俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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猛田さん達の祈りはダメだったよ。


俺とオークスと不良馬場

 東京競馬場。朝から降っていた雨は、オークスが始まる少し前に止み始めた。今は曇りとなっている。

 東京競馬場に詰め寄ったファンの数──実に13万人。超満員である。その目的はとある馬。

 

「お、きたきた!」

「いや~……いつ見てもすげぇ馬体だぜ!こりゃオークスも決まりだな!」

「そりゃそうっしょ!変則二冠、このオークスを勝てば変則三冠馬の誕生だ!」

「シンザンに続いての三冠とは……変則とはいえ孝行娘だなぁ!」

 

 カミノライザン、その馬に注目が集まっていた。パドックでその馬体を一目見ようと殺到する。警備員もかなりの人数が割り振られていた。

 今回のオークス1番人気は勿論カミノライザン。その単勝支持率は──驚異の87.8%。ハクチカラが天皇賞・秋で記録した85.9%を超えた支持率を叩き出した。

 不良馬場など関係ない。カミノライザンならこのレースを勝てる。そう確信しているファンの期待だった。後はどんな勝ち方をするだろうか?という予想すら始めるファンもいる始末である。

 無論、他の陣営からすれば面白くないだろう。いかに相手が強大であろうが、是が非でも気合が入るというもの。

 

「負けていられるか!」

「勝つ……勝つ……」

「よりによって不良馬場かぁ……ま、なるようになれ、か」

 

 カミノライザンを標的に定めていた。

 今回のオークスは23頭立て。カミノライザンの枠番はというと──外目の6枠だった。あまり良い枠番とは言えないだろう。

 

「枠番なんか関係ねぇ!今日も勝てよ~、カミノライザーン!」

 

 ファンの声援を受けるカミノライザン。鞍上の富永も不安を表情に出していなかった。

 

 

 期待をしているファンとは裏腹に、調教師である猛田と仲村は天を仰いだ。なって欲しくなかった、この馬場だけは回避して欲しかった……そんな思いを2人は抱く。

 

(よりによって不良馬場……本当に、なんでこんな時に……!)

(姫は不良馬場を苦にせん……やけど、タフな競馬になるやろうな)

 

 これまでのレースでも不良馬場で走ることはあった。そのレースでは勝利を収めていることから不良馬場でも問題なく勝てると猛田は思っている。

 だが……猛田の脳裏によぎるのは来週のダービー。連闘で挑むダービーを考えるのであれば。この馬場だけは避けたかったのだ。いくら適性があるといっても、消耗が激しくなることは間違いない。そう考えると、この馬場だけは回避して欲しかったという思いに駆られる。

 

(恨むで神様……ホンマに、ホンマにこないな時に……!)

 

 もうこうなったからには仕方がない。いつも通りカミノライザンが無事に帰ってきてくれることを祈るだけである。

 

 

 東京競馬場のターフ。富永は返し馬を済ませながら作戦を考えていた。

 

(作戦に大きな変更はない……けど、不良馬場というのが不味いな)

 

 芝を踏むたびに水が染み出てくる。かなりタフなレースになるだろう。今からダービーのことを考えると気が滅入りそうになるが……今この時は考えないことにした。

 

(まずはオークスを無事に勝つ……それが優先事項だ)

 

 気合を入れる富永。まもなくゲートインが始まる時間だ。

 

 

 13万人が見守る東京競馬場のターフ。それぞれどのようなレースになるかを話し合っている。返し馬が終わろうとしていた。

 

《東京競馬場第10R、優駿牝馬芝2400mはまもなく発走となります。昨晩から降り続いた雨は先程止みました、しかし馬場の状態は当然ですが不良馬場。曇天の空の中23頭が続々と返し馬を済ませてゲートへと向かいます。本レースの1番人気はやはりこの馬でしょう!桜花賞・皐月賞の変則二冠馬!東のアローと西のムーティエを一蹴した女傑カミノライザン!単勝支持率はなんと驚きの87.8%!ハクチカラの記録を抜いてのこの支持率!その期待に応えることはできるでしょうか?そして偉大なる父シンザンにクラシック三冠目をささげることはできるのか?非常に注目したいところです!》

 

 そして今、最後の馬がゲートへと入る。最後の馬がゲートに入ったことを確認すると、係員達は右へ左へと散開。係員が全員いなくなった後──ゲートが開いた。

 

《さぁスタートしました!オークスの開幕です!》

 

 オークスが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 好スタートを切ったのはタマミとカミノライザン。タマミが逃げの態勢に入るとカミノライザンはそのすぐ後ろにつける。内からはケイサンタも好スタートを切っていた。

 

《タマミが好スタートを切って逃げます!タマミが早くも先頭に立った!そのすぐ後ろに青毛の馬体、カミノライザン!牡馬顔負けの馬体がタマミのすぐ後ろにつけています!内からはジュピックと、これはハーバーゲイム、ジュピックとハーバーゲイムが上がってきている!ジョイフルとケイサンタも行きます!スタンド前を過ぎて第1コーナー先頭はタマミ!そのすぐ後ろにカミノライザンとジョイフルです!》

 

 カミノライザンは逃げるタマミのすぐ後ろにつける。23頭の牝馬による熾烈なポジション争いが繰り広げられていた。

 富永は落ち着いて、自らのポジション取りに終始する。少しでも良い位置につけようとしていた。

 

(内は、この分だとまだいけない。あまり無理に行くと体力を余計に消耗する。ここはまだ、無理に行く段階じゃない)

 

 第1コーナーへと向かう。内と外にばらけるように馬群は広がっていた。

 タマミは2馬身程のリードを保って逃げる。2番手にジョイフル、その内にハーバーゲイムがつけこの2頭の後ろにカミノライザンが控える。カミノライザンの外にはメジロスルガが、内にはジュビックとケイサンタがカミノライザンをマークするように動いている。

 カミノライザンは走りながらも抱いていた。この馬場に対する感想を。

 

(本当にやべぇな。別に初めての経験じゃねぇ、だけどかなり沈む……泥を走ってるみてぇだ)

 

 かなりキツい──という感想は特段抱かなかった。走り辛いことに違いはないが、それでも普通に走れる。

 

(勘弁してほしいわ本当に。しかも、さっきからかなりマークされてるしな)

 

 カミノライザンは内のジュビックとケイサンタ、外のメジロスルガからの徹底マークを受けていた。タマミをマークしている馬はいないに等しい。ジョイフルが追いかけているぐらいだ。思わず舌打ちしそうになる気持ちを抑えるカミノライザン。想定内と言えど、こうも徹底的にマークされれば嫌にもなるだろう。

 第2コーナーを抜けて向こう正面へと入る。先頭は変わらずタマミ。その後ろにジョイフルがつけ3番手にカミノライザンの一団だ。

 

《第2コーナーのカーブを抜けて向こう正面。タマミが先頭で逃げています!タマミが1馬身のリードを取って、2番手にジョイフル。3番手は内にハーバーゲイムとジュビックそしてケイサンタ。丁度真ん中の位置にカミノライザンその外にメジロスルガがつけております。ジュビックとケイサンタ、そしてメジロスルガはカミノライザンをマークする形。カミノライザンの一団後ろにはミスコマコとミスマーチス!この隊列で進んでおります。馬達にとっては初の2400mという距離。しっかりとスタミナの配分を考えなければなりません!自分のペースを貫けるかタマミ?カミノライザンは悠々と進んでおります!》

 

 富永とカミノライザンは向こう正面もいつものように駆ける──つもりだった。

 

「っ!?いや……このままだとまずい!」

 

 嫌な予感、このままのペースで進んだら()()()()()()という直感が富永に働く。

 向こう正面、外がわずかに空いた。その隙を見逃さずに富永はその進路を取る。

 カミノライザンは戸惑っていた。己に騎乗している富永の突然の判断に。

 

(おいトミー!?さすがに仕掛けるのはまだ早いって!)

 

 そうは思ったが……素直に従うことにした。外へと進路を取り、抜け出しを図る。

 まさにその時だった。向こう正面に入って、カミノライザンよりも後ろに控えていた馬達が突如としてペースアップしてきたのである。スタミナの消耗もお構いなしに上がってきた。

 メジロスルガとケイサンタは後ろから上がってきた馬達に飲み込まれた。ハーバーゲイムとジュビックも飲まれつつある。カミノライザンは2番手であるジョイフルの外につけることで回避した。

 あと少し判断が遅れていたら、間違いなく囲まれていた。富永が外に持ち出す判断をしなければ、囲まれるという状況に持っていかれるところだった。

 富永はひとまず抜け出せたことに安堵する。すぐさまこの位置をキープすることを決めた。

 

(危なかった……あのまま馬群に飲まれたら不味い状況に持っていかれた。ひとまずはジョイフルの外を……!?)

 

 だが、そうは問屋が卸さない。他の馬はカミノライザンも飲み込まんとペースを上げ続ける。

 ロスになろうが構わない。どれだけ外に膨らもうと、カミノライザンを道連れにしようとペースを上げる。

 そこに勝利を見据えているのかは分からない。ひょっとしたら、勝つことよりもカミノライザンを()()()()()()()()()()()()()()()()と思っているのかもしれない。

 そのせいか──向こう正面はかなりのハイペースとなった。

 さすがの富永も焦る。この状況で取れる択は二択。()()()()の二択を迫られていた。

 

(このままペースを上げ続けるか、馬群に飲み込まれるか……!)

 

 馬群に飲み込まれる。論外だ。飲み込まれたらどこまで下がるか分からない。抜け出せれるかどうかも分からない。下手をしたら、前が壁になり続けて終わりだ。そんな状況に持ち込まれたら……最悪だ。

 意地でもペースを上げるしかない。馬群に飲み込まれることを嫌ってか、内にいるジョイフルもペースを上げる。タマミも後続の様子に気づいてかスピードアップした。

 富永は舌打ちする。位置取りに関しては問題ないかもしれないが……()()()()()()()()と。

 

(このまま囲まれることはない。だけど、距離のロスが激しくなる!)

 

 先のことを考えれば考えるほど、今の状況がどれだけまずいかが富永を襲う。コースの真ん中よりの位置、できる限り内につけようと手を尽くす。

 

 

 向こう正面中ほど。半分を過ぎてもハイペースは維持されていた。観客もこの様子にざわめき立つ。

 

「さ、さすがに早くねぇか?」

「やっぱ気のせいじゃなかったか……すげぇ()()()()()だよな」

「不良馬場でこのペース、持つのかね?」

 

 レースを見守る猛田達も不安が増していく。この状況に2人とも舌打ちしそうになっていた。

 

「叶うならばペースを下げたい。だが……っ」

()()()()。それはホンマの最悪(ゴミ)手や」

 

 猛田と仲村の意見が一致する。ペースを下げたくても下げれない理由。

 

「今ペースダウンしたら馬群に飲まれる。いくらトミが馬群を捌くのが上手いいうても……囲まれたらどうにもならへん。前が壁になり続けて、そんままズルズル後退する可能性もある。それを考えたら……ペースを上げるしかあらへん」

「あぁ……しかも、この馬場だ。勿論末脚勝負に持ち込むこともできないだろう」

「せや、大外ぶん回して上がるのも論外や。この不良馬場、脚も伸びひん。やからこそ、この消耗戦が最適解に近いんや」

 

 舌打ちをする2人。依然としてハイペースで進むオークスを見守ることしかできない自分に、歯がゆさを感じていた。

 

 

 ついに迎える第3コーナー。ここで富永は見つけた。

 

(ッ!見つけた、内への進路を!)

 

 すぐさまその進路を取る。幸いにも走行妨害は取られないほどの距離に後方組がいたため、内へと滑り込むことができた。ジョイフルはすでに馬群に飲み込まれた。代わりにハーバーゲイムがつけている。ハーバーゲイムとの位置関係が入れ替わる。今度は内にカミノライザン、外にハーバーゲイムとなった。

 状況は芳しくない。この不良馬場でのハイペース、先頭のタマミもすでに脱落しそうな勢いだ。

 

(まだ様子見だ、って、行きたいんだけどね!)

 

 後続の圧が凄い。カミノライザンを飲み込まんと迫ってきている。逃げるしか、なかった。

 最内を突いてカミノライザンは上がる。第4コーナーの手前でタマミは失速、落ちて馬群に飲まれていった。カミノライザンが先頭に変わる。

 

《第4コーナーに入ってタマミ失速!タマミは失速だ!このハイペース流石にきつかったかタマミ!タマミは馬群に飲まれた!先頭に立ったのはカミノライザン!カミノライザンが先頭であります!すぐ外ハーバーゲイム、ハーバーゲイム!ケイサンタとジュビックも上がってきている!残り600の標識を通過しました、まもなく最後の直線!》

 

 最後の直線、先頭で入ったのはカミノライザン。しかし後続との差はない。

 後はこの最後の直線を駆け抜けるだけ。他の馬はペースが落ちている。当然だ、あのハイペースが最後まで持つわけがない。余程のスタミナがなければキツい。

 そして──ペースが落ちているのはカミノライザンも例外ではなかった。

 

「後もうちょっとだ!後もうちょっと頑張ってくれ、ライザン!」

 

 カミノライザンを必死に励ます富永。

 最内を上がるカミノライザン。そのすぐ外にジュビック。他の馬は外を回らされた影響、ハイペースになったことが原因で7馬身以上の差がついていた。

 逃げ切り態勢に入るカミノライザンとジュビック。後はこの2頭の一騎打ちとなった。

 坂を上る。東京の坂、いつも以上に重い馬場がカミノライザンに襲い掛かる。

 

(ク……ッソ!キツいなんてもんじゃねぇ……!滅茶苦茶スタミナは鍛えてたけど、それでもキツいもんはキツい!)

 

 今この時は東京の坂を恨むカミノライザン。悪態をついていた。

 そして──ここでついにジュビックも力尽きた。他の馬と同じようにズルズルと後退していく。なんとか粘ろうとしているものの、ジュビックも落ちていった。

 

(あぁ……ようやくか)

 

 坂を上り終わって、ペースダウンするカミノライザン。富永もペースダウンするカミノライザンを咎めることはしなかった。

 

《先頭カミノライザン先頭カミノライザン!変則三冠までもう少しだ!ジュビックは力尽きたもう無理!しかし……しかし!カミノライザンも後退していく!?カミノライザンもスタミナが尽きたか!?カミノライザンも後退していく!だがこれはリードが十分か?リードは十分か!?馬群に飲まれたケイサンタとブリーズターフが迫りくる!その差を詰めるケイサンタとブリーズターフ!追いつけるか!追いつけるか!?》

 

 カミノライザンが先頭を走る。残り100を切ってもそれは変わらない。

 

《残り100を切りました!ジュビック後退!ジュビック後退!カミノライザンが必死に粘る!カミノライザンが必死に粘る!三冠目はもう目と鼻の先だ!カミノライザン三冠目はもうすぐだ!2番手ケイサンタが追い詰める!ケイサンタがカミノライザンを追い詰める!その差を縮めるケイサンタ!これは届くか!?届くでしょうか!?》

 

 後方から襲い来るケイサンタとブリーズターフ。ジュビックは4番手に下がる。ケイサンタとブリーズターフがカミノライザンを追い詰めるが──1馬身差まで詰めるのが限界。その先は縮まらなかった。

 

《しかし届かなぁぁぁぁぁぁい!!!カミノライザンが1馬身差逃げ切ったぁぁぁぁ!カミノライザンが87.8%の期待に応えて見事に勝利を収めたぁぁぁぁ!カミノライザン変則三冠たっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!凄い馬だ!凄い馬だ!桜花賞!皐月賞!そしてこのオークスを制して!変則三冠を達成しました!この三冠は史上初!前例のないことです!これがカミノライザンの強さだ!シンザンの娘が、クラシック総取りに一歩近づいたぁぁぁぁ!》

 

オークスを制したのはカミノライザン。史上初となる桜花賞・皐月賞・オークスでの変則三冠である




とんでもねぇ支持率だ(87.8%)。その支持率に応えて勝ちました。
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