カミノライザンが京都記念で敗戦。そのニュースは全国に広まった。
【カミノライザン京都記念2着!またもムーティエ街道に敗れる!】
【カミノライザン敗戦。原因はやはり?】
今回のカミノライザンの敗戦。その話題とともに上がったのが──京都記念から少し前にあった、
京都記念の前に、カミノライザンの馬房に無断で立ち入ろうとした事件があった。通称【カミノライザン事件】と称されるそれは、多少なりともカミノライザンに影響を及ぼしたであろう。現に、レース後の陣営のコメントからもそれが分かる。
「あの事件から京都記念まで、カミノライザンはえらい神経質になっとったので。満足な調教ができひん状態でした。言い訳と罵られても構いませんが……あの事件が今回の敗戦に繋がったと思っとります」
調教師である猛田からのコメント。事件がカミノライザンに影響を及ぼしたというのは間違いない……ファンや関係者はそう判断した。
これには当然、無断で立ち入ろうとした新聞社ばかりかマスコミ業界に飛び火する。他の新聞社達からすればとばっちりのようにも思えるのだが、それでファンが止まるはずもなかった。
「なにやってんのやおどれら!お前らのせいでカミノライザンが負けたやんけ!」
「お前らもどうせ同じようなことやってんだろ!」
「そうだそうだ!反省しろ!」
連日抗議の言葉が飛び交うようになり、新聞社は対応に追われる。とある一社の暴走により、業界全体に飛び火することになった。余談だが、【カミノライザン事件】に関しては他の新聞社も苦言を申しており、明らかな素人がやった忌むべき出来事とどの社も報じている。同情する気持ちなど一ミリたりとも湧いていなかった。
さて、このようなことに終わった京都記念だが。タニノムーティエ陣営は勿論納得がいっていなかった。
「どっかのバカ共がやらかしたせいで、今回の勝ちも素直に喜べんわ。この決着は春の天皇賞でつけよ思うてます」
今回の勝ちは納得がいっていないものであり、次に戦うであろう春の天皇賞で勝ってみせるとコメントを残していた。
そして今回の天皇賞。一つ、
「いいか!春の天皇賞の日は、京都競馬場に厳戒体制を敷け!万が一など絶対に起こさないようにしろ!」
「「「ハッ!!」」」
「今回の天皇賞、天皇陛下がご覧になられる!道路もなにもかも、絶対にミスを起こさないようにしなければならない!」
「「「ハッ!!」」」
「各自!持ち場に移動ルートのことを頭に叩き込んでおけ!」
春の天皇賞を天皇陛下が観戦する……極めて大きな動きがあった。それゆえに、京都競馬場は1ヶ月前から動きを見せる。
「今回の天皇賞に関しては、抽選での入場とさせていただきます!」
天皇賞は大勢のファンが京都競馬場に押し寄せることは必至。なので先んじて、入場できる人数に制限を設けるといったものだった。京都競馬場の収容人数ギリギリまで絞る。苦肉の策ではあるが、そうするしかない。それほどまでにカミノライザンという馬の人気は凄まじいということになる。
今回の天皇賞が天覧競馬になることを知った世間の反応はというと。
「て、天皇陛下が天皇賞をご覧になられるのか!?」
「み、見たい……!是が非でも見たい!」
「関西に天皇陛下がお越しくださるなんて……!なんて光栄なことや!」
「おい!俺らも協力するで!天皇陛下に万が一のことがあったら俺らの責任や!」
「せやせや!自警団でも何でも設置して、関西の治安維持に努めるで!」
大好評だった。人々は抽選券を集めにいき、後は席が当たることを神に祈るばかりである。この抽選券に関しては新聞を介して全国に配布されており、この抽選券を巡って争いが起こるぐらいだったが……割愛する。ただ、それほどまでに春の天皇賞を見たいというファンは多かったのである。
明治以来となる天覧競馬。果たしてどのような結末を迎えるのか?
◇
「というわけで、今度の天皇賞は天覧競馬になったよ」
『軽く言わないでくれますかねぇ!?』
京都記念が終わってからしばらく経ったある日のこと。クソ神からそんなことを言われた。てか、天覧競馬ってマジかよ!?今度の天皇賞、天皇陛下が観に来んの!?マジで!?か、考えただけで腹が……ッ!
「軽くは言ってないよ。僕だって驚いてるんだからさ」
『ぐ、ぐおおおぉぉぉ……。に、にしたって、なんで天覧競馬なんかに、あっ』
「察しがついたみたいだねぇライザンちゃん。ま、
なんで天覧競馬なんかになったんだよ。そう言い切る前に答えが出た。クソ神も、なんでか分かっているんだろう。
まず天覧競馬はよっぽどのことがない限りはならない。俺がまだ人間だった頃なんかはエイシンフラッシュの秋天とかが代表的だな。あの時は近代競馬150周年記念とかだったはず。後はヘヴンリーロマンスの天皇賞か。あっちはエンペラーズカップ*1第100回記念とかだったはずだ。つまるところ、そんな特別な日にしか天覧競馬はないってこと。
この年の天皇賞は、そんな特別な日になるようなものはなかった……はずだ。いかんせん全部が全部覚えているわけじゃないので怪しいのだが、エイシンフラッシュやヘヴンリーロマンスの時のような特別な日ではなかったはず。
じゃあなんで天皇陛下が今回の春天を見に来るのかって?うん、まぁ。ちょっと考えりゃ分かるよね。
『ゼッテー俺が原因じゃねぇぇぇかぁぁぁ!?』
「ま~ライザンちゃんしかいないよね。天皇陛下が天皇賞を観に来る目的なんてさ」
『イヤッ!イヤッ!イヤー!』
「ちい〇わかな?」
嫌だー!俺が目的で来るってことはさぁ、下手な走り見せらんないじゃん!?今までのプレッシャーの比じゃねぇんだけど!嘘だぁぁぁ!
しかも、冷静に考えてみて欲しい。ヘヴンリーロマンスの時もエイシンフラッシュの時も、どっちも
この辺は多分警備上の問題が絡んでくるんだと思う。秋天が開催される東京競馬場なら問題なくできるだろうし、すぐに対処ができるだろう。だからこそ、天覧競馬ってのは基本的に東京競馬場で行われるものだ。これは台覧競馬も例外ではない。
では、今回の春天は?言うまでもなく、
『クソ……!俺なんてクラシック五冠を取って御料牧場の血統を凝縮したような超良血馬なだけじゃねぇか!』
「答え出てんじゃん」
『うるせぇな!現実逃避だよ!』
分かってんだよそんなことさぁ!それぐらい現実逃避してぇんだよこっちはよぉ!
ただでさえこちとらプレッシャーに弱いんだぞ?その上でさらにプレッシャーかけてくるんじゃないよ!いや、天皇陛下に走りを見てもらえるってのはすげぇ光栄なことだし滅茶苦茶嬉しいけどさぁ!それはプレッシャーとは別問題なんだよ!それはそれ、これはこれなんだよ!
しかもまぁ、成田の御料牧場が閉鎖したのってつい最近らしい。これは詳しい時期は知らなかったのでクソ神に教えてもらったことだ。1969年……つまり今から2年前に閉鎖して移転したことになる。
「にしても凄い因果だよねぇ。御料牧場が閉鎖した年に、御料牧場の血統を凝縮したライザンちゃんがデビューしたんだから」
『とんでもねぇ巡り合わせだよな。しかも大ブレイクしたわけだし』
我が事ながらどういう確率だよと言いたい。
ま、嘆いたところでもうどうにもならないわけで。じゃあ俺にできることはというと。
『とりあえず絞らんとダメだよなぁ。京都記念は太め残りになってたわけだし』
「ライザンちゃんが悪いわけじゃないけどね。あの記者達は今頃どうなってるのかなぁ?」
『お前知らないの?アイツらの行方』
「知らないよ。気づいたら消えてたんだもの。あ~あ、拷も、お話しようと思ったのに残念」
『さらっと怖いこと言うじゃん』
にしても気づいてたら消えてたのか。不思議なこともあるもんだなぁ。
「姫~?そろそろ調教の時間だよ~」
おっと、刈谷が呼びに来たようだ。ここで話は終わりだな。
「それじゃあねライザンちゃん。頑張っておいで」
『おうよ。とにかく気合入れて頑張らねぇとな。天皇陛下に情けねぇ走りは見せられねぇし』
クソ神と別れて調教へ。さ~てと、とにかく体重を絞るぞ!ついで調教頑張って成長だい!
◇
カミノライザンの調教が始まる。調子はというと──絶好調だ。
タイムを計る猛田の表情にも笑みが浮かぶ。
「お~しおし、ええ感じの時計や。過敏になっとった警戒心もようやく落ち着いたところやし、この調子やったらいけるわ」
好タイムを連発するカミノライザン。調子を取り戻し、体重も絞れてきていた。
ただ、猛田の脳裏に浮かぶのは今度の天皇賞……天覧競馬となった春の天皇賞についてだ。
(……アカン、ものごっつ緊張する。まだ1ヶ月もレース空いてるっちゅうのに手汗が止まらんわ)
猛田は今も緊張していた。春の天皇賞までまだ日があるというのに。
しかしそれも仕方がないだろう。天覧競馬など滅多な事がなければ起こりえない。直近の例だと昨年プロ野球*2であった。
今回の天皇陛下の目的はおそらく1つ。カミノライザンの走りを見るため……だろう。猛田達はそう分析していた。というよりは、それしかありえないと思っていた。
猛田は汗をかきっぱなしだった。理由は勿論、天皇陛下が競馬を観戦なさるということ。
(下手な出来で出そうもんなら、えらいことになる!だから過去最高の出来で天皇賞に出走せんと!)
「半端な出来は許されへんっ!絶対に、最高の調子で出走させんと!」
今回の京都記念のような出来で出走させてしまったら、後悔しか残らない。そんなことには絶対にさせてはならない。猛田陣営の思いは1つだった。
そして、それは他陣営も同じである。
「ま、マジかいな。今回の天皇賞……天皇陛下がお越しくださるやとぉ!?」
「おい、もっと追い込むぞ!下手な出来で出そうもんなら俺らが大恥かいてしまう!」
「過去最高の調子で行くつもりで鍛え上げろ!天皇陛下の御前で、半端な出来は許されないぞ!」
天皇陛下が春の天皇賞を観戦する。そんなこととあれば、気合が入るというものだった。
天皇賞まで各陣営、凄まじい気合で調教を進める。
迎えた春の天皇賞は──曇り空。加えて、前日から当日の午前中まで続いた降雨の影響もあり馬場の状態は悪く、不良馬場での開催となった。
アカンこれじゃ主人公の胃がしぬぅ!な天皇賞開幕です。