シカラベが待機時間中に、アキラから移動ルートの変更を提案した時の言動の理由を聞き出していた。
アキラは以前、依頼中にクズスハラ街遺跡の地上部でヤラタサソリの群れと交戦した時の事を例に挙げて説明していた。
いつの間にかヤラタサソリの群れに包囲されていたこと。瓦礫だと思ったら
それらの事から通路を塞いだ瓦礫をヤラタサソリの
しかし、シカラベは完全に納得した様子は見せなかった。
「……まあ、少し後付けの説明にも聞こえたが、一応筋は通ってるし、結果的にアキラの判断が正しかったことは事実だ。だが間違っていたらどうするつもりだったんだ? 絶対にあっていると確信でもあったのか?」
「間違っていた場合は懸念事項が無くなって俺も安心できる。それだけだ」
「だが俺達のアキラへの評価は間違いなく下がるぞ?」
「だろうな。その時は悪いけど本部に文句を言って、次は俺を入れないようにしてくれ」
シカラベ達はそのアキラの発言に意外そうな顔をする。
ハンターは実力とそこから得る信用で成り立つものだ。それらが無ければ成り上がるなど出来ない。ハンターオフィスから依頼の斡旋なども来なくなる。報酬の分配などにも影響する。にも拘らずアキラは自分の評価が下がることをまったく気にしていない。
ドランカムに所属している若手ハンター達はドランカムの方針により徒党内で優遇されている。その反動や副作用で自分たちの実力を過信し、他者から低い評価を受けるのを過度に嫌がる者が多い。
その為、シカラベは同じ若手ハンターであるはずのアキラの反応を少し新鮮に感じていた。
シカラベの疑問は解消していない。自分の判断が間違っていても構わない。アキラがそう判断した上で行動したことはシカラベも理解した。
だがシカラベにはアキラが半信半疑で行動したようには見えなかった。そこを問い詰める。
「……理由は本当にそれだけか? あっているにしろ、間違っているにしろ、それを確認したかっただけなのか? 俺にはそうは見えなかったんだがな」
「そう言われても、後はもう自分の勘に従ったとしか……」
アキラが言葉を
意外にも、それはシカラベの疑問を一応解消させる効果を生み出した。
「……勘か。そう言われたらもうどうしようもないな」
シカラベもどちらかと言えば自身の勘に従うハンターだ。その為、勘を理由にされると、それ以上問い詰めるのは難しかった。
優れたハンターが優れた勘を持つことは多い。あれだけの強さを見せたのだ。アキラがその類の者であっても不思議はない。シカラベはそう考えて、一応の納得を得た。
「まあ良いか。結果的にはあってたんだ。エレナ。悪いが俺だけ先に抜けても構わないか? ドランカム用の報告書を書かないといけないんだ」
「良いわよ。お疲れ様」
「悪いな。お先に」
シカラベはオルト達にそう言い残して去っていった。
オルトがそのシカラベを見送ると話し出す。
「抜けてもいいなら、俺も先に抜けて良いか? 貸出し端末に、色々と催促が来ててな。予想通り巣の殲滅に加わってくれって来てる。一度外まで出て弾薬の補充もしておきたいんだ」
「……大丈夫なの?」
「人数は揃えてるみたいだし、討伐チームなら要員の装備も相応だろう。大丈夫だ」
「そう。……分かったわ。お疲れ様、オルト」
「それじゃあ、お疲れ。3人とも」
オルトはエレナ達と分かれた後、貸出し端末で弾薬の補充を済ませた後に合流すると本部に伝えると一度地上まで戻った。
予備の弾薬を入れたバックパックに加え、リュックサックを持ち込んだ巣の殲滅はあっさりと終了した。
昨日行った最後の探索に影響されて少々過剰に持ち込んだ弾薬は今回の行動には無用の長物になった。だがオルトはその事実にひどく安堵し、巣の殲滅が終了した後も喜色を浮かべていた。
『巣の殲滅を頼まれた時はとてつもなく嫌だったけど、昨日のあれよりかはマシだったな』
『昨日はオルトだけで、その場の解決を求められましたからね。きちんとチームと装備を整えれば事態はそうそう悪化しませんよ』
『確かにな。そう考えると昨日の事がどれだけ不運なことだったのか分かるな』
オルトはいつの間にかこの依頼の難易度を昨日のヤラタサソリの群れとの交戦に引き上げていた。いつそれが起きようとも、ファナを含めた自分だけで解決できるようにと。生き残るのが自分だけになろうとも。
オルトは帰宅時間になったことに気付くと貸出し端末にそれを伝えて帰宅する。昨日よりも短時間だが、最低経過時間は超過している。問題にはならない。
湯船に身体を浸しながら今日の出来事を思い返していた。
「それにしてもエレナ達はあれを3人で
『あの状況はエレナにも不測の事態だったでしょう。実際エレナも他の2人も囲まれていることも通路を塞がれている事にも気づいていませんでした。しかし、それを想定しており、仮に起こったとしても対処できること、あの状況下でも焦らず慌てずに対処できるその能力自体は本物です。その点は褒めるべき場所でしょう』
「だよな。ああいうのが本物の実力ってやつか」
オルトが口に出した言葉は実際オルトの中にある考えだ。オルトが持っている力の中で一番強いものがファナという存在。そして彼女と交信できる旧領域接続者という能力だ。それらは実体を持ってはいない。その為、敵を殺すことも倒すことも叶わない。しかし、その他のものよりもオルトの命を守り、敵を倒す力を持っている。だがそれはオルト自身の力ではない。ファナから前借りしている報酬の一部でしかない。
その事実はオルトを
『オルト。彼らに出来ることはオルトにも出来るようになります。私がいるのです。その実力が身に着くのはずっと早くなるでしょう。焦らずともよいのです。それで死んでしまえば意味が無いですからね』
ファナの言うことは正しい。何も無い者よりも明確な正解を持つ者の方がより習熟するまでの速度は早くなる。オルトの強化服、身体を動かし戦闘技術を効率的に身に着けられる。身体が、脳がそれを知覚して理解を深めていく。
それでもオルトには無理やりに笑う事が限界でもあった。
「ああ、感謝してるよ。ファナのおかげで出会う前よりも俺はずっと強くなった。なれたと思う」
ファナが風呂の中を移動してオルトの顔を覗き込む。ファナの言葉はオルトに届いてはいない。その理由を持っているのはオルトだけだ。オルト自身がそれを理解できていなくとも、ファナがそれを理解できなければ2人の関係にはいづれ致命的な亀裂が入る。
可能性の話だが無いと言い切れるものでもない。オルトがファナのサポートを不要と考えてしまえば、契約を破棄すると言ってしまえばそれは成される。強固な契約は破棄した際の不利益が大きい。しかしオルトに降りかかる不利益はファナのサポートが無くなるという一点だけ。交信自体を絶てば元に戻るだけで済む。
それでは困る。他に交信可能な個体がいたとしてもファナが接触する前に別の存在の方が、早く接触する。契約できたことが極低確率な事だった。諦められても、逃げられても、死なれてもファナには損しかない。
ファナがゆっくりとオルトの頬に手を添える。触れられないその手に持ちあげられ、自然とオルトが顔を上げ、その先にあるファナの眼を見る。
「ファナ?」
『オルト。今日行動したエレナ達と私、どちらが強いと思いますか?』
オルトは一瞬困惑する。ファナには実体がない。エレナやサラ、シカラベなどと戦闘行動を行うことはできない。しかし彼女はオルトの視界の中でなら、十全にその技術を行使出来る。実際、強化服を着ていれば彼女と近接格闘の訓練が行える。強化服を操作してオルトに神懸かりな狙撃を実現させている。更にはファナの索敵能力はそれを専門としているエレナを遥かに凌いでいるとさえいえる。
「間違いなくファナだ」
『ありがとうございます。オルトが誰に劣等感を抱いたところで私の方がその者よりも強いです。そんな私がオルトを鍛えているのですよ?』
「……ああ、そっか」
簡単なことだと気付いた。誰かと比べたところでオルトが目指している場所にはオルト以外が辿り着いても意味などない。ならば自分を見つめ鍛えていけばいい。他者などその後に考えれば事足りる。オルトにはファナがいる。その彼女以上に強い存在になど会ったことなどない。その強い存在が自分を強くしてくれる。ならばそれを信じて訓練と実戦を積めばいいだけだ。
不安の欠片もない表情でオルトが口を開く。
「そうだな。他人がどうこうよりもまず自分だった。ありがとう、ファナ」
『元気になったようでなによりです』
「これからも訓練に身を入れていくのでよろしくお願いします」
『はい。承りました』
2人は笑いあった。
「……ところで、何時までこの距離にいるんだ?」
オルトとファナはもうすぐで顔同士がくっつくという距離にいた。
『もっとじっくり見て頂いても構いませんよ?』
風呂に入っているからか、美女に見つめられているからか顔を染めているオルトが触れられないと分かりながらも両手でファナを押すと、ファナがそれに合わせて皮膚を変形させながら後退した。
翌日、オルトは初日と同じ時間帯にクズスハラ街遺跡の地下街に来ていた。昨日は予定通り帰宅できた為、カオルの店に寄ることが出来、弾薬等の補充を済ませることが出来たからだった。
本部からオルトに出た指示は、討伐チームに加わって巣の殲滅を積極的に行って欲しいというものだった。
本部の職員にそれを指示する理由を聞くと、昨日の探索によってより多くの巣が見つかったからだ。もう一つ、想定よりも地下街が広く、その分地下深くに残っている商店などに数多くの遺物がその形を残しているからだという。その為、多くの人員をヤラタサソリの巣の殲滅に積極的に使いたいという理由だった。
既に地下街には多くの照明が設置されているが、それはただ明るくするための物だ。しかし新しく設置するそれは簡易的な中継器と情報収集機器を兼ねている。照明の近くなら地下街でも通信端末で本部や他のハンターと連絡を取ることが出来る。更には簡易的な動体探知機やカメラが付属している物も混じっている。それは周辺にモンスターが近づけばいち早く探知することを可能にする。
オルトはそれを扱うことはないが防衛チームに回されたハンター達は古い照明と新しい照明の取り替えをする。
オルトがその照明を見ながら目的の防衛地点を目指している。
『初めからこっちの照明を設置してればよかったのにな』
『ここは座標的にクズスハラ街遺跡の外周部ですからね。既に遺物が残っていない。モンスターの駆除が終われば特に気に掛ける気も起きない場所。そう想定していたけれど実際は違った、というだけですよ』
『なるほど。モンスターが多くて処理を優先的に行わないといけなくなったから、こっちの照明を持ってきたのか。ってことは古い照明は持ってくるだけ、設置するだけ損してたってことか』
オルトが自分で考えながら答えを出す。その答えに行き付くまでの過程を誰にどう操作されているかなど分かってはいない。
ファナが微笑んで答える。
『そうなります。安く済ませようとして高くついた。それだけです』
オルトは自身の答えとファナから教えられたことが一致していることに気分を少し良くしながら地下街を進んだ。
オルトの配置された防衛地点では多くの防衛チームが制圧済みの地域へ照明の設置を、探索チームが照明の無い方向へ、調査の終了していない未探索領域へと足を踏み入れていく。
オルトが指示された討伐チームに合流すると少数の者がオルトに不安の眼差しを向けるが、それは仕方のない事だろう。どれだけ本部の職員が保証しようともオルト自身は、見た目が子供の若手ハンターだ。勝手知ったる仲という訳でもない。本人に話しかけても必要最低限の返答しか返ってこない。
それでもオルトの実績は職員からそれとなく知らされている。本人が身に着けている装備も決して安い物ではない。不満げな者達はその2つを材料に一定の信用を置く事にしていた。
昨日オルトが討伐チームに参加させられた際に行動を共にしたハンターもいた為、そのハンター達がオルトの実力の保証となる話をして他の者達の不満を解消していたことも問題が発生しなかった一つの理由だろう。
オルトは討伐チームに合流してから複数の巣の殲滅に貢献していた。
同じ防衛地点の者が一気に増加するわけでもない為、徐々にオルトに対する不満の表情は無くなっていった。時間が経ちその者達が勤務時間を終え、交代していき新しい顔ぶれに変わるが、元から居た者が説明してその若手ハンターに対する不満を軽減していった。
昼を過ぎるかという頃に、大規模な巣を殲滅中に他の巣が近くに存在していたのか、撤退経路の壁を破壊され奇襲を受けた。殲滅に参加していた多くのハンターが負傷者として治療を受けることになった。その搬送にオルトも参加した。
少人数、最少ならば1人でも行動可能なオルトも、流石に1人でヤラタサソリの巣を殲滅できると
弾薬も無限ではない。探索チームから戻ってすぐに討伐チームに合流などさせられれば残弾で不安を抱えることにもなる。何よりもオルトの精神は討伐チームに何度も参加してそれなりに摩耗している。ファナからも休憩を挟むように強く言われれば、オルトの取る選択は一つだけだった。
オルトは地下街から負傷者を運び治療班に渡すと近くの瓦礫に腰を掛けて休むことにした。
治療を受けるハンター達にも差はある。治療を安く受けられる保険に入っていたり、それを含んだ多種の保険に入っていたり、そもそも保険には入っていないという者などだ。オルトが運んだ負傷者は無保険の者だったようでそこに運ぶことになった。
オルトの目の前には多くのハンターがベッドに横になっている。ある者は腕が無い。ある者は腰から下が無い。頭の上部が無いなど色々だ。それでもそのハンター達を見ている医者の様な格好をしている。いや、医者だろう人物は丁寧に診察を行い適切な処置を施していった。オルトの運んだ負傷者は強化服を貫通した怪我を負っていたが、その医者によれば軽傷の類だそうだ。
『なんというか、ハンター稼業を続けていると俺の常識が間違っているような感覚になるな』
『常識とは時間とともに変化して行くものです。それは他者であったり、時代であったり、その人の置かれている環境がその個人の常識になります』
『そういうものか』
オルトは他人の治療を見ながら自分の置かれている状況を振り返っていると、患者の処置があらかた終了したのか、医者が話しかけてきた。
「お前、さっきから
「ああ、今日担当する防衛地点の討伐チームが復帰してくれないと俺の仕事も無いからな。せっかくなら診察だけでも受けようと思っていたんだ。けど忙しそうだったし急用もないから休んでいたんだ」
「そうか。そりゃ悪いことをしたな。改めて、ヤツバヤシ診療所クズスハラ街遺跡支店へようこそ。クガマヤマ都市営業部の支援により、診察のみ無料となっております。だから治療が必要な状態の時は支払いが必要になるぜ?」
「その時は報酬から天引きとしてくれ」
「了解だ。じゃあ、早速診察をしよう」
オルトは強化服を脱ぎヤツバヤシの診察を受ける。机に置かれている怪しげな機械と接続されているカメラやスキャナーのような装置、その他様々な器具を使用してオルトの状態を調べていく。その器具が何を調べる装置なのか、専門知識など持ち合わせていないオルトには分からない。
診察は10分ほどで終了した。ヤツバヤシが診断結果をオルトに告げる。
「元気なようでなによりだ。ただ残留ナノマシンの数値が異常に高い。お前、日常生活で違和感を感じたことは無いか?」
「特にないけど」
「それは何より。だが、残留ナノマシンの数値がこれ以上高くなるようなら身体に影響が出る可能性はある。除去薬を出してやる。服用しろ。10万オーラムだ」
オルトはハンター証と貸出し端末をヤツバヤシに提示して支払いの処理を終えた。
前にカオルから言われていたが、病院に通うのを後回しにしていた。他にする事が多く忘れていたというのは言い訳にしかならない。その事実にオルトはわずかに自嘲しながら本部に戻る。
実際にはオルトは回復薬を使用する頻度が異様に多いだけだ。ハンター稼業中にも、時には訓練中にも使用して疲労の軽減、怪我の治療を行っている。
使用している回復薬が旧世界製であることがその程度で済ましてくれている。そうでなければ、自然と排出される量と追加で服用した量が釣り合わず身体が汚染されていただろう。現代製の回復薬はその旧世界製の回復薬を解析し製造されているものだ。しかし、完全ではない。未だ限りなく近いだろうという物でしかない。
休んでいたオルトは本部の職員が慌てていることに気が付いた。聞き耳を立ててみると地下街に不審者が現れ、その対処に多くのハンターを送ったが、交戦の後、多数の死傷者を出したのだという。
その状況に対処しなければならないが仮設基地周辺の色無しの霧の濃度が上昇してきた為、連絡が取れない状況に陥っている。
「まだ仮設基地との連絡は付かんか」
「先程ハンターを1人送っただけですからね。あのハンターはバイクを持っていました。もう少しすれば到着すると思いますが」
「この状況下で1人だけというのも問題だろう。地下街の入口は広く存在している。モンスターに襲われた場合を考えるとあと数組は送りたいところだが」
「そうはいきませんよ。地下街攻略の為に雇っているだけですからね。不審者の対処に向かわせたのも仮設基地に送ったのも」
「ああ、契約違反すれすれだ。無理に通したが……、ん?」
都市の職員がオルトの方向を見てから何かを思案するとオルトへと近づいてくる。
「お前は例の特殊要員か」
「そうだけど」
職員が再び何かを思案する。一度出来たものを再確認する。それは契約違反には触れない形に落ち着いた。
「実は地下街で遺物襲撃犯が現れてな。その対処で都市の防衛隊を派遣してもらう為に連絡をしたいんだが、仮設基地周辺に濃い色無しの霧が発生してしまって連絡が付かない。そこで通信可能な範囲まで端末を持って行って欲しいんだ」
オルトはこの指示について少し思案する。オルトが受けている依頼はヤラタサソリの駆除が主だがそれは現在できない。他の要員が来るまでは再開はできない。それならば受けても問題は無いだろう。そう結論付けて答える。
「分かった。一つの指示として受ける」
「そうか。助かるよ」
職員は持っていた端末を操作してからオルトに渡す。オルトはそのまま自分の車に乗るとそのまま走り出す。
その様子を見ていたファナが話し出す。
『良かったのですか? 依頼の内容とは乖離しているようにも思えますが』
『いいよ。それに聞いただろ? 地下街には不審者がいるみたいだ。ファナの索敵能力が十全に発揮できない地下で出会うのを避けるためだって』
オルトの考えにファナという基準が出来ているという事にオルト自身は気付いていない。しかし、ファナは自分の能力を高く、無二のものだとオルトの中で形作られていることに気分を良くし、微笑みを返す。
『それは何よりです。ただ、色無しの霧が濃いので移動速度は抑えながらにしましょう』
『了解だ』
オルトが車の速度を少し落として走らせる。
オルトが車に乗って仮設基地に向かっている。ファナに運転を交代してもらい荷台でバックパックの中身を補充していた。
ファナの運転技術は高く、オルトに快適な環境を与えていた。その時、予定していた移動経路の先で大きな爆発が起きた。
オルトはすぐさま前方に視線を向け状況を確認しようとする。しかし、自前の情報収集機器では正確な情報を掴むことはできなかった。そこへファナのサポートにより、視界が拡張される。
視界の中には未だ土煙に包まれている通路とそこを見ている二つの反応が有った。
『ファナ。何があったんだ?』
『私達よりも先に走っていたハンターに対し、残りの者達が爆撃を行いました』
オルトはファナの状況説明を聞き、目を丸くする。
『なんでだ? そんなことをすれば都市を敵に回すだけ……、そういう事か?』
オルトはファナへの念話に会話以外のものを乗せていた。そこにはオルトの想像した事柄、行う理由、状況に対する考察。様々な、正確な形をもってはいないが、混じったものが送られていた。
真剣な表情に変わっていくオルトと同じように表情を変えるファナが答える。
『恐らくその通りでしょう。襲った理由については不明ですが、彼らが都市の職員の言っていた遺物襲撃犯でしょう』
オルトの視界の中では爆煙に呑まれたハンターとそれを見ている二つの重装強化服が映っている。重装強化服が遺物襲撃犯だと分かるとオルトの視線が鋭くなっていく。
ファナがその様子に気付いて話しかけようとするがオルトが先手を取った。
『ファナ。あいつらの足跡を辿れるか?』
『……オルト。何を考えているのですか?』
二つの内、大型の重装強化服が動き出す。彼らが撃ち込んだであろう爆撃の中心へ向かい何かを探す様に瓦礫を退かしていた。その作業を見ているオルトの中に湧き出す黒い感情がオルトの思考を埋め尽くしていく。それは表情にも強く表れていた。
ファナが心配するように眉尻を下げる。
『オルト。危険です。考え直しませんか?』
『……ファナ。あいつらがいる限りこの依頼の最中危険なことに変わりは無いだろう? 今逃げてもさっきの奴みたいにいきなり爆撃されるかもしれない。その場所は地上とは限らないはずだ。今の内にあいつらを排除しておけば依頼の危険性を地下の状況のみに制限できるはずだ。違うか?』
少し飛躍しているが、ファナもオルトの言っていることは理解できる。それでも重装強化服は普通の強化服とは違い重量のある大型の銃を持つことが出来る。それを使用しているという事は遺物襲撃犯達が今回の計画に相応の金額を掛けているという事。敵の戦力が不明である以上危険度は高い。
それでも今オルトの考え汲まなかった時、汲んだ時、それぞれのメリットデメリットを比較して決断を下す。
『辿れます。しかし、危険だと判断したら即座に撤退。それだけは守ってください』
『ありがとう。ファナ』
ファナの操作で車を動かす。視界の中にいる遺物襲撃犯に見つかるのは得策ではない。彼らが集合地点としているであろう場所を、重装強化服を使用している2人が離れている間に襲撃し制圧する。彼らが返ってきたところに更に奇襲を掛け潰す。その為に今は隠密行動を心掛ける。
車を動かすと同時に重装強化服の周囲が急に明るくなる。視界の中に爆撃されたハンターが立ち、その銃口を重装強化服に向けていた。
ファナのサポートが有っても、距離が開きすぎて正確な人物像は捉えられないが、それでも誰かがあの爆撃の中で生き残り、反撃に転じたという事は理解できた。
『チャンスですね。彼が頑張っている間に遺物襲撃犯達の足跡を辿りましょう』
『今の光は何だ?』
『あれは
ファナの説明が続く。反撃をしたハンターが重装強化服から離れていき、そのままファナのサポート込みでも認識できない距離へ離れていった。二つの重装強化服もその後を追うように視界から消える。
『……という事であの重装強化服に最低でも傷をつける衝撃に反応します。これから推察するに彼が使用した銃及び弾薬は相応の威力を持っていることが窺えます』
『なるほどな。攻略法は?』
『簡単なものなら、その強固になった防御を貫通させること。
『なるほどな。あいつらが戻ってきた際の攻撃手段があるのなら心強い』
オルトは強化服に着けているポーチの中に
残留ナノマシンの数値を気にして、除去薬を休憩中に使っていたというにも拘らず、戦闘を行う前に回復薬を服用しておく。それだけの無茶を許容するというファナへのアピールにもなる。後はその場所に着く事。重装強化服がどれだけあのハンターに時間を要するかになる。
クズスハラ街遺跡の外周部をオルトの車が走っている。廃墟と化したビル群の間を抜けていく。
ファナの操作で走っていた車が外壁のみを残したビルの1階に停車する。色無しの霧が濃い為に見つからない場所をファナが選んだ結果だ。
既にファナのサポートにより拡張された視界の中には、大型の輸送車両とその周囲に十数人の遺物襲撃犯達が赤く強調表示されていた。
オルトが狙撃に適した位置に移動しながら、遺物襲撃犯の人数や装備などを見ていく。
『……地下で何度か見かけたハンターも混じっているな』
『彼らは探索チームに割り当てられていましたね。彼らが遺物を探し、他のメンバーが都市に発見されていない出入り口から侵入し、それを収集していたのでしょう』
『都市が地下街の出入り口を発見したから、此れ幸いに奪っていってるのか。他にも居そうだな』
『地下街には情報収集機能を
『了解だ』
オルトは車を停車させたビルとは別のビルの中層まで上がり、窓際に背を預けた。
濃い色無しの霧、ファナから指示された移動経路、敵の油断。それらが重なり、隠密行動を可能としていた。火蓋を切るのは自分だ。待っていても色無しの霧の濃度が通常値に戻るだけ。時間は遺物襲撃犯達の味方にしかならない。
拡張された視界の中で、ファナがそれぞれに優先順位をつける。それは装備からだったり、オルトとの距離からだったり、総合的な脅威度を明確にオルトに教える。オルトは窓際から身を乗り出し、その中の一番優先される人物の頭部に、GRD対物突撃銃の専用弾を撃ち込んだ。
遺物を乗せた輸送車両の近くで周囲をそれとなく見ているハンターが居た。都市からの依頼を無視し、遺物を強奪しようと集められたハンターの1人だ。地下街では使用し難いであろう長距離狙撃用の銃を片手に持ち、強化服に身体を預けていた。
退屈そうに欠伸をしながら独り言を吐く。
「ネリアもケインもおせえな。ガキ1人ぶっ殺すだけだろ?」
その言葉に他のハンターが答える。
「さっき出たばかりじゃねえか。それにガキ1人っつったって、そいつも地下街のヤラタサソリの駆除に行ってんだ。襲うにしても地上に上がってくるか、地下で探さないといけないんだ。時間は掛かるだろうが。暇ならお前が代わりに行けよ」
「俺が行ったところで都市の連中に目を付けられて終わりだよ。2日目に依頼を途中でぶっちしたからな。ガキを探してる時間なんかできねえよ」
「ハッ! そもそもお前が行ったところで返り討ちに合うだけだろうな。今回の計画を立てたヤジマさんが殺されたんだ。あの人以上っつったらもうネリアさんかあのケインって奴ぐらいだろ」
「……そういやそのケインってのはどこの誰なんだ?」
「さあな。ヤジマさんが連れてきた凄腕って話だ。実際持ってる銃火器は俺達の強化服じゃ扱えないような高威力のものだし、重装強化服も本人が持参した物だ。俺達より強いってことは確かだろうさ」
「そうだな。まあ、あいつらに任せとけばなんと……」
気を抜いた瞬間に訪れた弾丸によって、頭部が吹き飛んだ。着弾による余波で胸部までもが抉られたが、それは結果に付いてきた付属品だ。注意を割かなければいけない方向は死んだ者ではなかった。それに気付くことはなくもう1人のハンターも弾丸に頭部を貫かれ絶命した。
周囲の人間がその2人を認識した瞬間に反射的に叫んだ。
「敵襲だ!」
オルトは2人を撃ち抜いた後、移動を開始した。遺物襲撃犯達とは逆側の窓から近くのビルへ強化服の力を利用して飛び移る。ファナのサポートのおかげで壁に激突することはなく、窓の中へ身体を滑り込ませる。
敵の数は多く囲まれれば不利になる。狙撃位置を変更しながら、視界に映る遺物襲撃犯の位置情報を確認する。未だ遺物の積み込まれている輸送車両の近くには敵の生存を示す赤い点が表示されている。
『これで撃破数2。残りは……』
『14です。色無しの霧が晴れる前に決着を付けますよ』
『ああ、分かってる』
オルトは狙撃位置に到着すると窓際から身を晒し銃口を目標へ合わせる。先程までオルトが利用していた狙撃位置を割り出した者がおり、数人をそこへ送り込んでいた。その内の1人に狙いを定めて引き金を引く。GRD対物突撃銃の専用弾が強化服を使用している多くの者達の弱点である頭部に吸い込まれるように着弾し、内部を含め粉砕する。
目的のビルとは別の場所からの狙撃に、向かっていた者達は驚き足を止めてしまう。そこへもう一撃、もう一人の頭部が吹き飛んだ。
『あと12。近くに居るのは5人か』
オルトは、驚愕から我に返った者達が分厚い瓦礫などを利用して近づいてくるのを見ながら、ビルの下層までの吹き抜けを利用して階下へ降りる。敵が注目している階層はビルの中層付近。情報収集機器とファナの索敵によって、敵の視線の向きすら把握可能な距離であることに有利になっている事実と自分の死が近づいてくる感覚を覚えながら、ファナの次の指示に従う。
襲撃を受けて既に4人殺された遺物襲撃犯達は焦っていた。襲ってきたオルトの位置を掴めていないからだ。味方が狙撃された為、着弾した方向から狙撃位置は分かるがオルトも移動している。いつまでも同じ位置で狙撃をするような馬鹿は居ない。それぐらいはハンターをしていればすぐ分かる事だ。
オルトを発見できない理由は明白だ。周囲に漂う色無しの霧の濃度が高く、自分達の情報収集機器が真面に機能していないから。だが、色無しの霧の影響下という事実は未だ発見すら出来ていないオルトも同じの筈が狙撃の精度は異常なほど精確だった。
「どうなってんだよ。おい! なんで相手だけ俺達の位置が分かるんだ?」
「俺に聞かれても知らねえよ! ヤジマが最後に連絡してきた時に都市のエージェントにバレたとか言ってただろうが! そいつが来たんじゃねえか!?」
「クソ! ネリアとケインを呼び戻せ! ヤジマが死後報復依頼プログラムの標的に設定している奴が来たってんなら丁度良いだろ! 返り討ちにしてやる!」
「……駄目だ。色無しの霧の影響が大きくて通信が届かねえ」
その言葉に遺物襲撃犯達が顔を顰める。その内の1人が弱音を溢す。
「……もしかして最初からこっちの情報を持っていて、あの2人が離れたタイミングで襲ってきたとかか?」
「……いや、それは無い、はずだ。それが事実だったら都市の防衛隊が既に
自身の考察を語っていた男は身を隠す瓦礫を誤った。オルトの使用しているGRD対物突撃銃の専用弾によって瓦礫ごと脳髄を破壊され、絶命する。
「クソが!」
自分達は情報収集機器を利用したとしても、オルトの正確な位置の把握すらできない。
しかし、オルトはファナのサポートによって、近づかれた分、より鮮明に、遺物襲撃犯一人一人の輪郭すら掴める様になっていた。
オルトが狙撃位置から素早く移動しても、色無しの霧がオルトの位置を誤魔化してくれる。それを利用しながら先程の狙撃位置を狙う者達へ、ビルの脇から身を飛び出し、AAH突撃銃の銃口を向ける。
銃口から吐き出すように放たれた強装弾によって、残っていた4人が頭部を破壊される、体勢を崩す、身を隠してギリギリ生き残る。一瞬で凄惨な状況を作り上げた。
オルトが体勢を崩した者に止めを刺し、瓦礫に身を潜める。両手のAAH突撃銃の弾倉を交換し万全の状態に戻す。
1人生き残った男が自身の幸運に感謝する。しかし、現状は悪化していくばかりだった。
(危なかった。俺だけが一早く気づけたおかげでギリギリ生き残れた。……というか何なんだあのガキは! 俺の情報収集機器じゃあ、この距離でやっと近くに居るってことが分かるぐらいだ。しかも、ヤジマが設定していたガキとは全く違う。噂のドランカムの凄いガキって奴か? いや違うはずだ。ドランカムは集団で行動している1人でこんなところに来る訳がない。だったらマジで都市のエージェントが来たってことか? クソ! なんでこっちに来るんだよ)
男が自分の置かれた状況に悲観しながら襲ってきたオルトに向かって苛立ちと恐怖を募らせる。湧きあがる恐怖に苛立ちをぶつけ、動けなくなることを拒んでいた。
しかし、オルトが接近してきたことで情報収集機器がオルトの位置を漸く掴んだ。輪郭は曖昧だがそこに居る、そこから来ると分かれば怖いことはない。モンスターを殺すときと同じようにすればいいだけだ。ここで決着を付けようと奥の手の加速剤を使用する。効果が出るまで時間が掛かる上、持続時間が極僅かで使用する際に難が有るが、この状況下でなら問題はないと使用した。
これで、オルトが瓦礫から出てきた瞬間を狙い先手を打てるようになった。
しかし、瓦礫越しに見えるオルトは瓦礫から出ようとはしない。なら、こちらから行こうかと考え始めた瞬間、オルトが自分の隠れている瓦礫を蹴りだした。強化服を利用した強烈な蹴りによって、瓦礫が砲弾の様に飛来する。
飛んできた瓦礫が、男が隠れていた瓦礫に当たり、そのまま男を巻き添えにしようとするが、加速剤を使用していたおかげでそれを回避する。しかし、回避した先には何もなかった。身を隠す瓦礫も、盾となる強固な防壁も、男が気付いた時にはオルトのGRD対物突撃銃の照準は男の頭部を捉えていた。
先行してきた者達を殺したオルトは、残っている敵が近づいてくる前に別のビルへと走り出す。色無しの霧が徐々に薄くなり始めている。決着を早めなければならない。
『後は輸送車両の周りにいる7人か』
『色無しの霧が晴れてきました。バレないようにするにも限界があります。撤退の判断はしませんか?』
『……ごめん』
ファナが少々呆れたような表情を出すが、拡張された視界の中には更なる指示が追加される。
『……分かりました。敵が動き出す前に狙撃を開始しますよ』
『……ありがとう』
オルトが輸送車両を囲むビルの中に、強化服の脚力を使い、窓から中層に入り、次の狙撃位置に着くと輸送車両の方向へ銃を構える。しかし、そこに居る者達が味方から撃ち殺された。仲間割れかと思いきや、残った1人は投降する素振りもない。残った男は一見するとボディースーツのみを着ており、強化服を身に着けていないようにも見えるが、両手に持つ銃火器、そしてそれを自由に扱ったところから生身ではなく、身体強化拡張者か相応に身体能力が高い実力者と分かる。
オルトがその男の行動に困惑していると、男がゆっくりとオルトの居るビルを見る。オルトは一瞬その男と目が合ったような気がした。
ファナが険しい表情で指示を出す。
『オルト! 今すぐ上階へ逃げて!』
ファナの指示と同時にオルトの強化服が操作される。ビルの窓際に身を潜めていたオルトを上方に空いている天井の穴へ飛び上がらせる。オルトはその動きに逆らわずに全力で上階へと逃げ込んだ。
上階の天井へ着地した瞬間に斜めに飛び、その階の床へ着地する。そしてすぐさま更に上階へと続く穴へとその身を飛び込ませていく。ファナの表情から分かるのは緊急性だけであり、今行っている行動の理由までは分からない。
その理由はファナに尋ねる前に、オルトの耳に入ってきた。下方から何かが飛来してきている。それは自分を狙っている物だとオルトは理解する。両手がファナの操作を受けGRD対物突撃銃を握ると、ビルの奥、吹き抜けになっている場所へ身を晒す。
オルトの視界には大量の小型ミサイルが先程まで自分がいた階層へと向かっていた。まだ崩れていない壁や床、天井へ着弾した小型ミサイルが連続した爆発音を響かせ、爆炎と爆煙が一帯を包み込もうと広がる。
しかし、オルトの視線の先には大きく縁取りされた敵が映っていた。オルト自身の視界には映っていない。光学迷彩を施された機体だった。左肩に大きな拡張装備を取り付けている重装強化服がビルの中央に立ち、吹き抜けを見上げていた。
視線が合った。そう思うと同時にオルトがGRD対物突撃銃の引き金を引く。今、ここへやってきたのだ、都市の防衛隊かもしれない。だが、敵かどうかは関係ない。自分を害そうとした存在を排除する、ファナのサポートにより敵判定を受けている存在を殺す。身に付いた習性のようにそれに従った。
GRD対物突撃銃の専用弾が重装強化服の胴体部分に着弾するが、
重装強化服が上方に居るオルトへ銃口を向けるが、自身が撃ち込んだ小型ミサイルが撒きあげた煙によって位置を掴めない。その大柄の武装を纏っていた者は少しの逡巡の後、反撃は無いことを確信して屋外へと足を向けた。
輸送車両の近くに居た遺物強奪犯を自分以外皆殺しにしてから周囲を探る。晴れてきてはいるが、未だ情報収集機器が真面に働くには不十分なほど色無しの霧が濃い状況。その中で数を減らすのは愚策だ。だが、その者は周囲に雑魚が居ることの方が面倒が増えると判断した。
オルトが居るであろうビルから爆発音が響く。ビルの一部が吹き飛び、その室内を見晴らしの良いものへと変えた。
そこから重装強化服がゆっくりと歩いて出てくる。
『やっと来たのかペイジ。おせえよ』
『うるせえ、ゲッシュ。これでも急いできたんだよ。そもそも俺は都市から脱出するタイミングで合流の予定だろうが。予定を狂わせたのはヤジマやネリアやケインだ!』
『そう怒るなよ。……それであのガキはどうした? 殺せたか?』
『いいや、まだだ。あの爆撃を先に察知された上に反撃してきやがった。しかも使っているのは何かしらの対物弾頭だ。
『さあな。俺は違うと思う。もしそうなら都市の防衛隊が
爆撃を行って以降、オルトからの攻撃が行われないのは死んだからか、動けないからか、次の狙撃位置に移動しているからか。どれをとっても2人にとって都合がいい。重装強化服と輸送車両に挟まれる形で男が立てば、ビルの方向から射線は通らない。狙撃は不可能だ。
『仕方ねえ。俺達であのガキを殺すとしようか』
『そうだな。あいつがお目当てのガキならちょうどいい。さっさと殺して輸送車両を移動させよう。……そういやなんで周りの奴ら殺したんだ? 盾にも使えただろ』
『おかげでお前が奇襲できただろう? 失敗したみたいだがな』
『悪かったよ。だが、あの爆発を喰らったんだ。無事ではないだろうよ。尊い犠牲だったな』
2人がビルへ近づいていく。ビル内からの狙撃を警戒して重装強化服を盾に使用していたが狙撃はされなかった。
オルトがペイジの攻撃を受けた際、ファナは可能な限りオルトの要望を叶え、その上で命に別状のない状態を作ろうとした。
全ての小型ミサイルの着弾位置を計算してまず回避行動をとらせる。強化服の出力を上昇させ上階へと逃げ、爆風によってオルトが死なない位置まで上昇すると、オルトが望んでいた敵の殲滅を最優先とし、実行に移した。
小型ミサイルが順に爆発を始め、吹き抜けへと爆風を流し込み始めたタイミングで、吹き抜けへとオルトの身を投げた。それと同時にGRD対物突撃銃の専用弾をペイジの重装強化服へと撃ち出し、その反動を殺さず、身体全体で受けるという選択を取る。
ビル内で荒れ狂う爆風とGRD対物突撃銃の専用弾の反動を合わせた結果、更に上階へとオルト自身を打ち上げることに成功した。少なくともその階には重装強化服では上がってこられない。見つかったとしても
だが、打ち上げられたオルトはその衝撃を全て自身の身体で受け止めるという結果になった。自分の選択が招いた事だが、死にはしなかった。幸運と呼べるかは定かではないが。
オルトが身体中に走る激痛によって動きを鈍らせるが、強化服の方を動かすことで無理矢理いつも通りの行動を可能にする。回復薬を取り出して頬張る様に飲み込んでいく。
急に覚えた吐き気と血の匂いから、喉に血が溜まっていることを理解する。それを吐き出さずに無理やり飲み込む。その血の一滴に回復薬の治療用ナノマシンが入っているからだ。無駄にはできない。
(何がおこ……いや、違う! 敵の増援が来たんだ! クソ! 俺が行動したらいつも敵が増えやがる。選択を誤ったとでもいう気か? 後悔は後でいい。死んでからすればいい!)
オルトがゆっくりと立ち上がると、その前にファナが立ち、少し呆れたように話しかけてくる。
『撤退なさりますか?』
オルトもファナから送られていた言葉の重みを知る。今、自分が置かれている状況はオルトが招いたものだ。
2体の重装強化服に襲われていたハンターを見捨てたのがいけなかったのか、ここに来たのがいけなかったのか、そもそも依頼を受けたのがいけなかったのか。それは分からない。
だが、選択をしない者は闘っていない。死んでいるだけの存在にはなりたくはない。その思いでオルトは意思を宿した眼でファナを見る。
『まだだ。ファナ』
じっと見つめるオルトに根気負けしたようにファナが溜息を吐く。オルトの視界に描写されているだけの存在だが、オルトの視界の中にいる存在だ。お互いがお互いをじっと見つめあう。
ファナがいつも通りの微笑みをオルトに向ける。
『仕方がありません。……では、少々厳しい状況になりますが、オルトのその覚悟を見せていただきます』
オルトが意気を高めるように笑う。
『よし! 任せろ!』
ファナは状況を一切悲観していない。自身の有用性を示すいい機会が来たとさえ思っている。それがどちらに転ぼうとオルトが生きていればいい。いい方向へ転べば自身のサポートの有用性を、悪い方向ならば自身の助言を聞かなかったことを問い詰め、誘導がしやすくなる。
表情など描写される画像でしかないのだから。
オルトの居るビルの前まで来たペイジとゲッシュは、情報収集機器をビルだけに絞ってオルトを探していた。
既にビル内に撒きあがっていた煙は落ち着いており、色無しの霧のみが情報収集機器を邪魔していた。
『居ねえな。少なくとも10階より下には居ねえ』
『それより上階か。上層を探すのは手間だ。このビルごと吹き飛ばせればいいんだがな』
『お前の装備じゃきついだろうな。ケインの奴ならいけそうなんだが。……反応が有った! 屋上だ』
2人がビルの屋上に向けて銃口を向けるが射線が通っていない。爆撃しようにも先程のように回避されては無意味だ。ビルを倒壊させて巻き添えを喰らうのもごめんだった。だが、待っているだけでは更に意味が無い。
ペイジが左肩の拡張装備から小型ミサイルを撃ち出そうとした瞬間、オルトが大きく動いた。
オルトが屋上からその身を投げ出した。
オルトが屋上を走り、縁を蹴り、自由落下を始める。
落下しながらGRD対物突撃銃を構え、撃つ。銃撃の反動をその身に受けオルトの身体がビルの側面に押し付けられる。オルトはそのまま両足をビルの壁に押し付け、下方に居る2人に向け銃撃を開始する。
補助アームを2本だけにしておき、それぞれにGRD対物突撃銃と使用していないAAH突撃銃を持たせている。バックパックもリュックサックも今からの戦闘に不要と判断しビルの中に置いてきた。
連続して銃撃を行い、身体を無理矢理壁に押し付け続けることで強引に足場を確保した。そのまま壁面を駆けながら戦闘を続行する。反動を殺さず身体全体で受けるようにしている為、強化服の内部、生身の部分が悲鳴を上げ続ける。無理な挙動で駆ける度、筋肉がちぎれ、GRD対物突撃銃の専用弾の反動を受け止める度、骨が軋む。
しかし、それらに伴う痛みを回復薬が誤魔化し、負傷を治療する。
下方に居るペイジの重装強化服にGRD対物突撃銃の専用弾が連続して胴体に着弾する。強固な装甲に
ゲッシュの方にはAAH突撃銃を向け拡張弾倉の中身を全て吐き出すかのように撃ち続ける。強装弾を喰らってもその顔にすら傷を残せないが、視界は埋まるし、体勢も崩れる。
だが、お互いが銃撃を喰らっても無傷なことを理解すると、判断を間違えた者への嘲笑を含めた笑みを浮かべ、2人が上方にいるオルトへ銃口を向けて引き金を引こうとする。その瞬間、オルトの銃口がゲッシュ1人に向く。
笑っていたその顔に向かってGRD対物突撃銃の専用弾が撃ち込まれ、避ける間もなく頭部から身体を貫通してゲッシュを絶命させた。
(最初からゲッシュをGRDで撃たなかったのは油断を誘って距離を詰める為か!)
それを見ていたペイジが自身への銃弾の圧が消えたことを好機に両手と左肩の武装全てでオルトを攻撃しようとする。
(後、1体)
既に残りの階層は10も残っていない。地上まではあと少しだ。
オルトが更に走る速度を上昇させる。爆撃が可能な重装強化服を相手に悠長に壁面を駆けてはいられない。色無しの霧ももうじき晴れる。そうすれば都市の防衛隊が到着するかもしれない。自分が目の前の敵を倒す機会はこの瞬間だ。
GRD対物突撃銃の専用弾を、ペイジの重装強化服が所持している武装に向けて撃ち放つ。幾ら硬い装甲に覆われていても専用弾を使えば破壊まではいかずとも、使用困難なほどの被害を与えられる。その上、武装を使用する時には銃口や砲口を覆う
重装強化服の両手に握られていた大型の銃の銃口に専用弾が着弾し破壊される。しかし、両手の銃へエネルギーを送らなくてよくなった分、重装強化服の全身に纏う
オルトが遂に地上に辿り着いた。落下の速度と壁面を疾走していた速度が合わさり、着地と同時に両脚に嫌な感触が走り抜けるが、それを無視して重装強化服の方向へ走り出す。ビルの内部も屋外も逃げ場はない。小型ミサイルを数発程度なら撃ち落とせるだろうが、自分が使用している拡張弾倉を敵が使用していないという甘い考えはオルトの中にはない。逃げ場が無いのなら敵の懐以外に活路は無い。
GRD対物突撃銃から専用弾を撃ち出しながら一歩また一歩と踏み出していく。この銃撃で装甲を撃ち抜ければいいがそうはならなかった。
オルトの歩幅で数歩、重装強化服ならば一歩にも満たぬ距離まで近づいた。GRD対物突撃銃を撃っても次で破壊できなければ終わる。
ペイジが先に動いた。左腕を大きく引き、その速さで、質量で
オルトがその光景を酷く緩慢に捉えていた。重装強化服に殴られる、という思考が身体を動かそうとするが酷く鈍い。しかし、ファナが操作する。相手と同じように左手を引き、拳を強化された握力で握る。その手に握っていたAAH突撃銃の持ち手が砕け、音をオルトの耳に届かせる。
オルトがその感覚を思い出す。ファナとの格闘訓練の際に起こっていた現象が今起こっているのだと理解する。ファナが操作する動作に合わせてオルトも身体を動かす。前に出していた足が更に奥へ踏み込み、構え、全身の力を乗せ、オルトが生身を勝手に動く強化服に遅れないように動かし、ファナの操作で行われる達人の技量を以て、拳を打ち抜く。
両者が同時に拳を打ち抜き衝突すると、重装強化服の機能である
重装強化服が
(異常なほどの反射神経。どうなっている。このようなハンターが居るとは聞いていない。同志の収集した情報に誤りがあったか?)
困惑はする。しかし慌ててはいなかった。自身が乗る重装強化服の
その光景には高速戦闘に対応しているペイジの脳が驚愕し、思考が、動作が硬直する。吹き飛ばされている際の、偶然の挙動だと答えはしなかった。そして一瞬の硬直の代償を払うことになる。
GRD対物突撃銃から撃ち出された弾丸が精確に、狂いなく重装強化服の胴体部分、操縦席の中央に着弾した。
(これは、
纏まらない思考の中でオルトに対して正しく評価出来ないペイジは動けない。
拳同士の衝突に加え、GRD対物突撃銃の銃撃の反動でオルトが更に後方へ飛んだ身体を脚から地面に付け、再度駆け出す。既に
走り続けるオルトが腰に付けておいた旧世界製のブレード、その柄を引き抜くと、ファナの操作で液体金属が柄から重力を無視して伸びていき、刃を形成していく。液体金属の刃をオルトの身長よりも長く伸ばす。
(まだ殺し切っていない。チェックメイトを打った時こそ駆けろ!)
自分の感覚とファナが強調表示している事実を基に戦闘続行と捉えていた。
移動できないペイジが怪我による不調も見せず、一切の躊躇もなく走ってくるオルトへ驚愕の表情を向ける。
(まずい! この情報を同志に伝えなくては! 我々の活動の障害に──)
更に走る速度を上昇させ、一気に間合いを詰めたオルトが高速かつ正確に右手を振り下ろす。銀色のブレードが重装強化服を、その内部に居るペイジとその思考も含めて、まるで空気を切り裂くように簡単に縦に両断した。
オルトは重装強化服の両手の武装を破壊した時点で一度GRD対物突撃銃の弾倉を入れ替えていた。底に
地上に降りた後は重装強化服のエネルギーを使用させるために執拗に撃ち続けたが貫通することはなく、結局左腕を犠牲にすることになったが、それを差し引いても体感時間の操作を行えるようになったのは大きい。
ゆっくりと動く自分と他者。強化服を強引に動かせば自分の加速した時間感覚の中で、自分だけが緩慢な世界の中でいつも通りの行動をすることが出来る。
試しに使用しながら目の前の重装強化服を見る。重量によって重装強化服が切断面から左右にゆっくりと倒れていく。中に居たペイジの両断された顔も外に出される。
使用できる時間はさほど長くはない。体感時間をゆっくりにしようとすればするほど頭痛が酷くなり、長時間は使用できないと脳が訴えかけてくる。
死亡確認のついでとばかりに、残っているAAH突撃銃でその頭部を撃つことにした。義体の外部からは強固な装甲に守られてるが、体内からの衝撃には弱いらしく、引き金を引き続けると、そのままバラバラに砕け散った。
周囲を見渡すとゲッシュが殺した死体が輸送車両の近くに転がり、背後にはそのゲッシュが、目の前にはペイジと重装強化服。オルトが殺した数人はビルを挟んだ向こう側と輸送車両の近くに2つ。
とりあえずの戦闘を終了してオルトが息を吐く。
『……終わりかな?』
ファナが近くに佇みながら微笑む。
『そうですね。周囲の色無しの霧の濃度は通常値に戻りました。これなら迷彩を使用されても見破れます。安心してください。それよりも治療をした方がいいのでは?』
『おっと。そうだな。索敵を頼んだ』
『任されました』
オルトの左腕は重装強化服との衝突で内部含めてぐちゃぐちゃになっていた。強化服は故障していてファナの操作を受け付けていない。右手で左腕を触るのは
回復薬に記載されている用法用量を無視して追加で頬張ると、回復薬の治療用ナノマシンが左腕に集まっていく感覚がする。
回復薬は痛覚の麻痺や体力の回復、疲労の軽減などの効果が有るが、どれも副次的な効果だ。基本は治療の必要な順に治療を行う。今のオルトにとっては左腕が治療の優先度、最上位に上がっている。
左腕がゆっくりと内部から治療されている感覚を感じながら、オルトがビルの内部に放置した物を取りに行こうとする。が、ファナがオルトを止める。
『オルト。絶対に動かないでください』
オルトが指示通り動きを止める。次の瞬間、目の前に男が現れた。誰もいなかった場所に、オルトがそう認識していた場所に、男は突然現れていた。
オルトが唖然としていると、同じ装備をしている者達が次々に現れる。
『ファナ。こいつら、さっきまで居なかったよな!?』
『つい先ほど周囲を囲まれました。敵ではありませんので敵対行動はしないでください。流石に今の装備で戦闘を行っても、勝ち目は有りません』
『は!? いや、敵じゃないならなんで囲まれているんだよ』
オルトが知りたがっている情報を目の前の男が話す。
「動くな! 我々はクガマヤマ都市防衛隊である! 大人しく投降せよ! 我々の指示に従わない場合、都市への敵対行為と判断する可能性が生じる! これは即時駆除対象の認定を含む!」
男達はクガマヤマ都市の防衛隊の兵士達だった。更に追加の兵士たちがオルトの背後に現れる。
地下街攻略本部から仮設基地への連絡は、先行していたハンターやオルト以外にも複数の人員で行われ、そちらの人員は仮設基地に到着していた。事態を重く見た仮設基地の指揮官は、虎の子の防衛隊を直ちに派遣することを決定した。
仮設基地から地下街攻略本部及びその周辺の捜索に向かう。その移動中に発生した異常な光量の反応が有り、それが
そして周囲に死体を放置し、戦闘を終えていたオルトを発見、容疑者確保の為、包囲したのだった。
オルトが強化服を操作して補助アームを取り外し、両手を上げて自分を取り囲む防衛隊に事情を説明しようと試みる。
「俺はオルトだ! 地下街攻略で雇われたハンターだ! 仮設基地への連絡の途中で遺物強奪犯を発見し交戦した! 本部に確認してくれ!」
「拘束しろ! 抵抗した場合射殺を許可する! 地下街で多数のハンターが犠牲になり死者も出ている! 警戒を怠るな!」
「俺はそいつらを排除した側だって……」
数名の防衛隊員が無抵抗のオルトを拘束していく。オルトの両手脚に頑丈な枷がはめられる。そのままオルトは引きずられながら連行されていく。
オルトは身体的に精神的に非常に疲労していた。緊張が途切れ、次第に視界がぼやけていく。視界の端に映るファナ以外がぼやけた世界で鮮明なままのファナがいつも通りの微笑みを浮かべながら、自分を見つめていた。
『回復薬を使用しても限度はあります。大丈夫です。ゆっくりお休みなさい』
オルトは混濁した意識の中ハッキリと聞こえてきた声に甘え、そのまま意識を手放した。急に崩れ落ちたオルトを防衛隊員が慌てて支える。
「対象が意識を喪失しました!」
「バイタルサインを確認し、適切に処置せよ! 遺物強奪犯の可能性が高い! すべてを聞き出すまで絶対に死なせるな! 地下街攻略本部の医療班に連絡し、待機させておけ! 部隊を2班に分ける! A班は対象を地下街攻略本部まで輸送し、医療班に引き渡せ! B班は周囲の捜索! 他の遺物強奪犯が居る可能性が高い! 遭遇した場合は可能なら生かして連行しろ! 無理なら殺せ!」
隊長の指示に従って部隊員は速やかに行動を開始した。
「先程人員を送ったビルから報告は?」
「容疑者が2名。
「わかった。
オルトが防衛隊員によって運ばれていく。最低でも自分の選択を正解にした。生き残り、証明した。犠牲として払った物もあるが、それでも自身を示した。ただ1人、オルトが示したい相手の為に。
オルトが見捨てたハンター、それはアキラだった。アキラはケインとネリアに追われクズスハラ街遺跡のビルに逃げ込み、ケイン達は袋のネズミと化したアキラを追い詰めるだけで済んだはずが、色無しの霧の濃度が通常値になるまで時間を稼がれ、撤退する羽目になった。
そのケインは1人でクズスハラ街遺跡の外周部に来ていた。そこには数名の男達がいてケインを待っていた。全員程度の差はあれど、生身では無い者達だ。
男達がケインに敬礼する。代表の男がケインに話す。
「同志! お疲れ様です!」
ケインが答える。
「お疲れだ。同志。状況を」
「はっ! 配備済みだった者達はすべて撤収させました。連中に紛れ込ませていた者達も離脱に成功したと報告を受けています」
「……彼が足りないようだが?」
「同志が追加で輸送車両へ呼んだのでは?」
「その場の確認が済み次第、戻ってきている筈だが、……何か不測の事態が起こったのか? 今日に限り三度も?」
ケインが黙り、暫らく思案する。
「同志。
「……仕方がない。出発しよう。我々が
「承知しました。出発だ!」
移動中、ケインが思案する。
(それにしても何故失敗した? クガマヤマ都市の長期戦略部に潜り込んでいる同志からの情報では、ヤジマやネリア、更にはペイジに勝てるようなハンターはあのあたりに居なかったはずだった。ネリアはドランカムの若手ハンターに都市のエージェントが紛れ込んでいる可能性を口にしていた。ドランカムの若手ハンターに派閥が生まれているという情報があったな。非常に優秀な若手ハンターを中心にしているとか。勢力を拡大してドランカムを内部から制御するために、都市がエージェントを潜り込ませていたのか? 我々はそのエージェントと偶然交戦しただけなのか? ……待て、そもそもペイジはあの現場には来ていない。にも拘らず合流できていない。彼だけではない? 調べてみるか)
ケインが男に尋ねる。
「同志。以前に、ドランカムの若手ハンター達に大規模な派閥が形成されているという話を聞いたが、その中心人物の名前に心当たりはないか? 対象が若手ということもあり簡単なプロパガンダで我々に引き込めるのではないか、と立案されていたはずだ」
「存じています。……確か対象の名前は、カツヤ、だったはずです。関連資料が必要でしょうか?」
「不要だ。後で自分で閲覧し、精査する。必要なら後で指示を出す」
「承知しました」
男はケインの不興を買わない為に、余計な事を言わなかった。そのためケインの誤解をこの場で解く機会は失われた。
ケイン達はそのままクズスハラ街遺跡を脱出し、そのまま荒野へ消えていった。
オルトが真っ白な世界にいる。オルトの意識は朧気だが、見たことのある光景の様な気がした。だが、ここが夢であることも何となくだが理解していた。
オルトの前方にファナが立っていた。ファナはオルトに気が付いていない。
ファナが無表情で何かを話しているが、その内容の一切がオルトの認識外にあった。
ファナがオルトに気付かず話し続けている。
その奥からゆっくりと暗闇が迫ってくるが、オルトはそれに恐怖を抱くことはなく、その世界から意識を手放した。夢から覚める時だ。
オルトが病室で目を覚ます。何か夢を見ていた気がするがその内容が全く思い出せない。懐かしい気がするという感覚だけが残っていた。
オルトが居る病室は生身の人間を対象とした個人用の一室だ。寝ていたベッドから身を起こすと、ファナが微笑んで話しかけてきた。
『おはようございますオルト。よく眠れましたか?』
『おはようファナ。凄くよく眠れたよ』
眠気は全くなく非常に体調が良い。負傷は完治していて全く痛まない。左腕も確認してみれば以前よりも綺麗な状態になっていた。それだけでなく、全身を見てみれば、前まであった古傷なども綺麗さっぱり消えている。オルトの身体は文字通り、万全の状態だった。
そのことに僅かな笑みを浮かべたあと、オルトが部屋を見渡す。窓に鉄格子があるわけでもなく、部屋の中にある監視カメラは患者の容態などを確認するための物だ。少なくとも犯罪者にする待遇には思えない。だが、それがオルトの状況を完全に保証する理由にはならない。
『でだ。ここは何処なんだ?』
『クガマヤマ都市の病院です。オルトは治療のために
『そうなのか』
大抵の病気が回復薬などで治療可能な為、病院の役割は戦闘で負った負傷の治療だ。戦闘で四肢を欠損した者に対する高額な再生治療。義体の修理や調整、別の義体への換装処理。より強力なサイボーグ部品への交換や改造。また生身から義体への転換処理なども実施している。
オルトは都市の防衛隊の隊員に連行されている途中で気を失った。遺物襲撃犯と疑われ、独房で目を覚ましてもおかしい状況ではなかった。
『今の俺はどんな扱いになってるんだ』
『その辺の事情は後で来る人から説明を受けましょう。さっきまで寝ていた者が知っていたらおかしいですからね』
『それもそうか』
『ご安心を。遺物強奪犯の一員だと誤解されてはいません』
『そりゃよかった』
オルトが胸を撫で下ろした。
オルトの体調は万全だが、だからといって勝手に部屋から出ていくわけにもいかない。ファナと雑談をしながら暇を潰していると、都市の職員の男が部屋に入ってきた。
その男は調子良く、楽しげに笑いながら、オルトの近くに立ち、右手を差し出してくる。
「初めまして。私はクガマヤマ都市の職員をしているヤナギサワという者だ。少し、お話を聞かせてもらえるかな?」
初めて出会うヤナギサワと名乗る人物の笑顔に押されながらも、オルトは握手を返した。
アキラ、カツヤ側のストーリーもオルトの動きに合わせて書いた方がいい?(尚、書籍版やWEB版の流れは踏襲するつもりです。細部に変更を加えたり等が発生します)
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いい
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だめ
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傍観