俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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きさらぎ賞までいきますぞ。


俺と批判ときさらぎ賞

 カミノライザン陣営が発表した前代未聞のローテからそれなりに経って。世間ではかなりの反響を呼んでいた──無論、批判意見が大半だが。

 ローテの無謀さに呆れるもの。

 

「いくら何でも無茶苦茶だろ……何考えてんだ?」

「猛田厩舎ってそんなところだったか?」

「アホくさ。馬主も馬主で何考えとんねん」

 

 ローテの過酷さに怒るもの。

 

「桜花賞から皐月賞って、どっちも制した馬いないだろ?無謀も良いとこじゃん」

「せっかくの逸材も、陣営のアホさで全部台無しやんけ!耄碌したんとちゃうか!?」

「カミノライザンの素質がいくら高くたってなぁ……これは無理だろ」

 

 非現実的な夢、理想だと誰もが一蹴する。

 それは、クラシックに挑もうとしている他陣営も一緒だった。誰もが猛田厩舎の意図に理解できず、憤っていた。

 

「いくら何でも舐めすぎだろ……!俺達のとこの馬なら五冠も余裕って言いたいのか!?」

「カミノライザンの強さに自信を持っているのかは分からんが……舐められてるな。五冠を取れると思っているんだろう」

「……何考えとんねん猛田さん。そない無茶をするような人やないやろ、あんた」

「タマミに1回勝っただけで……!次は絶対に勝つ!こんな発言をする陣営に負けてたまるかッ!」

「戦績的にはウチんとこのムーティエに負けただけ……カミノライザンの能力は一級品やけど、いくらなんぼでも無謀や」

 

 陣営の挑戦に自分のとこの馬が舐められている、と思われていると感じたのだろう。実際、そう思われても仕方ないかもしれない。

 記者は今回の記事を面白おかしく書いている。これほど面白い記事もないからだ。なので微妙に事実がねじ曲がっている記事もたまに存在していた。

 競馬に携わる著名人も批判的なコメントを残している。

 

「さすがの猛田さんも耄碌したのでしょう。いくらカミノライザンが強いからと言って、クラシック五冠など取れるはずがない」

「いや~、いくら何でも無茶苦茶ですねぇ。他に止める人いなかったんでしょうか?」

「保茂さんがこんな無謀な挑戦をするとは到底思えませんが……さすがに無理ですよ無理。実際に達成できたら凄いことですけどね」

 

 中でも、競馬の神様と呼ばれている多川もこのローテには怒りを通り越して呆れていた。

 

「子供の夢みたいなもんですよ。確かにローテ的に可能ではありますが、あまりにも過酷だから誰もやらない。クラシック五冠なんて無謀な挑戦ですよ。牝馬三冠も夢じゃない逸材だっただけに、本当に残念ですね」

 

 世間はカミノライザンのローテに批判一色。肯定的な意見などほとんどない。

 

 

 そんな評価を受けている猛田厩舎はというと……特に変わりはなかった。

 

「ええか~?馬の異常を察知したら逐一報告!これを怠るんやないで!」

「「「はい!」」」

「お~し!じゃあ作業開始や!」

 

 いつも通りの仕事をし、いつも通りの日常を過ごす。猛田厩舎に変わりはなかった……()()()()()()()()()

 猛田の下にスタッフの1人が慌てた様子で駆け寄ってくる。手には手紙のようなものを持っていた。

 

「た、猛田さん……っ!」

「おう、どした?」

 

 荒い呼吸を繰り返すスタッフ。息を整える暇もなく、手紙を猛田に渡した。

 受け取った猛田は手紙を開く。開いて──溜息を吐いた。

 

()()()。ホンマに懲りん連中やなぁ」

 

 手紙の内容はというと……有体に言えば脅迫状にあたるものだ。それを猛田は溜息を吐いて懐に仕舞う。

 猛田厩舎に脅迫状が届いたのは初めてじゃない。カミノライザンのローテが発表されて以降、送られてくるようになったのだ。

 脅迫状の中身を簡約すると、カミノライザンのローテを止めさせろ、というものだ。言葉こそ違えど、脅迫の手紙はローテ変更の内容で一致している。

 気持ちは分からないでもない。常識的に考えて無理だから。そりゃ止めたくもなる。

 加えて、カミノライザンの人気もそれに拍車をかけている。美しい馬体に美人な顔つき、競走能力も折り紙付き。クラシック最有力候補は伊達ではない。

 関西でのカミノライザンの人気は凄まじいもの。ほぼ全てのレースで1番人気を記録していることからそれは分かることだ。関東でもカミノライザンの名声は轟き、向こうでも1番人気に支持されている。競馬の神様と呼ばれている多川も、カミノライザンを絶賛しているのだ。人気が出ないわけがない。

 ……だからこそ、なのだが。

 

(そら、こないに強い馬がアホみたいなローテ組んだら誰かて怒るわな。俺も当事者やなかったら大批判してるとこやし)

 

 あくまで人目のないところで、だが。

 カミノライザンの一件もあって、現在猛田厩舎の評判はよろしくない。とは言っても、猛田厩舎はまだマシかもしれないのだが。

 

(聞くところによると、保茂さんもすんごいみたいやしなぁ)

 

 猛田厩舎よりもさらに多い量の脅迫状が届いていると、保茂に笑いながら告げられた……なんで笑っているのかは猛田には理解不能だったが。

 風当たりは強いだろう。だが、覚悟していたことだ。猛田はそう割り切る。

 

(どうなるかなんて分かっとった。考えとったことが現実になっただけや。気にする必要はない)

 

 考えるべきは、カミノライザンをいかにしてクラシックで勝たせるか……だ。

 現状カミノライザンの強さは牝馬の中でも頭1つ抜けている。牡馬と混じっても良い勝負ができるだろう。

 しかし、それだけで勝てるはずがない。猛田はちゃんと分かっている。

 

(疲労、餌、調教、コースの攻略……課題は山積みやな)

 

 これから先のことを考えながら歩いていると、粟田が声をかけてきた。

 

「猛田さん。どうですか?世間の評判は」

 

 苦笑いを浮かべる粟田。分かってて聞いているのだろう。猛田も思わず呆れたように返した。

 

「分かっとるやろ?最悪も最悪、ホンマに最悪やで」

 

 お互いに冗談を飛ばし合う。

 それも少しだけ。すぐに気を引き締める2人。

 

「……正直、今でも俺は反対です。カミノライザンの五冠ローテ……現実的じゃない」

「やけど、俺も保茂さんもやると決めた。今更この決定は覆らん……なんと言われようとな」

()()()()()()()。だから、俺も一生懸命自分のやるべきことをやります」

 

 粟田はそれだけ言って去っていった。猛田は心の中で謝りつつ、カミノライザンの馬房へと歩を進める。

 カミノライザンの馬房を開けて、外へと連れ出す。

 

「おしっ、姫。今日も気合入れてがんばろか!」

 

 カミノライザンは一鳴きして応える。見果てぬ偉業を目指して、今日も調教が始まる。

 

 

 

 

 

 

 ──京都競馬場。今日の京都は、空気がヒリついていた。

 

「おい、きたで……」

「無謀な挑戦立てとったとこやろ?ホンマにアホっちゅうか」

「せめてタニノムーティエに勝ってから言えっちゅうねん。直接対決で負けとる癖に」

 

 それは主にカミノライザンに対するもの。正確には……カミノライザン陣営に対するもの、だ。

 ローテの一件により風当たりが強くなっている。厳しい目を向けられていた。

 しかし、それでもカミノライザンは2番人気。これはやはり、実力が評価されてのものだろう。

 

 

 カミノライザンに騎乗する富永は気持ちを落ち着かせるために深呼吸をしていた。

 

(落ち着け……落ち着け。猛田さんも言っていた。このレースは大事だって)

 

 タニノムーティエの実力を改めて測ること。どこで仕掛けるべきか、どこで抜け出せば勝てるかを分析する必要がある。その理由は、クラシックでの戦いを見据えてのことだ。

 それに、タニノムーティエには京都3歳ステークスで敗北している。それも、富永自身のミスで。そのこともあってか富永は気合を入れていた。

 カミノライザンも気合が入っている。普段はプレッシャー負けで体調を崩すカミノライザンが体調不良にならなかったことからそれは分かっていた。

 返し馬。カミノライザンをジッと見つめる馬がいた。関西の雄、タニノムーティエである。

 

「……」

 

 タニノムーティエの騎手共々、カミノライザンは睨みつけられている雰囲気を感じた。

 

(なんだなんだ睨みつけやがって……今日こそは勝っちゃるからな!)

 

 カミノライザンも気合十分といった様子で返し馬を済ませていた。

 

 

 ゲート入りが順調に進む。

 

《京都競馬場はあいにくの曇り模様、雨の影響で馬場も不良馬場と発表されていますきさらぎ賞。良くも悪くも世間の注目を集めています2番人気カミノライザン。今後の評価に関わる大事なレースとなります。1番人気はこちらに軍配。関西王者タニノムーティエ。この2頭の直接対決ではタニノムーティエに軍配が上がりました。果たして今回はどちらに転ぶのか?今大外枠のタニノムーティエがゲートに入りました》

 

 全馬ゲートに収まる。沈黙を割くように──ゲートが開く音が響いた。

 

《スタートしました!きさらぎ賞スタートです!変わらず綺麗なスタートカミノライザン!4番のカミノライザンが真ん中からスーッと上がっていきます。ですが5番のセブンオー、セブンオーとそして最内枠1番のシンザンホマレが逃げます。カミノライザンと同じくシンザン産駒のシンザンホマレが最内枠を活かしてセブンオーに並びます。カミノライザンはこれを見る形、タニノムーティエはスタートちょっと遅れたか?後方におります》

 

 きさらぎ賞が始まる。ハナを切ったのはセブンオーとシンザンホマレ。逃げるこの2頭を見る形でカミノライザンとダテテンリュウ。ダイイチトップ、カコガワエース、コマツオー、タニノムーティエと続いていた。

 

 

 カミノライザンの鞍上である富永は冷静にレースの展開を見る。

 

(今回は小頭数なのもあってか隊列がばらけている。囲まれる心配はほとんどないだろう。ここで警戒すべきは……)

 

 チラリと後ろへと視線を送る。おそらく後方に控えているであろうタニノムーティエ……このレースにおいて一番警戒すべき相手のことを考えていた。

 

(抜け出しのタイミング……()()()()()()()()。ここぞというタイミングで仕掛けるんだッ!)

 

 タニノムーティエの末脚を計算に入れて、どのタイミングで抜け出せば勝てるか、カミノライザンならどうするのがベストかを考える。

 

(確かに、タニノムーティエの末脚は驚異的だ。スピードなら、現時点でライザンより上……だけど、ライザンなら問題なく勝てる

 

 タニノムーティエよりも早く動くことは絶対条件。ペースは緩め、不良馬場を考えればまずまずのペースだ。カミノライザンのスピードとスタミナを考慮して……どこで仕掛けるのがベストかをはじき出す。

 ダテテンリュウもカミノライザンをマークしているが甘い。この程度ならば問題なく躱せる。

 

《セブンオーとシンザンホマレがハナを切りますきさらぎ賞。先頭はセブンオーとシンザンホマレが競り合う形。その2頭を見るように3番手はカミノライザン2馬身後方。カミノライザンの半馬身の位置にダテテンリュウが控えます。第3コーナーを越えて第4コーナーへと入ります。カミノライザンが少し動いたか?5番手にカコガワエース、6番手ダイイチトップ。ダイイチトップから離れて1馬身の位置にタニノムーティエ、最後方コマツオーです。タニノムーティエはじっくりと見る形ですが、3番手カミノライザンが前との差を徐々に詰めてまいりました》

 

 競馬場内はタニノムーティエの応援ムードが漂っていた。

 

「いけタニノムーティエ!前みたいにいてこましたれ!」

「カミノライザンなんかぶっ倒せや!陣営の目を覚まさせぇ!」

「やったれー!」

 

 レースは第4コーナーへと入った。

 カミノライザンは──進出を開始する。カミノライザンをマークしていたダテテンリュウを振り切るように、先頭を走るセブンオーとシンザンホマレへと並びかけようと進出を開始した。

 負けじとダテテンリュウも進出を開始する。カミノライザンのマークを緩めまいと上がってきた。

 これを見てか、タニノムーティエも後方から上がってくる。隊列が乱れ始めた。

 第4コーナーの中盤。

 

(ッ!ここで……仕掛ける!)

 

 富永は鞭を一発入れる。それとほぼ同じタイミングで、カミノライザンはスパートをかけた。

 

「おい、カミノライザンが上がってきとるで!?」

「あ?……ほ、ホンマや!もう仕掛けとる!」

 

 徐々に進出するのを止めて一気に突き放しにかかるカミノライザン。ダテテンリュウはさすがにここで仕掛けてくるとは思わなかったのか、反応が遅れた。

 

「っし、しまった!」

 

 急いで追おうとする、が。ここは理性が働く。

 

(ここで仕掛けたら最後まで持たない。ただでさえ今日は不良馬場だ……落ちてくるだろう)

 

 全員がそう予測を立てていた。

 最後の直線。カミノライザンが先頭に立ってリードを広げる。

 

《最後の直線へ向きます!先頭はカミノライザン、カミノライザンであります!カミノライザンが先頭で最後の直線!2番手にセブンオーそしてダテテンリュウ!シンザンホマレは失速してきたか?カミノライザン先頭で、後方からタニノムーティエが上がってきました!》

 

 最後の直線を向いて、カミノライザンから10馬身程離れた5番手に位置していたタニノムーティエが上がってくる。圧倒的な末脚をいかんなく発揮していた。

 歓声が沸き上がる。残り200を切って先頭はカミノライザン。そのカミノライザンに猛然と襲い掛かるタニノムーティエ。コマツオーも上がってきていた。

 差は簡単に詰まっていく。10馬身はあった差はすでに3馬身まで縮まっていた。

 ──だが、富永紘一は()()()()()()()()()()

 

(大丈夫、あの末脚も織り込み済みだ)

 

 再度鞭を入れてカミノライザンに気合を入れるように促す。それに応えるように、カミノライザンも粘っていた。

 徐々に詰まっていく差。2馬身、1馬身、半馬身と詰まっていき。

 

《タニノムーティエが追い上げる!タニノムーティエの凄い脚!ここでも捉えるかタニノムーティエ!カミノライザン必死に粘る!必死に粘るがこれは少し苦しいか!?カミノライザン苦しいか!頑張れカミノライザン!ゴール板はもうすぐだ!》

 

 その差がクビ差まで縮まったところで──カミノライザンがわずかに先にゴール板を駆け抜けた。

 一瞬の静寂。そして、徐々に目の前の光景を理解した観客達が大声を上げた。

 

《カミノライザン!カミノライザンであります!カミノライザンがわずかに逃げ切りました!これは粘り勝ちだカミノライザン!しかしこれは恐ろしい末脚タニノムーティエ。やはりこの馬の末脚は凄まじいの一言に尽きるでしょう。あわやというところまで追い詰めたタニノムーティエ。この2頭のクラシックが楽しみであります。3着は……》

 

 きさらぎ賞1着はカミノライザン。タニノムーティエにリベンジ達成。

 だが、これはあくまで本番前だ。

 

(課題は色々とある……もうちょっと、やりようはあるはずだ)

「もっと騎乗技術を磨かなきゃ……本番はこうはいかないぞ」

 

 レースを頑張ってくれたカミノライザンを労うように撫でながら、富永はそう呟いた。

 

 

 カミノライザンはというと。

 

(やーいやーい!俺の勝ち!お前にリベンジしてやったぞタニノムーティエよぉ!このまま本番も勝ってやるわ!)

 

 結構調子に乗っていた。




仕事が忙しくなってきた……。
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