俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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宝塚記念ですたい。


俺とファン投票と宝塚記念

 来る宝塚記念。ファン投票1位は圧倒的支持を獲得したカミノライザンだった。その投票数は2位であるタニノムーティエにダブルスコアを叩き出すほどである。

 

「勿論出走しますよ。ファンの期待に応えたいと思います」

 

 馬主である保茂のGOサインが出たことで、カミノライザンは出走となった。

 ファン投票2位、タニノムーティエ陣営はというと。

 

「勿論出走です。数少ないカミノライザンとの対戦機会……逃すわけにはいかんので」

 

 言葉は少ないながらも、カミノライザンと対決できる機会だからとこちらも出走。世代二強が出走することになった。

 他には天皇賞馬であるメジロアサマとリキエイカン、天皇賞・春でカミノライザンの2着だったメジロムサシが出走。出走頭数は10頭となったが、天皇賞馬が3頭も出走する豪華な顔ぶれとなった。

 各陣営、力を入れて宝塚記念まで調整する。そして──

 

 

宝塚記念の日がやってきた

 

 

 

 

 

 

 阪神競馬場は大賑わい。レース当日は朝から多くのファンが並んでおり、開門を待ついつもの光景。開門と同時に席に向かって猛ダッシュするのも最早見慣れたものだった。

 レースは進んでいき、ついに迎える本日のメインレース、宝塚記念。10頭のパドックでの姿を見てファンは勝利を予想する。

 

「う~ん、いつ見てもええ馬体や!カミノライザンは堅いで!」

「ムーティエも悪くないな」

「メジロの2頭も遠征を苦にしてへんわ。こらいけるかもしれん!」

「リキエイカンもそろそろ勝ってくれよ~!天皇賞馬の意地を見せてくれ!」

 

 最終的に、カミノライザンが突き抜けた1番人気。クラシック五冠馬かつ天皇賞馬が万全な状態で挑んだとなればこうなるだろう。単勝支持率は──81.1%。天皇賞馬が他にいようとお構いなしだった。斤量も他の馬とさほど変わらない。不安となる材料はほぼ無いに等しかった。

 

 

 晴れ空が広がる阪神競馬場。多くのファンが詰め寄っているためか熱気も凄まじいものだ。それでもこのレースを自らの目で観たい。そう思うファンが大勢だろう。

 

《阪神競馬場は晴れ空が広がっております。芝2200m宝塚記念絶好の良馬場日和!このレース最注目はやはりカミノライザン、カミノライザンでしょう!圧倒的1番人気に支持された本馬の調子は好調そのもの!不安となる材料は一切なし!先日行われた春の天皇賞を勝利したことで父であるシンザンを超える六冠馬となりました!鞍上は若き天才富永紘一!果たしてこの宝塚記念ではどのようなレース運びを見せてくれるのか?非常に注目したいところであります》

 

 返し馬を順調に済ませるカミノライザン。その姿にファンは声援を送る。

 

「頼んだでー、ライザーン!」

「今日もええ勝ちっぷりを見せてくれよ~!」

 

 実況は他の馬の紹介に入る。

 

《2番人気はメジロアサマ、メジロアサマです。昨年の秋の天皇賞馬、メジロ初の天皇賞馬であります。前評判をことごとく覆してきた本馬、カミノライザンを破ることができるか?3番人気はタニノムーティエ。天皇賞は4着であるものの、やはりこれまでの実績が物を言う。ムーティエの前には常にカミノライザンの姿がありました。この宝塚記念では先着することができるか?他には天皇賞2着のメジロムサシに春の天皇賞馬リキエイカンがおります。返し馬は順調そのものです》

 

 各馬気合十分といった様子。特に気合が入っているのは、タニノムーティエの鞍上である廉田だった。

 

(……もう思い切るしかないわ)

 

 廉田の頭によぎったのは春の天皇賞と菊花賞。あの時の敗北が頭によぎり──腹を括った。

 

 

 各馬ゲートへと入る。ゲート入りを嫌う馬はいなかった。

 

《各馬順調にゲートへと入ります。単勝支持率驚異の80%超え、その期待に今日も応えるかカミノライザン。天皇賞馬の2頭に同期のタニノムーティエ、メジロムサシも負けてはいられません。今、最後大外枠のヒロシゲがゲートに入りました。係員が散らばります》

 

 阪神競馬場は一瞬の静寂に包まれる。その空気を破るように──ゲートが開いた。

 

《スタートしましたッ!宝塚記念開幕です!10頭が並んでスタート、まずまずのスタートの中やはり好調な出だしだカミノライザン!カミノライザン綺麗なスタート!注目の先行争い、カミノライザンは、行かないようだ。スピーデーワンダー、スピーデーワンダーがいきます。内からメジロアサマとリキエイカン、天皇賞馬2頭がいきますがこれはリキエイカンだ。リキエイカンが先頭に立とうとする勢い》

 

 注目の先行争い。天皇賞馬のリキエイカンが先頭に立つかと思われたが、オオクラが上がってきたのを察知してか大人しく引き下がる。

 激しい先行争いが続き、誰がハナを取ってペースを握るかが分からない状態。そんな中、カミノライザンは非常に落ち着いた様子で内側につけていた。タニノムーティエは……()()()()()()()。カミノライザンのマークを諦めて、自らのスタイルで走ることを決めたようである。

 スタンド前半分を過ぎようかというところで、先行争いは落ち着きを見せた。先頭に立ったのはオオクラではなくケイタカシ。2番手外にメジロアサマ、その半馬身後ろの3番手にカミノライザンは控える。

 

《ようやく先行争いは落ち着きを見せました。先頭はケイタカシ、ケイタカシであります。オオクラはどうした?これは控える形か?2番手は1馬身後ろにメジロアサマ、メジロアサマ。そしてカミノライザンはその半馬身後ろ3番手の位置につけております。4番手は外を通ってヒロシゲ、5番手リキエイカン。天皇賞馬3頭はいずれも前でレースを展開しております。淡々としたペースで第1コーナーへ向かいます。先頭はケイタカシ》

 

 メジロムサシは後方8番手、タニノムーティエは最後方だ。廉田の頭にあるのはどこで仕掛けるか?それだけである。

 

(アイツらは絶対に届かへんほどの差をつける。やけど……届かせたる!)

 

 そう胸に誓ってレースを最後方から窺う。第1コーナーを曲がっていった。

 

 

 

 

 

 

 第2コーナーを曲がって向こう正面へと入る。落ち着いたペースを嫌ってか、メジロムサシが位置を押し上げたこと以外は特に隊列は変わらず進んでいた。

 現在3番手に控えるカミノライザン。鞍上の富永はペースを測りながら考える。

 

(スローペース、だな。ちょっと落ち着いた展開だ)

 

 こうなると前が有利。それが分かってかメジロムサシは外から上がってきたのだろう。富永は分析する。

 そうこうしている間に、メジロムサシはメジロアサマの外まで上がってきていた。向こう正面で動いたのはメジロムサシのみ、他の後方集団……特にタニノムーティエは最後方から動いていない。

 

《メジロムサシがスローペースを嫌ってか上がってきました。現在5番手、そして4番手に上がってきております。先頭はケイタカシ、ケイタカシが先頭。1馬身後ろの2番手にメジロアサマ天皇賞馬。3番手はメジロアサマの内、最内を通ってカミノライザン六冠馬、メジロアサマと並んでおります。向こう正面も半分に入ろうかというところ、メジロムサシは早くもメジロアサマに並ぼうとしております。メジロムサシと並んで内にリキエイカンこちらも天皇賞馬、そして真ん中にヒロシゲであります》

 

 向こう正面半分を過ぎようかというところで、最後方に控えていたタニノムーティエが少しずつペースを上げた。メジロムサシよりもさらに外、大外を回って上がろうとしている。

 それと()()()()()()。最内に控えていたカミノライザンもまた、動いた。瞬間、メジロアサマに騎乗していた騎手も動揺する。

 

(まだ向こう正面半分も過ぎてない、このタイミングで仕掛けた?何を考えている?)

 

 少しの間悩むが……メジロアサマはまだ動かないことにした。カミノライザンが2番手に浮上、その勢いのまま先頭を走るケイタカシに並びかける。

 

《まもなく第3コーナーであります。カミノライザンはここで仕掛けた!カミノライザンが2番手に浮上、そのままケイタカシに並びかける!ケイタカシの内に入るカミノライザンであります!メジロアサマは動かない、落ち着いた様子を見せる!その手には乗らないぞとばかりにまだ抑えたまま!メジロムサシも動かない、タニノムーティエは順位を上げてくる現在メジロムサシの1馬身後ろ5番手の位置!第3コーナーを回って、ここでカミノライザンが先頭に変わった変わった!カミノライザンが先頭であります!》

 

 カミノライザンのロングスパート。乗ってきたのはケイタカシだけ。他の馬との着差を少しずつ、確かに広げていく。

 だが、後続の馬達はその手には乗らないとばかりにまだ抑えたままだ。おそらくカミノライザン陣営の狙いは()()()()()()()()。スピードを上げた状態でコーナーに突っ込ませることで、こちらをできる限り外に振らせようという魂胆だろう……そう判断していた。その判断は()()()()()()()

 カミノライザンはというと、抜群のコーナーリングで最内をキープしていた。外に振らされることなく、速いペースで第3コーナーを回っている。3番手のメジロアサマとの差は3馬身はつきそうかという勢い。

 しかし、第3コーナーを越えてメジロアサマも仕掛けた。速いペースになりやすい阪神の第4コーナー、ここでメジロアサマも動き始める。

 

《第4コーナーのカーブ!先頭はカミノライザン、ケイタカシとの差を徐々に広げる!カミノライザン先頭で第4コーナーのカーブ!そしてさぁ!メジロアサマも動いた動いた!メジロアサマがじわじわと差を縮めようとしている!第4コーナーでメジロアサマも動いてっ!?》

 

 言葉に詰まる実況。それもそのはず。

 外から上がってきたメジロムサシ。そのさらに外──大外から上がってくるタニノムーティエの姿を視界に捉えたからだ。

 タニノムーティエがどんどん上がってきている。メジロムサシを引き連れて、タニノムーティエが大外のムーティエ街道を上がって飛んできている。距離のロスなど関係ない、このスタイルで行くことを決めたのだと。そう証明するように動いていた。

 廉田はタニノムーティエに鞭を入れて鼓舞する。タニノムーティエを、己を。

 

(このスタイルや、このスタイルでアイツらに勝つんや!)

 

 大外から炸裂するムーティエ街道。前を走るカミノライザンとの差は5馬身から6馬身。決して追いつけない距離ではない。

 最後の直線。最内を走るカミノライザン。2番手を追走していたケイタカシは力尽き、落ちていった。

 

《カミノライザン先頭!カミノライザンが先頭だ!やはりこの馬が先頭で入ってきた宝塚記念!単勝81%はこの宝塚でも勝利をもぎ取るのか!?しかしメジロアサマにメジロムサシ、さらには大外タニノムーティエが飛んできている!その差は4馬身まで縮まった!さぁここからどこまで縮めることができるか!?》

「おっしゃあ!カミノライザンの勝ちパターンや!」

「ムーティエ街道がきたでぇぇぇぇ!あのごっつい末脚に俺は賭けてるんや!」

「メジロの2頭も上がってきた!頑張れアサマー!」

 

 スタンドからは応援の声が飛ぶ。先頭カミノライザン、それを追うのはメジロの2頭とライバルタニノムーティエ。

 徐々にだが差は縮まってきている。残り200で差は3馬身までに縮まった。

 

(いける!こんままっ!)

(覚悟しろカミノライザン、富永!)

(お前達を倒して、俺が勝つ!)

 

 他の馬はついてこれていない。スピーデーワンダーも上がってくるがこれは厳しい。先頭を走るカミノライザンとメジロムサシ・メジロアサマ・タニノムーティエ3頭での争いとなる。

 2番手争いをしていた3頭。その中で──タニノムーティエが先に抜け出した。アサマとムサシも懸命に走るがムーティエの方がわずかに上だった。後はカミノライザンを捕らえるだけ。残りの差は1馬身である。

 

《200を切ってここでタニノムーティエが2番手争いから抜け出した!さぁやはりこの2頭、やはりこの2頭であります!逃げるカミノライザン、追うタニノムーティエ!やっぱりこの2頭の争いだ!懸命に追いすがるタニノムーティエ!残り100を切ってその差は1馬身!これは捕らえるか!?これは捕らえることができるか!?》

 

 廉田は必死に追う。後もう少し、後もう少しで届く。

 

(これやったらいける!)

 

 そう思うが……どうしても1馬身から先が縮まらない

 否、正確には縮まってはいるのだ。だが、カミノライザンの驚異の粘りによってタニノムーティエの末脚と遜色がない脚を発揮している。

 徐々に差を詰めようとするタニノムーティエ。しかし結果は無情──

 

《しかししかし!これはやっぱりカミノライザンだ!カミノライザンが宝塚記念を制した!タニノムーティエの猛追を振り切って鮮やかな逃げ切り勝ち!これがクラシック五冠馬の実力だ!見事なロングスパートを決めてくれたぞカミノライザン!タニノムーティエは半馬身差2着です!》

 

 宝塚記念を制したのはカミノライザン。タニノムーティエは、またも2着に敗れる結果となった。

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