俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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質問タイムのライザン視点。予約投稿するつもりが間違えてそのまま投稿しちゃった。


俺と心境と挑戦

 いつものように馬房で寛いでいると、足音が聞こえてきた。

 

(うん?餌までまだ時間はあったはずだが)

 

 そうは思いつつも気になるので顔を出す。そん時に見えたのはトミー達だった。

 猛田さん、粟田さん、トミー。3人が揃って俺の馬房へと一直線に向かってきた。ていうかトミーはなんか紙みたいなもんを持ってる。なんだそりゃ?

 

「休んでるとこすまんな姫。よ~しよし」

 

 猛田さんに撫でられる。あ~そこそこ。そこ良い感じ。

 んでもって、お三方は何故こんなところに?いや、トレーニングもなけりゃ餌でもないから純粋に気になるんだが。

 

「よし、じゃあ早速やってみましょう」

 

 トミーが紙をこちらに見せてきて……なんだこりゃ?【はい】と【いいえ】って書かれてんな。なんぞこれ?

 匂い……別になんもないな。特に何もなさそう。本当にただの紙?

 するとトミーは俺に話しかけてきた。

 

「いいかい?ライザン。今から君に質問する。もし大丈夫ならこの【はい】の紙を、ダメなら【いいえ】の紙を咥えてくれないか?」

 

 あ、成程。そういうことね。その紙を使って俺と意思疎通をしようと図ってるわけか……え?なんで?ガチ目に疑問なんだけど。

 というか、傍から見たら馬に芸でも仕込もうとしてるんじゃないか?って景色だな。とりあえずはいと書かれた紙を咥えるけどさ。質問には答えるし。

 トミーは嬉しそう。猛田さんと粟田さんはすっげぇ微妙な表情してるけど。いや、これあの2人は内心何やってんだ俺達って思ってるだろ。

 というわけでの質問タイム。トミーからの質問は簡単なものから始まった。走るのは好き?とか馬は嫌い?とか凄い単純な質問。

 走るのは好きだからはいの紙を、馬が嫌いというわけじゃないからいいえの紙を咥える。後はレースとかのことも聞かれたな。レースも好きだしはいを咥える。

 

「たくさんの人がいる場所で走るのは緊張する?」

 

 その状況が緊張するというか……期待されるのが原因な訳でして。一応合ってはいるからはいだな。

 

「……刈谷さんは嫌い?」

 

 ノーコメントで。

 いや、別に嫌いとかそういうわけじゃないよ?でもアイツ、事あるごとに俺の食いっぷりを指摘してくるんだぞ?牡馬よりも食ってるとかその内ここの飼葉全部食いそうとか!だからノーコメント。紙は咥えない。

 

「……ちなみに俺のことは好きかい?」

 

 はいに決まってるよなぁ!?誰もが認めた天才騎手だぞ?そりゃ好きに決まっとるわ!がっつかんばかりの勢いではいの紙を咥えるわ!

 

「刈谷が憐れやな」

 

 知らん。世話になっていることは確かだが人のことを大飯食らい扱いするのは許さん。実際大飯食らいだけど。

 ちなみに猛田と粟田さんも好き?と聞かれたのではいの紙を咥えた。この2人もお世話になってるしな。おかげで余計刈谷さんが憐れになってしまったが。

 んで、順調に答えていると。なんだか真面目な雰囲気になった。ということは……ここから本命ってことか?

 

(今までのは小手調べってことか)

 

 ここから質問されていったのはレースのこと。人がたくさんいる場所で走るのが嫌い?とか短い間隔で走ることとか。トレーニングに関しては……好きでも嫌いでもないな。なんというか、すでに慣れたもんだから。気にしたことがない。

 ただ疲れることは嫌だよ?そりゃあね、できるなら楽したいという気持ちもあるわけだ。そうはいかないのが難しいところ。

 そして飛んできた質問は──おそらくだが、連闘に関する質問だ。

 

「……これからもし、ライザンが凄く短い間隔でレースを走ることになったら。大きなレースを、凄く短い間隔で走ることになったら。きっとライザンはとても疲れると思う」

 

 そりゃそうよ。はいの紙を咥えた……が、よく考えたらこれ質問じゃねぇな。早とちりしちまった。

 

「もし、もしそんなことになったら──ライザンは嫌かい?」

 

 連闘になったら嫌か、ねぇ。

 まぁ好きか嫌いかで言われたらあんま好きじゃないよ。疲れるし。でも俺はやらなきゃいけねぇんだよ──クラシック五冠。

 

(やらなきゃマジで地獄を見ることになるからな!)

 

 ここは迷わずいいえよ!連闘、バッチコイ!

 後は単純に、連闘でも問題なくこなせる気がするし。実際初の連闘はこなせた。関西から関東だったのにこなせたからな。これから先の連闘も大丈夫って保証はどこにもないけど。

 その後も本当に大丈夫かの確認だけど……いや、確認し過ぎだろ!?どんだけ確認する気だオイ!

 ただ、ようやく質問も終わり。というか本当になんだったんだ?コレ。何の意味があるん?

 

(連闘だのなんだの……どういうこっちゃね?)

 

 さっぱり分からん。ここは1つ、猛田御大の言葉を待ちますかい!

 神妙な顔の猛田さん。さぁ、結果はいかに!?

 

「……さ~て、えぇ暇つぶしにはなったんとちゃう?」

「そうですね。さ、仕事に戻りましょうか」

「ですよね~……」

 

 ……ただの暇つぶしかい!なんだったんだよこの時間はよぉ!

 憤る俺だがトミーに撫でられて一気にその気持ちは吹っ飛んだ。我ながら単純である。

 

 

 

 

 

 

 カミノライザンの馬房を訪れた保茂。ただその前に、猛田から話がある、と言われて別の場所へと移動していた。

 保茂の様子は良く分からない、といった表情。わけも聞かされず来たのだから当然かもしれない。

 

「それで、僕に何の用かな?猛田さん」

 

 保茂の飄々とした態度。猛田は保茂を睨みつける。

 ただ事ではないな、と思った保茂は飄々とした態度を崩した。お互いの間に流れる空気は一触即発。いつ爆発してもおかしくないような雰囲気だった。

 緊迫した空気の中、猛田が口を開く。

 

「……聞かせろ。カミノライザンのクラシック五冠の件──本気なんやな?

 

 返答次第ではただじゃおかない、そんな雰囲気すら感じさせる威圧感。並の人間が対峙したら怖気づいてしまう程のプレッシャーだった。

 そんな威圧感を受けても、保茂は恐れなかった。ただ淡々と、自らの考えを告げる。

 

「何度でも言おう──本気だよ。僕は本気で、ライザンちゃんならクラシック五冠に届きうると思っている」

 

 保茂の瞳からは嘘は感じられない。本気でそう思っている目だ。

 

「到達したことのない偉業、バカげた夢、理解できない理想……そんなことは百も承知さ」

「……それが分かっとるのに、なんで挑もうと思うんや?」

簡単(シンプル)な答えさ」

 

 保茂は、()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?バカげた夢の先にある景色を、誰も見たことがない景色を……僕は共有したいのさ」

 

 思わず毒気を抜かれそうな猛田。だが、そうしないように気をつける。

 

「姫のこと、ちゃんと考えとるんか?」

「考えているさ。考えた上で、ライザンちゃんなら実現可能だと思っている。心の底からね」

「他んことは?」

「勿論信頼してるさ。猛田さん達の手腕、富永君の実力……全部信頼しているとも」

 

 保茂は嘘偽りなく答える。本当に心の底から、思っていた。

 猛田は目をつむる。長い長い時間が流れているように感じられた。

 しばらくして、猛田は目を開けて再度保茂を見つめる。

 

「ええか?保茂さん。クラシック五冠なんてバカげた夢や。誰も挑戦しようと思わんやろな」

「知っているさ。だからこそ挑みたい」

「ローテも厳しいなんてもんやない。調整で連闘するんやったらともかく、全部勝つ気で、しかも日本でも最高峰のレースを連闘するわけやからな。プレッシャーかて半端やないで」

「それも知っているとも。そして、()()()()()()()()()()()()()()

 

 猛田は続ける。

 

「世間からの批判も……ま~えらいことになるやろな。ただでさえ姫は人気や。そんな姫にアホみたいなローテ挑ませるわけやからな」

「う~ん、耳が痛いねぇ。でも、()()()()()

「そか。……そっか」

 

 猛田は保茂の言葉を噛みしめるように、そう呟いた。

 保茂の気持ちは伝わってきた。彼は……やはり本気でクラシック五冠を狙っていると。改めて猛田は実感することができた。

 なら、やるべきことは1つだ。

 

「……保茂さん」

「なんだい?猛田さん」

 

 猛田は、先程まで張りつめていた空気を解いて。表情も崩して、朗らかな笑みを浮かべながら保茂に握手を求めていた。

 

乗らせてもらいますわ、そのバカげた夢。カミノライザンのクラシック五冠の件……受けますわ」

 

 猛田の言葉には、さすがの保茂も驚いた表情を浮かべた。珍しいものが見れた、と猛田は思わず笑いそうになる。

 保茂は頬を掻きながら、遠慮がちに尋ねる。本当にいいのか?と。

 

「猛田さん達の非難も凄いことになるよ?僕がやってくれって言ったんだけどさ」

「ええんですよ。それに……俺も姫やったらできるんやないか?と思うたところですから」

 

 それに、と続ける猛田。猛田達も思っていたのだ。()()()()()()()と。

 

「ホンマに、姫ならどこまでもいけそうな気がするんです。やからこそ、夢を見るんすわ……姫ならホンマにクラシック五冠を達成するんやないかって」

「猛田さん……」

「後、保茂さんが批判されとるのに俺らはそれに突き合わされたかわいそ~な陣営になる気はありませんわ。俺らも保茂さんのバカげた夢に付き合うこと決めたバカですから。俺らも批判される覚悟で行きますわ。俺らも、保茂さんの共犯者やからな」

 

 そう主張する猛田。

 保茂は良く分からない感情を抱いていた。

 

(なんだろう……あったかい?)

 

 少なくとも神様時代では経験したことがないようなもの。ひとまずその感情は隅に置いておき、猛田の言葉に返事をする。

 

「……んじゃま、記者さん達のインタビューに答えようか。先方は気になって気になって仕方ないみたいだからね」

「えらいしつこく質問されましたもんね。こっから先どうなるんやろうな~」

 

 能天気ともいえるような雰囲気でそう会話をする2人。だが2人には、確かな決意があった。

 

 

 

 

 

 

 その日、競馬界に1つの号外が飛び交った。

 

「ご、号外号外!号外だよ~!」

 

 人々は新聞を手に取る。その記事を見ると、全員が驚きを隠せない様子で目を見張っていた。

 

「ま、マジかよ!?あのカミノライザンが!?」

「と、トチ狂ったんじゃねぇのか!?」

「何考えてんだ?」

 

 陣営への不信、ひいては馬主への不信も生まれる。その号外の内容は──

 

 

【猛田厩舎カミノライザン異例の挑戦!?日本競馬史上初のクラシック五冠ローテ!】

 

 そう大きく、書かれていた。




もう後戻りできないねぇ。
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