俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

45 / 84
ついに始まる菊花賞。


俺と秘策と菊花賞

 京都競馬場。

 

「今日はどえらい日になるで~!間違いなく、最高の一日になるはずや!」

「当たり前やろ!はよ開かんかい!」

「前日入りしといてよかった~。これ、当日にきてたら間違いなく入れなかったよ」

「まだ開門前なのにどんだけ人がいるんだよここ。ま~仕方ねぇけど」

「せや、仕方ないねん。今日は間違いなく!とんでもない日になるからな!」

 

 日本ダービーの時同様、開門前から大勢のファンが詰め寄っていた。その人数は京都競馬場のキャパを悠々と超えるほどに。

 そして訪れた開門の時。

 

「開門で~す!押さないで、走らないで入場するようお願いしま~す!」

 

 開門と同時に、人々は京都競馬場になだれ込む。転んでしまったらひとたまりもないだろう……そう思わせるほどに。

 案の定、京都競馬場のキャパはあっという間に埋まってしまった。入れなかったファンは憤りを見せている。

 

「どないなっとんねーん!入れろやー!」

「わざわざここまで来たんだぞー!」

 

 怒号が飛んでいるが、入ることは不可能。なので仕方なく帰る者もちらほらと現れる。この時京都競馬場に集まった人数は優に20万人を超えていた。

 

 

 さて、運よく京都競馬場の激戦を制したファン。彼らは第1Rから見ているが……心のうちは一緒である。

 

「早くメインレースの菊花賞が見たい!」

 

 そう心に思いながら、目の前のレースに集中していた。

 そして──ついに菊花賞が来る。パドックは感嘆の声が漏れていた。

 

「おぉ……!ええやないかカミノライザン!こら絶好調やな!」

「ライザーン!お前の五冠楽しみにしとるで~!」

「凄い馬体や!輝いて見えとるわ!」

 

 カミノライザンのパドック。青毛の馬体が輝いているように見え、全く問題があるように見えない。まさしく、絶好調といってもよいだろう。ファンの期待は嫌でも高まるというもの。他の馬よりもカミノライザンという馬に魅了されていた。

 タニノムーティエやアローエクスプレス、ダテテンリュウらも馬体に異常はない。全馬絶好調に見えていた。

 パドックを終えた馬達。今度は京都競馬場のターフに姿を現す。返し馬を済ませていた。各馬の動きに注目しているファンのところに、実況の声が聞こえ始める。

 

《天気はあいにくの曇り空。しかし、それを吹き飛ばすほどの会場の熱気。この熱気が、伝わるでしょうか?おそらく画面越しにも伝わっているでしょう。京都競馬場芝3000m、クラシック最後の戦い菊花賞。各馬順調に返し馬を済ませております。馬場の状態は稍重、少し、タフなレースになるでしょうか?》

 

 淡々と実況していくアナウンサー。しかし次の瞬間、興奮気味に語り始める。

 

《やはりみなさん気になっているでしょう。本レースの一番人気、カミノライザン!史上初のクラシック四冠馬、さらには血統も超良血ということが判明しました彼女。ご覧ください、この雄大な馬体を!馬体重は523kg、青毛の馬体が曇天の中でも輝いて見えます!前走は敗北したものの全く問題なし!それを裏付けるように、この菊花賞での単勝支持率は驚異の81.1%!この支持率はやはりすごいカミノライザン!私一推しの馬です!》

 

 少し私情が入り混じっているようなコメント。その後もゲートインの時間まで紹介が続く。

 

《対抗として挙げられるはやはりタニノムーティエ。カミノライザンのライバルといえば、やはりこの馬を置いて他にいないでしょう。同じ関西所属の最強牡馬、前走ではムーティエ街道炸裂、見事に勝利を収めました。しかし陣営のコメントは本番で勝たなければ意味がない、とのコメント。スパルタの逆襲なるか?さらには東の総大将アローエクスプレス。本レースの4番人気。やはり距離に不安が残るレースとなります。3000mを走り切ることができるでしょうか?そして3番人気のダテテンリュウ、ダテテンリュウであります。抜けた人気を誇る2頭、そのすぐ後ろにダテテンリュウ。ダービー3着の実績持ちです》

 

 発走の時は刻一刻と迫っていた。

 

 

 カミノライザンに騎乗する富永。カミノライザンにかかる期待、偉業を前にして緊張しているかのように思われたが──富永に緊張はなかった。それはきっと、カミノライザンという馬が自分に安心を与えてくれるからだろう……富永はそう思っていた。

 

(大丈夫さ。俺と姫ならやれる……今回の走りだって)

「よし、頑張ろうか姫。この菊花賞を取って……お前が最強だってことを教えてやろう」

「ブルル」

 

 鳴いて応えるカミノライザン。富永も思わず笑みが零れる。

 そんな富永達を睨みつける他の騎手達。やはりというか、最重要で警戒されているのはカミノライザンだった。

 タニノムーティエの騎手、廉田は1つ深呼吸をして気持ちを落ち着ける。今回、対カミノライザン用の策を確認する。

 

(大丈夫……大丈夫や。やれる、絶対にやれる!)

「っうし!気合入れていくで!絶対にアイツらに五冠は達成させへんぞ!」

 

 気合を入れる各陣営。返し馬が終わり、ゲートインの時間がやってきた。係員の誘導のもと、ゲートへと入っていく。

 

 

 保茂はこの様子を現地で見ていた。猛田達とともに、静かに見守っている。

 

「……」

 

 保茂の頭の中にあるのはカミノライザンの勝利ともう一つ……カミノライザンから出された宿題のようなもの。

 

(自ずと分かる、か)

 

 なぜあったかくなるのか、分からない。ただ、このレースを見ていれば自ずと分かるだろう……保茂はそう考えていた。

 

《各馬ゲートへと入っていきます。出走は17頭、偉業がかかったこの一戦を彩る優駿達であります。4枠に収まるカミノライザン、果たして今日はどのようなレースっぷりを魅せてくれるのか?天才富永の騎乗にも注目したいところであります。弟弟子には負けられない、タニノムーティエに騎乗する廉田も気合十分。西にばかり良い顔はさせられない、アローエクスプレス筆頭に東の馬達も気合が入っております。ゲートインは順調、さぁどのようなレースになるのか?運命の一戦菊花賞、まもなく発走となります》

 

 ファンが静かに見守る中、各馬ゲートに収まる。全馬ゲートに収まったことを確認すると、係員達は即座にゲートから離れていった。

 係員がゲートから離れ、前に誰もいなくなる。その一瞬の後──ゲートが開く音が響いた。各馬が一斉に飛び出す。

 

《──さぁスタートしました!五冠の偉業か、スパルタの逆襲か!はたまた東の意地を見せるか!?運命の菊花賞が今始まります!》

 

 菊花賞が始まった。

 

 

 

 

 

 

まず飛び出したのは最内のシュウチョウ。綺麗なスタートで飛び出すと瞬く間にハナを取ろうとした。そこに外からもう一頭、シバデンコウが行く。カミノライザンは綺麗なスタートを切り、シバデンコウを風除けにして進んでいた。

 シュウチョウは外からシバデンコウが上がってくるのに気づき控える。シバデンコウがハナを取った。

 

《内からシュウチョウ、外からシバデンコウが行きます。シバデンコウが外からハナを取りました先頭はシバデンコウであります。各馬1度目の坂を上ります。シバデンコウの2馬身後ろにカミノライザン、カミノライザンが2番手そして3番手はこれはびっくりだタニノムーティエ!タニノムーティエ今日は先行策だ!カミノライザンをぴったりとマークしている!果敢に行きますタニノムーティエ!そしてタニノムーティエの後ろ4番手の位置にアローエクスプレスだ。シュウチョウとトワダホマレがこの位置につけております。坂を下る各馬、カミノライザンを徹底マークする構えだタニノムーティエ。これが吉と出るか凶と出るか!》

 

 普段は後方に控えるタニノムーティエがカミノライザンの後ろにつけている。観客はわずかにざわめいた。

 

「おいおい、ムーティエ先行策かいな!」

「まぁ五分のスタート切っとったしえぇんちゃうか?」

「まさか前でも決まるのか?ムーティエ街道!」

 

 カミノライザンを徹底マークする構えを見せるタニノムーティエ陣営。その目に迷いはなかった。

 

(こちとら前でも競馬できんねん。例えお前らかて、こんだけマークされとったら嫌でも意識するやろ!)

 

 カミノライザンをマークしているのはタニノムーティエだけではない。すぐ内まで上がってきたアローエクスプレスに外にシュウチョウとトワダホマレ。やはりカミノライザンはかなりの馬からマークを受けていた。

 尋常じゃないマークの量。普通ならばかなりキツい状況だろう……()()()()()

 

「……好都合だ

 

 富永は全く焦っていない。カミノライザンも同様だ。非常に落ち着いてレースを展開している。その様子を見て廉田は舌打ちをしそうになった。

 

(クッソ……こいつら全然動じてひんやんけ!今までのレースから薄々察しとったけども!)

 

 それならこのマークを継続するだけだ。幸いにもタニノムーティエとの折り合いはついている。廉田達も問題はなかった。

 淀の坂を下って1週目の第4コーナーを曲がる。逃げるシバデンコウを見るように内からアローエクスプレス、外にはシュウチョウとトワダホマレ。さらにはケイシュウも上がってきた。その真ん中に、カミノライザンとタニノムーティエがつけている。

 

《各馬スタンド前の直線へと入ります。先頭で入ったのはシバデンコウ。シバデンコウが逃げておりますリードは3馬身はあるでしょうか?その後ろ内にアローエクスプレスとケイシュウ、外にはシュウチョウとトワダホマレ。真ん中にカミノライザンとタニノムーティエの2頭がおります。タニノムーティエはカミノライザンの1馬身から2馬身以内に収まっている。この先行集団を見るように2馬身後ろ、ダテテンリュウだ。ダテテンリュウはこの位置につけている》

 

 スタンド前を走った時、一際大きい歓声が飛ぶ。

 

「頑張れー!」

「偉業を見せてくれや~!ライザ~ン!」

「そろそろ大レースで勝ったれムーティエ!」

「西に負けてばっかりじゃだめだぞー!」

 

 それぞれが応援している馬に期待を寄せる。その期待を受けて、馬達は走る。

 スタンド前から第1コーナーへ向かう。丁度スタンド前半分、この時点で隊列は落ち着いた。後は自分達のペースを守って走るだけである。

 

「……」

 

 その時富永は自身の外にいたシュウチョウを煽る。追い抜かすそぶりを見せて、シュウチョウの闘争心を煽った。

 これにあてられたシュウチョウはペースアップをする。騎手が必死に折り合いをつけようとしているがもう遅い。

 

「くっ!」

 

 抑えるのはダメだと判断したのか、騎手はカミノライザンをマークするのを止め、前を走るシバデンコウに狙いを定める。シバデンコウとの差を詰め、同じく逃げる形をとった。

 

《ここで先頭は変わります。先頭は……いや、シバデンコウ、シバデンコウであります!シバデンコウの後ろにシュウチョウ、シュウチョウがつきました!シバデンコウの1馬身後ろにシュウチョウが2番手、3番手は内を通ってアローエクスプレスとケイシュウ!その外にカミノライザン、トワダホマレ!カミノライザンとの距離は一定を保っておりますタニノムーティエが7番手!タニノムーティエから遅れて2馬身の位置、この位置にダテテンリュウ!ダテテンリュウと差はなくネバーフォードとタマホープの2頭が続く!タマホープの1馬身後ろにメジロムサシとニューペガサス!各馬第1コーナーへと入ります!》

 

 各馬が第1コーナーに入っていく。菊花賞はまだまだ始まったばかりだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。