俺と神様転生と畜生道
──神様転生。最近ではありふれたジャンルではあるのだが。
「まさか我が身で体験することになるは思わんかった」
「死んじゃったものは仕方ないよね。それよか続き見ようぜ続き!79年有馬!」
「おま、グリーングラスのラストランじゃねーか!これは見なきゃ損だぜ!」
まさか神様と競馬関係の話題で意気投合するとは思わなかったぜ!
死ぬ前の俺はというと、とあるアプリゲーの影響もあってか競馬にどっぷりとハマり。特に昔の競走馬に滅茶苦茶興味が湧いたもので片っ端からレースを漁ったものだ。にわか知識も良いとこだけど。
「やっぱええなぁ……TTがいなくなった後も走り続けたグリーングラス。紛れもない名馬よ」
「万全な状態ならTTにだって勝てたね。断言できる」
ちなみにこの神様とのファーストコンタクトだが。
「へい君!一緒に競馬見ない!?」
「めっちゃ見たいです!」
とまぁ、こんなかる~い調子で意気投合した。
「いや~凄いよねぇ。やっぱ競馬にはドラマがあるよドラマが」
「分かりみが深い。いい年こいたおっさんだけどやっぱ男の子はこういうのが好きなもんよ。てか神様もこういうの見るんすね」
「まぁね~。最初は暇つぶしに見てたけどどっぷりはまっちまたもんだよ」
神様すら魅了するか競馬のドラマ。すげぇな。
「ところでさ、俺の転生先ってどうなるの?」
「え?それはついてからのお楽しみかな~?」
「まさかの秘匿だと」
「その方が面白いじゃん?」
「一理ある」
しっかしこの神様とは話が合うな!別れるのが惜しくなってくるぜ。
その後も競馬談義は続き。
「ところでさ、君は見てみたくはないかい?」
「?なにをだよ」
「誰もが到達したことのない偉業というものを」
誰もが到達したことのない偉業ねぇ。日本競馬だとぉ……。
「ありがちだけど凱旋門賞制覇とか?」
割とトレンドだと思うんだよね凱旋門賞制覇。やっぱ夢だからな。
「う~ん、それも悪くない!だけどさ、
「は?そんなのあったか?」
「あるよ」
なんかいや~な笑みを浮かべる神様。何考えてるんだ?
「クラシック五大レースの完全制覇──見てみたくはないかい?」
「……は?いやいやいや」
クラシック五大レースの完全制覇て。そんなの夢物語も良いとこだろ。
「レースローテキツキツじゃねぇか!流石に無理だって~!」
桜花賞から皐月賞で連闘、オークスからダービーで連闘だろ?普通に無理無理。てかさっきから猛烈に嫌な予感がするんだけど何?
「でもさ~見たいと思っちゃったんだよね~」
「いやいや、批判がすげぇことになるぜ?ただでさえ連闘なのによ。なにより馬が可哀想じゃん」
「うん、だからさ。君がクラシック五大レースを取るんだよ」
へ~成程、俺がね~……
「ワッツハプン?」
何言ってんだコイツ。
「実はさ、君を馬に転生させようと思ってるんだよね~」
え?嘘だろ?
「それでさ、君にクラシック五大レースを取ってもらおうと思って!」
「待て待て!?俺の意思は!?」
「え?ないよ。だってもう決めちゃったことだし」
テメェこの野郎!
「良いヤツだと思ってたのにとんだ邪神じゃねぇか!ふざけんな!」
「え~?そんなに嫌なの?」
「嫌に決まってんだろ!なまじ知識がある分余計に嫌だわ!」
「う~ん、でも見たいんだよね~」
「じゃあ自分でやれよ!しかもクラシック五大レース制覇ってことは俺の転生先牝馬確定じゃねぇか!?」
TSはTSでも畜生道の方かよ!
「でももう決めちゃったしな~」
「今から変更きかねぇのか!?」
「無理だね。決定事項だから」
「クソが!」
神様と仲良くなったと思ったらとんだ邪神だった件について。いや、まてよ?
「……よしんば負けた場合はどうなる?皐月賞とかオークスとか、五冠のどれかに負けた場合は?」
「その場合はね~」
頼む!どうかペナルティとかありませ「君をミジンコにでも転生させようかな?」クソフ〇ック!
「ふざけんな!前世で俺が何をやったらそんなハードモードになるんだよ!?」
「僕と意気投合したのが運の尽きさ。それに君も言ってただろう?」
「なにをだよ!?」
少なくともクラシック五大レースを制する馬が見たいだとか、そんなことを言った覚えはない!
「ほら、君が死ぬ前だよ。覚えてない?」
俺が死ぬ前?……記憶にねぇな。
「記憶にないが……なんか言ってたか?俺」
まず死因からあやふやなんだよ俺は。自分の死に様なんて聞こうとも思わないけど。
目の前の神様は楽しそうな表情を浮かべているが、こっちは全くもって楽しくない。
「ちょっと待っててね~。え~っと……これだこれだ!それじゃ、レッツ再生!」
言いながら神様は空中にウインドウのようなものを出して、いやこれすげぇな。漫画やアニメでしか見たことないようなもんでてきたぞ。
そこに映っていたのは──俺である。
「うん?これ俺か?」
「そうだよ。君が死ぬ前日くらいの映像かな?」
は~、そんな時のか。
映像の俺はというと。滅茶苦茶酔っぱらってんなコレ。多分飲み会帰りか?二次会が終わって家に帰宅して。それでも飲み足りねぇから飲んでってコイツ酒飲み過ぎだろ!
《あ~……今日も酒がうめぇ》
まさかの声付きかよ。大分ろれつが怪しいけど。でもなんとなくなんて言ってるのかは分かる。
《にしてもな~。見てみてぇよなぁ!クラシック五冠馬》
は?何言ってんだコイツ?
《ローテ的に厳しいけどよ~いけなくもねぇと思うんだよ!みてぇな~、クラシック五冠馬!》
何がいけなくもねぇと思うだよ!いけねぇよバカ!何考えてんだテメェ!
その後も延々とこういうのが見たいだのこの馬が良いだのやっぱこのレースは最高だの……そんなことを1人で喋ってる酔っ払いの映像が流れて終わった。なんだこの悲しい映像は。
神様は満足げにウインドウを閉じて。
「どう、分かった?」
「酔っ払いの言葉を真に受けてんじゃねぇよテメェは!?」
こんなもんが参考になるか!絶対冗談で言っただけだよこの時の俺!
「いや~、君が死んだ時にこの映像を見たんだけどさ、面白いと思ったね!まさかこんなバ、面白い人がいたとは!」
「お前今バカって言いかけただろ」
なお神様は俺の発言を無視である。つーか随分楽しそうだな。
「これを聞いてさ、僕も見たいと思ったんだよ。日本のクラシック五大レースを全て制する競走馬をさ」
……え~っと、つまり?
俺が酔っ払ってクラシック五冠馬が見たいとのたまう
→それを神様が知る
→神様も見たいと思う
→俺と神様意気投合
→神様五冠馬見たさに俺を牝馬に転生させようとする
→そして今ここ
というわけか?
もしかして神様的には、俺が願ったと思ってるからやってる?もしかして善意の可能性?
「……いやそれでも酔っ払いの言葉を真に受けるのはおかしいだろ!?ちょっと待って、頼むから待って!」
「待たないよ~。だって僕も見たいって思っちゃったし。恨むなら軽率な発言をした自分を恨んでね!」
馬鹿野郎酒を飲んだ俺!何言ってんだよ本当に!
「あ、安心してね。その代わり君の才能は高めに設定するからさ!良かったね!」
「微塵も嬉しくねぇよバカ!」
てか話している間にも意識が遠のいて──
「それじゃ頑張ってね~僕もすぐそっちに行くからさ」
最期の言葉は聞こえなかったが。
(覚えてろよテメェェェェェ!)
あの邪神いつかぜってー蹴り飛ばしてやる!
◇
日本のどこかにある生産牧場。
「大変だ!月海が産気づいた!」
「なんだって!?すぐに準備するぞ!」
深夜の時間に産気づいた母馬。その出産を手助けするべく牧場のスタッフ達は急いで準備を進める。
馬房では先に来ていたスタッフ達は母馬の名前──月海という名を呼んで必死に励ましている。だが、月海の様子は芳しくない。
馬の出産は何度も見てきたスタッフ達だ。だからこそ分かっている。月海の状況は……かなり不味いと。
「月海の容態が良くない。このままだと母子ともに危険だぞ!」
「最悪月海だけでも!」
子を諦めようと獣医が準備を進めるが。
「ッ!」
「こら!暴れるな月海!」
「クソっ、これじゃ近づけない……!」
月海は激しく暴れまわりそれを拒否。スタッフ達は困り果て、2人の男は難しい表情を浮かべる。
「どうしますか?五十嵐さん」
「……」
五十嵐と呼ばれた男は月海の目をジッと見る。月海の目からは、なんとしてでも子を産むという執念にも似たなにかを五十嵐は感じ取った。
その目を見て、五十嵐は腹を括る。
「……出産だ。だが、なんとしてでも母子ともに生かすぞ!」
「「「はい!」」」
スタッフ達の尽力により仔馬の出産に成功するものの。
「……先生、月海の方は?」
「まだ、予断を許さない状況です。経過をしっかりと見ていく必要があるでしょう」
母・月海の方はぐったりと倒れ込んでいる。幸い呼吸はしているが、それでもいつその命の灯火が消えるか分からない状況だった。ここから先は月海の精神力にかけるしかない、スタッフ達も月海の側で必死に彼女の名前を呼んで励ましていた。
無論、仔馬の方も目を離さない。生まれたばかりの仔馬を放置するわけにはいかない。2つのグループに分かれて担当する。2頭とも生かすために。
そんな中、仔馬の方についていたスタッフ達が声を上げる。
「……?ん、おい。月海の子が!」
「どうした……え?」
驚いたスタッフの声につられてその場にいる全員が仔馬の方を見る。仔馬は──立ち上がろうとしていた。
「おいおい、まだ10分も経ってねぇぞ!?」
「頑張れ、頑張れ!もう少しだ!」
しばらく様子を見守ると──その仔馬は立った。
雪が溶け始めている3月21日。牧場のスタッフ達が見守る中、月海の子が誕生した。
それから少し月日が経って。
「あれから月海も回復してくれたようで何よりだな」
「はい。仔馬と一緒に、元気に走り回っています」
あれから月海の容態は奇跡的な回復を見せた。数日はスタッフによる厳戒態勢を敷いており、些細な異変も見逃さないようにしていたが、峠を越えてからは体調も少しずつ元に戻り。今はもう月海はすっかり体力を回復した。牧場で仔馬と一緒に元気に過ごしている。
「生まれてすぐに母親と死別になんてならなくてよかったよ。仔馬があまりにも可哀想だ」
「そうですね。その仔馬は」
五十嵐と獣医が見つめる先。その先には月海と月海の子がいた。
「黒鹿毛、いやそれよりも黒い青鹿毛、青毛か?なんにしても珍しい」
「月海と似たような毛色ですよね。果たしてどうなるのか……」
「何にしても、あの血統は残さねばなるまい。競走馬として大成しなくてもな」
優しい目で月海の子を眺める五十嵐と獣医。
「凄まじい血統ですよね。月海の父は、あのセントライト」
「そしてあの仔馬の父はシンザン。日本の三冠馬二頭を血統に持つあの子は、果たしてどうなるのか」
「競走馬としてデビューできなくても、せめて繁殖牝馬として……ですかね」
「あぁ、そうだな」
日本の三冠馬二頭の血を持つ月海の子の行く末を案じる五十嵐。視線の先では、月海の子が佇んでいた。
◇
おい、マジか?今あの人達の会話盗み聞きしてたけどマジのことか?
『オイイイィィィ!?俺の血統とんでもねぇことになってんじゃねぇぇぇかぁぁぁ!』
何?あの人達の話によると俺の父は
あ、どうも。あのクソ神によって転生させられた元男、現・牝馬です。これはもう股を確認済みだ。息子なかったよ……。
いやはや、それにしても。
(俺の母親生きててよかった本当に)
生まれて最初に目にするのが母親の亡骸とかハードモード過ぎる。いや、もうハードモード確定してんだけどさ。これも全部あのクソ神のせいだ!後酔っぱらってた俺!
とりあえずやるべきことはたくさんだが──なんにせよ。
『ぜってぇ勝ち抜いてやるッ!来世がミジンコにならないように!』
そんな決意とともに、俺の馬生は始まった。
果たしてどの年代に転生したのやら。
主人公(まだ名前なし)
父:シンザン
母:月海(オリジナルの架空馬)
母父:セントライト
毛色:青毛