良い?」

「今すぐでも問題ない」

「俺も今すぐでも構いません。……ん?」

 

 アキラが不意に顔を別の方向へ向ける。そこには不満げな表情で近づいてくる若手ハンターを先頭にした1つのチームがあった。その先頭の若手ハンターはカツヤという少年だった。

 

 

 エレナ達、第9探索チームに合流したオルトは同じように後からチームに加わっているアキラも含めて、次の探索までの待ち時間までチームメンバーで雑談をしていた。

 そこにカツヤが現れて、チームメンバーの3人が表情を変化させた。

 シカラベが不機嫌になり、エレナが軽く溜め息を吐き、サラが苦笑いを浮かべていた。

 カツヤと無関係なオルトは周囲の人間の表情から、そうさせるだけの人間だと理解した。

 

『なんか揉めそうな雰囲気だな。ヤラタサソリを駆除しに来たらハンターとやりあうことになるのか?』

『そうなったら今日の不運として処理しましょう』

『まあ、シカラベが対処するみたいだしこっちの来なければ無視だな』

『騒ぎが起きないと良いですね』

 

 オルトは、エレナから確認を取られたシカラベが壁になる様にカツヤとの間に立ったのを見て確実に面倒事の類だと理解した。

 同じように事態の知らないアキラにサラが説明をしていた。

 何でもエレナ達は地下街ではなく地上で、前線基地関連の依頼として哨戒、迎撃の任務に就いていたが、比較的弱いモンスターしか居ないはずのクズスハラ街遺跡の外周部でヤラタサソリの群れが出現したことで、その住み処となっている地下街の駆除作業に回されたそうだ。

 その際、同じ依頼を受けていたシカラベが合流。クズスハラ街遺跡の前線に配置できる実力を持つハンターが3人。そこに地下街のハンターを数人加えれば十分機能すると判断された。シカラベが居ることで同じドランカムから追加要員を派遣して探索チームとする予定だったが、送られてきたハンターがカツヤ達だった。

 それを知ったシカラベがカツヤ達の加入に強硬に反対を示した。その意見を通す為に色々とシカラベに都合の悪い条件を上げていった。その中には危険な状況に陥った際にはシカラベ自身を囮に2人は逃げて良いとさえ言った。

 シカラベもカツヤもドランカム所属だった為、都市の職員はドランカム内の揉め事として扱った。そしてドランカム内で立ち位置、信用などが加味されシカラベの意見が通った。

 エレナとサラから説明を受けている最中もシカラベとカツヤの口論は続いていた。

 オルトはドランカム内の揉め事と聞き、既に興味をなくし、カツヤの後方に居るメイドを見ていた。

 

『ファナ。あのメイドって拡張現実ってやつじゃないよな?』

『ええ。実体を持っている人間です』

『だよな。なんで遺跡の中でメイド服なんだ?』

『防護性能が高く、その方面で実用性があるのかもしれませんね』

『あるいは趣味か。もしそうなら随分気合の入った趣味だな』

 

 ファナと雑談していると、シカラベがアキラとオルトを手で示しカツヤに紹介をする。

 

「追加要員なら本部が用意してくれた。アキラとオルトだ。どちらも昨日、大量のヤラタサソリを撃退したハンターで、本部のお墨付きだ」

 

 カツヤはオルトを見た後アキラの方を睨むように目を向けた。アキラは既に明後日の方向を見ていた。

 カツヤの顔に怒気に近いものが、後方にいる若手ハンター達は驚きを顔に映していた。

 カツヤが内心を抑えて視線をシカラベに戻す。

 

「……そいつらはドランカム所属のハンターじゃないぞ?」

「だから何だ? 本部が態々用意してくれた追加要員だ。何の問題もないな。第一、エレナ達もドランカム所属のハンターじゃないだろう」

 

 その後もカツヤは大声を上げながらシカラベを非難するが、シカラベはそれに応対していた。それが条件の一部だからだろう。無ければ無視していた可能性が高い。

 シカラベが態度を変えてカツヤへの対応を変化させる。聞き分けの無いガキから準敵性の相手へと。

 後方に控えていた若手ハンターがカツヤの手を引っ張りカツヤの行動を止める。シカラベがあと一歩対応しようと踏み込めばこの場は戦場に変わり、高確率でカツヤが死ぬ。そうなる前に止めたのだ。

 カツヤが止まり、シカラベも口を閉じていた。口論の原因が両方とも止まったため、騒ぎも収まった。そして時間が来た。

 

「時間よ。出発するわ」

 

 エレナが歩き出し、サラやアキラ、オルトがそこに続く。シカラベが侮蔑の眼差しをカツヤに向けてからその後に続いた。エレナ達の邪魔をした分、ハンターとしての自分の評価や仕事に影響が出る。それを防ぐために余計な手間を取らされた。カツヤへの心証はいつにもまして悪かった。

 去っていくエレナ達を、カツヤは悔しそうに黙って見ていた。

 

 

 エレナが率いる第9探索チームはエレナを中心に、シカラベが前、サラが左、アキラが右、オルトが後ろの陣形を取っていた。その陣形を保ちながら移動していたが、しばらくするとアキラが遅れ始めた。

 オルトは昨日の経験で、アキラの為にエレナが移動速度を落としていることに気付いた。しかし、シカラベが言っていた通り火力要員を求めていたのなら索敵で多少足を引っぱっても他の人間が補えばいいだけだ。問題は無かった。

 部隊の前部にいるシカラベがアキラへ唐突に声を掛ける。

 

「おい、右の状況は?」

「……50メートル先にヤラタサソリが3体いる。動かないから多分死んでる。擬死だとしても進行方向でもないし、近寄ってくる気配もないから無視していいと思う」

 

 シカラベはエレナに確認を求めて視線を送った。

 

「あってるわ」

 

 その簡潔な返事を聞いて、シカラベが少し意外そうな顔をする。

 

「了解だ。……何だ、急に索敵をサボり始めたかと思ったが、ちゃんとやってるのか。疑って悪かったな。……俺の勘が鈍ったか?」

 

 シカラベはオルトにも似たように後方の様子を聞くこともあったが、どれも即座に正確に答えたこともあって既にその索敵能力に多少の信用を置いていた。

オルトは昨日の濃密な体験のおかげで未調査部分の探索に慣れていた為、現在はファナのサポートを受けていない。時たま気が逸れることもあったが即座に引き締めていた。高性能な装備によって支障はなかった。

シカラベはアキラへの質問の時も顔を向けずに相手の気が緩んだ瞬間を掴んでいた。そのシカラベの技量は相応に高いものを有している。

 

『勘、か。実際どうなんだ?』

『本人の言う通り勘でしょう。本人の五感、情報収集機器で取得した情報から変化を感じ取った。しかしその判断を下す過程を本人が自覚できていない。だから勘です』

『そういう意味か。なるほど』

 

 シカラベはオルトと同じように、アキラの索敵能力が不足している様ならその分を補うために質問を投げかけた。しかし、アキラの返答は援護は不要と言わんばかりのものだった。

 エレナ達もアキラの返答に少し驚いていた。返答内容から、その索敵能力が情報収集要員であるエレナに迫る精度だと示していたからだ。

 シカラベは追加要員の実力に満足して上機嫌だった。

 

「火力要員として加えたのに索敵も優秀。オルトは言わずもがな。大当たりだ! カツヤを外した甲斐があるってもんだ」

 

 エレナが不満げな顔を向ける。

 

「ドランカム内の揉め事に私達を巻き込むのはやめてほしいわね」

「そう言うなよ。我が儘を言った借りは俺が先頭に立つことで返しているだろう? それに最終的にはリーダーの同意も取ったじゃないか」

 

 アキラが少し意外そうな顔でエレナを見る。シカラベは強いが、カツヤ達5人と天秤に掛けてシカラベを選ぶほど、人数差をひっくり返す程に強いとは感じなかったからだ。

 しかしエレナはシカラベを選んだ。アキラはその理由が分からず困惑していた。

 エレナが釈明するように答える。

 

「……別にシカラベの肩を持ったわけじゃないわ。シカラベを外してカツヤ達を加えた際の問題点を考慮しただけよ」

 

 戦力を人数で補っても、探索箇所の地形によって逆に不利になる場合もある。全体の移動速度の低下、気配が増えることで付近のモンスターを刺激することもある。

 エレナがありふれた問題点を上げた後で、少々言いにくそうな表情をした時にオルトが口を挟む。

 

「非常事態にカツヤ達がエレナの指示に従うか怪しかった。とかか?」

 

 エレナとアキラがオルトの方へ顔を向ける。エレナが苦笑いを、アキラが困惑を浮かべていた。

 

「人数の増加により指揮系統の奪い合いが発生する可能性が高まる。あのカツヤって奴は防衛地点の広場でも、我を通そうと文句を言ってたからな。未調査部分の探索中に自分の意見を強引に押し通そうとする可能性は高い。俺達ならもっと行ける、俺達なら大丈夫だ、とかな」

「ああ、そういう事か。確かに遺跡内で行動中にいきなり指揮系統が別れたら危険だろうな」

 

 シカラベが上機嫌で付け加える。

 

「同感だ。俺もエレナの判断は的確だと断言しよう。連中は昨日もやらかしてる。それはお前も知ってるだろう?」

 

 シカラベがそう言ってアキラに同意を求めたが、アキラは分からないという顔をしていたので、理解を求めて丁寧に説明をする。

 昨日、アキラとカツヤが配置されていた14番防衛地点での言い争いは、中継器を通して本部にも、そしてドランカムにも伝わっていた。

 カツヤのチームは元から居るユミナ、アイリに加え、レイナとメイド服のシオリというメンバー構成になっていた。

 レイナは他のハンターと無駄に揉めていた。加えてチームリーダーに許可も取らずに持ち場を離れた。チームリーダーのカツヤにそれを止める統率力は無かった。

 リーダーもメンバーも、他の指揮系統に無理に加えれば、地下街の奥で指揮系統が崩壊する恐れがあった。

 だから、あいつらを連れていくという判断は無い。シカラベはそう断言して説明を締めくくった。

 エレナが少し溜息を吐いてそれに付け加える。

 

「……その話の精度は別にして、その手の懸念事項は排除しておきたい。それがカツヤ達を連れて行かない一番の理由よ」

 

 アキラは説明を受けて納得していた。

 しかし、本来ならばアキラもオルトも緊急時には単独行動をしても良いという契約内容になっている為、非常に問題のある人員と言えるが、片やエレナへの信頼を、もう片方は昨日の実績への信用から問題にはならなかった。

 エレナがアキラを安心させるように指示は慎重に出すと言い、アキラもそれを信用している、疑問を投げかける時は指示の内容を理解し勉強するためだと返答していた。

 

 

 オルト達は地下街を順調に探索していた。

 エレナが地形情報を取得して地下街の見取図を作成しつつ、移動距離や周辺の情報から正確な現在位置を割り出している。

 そしてモンスターが棲息していそうな場所や、襲撃を受けた際、不利になる位置を割り出し、安全なルートを選択して地下街を進んでいた。

 途中数度モンスターに襲われたが大半は先頭に居るシカラベが1人で撃退し、数が多い時は5人がかりで殲滅した。

 シカラベはカツヤ達の代わりになるだけの戦果を上げていた。

 しかしその分負荷が掛かり、弾薬も消耗する。

そろそろ交代したほうがいい。エレナはそう判断した。

 

「サラ。そろそろシカラベと交代して」

「分かったわ」

 

 シカラベがそこに口を挟むが、弾薬を均す為と言われ納得した。そこで少しの思い付きを口にする。

 

「それなら、一度アキラを先頭にしてみないか?」

「アキラを?」

「万一に備えてってやつだ。今の内にアキラがどの程度戦えるのか見ておきたい。俺達に余裕のあるうちに伝聞との相違点があるか確認しておいたほうがいいだろう? まあ、アキラが嫌なら無利強いはしない」

「俺は構いませんが、エレナさんどうします?」

 

 アキラはエレナに判断を投げた。

 エレナは気が進まない様子だったが、本人に嫌がる様子も粋がっている様子もない。探索開始時に見受けられた遅れも今は無い。余計な気負いも取れたのだろうと判断してシカラベの提案に乗った。

 アキラとシカラベの位置を交代して、探索は再開した。

 

 

 探索チームは先頭をシカラベからアキラに切り替えた後も順調に進んでいた。

 移動速度、接敵時の対処、シカラベが先頭だった時と同水準を維持している。アキラの純粋な実力ではない。アキラにしか認識できない存在であるアルファという美女がアキラのサポートをしている。所持する装備の制御装置をアキラ専用に書き換え、索敵の補助、射撃時の照準の微調整等多くの事をしていた。

 

『アキラ。通路の先にヤラタサソリが4体いるわ。気づかれる前に倒して』

『了解』

 

 アキラの視界は拡張され暗闇の中歩いているヤラタサソリを発見する。アキラがその場で止まりAAH突撃銃を構える。アキラのAAH突撃銃もまた強装弾を使用可能なように改造済みだった。

 拡張表示されている弾道予測線をヤラタサソリの頭部に合わせて引き金を引く。初弾が1体目のヤラタサソリの頭部を破壊し、続く弾丸が残りの個体を同じ結果を生み出していた。

 

『オルトも使っていたけどAAH突撃銃でも強装弾を使えばヤラタサソリを倒せるんだな。ここまで威力に差が出るなんて』

 

 アキラは明らかに高威力だと判断できる大型のCWH対物突撃銃とは異なり、改造済みであっても外観に変化が見られないAAH突撃銃、強装弾の弾倉に不安を抱いていたが、自分で作り上げたヤラタサソリの死骸からその威力を知った。

 アルファが得意げに微笑む。

 

『その効果を最大限発揮できる能力も重要だってことは忘れないでね?』

『分かってる』

 

 どれだけ高火力を誇ろうと当たらなければ意味がない。着弾位置が敵の弱点かどうかでも効果は変わる。そして先に敵を発見すれば落ち着いて目標に狙いを定められる。

 アルファあっての成果だとアキラは理解しているし感謝もしている。

 サラはアキラが倒したヤラタサソリ達を発見できていなかった。索敵をエレナに、討伐をサラに。その役割分担の弊害の一部だ。

 エレナがサラに要求され索敵結果を渡す。シカラベはアキラの行動からその方向を強めに探り把握する。オルトは後方から奇襲を受けないように配置されている為、前方にいる人間だけで対処可能な間は基本無視している。壁や天井、床を破壊されても即座に対応できるように気を配るべき方向に優先度を付けていた。それでも先日購入した情報収集機器は、着弾音から、優先していない方向のヤラタサソリの位置を伝えてくる。

 シカラベとエレナが、アキラの対象に対処するまでの距離に対して意見を述べていた。シカラベが否定、エレナが肯定している。態々遠方の敵を刺激して戦闘する必要性などない。しかし対象は自分達の進行方向、それも一本道の先にいる。遮蔽物となる物もない。対処可能な時に対処しておく判断は間違いではない。

 アキラの索敵能力はアキラが現在使用している情報収集機器を捨て値で売った本人であるエレナが一番異常だと判断しているが、その答えとなるものをエレナは持っていた。

 

(旧領域接続者だから、……なのかしらね)

 

 以前アキラとオルトが、エレナとサラをクズスハラ街遺跡で助けた際、オルトは既に装備を整えていた。しかしアキラは装甲も貼られていない防護服にAAH突撃銃のみだった。そこからアキラは濃い色無しの霧の中でも情報収集機器無しで周囲の索敵が可能な者。旧領域接続者と推測されていた。

 その索敵技術にエレナは強い興味を覚える。だがエレナ達は余計なことは聞かない。そうアキラと約束している。命の恩人との約束を反故にする程ではない。

 そして、旧領域接続者はその能力を基本的に隠している。バレてしまえば多くの存在に狙われるからだ。企業は勿論、彼らが雇ったハンターや私兵が強硬手段に出る程に有用性が高い。

推測までは良い。しかし本人に尋ねてしまえば、口封じの為に殺し合いに発展さえするだろう。最低でも関係の悪化は免れない。

 シカラベはエレナの説明に納得を示している。オルトはそもそも興味を示していない。サラには相方として、アキラと約束をした一人として強く言い聞かせた。後はエレナ自身が口を固く閉ざせば問題はない。

 

 

 その後もオルト達は地下街の探索を順調に進めていた。

 数度モンスターと遭遇したが、基本的にアキラ一人で対処していた。構造上の死角、瓦礫の裏などから襲ってくるモンスターも居たが、アルファの索敵による先制攻撃と精密射撃による速攻での撃破で的確に処理していた。

 その間も変わらず地下街は真っ暗だ。過去に栄えた文明の名残、その技術力を以てこの場はその姿を未だ保ち続けていた。

 商店の廃墟らしい場所をアキラが念のためにと探ると店内には形を保った商品が遺っていた。アキラが大量の遺物を見て驚いていた。

 

「おっ! 遺物がこんなに残ってる。凄いな」

 

 目の前にある遺物を持ちかえれば幾らになるか考えているアキラにサラが苦笑いしながら釘を刺す。

 

「気持ちは分かるけど持ち帰っちゃだめよ。依頼中に発見した遺物はクガマヤマ都市が所有権を得る契約だからね。気持ちはよく分かるわ。本当によく分かるけど、手を付けちゃ駄目よ」

 

 サラが自分の中に聞こえる悪魔の囁きに耐える為に、アキラと自分を止めるために口に出して言い聞かせる。

 そのサラの様子を苦笑しながら補足している。

 シカラベも軽く忠告をしながら遺物を眺めていたが、そこであることに気付いたように呟く。

 

「……ああそうか。そういう考えもありか……」

 

 シカラベの呟きにアキラ達の怪訝な視線が集まる。シカラベが誤解を生まないように話し始める。

 

「……いや、違うぞ? ちょっと思い出しただけだ。素人っぽい子供が高値の遺物を買取所に持ち込んだって噂が少し前にあってな? 恐らく都市近場の遺跡に未発掘領域があるって話になって、結構な数のハンターが探したらしい。まあ、結局空振りに終わったけどな。知らないか?」

 

 シカラベ以外のメンバーの表情が微妙なものになっていた。噂によって追われた者、噂に踊らされて死にかけた者がそこには居た。

 

「どうかしたのか?」

 

 オルトはシカラベの推測に半分ほど当たっていた。素人は脱却できたであろう装備でこの地下街に侵入、遺物を大量に持ち帰ったのだ。更に、流石に徒歩では遠いが都市の近場といっても差し支えない範囲の中に未発見の遺跡を見つけている。

下手に口を滑らせれば面倒事になるため、回ってきた質問には簡素に答えるだけに留めた。

シカラベが話す噂の原因は、少なくともオルトにとって最悪な経験と最高の出会いを(もたら)した。誰かに話すことはないがオルトにとっては大切なものなのは違いない。

 

「あの時ドランカムも遺物探しに参加したんだ。若手ハンターの訓練も兼ねてな。俺も引率に駆り出されて、あの馬鹿どもが勝手に動き回って、それをフォローするのにどれだけ苦労したか……」

(そういや強化服の無い時にドランカムの集団が遺跡の外周部に広がっていたな。あれの事だろうな)

 

 シカラベが当時の事を思い出し機嫌を悪くする。オルトは視線を店舗の外に向けている。表情を見られないように、敵の接近に逸早く気付けるように。

 エレナ達のシカラベに対する誤解も解けたところで、会話の最後にケチが付いたシカラベが、その鬱憤をモンスターにぶつける為に再び先頭に戻り探索を再開した。

 モンスターとの遭遇はそれなりに起こり、シカラベの苛立ちを受ける存在として地下街に飛び散っていた。

 

 

 オルト達は長時間と言っても差し支えないほどの時間探索をしていた。その間もヤラタサソリの群れは襲ってきていた。全員無傷で余裕をもって撃破しきっている。しかしその表情まで余裕とは言えなかった。

 前方にいるシカラベが通路に転がっているヤラタサソリの死骸を端に蹴り飛ばす。

 

「段々群れの規模が大きくなっているな。これだけ倒しても一向に減る気配が無い。近くにデカい巣でもあるのか?」

 

 エレナがリーダーとして決断する。本当に近くに大規模な巣があるのなら、そちらの殲滅は討伐チームに任せるべきだ。既に防衛地点とは通信不可の状態になるほど離れている。巣の存在を掴めたのならば、一度撤退して本部へ伝えればいい。

 

「一度戻りましょう。収集したデータも結構溜まって来たわ。最低経過時間も近いし、頃合いよ」

 

 オルト達はそのまま19番防衛地点へ戻ることにした。エレナが作成した地下街のマップを頼りに戻っていく。

 モンスターとも出会わず一見順調に思えるがオルトは周囲を見渡して違和感を覚えていた。ファナがその様子に気付きオルトの視界を拡張した。視界の中には大量の赤い点がオルト達を中心に集まっていた。

 

『ファナ。これって』

『遠巻きにですが囲まれ始めています。襲撃を受けるのは時間の問題かと』

『だよなあ。どう伝えようか。違和感についてはエレナ達も気付いてる。けど今回だけ参加する奴が言う事なんて信用無いからなあ』

『いざとなれば一人で逃げるとしましょう。私が何とかします』

『最低限度の提案だな。まあ死亡者無しを目標に頑張ろう』

『決まりですね』

 

 オルトの目の前で案を出しているエレナ達にアキラが真剣な表情で19番防衛地点への最短ルートを塞ぐ瓦礫を調べたいと主張する。

 シカラベは怪訝そうに見ているがエレナは特に理由も聞かずにその案を採った。

 エレナ達3人が走り出す。シカラベは驚愕を顔に映しながら、同様にその場に残っていたオルトを見る。オルトはシカラベに先に行くように促すと声を荒げながらエレナ達の後に続いた。オルトは状況が改善される雰囲気を感じ、喜んで最後尾に着き後方を警戒していた。

 19番防衛地点へ続く通路は今も尚瓦礫に埋もれている。エレナ達がそれを視認すると足を止める。アキラがCWH対物突撃銃を、通路を塞ぐ障害物に向け引き金を引いた。CWH対物突撃銃の専用弾が障害物に着弾すると、その下に隠れていたものを血と肉片に変えながら勢いよく吹き飛ばした。

 通路を塞いでいたものは、瓦礫に擬態した大量のヤラタサソリだった。

 

 

 19番防衛地点への通路を埋めていたのは、瓦礫に擬態したヤラタサソリの群れだった。

 調査中であればエレナが擬態を見破れないという事は無かった。しかし帰路であることでエレナは調査用に、具体的に把握するよりも、周囲広範囲を調べることを優先した。結果、精度を下げていたことが裏目に出た。

 障害物はアキラが放ったCWH対物突撃銃の専用弾の余波を受け、着弾位置から少し離れた個体も吹き飛ぶ。

 擬態を見破られたヤラタサソリ達が一斉にオルト達へ襲い掛かる。広い通路を通行不可能と判断させるだけの量が波となり、先頭のアキラを飲み込もうとする。

 即座に銃撃された波の先頭も個体が後続を含めて派手に弾ける。アキラ達の後方から大きめの瓦礫の上に立ち、射線を確保したオルトが放ったGRD対物突撃銃の専用弾に穿たれた群れは、圧倒的な破壊力を以て押し返される。その少しの時間は他のメンバーに、ヤラタサソリの群れに対して適した対処法を取らせる余裕を与えた。

 サラとシカラベが目の前の群れへ武装による掃射を、エレナが情報収集機器で周囲を探り、擬態している個体が他に居ないかの確認をした。その索敵結果は他のメンバーにも送られ、周囲に追加の敵が存在していないことで集中できた。

 群れという数の暴力は濃密な弾幕という更なる数の暴力の前に完全に屈した。

 アキラはサラ達の桁違いの火力に唖然としており、エレナ達はヤラタサソリの擬態に騙されていたという驚きから立ち直っており、平然と一息吐いていた。

 我に返ったアキラがエレナに迅速な移動を促す。

 

「エレナさん。急いで19番防衛地点へ戻りましょう。最低でも防衛地点と連絡が取れるぐらいには近づいておきたいです。最悪既に囲まれているかもしれません。包囲網が厚くなる前に突破しておきたいです」

「分かったわ。サラとシカラベは先頭をお願い。以前の地形情報と大きな差がある場所には、ヤラタサソリの群れがいる想定で突き進むから、二人で蹴散らして。移動速度の調整はそっちに合わせるけど、基本急ぐ感じでお願い。アキラとオルトは後方の警戒をお願いね。始めて」

 

 サラが笑って前に出る。

 

「後ろはよろしくね」

 

シカラベが面倒そうに走り出す。

 

「まあ、出口を探して地下をうろつくよりはましか」

 

エレナが情報収集機器の調整を済ませて後に続く。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

 右手にGRD対物突撃銃、左手にAAH突撃銃を握ったオルトがアキラに近付くと左右で役割分担をするように索敵範囲を分けた。

 

「後方の警戒担当へようこそ。それじゃあ、やるか」

 

 アキラも無言で頷き、オルトに遅れないように続いた。

 

 

 撤退を再開したオルト達は、どこに潜んでいたのか不思議に思うほど大量のヤラタサソリと交戦した。

 しかし劣勢には陥らない。先頭の二人の戦闘力を把握して移動ルートを調整したこともあって、蹴散らすように進んでいる。

 サラが重火器の火力を以てヤラタサソリを粉砕していく。個人用小型ミニガンを楽々と構え、敵の群れへ強力な弾丸を際限なく撃ち込み続けて標的を次々に撃破していく。

 重量と火力による反動を身体強化拡張者としての身体能力で難なく抑え切る。

 それでも近づこうと天井を伝って近づいた個体も、そこから飛びつき襲い掛かるが、サラの蹴りを喰らい、強固な外骨格を陥没させられて即死した。

 シカラベはサラが取りこぼした標的を精密射撃で始末し続けている。一見無傷に見える無数の死骸が射撃の精密性を物語っていた。

 同時に脇道に道よりもやや小さい瓦礫や、攻撃手段を奪った比較的大型の個体を蹴り飛ばしその先に居た小型のヤラタサソリを押し潰し、通路を塞ぐ。

 エレナは情報収集機器で戦況を把握して細かな指示を出している。その的確な指示で全体の移動速度の向上に貢献していた。

 オルトはアキラと共に後方から迫ってくる群れの相手をしていた。シカラベによって一時的に封鎖された脇道を物量で抉じ開け、地下街の奥から新たに出現した群れに合流していた。

 オルトが振り返り後方から迫るヤラタサソリの群れにGRD対物突撃銃の専用弾を、喰らわなかった個体にAAH突撃銃から強装弾を撃ち込み群れに亀裂を作る。

 その亀裂が戻る前に前方にいるメンバーと合流する。オルトが走っている間にアキラが後方へCWH対物突撃銃で群れの対処をする。

 後方から迫る群れへの対処を交代しながら前進していく。

 

『昨日の戦闘より遥かに楽だ。逃げ道があるって素晴らしいな』

『同じように戦えば余裕で勝てますね』

『だな。アキラも頑張っているし多少は任せながら進むとしよう』

 

 

 後方の戦況が気になったシカラベは戦いながら2人の若手ハンターの様子を確認して少し驚いていた。

 

(この状況で笑ってやがる。余裕そうだな。これなら背後の心配は必要ないか。大したもんだ)

 

 2人の笑みはそれぞれ意味が異なっていたが、傍目(はため)からの戦闘能力、そこから生み出されたヤラタサソリの死骸の量は、余裕と誤解を与えるだけの説得力を持っていた。

 しかしシカラベは怪訝な表情へと変える。

 

(オルトはまあ、予想より少し強いとは思う。……が、アキラがあそこまで強いとは思わなかった。本部から推薦されるだけはあるってことか。……だが俺の勘はそう言ってない。ガキ連中の相手をし過ぎて鈍ったか? 気を付けねえとな)

 

 シカラベがそう結論を出すと、それ以上の思考を打ち切った。

 

 

 各々の火力で突き進んでいたオルト達は、その奮闘の甲斐(かい)有り、ヤラタサソリの包囲網から抜け出した。

 増援の止まった群れの残りを蹴散らすと周辺からヤラタサソリの反応が消えた。エレナがそれを確認すると、他のメンバーも息を吐く。しかし、オルトだけは顔を(しか)めながら大きく溜め息をついていた。

 通信可能な範囲に入った為、エレナが19番防衛地点と連絡を取っている間に、アキラがオルトの様子がおかしいことに気付く。

 

「何かあったのか?」

 

 オルトは気怠そうにそれに答える。

 

「俺の契約内容的にこの後、調査範囲近くにあると推測される巣の討伐チームに参加させられる可能性が凄く高いんだ。今撤退したのにまた戻らなきゃいけないんだよ」

「そ、そうか。……頑張ってくれ」

 

 アキラの近くに居るサラやシカラベも、オルトに対して苦笑いを浮かべていた。

 通信を終了したエレナの指示に従い第9探索チームは19番防衛地点へ帰還した。そのままオルトも含めてデータ送信が終了するまで待機となった。

 

アキラ、カツヤ側のストーリーもオルトの動きに合わせて書いた方がいい?(尚、書籍版やWEB版の流れは踏襲するつもりです。細部に変更を加えたり等が発生します)

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