ついに決着を迎えた春の天皇賞。天覧競馬となった本レースを制したのは──カミノライザンであった。
《やりました、やりましたカミノライザン!うわ~、これは凄い凄い!天皇陛下の御前で!なんとシンザン越えとなる六冠馬、六冠馬の誕生であります!*1五冠馬シンザンを、その娘が超えましたこれが六冠目!凄まじい親子だ!天皇陛下の御前で、これは新たな大記録!空もカミノライザンを祝福するように!陽光が差し込んでおります天皇賞!2着はメジロムサシが半馬身前に出た!3着はオオクラ、オオクラであります。タニノムーティエは末脚伸びずの4着であります!》
カミノライザンは、やはりというか無駄に走らずにスタンド前で佇んでいる。その姿が陽光に照らされ、神々しく見えていた。
記者の人間がその姿を収めるためにシャッターを切る。無論、フラッシュを焚かないように細心の注意を払って。
街にあるカラーテレビにはカミノライザンの姿が収められている。この日のためにカラーテレビを購入したご家庭もいる中、中にはデパートにある家電製品のコーナーにかじりついて観るファンもいた。
「すっげぇ~……!」
「やっぱカミノライザンはごっつい馬やで~!ホンマに強いわ!」
「最後の直線なんて、ずっと寄せ付けなかったもんな!とんでもねぇぜ!」
口々に賞賛の声を上げるファン。誰も彼もがカミノライザンの強さを讃えていた。
そんな中、他の騎手達は富永紘一という騎手の上手さに畏怖を覚えていた。
今回のレース、明らかにカミノライザンがペースを握っていた。一見するといつものように逃げ馬を見る王道のレーススタイルのように思えたが、その実巧妙な罠が隠されていた。
「今回の馬場は最悪の一言や。そん中で騎手はどの進路を取るか……答えは明白やな」
「そうだね。
猛田の言葉に保茂が答える。現に他の馬はかなり外を回っていた。まだ芝が残っている外ラチめがけて走ったのである。
では、カミノライザンは?どこを走っていたのか。
「ま~やけど、トミもようやるわ。姫の能力を信じて、だ~れも走っとらん最内の経済コースを走るなんてな」
「本当だよ。しかも、第4コーナーではペースアップをしていた。他の馬は
最内の経済コース──オオクラとカミノライザンしか走らなかったコースを走っていた。しかも、第4コーナーを回る際ペースアップしていた。これにより他の馬は思いっきり外に振らされる。これが富永の狙いだった。
最内を走るカミノライザンは、一番距離ロスが少なく済んだ。だが他の馬は……かなりの距離ロスになっただろう。まだ芝が残っている場所を走ろうとしたことに加え、ペースアップにより大きく膨らんだのだから。
そのあおりを最も受けたのは、やはりタニノムーティエだろう。タニノムーティエは今回の天皇賞、菊花賞の時のように先行策で挑んだ。その理由はただ1つ、カミノライザンをマークするためである。
実際、この作戦が間違いだったとは思えない。それなりにスタートは良かったし、カミノライザンの後ろにつけることができたのは紛れもない事実。通常ならば問題はなかっただろう。
しかし、富永はそれを読んでいたかの如く立ち回った。内の経済コースを回ったのはカミノライザンが不良馬場を苦にしないという理由だけではない……タニノムーティエを荒れた馬場に巻き込むためでもあった。
タニノムーティエとて、決して不良馬場が苦手というわけではない。だが、あれほどまでに荒れた馬場ではいくらタニノムーティエといえどスタミナの消耗は著しい。というよりは、他の馬もそうなるからこそ外へ回っていた。まだ芝が残っている内ギリギリを走っていたのがその証拠だろう。
……タニノムーティエの騎手も、それに気づかなかったわけではないだろう。むしろ、途中で気づいていた。このままではまずいと。そこで富永は、罠を張った。
カミノライザンがマークされていることを逆手にとって、先行集団8頭の中でも前につけていたのである。加えて、
カミノライザンは最内、タニノムーティエは外へと持ち込むために僅かばかり外につけていたとしても……メジロムサシら他の先行集団が立ちはだかる。まだ芝が残っている外は、メジロムサシ達が走っていたのでタニノムーティエがつけることはできなかった。だから仕方なく、最内の経済コースを回るしかなかった。
この状況でタニノムーティエが外に行くためには、無理にペースダウンして外を回るしか方法がない。しかしそうなると、再加速するための脚をどこで使うか?という話になる。
カミノライザンをマークしようとした時点で詰み……これがタニノムーティエ敗北の原因である。
(けど……どうしようもあらへんやんか!?そうするしか方法がないっちゅうのに!)
最後方につけたら、今度は絶対に届かない距離までリードを広げようとするだろう。カミノライザンならそれが可能だし、何よりクラシック戦で実践した。
マークしたら逆手に取られる、自分のペースで走ったらリードを取られる……どうしようもないくらいに、詰みだった。
天皇賞を制したカミノライザン。堂々と佇むその姿に、天皇陛下は拍手を送る。
「うん、うん。他の子達も凄かったですね。とても心に残るレースでした」
「それは何よりでございます」
後日。テレビなどを介し、今回の天皇賞について天皇陛下直々にお言葉と賜り、世間がさらに賑わったのは後の話である。
◇
レースを終え、今度は陣営への取材となる。
「おめでとうございます、猛田さん!これで一安心ではないでしょうか?」
「ホンマに一安心ですよ。いや~……えらい経験やった」
「戦後初の天覧競馬、制した今のお気持ちは?」
「さっきも言うたとおり、一安心しかありませんわ。も~ずっと気張りっぱなしやったし。やけど、天皇陛下の御前で勝利出来てホンマに嬉しい限りです」
天皇賞の勝利は勿論嬉しいことだが、それ以上に緊張がやっと解けたという気持ちの方が大きい。猛田の言葉に記者達からは笑みがこぼれていた。
「それでカミノライザンの次走ですが、どのレースを予定していますか?」
「う~ん……ホンマはオープンレースに出走したいんやけど、そうもいかんからなぁ。こんまま宝塚記念に直行やと思います」
オープンレースに出走しない理由は明白。出走回避が相次ぐか、凄まじい斤量を背負わされるかのどちらか。ただでさえ年明け初戦の京都記念もトップハンデだった。ハンデをものともしないし、本当ならもう1レースぐらい挟みたいが、それは難しいというのが現状である。
「それで宝塚記念を制した後は?どうするご予定でしょうか?」
「う~ん……可能ならもう1レース挟んで、後は海外やって考えてます。全部保茂さんの意向ですけど」
「か、海外!?シンザンでも行かなかったのに、カミノライザンは海外への遠征を考えているのですか!?」
猛田は頷く。
「カミノライザンは輸送にも強いですし、何より身体が頑丈です。向こうでも十分戦えるんやないかと」
「は、はぁ。で、ではどのレースに出走するご予定でしょうか?」
「1つは凱旋門賞。もう一つはワシントンDCやな。ワシントンDCはほぼ確実に招待状来るて踏んでますし、問題はないと思います」
ここで記者達は気づく。地味にとんでもないローテが暴露されたことに。
「ちょちょちょ!?た、確か有馬記念にも出走予定でしたよね?」
「あぁ、そうですね」
「じ、じゃあ……凱旋門賞からのワシントンDC、その後に有馬……というローテですか!?」
「まぁ、そうなりますね」
こともなげに言い放つ猛田。隣の保茂は満面の笑顔だ。そのことから、記者達はこのローテが真実であると気づく。
一瞬の間。その静寂を切り裂くように。
「「「えええぇぇぇっっっ!!??」」」
困惑の声が上がった。なお、突然のことだったのでカミノライザンがビックリしていた。
「ちょちょ、正気ですか!?」
「ホンマに正気ですよ」
「凱旋門賞といえば、スピードシンボリも挑みました。しかし!着外に敗れています!」
「ま~、そうですね。ま、保茂さんの意向やから」
それに、と。遠い目をする猛田。どことなく諦めのような感情があった。
「まぁ……カミノライザンやったらどうにかなるんやないかって思うてます」
「「「あぁ~……」」」
その言葉に、妙に納得する記者達であった。全員がカミノライザンに視線を集める。
(俺を見んじゃねぇよ!俺だってどうかと思ってんだよ!)
カミノライザンは抗議するような目をするが、それを察せるのは保茂ただ1人である。なお保茂は笑っていた。
「それでは、宝塚記念の後は海外遠征に?」
「ま~そうなると思います」
「海外遠征での勝利はハクチカラとフジノオーが代表的ですが、ここにカミノライザンが名を連ねる可能性がある、というわけですね!」
「あくまで可能性、ですけどね。勿論勝つ気で行きますけど」
「鞍上は?やはり富永騎手ですか?」
「カミノライザンの屋根はもう富永しかおらんですね。アイツ以外には考えられへんです」
おぉ~!と湧き上がる報道陣。カミノライザンは終始佇んでいるだけだった。
最後に。天皇賞盾を持った保茂と優勝レイをかけたカミノライザン。そして猛田と富永も加わり写真を撮る。
その写真は、とても神々しく、美しかった。
カミノライザン、天皇賞・春制覇
この写真が貼られた新聞記事は飛ぶように売れたそうな。そろそろ掲示板を挟もうかな~と考えている所存。勿論未来世界でのお話になりますが。