戦姫絶唱シンフォギア 333回、転生した男   作:黒色晩餐

36 / 38
宣言通り、今回は前回以上に流血と言うかグロ系の表現やらなんやらが多いです。

しばらくは耐性がある方以外が読むには苦手なシーンが多くなる事があるのでご注意してください


第32話〜棺に満たされるは銀の液体。器に満たされるは怨嗟と赤き液体〜

 

 まだ月が空を明るく照らす中、何処かの湖畔沿いにある洋館から少し離れた場所に役目を果たしたのか塵へと変わり始める本を持ったまま、姿を表す翔真は周囲を見渡した後で腕時計を見れば時間帯は午前0時を過ぎた頃だった。

 

「さてと、狩りをする為にも罠を仕掛けておきますか」

 

 数日程度の不眠不休は慣れたものだ。過去には長ければ丸々1ヶ月は不眠不休の時もあったのだから。

 それと比べれば1日程度の徹夜は平気なのか月明かりだけが光源となる薄暗い森の中を歩き、洋館を中心点としての半径50kmをグルリと囲うように地面や樹木や岩 に正八面体の黒い結晶体を一定間隔で埋め込んでいく。

 

「これで仕上げだ。…ぅ゛…あ゛…く゛…あ゛…あ゛ぁ゛ぁ゛!!……はぁ…はぁ………ん゛!ん゛ん゛っ!…んぐっ…」

 

 そうしている合間にも月は沈み、代わりに太陽が昇り始めた頃、全ての準備が整えば最後の仕上げに自身の両眼を指で抉り出し、埋め込んだ結晶体の真上で片方を握り潰せばもう片方を口に含むと埋め込んだ結晶体と一緒に噛み砕き、一気に飲み込む。

 

「…………これで準備は整った…此処でフィーネを手助けするのは尺に触るが奴が撃たれさえすれば罪人を処罰すると言う大義名分は確保できるしな…」

 

 しばらくして抉り出した眼が再生すれば周囲を見渡し、視力に問題が生じていない事を確認すると朝日が森を照らし、鳥の鳴き声が聞こえ始める森の中を突っ切るようにして真っ直ぐに洋館の方へと向かって歩き始める。

 

「おや?丁度、始まったようだな…少し出遅れたが問題無いだろう」

 

 視界の先に洋館が見え始めてきた頃、洋館の方から銃声が聞こえ、窓ガラスが割れる瞬間を視認すると走り始めつつ罠を発動させると翔真の両眼は眼球の全てが真っ黒に染まっていく。

 

「おぉ、見える見える。馬鹿な連中だよな…始末するなら余計な会話なんかせずにさっさと始末しちまえば良いのにさ」

 

 埋め込まれた黒い結晶体同士が繋がり、洋館を中心とした半径50km範囲内の全てを閉じ込めるように透明なドーム状の結界が展開される。

 そして被弾し、床に横たわるフィーネと銃器を持った米国兵の会話が終わり傷口を修復し、ふらつきながら立ち上がったフィーネへ銃口が再度向けられたその瞬間、兵士達を閉じ込めるように7m四方の透明な障壁が出現すると逃げられないようにその中へ閉じ込められる。

 

「さて、愚かな罪人達よ。懺悔は済んだか?神への祈りは済んだか?家族に遺言は残したか?最後の晩餐は食えたか?これからお前達は生きたまま餌になるのだからなぁ?」

 

 兵士達の後ろ側から声が聞こえれば反射的にそちらの方へ銃口を向け、自分達を囲む透明な障壁に気付かず引き金を引いて発砲すれば障壁に当たった瞬間、放たれた全ての銃弾がピタッと停止する。

 しばらく撃ってから異常に気付いたのか銃声が止むと、少し遅れてから銃弾が下に落ちれば今度はその透明な障壁を叩いたり蹴ったりし始めていた。

 

「おー、怖い怖い……いきなり蜂の巣にしようとするだなんて物騒な蛮族だねぇ」

 

「伊吹、翔真……貴方、いったい何をしに…」

 

「ただ単にこの前、俺が呼び出した猟犬達への餌を確保しに来ただけさ」

 

 ジ…ジジッ…と空間の一部が乱れ、ノイズが走るとそこから翔真が姿を表せばケタケタを笑いながら瞼を閉じた状態のまま、周囲にある物の位置や段差が分かっているかのように歩き、近付いていた。

 

「っ……そんな事…信じられるわけが…」

 

「まあ、信じるか信じないかはアナタ次第、ってね?それにさ……もう此処は俺の領域内になったから逃げられないし、出られないぞ」

 

「なんですって?何をし………!?この気味の悪い視線…貴方まさかっ!」

 

 ゾクリ、とフィーネの背筋に悪寒が走る。まるで、全ての方向から隅々まで全身を観察するように見られていると錯覚してしまう程に不気味で、身動きが取れなくなりそうな気味の悪い視線。

 過去に一度だけ経験した事があるのを思い出しハッとし、目の前で立っている男をまるで、過去に死んだ筈の亡霊を見たかのような表情をフィーネはしていた。

 

「行きはよいよい帰りは怖い、とはよく言ったものだよね?使う為の準備や素材を用意するのにまあまあ骨が折れるし何より、使用者の目玉を使うからって理由で結果的には何百年も前に廃れ、唯一やり方を知っていた神父が大体400年前、魔女狩り専門の騎士団に殺された結果、残された書物も燃やされ完全に消失してしまった儀式に気付くだなんて流石、長い長い片思いを拗らせまくった先史文明の巫女なだけはあるねぇ?」

 

「何故!何故っ!貴様がそれを知っている!それは神隠しの領域を人為的に作り出す儀式だ!下手をすれば世界を崩壊させる恐れがあるから危険だと禁忌に指定され、世界から消失した儀式のはずだ!」

 

 翔真は閉じていた瞼を開く。眼球は全てが黒く染まっている筈なのだが、よく見ると…その中に幾つもの無数と例えられるくらい小さな眼が蠢いていた。

 それを見て、翔真からの言葉を聞いたフィーネは自身の中で立てていた仮説が徐々に、徐々に、確信へと変わり始めている事を自覚し、内心ではそれが仮説のままで有って欲しいとさえ思っていた。

 

「そりゃあ…ね?大体は察してるんじゃない?なんで400年前に消失した筈の儀式を何故、俺が知っているのか。何故、アンタの正体を知っているのか。何故、とある人物達だけが使用可能だった、素材や肉体を使用する錬金術を使っているのか……ソイツが誰なのか知っている者なら余程の馬鹿か鈍感では無い限り気付くだろう?」

 

「いや…そんな筈は無い……不可能な筈…いや、貴様『宣教者』か?いいや、ヤツは魔女刈りを目的として作られた騎士団と相討ちになった筈…ならば、『教導者』か!」

 

「さぁ?それは教えてやんねぇよ。だが、数年前から突然現れた『断罪者』って呼ばれてんのは俺だって事は特別に教えてやる」

 

 まるで答え合わせをするかの様に言葉を紡ぐ翔真はニィィィィと口角を歪め、ケタケタと笑いながら面白がっていた。

 目の前の男が自身の仮説を否定した事で内心は最悪の事態を回避出来た事にホッとしていたのも束の間、不安はかき消されるどころか逆に不安を掻き立てられていた。

 

「ハッ!貴様のその笑い方、『教導者』ソックリだな。ヤツ本人では無いなら、ヤツの教えを受け継いだ者か」

 

「いやいや、何が可笑しいってさぁ……自分達が死ぬのにさ、未だに自分達が有利な立場だと驕っている馬鹿を見ると笑えるじゃん?」

 

 ケタケタと笑い続けながら閉じ込められていた兵士の1人を指差した矢先、その兵士が何もない所で勝手に転んだかと思いきや隅の方へと一気に引っ張られ、身体は何かに固定されたかの様に動かなくなり、頭だけがひとりでにグルンッと1回転し、ねじ切られ、見えない何かに喰われているかの様に噛み砕かれていった。

 

「ほーら、狩りの時間だよお前達…沢山お食べ」

 

 そんな光景を見た他の兵士達はしばらくの沈黙の後、半ばパニック状態となれば物言わぬ肉塊となった元兵士から距離を取り、透明な障壁に背中を預けると同時に銃口を向け、引き金を引けばその周囲に向かって銃弾の雨を降らせると首がねじ切られた肉塊が銃弾を大量に含んだ挽き肉へと変わっていく。

 

「あれは……まさか…貴様!地獄の猟犬と契約を交わしたのか!!!」

 

「フフッ…ハハハハハハッ!!今の光景を見ただけで分かっちまったか!随分とまぁ、ピンポイントで当てたなぁ?」

 

 マガジン内の銃弾を全て撃ち尽くし予備に交換しようとした矢先、食事を邪魔された猟犬達は唸り声を上げ、荒々しく威嚇するように吠える。

 銃弾の雨により挽き肉となった兵士の返り血を浴びて若干、その輪郭が見えてしまっている状態で兵士達へと襲い掛かる。

 

「残念ながらソイツらは鉛玉程度じゃあ、ブッ殺せねぇよ、一兵卒の雑魚共♪」

 

 猟犬達が一人だけ交換に手間取っている兵士に狙いを定め、迷い無く襲い掛かってきた事に兵士は一歩遅れて気付いたが既に遅かった。

 銃口を向ける時間など残されておらず、あっという間に襲われ、肉塊へと変わっていく。

 それを見て恐怖に支配された残りはマガジン内の弾が尽きるまで撃ちまくるも弾が無くなった瞬間、猟犬の餌食となる。

 

「さぁて、君には生きたまま喰われて貰おうか…その方が極上かつ高品質な魂となるからね?」

 

 最後に残されたリーダーであろう男は恐怖に染まりきった顔をし、透明な障壁を叩きながら翔真へ助けを乞うているのだろうが外側からの声は聞こえているらしいが、内側からの声は外側の2人には聞こえていなかった。

 何を言っているのか翔真は気付いたのか、狂気的な笑みを浮かべながら障壁越しに伝えると、リーダー格の男の最後は絶望と恐怖に染まった顔を晒したまま3匹の猟犬に引きずられ、口からは血の泡を吹きながら生きたまま内臓を喰われていた。

 

「さてさて、先ずはこれであの子達との契約は済ませたし…次は俺の目的を達成させますかね」

 

 たった2分弱の出来事ではあったがフィーネでさえも言葉にならなくなる程に悲惨だとしか言いようが無い。透明な障壁は吹き出した血や食い散らかした際に飛び散った血によって所々が真っ赤に染まり、排水が出来ない床には浅く血溜まりが出来ていた。

 罪人を喰らって満足したらしい猟犬達はその身体をドロッと崩れさせ、浅い血溜まりの中に溶け込むように消えていく。

 

「貴様は分かっててやっているのか?先程喰われた奴等が何処の所属か!」

 

「ああ、知っているさ。知っててやっているに決まっているだろう?所詮、死人に口無し。そもそも、理解不能な光景をどうやって説明するのさ」

 

「知っててだと?なら、貴様以外も狙われるのを覚悟しているのだろうな」

 

「あー…そうだね、そうだよ。……だから、一人も逃がすつもりは無いんだけどね?」

 

 そう翔真が言葉にした直後に突如、ズシン!ズシン!と何か巨大な物が動いている音と共に地面が一定間隔で揺れ始める。

 そして割れた窓ガラスから見える景色は地獄に変わっていた。非常事態に備えた予備の部隊。それを投入しても失敗した場合に備えた追加の援軍。

 その全てがもれなく領域内に閉じ込められ、更には全身が黒く、半透明で顔の無い数体の巨人によって捕えられ、白く半透明で人が3桁は余裕で入るくらい巨大な臼の中に車両と共に次々と兵士達が放り込まれていく。

 

「な、なんなんだ…あの巨大な人型の物体は……」

 

「アレか?この領域内でその場限りの条件付きで作り出した錬金生物さ。一々よぉ、隠れてる奴等の所に行ってさぁ、狩るのも面倒だから1か所に集めようかなってね?」

 

「奴等を1か所に集めて何をするつもりだ伊吹翔真……」

 

「何をするつもりって………こうするんだよ?」

 

 どうやら領域内に閉じ込められた全ての兵士を臼の中に集め終わったらしく、数体の巨人の頭部が月の兎が持っているような杵の形に変わると…お互いにぶつからないタイミングで杵に変わった頭部を振り下ろし、臼の中身を潰し始める。

 臼の方からは肉や車両が潰される音だけでは無く、苦痛と死に直面した事によって恐怖に満ちた悲鳴がフィーネと翔真が居る場所からも聞こえる程に臼の中は阿鼻叫喚の地獄となっていた。

 

「っ!!貴様は…貴様は何をするつもりだ」

 

「何って、ねぇ?俺がやると言ったら錬金術に決まっているだろう?」

 

 自分の命を狙ってきた以上、奴等がどんな最後を迎えようが知った事ではない。だが、洋館の外で行われている光景はあまりにも惨過ぎる。

 フィーネでさえも胃液が逆流しそうになっているの堪える程に惨い光景を翔真は狂気的な笑みを浮かべながら喜々としていた。

 

「アレで何を作り出すというのだ…あんなので、作れる錬金物などたかが知…れ………いや、まさかそんな筈は…アレはどの錬金術師が行っても…ヤツの弟子でさえも失敗に終わった結果、机上の空論で片付いた筈…」

 

「あ、もしかして気付いちゃった?いやさ、アレって実はさ…あえて未完成品を流出させて、作成者の意図を汲み取った奴だけが作成可能な仕様になってるんだよね〜」

 

 臼から聞こえてくる悲鳴や叫び声は徐々に小さくなる。最後には杵で臼の中身を突く音だけしか聞こえなくなった事から全てを潰し終えたらしく、巨人達の動きがピタリと止まっていた。

 

「なら…貴様はヤツの意図を汲み取り、完成品が何かを知ったと言う事か」

 

「もちろんさ。大量の血肉と魂…それと、死ぬ間際に理不尽な死による怨嗟が混じり、放出された負のエネルギーを凝縮すれば上質な素材と変質するのさ。

原罪を背負った魂は自ら生み出した怨嗟によりその原罪を歪ませ、凝縮された負のエネルギーと共に消滅し、無垢な魂へと変質させる。そうして作り出した無垢な魂を血肉と共に収束させ、神降ろしを行う為の器とするのさ」

 

 目の前に立っているこの男は誰がどう見ても狂っている。何処かで、何かの拍子に狂ったとかそんな生易しいものじゃない。そう感じてしまう程に翔真から漏れ出す狂気は腐った汚泥よりもドス黒く、油断すれば飲み込まれてしまいそうだった。

 

「か、神降ろしだと!?そんな事をして貴様は何をするつもりだ!」

 

「何って……忌々しい原罪を、罪無き人類に背負わせた身勝手な神を討伐するためさ。まっ、奴等は神と崇められているが本物の神では無いから俺は神殺しのペナルティは受けないんだけどね?」

 

「何を訳の分からない事を…気でも狂ったか!」

 

「気など遥か昔から狂っているさ。魂を磨り減らし、消滅しそうな程に幾重もの死を、痛みを、恐怖を、絶望を、狂いそうな程の悲しみを重ねた結果、俺はここに存在している」

 

 動きが止まっていた巨人が再度動き始めれば、杵に変わっていた頭部が今度は溶け始めるとそれが臼の中に注ぎ込まれ、そのまま巨人達は自ら臼の中で溶け合い、混ざり合い、1つの塊へと固まっていく。

 しばらく臼の中身が沈黙していたがジワリ、ジワリと臼全体が時間が経過した血液のように赤黒く染まっていく。

 

「っ?!アレが神降ろしを行う為の器だと…ば、馬鹿げている…貴様はアレを見て神降ろしの器だとでも言うのか…」

 

「馬鹿げている、か……今は神の器となる聖骸を作る為に必要な骨格となる聖遺物を作っているだけだからね……そもそも、この世にバラルの呪詛が有ろうが無かろうが我々には味方なんていないんだ…そう、いないんだよ…味方も、そして敵もね………まっ!アレの完成品がどうなるのか分かっていないお前には関係無いけどね!アハハハハッ!!」

 

 全体が赤黒く染まり終えると巨大な臼は徐々に圧縮されるかの様に小さくなり、その姿が見えなくなると二人の後ろから小さくカタカタッと音が鳴る。

 

「さぁてと、目的も果たした事だし帰らせてもらうよー」

 

 カタカタ、カタカタと周囲の空気が揺れるも少しすれば静かになる。

 

「計画を聞いた私が貴様のような危険因子を帰す訳が無いだろっ!」

 

 何かが後ろからフィーネの肩をトントンと叩く。

 

「いやいや、帰す帰さないの話じゃないんだよ…アンタは俺を帰さなきゃなんないんだ。じゃないと……恐ろしい事が起こるぜ?」

 

 翔真は少し真面目そうな目をしながらフィーネの後ろを指差す。トントン、トントン、トントン、トントンと何度も何度もフィーネの肩を何かが叩く。

 

「はっ!また貴様のお得意なブラフか?私が貴様の指を指した方向を向いた瞬間に逃…いい加減しつこっ?!」

 

 何度も肩を叩かれる鬱陶しさに我慢の限界が来たフィーネは後ろを振り向く。そこには劣化した血のように赤黒く染まった骸骨が立っていた。

 眼窩(がんか)部の中は黒いモヤで満たされ、その奥では狂気と恐怖に染まった2つの血走った瞳がフィーネを見つめていた。

 

「あーあ、目があっちまったな。クックック……ソイツは今、丸裸な自分を包む為の肉体を探している。無垢な魂を材料とはしたがその器にはまだ魂が入っていない。

空っぽなソイツはな、自分に適合する肉体を探す為、手当たり次第に鮮度の良い人間の皮を生かしたまま剥ぎ取り、内臓を取り出し、骨を取り除き、その頭蓋の中に脳を取り込み、自分の骨を肉に埋め、内臓を戻し、最後に皮を着る……そう設計されたからこそ、悪用されない為に流出させたのが未完成品ってコト。

 あのクソ全裸も未完成品の完成形がコレって事は知らねぇし、頭のクソ硬いアレの弟子だって理解出来てねぇよ」

 

 フィーネは身の危険を感じたのか、咄嗟の判断で骸骨から距離を取ると翔真は嬉しそうに、楽しそうに笑い、赤黒く染まった骸骨がどんな存在なのか説明を始める。彼の説明を聞いたフィーネは事の重大さに慄然(りつぜん)としていた。

 仮に、あの骸骨に適合する肉体があるならば良いだろう。だが、適合する肉体が無ければ全人類がアレの犠牲となる。敵になれば厄介この上ない相手だと言うのに最悪の場合、適合した肉体が有れば奴が呼び出した神も相手にしなければいけないのだから。

 

「そんな説明をして何になる!私がその話を聞いて邪魔をしないとでも思ったのっ?!ぐっ……骨だけの癖に何処にこんな力がっ」

 

 ほんの一瞬だった。ほんの一瞬、あの骸骨から目を離し、翔真の方へ視線を向けただけなのに骸骨は音も無く一瞬で間合いを詰め、フィーネの皮を剥ぐために襲い掛かる。

 だが彼女もそう安々とやられる訳もなく、前腕部を掴んで抵抗をするのだが力は骸骨の方が上らしい。フィーネは徐々に押され始めていく。

 

「だぁーかぁーらぁー、言ってるじゃん?アンタは俺を帰さなきゃいけないってさぁ?俺を帰さないなら、ソレの犠牲者第一号にアンタがなるだけだしぃ?そうなるのがお望みならさっさと皮、剥がされちまえよ」

 

 もう少しで骸骨の方が力比べで完全に競り勝ちそうになると下顎の部分がカパッと開き、そこからドロリとした粘度が高く、真っ黒な粘液が滲み出し始める。それを見たフィーネの全身からブワッ!と一気に鳥肌が立ち、脂汗も吹き出す。

 この粘液に触れるのは危険だと細胞の全てが伝えてくる。少しでも触れてしまえばフィーネ自身の魂が発狂するだけでは済まない。自身の魂が粘液に侵蝕され、今後は転生する事なんか出来なくなるぞと警告されているようだった。

 

「ぐっ!このっ、外道が!帰れ!さっさとコイツを連れて私の前から消えろ!2度と私の前に現れるなっ!」

 

「はいはい。じゃあ帰るぞ……あ、そう言えば名前を決めていなかったな……んー…この聖遺物をなんて名前にしようかな…」

 

 骸骨との力比べにて力負けした結果、徐々に距離が近付くにつれて全身に走る悪寒が強まり、フィーネの脳内では警鐘が鳴り響く。このまま帰せばこの後で邪魔されるのは確実だが、帰さなければ目の前の骸骨によって自身の魂は壊されてしまう。

 どちらかを選ばなければいけない以上、帰す方が邪魔されるのは確実なのだから対策なりなんなりは可能だ。ならばと、フィーネは帰す方を選ぶが翔真は意地の悪い笑みを浮かべながら骸骨の名前を考え始めていた。

 

「そんな事、どうでもいいからさっさとコレをなんとかしろ!クソっ!これ以上私に近付くな!」

 

「んー…迷うなぁ……天使か悪魔の名前から抜粋するか、何処かの神の名前に関するものにするか……シェミハザ…ガブリエル…アザゼル…ラミエル………よし、これからお前の聖遺物としての名はシエルだ。神の器の一部として最適化された聖遺物『シエル』だ」

 

 もう少し、あともう少しで滲み出し始めていた粘液がフィーネの額の上へ落ちそうになった時、翔真が聖遺物の名前を口にする。

 その瞬間、ピタッと静止すれば滲み出していた粘液はシエルの中へと戻り、一瞬だけシエルの全体がブレ始めればパッと消えればいつの間にかに翔真の後ろに立っていた。

 

「ハァ…ハァ……貴様…何故、何故その名にした…」

 

「何となく、かな?この名前が似合いそうだって思ったからだし、実際にコイツは気に入ったようだからね」

 

「さっさと帰れ……貴様の姿など…もう見たくもない…」

 

「はいはい。そんじゃあ、また会おうか……次はカ・ディンギルが動き出す頃にな?」

 

 シエルとの力比べが突然中断した事で支えを失い床に尻もちをつき、息を荒げ怒鳴る元気も無くなったフィーネではあったがその瞳は怒りに満ち溢れていた。

 そんなフィーネからの視線など気にもせず翔真は軽く手を振ると、『テレポートジェム』を足元に向けて叩きつけて割れば最後に言葉を残すと姿を消すのだった。

 翔真とシエルが姿を消すと同時にドームは消滅し、猟犬達に喰い散らかされ、巨人によって擦り潰された筈の兵士達の亡骸が洋館の中に大半が五体満足のまま残されていた。

 

「クソッ!………今度は必ずやその首を胴体と切り離し、忌々しいその口を一生閉じさせてやる…」

 

 洋館内に一人だけ残されたフィーネは銃弾による傷口がいつの間にかに治療されている事に気付き、苦虫を噛み潰したかのような表情になりながら既にこの場から消えた相手に向かって悪態をついていた。

 

__________________

 

 そして、そんな悪態をつかれていた当の本人はと言うと……

 

「いやいや、何とかなるもんだねぇ…予想よりも贄が多かったから予定より早く完成したし……こりゃあ、何かしらの邪魔が入らなければ計画の前倒しも可能かな」

 

 電気が一切点いていない真っ暗な工房内の廊下を迷わず歩きながら普段使っているのとは別の研究室へ入ると、室内の明かりが自動で点けば約5000㎡はあるの広い室内が照らされる。

 入口側の前半分は様々な機材だけでは無く錬金術や魔術に使う素材を保管する為の保管庫が置いてあり、残り半分は何かの儀式に使うかの様な祭壇だったり錬金釜や、回収した聖遺物を保管や封印をしていたり、一部だけ材質の違う床には錬成陣が描かれていた。

 

「そんじゃあシエル、君が活躍する時が来るまで君はあの中で眠るんだ。全ての準備が完了していないから君の出番はまだまだ先でね…肉体が出来るまでの間は封印させてもらうよ」

 

 研究室の最奥にはまるでシエルの為だけに用意されたかの様に黄金と緋緋色金だけで作られた棺が鎮座していた。

 翔真の言葉を聞いたシエルは軽く頷くと同時に一瞬で棺の前まで近付き、自ら棺の蓋を開けばその中は水銀で満たされており躊躇う事無くその中へと入れば開いた蓋を自ら閉じるのだった。

 

「生まれたばかりの聖遺物な筈なのに言葉やその意図を理解して自ら行動出来るとは…予想以上の完成度だ。この先、お前がどう成長するのか楽しみにしているぞ」

 

 棺の蓋が閉じられた事で棺が空中に浮かび上がると、棺全体を覆い隠すように黒や赤に染まった一本の包帯が巻き付き始め、一つの陣を作り上げていく。

 包帯が巻き付き終われば浮かんでいた棺が床へ降り、作り終えた陣も正常に発動し、棺が外部からの攻撃や時間経過による劣化に対する保護に加え、棺の封印も完了した事を確認すれば最後に自身の手のひらを軽く切り、陣の上に血を数滴垂らし自身の血を封印を解除する鍵として登録し終えれば部屋から出て行くのだった。

オリジナルライダーでの戦闘&暴走

  • 両方有り
  • 戦闘のみ有り
  • 暴走のみ有り
  • 両方無し
  • 戦闘のみ無し
  • 暴走のみ無し
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。