俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

43 / 84
陣営のお話。京都杯後。


菊花賞に向けて・陣営

 京都杯はタニノムーティエの勝利に終わった。当たって喜ぶ者がいれば負けて泣く者もいるだろう。

 新聞は面白可笑しく書き連ねる。

 

【カミノライザンに暗雲!菊の冠はタニノが獲るか!?】

【炸裂ムーティエ街道!最強女王に一矢報いる!】

【カミノライザンはここまでか?タニノムーティエ逆襲の末脚】

 

 カミノライザンの五冠に暗雲が立ち込めるなど、好き勝手に騒いでいる。とはいっても、世間の反応は冷ややかなものだったが。ほとんどのファンは目を引くためのタイトルだと判断していた。

 

「まだ前哨戦負けただけやし!本番で勝てばええねん!」

「せやせや!ちゅーか、カミノライザンの父親は()()シンザンやぞ?」

「親父みたいにここぞ!っちゅう場面では勝つって決まっとるわ!」

「カミノライザンの五冠で決まり!こらもう確定的やわ!」

 

 中には菊花賞の勝利を確信している者もいるが……この京都杯の結果を受けて、タニノムーティエが勝つんじゃないか?という意見も一定数出てきている。中には穴馬に賭けようとしているファンもいる。

 

 

 そんな中で、タニノムーティエ陣営の谷瑞は京都杯の結果に満足……しているわけではなかった

 

「ええか廉田!まだ前座で勝っただけや……本番で勝たな意味ないねん!ちゃんと分かっとるやろうな!?」

「はいっ!」

「まだ前座を勝っただけや!これで満足して、本番取りこぼしました~なんてことになるのが一番アカン!菊花賞でカミノライザンを倒すために、死ぬ気で調整や!」

 

 京都杯を勝利したタニノムーティエ陣営。しかしまだ前哨戦を勝っただけだと。決して慢心はしなかった。大事なのは本番である菊花賞を勝つことであり、京都杯はあくまで前座……それが谷瑞達の意見である。

 ただ、京都杯の勝利がタニノムーティエ陣営にとって自信になったのは間違いない。きさらぎ賞から負け続きだったカミノライザンに、芝の2000mとはいえ勝ったことは事実なのだから。

 谷瑞と廉田は改めて話し合う。菊花賞を制するためにどうすればよいか?その前にまずは、京都杯の反省会をすることにした。

 

「正直に言うてみぃ廉田……京都杯のカミノライザンは()()()()()()?」

「……」

 

 谷瑞があのレースで漠然と感じていた違和感。それは──いやに素直に先頭(ハナ)を譲ったなということ。

 競り合いをするわけではない。追いつかれまいと必死になるわけではない。ただ、カミノライザンはあっさりと抜かれていったのだ。そのことが谷瑞の頭に引っかかっていた。

 その違和感は廉田も感じていた。考えて、廉田が辿り着いた答えは。

 

「おそらく、()()()()()()()()と思われます。ここはあくまで前哨戦、そう割り切って走っとったと思います」

 

 谷瑞と同じ、余力を残してのレースだったという事実だ。

 勝ちに行ってない、というわけではないのだろう。ただ、ここで勝つよりも次に勝つために徹したレースをしていた。それを裏付けるように、カミノライザン陣営はこちらを探るような動きを見せていたのだ。タニノムーティエがどこまで成長しているのか、実際に戦ってみてどこまでやれるのか……そのようなものを廉田は感じていた。

 舌打ちをする谷瑞。忌々しそうに吐き捨てる。

 

「まるで親父みたいやな……シンザンもそうやったって聞いとる」

「前哨戦は落としても、本番となる八大競走は絶対に勝つ馬やったですもんね」

 

 谷瑞達の脳裏に浮かぶのは、カミノライザンの父馬であるシンザンの姿。シンザンもまた、大舞台に強い馬だった。

 本番となる八大競走は絶対に落とさなかった神の馬シンザン。圧倒的な強さで八大競走のうち5つを制した。これは、現在牡馬が取ることのできるタイトルとしては最大である。シンザンの強さは、人々の脳裏に焼き付いていた。

 そして、その娘もまた似たようなレーススタイルをしている。無駄な力を一切使わずに、勝つべくして勝つ戦いをする。必要な時に必要な力だけを出して、余分な力を絶対に出さない走り……往年のファンは、カミノライザンの姿にシンザンを重ねていた。

 しかし、それがどうしたと。谷瑞は一切怯まなかった。

 

「菊花賞は初の長距離や。やけどムーティエのスタミナは折り紙付き……血統的にも問題あらへん。適性面では一切の不安がないわ」

「はい。それに、ハードトレーニングでスタミナをつけとりますから。3000mを走り切るんは容易やと思います」

「せや!向こうかてスタミナは自信あるみたいやけど……こっちかて同じや!」

 

 拳を握りしめる谷瑞。その目には闘志の炎が宿っていた。

 

「待ってろやカミノライザン……!これまでに受けた苦渋、全部お前に返したる!菊花賞を勝つんは俺らや!」

「それに、京都杯は()を出さずに済みましたからね。こっちもこっちで、手の内全部晒したわけやないですから」

「そうや!しっかり頼むで廉田ァ!」

 

 深く頷く廉田。菊花賞に向けて、万全の態勢を整えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって猛田厩舎。猛田と富永、そして保茂が京都杯の反省会をしていた。

 

「……んで?トミ。実際に走ってどうやった?」

 

 猛田の言葉。タニノムーティエと走ってみて、どのように感じたか?カミノライザンは……勝てるか?そう質問した。

 富永は、()()()()()()()()()に答えた。

 

「おそらくですが、実力は伯仲しています。タニノムーティエとカミノライザンの強さに、差はありません」

「ホンマに五分、っちゅうことか」

「それは朗報だね。ライザンちゃんとムーティエの実力は、そんなに変わらないってことか」

 

 頷く富永。

 あのレースで富永はタニノムーティエの実力を改めて測った。カミノライザンでどこまでやれるのか?差は開いているのか……それを確かめるために。

 きさらぎ賞、皐月賞、日本ダービー……どれもカミノライザンが勝ったが、これは展開や作戦に左右された面が大きい。実際の実力差は、万全の状態で走ってみないことには分からなかった。なのでこの京都杯という舞台で試した。カミノライザンの強さは、タニノムーティエにも劣らないかどうかを。

 結論としては──カミノライザンの強さはタニノムーティエに決して劣らないという事実。自身のお手馬というフィルターを抜きにしても、富永にはこの確信があった。

 

「皐月賞の時と同じような作戦を敢行しました。ロングスパートを仕掛けて、勝とうとしました」

「結果は半馬身差負け……やけども」

「はい。まだ()()()()()()()()()。こちらもまだ、手の内を全部明かしてはいません」

 

 カミノライザンはまだ余力を残した状態。本気で走れば、タニノムーティエにも決して劣らないだろう……富永はそう確信している。

 これが向こうの陣営に伝わっていなければ、菊花賞をは楽に勝てるだろう。もっとも……猛田と富永もそれだけはないと思っているが。

 

「向こうも気づいてるやろうしな~。こっちがまだ余力残しとること」

「というより、他陣営もでしょうね。姫があれほどあっさり負けるわけがないと思ってますから」

「ま~だろうね。というよりも、これまでのレースがあるからねぇ。絶対に警戒は緩めないでしょ」

「違いないですわ」

 

 カミノライザンは京都杯を本気で走っていない……それが共通認識になっているだろう。あくまでレース勘を取り戻すために出走した。それだけだと他陣営は判断しているかもしれない。それが猛田と富永の判断である。

 だからといってやることは変わらない。菊花賞に向けて調整し、万全の状態で送り出すだけである。

 そんな中、猛田は富永に問いかける。今度の菊花賞をどうするか?その考えを富永自身の口から聞きたかった。

 

「そんで……菊花賞どうする気や?トミ」

「どうする……とは?」

()()()()()()()()()()や。粗方考えてはおるんやろ?」

 

 猛田の言葉に考え込む富永。猛田は富永の言葉をじっと待った。

 しばらく無言の時間が流れる。やがて、意を決したように……富永が口を開いた。

 

「……策、と呼べるほどのものではないですけど。考え自体はあります」

「ええわ。聞かせてみぃ、お前の考え」

 

 富永は菊花賞をどのように走るかを語る。どのようにしてタニノムーティエに勝つか、そしてダテテンリュウにアローエクスプレス……強敵達を相手に、どのようにして勝利を収めるか。猛田と保茂に説明した。

 一通り説明が終わる。全てを聞いた後猛田は──射貫くような視線を富永に送る。保茂は驚いたように目を見開いた後、楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

「それが……お前の考えとることか?トミ」

 

 常人ならば気圧されるような視線。以前の自分なら怯んでいたであろう視線を受けて富永は──その視線を受け止めて、深く頷いた。

 

「はい。俺は大真面目にこの作戦で行くつもりです」

 

 またも流れる沈黙。今度は先程よりも早く、その沈黙は破られた。

 

「……策、っちゅうもんでもないわそれ。やけど」

 

 溜息を吐いてそう吐き出す猛田。だが……次の瞬間にはニッと笑った。

 

「面白いわ。ええで、お前のやりたいようにやりぃ」

「ッ!はい!」

 

 笑みを浮かべる富永。それに釘を刺すように、猛田は再度富永を睨みつける。

 

「やけど、ええか?次のレースはクラシックの五冠目がかかったレースや。クラシック五冠は俺らの目標や。負けは許されん……それを踏まえたうえで、お前はそれを実行するんやな?」

「……はい。なにより、勝つ自信はあります。絶対に、勝てるという自信が」

「良い自信だね~。うん、君にライザンちゃんの鞍上を任せて正解だったよ」

 

 富永を褒める保茂。彼に任せてよかったと、保茂は心からそう思っていた。

 作戦会議が終わり、今度はカミノライザンの調整になる。解散する前に、保茂は2人にお礼を言った。

 

「本当に、ありがとうございます2人とも」

「なんですか保茂さん?藪から棒に」

「カミノライザンのクラシック五冠ローテ……僕の無理なお願いを聞いてもらって、ありがとうございました」

 

 成程、と合点がいく猛田と富永。

 

「ここまでこれたのは、間違いなく猛田さん達のおかげです。だから、お礼を言っておこうと思って」

「ええですよ。今更そんな。それに、まだ菊花賞勝ってへんですから。菊花賞もきっちり勝って、大団円と行きましょうや!」

「そうですよ保茂さん!俺、絶対に勝ってきますから!」

 

 それに、と照れ臭そうに頬を掻く富永。

 

「どっちかといえば感謝しています。まだ新人の俺に、カミノライザンという素晴らしい馬と引き合わせてくれて」

「……」

「それに保茂さんは、カミノライザンのケアを一生懸命してくれたじゃないですか?温泉もそうですし、餌だってそうです」

「でも、それは当然じゃないかな?だって、僕が言い出したことだし」

 

 こともなげにそう答える保茂。だが富永と猛田は首を横に振った。

 

「そんなことないです。保茂さんがおったからこそ、ここまでこれたわけですから。俺らのうちだれか一人でも欠けとったらアカンかった……俺らがここまでこれたんは、全員がおったからですわ」

「言い出しっぺだとしても、保茂さんの力があったのは間違いないです。それは断言できます」

 

 笑顔でそう答える2人。そんな2人の様子を見て、保茂は──胸の奥があったかくなるのを感じた

 

(……なんだろうか?この気持ちは。凄く、覚えがあるような気がする)

 

 それは、クラシック五冠ローテを猛田陣営が受け入れてくれた時にも感じた。自分だけを批判してくれて構わない……そう告げた保茂に対して彼らは、保茂ばかりに責任は負わせない。自分達も責任は負うと言ってくれた。その時にも感じたあったかさを、保茂は今感じていた。

 ただ、その感情が何かは分からない。分からないけど……()()()()。保茂は思わず笑みを浮かべた。

 

「……うん!じゃあ、菊花賞を勝とう!」

「「おう(はい)!」」

 

 腹は決まった。後は菊花賞まで調整するだけである。




果たして策とはいかに?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。