俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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俺と目的と二度目の関東

 ついに年が明けて、俺も4歳になった。これが意味することは何か?

 そう、俺にとって来世を占うことになる大事な大事な年になったということだ!

 

『今から先のことを考えただけで腹が……ッ!』

「そんなこと考えるからだよ」

 

 クソ神からの真っ当なツッコミを受けながらも、作戦会議をする俺達である。

 

 

 まずは俺の次走である東京の4歳牝馬ステークス。あのタマミとの対決の場だ。ここでどうするか?が焦点になる。

 ぶっちゃけ最初は実力を測りに行くという意味合いが強かったが……今後のことを考えるとちょっとまずいかもしれない、と俺は考えた。

 

『タマミって確かスタートが滅茶苦茶早かったんだろ?』

「後世にテンが速いって伝わるぐらいだし、そうだろうね」

『つまりはまぁ、()()()()()()()()()()()ってこったな』

 

 スタートダッシュの速さ比べなら負ける気はしねぇ。こちとらスタートで遅れたことはねぇんだからな。

 ただ問題は、今まで通りのレースをしていたら桜花賞で苦労する、ということだ。

 俺は今のところ王道の勝ちパターンでレースを展開する。逃げ馬を見て、周りに流されずただ自分のペースを守って走り、最後の直線でポンと抜け出して勝つというパターン。単純故に強く、単純故に崩しにくい。これを止める気はないし、何より合っているから止める理由がない。

 だが、4歳牝馬ステークスのタマミ相手となるとこのままではまずい、というのが俺の見解。理由は逃げさせて勢いづかせたら桜花賞での苦戦は必至だから。

 桜花賞で苦戦すると皐月賞が苦しくなる。それだけは絶対に避けねばならん。できるだけ万全の状態でアローエクスプレスとタニノムーティエとは対戦したい。

 

『だから、次のレースは勝ち方が重要になってくると思うんだわ』

「そうだねぇ。タマミに逃げさせて勝ち星を逃すのは論外。かといって、先行策からの好位抜け出しも得策とは言えない。陣営が一度の敗北で作戦を変えるとは思えないからね」

 

 確か、タマミを逃げさせた理由は先行のスタイルが合わなかったから、なんて話もあったはずだ。実際のところは知らんが、とにかくタマミは逃げ馬だということ。

 なので、俺達が取るべき作戦というのは……ただ1つ。

 

『「逃げでタマミに勝つ」』

 

 おっと、やっぱクソ神もそう思っていたか。やっぱ気が合うわ本当。

 タマミは逃げ馬だ。連敗後に年末のレースを逃げで快勝したことから陣営はそう判断している。この頃にはすでにスタイルを確立させているはずだ。

 そんな相手に逃げさせて勝たせたらどうなるか?勿論桜花賞だって逃げで来る。そうなるとちょいとばっかし苦労する。これが一番避けたい事態。

 先行策の好位抜け出し。いつものスタイルで勝つのはまぁ悪くないだろう。だが、すでに吹っ切れているであろう陣営が今更先行のスタイルに戻すとは到底思えん。桜花賞だって同じ逃げで来るはずだ。なのでこれも論外。

 ではタマミに逃げで勝つ。こうすると、陣営が取るであろう選択肢は2つに絞れる。

 陣営はタマミの逃げに自信を持っている。そのタマミが逃げで敗れたとなると、どうしても不安になるだろう。このままで大丈夫か?作戦は合っているか?そんな不安が頭をよぎるはずだ。

 

『不安はそう簡単に払拭できるもんじゃねぇ。次俺と戦う時に取るであろう選択肢は2つ。1つはそれでも逃げのスタイルを貫くこと』

「そしてもう一つは──大逃げ。なにがなんでもライザンちゃんよりも前に行く、というスタイルで来るかのどっちかだね」

 

 個人的な見解だが、後者の方が取る確率が高い。やっぱり一度敗れたイメージというものは簡単にはぬぐえないだろうからな。俺が競りかければ、相手は多少無茶をしてでも競り合うだろう。そうなると、取れる策は増えるってもんだ。

 桜花賞からのローテと今のローテを比べると、今のローテの方が断然余裕がある。次走はまだ決まってないし、何より1週間後にレースがないことは確定している。後のことを考える必要はないってことだ。

 なお、この作戦最大の問題点。

 

『ま、この作戦……俺が勝たなきゃ全部破綻するんだけどな!』

「そりゃそうでしょ。というか、逃げでタマミに負けようもんなら完全に打つ手なしじゃん」

 

 そうなんだよなぁ!?コレ、俺が勝たなきゃ意味ねぇんだよなぁ!

 ぶっちゃけ、自信がないかって言われたら勝つ自信はあるよ?だけど現時点のタマミの実力なんて分からないわけで……やっぱり不安になるんですよ!あ、ヤバい。体調が……!

 そんな不安を抱える中、保茂の声が聞こえる。どことなく安心させるような、落ち着かせるような声だ。

 

「だ~いじょうぶだってライザンちゃん。いつもトレーニング頑張ってるでしょ?」

『そ、それはそうだが……心配なもんは心配なんだよっ』

「本当に変わらないね~」

 

 保茂の呆れたような言葉を聞きながら、東京競馬場開催の4歳牝馬ステークスは近づいてきていた。

 

 

 

 

 

 

 迎えた4歳牝馬ステークス。カミノライザンの調子はというと──特に問題はなかった。

 

《4歳を迎えた牝馬達が東京競馬場に集いました。芝の1400m、絶好の良馬場日和です。本レースの一番人気はこの馬を置いて他にはいないでしょう。関西の二大巨頭の一角カミノライザン!カミノライザンがまたも関東に殴り込み!しかしこの馬の実力は高く評価されています、それゆえの一番人気。鞍上は富永紘一騎手が手綱を握ります。斤量は54kg、しかしさほど問題にはしていません。輸送による影響も、ほとんどないといっても良いでしょう。2番人気は……》

 

 輸送による影響は多少あるがレースに支障はない。東京競馬場に集った観客達はカミノライザンの馬体に惚れ惚れとしていた。

 

「でっけぇ~……すげぇ馬体だな」

「それでいて、見栄えも凄く良いからな。こりゃ買いだろ」

「い、いや!カミノライザンは関西の馬だ!俺は関東の馬を買うぞ!」

 

 高く評価されるカミノライザン。非常に落ち着いた様子で返し馬を済ませていた。

 

 

 返しを済ませた馬達がパドックへと入っていく。カミノライザンの枠番は3枠3番。内枠だ。タマミの枠番は1枠1番、最内枠である。

 カミノライザンの鞍上である富永は気持ちを落ち着けていた。

 

(京都3歳ステークスは俺の邪魔が入ったせいで負けてしまった……カミノライザンの能力は凄く高い。それに賢い。だから、学ばせてもらうんだ!)

 

 そう誓って、ゲートへと入る。カミノライザンはすんなりとゲートに入り、ゲートの中でも非常に落ち着いた様子をみせていた。観客もこのカミノライザンの様子に安心感を覚える。

 全ての馬がゲートに収まる。少しの沈黙の後、ゲートが開いて一斉に飛び出した。

 まず最初に飛び出したのは最内枠のタマミ。そして──3枠のカミノライザンである。

 

《始まりました4歳牝馬の戦い!まず最初に飛び出したのはタマミと……おっと、これは珍しいカミノライザン!タマミとカミノライザンが絶好のスタートを切ってハナを取ろうとしています!テン良しの2頭、ほぼ同じタイミングでのスタートとなりました!他の馬は前の2頭を見る形でレースを展開するようだ。タマミとカミノライザンによる叩き合い、果たしてどちらがハナを取るか?注目の一戦です!》

 

 観客は驚きの声を上げる。前回カミノライザンが関東遠征に来た時は先行策だった。それが今回はタマミに競り合う形での逃げを取っている。

 

「タマミを警戒しているのか?」

「騎手は──抑えようとしてる?もしかして掛かってるのか?」

「なにやってんだ富永ー!しっかり手綱握れー!」

 

 不安半分、期待半分といった様子の観客。カミノライザンはタマミととことん競り合う形を取っていた。

 だが、首を傾げる者もいる。調教師である猛田だ。

 猛田は困惑していた。今まで取ったことのないカミノライザンの逃げに。

 まさか掛かっているのか?暴走しているのか?そう思った猛田は気が気でなかった。だが冷静にレースを俯瞰していると見えてくるものがある。

 

(暴走、っちゅうよりは……タマミをマークしとるな、あれは)

 

 タマミが下がれば、カミノライザンも下がる。タマミが上がれば、それと同じようにカミノライザンも上がる。タマミの動きに合わせるようにカミノライザンはレースを展開している。冷静に駆け引きをしていた。

 後ろでマークするのではなく、横でマークをする。掛かっているわけではないなら、問題はないだろう。

 

 

 鞍上の富永も、最初は戸惑っていた。

 

(ッ!?いつもの位置よりもずっと前、ここは逃げの位置だ!まさか、掛かっているのか!?)

 

 そう感じた富永は手綱を抑えようとする──その刹那。

 思い出す。京都3歳ステークスの一件を。

 自分が無理に抑えたせいで負けてしまった。カミノライザンは賢い。仕掛けどころが自分で分かっているぐらいには。

 ならばと。この逃げにもきっと意味があるはずだ。富永はそう判断し……手綱を緩める。カミノライザンの動き出しに合わせることに神経を集中させていた。

 

(危ない危ない……レース前に誓っただろ。この行動にだってきっと意味があるはずだ。だから俺は、カミノライザンを信じる!)

 

 タマミと競り合う展開。不思議と富永は、()()()()()()()()()()

 

 

 タマミとカミノライザンがレースを引っ張る。かなり速いペースでレースは流れていた。

 

《第3コーナーを回って第4コーナーに入ります。先頭は依然としてタマミとカミノライザンが競り合う形!スタートからずっと、この2頭が引っ張る形です!他の馬は3馬身から先に近寄れない!後続の馬は誰が最初に仕掛けるか?そしてどこで仕掛けるかが焦点となります!逃げ馬2頭の争いに割り込む馬はいるのでしょうか!?タマミとカミノライザンの激しい競り合いは続きます!》

 

 内のタマミと外のカミノライザン。カミノライザンはタマミにピッタリとつけている。

 しかし、有利なのはタマミだろう。内を走っている分、カミノライザンよりも距離のロスがない。これは明確に有利な点だ。

 第4コーナーを回って最後の直線。最初に入ってきたのはやはり先頭を走る2頭。

 

「いけータマミー!関西の馬にデカい顔をさせるなー!」

「差せー!差せー!」

「競り勝てー!」

 

 後続の馬達も上がり始める。そんな馬達の目の前に立ちはだかる、東京競馬場の坂。

 タマミは問題なく駆け上がる。カミノライザンは──()()()()()()()()()()()

 坂を上り切ればゴールはもうすぐだ。実況の声にも熱が入る。

 

《さぁ各馬一斉に坂を駆け上がる!東京競馬場の坂を駆け上がる!関西のカミノライザンも全く苦にせず上っています!関西の馬が苦戦するこの坂を!カミノライザンは容易く上っている!そして坂を上り終わって後は突き進むだけ!先頭は依然としてタマミとカミノライザン!逃げて逃げてこの2頭!後続はその差がようやく縮まろうかとしているところ!タマミとカミノライザンの競り合い!関西か!関東か!?どちらに軍配が上がるのか!》

 

 お互いに一歩も譲らない競り合い。

 タマミは必死に逃げているだろう。だが観客の目には、カミノライザンが──どこか余力があるように見えた。

 

《タマミとカミノライザン全く譲りません!ハーパーゲイムが伸びてくる。2番人気のハーパーゲイムが伸びてくる!ブリーズターフも突っ込んできた!しかしこの2頭に割り込めるかどうか!?カミノライザンとタマミ両者一歩も譲らずがっぷり四つ!どちらが勝っても全くおかしくない!タマミか!カミノライザンか!?どっちが伸びてくるか!それともハーパーゲイム以下他の馬が差し切るか!》

 

 残り100を切ったレース。その時だった。

 

「あ」

 

 誰かの気の抜けたような声が聞こえる。声にこそ出さないが、大多数の観客が同じ感情を抱いただろう。

 レースの最初から終始タマミと競り合っていたカミノライザン。そのカミノライザンが──残り100mでポン、と抜け出して。クビ差でレースを制した。

 

《カミノライザン!カミノライザンだ!カミノライザンが残り100mでポンっと抜け出したゴールイン!東京競馬場、4歳牝馬ステークスを制したのはカミノライザンです!関西の女王が並み居る関東の牝馬を蹴散らして!このレースを制しました!トップハンデも問題なし!これが女王の強さだ!今年のクラシックに期待が高まります!》

 

 紙吹雪と歓声が沸き上がる東京競馬場。カミノライザンはいつものように、レースが終わればすぐに走るのを止めて堂々と佇んでいた。

 

「凄い雰囲気だ……!あの馬はモノが違う!」

「タマミも頑張ったんだけどな~。これはカミノライザンが強かった」

「クッソ~!ダメだったか~!」

 

 喜び、悔しさ、祝福。多種多様な声が、東京競馬場で上がっていた。




無事に勝てて一安心しているだろう主人公。
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