Starlight Eden   作:瑠璃咲ずい

2 / 2
Episode.2 「舞えサクラ、花のように」

二日後の放課後。

 ミズホはいち早くファッション部の部室に入り、積み上げられたプリントを整理した。今日までに仕上げなければならない型紙のデザイン画を取り出して分類し、不備がある場合は加筆する。

 その時。

「あっ!ランドクイーンの新入りちゃんだ!」

 茶髪のツインテールの小柄な先輩が、ミズホに話し掛けてきた。

「えっと…いつもお世話になってます」

 彼女は「森葉 翠(もりは みどり)」。「Starlight Eden」では、アバター「リーフ」として活動している。ミズホや爽夏が製作する「Land Queen」の常連客でもあった。

 翠は、分類したプリントの一枚を引き抜くと、「なるほど~」と呟いた。

「この型紙可愛いからプレミアムレアのドレシア入れたいな~……でも難しいかも」

 残念そうに、翠はプリントを元の位置に戻す。

「先輩なら出来ますよ」

「いやぁ……六花先輩やひかり先輩レベルじゃないと厳しいって~」

 翠は型紙のみが描かれたスイングを一枚取り出し、ミズホに見せた。

「このミニスカ可愛くない?」

「あ、そうですね…」

 実際にアイドルとして活動する人の視点が、アイドルでないミズホにはまだ分からない。それどころか、ファッションに関しての知識はほぼ皆無と言ってもいい。勢いで入部したが、本当に自分に向いていたのかと聞かれると、絶対に「YES」とは言えないだろう。

「失礼しまーす…って、翠先輩!」

 ミズホが翠の動きを目で追っていた時、ガラガラと音を立ててドアが開き爽夏が入ってきた。

「型紙探しですかー?」

「うん、新しいデザインの奴無いかなって」

 どうやら、爽夏はこの光景に見慣れている様子。

 大分失礼だが、ちょこちょこと動き回る翠と落ち着いて作業に取り掛かる爽夏を見ると、爽夏の方が年上に見えてしまう。決して本人には言えないが。

「翠先輩、だから『ガキ』って言われるんですよ。多分ミズホも同じこと思ってます、だって顔に出てますもん」

「あー!それNGワード!」

 とうとう、ミズホの心の内を爽夏が言ってしまった。

「……い、いやいや!思ってませんって!」

 ミズホは慌てて誤魔化したが、もう遅かった。翠はがっくりと肩を落としたが、すぐに元の笑顔に戻って言った。

「ふん、『リーフ』としての私を見てないから言えるのだ!今に見てろ!」

 翠はビシッとミズホと爽夏を指差す。

((だからそういうところなんだって……))

 だがその言葉は説得力が無く、二人に深くは響かなかった。

 

 

 

 部活での作業を終了させた後、ミズホは単独でミラーインした。 

 今回は桜こと「サクラ」のライブを見るために来た。デビューする前にどのような雰囲気か、どれくらいの緊張感を持っているか確かめることも必要だと思ったから。

 ミラーインは一応二回目だが、未だにポップな色使いの街並みやアバターに慣れない。違和感を覚え目が疲れてしまう。

(むしろ自分が可笑しいのか……)

 カラフルな髪や目の色をしたアバターと対比して、ミズホのアバターはまだ黒髪のボブに、オーソドックスな茶色の瞳。自分のように地味なアバターの方が少数派なのかもしれない。

 

 Now Loading......

 

 そう考えながら数分歩くと、一昨日リッカのライブを見たドームに着いた。

「ここでいいかな」

 上の階の空いている席に座る。可愛いリボンとハート形のオブジェクトに飾られたステージが、こんなに後ろの席でもバッチリ見える。

「かわいい~。……?」

 キラキラしたステージに心を打たれたミズホだったが。

(スカスカだ…)

 辺りを見回すと、かなり空席が目立っていた。桜が言っていた「廃部寸前」というのを嫌でも分からされる。どうやら、ファンの間では「地下アイドル」的な立ち位置のようだ。それでも、自分の見えないところで、彼女なりにステージにたくさん立って立て直す努力しているのだと、ミズホは理解した。

「やっほー!!」

 改めてステージに目を向けた時、ステージの中央からアバター姿のサクラが飛び出した。オーロラカラーを基調とした「スターライトエデンスタートドレスピンク」を着ている。

 ミズホは感心して目を見張る。

「みんな!来てくれてありがとうー!」

「うおおおおおおおお!」

 サクラが観客席に手を振ると、暗闇の中から歓声が湧いた。

「今日も一曲いってみよー!ミュージックスタート!!」

 ドームの照明が一斉に消える。今回このステージを飾る曲は……、「LIKEY(ライキー)」。

『いいね Me Likey Me Likey Likey Likey Me Likey Likey Likey  ドキドキドキ』

「「「「「Heart!Heart!」」」」」

 ミズホの中の懸念は、まるで脳内に電流が駆け巡った様にファンの掛け声で搔き消された。

(掛け声がすごい…)

 一昨日のリッカのステージに負けないくらい、ドーム中が沸き上がっている。少ないけれど、その人数に見合わない音量にミズホは圧倒された。

『アップしてしまうの ついね  ちょっとしたことでも すべて  この画面の中 私 キレイかな  まだ言わずに隠す ぎゅっと』

「サクラー!」

 無意識に彼女に声援を送っていたミズホ。それに気付いたのか、一瞬ではあったがサクラはこちらを振り向き笑い返してくれた。いわゆる「ファンサービス」という物だ。そのファンサービスも確実に相手の心を鷲掴みに出来る力を持っている。

『BB cream パッパッパッ リップスティックで んまんまんま  カメラは正直? 「綺麗?」』

 あざと可愛く唇をポンポンと突くサクラ。

『これ見て笑って 必ず押して  ハート型の赤いボタン』

「「「「「Heart!Heart!」」」

 観客の掛け声と同時にドーム全体の照明が落ち、サクラ一点にスポットライトが当たると同時にドーム内は静まり返った。

『ゴメン ちょっと嘘かも「いいね」  言葉だけじゃ足りないよね』

 サクラは正面に手を伸ばし、広げたその手のひらの上にピンク色のスイングが出現する。

「あっ」

 そのスイングからドレシアが出てきた時、思わず声を上げた。

(あの時のだ)

 ドレシアはユニコーンの姿をしていて、全体的にハートやリボンで飾られている。一昨日桜に勧誘された時見せてくれた、「ハートフルユニコーン」だったのだ。

『でも好き 寝れないくらい  遅刻しちゃってもいいかも』

 ハートフルユニコーンは眩いピンク色の光となってサクラの身体に飛び込む。すると、サクラの衣装はハートのモチーフを基調としたカジュアルなセットアップにチェンジした。

『今日に限って凹むね アゲてるフリもちょっとね  あなたは無反応で わたしは “Oh No!”  ノラない誘いだけ来るね』

(!?)

 ミズホはサクラのラップを聞いて目を丸くした。ボーカル担当だと思っていたが、まさかラップも熟せるなんて。

 目まぐるしく変化するリズム。でもサクラは音を外したり突っかかることも無い。しっかりと一つ一つの単語が聞き取れる。

『Oh ねぇ待って ねぇ待って 着信 メッセージ いま到着  一日中 気持ち updown でも嬉しくて踊っちゃうね』

「すごい、私には出来ないよ」

 リボンとハートのオーラをドーム中に散らし、観客を魅了するサクラ。最早「アイドル」なんて生ぬるい言葉で形容出来ない。「女神」だよ!女神ッ!!

『Me Likey Me Likey Likey Likey Me Likey Likey Likey ドキドキドキ』

「「「「「Heart! Heart!」」」」」

 サクラの投げキッスで曲を締めくくる。

「みんなー!ありがとー!」

 スポットライトが消えて徐々に暗くなっていく中、サクラはドレスを揺らし観客席に手を振る。

「サクラー!可愛いよーーー!!」

 ミズホはステージに向かって叫ぶ。サクラはミズホの姿を捉えると、今度はしっかりとこちらを見てもう一度投げキッスをした。

(ヤバい、可愛い!!)

 彼女のハートを打ち抜いた天使は闇の中に消えていった。

 

 

 

 ミズホはサクラのライブを見た後、ミズホはログアウトし部室に戻った。

「おかえりー」

 まだ爽夏がデザイン画の修正などの作業をしていたが、彼女の姿を見るなり手を止めて立ち上がり小さな棚を物色し始めた。

「ミズホ、どんなドレスが好き?」

「え」

 その質問に、ファッションセンス0のミズホはフリーズした。

「?????」

「ほら、スカートの長さとか」

 あ、そういうことなんですね。ミズホは自分の好きなコスチュームなど思い浮かべようと…したが。

「わかんないです、そもそもどういうのがあるのかすらも」

「えぇ…」

 爽夏は少し考えて、質問を変える。

「じゃあさ、ブランドで言うなら…何が好き?」

「あ、それなら『Jewelry Candle(ジュエリーキャンドル)』ですね」

「…」

 爽夏はしばらく黙って、箱から一枚のスイングを取り出した。型紙だけで何も飾りや色はついていないが、前見たスイングと一つ違う点はすでに裏面に宝石のマークがついている事だった。確かドレシアタイプはドレシアの「本体に」存在するはずだが。

「なんか違くないですか?」

 ミズホが言うと、爽夏はデザイナーズフォンを取り出し複数の画像を見せた。映っている画像は全て宝石モチーフのドレスばかりだ。

「実は『Jewelry Candle』のスイングは、ジュエルタイプのドレシアにしか使えないんだ。このブランドの他にも、いくつかタイプの縛りがあるブランドがあるんだってよ。例えば彩華(さいか)先輩が作る『Mira Vampire(ミラヴァンパイア)』はゴシックタイプにしか使えなかったり」

「そ、そうなんですか」

「初めからゴッツイの行くね~って思って」

「……」

 難しい話に圧倒されるミズホ。

「縛りがある分使いにくいかもしれないけど、好きなドレスなら気にならないさ。だけど…」

 ミズホは爽夏の話を聞きながらスイングを眺めていたが、爽夏の声のトーンがいきなり落ちたことに気付き彼女の方を見た。

「そこはお世辞でも『Land Queen』って言って欲しかったよ…」

「あっ」

 配慮が足りなかった。爽夏は同じリオレイア中毒として、ミズホの回答に少々期待していたらしい。それに気付いたミズホは咄嗟に変えようとしたが、

「でもスタエデでもう翠先輩が使ってるしキャラ被りになっちゃうから、気にせず好きなの選んでいいよ」

「すみません…でもありがとうございます。これにしますね」

 ミズホは爽夏からスイングを受け取りポケットに仕舞った。

「そういえば、来週はオーディションなんだって?合格すればデビューできるの?」

「えーっと、合格したらその日のうちにデビューステージなんですよ。だから今、放課後に桜とダンスの練習をしてるんです」

「桜ちゃんか!いい弟子を見つけたね!」

 爽夏は感心して、にやけながらミズホの肩をポンポンと叩いた。

「頑張って!私ライブで観るから!」

「き、緊張する…………」

「そのスイングにどんなドレシアを宿すのか、たっのしみだなぁ~~~」

「うううううう」

 ミズホは冷や汗を搔きながら小刻みに震える。その様子を見て爽夏は大声で笑った。

 

 

 

 来週はオーディション。ここで落ちたら何も始まらない。

 絶対に合格して「Starlight Eden」の正式メンバーになってやる。




 瑠璃咲ずいです。今回も読んでくださりありがとうございます。
 なんとか第2話も書き上げることが出来ましたが、主人公のオーディションが終わった後の展開はほぼノープランなんです(アホ)!もしかしたら、途中途中にキャラクター紹介や今作での世界観を語る資料を挟むかもしれませんので、そちらもぜひ読んでください。
 pixivの方でもイラストで解説()していますので、よければいいねとフォローお願いします。
 また次回お会いしましょう!ノシ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。