俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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保茂視点でござい。


僕と夢と理由

 神様というのは存外退屈だ。時間という概念がないし、暇をつぶせるようなものもない。人間はよく社会の歯車って言うけど、こっちはそのスケールアップ版。世界の歯車みたいなものだ。だからまぁ、興味を持てるものを探し始める。人間の娯楽は結構人気だったりする。

 その中でも僕が興味を持ったのは人間の娯楽の1つ、競馬というものだ。

 最初はただの興味本位。仕事の息抜き程度に見るだけだった。ただ見れば見るほど嵌っていって、気がついたら古今東西あらゆるレースを見るようになるんだから分からないもんだよね。

 

「今年のレースも良いな~。一強も悪くないけど、ライバル対決というのもまた乙なものだ」

 

 人間界の映像を流しながら仕事をすることもあった。仕事はするから部下から怒られたりはしなかったけどね。鋭い目では見られたけど。

 ただ見ているだけで満足していた僕だった。だけど、次第に見るだけじゃ満足できなくなってきた。それは多分、人間達の営みが原因だと思う。

 人は良く夢だとか願いだとか、様々な目標を立てて前へ進む。途中挫折することもあるけど、誰もが夢を抱いたことがあるだろう。自分達にはないものだった。

 無論競馬の世界にもそれは存在する。分かりやすい例ならばクラシック三冠、世界最高峰の舞台で1着を取ることなんかが挙げられる。

 だけど、それだけじゃない。1つのレースに執着してそのレースを制することを目標にすることもあれば、果てしない大偉業を目標に据えることもある。無謀な挑戦と揶揄されようと、それでも挑戦してきた人馬達の物語があった。

 

「いいな……」

 

 思わず口からそう漏れ出るくらいには、僕は人間達が羨ましかった。自分にはないものだったから。

 僕は夢や願いというものを持たない。大抵のことは叶えられるし、なんだってできる。だからこそ、本質的なものは理解できないでいた。

 そして次第に思ったんだ。自分も──彼らのようになってみたいと。

 

「だけどさすがに馬はな~。買われなかったら即終了だし」

 

 それにどうせやるなら馬主がしたい。人間界の有名な人達にお近づきになりたいからね。だから馬よりも馬主になってみたい。

 でも1人でやるには……そんな風に思っていた。他の神や部下を誘ってもやってくれないだろうし、むしろ僕の方がバカバカしいと切り捨てられて終わりだ。わざわざ神の地位を捨てて人間になるなんてね。すぐに戻れるんだし良いと思うんだけどな~。

 人間を転生させるにしても、どうせならとびっきりのバカが良い。クラシック三冠や日本調教馬による凱旋門賞制覇も構わないが、それ以上に()()()()()()()()()()()()()……そんな人間に出会えたらと。なんとな~く思っていた。

 

「そんな都合よくいるわけないよね~……?」

 

 そんな中偶然目に留まった、とある映像。1人の男性が飲んだくれている映像だった。

 ふと気になって映像を見る。映像の男性は、とんでもないことを口走っていた。

 

《……にしてもな~。見てみてぇよなぁ!クラシック五冠馬》

「え?何言ってんのコイツ?」

 

 思わずそう口から漏れ出た。いやいや、いくらなんでもねぇ?

 でも気になってその後の映像を見ていると、彼もまた競馬好きというのが分かった。そして、()()()()()()()()()()()とも。

 彼はバカげた夢を持っていた。クラシック五冠という、世界で誰も成し遂げたことのない偉業を口走るぐらいには。その姿勢を面白いと思ったし、何より僕の目的に合致している。コイツと組んだら楽しそうだ、というのが思ったこと。

 気が合いそうで、バカげた夢を持っていて。どうせやるならコイツとやってみたいと思えるぐらいにはまぁ気に入ったよね。

 

「ま、彼まだ若そうだしそんな都合よく死なな《キキー!ドンッ!》嘘でしょ」

 

 酒飲んで酔いつぶれた次の日に事故に遭って死んじゃったんですけど彼。待って欲しい、僕は何もやっていない。何も手を加えてないのに彼死んじゃったんですけど。

 いやいや、そんな偶然ある?そりゃつるんだら楽しそうだな~と思ったけどそんな偶然ある?神様が仕組んだとしか思えないんだけど。神は僕だったわ。

 ……とりあえずこっちに呼ぼう!きっと気が合うはずだ!

 

 

 というわけで死んだ彼と話してみたのだが……ま~気が合ったね!お互いに競馬談義で大盛り上がりさ!

 

「三冠も良いけどさ、三頭でクラシックを分け合うってのも良いよね~本当」

「分かる、スゲェ分かる!BNWも良いし覇王世代も良い!やっぱそこにはドラマがあるよな!」

 

 本当に彼とは気が合った。ま、最終的には邪神扱いされたけどね。牝馬に転生させるわけだから当たり前か。

 

 

 そして彼を転生させた後、僕も準備を始めた。

 

「ほ、本当に行くのですか?」

 

 部下の1人が心配そうに声をかけてくる。心配してくれているところ悪いけど、僕はワクワクしているんだ。

 

「まぁね。ちょっくらいってくるよ」

「……どうかご無事で」

 

 こうして僕も人間として転生。そこからもま~色々とあったけど……今は良いか。とにかく色々とあった。会社の立ち上げとか月海との出会いとか。

 

 

 それから月日が流れて。ようやくと彼と巡り会えた。

 

「保茂さん、あの牝馬のことなんですけど……」

 

 僕が出資している牧場のオーナーと僕の視線の先には一頭の牝馬。群れから離れて、ただ一頭黙々と走っている姿に僕は目が釘付けになる。

 青毛の綺麗な馬体。これからの成長が楽しみだという期待。そして何より──()()()()()()()()()()()()()

 

(あぁ、成程。()()()()()()()

 

 五十嵐さんは必死になって僕を説得しようとしている。そんなことしなくても大丈夫なのにね。

 

「……それでなんですけど、保茂さんにあの牝馬を是非「ひとまずあの子のところに行かないかい?」え?い、今何と?」

「ちょっとあの子をもう少し近くで見たくてさ。構わないかい?」

 

 一瞬呆けた表情をする五十嵐さん。だけど次の瞬間には喜色満面の表情になった。

 そしてあの子──ここでは三姫と呼ばれている子のとこへと向かう。うんうん、良い顔立ちだ。美人さんだね。

 ただ僕のことを警戒しているね。そりゃそうか、あの時と今の僕は見た目違うから。

 五十嵐さんが気が立っている三姫を宥めている。その間も僕の興味は尽きなかった。

 

(なるほどね。今からでもやれることをやっておこう、ってとこかな?)

 

 五十嵐さんから大体の概要は聞いている。曰く、三姫は放牧中ずっと走り回っているのだと。

 しかも、牡馬であろうとなんだろうとちょっかいをかけた相手は滅茶苦茶追い掛け回すらしい。普通なら気の強い子で済むんだけど……()のことだ。これもトレーニングの一環だろう。

 その後僕は三姫を購入。価格は……450万。

 目の前の三姫はとても喜んでいる。

 

『やったやった!これで俺もデビューだ!』

 

 凄く嬉しそうだ。うんうん、こっちも嬉しくなってくるね。

 その後は三姫もとい彼と会話。僕と会話できることに凄く驚いていた。そりゃ驚くか。とはいっても、僕が話せるのは三姫だけなんだけど。

 再会後は蹴られそうになったけど、まぁいいや。それだけのことをしたって自覚はあるし。

 

 

 ぶっちゃけて言うと、僕らがやろうとしていることはバカげた夢だ。叶うはずのない理想、無謀な挑戦。そう揶揄されても仕方のないこと。

 だけど、僕もライザンちゃんも大真面目でやろうとしている。ライザンちゃんに関してはちょっと脅迫が入ってるけど、それでも真面目にやっているんだから僕と変わらないだろう。口では悪態つきつつも、なんだかんだ努力してるしね。

 その先には何があるんだろう?達成した時どうなるんだろう?そう考えると……今までの苦労もこれからの苦労も気にならなかった。僕も大分人間に染まってきたかもしれない。

 

「ねぇライザンちゃん」

『あん?どうしたよクソ神』

 

 何度目か忘れちゃった定例会議。ライザンちゃんの馬房で僕は問いかける。

 

「バカみたいな夢だからこそ、叶えた時の快感が凄いよね」

『どうしたよ藪から棒に。ま、同感だ』

 

 ライザンちゃんも同意見らしい。うんうん、やっぱそうだよね。

 

『ま、クラシック五冠はバカの度を越してるけどな』

「言えてるね~」

『お前が俺にやらせようとしてることだよ!』

 

 おっと、抗議するように馬房の柵に頭を押し付けてるね。

 

『……ま、出来る出来ない以前にやってみなきゃな。そのために今も頑張ってるわけだし』

「僕も猛田さん達を説得しなきゃだね~。最悪土下座も辞さない覚悟」

『マジで頼むぞクソ神!』

 

 必死に頼み込むけど、言われなくてもやるよ。

 

「クラシック五冠は僕らの夢だからね!」

『何良い感じに締めてんだテメェ!俺の場合ほぼ脅迫だろ!』

「ん~?でも君は見たくないのかな?クラシック五冠」

『超見たい!』

 

 やっぱり彼も見たいようだ。そりゃ達成したら凄いことだからね。

 

「悪態はついてもやっぱり見たいんだね~ライザンちゃん」

『そりゃそうだろ。こんな偉業、成し遂げられたらすげぇことだからな!だからこそ、こうして頑張っているわけだし!』

「うんうん、僕は嬉しいよ。脅迫みたいな形になったのは謝るけど」

『それに関してはマジで反省してくれ。いや、ぶっちゃけもうそこまで気にしてないけど』

 

 そんな感じで、僕らの定例会議は終わる。そろそろ年明け……ついにクラシック戦線の開幕だ。




なんだかんだ仲が良い奴らである。
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