俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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俺と契約と作戦会議

 資料の準備が終わって保茂を呼びに来た五十嵐はあまりの衝撃に目が飛び出そうになった。

 

「な、な、な……っ!」

 

 五十嵐の目に飛び込んできた光景、それは。

 

三姫が保茂を蹴ろうとしている光景だった

 

「なにやってるんだ三姫ぇぇぇぇぇ!?」

 

 思わず大声を出して三姫のもとへと駆け出す。

 保茂と呼ばれたこの男、界隈ではちょっと有名な馬主であり三姫を是非どうか?と考えていた人なのだ。

 まだ三姫に会わせてなかったので気に入ってくれるかどうかが心配だったが、保茂は無事に三姫を気に入り。馬主になってくれることを約束した。

 だがその矢先にこれである。どういうわけか人相手には大人しい三姫が保茂のことを蹴ろうとしていたのだ。

 これはまずい。かなり不味い。

 

(下手したら、保茂さんが三姫を買い取る話が無しになってしまう!)

 

 三姫はきっと走るのが好きな馬なのだろう。放牧中、ずっと走っていることからそれは明らかだ。

 それがこの一件で台無しになってしまう可能性がある。

 この先、三姫が他の馬主に気に入られる可能性があるとは限らない。気に入られても、競走馬として買ってもらえるかは難しいところだ。

 三姫の血統はファンからすれば眉唾物の血統。戦後初の三冠馬シンザンを父に持ち、日本初の三冠馬セントライトを母父に持つというかなりのロマン血統だ。

 しかし近年は外国の種牡馬が主流であり、シンザンも三姫の代がファーストクロップ*1であるためかかなり押されている。理由は、走るかどうかわからないから。しかも三姫は牝馬だ。

 走るかどうか分からない。でも血統は残したい……そんな牝馬をどうするか?答えは1つだ。

 

(三姫を繁殖入りさせるかもしれない!)

 

 競走馬として使わずに、その血を残すために繁殖入りさせるというものだ。

 発端は分からない。もしかしたら、三姫にとって気に入らない何かがあったのかもしれない。

 だけど、走るのが好きなあの子が走れなくなるかもしれない可能性を考えると、五十嵐は慌てずにはいられなかった。

 

「す、すいません保茂さん!どうも三姫今日は気が立っているみたいでして……!ですからどうかっ?」

 

 頭を下げてなんとか保茂の機嫌を損ねないようにする五十嵐。

 三姫を競走馬として走らせる。そう約束してくれる保茂は貴重な人だ。だから何としても、この人に三姫の馬主になってもらわないと!

 そう考える五十嵐にかけられた言葉は、予想だにしないものだった。

 

「あ~いいよいいよ!気にしてないから!」

「……はっ?」

 

 大口を開けて保茂を見る五十嵐。保茂は三姫を見て楽しそうにしていたのだ。

 保茂の表情は──三姫を気に入った時と変わらずに笑顔だった。

 

「良いね、この子。どうやら闘争心も高いようだ」

「あ、あの……」

「この子はきっと走るね。僕が断言するよ」

 

 三姫に近づく保茂。

 

「危ないっ!」

 

 そう声をかけるも、三姫は保茂を蹴らなかった……不機嫌そうにはしているが。

 

「それじゃ、早速購入の話をしようか」

 

 戸惑う五十嵐に、保茂はニッコリと笑みを浮かべて。そう言った。

 

 

 

 

 

 

 あのクソ神との再会から少し。アイツは少しの間席を外した。どうも俺を本格的に買い取る話をしに行くらしい。

 アイツの正体を知った時思わず蹴りそうになったけどよぉ……やっちまったぁぁぁぁ!?

 

(いくらクソ神とはいえ、アイツ馬主だよな!?今回の一件は確実に出回るだろうし、下手すりゃ買い手がつかない事態もあり得たじゃねぇか!?)

 

 結局保茂とかいうクソ神が買い取る話になったとはいえ、これが無しになった場合がガチでヤバかった!俺の競走馬生活が始まる前に終わる可能性が十分にあり得た!

 衝動に身を任せた結果デビューすらできずにママになるとか勘弁してくれ!地獄絵図もいいとこだよ!

 あ~やっちまったな~……まぁ結局アイツは買い取ってくれることになったし良いか。走り回っとこ。

 嫌なことを忘れるように走り回る!これに限るな!

 

「いや~、元気に走り回ってるねぇ」

 

 走り回っていたら、どうやらアイツが帰ってきたようだ。

 

 

 走るのを止めてアイツと会話。というか気になったんだが。

 

『なんでお前俺と会話できるわけ?他の馬と会話もできたりするの?』

 

 気になってるのはそこだ。こいつが話せるのは俺だけなのか、それとも他の馬とも話せるのか。

 保茂は首を横に振った。ということは。

 

「僕が話せるのは君だけさ。人間として転生した時に、力の大部分を使っちゃったからねぇ」

『へ~……え゛っ?

 

 待て、コイツ今すげぇこと言わなかったか?

 

『待て待て待て!?お前神様辞めたのか!?』

「うん、そうだよ?だから君に蹴られたら一発でお陀仏だったね」

 

 マジかよ!クラシック五冠馬見たいがためにそこまでするか普通!?

 神様なんて地位を捨ててまでなんで……。

 

「あ、初めに言っておくけど僕に関しては目的を達成してもしなくても神様として戻れるから。今は一時的に力がないだけね」

『俺の同情しそうになった気持ちを返せやテメェ』

 

 心配して損したわ!

 

『……んで?結局お前が俺の馬主になんの?』

「そだね。僕が君の馬主になるよ。まだ手続きをしただけだから、正式に馬主になるのはもうちょい先だけど」

 

 う~ん……俺が苦労している張本人とはいえ、気心が知れた仲だからいい、のか?

 

「それに君さ、僕がいなかったら大変なことになってたよ?」

『そりゃそうだろ。俺の血統を考えたら繁殖入りさせた方が「だって普通クラシック五冠を目指そうなんて馬主はいないよ?僕がいなかったら始まる前から詰みじゃん君」誠にありがとうございます保茂様!』

 

 そうじゃん!冷静な思考回路してたらこんなぶっ飛んだローテ組まねぇよ普通!

 

「んじゃ、早速作戦会議といこうか。第1回、クラシック五冠を取るためにどうしようか?会議を始めよう!」

 

 やけに楽しそうだなお前。別に楽しそうなとこを邪魔する気はないから口には出さんけど。

 

「まずは君が戦うことになる世代について話そうか。僕の言葉、ちゃんと覚えているだろう?」

『今は1968年。来年デビューとして、俺が戦う世代は1970年クラシック世代だな?』

「その通り!よくできました!」

 

 パチパチ拍手して褒めてるとこ悪いが、あんま嬉しくねぇんだよな。

 1970年クラシック世代。クラシック競走は東のアローエクスプレス、西のタニノムーティエのAT世代なんて言われてた時代だ。

 前世は西高東低だったが、この時代は東高西低。有力馬達は基本的に関東に集まっていたらしい。ま、この辺は競馬の人口が関東に集中しているからかもしれんが。

 そんな中関西に現れたのがタニノムーティエ。スパルタ教育によって生まれた、バケモンだ。

 

「クラシック五冠を取る上で警戒すべき馬はたくさんいる」

『そうだな。確か、快速少女タマミもこの頃だろ?』

 

 快速少女タマミ。最初の一冠目、桜花賞を獲る上で最大の障害となる相手。

 俺はタマミに、()()()()()()()()()()()()()()()()。その理由は──皐月賞でぶつかることになる2頭。

 

『だがこの世代で最大限警戒すべきなのはタニノムーティエだ』

「病気さえなければ三冠確実、そんな話もあるぐらいだからね」

 

 アローエクスプレスも警戒すべきだろう。でも筆頭になるのはタニノムーティエの方だ。

 ……つーかマジで!

 

『もうちょっと生まれる年代融通利かなかったのかよ!?なんで相手があのATなんだよおい!』

 

 俺の半ば八つ当たりの言葉にクソ神もとい保茂も困り顔だ。

 

「そう言われてもねぇ。転生させる年代を固定できるわけじゃないし、僕に言われてもどうしようもないというか」

『くっそ~!抜けて嫌な世代の1つにあたるとは……!』

「テスコガビーとカブラヤオーの時代じゃないだけマシじゃない?」

 

 いや、それは本当にそう。

 

『そういやさ、お前って俺よりも前に転生しているんだよな?だって馬主やってるぐらいだし』

「ん?そうだね。神様パワーでどうとでもなるけど、せっかくだから経験してみたくって」

 

 それで本当に馬主になるのだからこの神様かなり優秀なのでは?

 

「いや~……戦後間もない時代だからかなり大変だった。会社を立ち上げるのも苦労したよ」

『会社も立ち上げたのかよお前』

「それなりにデカい会社だよ?」

 

 それを聞いても俺にはピンとこないわけだが。

 

『で?こことのつながりは何であったんだよ?』

「それは単純。経営難のここに出資したのが僕だからね」

『は~なるへそ。あの人達からすればお前は上客ってことね』

「そんなところさ」

 

 出資理由に関しては俺の母親がいたかららしい。シンザンをつけさせたのも保茂だとか。いや、大分権力強いな?お前。種付けにも口出しできるとか。

 この母親の馬主も勿論保茂。ただ母親は競走馬にはしなかったらしい。

 

「月海は脚があんまりよくなくてね。それにあの時は体調も崩しがちだったから、競走馬にはならせなかったよ」

 

 ふ~ん、そういう経緯があんのね。

 そろそろ聞くか……俺の所属する場所を。

 

『なぁ神様「保茂で良いよ」じゃあ保茂。()()()()()()()()()()()()?』

「君の所属かい?栗東とか、どこの厩舎に入るのとか?」

『そうだ』

 

 ここは重要だ。特にこの時代はな!

 フリーの騎手ってのはほとんどいない。厩舎と契約して騎乗するってのがほとんどだ。

 しかも厩舎によって調教も変わる!俺がクラシック五冠を取るためにはここは重要だぞ!

 固唾を飲んで言葉を待つ。

 

「聞いて驚かないでくれよ?なんと!君が所属する厩舎は……!」

『……ゴクリ』

 

 保茂の言葉は!

 

「猛田文男(たけだふみお)厩舎。五冠馬シンザンを育てた厩舎さ!」

『イエエエェェェス!!』

 

 SSRもSSRだぁぁぁ!

 

『おま、おまっ!マジか!?』

「大マジさ!すでに話は通してあるからね!シンザンの牝馬を是非とも預かってくれないかって!」

 

 とんでもねぇとこと伝手があるなコイツ!

 

『うおおおぉぉぉ!神様仏様保茂様ぁぁぁ!』

「2つ被ってるけど気にしないでおこう!これからクラシック五冠を盤石のものにしていこうじゃないか!」

『おー!』

 

 保茂と一緒に喜びを分かち合う俺達。

 それを遠目に見ていた五十嵐さんの一言。

 

「えぇ……なんか目を離した隙に仲良くなってる……?」

 

 俺と保茂が仲良くなってるのにめっちゃ驚いてた。

*1
産駒の最初の世代




とんでもない伝手があるなコイツ。
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