俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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成し遂げた偉業。


俺と偉業とあったかさの答え

 大歓声に包まれる京都競馬場。勝者を讃え、涙を流す者もいる。

 

「う、うおおおぉぉぉ……!ホンマに、ホンマにえらいこっちゃやでぇ……!」

「まさか、まさか本当にやり遂げちまうなんてよぉ!」

「ゆ、夢じゃねぇ。夢じゃねぇんだ!本当の本当に、やり遂げたんだ!」

「おめでとーうライザーン!おめでとーう!」

 

 この菊花賞の勝利をもって――カミノライザンはクラシック五冠という偉業を成し遂げた。誰もが無理だと断言した挑戦に、誰もが諦めろと吐き捨てた理想が……実現された瞬間である。その感動から涙を流す者も少なくない。

 

《うわ~、やったやった!やったやったカミノライザン!カミノライザンがやり遂げました!ついに成し遂げたクラシック五冠の大偉業!この先も語り継がれるであろう偉業を手にし堂々と!堂々とたたずんでおります!苦しかった日々がありました、辛い日々もありました!しかし、しかし!その苦難は今日この日のためにありました!阪神の桜に始まった長い旅!中山の皐月と、府中のオークスとダービーと!そしてこの京都の菊の冠で!ついに終着点を迎えました!長い長い旅の一つが今!終わりを迎えましたカミノライザン!ありがとうカミノライザン!我々に夢を魅せてくれて!そしてこれからも夢を魅せてくれカミノライザン!》

 

 カミノライザンの鞍上である富永紘一は俯いている。その目には涙が見えていた。

 

「やったな姫……やったなっ!」

 

 己の相棒と一緒に勝利を分かち合う。カミノライザンはすでに走るのを止めていた。

 調教師である猛田、馬主である保茂も歓喜から抱き合って喜んでいた。

 

「は、はは!やりおった!やりおったでアイツ!ホンマにやりおった!」

「えぇ、えぇ!富永君とライザンちゃんがやってくれました!」

 

 勝利を分かち合う2人。ついに成し遂げた偉業を前に、子供のようにはしゃいで喜んでいた。

 

 

 廉田は天を仰ぐ。涙すら出てこなかった。

 

「……ハッ」

(得意の戦場を用意してもろてこの様、か。ホンマに滑稽やわ……俺は)

 

 届かなかった。自分達の得意分野で挑んでなお、カミノライザンには届かなかった。その事実が、重くのしかかる。

 ……だが、少しだけ。()()()()()()()()()()を感じていた。

 

(全力出させてもろて、全力のぶつかり合いができた。こんな勝負、騎手やっとって早々できるもんやない)

 

 この真っ向からのぶつかり合いができたのは、間違いなく富永達のおかげだ。熱く、燃え上がるような勝負。負けても清々しさすら感じるこの勝負に……感謝の気持ちがあった。

 しっかりと富永を見据える。ぼそりと、呟いた。

 

「おめでとさん、富永。今は……お前らの事祝福したるわ」

 

 優しい目で、弟弟子が成し遂げた偉業を――祝った。

 

 

 ダテテンリュウの騎手も、涙が出てこなかった。

 

(完敗、だ……漁夫の利なんて、とても狙えるもんじゃなかった)

 

 人気はカミノライザンとタニノムーティエに集中しているから勝てるかもしれない。人気薄の隙を突いて、自分達にもチャンスがあるかもしれない……()()()()()()()()()

 自分達は意識の差で負けていた。漁夫の利で勝つ、そう思っていた時点で、この敗北は必然だったのかもしれない。そう思わせるような激闘を2頭は繰り広げていた。ダテテンリュウも結果的にタニノムーティエから遅れること1馬身差の3着。健闘したといえるだろう。

 だが、あまりにも遠い1馬身差……そう思わざるを得なかった。

 

「……うし!いつまでうじうじしてても仕方ない!気持ちを入れ替えて再出発だ!」

 

 頬を叩いて気合を入れる。ダテテンリュウもこれからだ……そう思い、心機一転頑張ることにした。

 

 

 

 

 

 

 勝者にインタビューするために集まる報道陣。猛田と保茂も合流し、インタビューが行われていた。

 

「おめでとうございます!ついにやりましたね!」

「えぇ、ホンマに、ホンマにようやってくれましたわ。正直やった~!ッて感情はさっき吐き出してもうたんで、今は肩の荷が下りた気分ですわ」

「オーナーはやはり、カミノライザンだからこそやってくれたと!?」

「そりゃあ勿論です。このローテはライザンちゃんだからこそできるって思ってました。だから突き進むことができたんです。ここまで付き合ってくれた猛田さん達にありがとうって伝えたいですね」

 

 滞りなく進んでいくインタビュー。その中で保茂は疑問が解消できずにいた。

 カミノライザンから言われたこと……菊花賞を見れば分かると言われた、あの時の言葉。どうして自分の胸があったかくなるのか、その理由を。

 

(結局、分かんないままだったな~)

 

 これが終わればライザンちゃんに聞いてみよう、そんなことを思いながらインタビューを受ける。

 

「ところで保茂オーナー!カミノライザンの血統に関してなのですが!」

「あ~ゴメン、それは企業秘密ね。ただ違法なことは本当にやってないから。そこだけは誤解のないように」

「え~!?」

 

 全員が気になっているであろう血統問題は企業秘密を貫く。別に隠すようなことでもないが、教えるのは面倒だということで教えないことにした。

 インタビューが一区切りすると、今度は写真を撮ることになる。ここで保茂は、笑みを浮かべながら()()()を取り出した。それは、箱のようなものである。

 

「ふっふっふ……」

「なんです?保茂さん。そないな笑みを浮かべて」

 

 頭に疑問符を浮かべている猛田と富永をしり目に、保茂は箱を開けて中身を広げた。中に入っていたのは――桜花賞・皐月賞・オークス・日本ダービーの優勝レイである。

 楽し気に語る保茂。

 

「これをライザンちゃんに全部かけようって思ってね~。せっかく五冠を達成したんだし、派手に行きたいじゃない?」

「なんちゅうか……子供っぽいこと考えますね」

「まぁ良いんじゃないですか?ちょっとかけるのに手間取りそうですけど」

「じゃあけって~い!」

 

 こうして菊花賞の優勝レイをかけた写真を撮った後、5つの優勝レイをかけた写真を撮ることになる。その際に。

 

「それじゃ、みんなでかけていきましょうか!」

「え?みんなで?」

 

 思わず口に出す保茂だが、猛田達は当然とばかりに答えた。

 

「そりゃあそうですよ。だってこの偉業は――みんなで掴んだものですから

「そうですよ保茂さん。みんながおったからこそクラシック五冠を成し遂げられた。誰か一人でも欠けとったら無理やったかもしれん。やから、みんなでかけましょってことですわ」

 

 みんなで掴んだもの――その言葉を聞いた瞬間、保茂の心はまたあったかくなって……そして、()()()()()()()()()()

 

(あぁ……そっか……)

 

 保茂は答えに辿り着いた。どうして自分の心があったかくなったのか、その理由に。

 保茂は神様だった。神様というのは大体のことは自分でやることができる。保茂とて例外ではない。誰かの力を借りずとも、自分の力でどうにかできてしまうのだ。だからこそ、他人の力を借りることなどほとんどない。

 保茂も誰かの力を借りたことがなかった。しかし、人間として転生したからにはそうもいかなかった。

 人間は一人でどうにかするには限界がある。保茂に調教師の真似事はできないし、騎手として手綱を握り鞭をふるうこともできない。こればかりは、誰かの手を借りるしかないのだ。

 保茂にとって経験したことがないことなのだ。誰かの力を借りて、みんなと一緒になって1つの目標に向かって走るということは。

 ようやく思い至った。この答えに辿り着くことができた。答えは、とても単純(シンプル)だった。

 カミノライザンが保茂に語りかける。4つの優勝レイをかけて、残り1つ……保茂が持つ、菊花賞の優勝レイを待ちながら。

 

『よう保茂。答えは――出たか?』

 

 そう質問するカミノライザンに、保茂は――気づけば涙を流しながら、答えた。

 

「……うん。分かったよ……()()()()()()()()()()()()()()()

『そうかい』

 

 カミノライザンがニッと笑ったような気がする。彼女は保茂(ともだち)に告げた。

 

『悪かねぇだろ?誰かと一緒に、何かを成し遂げるってのはよ』

 

 その言葉に、保茂は頷いて。

 

「うん……そうだね……っ!」

 

 涙を流しながら、菊花賞の優勝レイを。カミノライザンにかけた。

 

 

 

 

 

 

 写真も撮り終わり、またインタビューの時間に戻る……前に。保茂はカミノライザンと話していた。

 今は猛田と富永へのインタビューに集中しているため、2人に気づく者はいない。

 

「……ねぇ、ライザンちゃん」

『あん?どうしたよクソ神』

 

 気づいたら呼び方はいつものに戻っていた。苦笑いするが、すぐに気を取り直す。

 

「僕はさ、これで終わってもいいと思ってたんだ」

『あ~気持ちは分からんでもない。俺達の大目標は達成したわけだからな』

 

 同意するカミノライザン。気持ちは同じだった。

 目的は達成した。クラシック五冠という果てしない偉業を成し遂げて、()()()()退()()()()()()と思っていた。

 ……しかし。保茂の気持ちは、今は違った。

 

「ライザンちゃん。僕はさ、もっと夢を見たくなったよ」

『おうどうした?クラシック五冠なんてアホみたいな目標達成したんだ。今だったらどんな目標も可愛く見えるぜ』

「そう?じゃあさ……」

 

 深呼吸を一つして、保茂は宣言する。新たな目標を。

 

八大競走の事実上完全制覇。天皇賞と有馬を勝って、さらに偉業を増やそうか」

 

 保茂の提案に、カミノライザンは笑う。

 

『良いじゃねぇか!乗ったぜその夢!』

「じゃ!新たな目標が決まったね!」

 

 ルンルン気分で、足取り軽く記者達のもとへと向かう保茂。どうやら丁度良いタイミングだったらしく、猛田と富永からも質問された。

 

「ええとこ来ましたわ保茂さん!この先の目標はどないするんです?」

「次の目標はどうするんですか?勿論天皇賞と有馬ですよね!?」

「このまま繁殖牝馬になるという道もありますが、保茂オーナーとしてのご意見は!?」

 

 繁殖牝馬、という言葉が聞こえたのかカミノライザンはびくぅ!と反応した。その反応が見えていた保茂は笑いそうになるが、猛田達の質問にしっかりと答える。

 

「そうだねぇ、ライザンちゃんのこの先ね。()()()()()()()()

「「「おおっ!」」」

「し、して!その目標は!?」

 

 息を吸って、盛大に発表する――今後のカミノライザンの目標を。

 

「天皇賞と有馬を制して、八大競走の事実上完全制覇を成し遂げる。それが新しい目標。だから来年も現役を続行するつもりだよ」

「「「……」」」

 

 一瞬呆ける記者達。言葉を理解したその瞬間、歓声が湧き上がる。

 

「「「うおおおぉぉぉ!!」」」

「やっぱりか!やっぱそれ目指すよな~!」

「こりゃ来年も楽しみだな!早速新聞を刷るぞ!」

「おい!情報追加で入れとけ!カミノライザンは来年も現役続行だってな!」

 

 慌ただしく動く記者達。保茂は天を仰いで、確信した。

 

(うん……本当に、みんなに出会えてよかった)

 

 空は、保茂たちを祝福するように――晴れ渡っていた。

 

 

 

カミノライザン、クラシック五冠達成




これにて本編は終了。次回からはエクストラステージです。
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