俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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京都杯ですことよ。


俺とIFと京都杯

 京都競馬場に多くのファンが集まる。今日行われるレース、京都杯にて、()()カミノライザンが出走するのだ。ファンとしてはぜひとも目にしたいレースだろう。

 

「くぅ~!こん時を待ちわび取ったわ!」

「ホンマにな!今から楽しみでしゃあないで!」

「うっひゃ~、凄い人だ……関東にも負けてないぞ」

 

 入場前からざわめき立っており、開門の時を今か今かと待ちわびている。

 

「開門で~す!皆様におかれましては、転ばないように!押さないようにお願いしま~す!」

 

 係員が注意を促す声とともに、我先にと走り出すファン。席確保のために皆必死になっていた。

 

 

 その後レースは順調に進んでいき……京都杯のパドックが始まる。

 

「おぉ~!ええやんか!ごっつ調子良さそうやで!」

「これは間違いなく買いや!来るに決まっとる!」

「いつ見てもスゲェ馬体だな~。牡馬顔負けだよ」

「カミノライザンの単勝に賭ける!頼んだぞ~!」

 

 今日も威厳溢れる姿をファンに見せるカミノライザン。期待は高まるばかりだった。

 

 

 パドックを終えて返し馬。返し馬でもカミノライザンの動きはよかった。

 そんなカミノライザンを睨む、1人の騎手。タニノムーティエに騎乗する、廉田である。

 

(絶対に負けん……菊花賞前にまずは、ここで叩いたる)

 

 カミノライザンと富永に絶対に負けない。その気持ちを胸に抱いてパドックを済ませていた。

 カミノライザンの鞍上である富永は今回の()()を再確認する。

 

(確かめる……だったな。けど京都杯は菊花賞の前哨戦……取る!)

 

 この京都杯を取って、菊花賞に気持ちよく出走する。そんな思いがあった。それとは別に、()()()()()もあるのだが。

 実況の声が京都競馬場に響き渡る。

 

《菊花賞の前哨戦、京都杯。この季節が今年もやってきました。天気はあいにくの曇り模様ではありますが芝の状態に影響はありません、良馬場です。芝2000m、このレースを勝って菊花賞へと弾みをつけたいところであります。本レース一番人気はこの馬を置いて他にはいないでしょう!史上初のクラシック四冠馬カミノライザン!ご覧ください、この雄大な馬体を!威風堂々、まさに死角なしといったところであります!前人未踏の領域へ向けて、この京都杯へと乗り込んできました!今日はどんなレースを我々に見せてくれるのでしょうか!》

 

 カミノライザンの紹介に入った途端、実況の声は興奮気味になる。その状態のまま、実況は続いていった。

 

《女王にばかり良い顔をさせるわけにはいきません。牡馬達も負けていないぞとばかりに気合十分であります!最強女王を崩すことができる牡馬は果たしているのでしょうか?2番人気はカミノライザンのライバルといえばこの馬でしょう、タニノムーティエ!前走の朝日チャレンジカップは古馬相手に大楽勝を収めました!今日も見せてくれるか?ムーティエ街道!3番人気はメジロムサシ!コツコツと勝利を積み重ね、セントライト記念は見事に2着!この京都杯を勝利することはできるか!各馬返し馬を済ませてゲートへと入っていきます》

 

 各馬続々とゲートに入っていく。タニノムーティエは4枠、カミノライザンは3枠に収まった。

 ゲートで気持ちを落ち着ける富永。1つ深呼吸をして、よしっという声とともに気合を入れなおした。

 静寂に包まれる京都競馬場。この瞬間だけは、誰も彼もが黙ってゲートが開くその瞬間を待つ。静かな、静かな時間が流れて──ゲートが開いた。それと同時に、馬達が一斉に駆け出す。

 

《ゲートが開きました!最後の冠菊花賞に向けた前哨戦京都杯!最強女王の牙城を崩すことができるでしょうか!まず好スタートを切るのはやはりカミノライザン!カミノライザンであります!カミノライザンがスーッと上がっていきます!カミノライザンがハナを切る展開か?……いやっ、ここはクリシバ、クリシバが行きました。クリシバがハナを切ります!カミノライザンは抑えた抑えた!やはり逃げ馬をじっくりと見る形!そしてカミノライザンの後ろにぴったりとアローエクスプレスとダテテンリュウの2頭。この2頭がカミノライザンをマークしています!》

 

 いつも通り絶好のスタートを切ったカミノライザン。クリシバがハナを切るのを見るとすぐさま控えて先頭を譲った。クリシバを見る形でレースを展開する。

 そのカミノライザンの後ろに2頭。ダテテンリュウとアローエクスプレスがつける。タマホープとメジロムサシが続いて、最後方から2番目の位置にタニノムーティエが着けていた。それぞれが自身の力を発揮しやすいポジションにつく。

 京都杯は、静かな幕開けとなった。

 

 

 

 

 

 

 富永は周りを確認する。カミノライザンの1馬身後ろにはアローエクスプレスとダテテンリュウ。こちらを睨むようにレースを展開する。外にはファストバンブーが待ち構えていた。

 

(やっぱり徹底マークの構えか……ただ、周りがそこまでじゃないってのが救いか)

 

 カミノライザンは現在2番手。ハナを切るクリシバの3馬身後ろにつけている。抜け出すのは容易だった。後はタイミングである。

 

(……ロングスパートだ。距離を離して、確認する)

 

 現在残り1000mを切ったところ。ここで富永は1()()()()()()()。ロングスパートをかけることにした。

 

《残り1000mを切りました。クリシバが先頭で逃げる形ですがっ、おっとここでカミノライザンが動いた!カミノライザンが動く!山が動いたぞ!これはまたもやロングスパート、皐月賞の再現であります!それにつられるようにアローエクスプレスとダテテンリュウも上がる!メジロムサシも同様に上がっていくぞ!外につけていたファストバンブーは、動かない!まだ仕掛けるべきではないと判断した!そして最後方タニノムーティエもじわりじわりと差を詰めてきております!》

 

 カミノライザンをマークしていたダテテンリュウとアローエクスプレスが引っ張られる。カミノライザンは前を走るクリシバとの差を詰めにかかっていた。

 クリシバは逃げているが、カミノライザンとの差はじわりじわりと詰まっていく。淀の坂を上って、()()()()()()()()()。その頃にはクリシバに並んでいた。

 淀の坂を下り終わり、カミノライザンはさらにギアを上げる。クリシバを躱して先頭に躍り出た。

 

《淀の坂をゆっくり下ります!淀の坂を各馬ゆっくりと下りまして、カミノライザンとクリシバが並んで走ります!そして淀の坂を越えてカミノライザンがクリシバを躱しました!カミノライザン先頭カミノライザン先頭!アローエクスプレスとダテテンリュウも躱す!まもなく最後の直線!最内を突いてカミノライザンが上がっていく!最後の直線先頭はカミノライザンだ!そして最後方からタニノムーティエが怒涛の追い上げだ!タニノムーティエもぐんぐん差を縮めております!》

 

 最後の直線で先頭に躍り出たのはカミノライザン。そこから1馬身程後ろにアローエクスプレスとダテテンリュウがくっついていた。

 各馬がなだれ込む。そんな中──大外から一際鋭い末脚で上がってくる影がある。

 

「うおおおぉぉぉ!?こ、ここでタニノムーティエがきたか!」

「余力たっぷりだから大丈夫だろ!逃げ切れライザーン!」

 

 タニノムーティエだ。まだ先頭を走るカミノライザンとの差は5馬身はあろうという差。その差を詰めにかかろうとしていた。

 皐月賞では届かなかった差、埋められなかった差だ。だが……今回は違う

 

「ぶちかませムーティエ!あのお嬢様の首元に──食らいつけやぁ!!」

 

 廉田はさらに鞭を入れる。タニノムーティエがその剛脚を轟かせて上がってきた。

 これには富永も肝を冷やす。

 

(っ!速い……!)

 

 タニノムーティエがぐんぐん差を詰めてくる。残り200を切って4番手のメジロムサシとタマホープを躱す。残り100を切って……力尽きたアローエクスプレスと必死に粘るダテテンリュウを振り切る。タニノムーティエの牙は──カミノライザンの喉元まで来ていた。

 

「くっ!」

 

 なんとか逃げようとするカミノライザンと富永。しかしタニノムーティエの末脚は今回のカミノライザン以上に速かった。

 

「あ~!?く、くんなやアホンダラぁ!」

「おっしゃあ!イケイケムーティエ!借りを返したれや!」

「マジか!?あそこから届くのかよ!」

「これはスゲェ末脚だ!ムーティエ街道大復活!」

 

 馬券が飛ぶ。残り50m──ついにタニノムーティエがカミノライザンに並んだ。

 

「お前らには絶対負けんぞ……トミィ!

 

 兄弟子の凄まじい気迫を受ける富永。タニノムーティエはそのままカミノライザンを躱して、先頭でゴールした。

 

《うわぁ~!これは凄い末脚だ!これは凄い末脚!タニノムーティエが最後方から全ての馬を躱した!直線一気のごぼう抜き!先頭を走るカミノライザンを今躱して!ゴール板を駆け抜けました!ムーティエ街道がここでも炸裂!これがムーティエ街道だ!どうだ思い知ったか!といわんばかりの末脚です!これにはカミノライザンも屈してしまった!京都杯を制したのはタニノムーティエであります!2着は半馬身差カミノライザン!3着にはタマホープが入りました!》

 

 京都杯を制したのはタニノムーティエ。カミノライザンは久しぶりの敗北を喫した。

 走るのを止めて、タニノムーティエと廉田をじっと見つめる富永。

 

(……成程。これが現在のタニノムーティエ、か)

 

 冷静に分析する富永。ここから菊花賞に合わせていく……そう考えていた。

 

「ようやったぞムーティエ~!」

「お前のせいで今日は負けや!しっかりきばれやライザン!」

「お前の自業自得やろがい!よっしゃ~!今日は当たったから気分がええで~!」

 

 スタンド席は阿鼻叫喚。当たって喜ぶ者がいれば負けて罵声を浴びせる者もいる。いつも通りの光景だった。

 京都杯を制したのはタニノムーティエ。しかしカミノライザンと富永は──不思議なぐらい落ち着いていた。

 富永は()()()()()を達成できた。これはかなりの収穫である。

 もっとも。

 

(菊花賞……本番は勝つ!)

(クッソ~!やっぱ悔しいわ!前哨戦だろうが負けたもんは悔しい!菊花賞で晴らしちゃるわこの気持ち!)

 

 内心、カミノライザンも富永も闘志を燃やしていたが。




前哨戦敗北である。まぁ2着。
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