俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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来年の目標とか諸々。


EX.STAGE
俺と休養と来年度


 伝説の一戦となった菊花賞。その興奮は当分冷めることはなかった。

 

「いや~、やっぱ凄かったよな~!あの菊花賞は!」

「せやせや!あんなレース、そうそう見れるもんやないで!」

「ライバルを真っ向から打ち破ったんだからな。ありゃケチもつけられねぇよ!」

「本当に凄いレースやったわ~……今でも興奮が冷めんで」

 

 酒屋などではこの菊花賞の話題で持ちきりであり、やれ素晴らしいレースだったと後世に残すべきベストバウトだと盛り上がっていた。その話から派生し、タニノムーティエも強かった、アローエクスプレスは適正距離ならあるいは、ダテテンリュウもこれから先に期待ができる等……仲間内でカミノライザンと同じ世代の馬に思い思いの評価を下していた。

 そんな中でふと湧いた疑問。カミノライザンの次走はどうなるのか?というものである。

 

「こら有馬に直行やろ!」

「いや、有馬には向かわへん言うてなかったか?」

「でもそれ菊花賞前だろ?八大競走の完全制覇を目指すわけだし、有馬に出走するだろそりゃ!」

「いや~、どうだ?でもスピードシンボリと走ってるとこ見てみたいよな!」

 

 菊花賞を走り終えたカミノライザン。その次走は有馬記念になるんじゃないか?というものである。八大競走の一つであり、馬主である保茂が目標の一つに掲げているレースだったはずだ。

 なら当然、走るのではないか?そう思われていたが……菊花賞から1週間が経ったある日。その思いは打ち砕かれることになる。

 

「カミノライザンは年内いっぱいは休養します。次のレースは来年度ですね」

 

 保茂は新聞にそうコメントを残した。中には有馬記念に出走しろ!と署名する者もいたが……それを保茂が聞き入れることはなく。

 

「そう言われても、もう放牧に出しちゃったからね~。今更戻ってこいっていうのも酷だから諦めてね?」

 

 軽い調子で言い放った。

 まぁ、ここまでカミノライザンは過酷なローテで走ってきた。年内休養も妥当な判断だろう。最初こそ憤っていたファンも、冷静になってみれば当然のことだと気づきすぐに鎮静化した。

 ちなみにだが。この菊花賞勝利に()()天皇陛下が祝辞の言葉を贈った。それを知ったカミノライザンは放牧地でひっくり返りそうになったらしい。報せたのは勿論保茂である。

 

『お、お、おおお、おまっ!?おまえっ!?なんで天皇陛下が俺に言葉を贈るんだよ!?何、そんなに俺の血統ってヤバいの!?』

「まぁそうだね~。具体的には~……」

 

 そして自分の血統を聞いてさらにひっくり返ったのはここだけの話である。ちなみにニュースを見ていた猛田達も吹き出すほどに驚いていた。

 

 

 そして来る有馬記念。カミノライザンと同世代であるダテテンリュウとアローエクスプレス。そしてタニノムーティエが出走したこのレース。対抗として挙げられたのは夏の上り馬アカネテンリュウに天皇賞・秋を制したメジロアサマ*1、そして【老雄】スピードシンボリ*2である。

 結果は──

 

《スピードシンボリ巻き返す!スピードシンボリが巻き返すがタニノムーティエも負けじと粘る!ダテテンリュウも突っ込んできた!アローエクスプレスはやはり持たない!やはりスタミナが持たなかったアローエクスプレス!アカネテンリュウはどうか!?アカネテンリュウも苦しいか!スピードシンボリとタニノムーティエ!そしてダテテンリュウのみつどもえ決戦!スピードシンボリ!タニノムーティエ!ダテテンリュウ!並んで今ゴールイン!》

 

 スピードシンボリとタニノムーティエ、ダテテンリュウがゴールまでもつれ込む展開。結果は写真判定に委ねられる。

 

《……今っ、結果が出ました!勝ったのは──スピードシンボリ!スピードシンボリだ!【老雄】が年末の大一番、有馬記念を制しました!タニノムーティエとダテテンリュウは惜しくもハナ差で敗れる!スピードシンボリなんと!史上初の有馬記念二連覇たっせぇぇぇぇい!》

 

 有馬記念を制したのはスピードシンボリ。史上初の有馬記念連覇であり、8歳での八大競走制覇も初である*3。ダテテンリュウとタニノムーティエは惜しくもハナ差で敗れた。

 

「勝った馬が強かった。それだけですわ」

 

 両陣営ともそうコメントを残している。

 年末の大一番も終わり、後は新年を迎えるばかりとなった。

 

 

 

 

 

 

 さ~てさて。菊花賞後に帰ってきたぞ久しぶりに!俺の生まれ故郷によぉ!

 

「三姫~!お前というやつはっ、お前というやつはッ!」

 

 うお、牧場長のおっさんめっちゃ泣いてる。というか、牧場の人たちみんな泣いてるな。

 五十嵐さんは俺に抱き着いてくる。力一杯抱きしめていた。

 

「よくやった、よくやったぞ三姫!よく頑張ったな!」

「ここではゆっくり休んでくれよ?ゆっくり休んで、来年からまた頑張ろう!」

 

 おうよ、勿論そのつもりだぜい!

 その後も俺の歓迎ムードは続いた。お疲れ様とかゆっくり休んでくれとか来年に向けて英気を養ってくれとかたっくさん言われたわ。もうね、本当に嬉しいね。頑張ってきた甲斐があったってもんだ。こう、あったかいわ本当に。

 

(心配かけたのも確かだしな~。来年度はどうなることやら)

 

 多分保茂もここに来るだろう。そん時にまた詳しい話でもするか。

 そんな俺は早速放牧地へ。放牧地に行くと──懐かしい姿が見えた。

 

(あそこにいるのは……間違いない。俺の、母馬だ)

 

 月海母さん。本当に久しぶりに見た。久しぶりに見たけど、確かに覚えている。ま、乳離れ以来会ってないから、向こうは俺のこと覚えてない可能性の方が高いだろう。刺激しないように遠くへ行こう……そう思っていたら。

 向こうが俺に気づく。そしたら、こっちへと()()()()()()()()()

 

『は?え?』

 

 思わず戸惑っていると、月海母さんは俺のところで立ち止まる。ここでもう、俺以外の別の馬のとこに行こうとしていたという線は消えた。月海母さんは間違いなく、俺のところに来たのである。

 俺をジッと見た後、何も言わずに傍にいた。ただ隣に寄り添って、機嫌が良さそうに鳴いて。俺の近くにいるだけである。

 

(……あぁ。なんというか、()()()。こういうの)

 

 別に言葉を交わしたわけじゃない。でも、なんとなく察することができる。月海母さんが何を考えているのか、何を思って俺のところに来たのか。

 お疲れさまというねぎらいの言葉があるわけじゃない、心配かけやがってとか怒るわけでもない。それでも確かに感じる──母さんのぬくもり。目頭が熱くなる。

 俺は月海母さんと並んでゆっくりする。親子水入らずの、ゆっくりとした時間を過ごす。

 

「五十嵐さん。そろそろ月海の放牧時間が」

「……ゆっくりさせてやろう。久しぶりの親子の時間だ」

 

 こっちに帰ってきている間。俺はほとんどの時間を月海母さんと過ごしていた。元気にしているようで何よりである。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで。こちらでの放牧も1か月が経過したある日のこと。

 

「や~や~ライザンちゃん。元気に休めているかい?」

『なんじゃそのフレーズは』

 

 保茂が牧場を訪ねてきた。うん、久しぶりだな。結局コイツここまで一度も来なかったし。そんだけ忙しかったのだろう。

 保茂からいろんな話を聞いた……天皇陛下が俺の活躍に祝辞を送ったとか俺の血統とかいろいろ聞いてひっくり返りそうになったがそれはそれだ。というかガチでびっくりしたわ。俺の血統シンザンとセントライトだけで済む問題じゃなかったのかよ。ガチモンの超良血馬じゃねぇか俺。びっくりしたわ。今まで気にしてこなかった俺も。

 積もる話はそれぐらいにして。本題に入る。

 

「んで、ライザンちゃん。来年度の目標なんだけども」

『お!来ましたかい!どうする気なんだ?』

 

 俺の来年度の目標!主目標は八大競走の事実上完全制覇だが、それ以外のレースも気になるんだよな!はてさて、何を目標にすんのかね~?

 あ、ちなみに()()()の言葉の意味だがこれは単純だ。この時の天皇賞は勝ち抜き制ってものがあって、一度天皇賞に勝つと二度と出走できないというルールがあったからだ。確か、天皇賞を勝った馬が再度同じ競走に出走して敗れるようなことがあってはならない、優勝馬の品位を下げないため……とかそんな理由だったはず。ただこの制度、批判の数もそれなりにあって、最終的には1981年ぐらいに勝ち抜き制は廃止、一度勝っても再度出走できるようになった。

 そんな天皇賞だが、位置づけ的には古馬最高峰のレース。古馬は基本的にこのレースを目標にレースを走ってくるぐらいだ。俺の目標も当然、この天皇賞になる。

 

「個人的には春天の方に出走したいんだよね~。秋には()()()()()考えてることがあってさ~」

『それは別にいいがそのいろいろについて早く話せ。可及的速やかに!』

 

 春天の方に出走するのは別に構わん。文句はない。だがいろいろと考えてることがあるとはなんだ?いやな予感しかしねぇぞおい!

 保茂はニコニコと、それはもう素晴らしい笑顔を崩さずに教えた。

 

凱旋門賞。知らないわけがないよね?ライザンちゃん」

『いや、それ知らないはずがねぇだろ。競馬ファンならまず知っていることだし』

 

 凱旋門賞。世界のホースマンが憧れる、まさに世界最強決定戦といってもいいレースだ。ヨーロッパ最高峰のレースであり、芝の中距離の頂点とされることだってある。歴史も古いし権威もある。このレースを勝つことは最高の誉れといってもいいだろう。

 ……待て、コイツまさか!?

 

『俺を凱旋門賞で走らせようとしてんじゃねぇだろうな!?』

「あったり~!」

 

 あったり~、じゃねぇよ!拍手してんじゃねぇよ腹立つな!

 

『ふざけんなおい!凱旋門賞って日本馬勝ってねぇだろうが!俺が死んだ後のことは知らんが!』

「大丈夫だよ。あの後も勝ってないっぽいし」

『あ、そうなの?それはなんか悲しい……じゃねぇよ!まぁこの際輸送の問題は後回しにしておいてやる。だけどな!』

 

 来年は1971年!この年の凱旋門賞馬といえば!アイツだろうが!

 

『ミルリーフに勝てっつってんのかテメェ!』

「そうだけど?」

 

 ミルリーフ!1971年の英ダービー馬にして日本では欧州三冠と呼ばれる英ダービー・キングジョージ・凱旋門賞を同一年制覇した初めての競走馬!歴史的にもラムタラと合わせて2頭しかいない快挙を成し遂げてる馬だぞ!?

 

「だって春天勝ったら出走できるレースほとんどないんだもん。斤量の問題もあるしさ~」

『ないんだもん、じゃねぇよ!てかこの年はブリガディアジェラードだっているだろうが!』

「大丈夫だよ!ブリガディアジェラードは凱旋門賞には出走しないからね!」

 

 そういう問題じゃねぇよバーカ!

 

「あ、ちなみにローテ的には凱旋門賞の後はワシントンDCインターナショナルね。多分というか絶対に招待されるだろうし。その後に有馬かな~?」

『来年も来年でクソハードなローテ組むんじゃねぇよ!?』

 

 何?フランスの凱旋門賞に出走した後はアメリカのワシントンDC!?その後に有馬だと!?ふざけてんのかテメェ!

 

『確かにできるだろうが、クラシックの時とほぼ変わんねぇだろ!輸送のこと考えたら!』

「まぁ一理あるね」

『だろ!?だからさぁ』

「え、なに?怖いの?ライザンちゃん」

 

 ……なんだと?

 

『そうは言ってないだろ』

「いや~、僕にはそう言ってるようにしか聞こえなくてね~。そっか~、ライザンちゃんは負けるのが怖いのか~。じゃあ仕方ないか。この遠征プランは白紙だね」

『……』

 

 上等だ。

 

『やってやろうじゃねぇかよこの野郎ッ!!』

「そう来なくっちゃ!じゃあこのローテで決まりね。ちなみに年明けの始動戦は京都記念だからよろしくね~」

 

 というわけで。来年も大変な1年になることが確定した瞬間である。冷静に考えてみても、輸送は特に問題ないわけだしローテ的にはクラシック五冠よりはマシ……と思うことにした。

 

『それにあいつもできないローテは組まないからな。できると思ってるからこのローテ組んでんだろ、多分』

 

 なら、その期待に応えるとしますかね。とりあえずまた鍛えとこ。

 

 

 ……まぁ、年明けの始動戦からえらい目に遭うことになるのだが。

 

 

 

 

 

 

 とある酒屋。数人の男が会話をしている。

 

「最近の競馬人気凄いよな~。特に、カミノライザン」

「あー、だな。競馬担当の記者が羽振り良さそうにしてんの見たぜ、俺」

 

 この男達は新聞会社に勤めている人間なのだろう。会話の節々からスクープだの特ダネだのという言葉が聞こえる。

 

「ただ情報出尽くしちゃってるよな~。今更カミノライザンの記事を書いても、って感じがする」

 

 そんな愚痴をこぼす記者。その言葉を聞いて──一人の男がにやりと笑う。

 

「でもさ、カミノライザンの記事を出せば売れるんだぜ?つーか、写真さえあれば売れるようなもんだ」

「確かにな。で、何考えてんの?お前」

 

 クックック、と含み笑いが響く。なにやら、よからぬ企みが進行しているようだった。

*1
メジロマックイーンの父父

*2
シンボリルドルフの母父

*3
旧齢表記であり現在表記で7歳。オフサイドトラップの秋天が同率




このローテ行けるのだろうか?と思いましたがスピードシンボリが長期遠征の後に有馬記念出走しているので行けるんだろうなと思いこのローテに。輸送?まぁ何とかするでしょ()。
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