俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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宝塚記念後ですよ。そして気になる次走さん。


俺と結果と次なる舞台

 勝者を讃える歓声。絶対の強さを見せつけたレース。これこそが王道の強さなのだと、証明した宝塚記念。

 

《これがカミノライザンだ!これが六冠を制した脚だ!タニノムーティエ懸命に追いすがりましたがこれは届かなかった!3着メジロムサシはタニノムーティエから遅れること3馬身!突き抜けた速さを持っているタニノムーティエ、しかし!カミノライザンを捕らえるには至らず!これが最強の証明!カミノライザンが天皇賞馬の争いを制しました!》

「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 海外遠征に向けて盤石の強さを発揮したカミノライザン。この強さを見せたのだから期待は高まるというもの。

 これまで国内ではあまり意識してこなかった海外への挑戦。そろそろ目を向けるべきではないか?という声はチラホラと上がっていたものの、その重い腰を上げることはなかった。

 しかし、これほどまでに強い馬が海外への挑戦を表明している。期待は高まるというものだろう。

 

「頼んだで~!ライザーン!」

「海外でもすげぇレースを見せてくれよ~!」

 

 もう()()()()()()()()()()()()言葉。阪神競馬場に集ったファンはカミノライザンを讃えていた。

 

 

 そんな歓声を受けるカミノライザンと富永を睨みつける1人の騎手……タニノムーティエに騎乗する廉田だ。手綱を握り締め、カミノライザン達を怨敵のごとく睨みつけ……力なく項垂れた。

 

(手応えも完璧やった、もう少しで追いつけそうやった……やけど、結果はこの様や)

 

 やはり、カミノライザンをマークするしか方法はないのだろうか?後方からの競馬となると、カミノライザンは必ず差を広げにかかる。絶対に追いつけない差をつけようとする。

 頭では分かっている、理解はできている。だが……それで対応できるかと言われたらまた話は別だ。

 下手をすればこちらが自滅しかねないし、何より動き出しのタイミングが毎回絶妙だ。加えて、圧倒的なスタミナ量。今回の最終直線も、驚異的な粘りを見せていた。

 考える度に、カミノライザンと富永の凄さを見せつけられる。気が付けば──涙が頬を伝っていた。

 

「どうすりゃええねん……っ、ホンマに……ッ!」

 

 こちらが完璧な騎乗をしても、相手はその騎乗をはるかに上回ってくる。この先勝てることはあるのだろうか?そう思わずにはいられない。

 涙を流す廉田だが、ふとタニノムーティエの様子がおかしいことに気づく。

 

「ムーティエ……?」

 

 タニノムーティエは、カミノライザン達をジッと見つめていた。いや、ただ見つめているだけではない……睨みつけるように、射貫くような視線を送っていた。

 そんな時廉田は、タニノムーティエの感情が手綱を通して、彼の馬体を通して伝わってくるような気がした。あくまで廉田の想像に尽きないが、タニノムーティエが何を考えているのか……なんとなく、分かったような気がした。

 

(お前も、悔しいんやな。負けっぱなしで、悔しいんやな……ッ)

 

 タニノムーティエは悔しがっていた。カミノライザンに敗北して、悔しさを感じているような気がした。

 廉田は自分の不甲斐なさを感じる。タニノムーティエに悔しさを感じさせてしまったのは、自分のせいなのだから。もっと上手く騎乗できれば、カミノライザンに勝っていれば。そんな気持ちばかりが募っていく。

 この気持ちを払拭するには、カミノライザンに勝つしかない。しかし──それは叶わない

 

(このレースを最後に、カミノライザンは海外遠征や……リベンジの機会なんて、ないに等しいやろ)

 

 有馬記念があるが、それまでタニノムーティエの脚が持つか怪しい。ただでさえデビューからずっと酷使してきたのだ。なんらかの異常が出てきてもおかしくはない。幸いにも、タニノムーティエは頑丈なためか今のところ異常は出てきていないが。

 谷瑞もやるとしても秋天までと決めていた。カミノライザンが出走する有馬記念には……おそらく出す気はないだろう。

 

(このレースを見て、余計にそう思うたはずや。どっちにせよ……)

「これが、最後のレースやったってことか」

 

 涙を流さぬよう、天を仰ぐ廉田。空は、憎たらしいほどに晴れ渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 インタビュー会場。カミノライザン陣営が記者の質問に答えている。

 

「おめでとうございます、猛田さん!盤石の勝利でしたね!」

「えぇ、まぁ。やっぱ勝つってんは気分がええですわ」

「富永騎手、あのロングスパートはやはり作戦ですか?」

「はい。タニノムーティエの末脚を考えたらあのタイミングで仕掛けるのがベストでした。カミノライザンはスタミナがあるので、スタミナ切れの心配は特にしてなかったですね。ただ……」

 

 少し言葉を濁す富永。気になった記者が追撃するように質問すると、再度口を開いた。

 

「少し()()()でした。想定のペースよりも早く来たので。なので落とそうとしたペースを再度上げましたね、あの時は」

「お前油断しとったんちゃうか?」

「今更しませんよタニノムーティエ相手に……」

 

 咎めるような目つきの猛田に、そんなはずはないと返す富永。実際、富永は()()()()()をしていなかった。

 それからも続く質問。そして、記者が最も気になっているであろう質問はやはり。

 

「保茂さん!この宝塚記念の後は海外のレースですか!?」

 

 凱旋門賞挑戦か、否かだろう。

 保茂は前のインタビューにて宝塚記念の後か、もう一戦使ってから海外に行くと言っていた。この宝塚記念の勝利っぷりを考えると、次走は海外のレース──凱旋門賞が濃厚だろう。記者も、猛田に富永もそう思っていた。

 保茂は──首をかしげる。

 

「う~ん……」

 

 即答ではなかった。何かに悩んでいるかのようなそんな素振りを見せる。

 記者達は困惑した。この勝利っぷりを考えれば、即答で海外遠征に行くと宣言すると思っていたから。同時に興味も湧く。果たして保茂が何を考えているのか。

 悩んだ末に、保茂が出した答えは。

 

()()1()()()()、使うかな?」

 

 もう一つレースを使う、というものだった。

 呆然とする報道陣。絶句して言葉も出ない猛田。その空気に耐えきれず、ただ苦笑いを浮かべる富永。しかし保茂は変わらない。

 

「もう1つレースを使ってさ、その後海外遠征をしようかなって考えてるよ」

「え、えぇ……?しかし、宝塚記念を勝ったのですから気持ちよく海外遠征に行きたくないですか?」

「悪くない、悪くないんだけどねぇ……なんていうのかな?それじゃ納得しないんだよ

 

 余計に訳が分からなくなる報道陣。猛田と富永はもうなるようになれと諦めにも似た、乾いた笑いを浮かべていた。

 

「納得、とは?」

「分かんないんだよね~。とにかく、このままいってもすっきりしないっていうかさ。だから……安田記念。そのレースの後に、海外に行こうか」

 

 本当に訳が分からなかった。何故もう一レース使うのか?そして、それが何故安田記念なのか?凱旋門賞にもワシントンDCにもかすりもしていない距離の安田記念に出走する意図は何なのか?最早さっぱり分からなかった。

 そんな困惑をよそに保茂はもう出走を決めたことを宣言している。

 

「それじゃ、ライザンちゃんの次走は安田記念なので。そういうことで~」

 

 疑問を残したまま終わったインタビュー。ただ、ファンは海外に行く前にもう一度レースが見れるからいいか、と納得した。

 

 

 

 

 

 

 さて、宝塚記念が終わってから数日が経ったのだが。今の俺は関東にいる。理由は単純で、安田記念に出走するためである……本当になんでだよ。

 

『なんで安田記念に出走するんだよ本当に。そこんとこどう考えてんだよ?』

「え?安田記念に出走する理由?」

 

 すっとぼけた表情のクソ神。腹立つなおい!

 

『なんで安田記念に出るんだよ。距離もかすりもしてねぇし、出走する理由ほぼ0じゃねぇか!』

「まぁまぁ落ち着いてよライザンちゃん。ちゃんと考えはあるんだからさ」

 

 ほう、考えとな。まぁなかったらコイツを蹴り飛ばすだけだし良いか。

 

「考えてもみなよ、君とタニノムーティエとの対戦回数」

『俺とアイツの対戦回数?え~と……』

 

 京都3歳ステークス、きさらぎ賞、皐月賞、日本ダービー、京都杯、菊花賞、京都記念、天皇賞・春、宝塚記念……9回か。結構な数対戦してんなアイツと。ちなみに俺の6勝3敗だ。けどそれが何だってんだ?

 

『9回だが……それがどうかしたのか?』

「いや~ほら」

 

 へらへら笑っているクソ神。悪びれもせずに言い放った。

 

「キリよく10回にしたいじゃない?対戦回数」

『馬房の中に入ってこい。テメェを蹴り飛ばしてやる』

「やだよ!?死んじゃうじゃないか!」

 

 んな理由で安田記念使ってんじゃねぇよバカ!

 

「冗談冗談!小粋なジョークってやつだよ!ちゃんと別の理由があるから!」

『本当だろうな?』

「本当だよ!」

 

 全く。なら蹴り飛ばすのは勘弁してやる。

 

『んで?実際のところはなんで安田記念使うんだよ?』

「そうだねぇ……その前に、今回の勝利はどうだった?ライザンちゃん」

 

 どうだった、か。勝つには勝ったが、聞きたいのはそういうことじゃないんだろうな。

 

『納得のいく勝利だ。そこに嘘はない』

「本当に?嘘じゃない?」

『嘘じゃねぇよ』

 

 実際いつものスタイルで勝ったわけだ。ま、()()()もあったのだが。

 最後のタニノムーティエ。本当なら1馬身よりも差が開くつもりだった。最後は流して勝利する、いつものように勝てると踏んでいたわけだ。

 だが、そうはならなかった。アイツの末脚が、俺達の予想を超えていた。慌てて再加速しちまったよあの時は。結果的に勝てたから問題ないのだが。

 ただ、そうだな……うん。

 

『次戦えばどうなるのか……それは知りたいな』

「へぇ?」

『最後の直線で、アイツは俺達の想像を超えた末脚を発揮した。再加速しなきゃ、マジで差し切られただろうな』

「ま、()()()()()()()

 

 つまりまぁ、クソ神も知りたいのだろう。こっちの想定を超えた末脚を発揮したタニノムーティエと、次戦えばどうなるのか。

 なお、この次走の落とし穴だが。

 

『お前がタニノムーティエと戦えばどうなるか知りたいのは分かった。けどな』

「なんだい?僕の完璧な作戦に何か気になるところでも……」

『タニノムーティエが出走しなかったらどうするんだお前?』

 

 ただでさえ今回の敗北で折れてる可能性あるぞあの人ら。廉田さん泣いてたし。いや、あの人達のことだから折れてない可能性の方が高いのは分かるよ?でも涙を流してたから折れてる可能性も十分にあるわけで。

 静寂。圧倒的静寂。クソ神は舌を出して。

 

「なるようになるでしょ」

『おいっ!!』

 

 これで出走しなかったらどうする気だテメェ!俺も出走しないとか、そうするのか!?

 

「ま、まぁ大丈夫だよライザンちゃん。あの人達は必ず出走してくる!」

『……根拠は?』

「だって──負けっぱなしじゃ終われないだろ?」

 

 今度は確信を持った表情。全く……確かにそうだけどよぉ。

 実際のところ、なるようにしかならんわけだ。俺はもう関東入りしているわけだし。しかし安田記念か……どうなるかね?本当。




次走 安田記念。
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